説明

2液型ポリウレタンエラストマー組成物、及び成形品

【課題】耐水性、耐磨耗性、機械的強度に優れる2液型ポリウレタンエラストマー組成物、及びそれを用いた成形品を提供する。
【解決手段】イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A)を含有する主剤と、イソシアネート基反応性化合物(B)を含有する硬化剤からなるポリウレタンエラストマー組成物であって、前記プレポリマー(A)がポリイソシアネート(a1)とポリオール(a2)とから得られ、前記ポリイソシアネート(a1)としてトリレンジイソシアネートを含有し、前記ポリオール(a2)を構成する二塩基酸成分中にセバシン酸を50〜100モル%使用するポリエステルポリオール(a2−1)を含有し、且つ前記反応性化合物(B)が3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性と耐水性に優れる2液型ポリウレタンエラストマー組成物、及び成形品に関する。更に詳しくは、苛酷な条件下において要求される優れた耐摩耗性と耐水性を両立させた2液型ポリウレタンエラストマー組成物、及びそれを用いてなる工業用部材や機械用部品などの成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2液型ポリウレタンエラストマー組成物は、引張物性や耐磨耗性などの良好な性能を有することから、例えば、ローラー、キャスター、ベルト、研磨パッドなどの工業用部材や産業機械用部品などの成形品として広範囲の用途に使用されてきた。
【0003】
しかしながら、近年の急速なオートメーション化に伴い、その生産速度は加速度的に高まりつつあり、ポリウレタンエラストマー組成物を用いて成形する際の生産条件や成形品の使用条件は更に過酷になる傾向にある。そのため、従来の組成物では、耐磨耗性、耐水性、機械的強度などの性能が不充分であり、前記のような多様な用途に適用が困難であることが危惧されている。
【0004】
かかる問題に対応するために、これまで種々の提案がなされてきた。
【0005】
例えば、ポリウレタンエラストマーに、耐溶剤性と耐水性を付与する手段として、カルボン酸成分としてコハク酸及び/又はアジピン酸を用い、グリコール成分として数平均分子量400以下のモノ又はポリオキシアルキレングリコールを用いて、ヒマシ油と共にこれらを脱水縮合させて得られるポリエステルポリオールにおいて、ヒマシ油の使用量が得られるポリエステルポリオールに対して10〜60重量%であるポリエステルポリオールを用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のポリエステルポリオールを用いたポリウレタンエラストマーは、耐水性は比較的良好であるものの、耐磨耗性が不充分であるため、未だ実用に適さないという問題があった。
【0007】
また、コハク酸系ポリエステルポリオールとポリイソシアネートからなるポリウレタンエラストマーにおいて、コハク酸系ポリエステルポリオールがカルボン酸成分の主成分としてコハク酸を用い、さらに芳香族カルボン酸を全カルボン酸成分中の3〜50mol%用いて得られるものであるポリウレタンエラストマーが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載のポリウレタンエラストマーも特許文献1と同様に、耐水性は比較的良好であるが、充分な耐磨耗性が得られずに、未だ実用に適さないという問題があった。
【0009】
更に、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを含有する主剤と、イソシアネート基反応性化合物、発泡剤としての水、無機研磨剤及び触媒を含有する硬化剤とからなるガラス研磨ポリウレタンパッド用2液型組成物において、前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーが、少なくともトリレンジイソシアネートとポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール及びポリカプロラクトントリオールを、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール及びポリカプロラクトントリオールを混合した場合における平均官能基数が2.1〜2.7の範囲内になるように各々用いて、反応させて得られるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーであり、かつ、前記イソシアネート基反応性化合物が、少なくとも、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジクロロジフェニルメタンと、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールからなるガラス研磨ポリウレタンパッド用2液型組成物が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
