説明

2種以上のタンパク質の表層提示用のタンパク質及びその利用

【課題】酵母などの真核微生物の表層において、2種以上のタンパク質を配置制御して保持させるためのタンパク質を提供する。
【解決手段】2種類以上の所望のタンパク質を真核微生物に表層提示させるためのタンパク質に、R. flavefacience由来のScaEコヘシンドメインを備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種以上のタンパク質の表層提示用のタンパク質及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有限である石油資源を代替するものとして、植物の光合成作用に由来するバイオマス資源への期待が高まってきており、バイオマスをエネルギーや各種材料に利用するための各種の試みがなされている。バイオマスを、エネルギー源やその他の原料として有効利用するためには、バイオマスを動物や微生物が容易に利用可能な炭素源に糖化することが必要である。
【0003】
典型的なバイオマスであるセルロースやヘミセルロースを利用するには、これらを糖化(分解)する優れたセルラーゼが必要である。セルラーゼは、エンドグルカナーゼ、エキソグルタミナーゼ、セロビオヒドロラーゼ及びβ−グルコシダーゼなど、セルロースに作用する複数種類の酵素の包括概念であり、これらが協働してセルロースを分解する。
【0004】
こうしたセルラーゼ源として、一部の細菌が生産するセルロソームが着目されている。セルロソームは、細菌の細胞表層に形成されるセルラーゼとそのセルラーゼが結合する骨格タンパク質(スキャホールディンタンパク質)との複合体である。スキャホールディンタンパク質は、コヘシンドメインを有するタンパク質である。セルロソームは、スキャホールディンタンパク質中のコヘシンドメインに結合するドッケリンドメインを介してセルラーゼが結合して構成されることが知られている。こうしたセルロソームによれば、細菌細胞表層に多種のセルラーゼを高密度でかつ大量に提供される。
【0005】
天然セルロソームを人工的に構築する試みもなされている(特許文献1)。また、コヘシンドメインとドッケリンドメインとの結合性を利用して、人工的なセルロソームを細胞外や細胞表層に構築しようとする試みがいくつかなされている。例えば、大腸菌で生産した各種コヘシンドメインとドッケリンドメインとの結合選択性が報告されている(非特許文献1)。また、Clostridium thermocellum、Ruminococcus flavefaciens、Clostridium cellulolyticumの各コヘシンドメインを連結した人工骨格タンパク質を酵母で生産して表層提示し、別途、酵母で生産したドッケリンドメインと各種セルラーゼとの融合タンパク質を、この人工骨格タンパク質上のドッケリンドメインに結合させたことが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−142260号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Haimovitz R et al., Proteomics. 2008 Mar;8(5):968-79.
【非特許文献2】Tsai SL et al., Appl Environ Microbiol., Nov. 2010, p.7514-7520
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、細胞表層においてセルロースを効率的に分解するためには、各種セルラーゼをその配置を制御して酵母などの真核微生物上に表層提示させて、効果的に複数種のセルラーゼが作用させるようにすることが望ましいと考えている。
【0009】
配置制御のためには、本来的にコヘシン−ドッケリン結合の選択性が高いことが要請される。すなわち、一つのコヘシン−ドッケリン結合を構成するドッケリンドメインが、他のコヘシン−ドッケリン結合を構成するコヘシンドメインに結合するという交差性が回避されるべきである。また、真核微生物の表層に提示する、複数のコヘシンドメインを一つのタンパク質上に配列した(連結した)状態において、コヘシンドメインへのドッケリンドメインの結合強度が高いことが要請される。すなわち、一つのコヘシン−ドッケリン結合が隣接するコヘシン−ドッケリン結合により阻害されることが回避されるべきである。
【0010】
本発明者らは、各種のセルロソーム生産菌に由来するコヘシンドメインについて結合選択性や結合強度について種々検討したところ、C. thermocellum、R. flavefacience、B. cellulosolvens及びA. fulgidusに由来するコヘシン−ドッケリン結合が好ましいという知見を得た。
【0011】
そして、さらに、高度な配置制御の観点から、複数のコヘシンドメインの連結時における結合強度等を確認したところ、コヘシンドメインによっては、コヘシン−ドッケリン結合によっては、結合力が低下したりすることがあることがわかった。すなわち、配置制御には、結合選択性と連結時においても結合強度が低下しないというコヘシンドメインを選択する必要があることがわかった。
【0012】
コヘシンドメインを表層提示させた酵母にドッケリンドメインを有する融合タンパク質を自己生産させる際には、複数の融合タンパク質の製造量をコントロールすることは困難である。そうすると、こうした融合タンパク質を自己生産させる場合には、用いるコヘシンドメインが高い結合力や結合選択性を有していないと、配置制御のほか量的制御も困難となってしまう。
【0013】
そこで、本明細書の開示は、酵母表層上で2以上のタンパク質を配置制御して表層提示するのに適した酵母表層提示用のタンパク質及びその利用を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、高度な配置制御に有効なコヘシン−ドッケリン結合に用いるコヘシンドメインを探索したところ、R. flavefacience由来のScaEコヘシンドメインが連結時のドッケリン結合力及び結合選択性に優れていることのほか、R. flavefacience由来のScaBコヘシンドメインが連結時のドッケリン結合力及び結合選択性に優れていることを見出した。さらに、本発明者らは、C. thermocellum由来のCipAコヘシンドメインが、連結時のドッケリン結合力及び結合選択性に優れていることを見出した。本開示によれば以下の手段が提供される。
【0015】
(1)2種類以上の所望のタンパク質を真核微生物に表層提示させるためのタンパク質であって、
R. flavefacienceのScaE由来コヘシンドメインを備える、タンパク質。
(2) 前記ScaE由来コヘシンドメインは、以下のアミノ酸配列から選択されるいずれかを有する、(1)記載のタンパク質。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ変異を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号1で表される塩基配列によってコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるアミノ酸配列であって、配列番号2で表されるアミノ配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(3) さらに、R. flavefacienceのScaB由来コヘシンドメインを備える、(1)又は(2)に記載のタンパク質。
(4) 前記ScaBコヘシンドメインは、以下のアミノ酸配列から選択されるいずれかを有する、(3)に記載のタンパク質。
(f)配列番号4で表されるアミノ酸配列
(g)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ変異を有し、配列番号4で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(h)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、配列番号4で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(i)配列番号3で表される塩基配列によってコードされるアミノ酸配列
(j)配列番号3で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるアミノ酸配列であって、配列番号4で表されるアミノ配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(5)さらに、C. thermocellumのCipA由来コヘシンドメインを備える、(1)〜(4)のいずれかに記載のタンパク質。
