説明

2次粒子分析方法及びそれを用いた表面分析方法

【課題】 2個以上の原子からなる粒子団を試料表面に照射することにより、試料表面から放出される2次粒子量を大幅に増大させるようにすること。
【解決手段】 炭素非粒子団及び粒子団荷電粒子aを、質量分析器1により粒子団荷電粒子b1と非粒子団荷電粒子b2とに選別し、これらの粒子団荷電粒子b1と非粒子団荷電粒子b2を物質表面に照射する。荷電粒子を粒子団で物質に照射すると、粒子団が被照射物質と衝突する際に、粒子の有するエネルギーが物質表面の狭い領域に集中し、エネルギー密度の高い場が生じる。このような荷電粒子団の照射による特異的な高密度エネルギー場の中では、イオン化反応が促進され、非粒子団照射時に比べて生成される2次粒子の量が増加する。また、荷電粒子団の代わりに中性粒子団を用いた場合にも同様の効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次粒子分析方法及びそれを用いた表面分析方法に関し、より詳細には、2個以上の原子からなる粒子団(荷電粒子団や中性粒子団)を試料表面に照射することにより、試料表面から放出される2次粒子量を大幅に増大させるようにした2次粒子分析方法及びそれを用いた表面分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、粒子には、電荷を持っている(イオン化されている)荷電粒子と、電荷を持っていない(イオン化されていない)中性粒子とがある。荷電粒子は、荷電粒子団と非荷電粒子団とに分けられる。荷電粒子団は、2個以上の原子からなる粒子団をイオン化したものであり、非電荷粒子団は、1個の原子(単原子)をイオン化したものである。一方、中性粒子は、中性粒子団と非中性粒子団とに分けられる。中性粒子団は、2個以上の原子からなる粒子団で、イオン化されていないものであり、非中性粒子団は、1個の原子(単原子)で、イオン化されていないものである。
【0003】
これを、粒子団としてみると、この粒子団は、2個以上の原子からなる粒子団を意味し、荷電粒子団(粒子団で電荷を持っているもので、イオン化されている粒子団)と中性粒子団(粒子団で電荷を持っていないもので、イオン化されていない粒子団)とに分けられる。一方、非粒子団は、単独原子を意味し、非荷電粒子団(単原子で電荷を持っているもので、イオン化されている原子)と、非中性粒子団(単原子で電荷を持っていないもので、イオン化されていない原子)とに分けられる。
【0004】
粒子や荷電粒子の照射は、材料のイオン注入装置、表面改質装置、成膜装置、エッチング装置等の他、他の固体、液体、気体に衝突させて、衝突部分で形成される2次粒子を用いて分析を行ったり、衝突時のエネルギーで反応を起こして物質を合成したりすることができる。
【0005】
粒子や荷電粒子を試料に照射し、試料表面から放出される2次粒子を分析する装置を用いて試料表面にある極微量の物質の分析を行う場合、生成する2次粒子量が少なく測定感度が低下したり、2次イオンがほとんど生成せず、分析できなかったりする。従来、このような場合に、測定時間を長くして、照射粒子数を増やすことで、検出される2次粒子数を増やすことが行われている。
【0006】
なお、荷電粒子を物質に照射する荷電粒子照射方法において、この荷電粒子を2個以上の粒子からなる粒子団として照射し、荷電粒子団による特異的な表面現象により物質の表面帯電電位を抑制するようにした荷電粒子照射方法については、特許文献1に開示されている。つまり、この特許文献1のものは、帯電抑制効果に関するものである。
【0007】
また、荷電粒子を2個以上の粒子からなる粒子団として照射し、その荷電粒子団の照射によって発生する被照射物質における特異的な表面現象により化学結合を形成させるようにした荷電粒子照射により物質の特異的化学結合の形成方法については、特許文献2に開示されている。つまり、この特許文献2のものは、特異的な化学結合効果に関するものである。
【0008】
【特許文献1】特開2004−69671号公報
