説明

2液型表面改質剤

【課題】親水性、疎水性、親油性、撥油性などの所望の性質を基材表面に有する表面改質基材およびその製造方法、ならびに当該表面改質基材の製造方法に好適に使用することができる2液型表面改質剤を提供すること。
【解決手段】チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物を含有するI液と、(メタ)アクリル系化合物を含有するII液とからなる2液型表面改質剤、およびチオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物を含有するI液を基材に塗布した後、(メタ)アクリル系化合物を含有するII液を塗布し、チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物と(メタ)アクリル系化合物とを反応させることを特徴とする表面改質基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2液型表面改質剤に関する。さらに詳しくは、親水性、疎水性、親油性、撥油性などの所望の性質を基材表面に有する表面改質基材およびその製造方法、ならびに当該表面改質基材の製造方法に好適に使用することができる2液型表面改質剤に関する。本発明の表面改質基材は、例えば、医療用材料、生体適合性材料、光学材料、樹脂フィルム、樹脂シートなどの幅広い用途での使用が期待されるものである。
【背景技術】
【0002】
親水性を有する基材に求められる表面特性として、防曇性、帯電防止性、防汚性などが知られている。これらの表面特性は、一般に基材に親水性を付与することによって与えられている。
【0003】
疎水性の樹脂基材の表面に容易に固着させることができる親水性層として、親水性シリカと酸化チタンとの混合物をフィルム基材に塗布し、乾燥させることによって得られた親水性層が提案されており、この親水性層は、プラスチック成形物の表面に転写させることによってプラスチック成形物の表面で利用されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、プラスチック成形物に用いられている樹脂基材が可撓性を有する場合、外的応力を受けたときに親水性層が割れたり、剥がれ落ちたりするおそれがある。
【0004】
また、基材表面に防曇性を付与するために基材表面に界面活性剤を塗布することは、従来から広く行なわれているが(例えば、特許文献2および特許文献3参照)、基材表面に水分が付着したとき、界面活性剤が水分に溶解して基材表面から離脱するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−231890号公報
【特許文献2】特開平02−16185号公報
【特許文献3】特開2003−238207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、親水性、疎水性、親油性、撥油性などの所望の性質を基材表面に有する表面改質基材およびその製造方法、ならびに当該表面改質基材の製造方法に好適に使用することができる2液型表面改質剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
〔1〕 チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物を含有するI液と、(メタ)アクリル系化合物を含有するII液とからなる2液型表面改質剤、
〔2〕 チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物が、式(I):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R1、R2およびR3のうちの少なくとも1つの基は炭素数1〜4のアルコキシ基、R4は炭素数1〜12のアルキレン基を示す)
で表わされるアルコキシシリル基含有化合物である前記〔1〕に記載の2液型表面改質剤、
〔3〕 (メタ)アクリル系化合物が、式(II):
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R5は水素原子またはメチル基、R6は水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を示す)
で表わされる(メタ)アクリル化合物または式(III):
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、R5は水素原子またはメチル基、R7およびR8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を示す)
で表わされる(メタ)アクリルアミド化合物である前記〔1〕または〔2〕に記載の2液型表面改質剤、
〔4〕 チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物を含有するI液を基材に塗布した後、(メタ)アクリル系化合物を含有するII液を塗布し、チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物と(メタ)アクリル系化合物とを反応させることを特徴とする表面改質基材の製造方法、
〔5〕 チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物が、式(I):
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R1、R2およびR3のうちの少なくとも1つの基は炭素数1〜4のアルコキシ基、R4は炭素数1〜12のアルキレン基を示す)
で表わされるアルコキシシリル基含有化合物である前記〔4〕に記載の表面改質基材の製造方法、
〔6〕 (メタ)アクリル系化合物が、式(II):
【0016】
【化5】

【0017】
(式中、R5は水素原子またはメチル基、R6は水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を示す)
で表わされる(メタ)アクリル化合物または式(III):
【0018】
【化6】