(6) 前記CipAコヘシンドメインは、以下のアミノ酸配列から選択されるいずれかを有する、(5)に記載のタンパク質。
(k)配列番号6で表されるアミノ酸配列
(l)配列番号6で表されるアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ変異を有し、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(m)配列番号6で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、配列番号6で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(n)配列番号5で表される塩基配列によってコードされるアミノ酸配列
(o)配列番号5で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるアミノ酸配列であって、配列番号6で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(7)前記CipAコヘシンドメインに対応するドッケリンドメインは、配列番号8で表されるアミノ酸配列を有する、(1)〜(6)のいずれかに記載のタンパク質。
(8)真核微生物であって、
(1)〜(7)のいずれかに記載のタンパク質を前記真核微生物の表層側に備える、真核微生物。
(9)前記タンパク質は、セルロース結合ドメインを含む、請求項8に記載の真核微生物。
(10)前記タンパク質を前記真核微生物内で自己生産するための外来性DNAを保持する、(8)又は(9)に記載の真核微生物。
(11)さらに、前記タンパク質を選択的に結合可能な結合ドメインを有して前記細胞の表層に配置される1又は2以上の第2の骨格タンパク質を備える、(8)〜(10)のいずれかに記載の真核微生物。
(12)2種類以上のタンパク質を細胞表層に保持する真核微生物であって、
(8)〜(11)のいずれかに記載の真核微生物の前記タンパク質上に、前記コヘシンドメインに選択的に結合するドッケリンドメインを有する2種類以上タンパク質を保持する、真核微生物。
(13)前記2種類以上のタンパク質を、前記真核微生物が分泌生産する、(12)に記載の真核微生物。
(14)前記2種類以上のタンパク質は、セルロースを分解する酵素群から選択される、(12)又は(13)に記載の真核微生物。
(15)前記タンパク質は、少なくともβ−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼからなる群から選択される2種以上を含む、(14)に記載の真核微生物。
(16)酵母である、(12)〜(15)のいずれかに記載の真核微生物。
(17)有用物質の生産方法であって、
(12)〜(16)のいずれかに記載の真核微生物の前記2種以上のタンパク質を利用して前記有用物質を生産する工程、を備える、生産方法。
(18)前記生産工程は、前記2種以上のタンパク質が、セルロースを分解する酵素群から選択され、前記2種以上のタンパク質を利用してセルロース含有材料を糖化し、発酵することを含む、(17)に記載の生産方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】pDL-ScaAcohAGA2ベクターとpDL-ScaEcohAGA2ベクターを示す図である。
【図2】pXU-GH44AdocベクターとpXU-ScaBdocベクターを示す図である。併せて48SDDdocベクターも示す。
【図3】pAI-HOR7p-AGA1ベクターを示す図である。
【図4】図4(a)は各コヘシンの酵母表層提示量を示す図であり、図4(b)は、各コヘシンを介したドッケリンの酵母表層提示量を示す図である。
【図5】コヘシン−ドッケリンの選択的結合性の評価結果を示す図である。
【図6】実施例4で作製したコヘシンタンパク質と当該コヘシンタンパク質によるドッケリンタンパク質の配置制御結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書の開示は、コヘシン−ドッケリン結合を利用してタンパク質を細胞表層提示するためのタンパク質及びその利用に関する。本明細書に開示されるタンパク質(以下、コヘシンタンパク質ともいう。)によれば、R. flavefacienceのScaE由来のコヘシンドメインを備えることができる。このコヘシンドメインは、R. flavefacienceのScaB由来のコヘシンドメインやC. thermocellumのCipA由来のコヘシンドメインと交差性なく選択特異性を維持してコヘシン−ドッケリン結合が可能であるとともに、連結時においても、コヘシン−ドッケリン結合の結合強度を維持することができる。このため、ScaE由来のコヘシンドメインは、真核微生物の細胞表層への2種以上のタンパク質の配置制御に好適に用いることができる。すなわち、当該コヘシンドメインを備える骨格タンパク質は、2種類以上のタンパク質の細胞表層配置制御に好適である。ScaE由来のコヘシンドメインと組み合わせて用いるのに好ましい他のコヘシンドメインは、R. flavefacienceのScaB由来のコヘシンドメインが挙げられる。さらにまた、他の好ましいコヘシンドメインとしては、C. thermocellumのCipA由来のコヘシンドメインが挙げられる。これらの他のコヘシンドメインは、相互に交差性なく、しかも、これらを組み合わせて一つのタンパク質に配置した際においても、結合強度を維持できるため、コヘシンタンパク質上での高度な配置制御が可能となっている。また、本明細書に開示されるタンパク質の表層提示用の真核微生物は、こうしたコヘシン−ドッケリン結合の選択性を利用して所望のタンパク質が配置制御されたものとなっている。さらに、こうした真核微生物を利用することで、有用物質を効率的に生産することができる。以下、本明細書の開示についての各種実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(コヘシンタンパク質)
本発明のコヘシンタンパク質は、2以上のコヘシンドメインを備えるタンパク質であって、少なくとも一つが、R. flavefacience ScaE由来のコヘシンドメインである。本発明のコヘシンタンパク質は、2種類以上の所望のタンパク質を真核微生物に表層提示させるためのタンパク質である。
【0019】
R. flavefacience ScaE由来のコヘシンドメインとは、R. flavefacience ScaEのコヘシンドメイン(配列番号2)を有するもののか、当該コヘシンドメインに由来して、当該コヘシンドメインと同等のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列を有していてもよい。こうしたアミノ酸配列としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ変異を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上の、より好ましくは98%以上、一層好ましくは99%以上の同一性を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列、配列番号1で表される塩基配列によってコードされるアミノ酸配列、配列番号1で表される塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上の、より好ましくは98%以上、一層好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるアミノ酸配列であって、配列番号2で表されるアミノ配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列が挙げられる。配列番号1で表される塩基配列は、酵母最適化コドンを適用した配列である。なお、ドッケリン結合活性及びアミノ酸配列及び塩基配列の同一性については後述する。R. flavefacienceのScaE由来のコヘシンドメインのアミノ酸配列としては、配列番号26で表されるアミノ酸配列(配列番号25によってコードされるアミノ酸配列)であってもよい。
【0020】
本コヘシンタンパク質は、ScaE由来のコヘシンドメインのほか、好ましくは、ScaE由来のコヘシンドメインと交差結合性の少ないコヘシンドメインを備えることができる。コヘシンドメインは、通常、セルロソーム生産微生物のセルロソームのスキャホールディンタンパク質が備えるコヘシンドメインに由来している。セルロソームは、以下の表1に挙げられるセルロソーム生産微生物に由来して多数知られている。
【0021】
【表1】

【0022】