しかしながら、特許文献3に記載の2液型組成物からなる研磨パッドを用いて、加工物のガラス製品の研磨を行った場合には、研磨パッドと加工物との間で発生する過酷な摩擦熱と圧力により、「ヘタリ」と呼ばれる弊害が起こり、研磨作業中に硬度(弾性率)が変化してしまい、精密な研磨加工に用いることが短時間で困難となるという問題があった。
【0011】
また、特許文献3の2液型組成物では、主剤及び硬化剤にポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールが必須に使用されているので、耐水性は比較的良好であるが、やはり耐摩耗性の点で劣るという問題があった。
【0012】
このように、ポリエステルポリオールを用いたポリウレタンエラストマー組成物について、耐水性、耐摩耗性、機械的強度についていずれも優れた性能を有する2液型ポリウレタンエラストマー組成物、及びそれを用いてなる成形品の開発が強く求められているものの、未だ見出されていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−126659号公報
【特許文献2】特開2009−298934号公報
【特許文献3】特開2005−068168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、耐水性、耐磨耗性、及び機械的強度に優れる2液型ポリウレタンエラストマー組成物、及びそれを用いてなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、特定の組成からなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを含有する主剤と、イソシアネート基反応性化合物を含有する硬化剤とを組合せることにより、耐水性、耐摩耗性、機械的強度についていずれも優れた性能を有する2液型ポリウレタンエラストマー組成物、及び成形品を得ることができることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0016】
即ち、本発明は、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A)を含有する主剤と、イソシアネート基反応性化合物(B)を含有する硬化剤からなるポリウレタンエラストマー組成物であって、前記プレポリマー(A)がポリイソシアネート(a1)とポリオール(a2)とから得られ、前記ポリイソシアネート(a1)としてトリレンジイソシアネートを含有し、前記ポリオール(a2)を構成する二塩基酸成分中にセバシン酸を50〜100モル%使用するポリエステルポリオール(a2−1)を含有し、且つ前記イソシアネート基反応性化合物(B)が3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンであることを特徴とする2液型ポリウレタンエラストマー組成物に関するものである。
【0017】
また、本発明は、前記2液型ポリウレタンエラストマー組成物を用いて得られることを特徴とする成形品に関するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の2液型ポリウレタンエラストマー組成物は、耐水性、耐摩耗性、機械的強度についていずれも優れた性能を発現できるので、例えば、ローラー、カム、ギア、歯車、コネクタ、キャスター、ベルト、研磨パッド、シャーシ、軸受け、磁気テープガイド、ポンプユニット、医療機器バルブ、スライド部品などの工業用部材や産業機械用部品、摺動部品、自動車部品、電気・電子部品など多様な成形品に利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の2液型ポリウレタンエラストマー組成物は、使用に際して、主剤であるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A)と、硬化剤であるイソシアネート基反応性化合物(B)を所定量混合して得ることができる。
【0020】
前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A)〔以下プレポリマー(A)という。〕は、ポリイソシアネート(a1)とポリオール(a2)を用いて公知の合成方法により得ることができ、その合成方法は特に限定しない。
【0021】
本発明の2液型ポリウレタンエラストマー組成物では、前記ポリイソシアネート(a1)としてトリレンジイソシアネート(TDI)を必須に含有する。前記TDIを含有することにより、得られる2液型ポリウレタンエラストマー組成物の硬化時の反応速度の制御が容易にでき、且つ優れた作業性と成形性を得ることができる。
【0022】
