説明

2液型インクジェットヘッド洗浄液およびインクジェットヘッドの洗浄方法

【課題】インクジェットヘッド部に形成される異物等の除去に適したインクジェットヘッド洗浄液と、インクジェットヘッドの洗浄方法を提供する。
【解決手段】成分Aとしてアルキルアミンオキシドと、水とを含むA液と;成分Bとしてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、およびアルキルベンゼンスルホン酸またはその塩からなる群から選ばれた少なくとも1種と、水とを含むB液と;を組み合わせてなる、2液型インクジェットヘッド洗浄液。また、上記A液によりインクジェットヘッドを洗浄する工程と、上記B液によりに前記インクジェットヘッドを洗浄する工程と、を含むインクジェットヘッドの洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置のインクジェットヘッド用の2液型洗浄液、およびインクジェットヘッドの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドのインク吐出部では、インクの蒸発、乾燥が繰り返される。その際、ヘッドのノズル表面およびノズル近傍には、インク成分のみならず、インク流路に使用される材料から溶出した微量成分が異物として固着して、インクに再溶解不能な凝集物(または凝固物)を形成し、インクの吐出曲がり(飛行曲がり)や不吐出を引き起こすことがある。
従来、こうした異物または凝集物の除去には、ゴム材等でヘッド吐出部をワイピングする方法や、ヘッド吐出部をキャッピングして吸引したり、インク溜部の一部に空気を送り加圧したりすることで、インクを押し出すとともに凝集物を洗い流す方法(パージ)が行なわれている。
【0003】
さらに、有機溶剤と界面活性剤と水を含むインクジェットヘッド洗浄液(特許文献1)、および極性溶媒と界面活性剤を含むインクジェットヘッドのノズル洗浄液(特許文献2)を用いた洗浄が知られている。
【特許文献1】特開平4−115954号公報
【特許文献2】特開平9−300637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、インク吐出部に形成される異物および凝集物は、強固に固着することが多く、従来のクリーニング方法では、ヘッドに対し充分な洗浄を行なうことができなかった。
そこで本発明は、インクジェットヘッド部に形成される異物等の除去に適したインクジェットヘッド洗浄液と、インクジェットヘッドの洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一の側面によれば、
成分Aとしてアルキルアミンオキシドと、水とを含むA液と、
成分Bとしてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、およびアルキルベンゼンスルホン酸またはその塩からなる群から選ばれた少なくとも1種と、水とを含むB液と、
を組み合わせてなる、2液型インクジェットヘッド洗浄液が提供される。
【0006】
本発明の第二の側面によれば、
アルキルアミンオキシドと、水とを含むA液によりインクジェットヘッドを洗浄する工程と、
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、およびアルキルベンゼンスルホン酸またはその塩からなる群から選ばれた少なくとも1種と、水とを含むB液によりに前記インクジェットヘッドを洗浄する工程と、
を含む、インクジェットヘッドの洗浄方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る2液型インクジェットヘッド洗浄液(以下、単に「洗浄液」と記す場合もある。)は、上記特定の成分Aを含むA液と、上記特定の成分Bを含むB液とを組み合わせたものである。この両者を組み合わせて洗浄することにより、成分Aと成分Bがそれぞれ異なる役割を果たしてノズル部に形成される異物および凝集物を溶解・除去することができ、その結果、ヘッドの回復率を大幅に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る洗浄液は、成分Aを含む水溶液であるA液と、成分Bを含む水溶液であるB液とを組み合わせた2液型の洗浄液である。
成分Aは、アルキルアミンオキシドである。たとえば、ラウリルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、パルミチルジメチルアミンオキシド、ステアリルジメチルアミンオキシド、イソステアリルジメチルアミンオキシド、オレイルジメチルアミンオキシド等が挙げられるが、なかでも、市販品として入手が容易であるラウリルジメチルアミンオキシドを用いることが好ましい。
【0009】
A液中の成分Aの濃度は3〜25重量%であることが好ましく、10〜20重量%であることがより好ましい。成分Aの濃度が25重量%より高い場合、インクが顔料インクである場合に、A液がインク中の顔料を凝集させて、B液による洗浄効果を低下させてしまう恐れがあるため好ましくない。
【0010】
