説明

2重同調RFコイル

【課題】MRI装置において、周波数が互いに近い2種類の磁気共鳴周波数を持つ高周波磁場を高効率かつ均一に照射するとともに、周波数が互いに近い2種類の磁気共鳴信号を高感度かつ均一な感度分布で受信可能なRFコイルを提供する。
【解決手段】
少なくとも1つの導線のループ1を有し、当該ループには第1分岐路と第2分岐路とを備えた並列回路7が設置される。第1分岐路は第1キャパシタ2を具備し、第2分岐路は第2キャパシタ4と第1インダクタとの第1並列共振回路と第3キャパシタ6とを具備する。第1キャパシタ2は、磁気共鳴周波数が高いほうの元素に対応する第1共振周波数の信号送受信時にRFコイルが共振するための容量を有し、第2キャパシタ2の容量と第1インダクタ3の値とは、その積算値が第1共振周波数により定まる。第3のキャパシタ6は、磁気共鳴周波数が低いほうの元素に対応する第2共振周波数の信号送受信時にRFコイルが共振するための容量を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴撮像装置(MRI:Magnetic Resonance Imaging)に関わり、特に周波数が異なる2種類の磁気共鳴信号を検出するRFコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴撮像装置は、検査対象を横切る任意の断面内の原子核に磁気共鳴を起こさせ、発生する磁気共鳴信号からその断面内における断層像を得る医用画像診断装置である。
【0003】
磁気共鳴撮像法の一種であるMRS(磁気共鳴スペクトロスコピー)やMRSI(磁気共鳴スペクトロスコピックイメージング)は、生体内の代謝状態を計測する方法として用いられている。ここで、MRSとは、物質から発せられる磁気共鳴信号の周波数分布を計測する方法であり、MRSIとは、周波数分布を持つ磁気共鳴信号のある特定の周波数成分をもとに画像化する方法である。これらの撮像方法において、水素原子核(1H)の磁気共鳴信号による撮像に加えて、19F(フッ素)や31P(燐)、23Na(ナトリウム)等、1H以外の原子核による磁気共鳴画像を撮像する方法がある。1Hおよびそれ以外の原子核の磁気共鳴画像を同時に得るには、RFコイルが1Hおよび1H以外の原子核の磁気共鳴周波数で同調する必要がある。このようなコイルを2重同調RFコイルという。
【0004】
従来の2重同調RFコイルには、図20に示すようにコイルのループにインダクタとキャパシタを並列に接続したトラップ回路を挿入した2重同調RFループコイル(例えば、特許文献1や非特許文献1参照)や、均一な高周波磁場の発生および検出感度の均一化が可能な鳥かご型RFコイルにインダクタとキャパシタで構成されるトラップ回路を挿入した2重同調RFコイル(例えば、特許文献2や非特許文献2参照)が知られている。しかしながら、これらの2重同調RFコイルは、2つ磁気共鳴周波数が互いに離れている1Hと31Pを想定しているため、同調する2つの周波数が互いに近い場合、2重同調を実現するためには、トラップ回路に用いるインダクタやキャパシタの値が1μH以上または1nF以上とする必要がある。このような大きな値を持つインダクタやキャパシタは、1MHz以上では素子自体の高周波損失が無視できなくなり、RFコイルの受信感度低下および送信効率の低下を招くという問題がある。
【0005】
また、2つの磁気共鳴周波数が互いに近い場合に動作する2重同調RFコイルとして、磁気共鳴周波数の比が1:0.94である1Hと19Fを例にとると、図21に示すように、19Fで共振する鞍型RFコイルと1Hで共振する鞍型RFコイルを互いに直交させた位置に配置する鞍型2重同調RFコイルや、鳥かご型RFコイルのキャパシタの値を部分的に変化させて19Fおよび1Hの磁気共鳴周波数でコイルを共振させる2重同調RFコイルがある(例えば、非特許文献3)。しかしながら、これらのRFコイルは、2種類の磁気共鳴信号に対応するコイルの感度分布が互いに大きく異なるため、両方の信号に対して良好な感度が得られる領域が限定されるという問題がある。また、これらのRFコイルには、感度が1.4倍向上させることが可能なQD(quadrature)方式を採用することができず、QD方式のRFコイルと比べて十分な感度が得られないという問題がある。
【特許文献1】特開平6−242202号公報