しかしながら、従来の如く、前記ポリイソシアネート(a1)として、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト(MDI)などの如き、TDI以外のポリイソシアネートを単独で用いた場合には、硬化時の反応速度が速すぎて制御がうまくできず、作業性と成形性が極めて困難となるという問題が生じてしまう。
【0023】
前記TDIには、異性体として、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−体という。)と2,6−トリレンジイソシネート(2,6−体という。)があり使用可能であるが、一般には、2,4−体単独と、2,4−体と2,6−体の混合物(例えば、2,4−体/2,6−体=80/20質量比の混合物など)が市販されており、本発明では何れも使用できる。
【0024】
本発明では、前記TDIと共に、TDI以外のポリイソシアネート(a1’)を本発明の目的を阻害しない範囲で使用できる。その際の前記(a1’)の使用量は、好ましくはポリイソシアネート全モル数〔即ち(a1)+(a1’)〕に対して、50モル%未満である。
【0025】
前記TDI以外のポリイソシアネート(a1’)としては、芳香族、脂環族、脂肪族のいずれでもよく、例えばトリジンジイソシアネート(TODI)、ジフェニルメタンジイソシアネ−ト(MDI;その4,4’−体、2,4’−体、又は2,2’−体、若しくはそれらの混合物)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド化ジフェニルメタンポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネ−ト、あるいはイソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添ジフェニルメタンジイソシアネート(水添MDI)、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)等の脂環族系ジイソシアネート、あるいはヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネート等が挙げられる。また、これらジイソシアネートのカルボジイミド変性体、アロファーネート変性体、2量体、3量体など、通常のポリウレタンエラストマーの製造に使用されているポリイソシアネートが挙げられる。これらは、単独使用でも2種以上を併用してもよい。
【0026】
次に、本発明で使用する前記ポリオール(a2)について説明する。
【0027】
本発明で用いるポリオール(a2)とは、それを構成する二塩基酸成分中に、セバシン酸を50〜100モル%の範囲、好ましくは80〜100モル%の範囲で使用してなるポリエステルポリオール(a2−1)を含有するものであって、且つ、好ましくは酸価が0.0〜1.0、水酸基価が37〜187の範囲であり、より好ましくは酸価が0.0〜0.5、水酸基価が56〜112の範囲である。尚、酸価及び水酸基の単位は、通常「mgKOH/g」であるが本発明では略す。
【0028】
また、前記ポリエステルポリオール(a2−1)は、グリコール成分と二塩基酸成分とを公知の方法で反応させて得られ、前記二塩基酸成分中にセバシン酸を50〜100モル%、好ましくは80〜100モル%用いてなる。
【0029】
前記ポリエステルポリオール(a2−1)の数平均分子量(以下、Mnという。)は、好ましくは600〜3000の範囲であり、より好ましくは1000〜2000である。前記(a2−1)のMnがかかる範囲であるならば、弾性に優れるポリウレタンエラストマーが得られ、且つ硬度の調整が容易となり、好ましい。Mnが600より小さいと、得られるポリウレタンエラストマーの弾性に劣る傾向になり、また、Mnが3000より大きいと、高硬度の調整が比較的困難となる傾向になり、好ましくない。
【0030】
なお、本発明で記載のMnは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の値である。
【0031】
前記グリコール成分とは、好ましくは炭素数2〜18の脂肪族の短鎖ジオールであり、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等が挙げられ、これらの単独または2種以上で用いることができる。
【0032】
前記二塩基酸成分とは、セバシン酸を50〜100モル%、好ましくは80〜100モル%、更に好ましくは100モル%含有するものである。
【0033】