【0019】
(式中、R5は水素原子またはメチル基、R7およびR8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を示す)
で表わされる(メタ)アクリルアミド化合物である前記〔4〕または〔5〕に記載の表面改質基材の製造方法、ならびに
〔7〕 前記〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載の表面改質基材の製造方法によって得られた表面改質基材
に関する。
【0020】
また、本発明の2液型表面改質剤は、チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物を含有するI液を基材に塗布した後、(メタ)アクリル系化合物を含有するII液を塗布し、チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物と(メタ)アクリル系化合物とを反応させることにより、基材の表面を改質させる基材表面の改質方法にも利用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、親水性、疎水性、親油性、撥油性などの所望の性質を基材表面に有する表面改質基材およびその製造方法、ならびに当該表面改質基材の製造方法に好適に使用することができる2液型表面改質剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の表面改質基材の製造方法は、前記したように、チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物を含有するI液を基材に塗布した後、(メタ)アクリル系化合物を含有するII液を塗布し、チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物と(メタ)アクリル系化合物とを反応させることを特徴とする。なお、本明細書において、「(メタ)アクリ」は、「アクリ」または「メタクリ」を意味する。
【0023】
また、本発明の2液型表面改質剤は、前記したように、チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物を含有するI液と、(メタ)アクリル系化合物を含有するII液とからなる。
【0024】
I液に用いられるチオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、式(I):
【0025】
【化7】

【0026】
(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R1、R2およびR3のうちの少なくとも1つの基は炭素数1〜4のアルコキシ基、R4は炭素数1〜12のアルキレン基を示す)
で表わされるアルコキシシリル基含有化合物などが挙げられる。
【0027】
式(I)で表わされるアルコキシシリル基含有化合物としては、例えば、1−チオプロピル−3−トリメトキシシラン、1−チオプロピル−3−トリエトキシシラン、1−チオプロピル−3−トリイソプロポキシシラン、1−チオプロピル−3−メチルジメトキシシラン、1−チオプロピル−3−メチルジエトキシシラン、1−チオプロピル−3−メチルジプロポキシシランなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのアルコキシシリル基含有化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物は、そのままの状態で用いることができるが、溶媒に溶解させた溶液として用いることもできる。
【0029】
チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物を溶媒に溶解させて用いる場合、チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物溶液におけるチオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物の濃度は、本発明の2液型表面改質剤が用いられる基材の種類や用途などによって異なるので一概には決定することができないが、本発明の2液型表面改質剤によって所望の性質を十分に基材に付与する観点およびI液を基材に塗布する際の塗工性を向上させる観点から、0.3〜10質量%程度であることが好ましい。
【0030】
チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物溶液に用いられる溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
なお、チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物には、反応速度を向上させる観点から、必要により、例えば、塩酸などの酸をチオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物のアルコキシシリル基の加水分解反応および脱水反応が促進するように添加してもよい。
【0032】
本発明の表面改質基材の製造方法においては、まず、チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物を含有するI液を基材に塗布する。
【0033】
I液に含まれているチオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物は、表面上に水酸基が存在している基材に対し、より強固に固定されることから、その表面に水酸基を有する基材を用いることが好ましい。
【0034】
基材の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロンに代表されるポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、尿素樹脂、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリスルホン、ポリカーボネート、ABS樹脂、AS樹脂、シリコーン樹脂、ガラス、セラミック、金属などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。表面上に水酸基が存在していない基材を用いる場合には、その表面上に水酸基が存在するように表面を改質させることが好ましい。なお、例えば、ガラスなどからなる基材のように、その表面に水酸基が十分に存在している場合には、その表面上に水酸基が存在するように表面を改質させなくてもよいことは言うまでもない。
【0035】
基材の形状は、特に限定されず、例えば、フィルム、シート、プレート、ロッド、所定形状に成形された成形体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0036】
I液を基材に塗布する方法としては、例えば、フローコート法、スプレーコート法、浸漬法、刷毛塗法、ロールコート法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0037】
I液を基材に塗布する際の雰囲気は、大気であればよく、また塗布する際の温度は、通常、常温であってもよく、加温であってもよい。I液を基材に塗布する際のI液の塗布量は、本発明の2液型表面改質剤が用いられる基材の種類や用途などによって異なるので一概には決定することができないため、その用途などに応じて適宜調整することが好ましい。
【0038】
I液を基材に塗布する量は、その基材の種類や用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、その基材の種類や用途などに応じて適宜決定することが好ましい。例えば、縦100mm、横100mm程度の大きさを有する基板にI液を塗布する量は、通常、1〜5mL程度である。
【0039】
I液を基材に塗布した後は、生産効率を高める観点から、当該基材を乾燥させることが好ましい。基材の乾燥は、例えば、基材に温風を吹き付け、基材を加熱することによって行なうことができるが、本発明は、かかる基材の乾燥方法によって限定されるものではない。基材を加熱するときの温度は、その基材の耐熱温度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、50〜150℃の範囲内から適切な温度が選ばれる。
【0040】
以上のようにして、I液を基材に塗布することにより、I液に含まれているチオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物を基材に固定することができる。
【0041】
なお、基材に存在している余剰のI液は、基材に固定されているチオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物とII液に含まれている(メタ)アクリル系化合物とを効率よく結合させる観点から、例えば、エタノールなどの溶媒を用いて除去することが好ましい。
【0042】
次に、I液が塗布された基材に、(メタ)アクリル系化合物を含有するII液を塗布することにより、チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物と(メタ)アクリル系化合物とを反応させる。
【0043】
(メタ)アクリル系化合物としては、例えば、式(II):
【0044】
【化8】