コヘシンドメインは、セルロソーム生産微生物の形成するセルロソームにおけるタイプI〜III骨格タンパク質に備えられる触媒活性のあるセルラーゼ等を非共有結合で結合するドメインとして知られている(粟冠ら、蛋白質核酸酵素、Vol.44、No.10(1999)、p41-p50、Demain, A. L., et al., Microbiol Mol. Biol Rev., 69(1), 124-54(2005), Doi, R. H., et al., J. Bacterol., 185(20), 5907-5914(2003)等)。すなわち、コヘシンドメインとしては、セルロソームのタイプI骨格タンパク質上のタイプIコヘシンドメイン、同タイプII骨格タンパク質上のタイプIIコヘシンドメイン及びタイプIII骨格タンパク質上のタイプIIIコヘシンドメインが挙げられる。こうした各種タイプのコヘシンドメイン及び対応するドッケリンドメインとしては、各種セルロソーム生産微生物において多数その配列が決定されている。これらの各種のタイプのコヘシンのアミノ酸配列及びDNA配列は、NCBIのHP(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等を介してアクセス可能な各種のタンパク質データベースやDNA配列のデータベースにより容易に取得することができる。
【0023】
ScaE由来のコヘシンドメイン以外のコヘシンドメインは、公知のコヘシンドメインとドッケリンドメインの配列を利用し、これらのドメインを有するタンパク質を人工的に取得するなどして、結合性を評価することで取得することができる。コヘシン−ドッケリンの選択的結合の評価は、コヘシンタンパク質に結合したドッケリンドメインを有するタンパク質の特異的な活性を測定してもよい。例えば、ドッケリンタンパク質がセルラーゼ活性部位を有するものであるときは、上記のごとくの対照ドッケリンタンパク質とそのセルラーゼ活性を比較してもよい。具体的には、例えば、ドッケリンタンパク質がエンドグルカナーゼなどのセルラーゼ活性部位を有するとき、採取した培養上清又はドッケリンタンパク質を表層提示した真核微生物につき、適当なセルラーゼ基質(カルボキシメチルセルロース、リン酸セルロース、結晶性セルロース等)と反応させて反応生成物量や基質量等を測定することで酵素活性を評価できる。反応温度、pH及び時間は、酵素の種類等において適宜設定することができる。なお、酵素反応の結果生じる還元糖量の定量法としてはSomogyi法、Tauber-Kleiner法、Hanes法(滴定法)、Park-Johnson法、3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)法、TZ法(Journal of Biochemical Methods, 11(1985)109-115)等の公知の方法を適宜採用すればよい。さらに、エンドグルカナーゼなどのセルラーゼ活性は、カルボキシルメチルセルロースなどのセルロースを含有する固相体からなる評価領域に本発明としての可能性のある被験タンパク質を供給し、当該領域の固相体中のセルロースを分解させて、固相体中でセルロースが分解されて消失した領域(ハロー:固相体においてバイオマスの分解により淡色化又は無色化する領域)の大きさで評価することもできる。選択的な結合の評価は、また、ドッケリンドメインを有するタンパク質に付した蛍光標識の蛍光強度で評価してもよい。タンパク質の活性と蛍光強度との双方において選択的結合性が肯定された組み合わせがより好ましい。
【0024】
他のコヘシンドメインとしては、例えば、R. flavefacience、C. thermocellum、B. cellulosolvens及びA. fulgidusの天然コヘシン由来のコヘシンドメインが挙げられる。これらのコヘシンドメインは、R. flavefacience ScaE由来のコヘシンドメインとの間で一定以上の選択的結合性が確保されるからである。なかでも、R. flavefacience、C. thermocellumに由来することが好ましい。さらには、R. flavefacienceのScaB由来のコヘシンドメインが挙げられる。
【0025】
R. flavefacience ScaB由来のコヘシンドメインは、配列番号4で表されるアミノ酸配列を有するほか、配列番号4で表されるアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ変異を有し、配列番号4で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列、配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上の、より好ましくは98%以上、一層好ましくは99%以上の同一性を有し、配列番号4で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列、配列番号3で表される塩基配列によってコードされるアミノ酸配列、及び配列番号3で表される塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上の、より好ましくは98%以上、一層好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるアミノ酸配列であって、配列番号4で表されるアミノ配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有することができる。配列番号3で表される塩基配列は、酵母最適化コドンを適用した配列である。R. flavefacienceのScaB由来のコヘシンドメインのアミノ酸配列としては、配列番号28で表されるアミノ酸配列(配列番号27によってコードされるアミノ酸配列)であってもよい。
【0026】
また、C. thermocellum CipA由来コヘシンドメインが挙げられる。このCipA由来コヘシンドメインは、配列番号6で表されるアミノ酸配列を有するほか、配列番号6で表されるアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ変異を有し、配列番号6で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列、配列番号6で表されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上の、より好ましくは98%以上、一層好ましくは99%以上の同一性を有し、配列番号6で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列、配列番号5で表される塩基配列によってコードされるアミノ酸配列、配列番号5で表される塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上の、より好ましくは98%以上、一層好ましくは99%以上、好ましくは95%以上の、より好ましくは98%以上、一層好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるアミノ酸配列であって、配列番号6で表されるアミノ配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有することができる。配列番号5で表される塩基配列は、酵母最適化コドンを適用した配列である。
【0027】
C. thermocellumのCipAコヘシンドメインとコヘシン−ドッケリン結合により結合するC. thermocellum CipA由来のドッケリンドメインは、配列番号8で表されるアミノ酸配列を有することが好ましい。このアミノ酸配列であると、酵母などの真核微生物において糖鎖修飾部位が変異の導入により機能しなくなっているため、糖鎖修飾を受けず、その結果、本来のコヘシン−ドッケリン結合強度を確保することができる。
【0028】
本コヘシンタンパク質においては、C. cellulolyticumのコヘシンドメイン、特に、C. cellulolyticumのCipC由来のコヘシンドメインを備えていないことが好ましい。この種のコヘシンドメインは、酵母や真核微生物などのほか、例えば、R. flavefacience、C. thermocellum等のコヘシン−ドッケリン結合のドッケリンドメインにも結合性を示すからである。
【0029】
なお、本明細書においてアミノ酸配列及び塩基配列における同一性及び類似性とは、当業者にいて知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術分野で“同一性 ”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する好ましい方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される。同一性及び類似性を決定するための方法は、公に利用可能なプログラムにコードされている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。
【0030】