【特許文献2】特開2004−18533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、粒子や荷電粒子を試料に照射し、試料表面から放出される2次粒子を分析する装置を用いて試料表面にある極微量の物質の分析を行う場合、生成される2次粒子量が少なく測定感度が低下したり、2次イオンが生成せず、分析できなかったりするという問題があった。
【0010】
そのために、試料表面にある極微量の物質の2次粒子分析を行う場合、測定時間を長くして、照射粒子数を増やすことで検出される2次粒子数を増やす必要があった。しかしながら、照射粒子数を増やす方法では、測定時間が長くなるだけでなく、シグナルに対するノイズの割合が高くなり、分析精度が低下するという問題があった。特に、多くの測定点を高速かつ高精度で測定する必要がある試料表面のマッピングや画像化を高品位で行うことは困難であった。また、照射粒子数が増えることにより試料表面に損傷が生じるという問題があった。
【0011】
なお、上述した特許文献1のものは、帯電抑制効果に関するものであり、特許文献2のものは、特異的な化学結合効果に関するものである。これに対して、本発明で提案するものは、2次イオン分析に関するものである点で照射効果において上述した特許文献1,2に開示されたものと大きく相違している。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、2個以上の原子からなる粒子団(荷電粒子団や中性粒子団)を試料表面に照射することにより、試料表面から放出される2次粒子量を大幅に増大させるようにした2次粒子分析方法及びそれを用いた表面分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、電荷を持っている荷電粒子又は電荷を持っていない中性粒子を試料表面に照射し、該試料表面から放出された2次粒子を分析する2次粒子分析方法において、前記粒子を2個以上の原子からなる粒子団とし、該粒子団を前記試料表面に照射することにより放出された2次粒子を分析することを特徴とする。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記粒子を2個以上の原子からなる荷電粒子団とし、該荷電粒子団を前記試料表面に照射することにより放出された2次粒子を分析することを特徴とする。
【0015】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記荷電粒子が、非粒子団荷電粒子及び粒子団荷電粒子であって、質量分析器によって前記荷電粒子を前記非粒子団荷電粒子と前記粒子団荷電粒子とに選別することを特徴とする。
【0016】
また、請求項4に記載の発明は、荷電粒子を試料表面に照射し、該試料表面から放出された2次粒子を分析する2次粒子分析方法において、前記荷電粒子を2個以上の粒子からなる荷電粒子団として生成する生成ステップと、前記荷電粒子を非粒子団荷電粒子と粒子団荷電粒子とに選別する選別ステップと、該選別ステップにより選別された前記非粒子団荷電粒子又は/及び前記粒子団荷電粒子を前記試料表面に照射する照射ステップと、該照射ステップにより、前記荷電粒子を粒子団で前記試料表面に照射すると、該粒子団が被照射物質と衝突する際に、粒子の有するエネルギーが前記試料表面の狭い領域に集中し、エネルギー密度の高い場が生じ、イオン化反応が促進されて放出される2次粒子の量が増加する2次粒子放出ステップと、該2次粒子放出ステップにより増加された2次粒子を分析する分析ステップとを有することを特徴とする。
【0017】
また、請求項5に記載の発明は、請求項2,3又は4に記載の発明において、前記荷電粒子が、B,C,Al,Si,Cu,Ag,Au,Ar,N,C,O,Ge,H,Cs,P,Ga,As,Er,Eu,Sm,Nd,Sb,Sn,In,Br,Be,Ca,Cl,Cr,Cd,Fe,F,I,K,Li,Na,Mg,Pd,Pt,S,Se,Ti,Te,U,V,W,Zn,He,Kr,Ne若しくはXe元素のイオン又は諸元素を少なくとも一つ含む分子イオンからなることを特徴とする。
【0018】