【0045】
(式中、R5は水素原子またはメチル基、R6は水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を示す)
で表わされる(メタ)アクリル化合物、式(III):
【0046】
【化9】

【0047】
(式中、R5は水素原子またはメチル基、R7およびR8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を示す)
で表わされる(メタ)アクリルアミド化合物などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル系化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
式(II)で表わされる(メタ)アクリル化合物において、R5は、水素原子またはメチル基である。R6は、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基である。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子などが挙げられる。1価の有機基としては、例えば、炭素数1〜4のアルコキシ基、水酸基などの置換基を有していてもよい炭素数1〜24のアルキル基、窒素原子、酸素原子、イオウ原子などのヘテロ原子を有していてもよい炭素数3〜12の脂環式炭化水素基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基を有していてもよい炭素数が1〜4のオキシアルキレン基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。R6は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシ基、水酸基を有していてもよい炭素数1〜24のアルキル基、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数3〜12の脂環式炭化水素基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシ基を有していてもよい炭素数が1〜4のオキシアルキレン基であることが好ましい。
【0049】
式(II)で表わされる(メタ)アクリル化合物の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シジクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチル−2−メチル−[1,3]−ジオキソラン−4−イル−メチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの(メタ)アクリル化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
式(III)で表わされる(メタ)アクリルアミド化合物において、R5は、水素原子またはメチル基である。R7およびR8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基である。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子などが挙げられる。1価の有機基としては、例えば、炭素数1〜4のアルコキシ基、水酸基などの置換基を有していてもよい炭素数1〜24のアルキル基、窒素原子、酸素原子、イオウ原子などのヘテロ原子を有していてもよい炭素数3〜12の脂環式炭化水素基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基を有していてもよい炭素数が1〜4のオキシアルキレン基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。R6は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシ基または水酸基を有していてもよい炭素数1〜24のアルキル基、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数3〜12の脂環式炭化水素基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基、または炭素数1〜4のアルコキシ基を有していてもよい炭素数が1〜4のオキシアルキレン基であることが好ましい。
【0051】
式(III)で表わされる(メタ)アクリルアミド化合物の具体例としては、例えば、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジアセトン(メタ)アクリルアミドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの(メタ)アクリルアミド化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
なお、本発明の目的が阻害されない範囲内であれば、(メタ)アクリル系化合物を他の化合物と併用してもよい。他の化合物としては、例えば、スチレン、α−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、スチレン、イタコン酸メチル、イタコン酸エチル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの他の重合性モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
(メタ)アクリル系化合物および必要により用いられる他の化合物は、溶媒に溶解させて用いることができる。
【0054】
溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、n−ヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒の量は、特に限定されないが、通常、(メタ)アクリル系化合物を溶媒に溶解させることによって得られる溶液における(メタ)アクリル系化合物の濃度が10〜80重量%程度となるように調整することが好ましい。
【0055】
(メタ)アクリル系化合物は、それ単独で用いてもよく、必要により、触媒と併用してもよい。触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、キノリンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの触媒のなかでは、塗工時における臭気が発生することを抑制する観点から、トリエチルアミンが好ましい。触媒の量は、特に限定されないが、反応速度を高める観点から、(メタ)アクリル系化合物100重量部あたり、1〜10重量部程度であることが好ましい。
【0056】
基材にII液を塗布する方法としては、例えば、フローコート法、スプレーコート法、浸漬法、刷毛塗法、ロールコート法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0057】
