説明

2液クリヤー塗料組成物

【課題】いかなる組成を有するベース層に対しても、良好な付着性を発揮することができる汎用性の高い2液クリヤー塗料を提供する。
【解決手段】水酸基含有樹脂(A)を含む主剤とポリイソシアネート化合物(B)を含む硬化剤溶液とからなる2液クリヤー塗料組成物であって、上記水酸基含有樹脂(A)は、1級及び2級の水酸基の比が水酸基価基準で1級水酸基/2級水酸基=50/50〜20/80であり、上記ポリイソシアネート化合物(B)は、イミノオキサジアジンジオン基を有する特定の化合物であり、上記水酸基含有樹脂(A)の水酸基と前記ポリイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基との当量比(NCO/OH)が0.8〜1.5である2液クリヤー塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2液クリヤー塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ベース層上にウェットオンウェットでクリヤー層を形成し、焼き付け硬化を行う塗膜形成方法は、自動車塗装、プラスチック塗装等の多くの技術分野において使用されている。従来、クリヤー塗料の組成は、ベース塗料の組成に合わせて調整されてきた。これは、ベース塗料の組成に対応したクリヤー塗料を使用することで、ベース層とクリヤー層のなじみを良好なものとし、複層塗膜の付着性を良好なものとするためであった。しかしながら、このような方法によると、使用するベース塗料にあったクリヤー塗料が必要とされるため、塗装の労力や保管の負荷等が大きくなる点で好ましいものではなかった。
【0003】
一方、ベース層及びトップコート層からなる複層塗膜の形成において、トップコート層の組成を調整することによって、ベース層中への硬化剤成分の浸透を促進し、耐水性、耐候性、耐溶剤性等の性能を付与することが記載されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、従来の組み合わせではトップコート層に用いる樹脂の種類によっては浸透が不十分で性能が発現できなかった。
【0004】
特許文献2には、低粘度なポリイソシアネート調製物が検討されている。ラッカーとして使用した場合の表面品質の改善について開示しているものの、ベース層への硬化剤成分の移行を促進し、付着性を向上させるためのものではなかった。
【0005】
特許文献3には、イソシアネートの三量化によって得られるイミノオキサジアジンジオン基を含む低粘度のポリイソシアネートが開示されている。このようなポリイソシアネートは、コーティング組成物の架橋剤として使用できると開示されているが、ベース層への移行に関する性質については言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−200587号公報
【特許文献2】特表2009−523151号公報
【特許文献3】特開平9−268212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述したような観点から、いかなる組成を有するベース層に対しても、良好な付着性を発揮することができる汎用性の高い2液クリヤー塗料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水酸基含有樹脂(A)を含む主剤とポリイソシアネート化合物(B)を含む硬化剤溶液とからなる2液クリヤー塗料組成物であって、上記水酸基含有樹脂(A)は、1級及び2級の水酸基の比が水酸基価基準で1級水酸基/2級水酸基=50/50〜20/80であり、
上記ポリイソシアネート化合物(B)は、下記式(1)
【0009】
【化1】

(R、R及びRは、互いに同じか又は異なり、脂肪族、脂環式、芳香族イソシアネート及び/又はこれらのオリゴマーからイソシアネート基を除去することによって得られる基を表す)
で表わされるイミノオキサジアジンジオン基を有するものであり、
水酸基含有樹脂(A)の水酸基とポリイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基との当量比(NCO/OH)が0.8〜1.5であることを特徴とする2液クリヤー塗料組成物である。
上記ポリイソシアネート化合物(B)は、23℃での粘度が200〜800m・Pasであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ベース塗料の組成に関わらず、優れた付着性等を発揮する2液クリヤー塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、特定の組成を有する2液クリヤー塗料である。これによって、クリヤー層中の成分(特にポリイソシアネート化合物(B))が一部、ベース層中に浸透し、これによってベース層が架橋し、優れた付着性を得ることができる。また、クリヤー層とベース層とが強固に接着されるために、耐水性や耐候性等の性質が改善されベース層が充分な架橋を得ることによって、長期耐久性や耐候性等の性質の低下を生じることがないと推測される。