また、請求項6に記載の発明は、請求項2乃至5のいずれかに記載の2次粒子分析方法を用いて、前記荷電粒子団を半導体又は有機物の表面に照射し、該半導体又は有機物の表面から放出された2次粒子を分析することを特徴とする表面分析方法である。
【0019】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記粒子を2個以上の原子からなる中性粒子団とし、該中性粒子団を前記試料表面に照射することにより放出された2次粒子を分析することを特徴とする。
【0020】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記粒子が、非荷電粒子団と荷電粒子団及び中性粒子団であって、質量分析器によって前記非荷電粒子団を選別するとともに、中性化器によって前記荷電粒子団と前記中性粒子団とに選別することを特徴とする。
【0021】
また、請求項9に記載の発明は、中性粒子を試料表面に照射し、該試料表面から放出された2次粒子を分析する2次粒子分析方法において、前記中性粒子を2個以上の原子からなる粒子団として生成する生成ステップと、前記粒子団から前記中性粒子団を選別する選別ステップと、該選別ステップにより選別された前記中性粒子団を前記試料表面に照射する照射ステップと、該照射ステップにより、前記中性粒子を粒子団で前記試料表面に照射すると、該粒子団が被照射物質と衝突する際に、粒子の有するエネルギーが前記試料表面の狭い領域に集中し、エネルギー密度の高い場が生じ、イオン化反応が促進されて放出される2次粒子の量が増加する2次粒子放出ステップと、該2次粒子放出ステップにより増加された2次粒子を分析する分析ステップとを有することを特徴とする。
【0022】
また、請求項10に記載の発明は、請求項7,8又は9に記載の2次粒子分析方法を用いて、前記中性粒子団を半導体又は有機物の表面に照射し、該半導体又は有機物の表面から放出された2次粒子を分析することを特徴とする表面分析方法である。
【0023】
このように、本発明は、2個以上の原子からなる粒子団(荷電粒子団や中性粒子団)として試料表面に照射し、この粒子団の照射することで特異的反応場を形成し、その反応場で2次粒子を形成することによる2次粒子分析方法及びそれを用いた表面分析方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電荷を持っている荷電粒子又は電荷を持っていない中性粒子を試料表面に照射し、この試料表面から放出された2次粒子を分析する2次粒子分析方法において、粒子を2個以上の原子からなる粒子団とし、この粒子団を前記試料表面に照射することにより放出された2次粒子を分析するので、試料表面から放出される2次粒子量を大幅に増大させるようにした2次粒子分析方法及びそれを用いた表面分析方法を提供することができる。
【0025】
このように、荷電粒子や中性粒子を物質に照射すると、物質表面から2次粒子があるエネルギーをもって放出される場合があるので、これらの2次粒子は、物質表面の分析に利用することができる。
【0026】
また、荷電粒子や中性粒子を粒子団で物質に照射すると、粒子団が被照射物質と衝突する際に、粒子の有するエネルギーが物質表面の狭い領域に集中し、エネルギー密度の高い場が生じる。このような荷電粒子団や中性粒子団の照射による特異的な高密度エネルギー場の中では、イオン化反応が促進され、非粒子団照射時に比べて生成される2次粒子の量が増加するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0028】
図1は、本発明の実施例1に係る荷電粒子団の照射による2次粒子分析方法を説明するための図で、質量分析器により粒子団荷電粒子と非粒子団荷電粒子を選別した例を示す図である。図中符号1は質量分析器、aは非粒子団及び粒子団荷電粒子、b1は粒子団荷電粒子、b2は非粒子団荷電粒子を示している。
【0029】