その際、セバシン酸と共に50モル%未満で併用できる二塩基酸としては、好ましくは脂肪族二塩基酸であり、例えばコハク酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、シュベリン酸、アゼライン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸等の単独又は2種以上を用いることができる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、芳香族二塩基酸、脂環族二塩基酸を併用してもよく、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸又はそれらの無水物、低級エステル等を単独あるいは2種以上併用することができる。
【0034】
前記ポリエステルポリオール(a2−1)の製造法としては、特に限定するものではないが、例えば、セバシン酸を前記範囲内で含む前記二塩基酸成分と前記グリコール成分とを通常用いられるエステル化触媒の存在下あるいは無触媒で反応して製造する方法等が好ましく挙げられる。その際の反応は、常圧、加圧、減圧の何れの条件で行ってもよい。
【0035】
ポリオール(a2)中に前記ポリエステルポリオール(a2−1)が、好ましくは80〜100モル%、より好ましくは90〜100モル%含まれるならば、優れた耐磨耗性、耐水性、耐久性を得ることができる。
【0036】
本発明では、結晶性の高いセバシン酸をポリエステルポリオール(a2−1)の主成分に用いることにより、ポリウレタン分子鎖のソフトセグメントとハードセグメントとの相分離を適度な状態に進行させて、それにより耐摩耗性が格段に向上したものと推測した。また、セバシン酸は疎水性に富むため、セバシン酸を特定範囲量で使用することにより、
ポリウレタンエラストマーの疎水性を目覚しく向上でき、耐水性が格段に改善できた。
かかる優れた耐摩耗性と耐水性の向上効果は、例えば、コハク酸やアジピン酸などの、セバシン酸以外の脂肪族二塩基酸を用いた場合では、決して発現されない効果であって、セバシン酸を用いることにより、本発明で初めて見出した優れた効果である。
【0037】
前記ポリエステルポリオール(a2−1)と併用可能なその他のポリオール(a2’)としては、例えば、アジピン酸等の二塩基酸の酸成分と前記短鎖ジオール成分とから構成される通常のポリエステルポリオールや、短鎖グリコールを反応開始剤としてラクトン類を開環重合させることによって得られるポリエステルポリオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルポリオール等が挙げられる。もちろん、これらの併用するポリオールは平均官能基数が2.0を越えるものであっても差し支えなく、本発明の効果を損なわない範囲で使用できる。
【0038】
前記ポリエステルポリオール(a2−1)を含むポリオール(a2)とポリイソシアネート(a1)とからイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A)を得る手段としては、従来の公知の製造方法が使用できる。
【0039】
その際に使用するポリイソシアネート(a1)のイソシアネート基(NCO基)とポリエステルポリオール(a2−1)を含むポリオール(a2)の水酸基(OH基)との当量比〔即ち、NCO/OH当量比〕は、好ましくは1.5〜2.2の範囲であり、より好ましくは1.7〜2.0の範囲である。前記NCO/OH当量比がかかる範囲であれば、得られる2液型ポリウレタンエラストマー組成物の作業性、成形性、及び成形物の物性(例えば機械的強度)に優れる。前記NCO/OH当量比が1.5より小さくなると、前記プレポリマー(A)の粘度が増大し過ぎて作業性が低下する傾向にあり、好ましくない。また、前記NCO/OH当量比が2.2を越えると、得られるポリウレタンエラストマーの弾性が失われる傾向にあり、好ましくない。
【0040】
本発明では、必要によりプレポリマー合成前、合成中、合成後の任意の工程において、例えば、反応性調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、着色剤、充填剤などの各種添加剤を添加しても差し支えない。
【0041】
次に、イソシアネート基反応性化合物(B)〔以下、反応性化合物(B)という。〕を含有する硬化剤について説明する。
【0042】
本発明では、硬化剤として反応性化合物(B)である3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MBOCA)を必須に用いる。前記MBOCAを必須に用いることにより、優れた耐磨耗性を有する成形品を得ることができる。
【0043】
主剤である前記プレポリマー(A)のNCO基と、反応性化合物(B)を含有する硬化剤中の活性水素〔NH〕との当量比は、好ましくはNH/NCO=0.8〜1.0の範囲である。前記NH/NCO当量比がかかる範囲であれば、耐水性、耐磨耗性、耐久性、機械的強度等の優れた性能を有するポリウレタンエラストマー成形品を得ることができる。
【0044】
本発明では、前記TDIを含むポリイソシアネート(a1)と二塩基酸成分中にセバシン酸を使用するポリエステルポリオール(a2−1)を含むポリオール(a2)とから得られるプレポリマー(A)を含有する主剤と、反応性化合物(B)を含有する硬化剤であるMBOCAとからなる2液型ポリウレタンエラストマー組成物を製造するには、従来公知の製造方法が使用できる。