本コヘシンタンパク質は、2以上のコヘシンドメインを備えている。2以上のコヘシンドメインは、1つのコヘシンタンパク質にタンデム状に備えられていることが好ましい。2以上のコヘシンドメインの配置パターンは、適宜決定される。例えば、ScaE由来のコヘシンドメインは、本コヘシンタンパク質の細胞表層側基部の反対側の自由端側に備えられることが好ましい。また、ScaB由来のコヘシンドメインは、本コヘシンタンパク質上のいずれの箇所にあってもよく、自由端側であっても細胞表層側であっても中央部であってもよい。さらに、CipA由来のコヘシンドメインは、本コヘシンタンパク質上のいずれの箇所にあってもよく、自由端側であっても細胞表層側であっても中央部であってもよい。一つのコヘシンタンパク質に2以上のコヘシンドメインを備えるとき、2以上のコヘシンドメインは、ドッケリンドメインを有するタンパク質の結合を妨げない程度のインターバルを置いて配置される。コヘシンタンパク質におけるコヘシンドメイン以外のアミノ酸配列は、天然のセルロソームの骨格タンパク質のアミノ酸配列を適宜参考にして決定することができる。
【0031】
2以上のコヘシンドメインを異なるコヘシンタンパク質にそれぞれ備えるようにしてもよい。所望のタンパク質を近接して配置するには、一つのコヘシンタンパク質に2以上のコヘシンドメインを備えて、これらのそれぞれに所望のタンパク質を保持させるのが好都合であるが、種々の要請を考慮すると、2以上のコヘシンタンパク質を利用した分散形態であってもよい。
【0032】
なお、所望のタンパク質をどの程度の配置順序でどのような量的比率で表層提示するかは、特定のコヘシンドメインを有するコヘシンタンパク質の発現量(プロモーターの選択やコピー数等による)の調整や一つのコヘシンタンパク質における特定コヘシンドメインのリピート数によって調整できる。さらに、あえてコヘシン−ドッケリン結合における結合量の差を利用することもできる。
【0033】
本コヘシンタンパク質は、コヘシンドメイン以外に、タイプI〜IIIから選択される骨格タンパク質のセルロース結合ドメイン(CBD)を有していることが好ましい。CBDは、各種骨格タンパク質において基質であるセルロースに結合するドメインとして知られている(前述粟冠ら)。セルロース結合ドメインは、1又は2以上有していてもよい。各種のセルロソーム生産微生物のセルロソームにおけるCBDのアミノ酸配列及びDNA配列の多くが決定されている。これらの各種のCBDのアミノ酸配列及びDNA配列は、NCBIのHP(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等を介してアクセス可能な各種のタンパク質データベースやDNA配列のデータベースにより容易に取得することができる。
【0034】
なお、本コヘシンタンパク質は、後述するように、そのコヘシンドメインに基づくコヘシン−ドッケリン結合を介して、後述するドッケリンドメインを有する所望のタンパク質を保持する、複合タンパク質の形態も採ることができる。
【0035】
本コヘシンタンパク質は、真核微生物の細胞表層に提示されるように構成されてもよい。本コヘシンタンパク質に細胞表層提示性を付与するには、公知の分泌シグナルや表層提示用のシステムを用いることができる。例えば、分泌シグナルや凝集性タンパク質又はその一部のアミノ酸配列が付与される。分泌シグナルとしては、例えば、Rhizopus oryzaeやC. albicansのグルコアミラーゼ遺伝子の分泌シグナル、酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダーなどが挙げられる。また、凝集性タンパク質としては、α−アグルチニンをコードするSAG1遺伝子の5’領域の320アミノ酸残基からなるペプチドが挙げられる。また、所望のタンパク質を細胞表層に提示するためのポリペプチドや手法は、WO01/79483号公報や、特開2003−235579号公報、WO2002/042483号パンフレット、WO2003/016525号パンフレット、特開2006−136223号公報、藤田らの文献(藤田ら,2004. Appl Environ Microbiol 70:1207-1212および藤田ら, 2002. Appl Environ Microbiol 68:5136-5141.)、村井ら, 1998. Appl Environ Microbiol 64:4857-4861.に開示されている。
【0036】
本コヘシンタンパク質は、例えば、上記したコヘシンドメインをコードする塩基配列と、適度なインターバルのアミノ酸配列をコードする塩基配列と、その他、必要に応じてCBDをコードする塩基配列や分泌シグナルや表層提示用のアミノ酸配列をコードする塩基配列とを組み合わせた塩基配列をコードする塩基配列等を組み合わせて本コヘシンタンパク質をコードするDNAを取得して、公知の方法により発現ベクター等を構築し、酵母などの真核細胞等の適当な宿主を形質転換し、形質転換細胞を、当業者に公知の通常の方法に従って培養し、当該培養細胞または培地から本コヘシンタンパク質を回収することによって得ることができる。すなわち、培養細胞から、当該細胞の破砕後、遠心分離等の分離操作によりタンパク質含有画分を得、この画分からタンパク質を回収することにより得ることができる。さらに、本コヘシンタンパク質は、慣用の精製技術を組み合わせて単離することができる。なお、本コヘシンタンパク質におけるコヘシンドメイン間のアミノ酸配列は、隣接するコヘシンドメインの取得源の骨格タンパク質において、当該コヘシンドメインの上下流にもともと存在する数個〜20個以下程度のアミノ酸を必要数連結するなどして決定することができる。
【0037】
コヘシンドメインに対するアミノ酸の置換、欠失または付加等は、常用される技術、例えば、既に説明したように、部位特異的突然変異誘発法等により、当該アミノ酸配列をコードする塩基配列を改変することにより導入することができる。
【0038】
(コヘシンドメイン及びコヘシンタンパク質をコードするDNA)
コヘシンドメインをコードするDNAは、配列番号2等で表される各種コヘシンドメインのアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列と上記のように一定の関連性のあるアミノ酸配列をコードするDNAである。こうした各種態様のDNAの塩基配列は、遺伝暗号の縮重や発現させようとする真核生物におけるコドン用法に従い、タンパク質のアミノ酸配列を変えることなく所定のアミノ酸配列をコードする配列番号1等で表される塩基配列の少なくとも1つの塩基を他の種類の塩基に置換されていてもよい。例えば、公知の酵母最適化コドンが適用されていてもよい。
【0039】
本発明で用いるコヘシンドメインをコードする各種態様のDNAは、例えば、配列番号1等の配列に基づいて設計したプライマーを用いて、セルロソーム生産微生物等から抽出した核酸を鋳型としたPCR増幅を行うことにより、核酸断片として得ることができる。また、上記核酸を鋳型とし、配列番号1等の配列に基づいたプローブを用いてハイブリダイゼーションを行うことにより、核酸断片として得ることができる。あるいは、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、核酸断片として合成してもよい。
【0040】
また、上記各種態様のDNAは、例えば、配列番号2等で表されるアミノ酸の配列をコードするDNA(たとえば、配列番号1で表される塩基配列からなる)を、慣用の突然変異誘発法、部位特異的変異法、エラープローンPCRを用いた分子進化的手法等によって改変することによって取得することができる。このような手法としては、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法が挙げられ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。
【0041】
そのほか、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、例えば、配列番号1又は2等の公知配列に基づいて、各種態様のコヘシンドメインをコードするDNAを取得することができる。
【0042】
本コヘシンタンパク質をコードするDNAは、コヘシンドメインとして、上述の各種のコヘシンドメインをコードする塩基配列を含むことができる。
【0043】
(真核微生物)
本発明の真核微生物は、本コヘシンタンパク質を真核微生物の表層側に備えることができる。本発明の微生物は、本コヘシンタンパク質を微生物内で自己生産するための外来性DNAを保持することが好ましい。こうすることで、表層提示を簡素化し、効率的かつ安定的に所望のタンパク質を表層提示できることとなる。
【0044】