粒子ビームは、材料の分析、元素の注入、表面特性改善、成膜等、さまざまな工業分野で利用されている。粒子を物質に照射すると、物質表面から2次粒子があるエネルギーをもって放出される場合がある。非粒子団で照射すると、これらの試料から放出される2次粒子量が少なく測定に時間がかかったり、ノイズに対するシグナルの比が高くなり、データの質が悪くなったり、あるいは検出限界以下になり、測定できなくなる。
【0030】
図1に示すように、炭素非粒子団及び粒子団荷電粒子aを、質量分析器1により粒子団荷電粒子b1と非粒子団荷電粒子b2とに選別し、これらの粒子団荷電粒子b1と非粒子団荷電粒子b2を物質表面に照射する。
【0031】
荷電粒子源では、非粒子団荷電粒子と粒子団荷電粒子が生成されている。通常は、両者を分離せずに照射するか、非粒子団荷電粒子のみを取り出して照射を行っている。
【0032】
このように、荷電粒子を粒子団で物質に照射すると、粒子団が被照射物質と衝突する際に、粒子の有するエネルギーが物質表面の狭い領域に集中し、エネルギー密度の高い場が生じる。このような荷電粒子団の照射による特異的な高密度エネルギー場の中では、イオン化反応が促進され、非粒子団照射時に比べて生成される2次粒子の量が増加する。
【0033】
図2は、本発明の実施例1に係る荷電粒子団の照射による2次粒子分析方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
本発明は、荷電粒子を試料表面に照射し、該試料表面から放出された2次粒子を分析する2次粒子分析方法であって、まず、荷電粒子を2個以上の粒子からなる荷電粒子団として生成する生成ステップ(S1)と、荷電粒子を非粒子団荷電粒子と粒子団荷電粒子とに選別する選別ステップ(S2)と、この選別ステップにより選別された非粒子団荷電粒子又は/及び粒子団荷電粒子を試料表面に照射する照射ステップ(S3)と、この照射ステップにより、荷電粒子を粒子団で試料表面に照射すると、粒子団が被照射物質と衝突する際に、粒子の有するエネルギーが試料表面の狭い領域に集中し、エネルギー密度の高い場が生じ、イオン化反応が促進されて放出される2次粒子の量が増加する2次粒子放出ステップ(S4)と、この2次粒子放出ステップにより増加された2次粒子を分析する分析ステップ(S5)とを有するものである。
【0034】
また、荷電粒子は、B,C,Al,Si,Cu,Ag,Au,Ar,N,C,O,Ge,H,Cs,P,Ga,As,Er,Eu,Sm,Nd,Sb,Sn,In,Br,Be,Ca,Cl,Cr,Cd,Fe,F,I,K,Li,Na,Mg,Pd,Pt,S,Se,Ti,Te,U,V,W,Zn,He,Kr,Ne若しくはXe元素のイオン又は諸元素を少なくとも一つ含む分子イオンからなる。
【0035】
図3及び図4は、フッ酸及び純水で表面を洗浄したシリコンウエハ表面を非粒子団照射及び粒子団照射時に生成した2次イオン質量分析スペクトル例を示す図である。縦軸のスペクトルの高さは、照射された単位粒子数当たり2次イオン数に比例しており、スペクトルの高さが高いことは、同一数の粒子を照射したときに放出された該当する質量の2次イオン数が多いことを示している。
【0036】
なお、試料は、フッ酸及び純水で表面を洗浄したシリコンウエハ、非粒子団照射は、C(エネルギー0.5MeV/原子)、粒子団照射は、C(エネルギー0.1MeV/原子、及び0.5MeV/原子−C)である。
【0037】
つまり、非粒子団照射におけるCは、正の1価の電荷を持った、炭素原子1個からなる荷電粒子であり、また、粒子団照射におけるCは、正の1価の電荷を持った、8個の炭素原子からなる粒子団荷電粒子である。縦軸のスペクトルの高さは、非粒子団照射、粒子団照射いずれの場合も、照射された入射原子数当たり2次イオン数に比例している。すなわち、例えば、8個の炭素原子からなる粒子団(C)を照射した場合、スペクトルの高さは、その炭素原子1個当たりに放出される2次イオン数に比例している。
【0038】
放出された2次イオン種は、主に、表面の吸着物、吸着物が分解したもの、吸着物や吸着物が分解した成分が基板のシリコンの結合したもの等である。粒子団照射した場合に得られたスペクトルは、非粒子団で照射した場合のスペクトルに比べてはるかに強度が高く、同じ数の原子を照射しても、はるかに多くの2次イオンを生成していることがわかる。