【0045】
また、硬化剤には、必要により水、触媒、整泡剤などを含むこともできる。前記反応性化合物(B)と共に、水や触媒などを含有成分として配合して混合することにより、硬化剤の量を調整することができる。使用される水とは、好ましくは純水、イオン交換水である。また、触媒とは、発泡や硬化を促進するものであれば公知の有機金属化合物、ポリオール化合物、アミン化合物などが使用でき、好ましくはアミン化合物であり、例えばトリエチルアミン、トリエチレンジアミン等の第三級アミン、モルホリン、N−メチルモルホリン等の窒素化合物、酢酸カリウム、ステアリン酸亜鉛等の金属塩、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド等の有機金属化合物等が具体的に挙げられる。更に、整泡剤とは、好ましくはシリコーン系界面活性剤であり、公知のもの、例えばSH−193(商標、東レダウコーニングシリコーン社製)、SF−2962(同社製)等が使用できる。
【0046】
前記反応性化合物(B)を含有する硬化剤には、必要に応じて、水、整泡剤、触媒などの他に、助剤を添加することも可能である。このような助剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤等の添加剤が挙げられる。これら助剤は公知のものが使用でき、特に限定しない。
【0047】
前記のように調整した主剤と硬化剤を配合し、直ちに、充分に混合することにより、本発明のポリウレタンエラストマー組成物を得ることができる。
【0048】
前記反応性化合物(B)を含有する硬化剤と前記プレポリマー(A)を含有する主剤とを混合して成形型内に注入し成形する操作方法については、公知の技術を採用すればよく、特に限定しない。
【0049】
本発明の2液型ポリウレタンエラストマー組成物を用いた成形品の製造方法の一例を示すならば、前記プレポリマー(A)を含有する主剤と反応性化合物(B)を含有する硬化剤とを夫々好ましくは70〜120℃で加温して混合し、次いで好ましくは90〜110℃に加温された成形用金型に注入、硬化、加温熟成させることにより、本発明の成形品を得ることができる。
【0050】
本発明の2液型ポリウレタンエラストマー組成物を用いて発泡体(即ち、発泡ポリウレタンエラストマー)を得るには、前記硬化剤に、水、触媒、整泡剤などを添加して成形、発泡、硬化させればよい。
【0051】
前記発泡ポリウレタンエラストマーの密度は、用途により異なるが、通常、好ましくは0.3〜0.7g/cmである。尚、本発明でいう「発泡ポリウレタンエラストマー」とは、発泡させたポリウレタンエラストマー中に独立気泡と連続気泡とを形成しているものを含むことを意味するものである。
【0052】
本発明の2液型ポリウレタンエラストマー組成物には、例えば、整泡剤、酸化防止剤、脱泡剤、紫外線吸収剤、砥粒、充填剤、顔料、増粘剤、界面活性剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、耐熱安定剤、ブレンド用樹脂など、公知の添加剤を本発明の目的を阻害しない範囲で、製造工程の何れの段階においても用いることができる。尚、本発明で記載する添加剤は一例であって、特にその種類を限定するものではない。
【0053】
本発明の2液型ポリウレタンエラストマー組成物は、耐水性、耐磨耗性、機械的強度などの優れた性能を発現できるので、例えば、ローラー、カム、ギア、歯車、コネクタ、キャスター、ベルト、研磨パッド、シャーシ、軸受け、磁気テープガイド、ポンプユニット、医療機器バルブ、スライド部品などの工業用部材や産業機械用部品、摺動部品、自動車部品、電気・電子部品など多様な成形品に利用可能である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により、一層具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。
また、本発明では、特に断りのない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」である。
尚、本発明で用いた測定方法及び評価方法は、以下の通りである。
【0055】
〔プレポリマー(A)のイソシアネート基当量(NCO当量)の測定方法〕
プレポリマー(A)のNCO当量の測定は、JIS K 7301に準拠して、試料を乾燥トルエンに溶解し、過剰のジ(n−ブチル)アミン溶液を加えて反応させ、残存するジ(n−ブチル)アミンを塩酸標準溶液で逆滴定して求めた。
【0056】
〔数平均分子量の測定方法〕
数平均分子量(Mn)は、滴定法により測定した酸価と水酸基価を基に、下記の計算式により算出した値である。
数平均分子量=56100×2/(酸価+水酸基価)
【0057】
〔評価用シートの作成〕