本コヘシンタンパク質をコードするDNAは、真核微生物内において当該タンパク質を発現可能に保持されていればよく、その保持形態は特に限定されない。例えば、宿主微生物で作動可能なプロモーターの制御下に連結されるとともに適切なターミネーターをその下流に有した状態で保持されている。プロモーターは、構成的プロモーターであっても誘導的プロモーターであってもよい。このような状態のDNAは、宿主染色体内に組み込まれた形態であってもよいし、宿主核内に保持される2μプラスミドや核外に保持されるプラスミドのような形態であってもよい。一般には、こうした外来DNAの導入に伴って、宿主において利用可能な選択マーカー遺伝子も同時に保持されていてもよい。
【0045】
真核微生物の表層において、本コヘシンタンパク質は、既に説明した公知の細胞表層提示技術に基づいて保持されるのに限定されるものではなく、公知の他の形態で保持されていてもよい。
【0046】
真核微生物は、表層に提示タンパク質を、典型的には外来タンパク質として生産するのに好適な宿主微生物である。こうした真核微生物としては、特に限定されないで、例えば、公知の各種酵母を利用できる。後述するエタノール発酵等を考慮すると、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属の酵母、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属の酵母、キャンディダ・シェハーテ(Candida shehatae)等のキャンディダ属の酵母、ピヒア・スティピティス(Pichia stipitis)等のピヒア属の酵母、ハンセヌラ(Hansenula)属の酵母、トリコスポロン(Trichosporon)属の酵母、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属の酵母、パチソレン(Pachysolen)属の酵母、ヤマダジマ(Yamadazyma)属の酵母、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)等のクルイベロマイセス属の酵母が挙げられる。なかでも、工業的利用性等の観点からサッカロマイセス属酵母が好ましい。なかでも、サッカロマイセス・セレビジエが好ましい。
【0047】
真核微生物は、また、コヘシンドメインに選択的に結合するドッケリンドメインを有する2種類以上の所望のタンパク質を保持するものであってもよい。すなわち、本コヘシンタンパク質を利用しコヘシン−ドッケリン結合を介して所望のタンパク質を表層に保持したものであってもよい。
【0048】
(ドッケリンドメインを有するタンパク質)
ドッケリドメインを有するタンパク質は、コヘシンタンパク質上にコヘシン−ドッケリン結合により結合されて真核微生物の細胞表層に提示される。ドッケリンドメインとしては、例えば、表1に挙げられるセルロソーム生産微生物に由来して多数知られているが、本コヘシンタンパク質に備えられているコヘシンドメインにコヘシン−ドッケリン結合により結合するドッケリンドメインを用いる。こうしたドッケリンドメインは、すでに説明した方法によって、コヘシンドメインとの組み合わせで決定される。好ましいドッケリンドメインとしては、すでに記載した好ましいコヘシンドメインに結合するドッケリンドメインが挙げられる。例えば、R. flavefacienceのScaE由来のコヘシンドメインに対するR. flavefacienceのScaB-X由来ドッケリンドメイン、R. flavefacienceのScaB由来のコヘシンドメインに対するR. flavefacienceのScaA由来ドッケリンドメイン、C. thermocellumのCipA由来コヘシンドメインに対するC. thermocellumのC48SDD由来ドッケリンドメインが挙げられる。
【0049】
ドッケリンドメインは、セルロソーム生産微生物に由来する天然のドッケリンドメイン又は対応するコヘシンドメインに対する結合性を有する限りそのドッケリンドメインのアミノ酸配列において1又は2以上の変異(付加、挿入、欠失及び置換)を導入した改変ドッケリンドメインであってもよい。例えば、ドッケリンドメイン中に酵母などの真核微生物による糖鎖修飾部位を有する場合には、当該部位のアミノ酸配列中の例えばアスパラギン(N)をアスパラギン酸(D)に置換する変異を導入することで、糖鎖修飾を回避して、本来のコヘシン−ドッケリン結合強度を確保できる。
【0050】
ドッケリンドメインを有するタンパク質は、ドッケリンドメイン以外に活性部位を備えることができる。すなわち、融合タンパク質とすることができる。活性部位の種類は用途に応じて適宜決定される。ドッケリンタンパク質は、ドッケリンと活性部位とを適宜組み合わせた人工的なタンパク質であってもよい。活性部位に相当するタンパク質は、特に限定されないが、例えば、セルロソームの構成タンパク質であるセルラーゼであって、ドッケリンを本来的に有するセルラーゼをそのままあるいは適宜改変して用いることもできる。
【0051】
ドッケリンタンパク質は、バイオマスに由来するセルロース含有材料の糖化利用に際しては、例えば、セルラーゼ等の各種酵素活性部位を備えることができる。こうした活性部位は、公知のセルラーゼにおける活性部位を適宜利用できる。セルラーゼとしては、エンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.74)、セロビオヒドロラーゼ(EC 3.2.1.91)及びβ−グルコシダーゼ(EC23.2.4.1、EC 3.2.1.21)が挙げられる。なお、セルラーゼは、そのアミノ酸配列の類似性に基づきGHF(Glycoside Hydrolase family)(http://www.cazy.org/fam/acc.gh.html)の13(5,6,7,8,9,10,12,44,45,48,51,61,74)のファミリーに分類されている。異なるファミリーに分類される同種又は異種のセルラーゼを組み合わせてもよい。
【0052】
セルロースの分解を考慮すると、セルラーゼとしては、β−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼからなる群から選択される2種以上を含むことが好ましい。また、セルラーゼとしては、特に限定しないが、それ自体活性の高いセルラーゼであることが好ましい。このようなセルラーゼとしては、例えば、ファネロケーテ(Phanerochaete)属菌、Trichoderma reeseiなどのトリコデルマ属(Trichoderma)菌、フザリウム属(Fusarium)菌、トレメテス属(Tremetes)菌、ペニシリウム属(Penicillium)菌、フミコーラ属(Humicola)菌、アクレモニウム属(Acremonium)菌、アスペルギルス属(Aspergillus)菌等の糸状菌の他に、クロストリジウム属(Clostridium)菌、シュードモナス属(Pseudomonas)菌、セルロモナス属(Cellulomonas)菌、ルミノコッカス属(Ruminococcus)菌、バチルス属(Bacillus)菌等の細菌、スルフォロバス属(Sulfolobus)菌等の始原菌、さらにストレプトマイセス属(Streptomyces)菌、サーモアクチノマイセス属(Thermoactinomyces)菌などの放射菌由来のセルラーゼが挙げられる。なお、こうしたセルラーゼ又はその活性部位は、人工的に改変されていてもよい。
【0053】
ドッケリンドメインを有するタンパク質は、バイオマスの有効利用を考慮したとき、ヘミセルラーゼ活性部位を備えていてもよい。さらに、リグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ及びラッカーゼなどのリグニン分解酵素が挙げられる。また、例えば、セルロース緩和タンパク質であるスウォレニンやエクスパンシン、セルロソームやセルラーゼの構成部分であるセルロース結合ドメイン(タンパク質)が挙げられる。また、キシラナーゼやヘミセルラーゼ等のその他のバイオマス分解酵素も挙げられる。これらのタンパク質は、いずれもセルロースへのセルラーゼのアクセシビリティを向上させることができる。
【0054】
ドッケリンドメインを有するタンパク質は、好ましくは2以上表層提示される。本真核微生物は、その表層において2以上のタンパク質を所望の位置に配置できるからである。2以上の、ドッケリンドメインを有するタンパク質は、ドッケリンドメインの種類、活性部位の種類等において区別される。
【0055】
コヘシンタンパク質を表層提示する真核微生物は、ドッケリンドメインを有するタンパクを自己生産し、細胞外に分泌することが好ましい。すなわち、真核微生物は、ドッケリンドメインを有するタンパク質をコードするDNAを、当該タンパク質を自己生産可能でかつ細胞外に分泌可能に保持していることが好ましい。こうすることで、真核微生物は増殖と同時に、細胞表層にコヘシンタンパク質を提示し、同時に細胞表層にドッケリンドメインを有するタンパク質が提示される。特に、本コヘシンタンパク質は、結合選択性と結合強度が確保されたコヘシンドメインを備えているため、ドッケリンドメインを有するタンパク質を分泌発現させた場合であっても、高度に配置制御と量的制御が可能となっている。
