説明

2液型増粘塗料剥離剤、および該2液型増粘塗料剥離剤を用いた塗膜剥離方法。

【課題】剥離剤成分として環境破壊の原因となる溶剤などの成分を使用することなく、また剥離処理に際し、浸漬槽などの設備を必要とせず、しかも取扱が容易な2液型塗料用剥離液を提供すること。
【解決手段】剥離成分として無機アルカリまたは有機アルカリを使用するとともに、増粘成分としてエマルジョン化した酸型アクリル系ポリマーを使用し、塗料剥離処理にあたり両成分を混合し、中和反応を行うことによりゲル状増粘塗料剥離剤を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘度液体増粘成分と塗料剥離成分を任意の割合で混合して得られる2液型増粘塗料剥離剤、およびこの2液型増粘塗料剥離剤を用いた塗膜剥離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な工業製品に使用される塗装は、塗装されるべき以外の部分に塗料がかからないように治具などを用いて防止しているが、塗装不必要の部分にも塗料がはねることがあり、製品の見栄えを損なうことがある。また、前記の治具にも塗料が付着し、最終的には塗料を剥離する必要がある。
【0003】
従来、これらの塗料を除去するためには、トリクロロエチレンなどに代表されるハロゲン系炭化水素を洗浄剤として用いる方法や、シンナー、トルエンなどの溶剤を用いて塗装を剥離、溶解する方法、有機アルカリや無機アルカリを煮沸して剥離する方法、さらに洗浄剤などを使用する際、超音波を照射して剥離を促進する方法が知られている。
【0004】
しかしながら、上述した従来方法では、次に挙げるような技術的課題が存在した。
すなわち、ハロゲン系炭化水素は、不燃性であり、かつ塗料の溶解性にも優れているが、オゾン層破壊や、地下水汚染などの環境問題を有するため、使用が控えられる傾向にあり、シンナーやトルエンなどの溶剤を使用して付着している塗料を溶解する方法では、洗浄後に塗料が残存してしまうケースが多く発生し、塗料の剥離に必ずしも適した方法とはいえないだけでなく、大気中への拡散性が高くしかも引火点が低いため、防爆を考慮した設備を必要とした。
【0005】
また、有機溶剤に界面活性剤や水分を加えて剥離する方法では、水分の蒸発により引火点が発生する可能性があるので液管理が難しく、剥離性能も制限される。
【0006】
さらに、上述した剥離液を用いて洗浄する場合には、浸漬槽などの新たな設備投資が必要となってくる。
【0007】
浸漬槽などの設備を必要とせず、剥離液を垂直表面に対しても適用できるように、剥離液に、セルロース誘導体、キサンタンガム、グアーガム、カロブガム、アルギン酸塩、ポリアクリレート、デンプン、変性デンプン及び変性クレーのような増粘剤を含有させることが提案された(特許文献1、2)。
【0008】
しかしながら、ここで使用される増粘剤は固形及び粉末であり、使用時に剥離液に均一に混合することは容易ではなく、また、予め剥離液に増粘剤を混合しておくと、剥離液の粘性が高くなって取扱が難しくなるといった問題があった。
【特許文献1】特開2002-501104号公報
【特許文献2】特開平11-148032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、剥離剤成分として環境破壊の原因となる溶剤などの成分を使用することなく、また剥離処理に際し、浸漬槽などの設備を必要とせず、しかも取扱が容易な2液型塗料用剥離液を提供することである。
【0010】
さらに、本発明の目的は、多くの塗料に対して適合性が高く、優れた剥離性能を有する、ゲル状タイプの剥離剤を提供すること、及び該剥離剤を使用した剥離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、剥離成分として無機アルカリまたは有機アルカリを使用するとともに、増粘成分としてエマルジョン化した酸型アクリル系ポリマーを使用し、塗料剥離処理にあたり両成分を混合し、中和反応を行うことによりゲル状増粘塗料剥離剤を作成すれば、両成分は粘度の低い液体なので取扱が容易であり、しかも容易に混合できるので、均一なゲル状増粘塗料剥離剤を容易に調製することが可能であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0012】
さらに、上記のようにして得られたゲル状増粘塗料剥離剤は、剥離すべき塗装面にウエス・ハケ等を用いて塗布することができ、塗布されたゲル状増粘塗料剥離剤は、その高粘性によって長時間塗装面と密着するので、加熱を併用することにより、強固な塗膜も膨潤させることができ、膨潤した塗膜はブラシなどで容易に塗装面から除去することができる。
【0013】
すなわち、本発明は次のような態様からなる。
(1)酸型アクリル系ポリマーを0.1重量%から30重量%、1価及び2価のアルコール系溶剤を0.1重量%から60重量%含む低粘度液状増粘成分、及び無機アルカリ又は有機アルカリを1重量%から90重量%、1価及び2価のアルコール系溶剤を0.1重量%から90重量%、及び界面活性剤を0.1重量%から10重量%含む剥離剤成分、を非混合状態で容器に収納してなる2液型増粘塗料剥離剤。
(2)(1)の低粘度液体増粘成分及び剥離剤成分を混合して得られるゲル状増粘塗料剥離剤。
(3)塗装面に、(2)のゲル状増粘塗料剥離剤を塗布し20℃から200℃の温度に加熱することを特徴とする塗装面の塗料を剥離する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の2液型塗料剥離剤は、剥離成分として人体及び環境に負荷を与えやすい有機溶剤を使用しないので安全であり、使用直前までは粘度の低い液体なので取扱が容易である。