【0012】
上記2液クリヤー塗料は、水酸基含有樹脂(A)を含む主剤とポリイソシアネート化合物(B)を含む硬化剤溶液とからなるものである。上記水酸基含有樹脂(A)は、1級及び2級の水酸基の比が水酸基価基準で1級水酸基/2級水酸基=50/50〜20/80という性質を有するものである。上記水酸基含有樹脂は、ポリイソシアネート化合物と反応して硬化するものである。硬化が進行すると、ポリイソシアネート化合物(B)のベースコート層への移行が阻害されるが、水酸基含有樹脂の物質を上述のように特定したことで、ポリイソシアネート化合物との反応を遅くすることができる。これによって、ポリイソシアネート化合物のベースコート層へのしみ込み量を増加させることで、付着性を高めることができる。
【0013】
更に、ポリイソシアネート化合物(B)としてイミノオキサジアジンジオン基を含むものを使用することによって、付着性を改善するものでもある。イミノオキサジアジンジオン基を含むポリイソシアネート化合物は、低粘度のものであることから、ベース層へのしみ込みが生じやすいという性質を有する。これによっても、ポリイソシアネート化合物のベースコート層へのしみ込み量を増加させることができ、付着性を高めることができる
【0014】
上記1級水酸基は、相対的にポリイソシアネート化合物との反応性が高く、2級水酸基は相対的にポリイソシアネート化合物との反応性が低い。このため、1級および2級の水酸基の含有比率がポリイソシアネート化合物のベース層への移行の度合に対して大きな影響を与える。より具体的には、反応性が高い1級水酸基を多量に有する場合は、ポリイソシアネート化合物(B)のベース層への浸透よりも、水酸基含有樹脂(A)とポリイソシアネート化合物(B)との反応が早く進行するため、移行は起こりにくくなる。本発明の上述した効果を得るためには、上述したような比率の範囲で1級水酸基と2級水酸基の両方を有する水酸基含有樹脂(A)を使用することが必要になる。
【0015】
したがって、1級水酸基の含有比率が20/80未満では、ポリイソシアネート化合物(B)のベース層への移行は生じやすいが、クリヤー層での硬化が不充分となり、複層塗膜の耐溶剤性が低下する。逆に1級水酸基の含有比率が50/50を超えると、クリヤー層での硬化は十分であるが移行し難くなり、複層塗膜の耐水性が低下する。
【0016】
上記水酸基含有樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、−20〜50℃であることが好ましい。−20℃以下の場合はクリヤー塗膜の耐汚染性が低下し、50℃以上の場合は塗膜の屈曲性が低下するおそれがある。
【0017】
上記水酸基含有樹脂(A)の重量平均分子量は、2000〜20000であることが好ましい。2000未満では、耐溶剤性、外観といったクリヤー層に要求される膜性能を発揮できず、20000を超えると、塗料粘度が高くなり、このような高粘度の状態では塗装作業が困難となり、塗膜の外観が悪くなってしまう。揮発性有機溶剤を用いて塗料中の不揮発分の割合を少なくすることで、粘度を低くすることも可能であるが、その場合、有機溶剤による環境汚染という問題が生じる。なお、本明細書において重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0018】
上記水酸基含有樹脂(A)の水酸基価は80〜230KOHmg/gであることが好ましく、より好ましくは、120〜200KOHmg/gである。80KOHmg/g未満ではクリヤー層の架橋密度が不十分となり、複層膜の耐溶剤性や耐候性が低下し、230KOHmg/gを超えると硬化剤との相溶性が低下し、焼付後にタックが残ったり初期の硬度が不足したりする。
【0019】
上記水酸基含有樹脂(A)は、より具体的にはアクリル系単量体を主成分とした共重合体であることが好ましい。上記アクリル系単量体を主成分とした共重合体である水酸基含有樹脂(A)の重合に使用する単量体としては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のエチレン系不飽和カルボン酸単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル等のエチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ノルボニル等のエチレン系不飽和カルボン酸の脂環式エステル類;マレイン酸エチル、マレイン酸ブチル、イタコン酸エチル、イタコン酸ブチル等のエチレン系不飽和ジカルボン酸のモノエステル単量体;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチルとε−カプロラクトンとの反応物等の1級水酸基含有単量体である水酸基含有エチレン系不飽和カルボン酸エステル単量体;(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル等の2級水酸基含有単量体である水酸基含有エチレン系不飽和カルボン酸エステル単量体;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等の不飽和脂肪酸グリシジルエステル単量体;(メタ)アクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステル単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系単量体等を挙げることができる。上記単量体混合物は、上記単量体を単独で使用するものであっても、2以上の成分を併用して使用するものであってもよい。