II液を基材に塗布する際の雰囲気は、大気であればよく、また塗布する際の温度は、通常、常温であってもよく、加温であってもよい。
【0058】
II液を基材に塗布する際のII液の塗布量は、その基材の種類や用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、その基材の種類や用途などに応じて適宜決定することが好ましい。例えば、縦100mm、横100mm程度の大きさを有する基板にII液を塗布する量は、通常、1〜5mL程度である。
【0059】
なお、浸漬法によってII液を基材に塗布する場合には、生産効率を高める観点から、II液の液温を30〜80℃程度に調整することが好ましい。また、基材をII液に浸漬する時間は、特に限定されないが、II液に含まれている(メタ)アクリル系化合物の重合速度を高める観点および生産効率を高める観点から、30〜120分間程度であることが好ましい。
【0060】
前記のようにしてII液を塗布したとき、I液の塗布によって基材に固定化されているチオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物のチオール基と(メタ)アクリル系化合物とが反応するので、基材に当該(メタ)アクリル系化合物が固定化される。これにより、(メタ)アクリル系化合物が有する性質を基材に付与することができる。
【0061】
II液に含まれている(メタ)アクリル系化合物の重合反応の終了後には、必要により、基材を洗浄し、乾燥させればよい。
【0062】
以上のようにして得られる本発明の表面改質基材の表面上に(メタ)アクリル系化合物が有する性質を付与することができるとともに、従来の界面活性剤を用いたときのように水分が付着したときに流失することを防止することができる。したがって、本発明の表面改質剤を基材に塗布する際に(メタ)アクリル系化合物の種類を適宜選択することにより、例えば、親水性、疎水性、撥油性、親油性などの所望の性質を表面改質基材に付与することができる。
【実施例】
【0063】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
実施例1〜18
100mL容のバイアル瓶に、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、商品名:KBM−803〕0.5gおよびエタノール99.5gを添加し、十分に攪拌することによって混合した。その後、このバイアル瓶内に0.1N塩酸0.025gを添加し、十分に攪拌することによって混合し、I液を調製した。
【0064】
一方、100mL容のバイアル瓶に、表1に示す(メタ)アクリル系化合物50.0gおよびトリエチルアミン2.5gを添加し、十分に攪拌することによって混合し、II液を調製した。
【0065】
以上のようにして、I液とII液とからなる2液型表面改質剤を調製した。次に、前記で得られたI液をガラスプレート(縦:100mm、横:100mm、厚さ:1mm)上にフローコートし、余剰のI液をエタノールで洗浄することによって除去した後、このガラスプレートを温風乾燥機内に入れ、120℃の温度で30分間温風乾燥を行なうことにより、チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物を基材に固定した。
【0066】
次に、あらかじめ60℃に加温しておいたII液中に前記基材を60分間浸漬した後、このII液から取り出し、過剰のII液をエタノールで除去し、エアガンで乾燥させることにより、表面改質基材を得た。
【0067】
実施例19〜24
実施例1において、II液で使用した(メタ)アクリル系化合物を表1に示すものに変更するとともに、その(メタ)アクリル系化合物の量を50.0gから25.0gに変更し、当該(メタ)アクリル系化合物をエタノール25.0gに溶解させたこと以外は、実施例1と同様にして2液型表面改質剤を調製した。その後、得られた2液型表面改質剤を用い、実施例1と同様にして表面改質基材を得た。
【0068】
比較例1
実施例1で用いられたのと同じ種類および大きさのガラスプレートを表面改質剤で改質せずに用いた。
【0069】
比較例2
実施例1で用いられたものと同じ種類および大きさのガラスプレート上に、界面活性剤として、
ラウリン酸ナトリウムの1%水溶液をフローコートした後、このガラスプレートを温風乾燥機内に入れ、120℃の温度で30分間温風乾燥を行なうことにより、表面改質基材を得た。
【0070】
実験例
各実施例で得られた表面改質基材、比較例1のガラスプレートおよび比較例2で得られた表面改質基材を用いて以下の物性を調べた。その結果を表1に示す。
【0071】
〔接触角〕
各実施例で得られた表面改質基材、比較例1のガラスプレートおよび比較例2で得られた表面改質基材に水滴を滴下し、接触角計〔エルマ(株)製〕を用いて水との接触角を25℃で測定した。
【0072】
〔耐熱水性〕
80℃に加温しておいた熱水中に、各実施例で得られた表面改質基材および比較例2で得られた表面改質基材を5時間浸漬した後、この熱水から表面改質基材を取り出し、表面改質剤に含まれている(メタ)アクリル系ポリマーが熱水中に溶出しているかどうかを水に対する接触角を測定することによって調べ、以下の評価基準に基づいて評価した。
【0073】
(評価基準)
○:耐熱水性試験前後の水に対する接触角の差の絶対値が10度未満
×:耐熱水性試験前後の水に対する接触角の差の絶対値が10度以上
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示された結果から、各実施例によれば、耐熱水性に優れ、種々の水との親和性を有する表面改質基材を製造することができることがわかる。
【0076】
したがって、本発明の2液型表面改質剤を用いれば、その(メタ)アクリル系化合物の種類を変更することにより、親水性、疎水性、親油性、撥油性などの所望の性質を基材に安定して付与することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の2液型表面改質剤は、ガラス、金属、有機化合物などの種々の材質からなる基材に塗布することにより、その表面に所望の性質を付与することができることから、先端医療器具、人工臓器などに用いられているシリコーン樹脂表面の親水化技術や、タンパク質、細胞などの付着防止技術に適用することが期待されるものである。
【0078】
また、本発明の表面改質基材は、自動車のガラス、鏡などの表面を容易に親水化させることができるので、鏡、太陽電池パネルのガラス面、住宅の窓ガラスなどに防曇性や自己クリーニング機能などを付与したり、液晶ディスプレイなどの帯電防止によるチリやホコリなどの付着防止などにも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物を含有するI液と、(メタ)アクリル系化合物を含有するII液とからなる2液型表面改質剤。
【請求項2】
チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物が、式(I):
【化1】