【0056】
なお、セルラーゼなどの酵素は、本来的に細胞外分泌のためのシグナルを有していることが多い。ドッケリンタンパク質に細胞外分泌性を付与するには、公知の分泌シグナルを用いることができる。分泌シグナルは、すでに説明したように、用いる真核微生物の種類に応じて適宜選択される。
【0057】
なお、コヘシンタンパク質を表層提示する真核微生物に対してドッケリンドメインを有するタンパク質を供給して、コヘシン−ドッケリン結合による自己集合を利用してもドッケリンドメインを有するタンパク質を表層提示した真核微生物を作製できる。表層提示用微生物とドッケリンドメインを有するタンパク質の接触させる方法は特に限定しない。真核微生物が生存でき、タンパク質が変成しないpH、塩濃度、温度の液体中において、両者を混合等させればよい。適宜、撹拌により接触確率を向上させてもよい。
【0058】
以上説明した本明細書に開示されるコヘシンタンパク質、真核微生物及びタンパク質を細胞表層提示した真核微生物は、いずれも、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載されている方法に準じて作製することができる。真核微生物の形質転換のためのベクター及びその構築方法は、当業者において周知であって、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に開示されている。また、コヘシンタンパク質やドッケリンドメインを有するタンパク質を真核微生物において発現させるためのベクター及びその構築方法も、同様に、当業者において周知である。なお、ベクターの形態は、使用形態に応じて様々な形態を採ることができる。例えば、DNA断片の形態を採ることができるほか、2マイクロプラスミドなどの適当な酵母用ベクターの形態を採ることもできる。
【0059】
このようなベクターで真核微生物を形質転換することによって本明細書に開示される真核微生物を得ることができる。形質転換にあたり、従来公知の各種方法、例えば、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法等を用いることができる。
【0060】
(有用物質の生産方法)
本明細書に開示される有用物質の生産方法は、本発明の真核微生物の表層に保持された2以上のタンパク質を利用して前記有用物質を生産する工程、を備えることができる。また、前記生産工程は、2種以上のタンパク質が、セルロースを分解する酵素群から選択され、これらのタンパク質を利用してセルロース含有材料を糖化し、発酵する工程であってもよい。この生産方法によれば、この真核微生物を用いてセルロース含有材料を直接分解糖化し、グルコース等として利用できることになる。前記発酵工程の実施により、用いた真核微生物が有している有用物質生産能力に応じて有用物質が生産される。
【0061】
有用物質は、真核微生物がグルコースなどの栄養源を発酵することにより得る生産物であり、真核微生物の種類によっても異なるし、発酵条件によっても異なる。有用物質としては特に限定しないが、酵母やその他の真核微生物がグルコースを利用して生産可能なものであればよい。有用物質は、酵母などの真核微生物におけるグルコースからの代謝系の1種又は2種以上の酵素を遺伝子組換えにより置換、追加等して合成できるようになった本来の代謝物でない化合物であってもよい。有用物質としては、例えば、エタノールなどのほか、C3〜C5の低級アルコール、乳酸などの有機酸の他、イソプレノド合成経路の追加によるファインケミカル(コエンザイムQ10、ビタミン及びその原料等)、解糖系の改変によるグリセリン、プラスチック・化成品原料など、バイオリファイナリー技術が対象とする材料が挙げられる。有用物質の生産工程終了後、培養液から有用物質含有画分を回収する工程、さらにこれを精製又は濃縮する工程を実施することもできる。回収工程や精製等の工程は有用物質の種類等に応じて適宜選択される。
【0062】
本方法に用いるセルラーゼ活性を有するドッケリンタンパク質は、2種類以上のセルラーゼ(例えば、エンドグルカナーゼとセロビオヒドロラーゼ等)活性をそれぞれ有する2種類以上を用いることが好ましい。2以上のドッケリンタンパク質は、本真核微生物においてコヘシンタンパク質と同時発現させてもよいし、また、他の一種又は2種以上の真核微生物において別に発現させてもよい。
【0063】
なお、セルロース含有材料は、D−グルコースがβ−1,4結合でグリコシド結合したβ−グルカンであるセルロースを含有する材料である。セルロース含有材料としては、セルロースを含有していればよく、どのような由来や形態であってもよい。したがって、セルロース系材料としては、例えば、リグノセルロース系材料、結晶性セルロース材料、可溶性セルロース材料(非晶性セルロース材料)、不溶性セルロース材料などの各種セルロース系材料等が含まれる。リグノセルロース系材料としては、例えば、木本植物の木質部や葉部及び草本植物の葉、茎、根等においてリグニン等を複合した状態のリグノセルロース系材料が挙げられる。こうしたリグノセルロース系材料としては、例えば、稲ワラ、麦ワラ、トウモロコシの茎葉、バガス等の農業廃棄物、収集された木、枝、枯葉等又はこれらを解繊して得られるチップ、おがくず、チップなどの製材工場廃材、間伐材や被害木などの林地残材、建設廃材等の廃棄物であってもよい。結晶性セルロース系材料及び不溶性セルロース系材料としては、リグノセルロース系材料からリグニン等を分離後の結晶性セルロース及び不溶性セルロースを含む結晶性又は不溶性セルロース系材料が挙げられる。セルロース材料としては、また、使用済み紙製容器、古紙、使用済みの衣服などの使用済み繊維製品、パルプ廃液を由来としてもよい。
【0064】
セルロース含有材料は、セルラーゼと接触させるのに先立ってセルラーゼによる分解を容易化するために適当な前処理等がなされていてもよい。例えば、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸などの無機酸による酸性条件下、セルロースを部分加水分解することにより、セルロースを非晶質化あるいは低分子化できる。この他、超臨界水、アルカリ、加圧熱水などの処理によってもセルロースの非晶質化又は低分子化を行うことができる。
【0065】
セルロース含有材料は、グルコースがβ-1,4-グリコシド結合により重合した重合体及びその誘導体を含んでいる。グルコースの重合度は特に限定しない。また、誘導体としては、カルボキシメチル化、アルデヒド化、若しくはエステル化などの誘導体が挙げられる。セルロース は、結晶性セルロースであってもよいし、非結晶性セルロースであってもよい。
【0066】
なお、以上の各種の実施形態を通じて、真核微生物、ドッケリン−コヘシン結合を利用するタンパク質、ドッケリンタンパク質、コヘシンタンパク質、セルラーゼ、セルロース含有材料等の用語が用いられる場合には、これらは本明細書中で定義された内容で共通して用いられる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に述べる遺伝子組換え操作はモレキュラークローニング第3版に従い行った。
【実施例1】
【0068】
(R. flavefacience由来遺伝子の取得及び酵母発現ベクターの作成)
R. flavefacience由来ScaAコヘシン(ScaAcoh)、Cel44Aドッケリン(GH44doc)、ScaEコヘシン(ScaEcoh)およびScaB-Xドッケリン(ScaBdoc)、以上4つのアミノ酸配列(配列番号10、配列番号12、配列番号26、配列番号14)をUniProt(アドレス)から取得し、それぞれを酵母最適化コドンを使用して合成遺伝子(配列番号9、配列番号11、配列番号25、配列番号13)を作製した。
【0069】
ScaAコヘシン(ScaAcoh)及びScaEコヘシン(ScaEcoh)を用いて発現ベクターを作製した。すなわち、図1に示すように、合成したScaAコヘシンとScaEコヘシンの各遺伝子の上流にBglII、下流にXhoIの制限酵素サイトをそれぞれPCRで付加した。この制限酵素サイトを利用し、上流にADH3相同領域、HOR7プロモーターおよびSSRGシグナル配列、下流にV5タグ、AGA2配列、Tdh3ターミネーター、Leu3マーカーおよびADH3相同領域を持つ、pDL-ScaAcohAGA2ベクターとpDL-ScaEcohAGA2ベクターを作製した。
【0070】