80℃に加温した所定量のプレポリマー(A)と、120℃に加温した所定量の反応性化合物(B)とを1分間充分に攪拌混合した。
次いで得られた混合物を110℃に加熱したスペーサー2mmのガラス型(300mm×300mm)に150g注入し、直ちに110℃ガラス型で2時間放置し、その後に成形品を取り出し、アフターキュア(110℃にて14時間)を行ない、評価用シートを得た。
【0058】
〔硬度(JIS A)の測定方法〕
JIS K 7215(プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法)に規定するタイプAデュロメータで、評価用シートの硬度(JIS A)を測定した。
【0059】
〔引張物性の測定方法〕
JIS K 7311に準拠して、評価用シートの引張物性を測定した。
【0060】
〔耐摩耗性の測定方法と評価基準〕
JIS K 7312−1996(テーバー磨耗試験)に準拠して、ウレタンエラストマーを用いた成形物を荷重1kg、1000回転でテーバー磨耗試験装置(東洋精機製作所製、ロータリーアブレージョンテスタ)により磨耗減量(mg)を測定した。耐摩耗性の評価基準は下記の通りである。
○:摩耗減量が110mg以下の場合、耐摩耗性に優れる。
×:摩耗減量が110mgを超える場合、耐摩耗性に劣る。
【0061】
〔耐水性の測定方法と評価基準〕
上記の方法で作成した評価用シートを80℃の熱水中に1週間浸漬後、JIS K 7311に準拠して、耐水試験後の評価用シートの引張力保持率を測定した。耐水性の評価基準は下記の通りである。
○:引張力保持率が50%以上の場合、耐水性に優れる。
×:引張力保持率が50%未満の場合、耐水性に劣る。
【0062】
〔合成例1〕
≪ポリエステルポリオール(a2−1−1)の合成≫
5リットル4ッ口フラスコに、エチレングリコール(以下EG)226.6部、1,2−プロピレングリコール(以下1,2PG)119.1部、セバシン酸(以下SebA)812.1部、及びテトライソプロピルチタネート(以下TiPT)0.029部を仕込み、窒素導入管より窒素気流下、内温220℃で反応を行なった。
18時間反応後、酸価0.24、水酸基価110.6、数平均分子量(Mn)1012の常温白色固体のポリエステルポリオール(a2−1−1)を得た。
【0063】
〔合成例2〕
≪ポリエステルポリオール(a2−1−2)の合成≫
5リットル4ッ口フラスコに、EGを251.5部、1,2PGを132.1部、SebAを461.8部、アジピン酸(以下AA)333.7部、及びTiPTを0.030部仕込み、窒素導入管より窒素気流下、内温220℃で反応を行なった。
18時間反応後、酸価0.30、水酸基価112.0、Mn999の常温白色固体のポリエステルポリオール(a2−1−2)を得た。
【0064】
〔合成例3〕
≪ポリエステルポリオール(a2−1−3)の合成≫
5リットル4ッ口フラスコに、EGを282.2部、1,2PGを148.2部、AAを773.6部、及びTiPTを0.030部仕込み、窒素導入管より窒素気流下、内温220℃で反応を行なった。
18時間反応後、酸価0.35、水酸基価113.6、Mn985の常温白色固体のポリエステルポリオール(a2−1−3)を得た。
【0065】
〔合成例4〕
≪ポリエステルポリオール(a2−1−4)の合成≫
5リットル4ッ口フラスコに、EGを257.4部、1,2PGを135.2部、SebAを379.8部、AAを411.7部、及びTiPTを0.030部仕込み、窒素導入管より窒素気流下、内温220℃で反応を行なった。
18時間反応後、酸価0.20、水酸基価112.0、Mn1000の常温白色固体のポリエステルポリオール(a2−1−4)を得た。
【0066】
〔合成例5〕
≪イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A−1)の合成≫
2リットル4ッ口フラスコに、合成例1で得たポリエステルポリオール(a2−1−1)を1000.0部、及びポリイソシアネート(a1)としてTDI−80(商標:コスモネートT−80、三井化学株式会社製、2,4−トリレンジイソシアネート/2,6−トリレンジイソシアネート=80/20質量比の混合物)を326.9部仕込み(NCO/OH=1.90当量比に設定)、窒素導入管より窒素気流下、内温80℃で12時間反応を行い、NCO基当量761のプレポリマー(A−1)を得た。
【0067】
〔合成例6〕
≪イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A−2)の合成≫
2リットル4ッ口フラスコに、合成例1で得たポリエステルポリオール(a2−1−1)を1000.0部、及びポリイソシアネート(a1)としてTDI−80を309.7部仕込み(NCO/OH=1.80当量比に設定)、窒素導入管より窒素気流下、内温80℃で12時間反応を行い、NCO基当量841のプレポリマー(A−2)を得た。
【0068】