【0020】
上記アクリル樹脂を得るための重合方法は特に限定されるものではなく、溶液重合、高圧重合、連続重合等の公知の方法を使用することができる。
【0021】
上記硬化剤溶液は、上記ポリイソシアネート化合物(B)を含有する。本発明におけるポリイソシアネート化合物(B)は、下記一般式(1)
【0022】
【化2】

(R、R及びRは、互いに同じか又は異なり、脂肪族、脂環式、芳香族イソシアネート及び/又はこれらのオリゴマーからイソシアネート基を除去することによって得られる基を表す)
【0023】
で表わされるイミノオキサジンジオン基を含有するものである。このような構造を有するポリイソシアネート化合物(B)は、従来塗料組成物において硬化剤として用いられてきたポリイソシアネート化合物よりも低い粘度を示す。このような低粘度のポリイソシアネート化合物(B)はベース層に移行しやすく、結果としてベース層での架橋が促進され、良好な付着性、耐水性等を得ることができる。
【0024】
上記一般式においてR、R及びRを示すイミノオキサジンジオン基を有する化合物の原料となるポリイソシアネート化合物としては、1,6−ヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物及びこれらのアダクト体、ビュウレット体、イソシアヌレート体等の多官能イソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0025】
上記硬化剤溶液は、主としてポリイソシアネート化合物からなるものであるが、全ポリイソシアネート化合物中、50〜100重量%が上記イミノオキサジンジオン基を含有するものであることがより好ましい。より好ましくは、70〜90重量%である。このような範囲内でイミノオキサジンジオン基を含有する化合物は、低粘度とすることができることから、複層塗膜に使用した場合、下層への浸透を生じやすい点で好ましいと推測される。
【0026】
このようなイミノオキサジンジオン基を有する化合物の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、特開平9−268212号公報に記載された方法によるもの等を挙げることができる。また、市販のものとしてはデスモジュールN3900(住化バイエル社製)等を挙げることができる。
【0027】
上記イソシアネート化合物(B)の粘度は、23℃で800mPa・s以下であることが好ましい。上記粘度は、JISK1603により測定したものである。なお、上記粘度は、600mPa・s以下であることがより好ましい。下限としては特に限定されないが、200mPa・s以上であることが好ましい。
【0028】
上記硬化剤溶液は、他のポリイソシアネート化合物を含むものであってもよい。上記他のポリイソシアネート化合物としては特に限定されず、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネート等の脂肪族環式イソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネートメチル等の脂環族イソシアネート、これらのビューレット体、ヌレート体等の多量体及び混合物等を挙げることができる。
【0029】
また、2液クリヤー塗料組成物には、必要に応じて、透明性を阻害しない範囲において、ベースカラー顔料やメタリック顔料を含有させることができる。さらに、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、架橋樹脂粒子、表面調整剤等を配合しても良い。
【0030】
上記架橋樹脂粒子を用いる場合は、本発明の2液クリヤー塗料組成物の樹脂固形分に対して、下限0.01重量%、上限10重量%の割合で配合することが好ましい。上記下限は、0.1重量%であることがより好ましく、上記上限は、5重量%であることがより好ましい。上記架橋樹脂粒子の添加量が10重量%を超えると得られる塗膜の外観が悪化する傾向にあり、他方、0.01重量%未満であるとレオロジーコントロール効果が得られない傾向にある。
【0031】
