説明

2種類の炭素類による発電

【課題】 熱起電力の大きさに差がある2種類の炭素類を、電解液に浸漬すると、2種類の炭素類は化学変化をせずに、互いに反対の正と負の極を発現して、起電力が生ずる。
【解決手段】 グラファイト棒(この場合、熱起電力はピッチ系CF棒より大)とピッチ系CF棒を間隔をあけて、図2の様に電解液に浸漬すると、グラファイト棒は正極を発現し、ピッチ系CF棒は負極を発現して、正極のグラファイト棒と負極のピッチ系CF棒の間に起電力が生ずる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱起電力に差がある2種類の炭素類が、熱電対又は電解液中で正極と負極を発現して、起電力を生ずる現象に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電対を構成する材料には、2種類の金属が使われており、これは或る温度差に対して熱起電力の大きさが金属によって異なる事を利用している。
炭素については炭素と白金による熱電対は知られているが、2種類の炭素類によって熱電対をつくる事ができる研究は見当らない。
2種類の炭素類に熱起電力の差があって、この2種類の炭素類で熱電対ができる事と、この熱電対で発現する正負両極を、電解液に浸漬した時に生ずる起電力については、未知の分野であり解明されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
金属は有限の資源で重く、生産コストが掛かる。
炭素は地球のみならず宇宙にも存在する無限の資源として容易に入手でき、軽量で導電性や熱伝導性に於ても金属に劣らず優れているほか、常温では化学的に安定しているので金属のように腐蝕をしない。
従って、電極に金属を使わないで、2種類の炭素類だけを正負の電極に用いて起電力を発生させる方法を開発するために、炭素類も種類によって熱起電力の大きさが異なり、これによって炭素類は正負の電極を発現する性質がある事の究明が、本発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
[0003]による究明をするために、次に示す3種類の炭素類の中から任意の2種類の試行検体を選んで、炭素類だけによる熱電対をつくり、発生する起電力と電流を測定した(数値は試行測定の代表値で決定値ではない。以下、同)。
◎PAN系CF:東邦テナックス社のHTA−12K E30。Tと略記。
◎グラファイト棒:5mmφ。Gと略記。
◎ピッチ系CF:三菱化学産資社のK6376U。Pと略記。
図1の接続回路による試行検体熱電対の測定値は次の通りである。
試行検体熱電対 起電力(mV) 電流(mA)
(a)正極側T3束 − 負極側P2束 0.55 0.07
(b)正極側G1本 − 負極側P1束 0.51 0.01
(c)正極側T1束+G1本 − 負極側P1束 0.59 0.02
この測定結果から、Pが示す極性と、T又はGが示す極性は、互いに反対であり、Pの熱起電力はT又はGの熱起電力と比べて小さい事が観察される。
(a)(b)は請求項1を、(c)は請求項2を、それぞれ表わす現象である事を示している。
【0005】
[0004]の試行結果を受けて、次の炭素類を電極の試行検体として図2の様に海水と純水(水温25℃)に浸漬すると、Gは正極となり、PCFは負極となって起電力が生じた(請求項3、請求項7)。
◎グラファイト棒:5mmφ×100mm長、約3,100mg。Gと略記。
◎ピッチ系CF15束:100mm長、約1,350mg。PCFと略記。
(a)海水に浸漬
正極 負極 起電力(V)
G PCF 0.332
(b)純水に浸漬
正極 負極 起電力(V)
G PCF 0.215
【0006】
[0005]で用いたグラファイト棒Gと銘柄が異なるグラファイト棒(GDと略記)を正極、PCFを負極として海水と純水に浸漬した起電力は次の通りである(請求項3、請求項7)。
(a)海水に浸漬
正極 負極 起電力(V)
GD PCF −0.270
(b)純水に浸漬
正極 負極 起電力(V)
GD PCF −0.054
【0007】
水道水にNaClを溶解したNaCl溶液(塩分濃度2.0%)にG(正極)とPCF(負極)を図2の方法で下記のように浸漬し、フェノールフタレイン溶液を滴下して3時間後に観察した(液温26℃、両極間隔25mm、両極浸漬50mm)(請求項4、請求項5、請求項6)。
(a)GとPCFを25mm離して浸漬
両極表面に気泡が密集発生 呈色:微淡紅色
(b)GとPCFを短絡して浸漬
両極表面に気泡が密集発生 呈色:微淡紅色
(c)GとPCFを300KΩで接続して浸漬
両極表面に気泡が密集発生 呈色:微淡紅色
(d)GとPCFを電解コンデンサ(4700μF10V)で接続して浸漬
両極表面に気泡が密集発生 呈色:微淡紅色
【0008】
GとGDを正負両極とし、PCFとPCFとは銘柄が異なるピッチ系CF(PCFDと略記)を正負両極として、それぞれ[0007]のNaCl溶液に浸漬し、フェノールフタレイン溶液を滴下して3時間後に観察した(請求項4、請求項5、請求項6)。
(a)GとGDを25mm離して浸漬
両極表面に気泡が密集発生 呈色:微淡紅色
(b)PCFとPCFDを25mm離して浸漬
両極表面に気泡が密集発生 呈色:微淡紅色
【0009】
[0004]の試行結果は、炭素類に熱起電力の大きさに差があるために、ゼーベック効果が働いて生ずる現象であると考察される。
[0005]の現象に於て、炭素は常温では化学的に非常に安定していて反応しないので、炭素電極が化学変化によってeを放出したり、eを受取ったとは考えられない。
2種類の炭素類の熱起電力に大きさの差があれば、電解液に炭素類を正負の電極として浸漬すると、[0004]の熱電対の場合と同様に、熱起電力が大きい方が正極、小さい方が負極を発現した。これは電極と電解液が接する面に電気二重層が形成されて起電力が生じたと考えられる。正負両極を短絡すると放電して起電力は0になるが、短絡を解くとその瞬間から電気二重層が形成を始めて起電力は回復する。