B液も水溶液であり、成分Bとしてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、およびアルキルベンゼンスルホン酸またはその塩からなる群から選ばれた少なくとも1種を含む。たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル硫酸ナトリウム等が、またアルキルベンゼンスルホン酸としては、デシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ミリスチルベンゼンスルホン酸等が、それぞれ挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸の塩は、ナトリウム塩であることが好ましい。特に、この成分Bとしては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムおよび/またはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0011】
B液中の成分Bの濃度は0.1〜20重量%であることが好ましく、0.5〜15重量%であることがより好ましい。成分Bの濃度が20重量%より高い場合、インクが顔料インクである場合に、インク中の顔料を凝集させてしまう恐れがあるため好ましくない。
【0012】
A液およびB液は、2液に分けて別々に使用することが重要である。成分Aと成分Bが1液中に存在すると、両者の相互作用が生じて水溶液の粘度が上昇してしまうため、洗浄液として適切に使用することができないからである。
【0013】
成分Aと成分Bは、それぞれ複数種を組み合わせて使用してもよい。
A液とB液は、それぞれ、本発明の効果を妨げない範囲内で、その他の任意の成分を含むことができる。
たとえば、各水溶液は、水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、2−メチル−2−プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン;アセチン類(モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン);トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコール類の誘導体;トリエタノールアミン、β−チオジグリコール、スルホランを用いることができる。平均分子量200、300、400、600等の平均分子量が190〜630の範囲にあるポリエチレングリコール、平均分子量400等の平均分子量が200〜600の範囲にあるジオール型ポリプロピレングリコール、平均分子量300、700等の平均分子量が250〜800の範囲にあるトリオール型ポリプロピレングリコール、等の低分子量ポリアルキレングリコールを用いることもできる。これらの水溶性有機溶剤は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
また、A液とB液にはそれぞれ、防腐剤、防カビ剤、殺菌剤、酸化防止剤、粘度調整剤等の一般の洗浄液に使用される添加剤を配合することもできる。さらに、本発明の効果を妨げない範囲内で、成分A、成分B以外のその他の界面活性剤を含むこともできる。
【0015】
上記A液とB液とを組み合わせてなる本発明に係る洗浄液は、様々なインクを使用した様々なインクジェットヘッドの洗浄において効果を発揮するものであり、そのヘッドの形式やインクの組成等に限定されるものではない。
本発明の洗浄液は、特にノズルの目詰まりを引き起こしやすい顔料インクに対しても、高い洗浄効果を示すことが特徴的である。したがって、汎用されている油性および水性の顔料インクを吐出させるインクジェットヘッドに広く使用することができる。
【0016】
推測ではあるが、ヘッド構成材料やインク流路に使用される材料から、微量成分として、たとえば低級の脂肪酸(低級カルボン酸)や金属イオン(Mg、Ca等)またはハロゲンイオン(F等)などが溶出し、エステル系溶剤や炭化水素系溶剤を含む油性(非水系)インクに再溶解が困難な塩(脂肪酸塩)を形成することが考えられる。そして、ヘッドのノズル表面およびノズル近傍に、顔料等のインク成分のみならず、これらの異物が固着して、通常のクリーニング方法(ワイピングやパージ)では洗浄困難な凝集物(凝固物)を形成し、インクの吐出曲がり(飛行曲がり)や不吐出などの吐出不良を引き起こすことが考えられる。
A液には、こうした異物や凝集物を溶解させる効果が認められる。が、一方でA液は、経時的にインク中の顔料を凝集させる作用もあるところ、A液による洗浄後にB液による洗浄を行なうことで、インクの凝集を除去することができる。つまり、B液は、A液のような凝集物を溶解させる効果は持たないが、インクの凝集を除去する効果を有する。
【0017】
そこで、本発明に係るインクジェットヘッドの洗浄方法は、上記A液による洗浄工程と、上記B液による洗浄工程とを、この洗浄順で含むことを特徴とする。すなわち、A液による洗浄の後に、B液による洗浄を行なうことが重要である。
A液による洗浄とB液による洗浄を、この順に1セット含む限り、さらに洗浄を繰り返し行なうことは任意である。たとえば、A液とB液による洗浄を交互に複数回行なっても良いし(A液→B液→A液→B液等)、あるいは、A液による洗浄後に、B液による洗浄を複数回行なっても良い(A液→B液→B液等)。なお、A液による洗浄を繰り返すことは、インクを凝集および凝固させる恐れがあるため、好ましくない場合がある。
【0018】