【0039】
このように、粒子団照射による特異的な反応場により2次イオン化が促進され、非粒子団照射では観測できなかったイオンも観測できるようになる。0.5MeV/atom−Cと0.5MeV/atom−Cのスペクトルを比例すると、両者では、入射された原子の数及び原子当たりの照射エネルギーが同じ(入射速度が同じ)であるため、その効果は純粋に粒子団照射の効果である。
【0040】
図5は、非粒子団照射及び粒子団照射により生じた入射原子数当たりに放出された2次イオン数の質量/電荷(m/z)依存性を示す図で、非粒子団照射を粒子団照射による違いを明らかにするために、非粒子団時の各質量領域のカウント数を1とし、その割合で表示してある。2次イオン数は、照射された原子の数当たりに放出された2次イオン数に比例してあり、グラフの高さが高いことは、同一数の原子を照射したときに放出された該当する質量の2次イオン数が多いことを示している。
【0041】
非粒子団照射を粒子団照射による違いを明らかにするために、縦軸は、非粒子団時の各質量領域のカウント数を1とし、その割合で表示してある。すなわち、縦軸の値が1より大きいことは、同一数の原子を照射したときに放出された該当する質量の2次イオン数が、非粒子団(0.5MeV/atom−C)照射時より多いことを示している。
【0042】
粒子団照射により、単位照射原子数当たりの2次イオン数は、非粒子団照射に比べて、数倍〜数十倍も多くなっている。特に分子量が高いイオンで効果が顕著である。さらに、粒子団の照射エネルギーを変えることで、効果を増大させることができる。
【0043】
なお、図3及び図4においては、試料としてフッ酸及び純水で表面を洗浄したシリコンウエハ、入射粒子として、非粒子団照射ではC(正の1価の電荷を持った、炭素1個からなる荷電粒子;エネルギー0.5MeV/原子)、粒子団照射では、C(正の1価の電荷を持った、8個の炭素原子からなる粒子団荷電粒子;エネルギー0.1MeV/原子、及び0.5MeV/原子−C)が使用されている。また、図5においては、図3及び図4の場合に、粒子団照射では、C(正の1価の電荷を持った、8個の炭素原子からなる粒子団荷電粒子;エネルギー0.3MeV/原子)を加えて使用している。
【0044】
図6は、表面にクロム(Cr)含む金属を蒸着したシリコンウエハ表面を非粒子団照射及び粒子団照射時に生成した2次イオン質量分析スペクトルを示す図である。縦軸のスペクトルの高さは、非粒子団照射、粒子団照射いずれの場合も、照射された入射原子数当たり2次イオン数に比例しており、スペクトルの高さが高いことは、同一数の原子を照射したときに放出された該当する質量の2次イオン数が多いことを示している。
【0045】
2次イオンは、主に、表面の吸着物、吸着物の分解したもの、ウエハー表面に堆積した金属、それらが基板のシリコンの結合したもの等である。粒子団照射した場合のスペクトルは、非粒子団で照射した場合のスペクトルに比べてはるかに高く、同じ数の原子を照射しても、はるかに多くの2次イオンを生成していることがわかる。
【0046】
また、スペクトルの中で、非粒子団で照射した場合の検出ができなかった蒸着金属のCr(クロムイオン)が、粒子団照射では明瞭観測できる。このように、非粒子団で照射した場合の検出ができなかったイオンも、粒子団照射による特異的な反応場により2次イオン化が促進され、非粒子団照射では観測できなかったイオンも観測できるようになる。
【0047】
なお、試料として表面のクロム(Cr)含む金属を蒸着したシリコンウエハ、入射粒子として、非粒子団照射ではC(正の1価の電荷を持った、炭素の1個からなる荷電粒子;エネルギー0.5MeV/原子)、粒子団照射では、C(正の1価の電荷を持った、8個の炭素原子からなる粒子団荷電粒子;エネルギー0.1MeV/原子、及び0.5MeV/原子−C)が使用されている。
【0048】
図7は、ポリスチレン有機分子試料の表面を非粒子団照射及び粒子団照射時に生成した2次イオン質量分析スペクトルを示す図である。縦軸のスペクトルの高さは、非粒子団照射、粒子団照射いずれの場合も、照射された入射原子数当たり2次イオン数に比例しており、スペクトルの高さが高いことは、同一数の原子を照射したときに放出された該当する質量の2次イオン数が多いことを示している。