本発明において表面調整剤を使用する場合、配合する表面調整剤は特に限定されるものではないが、シリコン系表面調整剤やアクリル共重合物系表面調整剤を好適に使用することができる。これら表面調整剤は、単独で使用することができ、また、2種以上組み合わせて使用することもできる。このような表面調整剤は、仕上がり外観(レベリング性、ハジキ防止性)と耐汚染性の両立という点で特に好ましいものである。上記表面調整剤の配合量は、塗料中の全固形分に対して、下限0.01重量%、上限10重量%の割合で配合することが好ましく、更に、下限0.1重量%、上限5重量%であることがより好ましい。上記表面調整剤の添加量が10重量%を超えると、得られる塗膜の耐汚染性が悪化しやすく、0.01重量%未満であると、レオロジーコントロール性が得られなくなる場合がある。
【0032】
本発明の2液クリヤー塗料組成物の塗料形態としては、有機溶剤型であることが好ましい。有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル系有機溶剤;メトキシプロパノール、エトキシプロパノール等のエーテル系有機溶剤;ブタノール、エタノール、プロピルアルコール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶剤等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記2液の形態としては、例えば、主剤に硬化剤溶液を添加し、攪拌分散させることにより塗料組成物とするもの等を挙げることができる。上記混合の際、上記主剤と上記硬化剤溶液は、上記ポリイソシアネート化合物(B)に含まれるイソシアネート基(NCO)と上記水酸基含有樹脂(A)に含まれる水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が、0.8〜1.5となるような割合で混合すればよい。上記範囲外であると、クリヤー層からベース層へのポリイソシアネート化合物(B)の移行が起こり難くなり、複層塗膜の耐水性が低下する。また、上記イソシアネート基(NCO)と水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)は、0.8〜1.2であることが好ましい。
【0034】
上記2液クリヤー塗料組成物を得る方法としては、特に限定されない。例えば、各種配合物をディスパー等を用いて分散する等の当業者に周知の全ての方法を用いることができる。
【0035】
また、本発明のクリヤー塗料組成物は、いかなる基板、例えば、木、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛、これらの金属を含む合金、ガラス、布、プラスチック、発泡体、成形体に使用することができるが、特に、プラスチック素材表面に有利に用いることができる。
【0036】
上記プラスチック素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン素材、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリアクリル、ポリエステル、エチレンポリビニルアルコール共重合体、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリカーボネートとポリブチレンテレフタレートからなるポリマーアロイ及び各種FRP等のプラスチック材料等を挙げることができる。特に、熱可塑性樹脂素材、なかでも、ポリオレフィン素材、ABS樹脂素材及びポリカーボネートとポリブチレンテレフタレートからなるポリマーアロイ素材が好ましい。具体的には、自動車のバンパー、モール、グリル、スポイラー、ダッシュボード、コンソール、オーディオグリル等の内・外装部品等を挙げることができる。特に、上記クリヤー塗料は耐候性に優れたものであるため、自動車外装部品に好適に使用することができる。
【0037】
プラスチック素材の塗装系としては、プライマー塗装―ベース塗装―クリヤー塗装、又は、カラーベース塗装―ベース塗装―クリヤー塗装の3層からなる塗装系や、プライマー塗装―カラーベース塗装―マイカベース塗装―クリヤー塗装の4層からなる塗装系等が挙げられる。本発明の2液クリヤー塗料組成物は、いずれの塗装系においても好適に用いることができる。以下、これらの塗装系について説明する。
【0038】
(プライマー塗装)
上記プライマー塗装としては特に限定されないが、水性プライマーを塗装するものであることが好ましい。水性プライマーを基材表面に塗布する工程としては、例えば、スプレー塗装やベル塗装などの手法で塗装することができる。上記基材は、必要に応じて、洗浄、脱脂しておいてもよい。
【0039】
プライマー塗膜は、乾燥膜厚で5〜30μmであることが好ましい。5μm未満では隠ぺい性不足となり、30μmを超えるとワキやタレが発生し易くなる。好ましくは10〜20μmである。上記乾燥膜厚は、SANKO社製SDM−miniRを用いて測定することができる。
【0040】
(ベース塗装)
上記ベース塗装としては特に限定されないが、通常使用される任意のベース塗料組成物等を使用することができる。例えば、塗膜形成性樹脂、硬化剤、有機系,無機系又は光輝材等の着色顔料や体質顔料を含有する塗料組成物等を挙げることができる。なかでも、塗膜形成樹脂としてアクリルポリオールを、硬化剤としてメラミン化合物を含有するものであることが好ましい。