また、2液型なので、両成分の配合比率を変えることにより、ゲル状増粘塗料剥離剤の粘度を調整することが可能であり、粘度を調整することにより、垂直な塗装面にも剥離剤を適用でき、長時間にわたり塗装面に剥離剤を接触させることができるので、別途浸透槽などを用意する必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の低粘度液体増粘成分の主成分である酸型アクリル系ポリマーとしては、ロームアンドハース社製プライマルASE−60が例示される。
【0016】
酸型アクリル系ポリマーの配合量は、0.1重量%から30重量%とする必要があり、1重量%から10重量%の範囲とするのが好ましい。
【0017】
酸型アクリル系ポリマーの配合量が0.1重量%未満では、酸型アクリル系ポリマーの量が少ないため、剥離成分が増粘しないという問題が生じ、30重量%を超えると増粘成分の凝集・相分離という問題が生じる。
【0018】
本発明の剥離剤成分の主成分である無機アルカリとしては、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、第三リン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、リン酸三カリウム、オルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが例示でき、有機アルカリとしては、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、2−(ジメチルアミノ)エタノール、2−(ジエチルアミノ)エタノール、トリイソプロパノールアミン、イソプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロオキシド(TMAH)、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウムが例示でき、これらを一種又は二種以上を混合して使用する。
【0019】
無機アルカリ又は有機アルカリの配合量は、1重量%から90重量%とする必要があり、5重量%から40重量%の範囲とすることが好ましい。
【0020】
無機アルカリ又は有機アルカリの配合量が1重量%未満では、酸型アクリル系ポリマーの未中和という問題が生じ、90重量%を超えると増粘せずにゲル化しないという問題が生じる。
【0021】
低粘度液体増粘成分及び剥離剤成分中の1価又は2価のアルコール系溶剤は、剥離する部分の塗装面に浸透し、塗膜の膨潤を行うために配合されるものであり、具体的には、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ヘキシレングリコール、ペンタメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、1,2−ブチレングリコール、ベンジルアルコール等が例示でき、これらの1種又は2種以上の混合液を使用する。
【0022】
低粘度液体増粘成分中の1価又は2価のアルコール系溶剤の配合量は、0.1重量%から60重量%とする必要があり、5重量%から50重量%の範囲とすることが好ましく、1価又は2価のアルコール系溶剤の配合量が0.1重量%未満では、剥離剤成分と混合した際に溶剤量が少なく、剥離不良を生じるという問題が生じ、60重量%を超えると溶剤の成分によっては、酸型アクリル系ポリマーが凝集しやすくなるという問題が生じる。
【0023】
剥離剤成分中の1価又は2価のアルコール系溶剤の配合量は、0.1重量%から90重量%とする必要があり、5重量%から50重量%の範囲とすることが好ましく、1価又は2価のアルコール系溶剤の配合量が0.1重量%未満では、溶剤量が少ないため、剥離不良が生じるという問題が生じ、90重量%を超えると引火点が発生し消防法危険物になる可能性があるという問題が生じる。
【0024】
剥離剤成分に配合される界面活性剤は、塗装表面に塗布した際の濡れ性向上のために配合されるものであり、具体的には、アルカンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、アルキルアミンオキシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が例示でき、これらの1種又は2種以上を混合して使用する。
【0025】
剥離剤成分中の界面活性剤の配合量は、0.1重量%から10重量%とする必要があり、0.5重量%から5重量%の範囲とすることが好ましく、界面活性剤の配合量が0.1重量%未満では、塗装面に混合成分を塗布した際にはじきが生じやすくなるという問題が生じ、10重量%を超えると界面活性剤の種類にもよるが剥離を行った際に界面活性剤が残留しやすくなるという問題が生じる。
【0026】
本発明において、低粘度液体増粘成分及び剥離剤成分は、使用直前に混合することが好ましい。そのため、各成分は別個の容器に充填するか、容器内が区切られ両成分が非混合の状態で収納できる容器に充填する必要がある。
【0027】
本発明において、低粘度液体増粘成分及び剥離剤成分の配合比は、各成分の組成にもよるが、1:1から1:5の範囲(あるいは、混合液のpHが7から13の範囲となるような配合比)が好ましい。配合比が1:1未満では、剥離剤成分の濃度が小さくなり、所期の剥離効果が得られず、1:5を超えると、粘度が低くなり、垂直面での剥離効果が発揮出来なくなるばかりか成分中の溶剤の乾燥性が早くなり剥離力が低下する可能性がある。
【0028】
これらの成分を混合するには、一方の成分を他の成分中に添加しながら混合しても、両成分の所定量を別の容器内で混合しても、いずれでも良い。
【0029】