【0049】
2次イオンは、主に、有機分子を構成している原子、分子等である。粒子団照射した場合のスペクトルは、非粒子団で照射した場合のスペクトルに比べて高く、同じ数の原子を照射しても、多くの2次イオンを生成していることがわかる。このように、粒子団照射による特異的な反応場により2次イオン化が促進され、非粒子団照射に比べて2次イオン強度が高い。
【0050】
なお、試料は、ポリスチレン有機分子試料、非粒子団照射は、C(エネルギー0.5MeV/原子)、粒子団照射は、C(エネルギー0.1MeV/原子、及び0.5MeV/原子−C)が使用されている。
【0051】
図8は、非粒子団照射及び粒子団照射により生じた入射原子数当たりに放出された2次イオン数の質量/電荷(m/z)依存性を示す図である。2次イオン数は、照射された原子の数当たりに放出された2次イオン数に比例してあり、グラフの高さが高いことは、同一数の原子を照射したときに放出された該当する質量の2次イオン数が多いことを示している。
【0052】
非粒子団照射を粒子団照射による違いを明らかにするために、縦軸は、非粒子団時の各質量領域のカウント数を1とし、その割合で表示してある。すなわち、縦軸の値が1より大きいことは、同一数の原子を照射したときに放出された該当する質量の2次イオン数が、非粒子団(0.5MeV/atom−C)照射時より多いことを示している。
【0053】
粒子団照射により、単位照射原子数当たりの2次イオン数は、非粒子団照射に比べて、増加している。さらに、粒子団の照射エネルギーを変えることで、効果を増大させることができる。
【0054】
なお、試料は、ポリスチレン有機分子試料、非粒子団照射は、C(エネルギー0.5MeV/原子)、粒子団照射は、C(エネルギー0.1MeV/原子、0.3MeV/原子、及び0.5MeV/原子−C)が使用されている。
【0055】
図9は、ポリスチレン試料の表面近傍に存在する微量の金属(Na)を測定した時のスペクトルを示す図である。表面近傍に微量Naを含むポリスチレンを、非粒子団照射は、C1(エネルギー0.5MeV/原子)、粒子団照射は、C8(エネルギー0.1MeV/原子、及び0.5MeV/原子−C8)で照射した時の2次イオン質量分析スペクトルを示している。縦軸のスペクトルの高さは、非粒子団照射、粒子団照射いずれの場合も、照射された入射原子数当たり2次イオン数に比例しており、スペクトルの高さが高いことは、同一数の原子を照射したときに放出された該当する質量の2次イオン数が多いことを示している。
【0056】
スペクトルの中で、非粒子団で照射した場合のほとんど検出ができなかったNa(ナトリウムイオン)が、粒子団照射では明瞭観測できる。このように、非粒子団で照射した場合の検出ができなかったイオンも、粒子団照射による特異的な反応場により2次イオン化が促進され、非粒子団照射では検出強度が非常に低かったイオンも十分な強度で観測できるようになる。
【実施例2】
【0057】
図10は、本発明の実施例2に係る中性粒子団の照射による2次粒子分析方法を説明するための図で、質量分析器及び中性化器により荷電粒子団と中性粒子団と非荷電粒子団を選別した例を示す図である。図中符号11は質量分析器、12は中性化器、Aは非粒子団及び粒子団、B1は荷電粒子団、B2は非荷電粒子団、B3は中性粒子団を示している。
【0058】
粒子ビームは、材料の分析、元素の注入、表面特性改善、成膜等、さまざまな工業分野で利用されている。粒子を物質に照射すると、物質表面から2次粒子があるエネルギーをもって放出される場合がある。非粒子団で照射すると、これらの試料から放出される2次粒子量が少なく測定に時間がかかったり、ノイズに対するシグナルの比が高くなり、データの質が悪くなったり、あるいは検出限界以下になり、測定できなくなる。
【0059】
図10に示すように、非粒子団及び粒子団Aを、まず質量分析器1により非荷電粒子団を選別し、次ぐに中性化器12により荷電粒子団B1と中性粒子団B3を選別する。この選別された中性粒子団を物質表面に照射する。
