説明

2段タービンシステム及びその緊急停止時の運転方法

【課題】
永久磁石式発電機ロータの両端にタービン翼車を配置した2段タービンシステムの緊急停止時に発電機ロータに作用するスラストを低減する。
【解決手段】
高圧タービン1の入口側に設置された放蒸弁11と低圧タービン2の下流側に設置された真空破壊弁12に加えて、高圧タービン1と低圧タービン2の間の蒸気配管8,9に放蒸弁13を有する蒸気配管14を接続し、緊急停止時に、放蒸弁11、真空破壊弁12、放蒸弁13を開放して、高圧タービンと低圧タービンのそれぞれの出入口の両側の圧力を大気圧状態にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2段タービンシステム及びその緊急停止時の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電出力が100kW程度の比較的小型のタービンでは、半径流形の翼型のラジアルタービンを用いることが多い。これは、半径流形の翼車は、小型でしかも単段での圧力比が比較的大きく取れるためである。タービンシステムは、例えば、蒸気タービンの場合、タービン排気圧を大気圧以上にしてタービン出口での排気をそのまま放出する背圧タービンと、排気圧を大気圧以下にして復水器によって復水させる復水タービンに分類できる。蒸気の持つ熱エネルギーを発電に有効に変換するには、復水タービンの方が勝る。小型の蒸気タービンは、ガスエンジンやディーゼルエンジン発電システムの排熱蒸気を用いるボトミングサイクルや、プロセス工場の余剰蒸気を用いて発電することが多い。ガスエンジン等の排熱から発生できる蒸気圧は1MPa以下の場合が多い。背圧タービンの場合、排気圧は大気圧以上のため、1段のラジアルタービンで膨張することができる。一方、復水タービンの場合、排気圧は大気圧以下の低圧状態となるため、1段のラジアルタービンでは膨張圧力比が大きくなり、効率の良いタービン翼車を設計することは困難になるため、2段のラジアルタービンによって膨張させる方が有利である。また、ラジアルタービンの場合、翼車の運転効率を高めるためには回転数は軸流タービンに比べて高くなる。このため、発電機の回転数まで減速する減速ギアを介すことが一般的である。減速ギアでは、機械摩擦の発生により、多くのエネルギー損失を発生する。
【0003】
上記のような小型蒸気タービンでは、機械摩擦のようなエネルギー損失を低減してタービンの発電効率を高める方法として、タービンロータに永久磁石を埋め込んだ永久磁石式発電機ロータを採用するものがある。永久磁石式発電機ロータを用いたタービンシステムでは、タービンロータの回転運動を、減速機を介さないで効率良く電気エネルギーに変換することができ、また、発電機ロータは電力変換器によって回転数を制御することができる。このため、通常の蒸気タービンシステムに必要な調速装置は不要になる。このシステムによる小型の蒸気タービンとして、非特許文献1に示す2.4 MWクラスのガスエンジンの排熱蒸気を利用して150 kWを発電する復水型2段ラジアル蒸気タービンシステムがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Susumu Nakano, et al, An Advanced Microturbine System with Water-Lubricated Bearings, International Journal of Rotating Machinery, Volume 2009, Article ID 718107.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
永久磁石式発電機ロータの両端にラジアルタービンの翼車を配置したタービンシステムでは、発電機ロータに減速機等の重量回転物が接続されない分、タービン性能は向上する。しかし、その分、回転が容易であるため、負荷遮断等の緊急停止時には軸が過回転し易い。緊急停止時の過回転数は、電気事業法関係法令により定格回転数の10%以内と規定されている。回転が定格回転数以上になることは、例えば、軸設計上、定格回転数以上に存在する軸の固有振動数に近づく等の、軸振動の増大を誘引する恐れがあり、回避しなければならない。例えば、非特許文献1に示されるタービンシステムには、緊急停止時に供給蒸気を大気に放出する放蒸弁が2段タービンの高圧側のタービン入口に設けられ、また、低圧タービン下流側の減圧領域に大気圧を引き込む真空破壊弁が設けられている。