本発明の低粘度液体増粘成分及び剥離剤成分を混合して得られるゲル状増粘塗料剥離剤を、剥離すべき塗装面に適用するには、ウエス・ハケやローラなどの公知の塗布手段を使用することができる。
【0030】
また、剥離すべきでない塗装面が剥離すべき塗装面と隣接している場合には、剥離すべきでない塗装面を保護するためマスキング治具を使用することが好ましいが、本発明のゲル状増粘塗料剥離剤は、高粘性で保形性に優れているので、正確に剥離すべき塗装面のみに剥離剤を適用することができれば、マスキングを省略することも可能である。
【0031】
本発明の塗装面の塗料を剥離する方法では、本発明のゲル状増粘塗料剥離剤を塗装面に塗布した後、該塗装面を20〜200℃、好ましくは40〜100℃に加温する必要がある。
【0032】
本発明のゲル状増粘塗料剥離剤を塗布した塗装面を加熱する方法は、公知の加熱手段を用いることができるが、剥離成分中に含まれる溶剤などの点から火気を使用しないオーブンでの加熱や温風での加熱が好ましい。
【0033】
塗装面の剥離に要する時間は、塗料の性状及び温度によって異なるが、少なくとも10分以上、好ましくは30分以上である。
【0034】
本発明のゲル状増粘塗料剥離剤を塗装面に塗布し、所定温度で所定時間経過すると、塗膜は十分膨張し、ブラシなどで簡単に除去することができる。膨張した塗装膜を除去するには、ジェット噴水やサンドブラストを利用することもできる。
【実施例1】
【0035】
以下の組成からなる剥離成分を調製した。
モノエタノールアミン:18重量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル:20重量%
ベンジルアルコール:30重量%
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩:1重量%
水:残部
以下の組成からなる増粘成分を調製した。
プライマルASE−60(ロームアント゛ハース社製):40重量%
プロピレングリコールモノメチルエーテル:20重量%
スラオフ620(日本エンハ゛イロケミカル社製防腐剤):0.1重量%
水:残部
【0036】
上記の調製した剥離成分と増粘成分を1:1の配合液を羽根付きタイプの攪拌機(スリーワンモーター)を用いて撹拌したところ、中和反応を起こし、pH:約11、粘度約4000mPa・sのゲル状となった。
【0037】
得られたゲル状増粘度塗料剥離剤を、メッキ処理済み鉄製テストピース(7.0×15.0cm、日本ペイント製アンダーコート用塗料使用)の塗装面に、2.0×2.0cmの面積に約0.1g/cm2塗布し、40℃、50℃、60℃の加熱条件で、10分、20分、30分間放置したときの塗装面の剥離状況を調べた。
なお、剥離面の評価は以下のように行なった。
(1)膨潤した塗装面をブラシで除去し、剥離面積を測定する。
(2)以下の式から剥離除去率を求め、剥離除去率99%以上を優良「◎」、90%以上99%未満を良「○」、90%未満を劣「×」とした。
剥離除去率[%]=(剥離面積/剥離剤塗布面積)×100
(3)剥離断面を目視して、境界線に乱れがない場合を「断面良好」とし、境界線に乱れが見られる場合を「断面劣る」とした。
これらの評価結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表の結果が示すように、60℃の加熱条件では、剥離除去率及び剥離断面形状がともに優れていたが、40℃の加熱条件では、剥離除去率は「良」であったが剥離断面形状は劣っていた。
【実施例2】
【0040】
以下の組成からなる剥離成分を調整した。
モノイソプロパノールアミン:25重量%
ジエチレングリコールモノエチルエーテル:25重量%
ベンジルアルコール:30重量%
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩:1重量%
水:残部
【0041】
実施例1と同様の増粘成分を用い、剥離成分と増粘成分を3:1の割合で羽根付攪拌機(スリーワンモーター)を用いて混合した。混合したことにより中和反応を起こし、pH:約11.5、粘度約3500mPa・sとなった。
実施例1と同様の方法で剥離テストを行った。その評価結果を表2に示す。
【0042】

【表2】

【0043】
表2の結果が示すように60℃、10分間放置した場合の剥離除去率は「良」であったが、それ以外の性能は、実施例1の剥離除去率及び剥離断面形状とほぼ同性能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸型アクリル系ポリマーを0.1重量%から30重量%、1価及び2価のアルコール系溶剤を0.1重量%から60重量%含む低粘度液体増粘成分、及び無機アルカリ又は有機アルカリを1重量%から90重量%、1価及び2価のアルコール系溶剤を0.1重量%から90重量%、及び界面活性剤を0.1重量%から10重量%含む剥離剤成分、を非混合状態で容器に収納してなる2液型増粘塗料剥離剤。
【請求項2】
請求項1の低粘度液体増粘成分及び剥離剤成分を混合して得られるゲル状増粘塗料剥離剤。
【請求項3】
塗装面に、請求項2のゲル状増粘塗料剥離剤を塗布し20℃から200℃の温度に加熱することを特徴とする塗装面の塗料を剥離する方法。

【公開番号】特開2009−102523(P2009−102523A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275877(P2007−275877)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(592007612)横浜油脂工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】