【0041】
ベース塗料組成物を塗布する方法としては特に限定されず、例えば、エアースプレー塗布、エアーレススプレー塗布等を挙げることができる。より具体的には、マイクロマイクロベル、マイクロベルと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機による塗装方法を挙げることができる。上記ベースコート塗料の塗装膜厚は、乾燥膜厚で下限10μm、上限30μmの範囲内であることが好ましい。
【0042】
(カラーベース塗装)
上記カラーベース塗装としては特に限定されず、例えば、塗膜形成性樹脂、硬化剤および顔料を含むカラーベース塗料組成物を塗装するものを挙げることができる。
【0043】
上記ベース用樹脂としては特に限定されず、水溶性アクリル樹脂、水分散性アクリル樹脂、エマルションアクリル樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水分散性ポリエステル樹脂等を挙げることができる。また、メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物等の硬化剤を併用することが好ましい。
【0044】
カラーベース塗料組成物に含まれる顔料としては、例えば、有機系および無機系の着色顔料ならびに体質顔料などが挙げられる。有機系の着色顔料としては、例えば、アゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、スレン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などが挙げられる。無機系の着色顔料としては、例えば、黄鉛、亜鉛華、酸化鉄、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムイエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルー、酸化チタン(例えば、二酸化チタン)などが挙げられる。また、体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、焼成カオリン、珪酸マグネシウム、クレー、タルクなどが挙げられる。上記顔料を1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
カラーベース塗料組成物は、上記必須成分である顔料、塗膜形成性樹脂および硬化剤以外にも、必要に応じて、有機溶媒(例えば、芳香族炭化水素系、脂肪族炭化水素系、エステル系、アルコール系溶媒等)、増粘剤(例えば、架橋樹脂粒子、有機ベントナイト、脂肪酸ポリアマイド、ポリエチレンワックス等)、光輝材(例えば、アルミニウム箔、マイカ、スズ箔、金箔、金属チタン箔、ニッケル箔等)、酸触媒、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、表面調整剤、レベリング剤、顔料分散剤、可塑剤、消泡剤等を適宜配合してもよい。
【0046】
(マイカベース塗装)
上記マイカベース塗装としては特に限定されず、ベース用樹脂及びマイカ顔料を含有する公知のマイカベース塗料組成物を塗布するものを挙げることができる。
【0047】
上記ベース用樹脂としては特に限定されず、水溶性アクリル樹脂、水分散性アクリル樹脂、エマルションアクリル樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水分散性ポリエステル樹脂等を挙げることができる。また、メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物等の硬化剤を併用することが好ましい。
【0048】
上記マイカ顔料を配合することにより、より意匠性・デザイン性に優れた真珠調光沢塗膜を得ることが可能となる。マイカ顔料としては、特に制限はなく、市販品では例えばメルク社製「イリオジン」、「シラリック」が挙げられる。その含有量は、塗料中の全固形分(樹脂固形分及び顔料などその他の固形分)中、1〜20重量%であることが好ましい。
【0049】
上記マイカベース塗料組成物の塗布方法としては、静電塗装を用いることが好ましい。マイカベース塗膜は、乾燥膜厚を5〜20μmとすることが好ましく、7〜15μmであることがより好ましい。乾燥膜厚が5μm未満であると目的の色が発現しないおそれがある。また、20μmを超えると、タレ、ワキ等の不具合が発生する場合がある。
【0050】
(クリヤー塗装)
上記クリヤー塗装は、本発明の2液クリヤー塗料組成物を塗布するものである。クリヤー塗装を除く各塗装工程において、プレヒート工程を行ってもよい。なお、プレヒートの際の加熱温度は、適宜設定すればよいが、40〜100℃が好ましく、40〜90℃がより好ましい。プレヒートの方法については、特に制限はなく、例えば、熱風乾燥法、赤外線乾燥法など公知の方法を採用すればよい。
【0051】