(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R1、R2およびR3のうちの少なくとも1つの基は炭素数1〜4のアルコキシ基、R4は炭素数1〜12のアルキレン基を示す)
で表わされるアルコキシシリル基含有化合物である請求項1に記載の2液型表面改質剤。
【請求項3】
(メタ)アクリル系化合物が、式(II):
【化2】

(式中、R5は水素原子またはメチル基、R6は水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を示す)
で表わされる(メタ)アクリル化合物または式(III):
【化3】

(式中、R5は水素原子またはメチル基、R7およびR8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を示す)
で表わされる(メタ)アクリルアミド化合物である請求項1または2に記載の2液型表面改質剤。
【請求項4】
チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物を含有するI液を基材に塗布した後、(メタ)アクリル系化合物を含有するII液を塗布し、チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物と(メタ)アクリル系化合物とを反応させることを特徴とする表面改質基材の製造方法。
【請求項5】
チオール基を有するアルコキシシリル基含有化合物が、式(I):
【化4】

(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であって、R1、R2およびR3のうちの少なくとも1つの基は炭素数1〜4のアルコキシ基、R4は炭素数1〜12のアルキレン基を示す)
で表わされるアルコキシシリル基含有化合物である請求項4に記載の表面改質基材の製造方法。
【請求項6】
(メタ)アクリル系化合物が、式(II):
【化5】

(式中、R5は水素原子またはメチル基、R6は水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を示す)
で表わされる(メタ)アクリル化合物または式(III):
【化6】

(式中、R5は水素原子またはメチル基、R7およびR8は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または1価の有機基を示す)
で表わされる(メタ)アクリルアミド化合物である請求項4または5に記載の表面改質基材の製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の表面改質基材の製造方法によって得られた表面改質基材。