【特許文献2】特許第3295851号
【非特許文献1】M.D.Schnall他著、「1H・31P核磁気共鳴信号同時検出のための新型2重同調プローブ(A New Double−Tuned Probe for Concurrent 1H and 31P NMR)」、ジャーナル オブ マグネティックレゾナンス(Journal of Magnetic Resonance)、USA、1985、65、p.122−129
【非特許文献2】Alan R.Rath他著、「2重同調鳥かご型コイルの設計と性能(Design and PeRFormance of a Double−Tuned Bird−Cage Coil)」、ジャーナル オブ マグネティックレゾナンス(Journal of Magnetic Resonance)、USA、1990、86、p.488−495
【非特許文献3】Peter M.Joseph他著、「鳥かご型イメージングコイルの2重共振動作手法(A Technique for Double Resonant Operation of Birdcage Imaging Coils)」、アイ・イー・イー・イー トランザクションズ オン メディカル イメージング(IEEE Transactions on Medical Imaging)、1989、8、p.286−294
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術による課題を解決し、互いに周波数が近い2種類の磁気共鳴周波数に同調し、2種類の磁気共鳴周波数を持つ高周波磁場を高効率かつ均一に照射するとともに、2種類の磁気共鳴信号を高感度かつ均一な感度分布で受信する2重同調RFコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明のRFコイルは、磁気共鳴周波数の異なる第1元素及び第2元素の各々に対応する第1共振周波数及び第2共振周波数で共振するRFコイルであって、少なくとも1つの導線のループを有し、前記導線のループは、第1キャパシタを具備した第1分岐路と、第2キャパシタと第1インダクタとの第1並列共振回路および第3キャパシタを具備する第2分岐路とを備えた並列回路を有している。第1共振周波数が第2共振周波数より周波数が高いときに、第1キャパシタは、第1共振周波数の信号送受信時にRFコイルが共振するための容量を有し、第2キャパシタの容量と第1インダクタの値とは、その積算値が第1共振周波数により定まり、第3のキャパシタは、第2共振周波数の信号送受信時に第1並列共振回路と第3のキャパシタとの直列回路の共振周波数が第2共振周波数より高くなる容量を有することを特徴とするRFコイル。
【0008】
本発明のRFコイルは、具体的には、円柱の表面に互いに対向して配置された2つの導体ループであって、導体ループにより生じる磁場の向きが互いに同じとなるように接続された鞍型形状コイル、鞍型形状コイル2つを一方を外側、他方を内側とし且つ磁場の向きが直交となるように配置した2重の鞍型コイル、鳥かご型コイル、TEMコイル、単一の導線のループを有する表面コイル、これら表面を併設したアレイコイルなどに適用できる。
【0009】
鳥かご型コイルの場合、前記並列回路は、例えば、複数の直線導体の各々に設置される。この場合、少なくとも1つのループ導体と複数の直線導体との接続点の間にそれぞれ少なくとも1つのキャパシタ(第4キャパシタ)が挿入されている構成とすることができる。或いは、並列回路は、ループ導体と複数の直線導体との接続点の間にそれぞれ設置される。この場合、複数の直線導体にそれぞれ少なくとも1つのキャパシタ(第4キャパシタ)が設置される構成とすることができる。
【0010】
本発明のRFコイルは、並列回路に、少なくとも1つのキャパシタが直列に接続されていることも特徴としている。
また本発明のRFコイルは、並列回路に、第1共振周波数および第2共振周波数で開放状態となるデカップリング回路が接続されていることも特徴としている。
本発明のRFコイルは、例えば、第2共振周波数が第1共振周波数の80%以上である。典型的には、第1元素は水素、第2元素はフッ素である。
【0011】