〔合成例7〕
≪イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A−3)の合成≫
2リットル4ッ口フラスコに、合成例2で得たポリエステルポリオール(a2−1−2)を1000.0部、及びポリイソシアネート(a1)としてTDI−80を313.8部仕込み(NCO/OH=1.80当量比に設定)、窒素導入管より窒素気流下、内温80℃で12時間反応を行い、NCO基当量821のプレポリマー(A−3)を得た。
【0069】
〔合成例8〕
≪イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A−4)の合成≫
2リットル4ッ口フラスコに、合成例3で得たポリエステルポリオール(a2−1−3)を1000.0部、及びポリイソシアネート(a1)としてTDI−80を336.1部仕込み(NCO/OH=1.90当量比に設定)、窒素導入管より窒素気流下、内温80℃で12時間反応を行い、NCO基当量724のプレポリマー(A−4)を得た。
【0070】
〔合成例9〕
≪イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A−5)の合成≫
2リットル4ッ口フラスコに、合成例3で得たポリエステルポリオール(a2−1−3)を1000.0部、及びポリイソシアネート(a1)としてTDI−80を318.4部仕込み(NCO/OH=1.80当量比に設定)、窒素導入管より窒素気流下、内温80℃で12時間反応を行い、NCO基当量841のプレポリマー(A−5)を得た。
【0071】
〔合成例10〕
≪イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A−6)の合成≫
2リットル4ッ口フラスコに、合成例4で得たポリエステルポリオール(a2−1−4)を1000.0部、及びポリイソシアネート(a1)としてTDI−80を313.5部仕込み(NCO/OH=1.80当量比に設定)、窒素導入管より窒素気流下、内温80℃で12時間反応を行い、NCO基当量822のプレポリマー(A−6)を得た。
【0072】
〔合成例11〕
≪イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A−7)の合成≫
2リットル4ッ口フラスコに、合成例1で得たポリエステルポリオール(a2−1−1)を1000.0部、及びポリイソシアネート(a1)としてMDIを444.5部仕込み(NCO/OH=1.80当量比に設定)、窒素導入管より窒素気流下、内温80℃で12時間反応を行い、NCO基当量915のプレポリマー(A−7)を得た。
【0073】
〔実施例1〕
合成例5で得たプレポリマー(A−1)を100.0部と、反応性化合物(B)として3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MBOCA)15.8部を配合して充分に攪拌混合し、本発明の2液型ポリウレタンエラストマー組成物(X−1)を得た。
次いで、前記組成物(X−1)を110℃に加熱したスペーサー2mmのガラス型(300mm×300mm)に150g注入し、直ちに110℃ガラス型で2時間放置し、その後に成形品を取り出し、アフターキュア(110℃、14時間)を行い、本発明の成形品(P−1)を作成した。
本発明の成形品(P−1)は、厚さ2mmで表面平坦性の良好なシートであり、第1表に示した如く、優れた性能を有していた。
【0074】
〔実施例2〕
合成例6で得たプレポリマー(A−2)を100.0部と、反応性化合物(B)としてMBOCAを14.3部配合して充分に攪拌混合し、本発明の2液型ポリウレタンエラストマー組成物(X−2)を得た。
次いで、前記組成物(X−2)を用いて、実施例1と同様の操作条件にてアフターキュアを行い、本発明の成形品(P−2)を作成した。
本発明の成形品(P−2)は、厚さ2mmで表面平坦性の良好なシートであり、第1表に示した如く、優れた性能を有していた。
【0075】
〔実施例3〕
合成例7で得たプレポリマー(A−3)を100.0部と、反応性化合物(B)としてMBOCAを14.6部配合して充分に攪拌混合し、本発明の2液型ポリウレタンエラストマー組成物(X−3)を得た。
次いで、前記組成物(X−3)を用いて、実施例1と同様の操作条件にてアフターキュアを行い、本発明の成形品(P−3)を作成した。
本発明の成形品(P−3)は、厚さ2mmで表面平坦性の良好なシートであり、第1表に示した如く、優れた性能を有していた。
【0076】
〔比較例1〕
合成例8で得たプレポリマー(A−4)を100.0部と、反応性化合物(B)としてMBOCAを16.6部配合して充分に攪拌混合し、ポリウレタンエラストマー組成物(X−4)を得た。
次いで、前記組成物(X−4)を用いて、実施例1と同様の操作条件にてアフターキュアを行い、成形品(P−4)を作成した。