【0006】
通常の運転時は、タービン仕事が、発電機の負荷と、軸受損失や翼車風損等のロータに作用する損失の和と釣り合っている。緊急停止時には、タービン上流側に設置される蒸気流量調整弁及び蒸気止め弁が全閉にされ蒸気の供給を止める。蒸気の供給が止められると、タービンから仕事を取り出すことが出来なくなるため、回転に伴う軸受損失や、タービン翼車の風損により、発電機ロータの回転は時間の経過と共に減速する。しかし、負荷遮断を行った直後では、タービンは発電負荷に対応する仕事をしているため、蒸気の供給を止めても、遮断した負荷分のタービン仕事によってロータの回転数は増加する。この過回転数の増加を抑えるため、高圧タービン入口側の配管内に残留する高圧蒸気を放蒸弁により大気に放出し、更に、タービン出入口間の圧力差を解消するため、真空破壊弁を開放して低圧タービン下流域に大気圧を引き込む。蒸気の供給を止め、タービン出入口を大気圧にすることで、発電機ロータはやがて停止する。このように、永久磁石式発電機ロータの両端にラジアルタービンの翼車を配置したタービンシステムでは、負荷遮断等の緊急停止時に蒸気の供給停止と、放蒸弁による蒸気の排出と、真空破壊弁の開放による大気圧の引き込みにより、過回転数を効果的に抑制することができる。
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、永久磁石式発電機ロータの軸両端に翼車を配置する2段タービンシステムでは、負荷遮断等の緊急停止時に、さらに、発電機ロータに作用するスラストを低減することが重要であることを見出した。即ち、永久磁石式発電機ロータの軸両端に翼車を配置する2段タービンシステムでは、それぞれの翼車に作用する軸方向の力が、互いに逆方向に作用して、バランスするように設計されている。高圧タービン側は蒸気圧が高い分、翼車径を小さくし、また、逆に低圧タービン側は、蒸気圧が低下する分、翼車径は、高圧タービン翼車に比べて大きくなっている。また、それぞれの翼車で、翼車に作用する軸方向力は、翼車背面と翼車のハブ面に作用する力の差になり、この力は、タービン入口静圧、タービン出口静圧、及びタービン背面静圧で決まる。タービン翼車は、定格回転数、定格出力時のタービン出入口蒸気条件で設計されているため、発電機ロータに作用するスラストもこの定格状態で少なくなるように設計されている。
【0008】
負荷遮断等の緊急停止時に蒸気の供給停止と、放蒸弁による蒸気の排出と、真空破壊弁の開放による大気圧の引き込みで、それぞれのタービン翼車に作用するスラストはバランスが崩れ、結果として発電機ロータに作用するスラストが増加して、スラスト軸受に過大な負荷が掛かる。特に、負荷遮断直後の過回転時にこの力は増大する。
【0009】
本発明は、永久磁石式発電機ロータの両端にタービン翼車を配置した2段タービンシステムの緊急停止時に発電機ロータに作用するスラストを低減できる2段タービンシステムの構造と緊急停止時の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、緊急停止時に翼車に作用する軸方向力のバランスの崩れによる過大なスラストの発生を防止するため、軸方向力を発生するタービン翼車の出入口の圧力差を速やかに消滅させるようにしたものである。具体的には、高圧タービン入口側に設置された排気弁と低圧タービン下流側に設置された外部気体遮断弁に加えて、高圧タービンと低圧タービンの間の配管に排気弁を設け、高圧タービンと低圧タービン間に封じ込められた駆動流体を速やかに外部に放出するようにする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、永久磁石式発電機ロータの両端にタービン翼車を配置した2段タービンシステムの緊急停止時に発電機ロータに作用するスラストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例による2段タービンのシステム図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【0014】
先ず、本発明の概念について駆動流体として蒸気を用いた2段タービンを例にして説明する。
【0015】