Cel44Aドッケリン(GH44doc)及びScaB-Xドッケリン(ScaBdoc)を用いた発現ベクターを作製した。すなわち、図2に示すように、同様に合成したGH44ドッケリンとScaB-Xドッケリンの各遺伝子及びクロストリジウムサーモセラム48ドッケリンCt48SDDの上流にXhoI、下流にBamHIの制限酵素サイトをそれぞれPCRで付加した。この制限酵素サイトを利用し、上流にHXT3相同領域、HOR7プロモーター、SSRGシグナル配列およびHis-tag、下流にTdh3ターミネーター、Ura3マーカーおよびHXT3相同領域を持つ、pXU-GH44Adocベクター、pXU-ScaBdocベクターを作製した。
【実施例2】
【0071】
(酵母表層での各種遺伝子の生産)
まず、図3に示すように、PCR法により増幅後クローニングしたaga1遺伝子の上流にAAP1相同領域とHOR7プロモーター、下流にTdh3ターミネーターとHis3マーカーおよびAAP1相同領域を持つ、pAI-HOR7p-AGA1ベクターを作製した。このベクターを用いて酵母S.cerevisiae BY4741に形質転換を行い、aga1を細胞表層に提示する酵母BYAGA1を取得した。
【0072】
作製したBYAGA1株に実施例1で作成した各種ベクターpDL-ScaAcohAGA2、pDL-ScaEcohAGA2を導入し、コヘシン表層提示酵母 BYScaA、BYScaE株とした。また、BY4741株にBpXU-GH44Adoc、pXU-ScaBdocを導入し、ドッケリン分泌酵母BYGHDoc、BYScaBDoC株とした。
【0073】
なお、使用したプラスミドの抽出は以下の方法で行った。プラスミドを形質転換したEscherichia coli (DH5α株)を、カナマイシン(終濃度100μg/ml)またはアンピシリン(終濃度50μg/ml)を含むLB plate培地(5g/l yeast extract, 10g/l peptone, 5g/l NaCl, 15g/l agarose)に塗布し、37℃で1晩静置培養することで形質転換株を取得した。得られた形質転換株をカナマイシン(終濃度100μg/ml)またはアンピシリン(終濃度50μg/ml)を含むLB 液体培地(5g/l yeast extract, 10g/l peptone, 5g/l NaCl)に添加し、120rpm、37℃で1晩振盪培養し得られた菌体からプラスミドを抽出した。
【0074】
また酵母の相同組み換え株の取得は以下の方法で行った。形質転換した酵母Saccharomyces cerevisiae(BY4741株)を、SD-His plate培地(6.7g/l yeast nitrogen base w/o amino acid, 20g/l glucose, 0.024g/l adenine sulfate, 0.096 g/l uracil, 0.096g/l L-tryptophan, 0.096g/l L-methionine, 0.096g/l L-leucine, 0.096g/l L-lysine-HCl, 20g/l agarose)、またはSD-Leu plate培地(6.7g/l yeast nitrogen base w/o amino acid, 20g/l glucose, 0.024g/l adenine sulfate, 0.096 g/l uracil, 0.096g/l L-tryptophan, 0.096g/l L -histidine-HCl, 0.096g/l L-methionine, 0.096g/l L-lysine-HCl, 20g/l agarose)、またはSD-Ura plate培地(6.7g/l yeast nitrogen base w/o amino acid, 20g/l glucose, 0.024g/l adenine sulfate, 0.096g/l L-tryptophan, 0.096g/l L -histidine-HCl, 0.096g/l L-methionine, 0.096g/l L-leucine, 0.096g/l L-lysine-HCl, 20g/l agarose)に塗布し、30℃で24時間静置培養することで形質転換株を取得した。得られた形質転換株をYPD液体培地(10g/l yeast extract, 20g/l peptone, 20g/l glucose)1mlに添加し、120rpm、30℃で24時間振盪培養した。
【実施例3】
【0075】
(フローサイトメトリー(FCM)によるScaE及びScaAの酵母表層提示量の評価)
コヘシン表層提示酵母 BYScaA及びBYScaE株をそれぞれYP+2%グルコース培地で30℃、24時間培養し、回収、洗浄した菌体を、OD600=0.5、62.5μl相当量集菌し、PBS溶液で洗浄を行い、PBS + 1mg/ml BSA + anti-V5-FITC溶液と混合して4℃、30分間反応し、PBS溶液で2回洗浄後、フローサイトメトリーで酵母細胞表層上のコヘシン提示量を評価した。結果を図4(a)に示す。
【0076】
図4(a)に示すように、これらの酵母において、ScaAコヘシンの表層提示量は非常に少なかったが、ScaEコヘシンの表層提示は十分量認められた。すなわち、同じR. flavefacience由来のセルロソームのコヘシンタンパク質であっても、ScaAは、そのアミノ酸配列等によって酵母などの真核生物での発現に不適であり、これに対してScaEは、真核生物での表層発現に好適であることがわかった。
【0077】
さらに、これらのコヘシン提示酵母へのドッケリンの結合性を確認した。すなわち、これらコヘシン提示酵母に、これら酵母上の2種のコヘシンに対してそれぞれ対応するドッケリンを分泌生産するBYGHDoc株(ScaAに対応するドッケリンを分泌生産)、BYScaBDoc株(ScaEに対応するドッケリンを分泌生産)の培養上清を添加することで、酵母表層上でミニセルロソームを再構成し、コヘシンに結合したドッケリンを上述の方法によりAntiHis-FITC抗体で標識、フローサイトメトリーで結合量を評価した。結果を図4(b)に示す。
【0078】
図4(b)に示すように、ScaAコヘシン−ドッケリンの組み合わせはドッケリンの提示量が非常に低く、ScaEコヘシン-ドッケリンの組み合わせは十分量のドッケリンが提示された。すなわち、これらの2種のドッケリンは、酵母表層上のコヘシンドメインの提示量に応じて表層保持されたことがわかった。
【実施例4】
【0079】
次いで、このR. flavefacienceのScaE由来コヘシン- ScaB-X由来ドッケリンの組み合わせと、C. thermocellum CipA由来コヘシンとCel48S 由来CtC48SDDドッケリン(糖鎖修飾部位の削除変異導入体)の組み合わせ、およびR. flavefacienceのScaB由来コヘシンとScaA由来ドッケリンの組み合わせとの交差結合性を評価した。
【0080】
なお、C. thermocellum CipA由来コヘシンを表層提示する酵母は、当該コヘシンのアミノ酸配列(配列番号6)に基づくとともに酵母最適化コドンを用いて遺伝子(配列番号5)を合成し、当該遺伝子を用いて実施例1と同様にして発現ベクターを構築し、実施例2と同様にして当該コヘシン表層提示酵母BYCipA株を取得した。また、Cel48S由来ドッケリンCt48SDD(2箇所のNをDに置換した変異体、配列番号8)をコードする遺伝子(配列番号7)を合成により取得し(酵母最適化コドンは用いていない)、当該遺伝子を用いて実施例1と同様にして発現ベクターを構築し、この遺伝子を利用して、実施例2と同様にしてドッケリン分泌酵母BYCt48SDD株を得た。なお、Cel48S由来ドッケリンCt48S(上記変異なし)(配列番号18)をコードするDNAの塩基配列は、配列番号17で表される。
さらに、R. flavefacience ScaB由来コヘシンを表層提示する酵母は、当該コヘシンのアミノ酸配列(配列番号28)に基づくとともに酵母最適化コドンを用いて遺伝子(配列番号27)を合成し、当該遺伝子を用いて実施例1と同様にして発現ベクターを構築し、実施例2と同様にして当該コヘシン表層提示酵母を取得した。また、R. flavefacience ScaA由来ドッケリンRfScaAdocのアミノ酸配列(配列番号16)に基づくとともに酵母最適化コドンを用いて遺伝子(配列番号15)を合成により取得し、当該遺伝子を用いて実施例1と同様にして発現ベクターを構築し、この遺伝子を利用して実施例2と同様にして、ScaAドッケリン泌酵母株を得た。
【0081】
各コヘシン提示酵母をそれぞれYP+2%グルコース培地で30℃、24時間培養し、各ドッケリン分泌酵母の培養上清をそれぞれ全ての組み合わせで添加し、酵母表層上でミニセルロソームを再構成して、コヘシンに結合したドッケリンをAntiHis-FITC抗体で標識し、フローサイトメトリーで結合量を評価した。結果を図5に示す。
【0082】
図5に示すように、酵母で生産したR. flavefacience ScaE由来コヘシン- ScaB-Xドッケリン結合、R. flavefacience ScaB由来コヘシン−ScaAドッケリン結合、及びC. thermocellum CipA由来コヘシン−C48SDDドッケリン結合は、それぞれ他の組み合わせの間において選択結合性を保持していることがわかった。