前記成形品(P−4)は、厚さ2mmで表面平坦性は良好なシートであったが、第2表に示した如く、耐磨耗性及び耐水性に劣っていた。
【0077】
〔比較例2〕
合成例9で得たプレポリマー(A−5)を100.0部と、反応性化合物(B)としてMBOCAを14.3部配合して充分に攪拌混合し、2液型ポリウレタンエラストマー組成物(X−5)を得た。
次いで、前記組成物(X−5)を用いて、実施例1と同様の操作条件にてアフターキュアを行い、成形品(P−5)を作成した。
前記成形品(P−5)は、厚さ2mmで表面平坦性は良好なシートであったが、第2表に示した如く、耐磨耗性及び耐水性に劣っていた。
【0078】
〔比較例3〕
合成例10で得たプレポリマー(A−6)を100.0部と、反応性化合物(B)としてMBOCAを14.6部配合して充分に攪拌混合し、2液型ポリウレタンエラストマー組成物(X−6)を得た。
次いで、前記組成物(X−6)を用いて、実施例1と同様の操作条件にてアフターキュアを行い、成形品(P−6)を作成した。
前記成形品(P−6)は、厚さ2mmで表面平坦性は良好なシートであったが、第2表に示した如く、耐磨耗性及び耐水性に劣っていた。
【0079】
〔比較例4〕
合成例11で得たプレポリマー(A−7)を100.0部と、反応性化合物(B)としてMBOCAを13.1部配合して充分に攪拌混合し、2液型ポリウレタンエラストマー組成物(X−7)を得た。しかし、前記組成物(X−7)は、攪拌混合中に硬化したため、ガラス型に注入できず、成形品であるシートを得ることができなかった。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
表中の略号は、下記の化合物名を意味する。
EG :エチレングリコール
1,2PG :1,2−プロピレングリコール
SebA :セバシン酸
AA :アジピン酸
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の2液型ポリウレタンエラストマー組成物は、耐水性、耐磨耗性、機械的強度などの優れた性能を発現できるので、例えば、ローラー、カム、ギア、歯車、コネクタ、キャスター、ベルト、研磨パッド、シャーシ、軸受け、磁気テープガイド、ポンプユニット、医療機器バルブ、スライド部品などの工業用部材や産業機械用部品、摺動部品、自動車部品、電気・電子部品など多様な成形品に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(A)を含有する主剤と、イソシアネート基反応性化合物(B)を含有する硬化剤からなる2液型ポリウレタンエラストマー組成物であって、前記プレポリマー(A)がポリイソシアネート(a1)とポリオール(a2)とから得られ、前記ポリイソシアネート(a1)としてトリレンジイソシアネートを含有し、前記ポリオール(a2)を構成する二塩基酸成分中にセバシン酸を50〜100モル%使用するポリエステルポリオール(a2−1)を含有し、且つ前記イソシアネート基反応性化合物(B)が3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタンであることを特徴とする2液型ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項2】
前記ポリオール(a2)が、前記ポリエステルポリオール(a2−1)を80〜100モル%含有するポリオールである請求項1記載の2液型ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項3】
前記ポリエステルポリオール(a2−1)を構成する二塩基酸成分が、セバシン酸を50〜100モル%含むものである請求項1記載の2液型ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項4】
前記ポリオール(a2)の数平均分子量が、600〜3000の範囲である請求項1記載の2液型ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項5】
前記プレポリマー(A)において、ポリイソシアネート(a1)のイソシアネート基当量と前記ポリオール(a2)の水酸基当量との比〔即ちNCO/OH当量比〕が、1.5〜2.2の範囲である請求項1記載の2液型ポリウレタンエラストマー組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の2液型ポリウレタンエラストマー組成物を用いて得られることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2012−246335(P2012−246335A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116876(P2011−116876)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】