緊急停止時に翼車に作用する軸方向力のバランスの崩れによる過大なスラストの発生を防止するためには、軸方向力を発生するタービン翼車の出入口の圧力差を速やかに消滅させることである。緊急停止時に、蒸気の供給が止められ、放蒸弁(排気弁)によって、高圧タービン入口側に残留する蒸気を放出し、また、低圧タービン下流に設置される真空破壊弁(外部気体遮断弁)を開放して大気圧を引き込んでも、高圧タービン出口から低圧タービン入口間には、高圧タービン膨張後の蒸気が、圧力的には高圧タービン入口と低圧タービン出口の中間的な圧力を有する蒸気が封じ込められている。この蒸気は、一部は、低圧タービンを通過して真空破壊弁から大気に放出され、また、一部は、放蒸弁からの蒸気放出後に高圧タービン入口圧力が低下した後に、高圧タービンを逆流して放蒸弁から大気に放出される。この一連の蒸気の放出過程において、タービン翼車には、設計時の軸方向力のバランスとは著しく異なる軸方向力が作用する。
【0016】
本発明では、高圧タービンと低圧タービン間に封じ込められたこの蒸気を速やかに大気に放出するようにする。それぞれの翼車の出入口の圧力を大気圧にすることで、翼車のハブ面と背面に作用する軸方向力を釣り合わせる。これはそれぞれの翼車の軸方向力を釣り合わせることと同時に、高圧タービンと低圧タービンの2つのタービン間の軸方向力を釣り合わせることに等しく、結果として発電機ロータに作用するスラストを低減することができる。また、高圧タービンと低圧タービンの両タービンとも出入口が同一圧力になるため、タービン出入口間の圧力差が低減するため、タービン駆動力が急激に減衰するため、緊急停止時の過回転数の増加を抑えることもできる。
【0017】
尚、大型蒸気タービン(軸流タービン)において、高圧タービンと低圧タービンを結ぶ蒸気管に、復水器に連絡するバイパス管とこのバイパス管に弁を設け、負荷遮断等の際に、弁を開放して、復水器に蒸気を排出して速度上昇を防止するものや、タービン下流に真空破壊弁を設けて、速度上昇を防止する技術が知られている。しかし、これらは、それぞれ単独で用いられる技術であり、本発明のように、永久磁石式発電機ロータの軸両端に翼車を配置する2段タービンシステムにおいて、特に、放蒸弁による蒸気の排出と、真空破壊弁の開放による大気圧の引き込みの両者を行うことにより、それぞれのタービン翼車に作用するスラストのバランスが崩れることに対応する技術ではない。
【0018】
次に、図1により本発明による2段ラジアル蒸気タービンの一実施例を説明する。本実施例の2段ラジアル蒸気タービンは、タービン翼車一体型発電機ロータを用いている。タービン翼車一体型発電機ロータは、永久磁石式発電機ロータ3と、永久磁石式発電機ロータの軸端に設置された高圧タービン翼車1及び低圧タービン翼車2から構成される。タービン翼車一体型ロータは、軸受25によって支持され、発電機ステータ4内に設置されている。発電機ステータ4は電力変換器5と接続されていて、発電機で発生する電力を、商用周波数に変換して図示していない系統側に送る。
【0019】
蒸気供給配管6から送られた蒸気は、ドレンセパレータ20で蒸気中の湿分を除去され、蒸気止め弁21、蒸気流量調整弁22を介して蒸気配管7から高圧タービン1に送られる。高圧タービン1で膨張した蒸気は、蒸気配管8によりドレンセパレータ23を通り、ここで、再び湿分を除去された後に、蒸気配管9により低圧タービン2に送られる。低圧タービン2で膨張後、復水器10で復水されホットウェル30に送られる。ホットウェルは真空ポンプ29に接続されており、この真空ポンプによって、低圧タービンの下流域を減圧している。また、ホットウェル30には排水ポンプ31と三方弁32がつながれていて、復水量が増加したときに復水をホットウェルの外部に排出する。
【0020】
発電機ロータ周りには、ラビリンスシール26が配置されており、蒸気の漏れを低減している。低圧タービン側は蒸気の膨張により、翼出口部が大気圧以下になるため、ロータ周りの圧力が低下した場合に、外部から大気をタービン翼車に吸い込まないようにするため、高圧タービン入口側から蒸気配管15で蒸気を導き、この高圧蒸気をラビリンスシール部に供給してシール蒸気として使用している。
【0021】
ドレンセパレータ23及びラビリンスシール26からのドレンはドレン配管27及び28によりホットウェル30に送られる。
【0022】
高圧タービン1の入口側の蒸気配管7には、緊急停止時に蒸気を放出する放蒸弁(排気弁)11が設置されている。放蒸弁11は配管7に接続する配管に設けるか、実際的にではないが、三方弁のようなもので直接配管7に設けても良い。また、低圧タービン下流側には、真空破壊弁(外部気体遮断弁)12が設置されている。真空破壊弁12も低圧タービン下流配管に接続する配管に設けるか、実際的にではないが、三方弁のようなもので直接下流配管に設けても良い。また、高圧タービンと低圧タービンの間には、蒸気配管14によって引き出され、放蒸弁(排気弁)13を介して、蒸気を大気に放出するラインが設けられている。放蒸弁13も実際的にではないが、三方弁のようなもので直接配管8又は9に設けても良い。これらの放蒸弁(排気弁)11、真空破壊弁(外部気体遮断弁)12、放蒸弁(排気弁)13は制御装置(図示省略)によって開閉制御される。