【0060】
このように、中性粒子団で物質に照射すると、粒子団が被照射物質と衝突する際に、粒子の有するエネルギーが物質表面の狭い領域に集中し、エネルギー密度の高い場が生じる。このような中性粒子団の照射による特異的な高密度エネルギー場の中では、イオン化反応が促進されて2次粒子の量が増加する。
【0061】
図11は、本発明の実施例2に係る中性粒子団の照射による2次粒子分析方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
本発明は、中性粒子を試料表面に照射し、該試料表面から放出された2次粒子を分析する2次粒子分析方法であって、まず、中性粒子を2個以上の原子からなる粒子団として生成する生成ステップ(S11)と、粒子団から中性粒子団を選別する選別ステップ(S12)と、選別ステップにより選別された中性粒子団を試料表面に照射する照射ステップ(S13)と、照射ステップにより、中性粒子を粒子団で試料表面に照射すると、粒子団が被照射物質と衝突する際に、粒子の有するエネルギーが試料表面の狭い領域に集中し、エネルギー密度の高い場が生じ、イオン化反応が促進されて放出される2次粒子の量が増加する2次粒子放出ステップ(S14)と、2次粒子放出ステップにより増加された2次粒子を分析する分析ステップ(S15)とを有するものである。
【0062】
このように、中性粒子団を用いた場合にも、上述したような荷電粒子団を用いた場合と同様な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施例1に係る荷電粒子団の照射による2次粒子分析方法を説明するための図である。
【図2】本発明の実施例1に係る荷電粒子団の照射による2次粒子分析方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
【図3】フッ酸及び純水で表面を洗浄したシリコンウエハ表面を非粒子団照射及び粒子団照射時に生成した2次イオン質量分析スペクトル例を示す図(その1)である。
【図4】フッ酸及び純水で表面を洗浄したシリコンウエハ表面を非粒子団照射及び粒子団照射時に生成した2次イオン質量分析スペクトル例を示す図(その2)である。
【図5】非粒子団及び粒子団照射により生じた入射原子数当たりに放出された2次イオン数の質量/電荷(m/z)依存性を示す図である。
【図6】表面にクロム(Cr)含む金属を蒸着したシリコンウエハ表面を非粒子団照射及び粒子団照射時に生成した2次イオン質量分析スペクトルを示す図である。
【図7】ポリスチレン有機分子試料の表面を非粒子団照射及び粒子団照射時に生成した2次イオン質量分析スペクトルを示す図である。
【図8】非粒子団及び粒子団照射により生じた入射原子数当たりに放出された2次イオン数の質量/電荷(m/z)依存性を示す図である。
【図9】ポリスチレン試料の表面近傍に存在する微量の金属(Na)を測定した時のスペクトルを示す図である。
【図10】本発明の実施例2に係る中性粒子団の照射による2次粒子分析方法を説明するための図である。
【図11】本発明の実施例2に係る荷電粒子団の照射による2次粒子分析方法を説明するためのフローチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 質量分析器
a 炭素非粒子団及び粒子団荷電粒子
b1 粒子団荷電粒子
b2 非粒子団荷電粒子
11 質量分析器
12 中性化器
A 非粒子団及び粒子団
B1 荷電粒子団
B2 非荷電粒子団
B3 中性粒子団

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷を持っている荷電粒子又は電荷を持っていない中性粒子を試料表面に照射し、該試料表面から放出された2次粒子を分析する2次粒子分析方法において、前記粒子を2個以上の原子からなる粒子団とし、該粒子団を前記試料表面に照射することにより放出された2次粒子を分析することを特徴とする2次粒子分析方法。
【請求項2】