【実施例5】
【0083】
(酵母表層での3種のコヘシンを備えるタンパク質による配置制御)
実施例4で選択結合性を評価したR. flavefacienceScaE由来コヘシン、C. thermocellum CipA由来コヘシンおよびR. flavefacience ScaB由来のコヘシンを図6下段のように連結し、キメラコヘシンタンパク質(配列番号20)をコードするDNA(配列番号19)を合成取得した。なお、これらのコヘシンドメインのDNAの塩基配列は、それぞれ、配列番号1、配列番号5及び配列番号3であり、及びこれらのコヘシンドメインのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号2、配列番号6及び配列番号4である。キメラコヘシンタンパク質は、各コヘシンドメイン間には、隣接するコヘシンドメインの上下流に元々存在していた10アミノ酸を配置した。すなわち、ScaE由来コヘシンとCipA由来コヘシンとの間には、ScaE由来のコヘシンの下流の10アミノ酸とCipA由来コヘシンの上流10アミノ酸からなるアミノ酸配列をリンカー配列(配列番号22、塩基配列は、配列番号21)とし、CipA由来コヘシンとScaB由来コヘシンとの間には、CipA由来コヘシンの下流10アミノ酸ScaB由来のコヘシンの上流の10アミノ酸とからなるアミノ酸配列をリンカー配列(配列番号24、塩基配列は配列番号23)とした。このキメラコヘシンタンパク質遺伝子につき、実施例2と同様にして表層提示発現用ベクターを作製し、さらに、当該タンパク質の表層提示用酵母BYEAB株を取得した。
【0084】
このBYEAB株をYP+2%グルコース培地で30℃、24時間培養し、回収、洗浄し、BYScaADoc、BYScaBDoc、BYCt48SDD株の培養上清を各1種類ずつ、及び2種類同時、3種類同時に添加することで、酵母表層上でミニセルロソームを再構成させた。コヘシンに結合したドッケリンをAntiHis-FITC抗体で標識、フローサイトメトリーで結合量を評価した。結果を図6に示す。図6に示すように、添加するドッケリン種の増加に比例して結合提示量の増加が認められたことから3種の配置制御が可能であるこが示された。
【配列表フリーテキスト】
【0085】
配列番号1、3、5、9、11、13、15、25、27:S. cerevisiae最適化配列
配列番号19、20:コヘシンタンパク質
配列番号21〜24:リンカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の所望のタンパク質を真核微生物に表層提示させるためのタンパク質であって、
R. flavefacienceのScaE由来コヘシンドメインを備える、タンパク質。
【請求項2】
前記ScaE由来コヘシンドメインは、以下のアミノ酸配列から選択されるいずれかを有する、請求項1記載のタンパク質。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ変異を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号1で表される塩基配列によってコードされるアミノ酸配列
(e)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるアミノ酸配列であって、配列番号2で表されるアミノ配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
【請求項3】
さらに、R. flavefacienceのScaB由来コヘシンドメインを備える、請求項1又は2に記載のタンパク質。
【請求項4】
前記ScaB由来コヘシンドメインは、以下のアミノ酸配列から選択されるいずれかを有する、請求項3に記載のタンパク質。
(f)配列番号4で表されるアミノ酸配列
(g)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ変異を有し、配列番号4で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(h)配列番号4で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、配列番号4で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(i)配列番号3で表される塩基配列によってコードされるアミノ酸配列
(j)配列番号3で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるアミノ酸配列であって、配列番号4で表されるアミノ配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
【請求項5】
さらに、C. thermocellumのCipA由来コヘシンドメインを備える、請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項6】
前記CipA由来コヘシンドメインは、以下のアミノ酸配列から選択されるいずれかを有する、請求項5に記載のタンパク質。
(k)配列番号6で表されるアミノ酸配列
(l)配列番号6で表されるアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ変異を有し、配列番号1で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(m)配列番号6で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、配列番号6で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
(n)配列番号5で表される塩基配列によってコードされるアミノ酸配列
(o)配列番号5で表される塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるアミノ酸配列であって、配列番号6で表されるアミノ酸配列と同一のドッケリン結合活性を有するアミノ酸配列
【請求項7】
前記CipA由来コヘシンドメインに対応するドッケリンドメインは、配列番号8で表されるアミノ酸配列を有する、請求項5又は6に記載のタンパク質。
【請求項8】
真核微生物であって、
請求項1〜7のいずれかに記載のタンパク質を前記真核微生物の表層側に備える、真核微生物。
【請求項9】
前記タンパク質は、セルロース結合ドメインを含む、請求項8に記載の真核微生物。
【請求項10】
前記タンパク質を前記真核微生物内で自己生産するための外来性DNAを保持する、請求項8又は9に記載の真核微生物。
【請求項11】
さらに、前記タンパク質を選択的に結合可能な結合ドメインを有して前記細胞の表層に配置される1又は2以上の第2の骨格タンパク質を備える、請求項8〜10のいずれかに記載の真核微生物。
(表層にコヘシンタンパク質と所望のタンパク質とを提示した真核微生物)
【請求項12】
2種類以上のタンパク質を細胞表層に保持する真核微生物であって、
請求項8〜11のいずれかに記載の真核微生物の前記タンパク質上に、前記コヘシンドメインに選択的に結合するドッケリンドメインを有する2種類以上タンパク質を保持する、真核微生物。
【請求項13】
前記2種類以上のタンパク質を、前記真核微生物が分泌生産する、請求項12に記載の真核微生物。
【請求項14】
前記2種類以上のタンパク質は、セルロースを分解する酵素群から選択される、請求項12又は13に記載の真核微生物。
【請求項15】
前記タンパク質は、少なくともβ−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼからなる群から選択される2種以上を含む、請求項14に記載の真核微生物。
【請求項16】
酵母である、請求項12〜15のいずれかに記載の真核微生物。
【請求項17】
有用物質の生産方法であって、
請求項12〜16のいずれかに記載の真核微生物の前記2種以上のタンパク質を利用して前記有用物質を生産する工程、を備える、生産方法。
【請求項18】
前記生産工程は、前記2種以上のタンパク質が、セルロースを分解する酵素群から選択され、前記2種以上のタンパク質を利用してセルロース含有材料を糖化し、発酵することを含む、請求項17に記載の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−35812(P2013−35812A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175432(P2011−175432)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】