本発明の2液クリヤー塗料組成物を塗布する方法としては特に限定されず、例えば、スプレー塗装方法、静電塗装方法等を挙げることができる。工業的には、例えば、通称「リアクトガン」と呼ばれるエアー静電スプレー塗装機や、通称「マイクロマイクロベル」、「マイクロベル」、「メタリックベル」等と呼ばれる回転霧化式静電塗装機を用いる方法を挙げることができる
【0052】
上記2液クリヤー塗料組成物により形成されるクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、一般に、下限15μm、上限50μmが好ましい。15μm未満であると、下地の凹凸が隠蔽できないおそれがあり、50μmを超えると、塗装時にワキ、タレ等の不具合が起こることもある。上記下限は、20μmであることがより好ましく、上記上限は、45μmであることがより好ましい。
【0053】
上記2液クリヤー塗料組成物の塗装後、得られた複層塗膜を硬化させる硬化温度は、下限100℃、上限140℃であることが好ましい。100℃未満であると、硬化が充分でないおそれがあり、140℃を超えると、塗膜が脆くなるおそれがある。上記下限は110℃であることがより好ましい。硬化時間は、硬化温度により変化するが、110℃〜130℃で20〜40分が適当である。
【実施例】
【0054】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「重量部」を、「%」は特に断りのない限り「重量%」を意味する。
【0055】
(水酸基含有樹脂(A)の製造)
表1に示す配合により、水酸基含有樹脂AC−1〜AC−6を得た。なお、水酸基含有樹脂の不揮発分は、単純にモノマーのみを不揮発分とするのではなく、重合開始剤であるt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサナートも70重量%がモノマーと反応して不揮発分となるものとした。すなわち、具体的には、モノマーと、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサナートの使用量のうち70重量%と、の合計を不揮発分の重量として、全体量に対する割合を算出した。
【0056】
さらに、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサナートは前記したとおりモノマーと反応して、水酸基含有樹脂の一部を構成することになるが、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサナートに起因する水酸基、酸基は、水酸基含有樹脂の特性に与える影響が小さいため、計算上無視した。
【0057】
<水酸基含有樹脂(AC−1)の製造>
攪拌羽根、温度計、滴下装置、温度制御装置、窒素ガス導入口および冷却管を備えた反応装置に、溶剤として酢酸ブチル130部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ、攪拌下125℃まで昇温した。次にモノマーとして、2−ヒドロキシエチルメタクリレート63部、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート126部、メタクリル酸3.5部、スチレン45部、2−エチルヘキシルメタクリレート212.7部の混合物、および重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサナート67.5部を酢酸ブチル90部に溶解した溶液を反応装置中に3時間かけて滴下した。
滴下終了後1時間熟成させ、さらに重合開始剤t−ブチルパ−オキシー2−エチルヘキサナート0.9部を酢酸ブチル10部に溶解して1時間かけて反応装置中に滴下した。その後125℃を保持したまま2時間熟成させて冷却し、反応を終了した。
得られたアクリル樹脂の重量平均分子量は4000でOHVは170、AVは5であり、不揮発分は70%であった。
【0058】
水酸基含有樹脂(AC−2)〜(AC−6)の製造
上記水酸基含有樹脂(AC−1)の製造と同様の方法により、水酸基含有樹脂(AC−2)〜(AC−6)を製造した。重合後、酢酸ブチルを用いて不揮発分を調整した。
【0059】
以下、表1に化合物Bの特数値をまとめる。なお、各数値は以下の方法により測定した。
(1) ガラス転移点
各モノマーのTgの文献値より計算により求めた。
【0060】
(2) 水酸基当量
合成時のモノマー配合から計算した。
【0061】
(3) 重量平均分子量
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いてポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した・
【0062】
【表1】

【0063】
<クリヤー塗料(CL−1)の製造>
表2に示した配合でクリヤー塗料(CL−1)を得た。
なお、使用したNCO種は、A(住化バイエル社製スミジュールN3300)及びB(住化バイエル社製デスモジュールN3900)である。
【0064】