前記粒子を2個以上の原子からなる荷電粒子団とし、該荷電粒子団を前記試料表面に照射することにより放出された2次粒子を分析することを特徴とする請求項1に記載の2次粒子分析方法。
【請求項3】
前記荷電粒子が、非粒子団荷電粒子及び粒子団荷電粒子であって、質量分析器によって前記荷電粒子を前記非粒子団荷電粒子と前記粒子団荷電粒子とに選別することを特徴とする請求項2に記載の2次粒子分析方法。
【請求項4】
荷電粒子を試料表面に照射し、該試料表面から放出された2次粒子を分析する2次粒子分析方法において、
前記荷電粒子を2個以上の粒子からなる荷電粒子団として生成する生成ステップと、
前記荷電粒子を非粒子団荷電粒子と粒子団荷電粒子とに選別する選別ステップと、
該選別ステップにより選別された前記非粒子団荷電粒子又は/及び前記粒子団荷電粒子を前記試料表面に照射する照射ステップと、
該照射ステップにより、前記荷電粒子を粒子団で前記試料表面に照射すると、該粒子団が被照射物質と衝突する際に、粒子の有するエネルギーが前記試料表面の狭い領域に集中し、エネルギー密度の高い場が生じ、イオン化反応が促進されて放出される2次粒子の量が増加する2次粒子放出ステップと、
該2次粒子放出ステップにより増加された2次粒子を分析する分析ステップと
を有することを特徴とする2次粒子分析方法。
【請求項5】
前記荷電粒子が、B,C,Al,Si,Cu,Ag,Au,Ar,N,C,O,Ge,H,Cs,P,Ga,As,Er,Eu,Sm,Nd,Sb,Sn,In,Br,Be,Ca,Cl,Cr,Cd,Fe,F,I,K,Li,Na,Mg,Pd,Pt,S,Se,Ti,Te,U,V,W,Zn,He,Kr,Ne若しくはXe元素のイオン又は諸元素を少なくとも一つ含む分子イオンからなることを特徴とする請求項2,3又は4に記載の2次粒子分析方法。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれかに記載の2次粒子分析方法を用いて、前記荷電粒子団を半導体又は有機物の表面に照射し、該半導体又は有機物の表面から放出された2次粒子を分析することを特徴とする表面分析方法。
【請求項7】
前記粒子を2個以上の原子からなる中性粒子団とし、該中性粒子団を前記試料表面に照射することにより放出された2次粒子を分析することを特徴とする請求項1に記載の2次粒子分析方法。
【請求項8】
前記粒子が、非荷電粒子団と荷電粒子団及び中性粒子団であって、質量分析器によって前記非荷電粒子団を選別するとともに、中性化器によって前記荷電粒子団と前記中性粒子団とに選別することを特徴とする請求項7に記載の2次粒子分析方法。
【請求項9】
中性粒子を試料表面に照射し、該試料表面から放出された2次粒子を分析する2次粒子分析方法において、
前記中性粒子を2個以上の原子からなる粒子団として生成する生成ステップと、
前記粒子団から前記中性粒子団を選別する選別ステップと、
該選別ステップにより選別された前記中性粒子団を前記試料表面に照射する照射ステップと、
該照射ステップにより、前記中性粒子を粒子団で前記試料表面に照射すると、該粒子団が被照射物質と衝突する際に、粒子の有するエネルギーが前記試料表面の狭い領域に集中し、エネルギー密度の高い場が生じ、イオン化反応が促進されて放出される2次粒子の量が増加する2次粒子放出ステップと、
該2次粒子放出ステップにより増加された2次粒子を分析する分析ステップと
を有することを特徴とする2次粒子分析方法。
【請求項10】
請求項7,8又は9に記載の2次粒子分析方法を用いて、前記中性粒子団を半導体又は有機物の表面に照射し、該半導体又は有機物の表面から放出された2次粒子を分析することを特徴とする表面分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−23251(P2006−23251A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−203716(P2004−203716)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【Fターム(参考)】