各洗浄工程における洗浄方法は、特に限定されないが、たとえば、各液をヘッド表面(ノズル面)に塗布あるいは吹き付けた後、ワイピングを行なう。このワイピングを行なう前にパージ動作を行なうと、洗浄効果が高まり好ましい。あるいは、各液をノズルから吐出させて洗浄することもできる。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<A液の洗浄効果>
A液(実施例)または第1液(比較例)として、表1に示す界面活性剤を表1に示す量で含む各水溶液を調製した。
【0020】
ノズル近傍に異物が固着したヘッドとして、インクジェット記録装置「HC5500」(理想科学工業(株)、RISO HCインク使用)のヘッド(各ノズルが約85μm間隔で並ぶ300dpiのライン型インクジェットヘッド)を使用した。この異物が固着したヘッドを、ノズルプレートを上にして固定し、表1のA液または第1液をノズルプレート上に数滴滴下した。紙(キムワイプ)で余剰の液体を拭き取った後、直ちに異物の有無を光学顕微鏡(1000倍)で観察した。異物の存在が認められる場合を×、異物の存在が認められない場合を○として、異物除去効果を評価した。
結果を表1に併せて示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1より、成分Aのみが異物を除去する効果を有することが判明した。
なお、上記において、RISO HCインクは、エステル系溶剤と石油系炭化水素溶剤とを含む、油性顔料インクである。
表1および下記表2に記載の界面活性剤成分は、それぞれ次のとおりである。
成分A:「アンヒトール20N」(花王株式会社)
成分B−1:「エマールE−27C」(花王株式会社)
成分B−2:「ネオペレックスG−15」(花王株式会社)
成分C−1:「エマール20T」(花王株式会社)
成分C−2:「エマールTD」(花王株式会社)
【0023】
<2液型洗浄液の洗浄効果>
表2に示すA液と、B液(実施例)または第2液(比較例)とを調製し、それぞれを組み合わせて次のように洗浄試験を行なった。上記インクジェット記録装置「HC5500」に取り付けられた、ノズル近傍に異物の存在するヘッドを洗浄対象とした。
【0024】
(1)A液による洗浄
A液をワイプスティック(アルファースティックTX761)に浸し、このワイプスティックを用い、力を加えないようにノズルプレートにA液を塗布した。続いて、25KPaの圧力で10秒間パージし、さらに10KPaの圧力でパージしたのち、ゴムブレードでワイピングを行なった(以上のパージとワイピングの一連の動作を「強力クリーニング」と称する。)。
(2)B液による洗浄
上記A液による強力クリーニング後、B液または第2液を、同様にワイプスティックを用いてノズルプレートに塗布し、強力クリーニングを行なった。
【0025】
以上のA液による洗浄とB液による洗浄を、A液→B液を1セットとして5セット、あるいは、A液→B液を3セット行なったのちB液→B液の洗浄を行なった後、ベタ印刷を行なった。
得られた印刷物を肉眼で観察し、インクの不吐出のない正常な印刷物が得られた場合を○、インクの不吐出があり正常な印刷物が得られなかった場合を×として評価した。
結果を併せて表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2より、A液とB液とを組み合わせた場合のみ、ノズル近傍の異物を除去し、かつインクの凝集または凝固を引き起こすことがなく、したがってインクの吐出不良のない良好な印刷物が得られることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分Aとしてアルキルアミンオキシドと、水とを含むA液と、
成分Bとしてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、およびアルキルベンゼンスルホン酸またはその塩からなる群から選ばれた少なくとも1種と、水とを含むB液と、
を組み合わせてなる、2液型インクジェットヘッド洗浄液。
【請求項2】
成分Aがラウリルジメチルアミンオキシドであり、成分Bがポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムおよび/またはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムである、請求項1記載の2液型インクジェットヘッド洗浄液。
【請求項3】
A液中の成分Aの濃度が3〜25重量%であり、B液中の成分Bの濃度が0.1〜20重量%である、請求項1または2記載の2液型インクジェットヘッド洗浄液。
【請求項4】
アルキルアミンオキシドと、水とを含むA液によりインクジェットヘッドを洗浄する工程と、
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、およびアルキルベンゼンスルホン酸またはその塩からなる群から選ばれた少なくとも1種と、水とを含むB液によりに前記インクジェットヘッドを洗浄する工程と、
を含む、インクジェットヘッドの洗浄方法。

【公開番号】特開2009−155424(P2009−155424A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334093(P2007−334093)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】