[0006]の現象は、同種の炭素類でも銘柄が異なると、熱起電力に差ができて正負両極が生じる事を示している。
[0007]の試行からは、
(負極では) 2H0+2e→H+2OH
(正極では) 2Cl→Cl+2e
(全体では) 2NaCl+2HO→2NaOH+H+Cl
の反応が起きており、正負両極の表面に発生している気泡は、HとClである事が示されている。
そして無電源でNaOHが生成され、無電源の電気分解が可能である事を示している。
又、炭素は化学的に安定していて常温では反応しないので、PCFは極性(負極)だけを発現して金属のようにeの放出をしない。
従って、水が負極で還元されるという従来の説明は成り立たない。
[0008]の現象によると、[0006]の現象のように同種の炭素類でも銘柄が異なると、正負両極が現われて起電力が生じ、NaCl溶液中で化学反応が発生している。
【0010】
以上のように、[0004][0005][0006][0007][0008]の現象と、[0009]の考察から次の事象が分かる。
金属の内部に温度勾配があると熱起電力が生じる。ある温度差に対する熱起電力の大きさは金属によって異なり、異種の2つの導線をつないだ回路が熱電対である。
異種の2つの炭素類をつないだ回路で起電力が生じた[0004]の試行により、炭素類にも熱起電力が生じて、金属と同じく熱起電力が大きい方が正極、熱起電力が小さい方が負極となり、金属のみならず炭素類だけで熱電対ができる事が示された。
そこで、金属と類似の現象を生じる炭素類について、異種の炭素類の電極を異種の金属の電極の代りに電解液に浸漬したら、どのような現象が生じるかを試行して[0005][0006][0007][0008]の現象を観察した。
これによると、電解液の中で熱起電力が大きい炭素類は正極を、熱起電力が小さい炭素類は負極を発現して起電力が生じ、無電源で電解液の化学反応が生じる。従って、熱起電力の差が大きい炭素類を創り出すと、電解液中の起電力を大きくできる事が示された。
金属と炭素類の違いは、炭素は常温で化学的に非常に安定していて化学変化を起こさないので、金属のように腐蝕しない事である。
以上の現象を確認したのが本発明の本質的な要旨であり、これを利用し応用する事が、課題を解決するための手段である。
なお、炭素類(新規を含む)が、単独又は複数で導電性物質や固化剤によって加工されたものであっても、これらは本発明の範囲内にあるものである。
【発明の効果】
【0011】
2種類の炭素類で熱電対ができて、炭素類は熱起電力の大きさと差によって正負両極を現わす事が分かった。
この2種類の炭素類を電解液に浸漬したところ、正負両極は熱電対と一致して、2種類の炭素類の間に起電力が生じ、電解液中で無電源でも化学反応が起きている事が確かめられた。
従って本発明は、次の効果がある。
(a) 熱電対に2種類の炭素類を使用できる。
(b) 電解液に2種類の炭素類を正負両極として浸漬し、電極が侵蝕されることなく電解液の化学反応を無電源で起こす事ができる。
(c) 熱起電力の差が大きい炭素類を開発すると、この2種類の炭素類の電極間に大きな起電力が得られる。
(d) 炭素類の用途が広がり、金属の節約ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
2種類の炭素類による正負の電極間に大きな起電力を生むために、熱起電力が大きい炭素類を開発する事が必要である。
その上で、本発明は例えば無電源で次の様な実施が考えられる。
(a) NaOH製造の電気分解装置の開発。
(b) 海水からNaClを除去する装置の開発。
(c) 燃料電池用のHを製造する装置の開発。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】熱電対の片方の端を開放した状態の図である。
【図2】海水又は純水に電極を浸漬した状態の図である。
【符号の説明】
【0014】
1 熱電対の異なる検体2本(長さ:各200mm)の低温(0℃)側の接続部。
2 熱電対の正極側の検体。
3 熱電対の負極側の検体。
4 負荷の正極接続端子(高温:26℃)。
5 負荷の負極接続端子(高温:26℃)。
6 負荷の正極接続端子
7 負荷の負極接続端子
8 グラファイト棒(熱起電力がピッチ系CF棒より大)(長さ:100mm)。
9 ピッチ系CF棒(長さ:100mm)。
10 海水又は純水(150ml、深さ50mm)。
11 水面
12 容器(200ml用ビーカー)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱起電力に差がある2種類の炭素類(炭素同素体を含む炭素を主成分とする物質。以下同)を正負両極として接続した熱電対。
【請求項2】
炭素類のうちから任意の2種類以上(2種類を含む)をとった集合体と、他の炭素類を正負両極として接続した熱電対。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の炭素類の正負両極を、電解液(純水を含む。以下同)に間隔をあけて浸漬すると、炭素類は化学変化をせずに両極間に起電力が生ずる発電方法。
【請求項4】
請求項3の発電方法を利用して、NaCl水溶液からNaOHを無電源で製造する装置。
【請求項5】
請求項3の発電方法を利用して、無電源により海水中のNaClを除去する装置。
【請求項6】
請求項3の発電方法を利用して、電源を用いずに燃料電池に利用するHを製造する装置。
【請求項7】
熱起電力に差がある2つの炭素類を正負の電極に用いた電池。

【図1】
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【図2】
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