【0023】
緊急停止時は、制御装置によって、電力変換器5と発電機ステータ4間の電気接続を開放して発電機ロータの回転数制御を外したフリーラン状態にする。この電気接続の開放と同時に、制御装置によって、蒸気止め弁21と蒸気流量調整弁22を全閉にする。また、これらの弁の全閉指令と同時に、制御装置によって、放蒸弁11、13及び真空破壊弁12を全開にする。
【0024】
緊急停止の発生により、発電機ロータは発電機の負荷遮断が発生するため、急激な負荷の喪失により、過回転状態になる。供給蒸気は、蒸気止め弁と蒸気流量調整弁の全閉により止まるが、急激な負荷喪失によるロータの過回転を抑制するには充分ではない。蒸気止め弁と蒸気流量調整弁の全閉と同時に、放蒸弁2個と真空破壊弁1個が全開するため、発電機ロータ周りは、蒸気の放出と大気圧の引き込みが始まり、高圧タービンと低圧タービンの出入口の両側から圧力は大気圧状態になる。
【0025】
高圧タービンと低圧タービン翼車の出入口の圧力が両方ともに大気圧になるため、翼車に作用する軸方向力は少なくなり、発電機ロータの過回転時に作用するスラストの増加を低減することができる。また、高圧タービンと低圧タービンの出入口が共に大気圧に近づくため、副次的に、負荷遮断時における過回転数の増加も低減できるという効果がある。
【符号の説明】
【0026】
1…高圧タービン、2…低圧タービン、3…永久磁石式発電機ロータ、4…発電機ステータ、5…電力変換器、6,7,8,9,14,15…蒸気配管、10…復水器、11,13…放蒸弁、12…真空破壊弁、20,23…ドレンセパレータ、21…蒸気止め弁、22…蒸気流量調整弁、25…軸受、26…ラビリンスシール、27,28…ドレン配管、29…真空ポンプ、30…ホットウェル、31…排水ポンプ、32…三方弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を内部に保持する発電機ロータと該発電機ロータの軸端に設置された高圧タービンのタービン翼車及び低圧タービンのタービン翼車とが一体に構成されたタービン翼車一体型発電機ロータと、
前記発電機ロータを取り囲むように設置された発電機ステータと、
前記高圧タービンのタービン翼車に駆動流体を供給する高圧タービン駆動流体供給配管と、
前記高圧タービン駆動流体供給配管に設けられた駆動流体止め弁及び流量調整弁と、
前記高圧タービンのタービン翼車を出た駆動流体を前記低圧タービンのタービン翼車に供給する低圧タービン駆動流体供給配管と、
前記高圧タービン入口側に設置され前記駆動流体を外部に放出する排気弁と、
前記低圧タービン駆動流体供給配管若しくはこれに接続する配管に設置され前記駆動流体を外部に放出する排気弁と、
前記低圧タービン下流側に設置され前記低圧タービン下流域に大気を引き込む外部気体遮断弁を設けたことを特徴とする2段タービンシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の2段タービンシステムにおいて、前記駆動流体として蒸気を用い、前記低圧タービン下流に復水器を設けたことを特徴とする2段タービンシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の2段タービンシステムの緊急停止時の運転方法であって、
緊急停止時に、前記駆動流体止め弁と前記駆動流体流量調整弁を全閉にし、前記高圧タービン入口側に設置された前記排気弁と前記低圧タービン駆動流体供給配管若しくはこれに接続する配管に設置された前記排気弁と、前記低圧タービン下流に設置された前記外部気体遮断弁を全開することを特徴とする2段タービンシステムの緊急停止時の運転方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−64371(P2013−64371A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204148(P2011−204148)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】