容器に酢酸ブチル30部、(アクリル樹脂の製造)で作製したAC−1を76.05部仕込み、よく攪拌しながらBYK−310(ビッグケミー・ジャパン社製)0.54部、チヌビン292(チバ・ジャパン社製)0.25部、チヌビン384−2(チバ・ジャパン社製)0.55部を順次仕込み均一になるまで攪拌して、クリヤー塗料の主剤とした。
硬化剤は容器に酢酸ブチル20部とデスモジュールN3900(住化バイエルウレタン社製)30.4部を混合して作製した。上記で作製した主剤107.39部と硬化剤50.4部を混合しクリヤー塗料CL−1を得た。
この時、上記クリヤー塗料の不揮発分は53.4%であった。
【0065】
<クリヤー塗料(CL−2)〜(CL−9)の製造>
上記CL−1と同様の方法により、CL−2〜9を製造した。
【0066】

【表2】

【0067】
実施例1〜6、比較例1〜12
イソプロピルアルコールでワイピングしたポリプロピレン素材(70mm×150mm×3mm)の表面に25℃/70%RHの環境下で、「ワイダ―71」(アネスト岩田社製)により導電プライマー「WB−1200CD−4」(日本ビー・ケミカル社製)をスプレー塗装(乾燥膜厚20μm)し、80℃で5分間乾燥した。その後、水性ベース「AR−2000」(日本ペイント社製)、「WBC−713T」(関西ペイント社製)及び「TGB−W2700」(デュポン社製)のそれぞれ塗色#1F7(シルバー)と#040(ホワイト)について同じ環境下で、新カートリッジベル(ABB社製)を使用して静電塗装(条件、ガン距離:200mm、ガン速度:900mm/s、印加電圧:−60kV,回転数:35000rpm、シェービングエアー圧:0.15MPa、乾燥膜厚30μm)を行い、80℃で5分間乾燥した。その上に、表3記載のクリヤー塗料(CL−1〜9)をロボベル951(ABB社製)を使用して、静電塗装(条件、ガン距離:200mm、ガン速度:700mm/s、印加電圧:−60kV,回転数:25000rpm、シェービングエアー圧:0.07MPa)条件下で霧化塗装(乾燥膜厚15μm)を行った。その後、10分間セッティングした後、120℃で35分間乾燥し、複層塗膜を形成して最終塗板を得た。
【0068】
得られた塗板について、以下の試験を行った。結果を表3に示す。
・耐水付着性
最終塗板を40℃の温水に240時間浸漬した後、1時間室温乾燥してブリスター(水浸透による塗膜の膨れ)をASTM D714に基づき目視評価するとともに、JIS K5600の碁盤目テープ剥離試験を行った。
試験前と比較して外観に異常が認められず、且つ剥離が無かった場合を○
試験前と比較して外観に異常が認められる、もしくは僅かでも剥離が認められるものを×
とした。
・耐キシレンラビング性
最終塗板に対しキシレンを含んだガーゼで500gの荷重を加え、8往復ラビング試験を行い、粘着性、しわ、フクレ、ハガレ等の異常の有無を評価した。異常が認められない場合は○、少しでも異常が認められた場合は×とした。
【0069】

【表3】

【0070】
本発明のクリヤー塗料組成物を用いることにより、使用したベース塗料の種類に関わらず、耐水付着性及び耐キシレンラビング性に優れた複層塗膜を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の2液クリヤー塗料組成物は、ベース層の組成に関わらず、良好な付着性を得ることができる。特に、プラスチック素材の塗装に好適に使用することができるため、バンパー等の自動車外装品に優れた耐水性、耐候性、付着性等を付与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有樹脂(A)を含む主剤とポリイソシアネート化合物(B)を含む硬化剤溶液とからなる2液クリヤー塗料組成物であって、
前記水酸基含有樹脂(A)は、1級及び2級の水酸基の比が水酸基価基準で1級水酸基/2級水酸基=50/50〜20/80であり、
前記ポリイソシアネート化合物(B)は、下記式(1)で
【化1】

(R、R及びRは、互いに同じか又は異なり、脂肪族、脂環式、芳香族イソシアネート及び/又はこれらのオリゴマーからイソシアネート基を除去することによって得られる基を表す)
表わされるイミノオキサジアジンジオン基を有するものであり、
前記水酸基含有樹脂(A)の水酸基と前記ポリイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基との当量比(NCO/OH)が0.8〜1.5
であることを特徴とする2液クリヤー塗料組成物。
【請求項2】
ポリイソシアネート化合物(B)は、23℃での粘度が200〜800m・Pasである請求項1記載の2液クリヤー塗料。



【公開番号】特開2013−95858(P2013−95858A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240231(P2011−240231)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(593135125)日本ビー・ケミカル株式会社 (52)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】