本発明の磁気共鳴撮像装置は、静磁場を形成する静磁場形成手段と、傾斜磁場を形成する傾斜磁場形成手段と、高周波磁場を形成する高周波磁場形成手段と、前記高周波磁場を検査対象に印加し検査対象からの磁気共鳴信号を検出する送受信用コイルと、前記磁気共鳴信号を受信する受信手段と、前記傾斜磁場形成手段、前記高周波磁場形成手段および前記受信手段を制御する制御手段とを備え、送受信用コイルとして上述した本発明のRFコイルを用いたことを特徴とするものである。
【0012】
また本発明の磁気共鳴撮像装置は、静磁場を形成する静磁場形成手段と、傾斜磁場を形成する傾斜磁場形成手段と、高周波磁場を形成する高周波磁場形成手段と、前記高周波磁場を検査対象に印加する送信用コイルと、検査対象からの磁気共鳴信号を検出する受信用コイルと、前記磁気共鳴信号を受信する受信手段と、前記傾斜磁場形成手段、前記高周波磁場形成手段および前記受信手段を制御する制御手段とを備え、送信用または受信用コイルの少なくとも一方のコイルとして上述した本発明のRFコイルを用いたことを特徴とするものである。この場合、本発明のRFコイルは、並列回路に、第1共振周波数および第2共振周波数で開放状態となるデカップリング回路が接続されているものを用いる。
【0013】
送信用コイルとして、典型的には、鳥かご型コイルまたはTEM型コイルが用いられる。また受信用コイルとして、例えば、1ターンの表面コイルやアレイコイルが用いられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高周波損失を伴う程の大きな値を持つキャパシタやインダクタを用いずに、互いの周波数が近い2種類の磁気共鳴信号を送受信可能なRFコイルを構成することができる。従って、インダクタやキャパシタによる高周波損失が大きく低減でき、互いの周波数が近い2種類の磁気共鳴信号に対するRFコイルの受信感度および送信効率が向上する。また、RFコイルを構成する信号送受信に寄与しないインダクタの値を小さくできるため、RFコイルの送受信効率が向上する。さらに、互いの周波数が近い2種類の磁気共鳴信号を送受信可能なRFコイルにQD方式の送受信が適用できるため、互いの周波数が近い2種類の磁気共鳴信号に対するRFコイルの送信効率および受信感度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、詳細に本発明に関するRFコイルおよび磁気共鳴撮像装置の好適な実施の形態について説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0016】
まず、本発明が適用される磁気共鳴撮像装置の全体構成について説明する。図1は磁気共鳴撮像装置の外観図であり、図中、z軸の方向が静磁場方向である。図1(a)は水平磁場方式のマグネット101を備えた磁気共鳴撮像装置で、テーブル301に寝かせられた検査対象103はマグネット101のボア内の撮像空間に挿入され撮像される。図1(b)は、垂直磁場方式のマグネット101で、検査対象103は上下一対のマグネットの間の撮像空間に挿入され撮像される。本発明は、マグネットの方式の如何に関わらず適用することができる。
【0017】
次に本発明の第1の実施の形態による磁気共鳴撮像装置について説明する。図2はその概略構成を示すブロック図である。図1と同じ要素は同じ符号で示している。図示する磁気共鳴撮像装置は、静磁場を発生するマグネット101と、傾斜磁場を発生するコイル102、静磁場均一度を調整するためのシムコイル112、シーケンサ104と、高周波磁場を発生する送受信用RFコイル116などを備えている。傾斜磁場コイル102およびシムコイル112は、それぞれ傾斜磁場電源105、シム電源113に接続されている。送受信用RFコイル116は、高周波磁場発生器106および受信器108に接続されている。シーケンサ104は、傾斜磁場電源105、シム電源113および受信器108に命令を送り、それぞれ傾斜磁場および高周波磁場を発生させる。高周波磁場は、送受信用RFコイル116を通じて検査対象103に印加される。高周波磁場を印加することにより検査対象103から発生するRF信号は送受信用RFコイル116によって検出され、受信器108で検波が行われる。受信器108での検波の基準とする磁気共鳴周波数は、シーケンサ104によりセットされる。検波された信号はA/D変換回路を通して計算機109に送られ、ここで画像再構成などの信号処理が行われる。その結果は、ディスプレイ110に表示される。検波された信号や測定条件は、必要に応じて、記憶媒体111に保存される。シーケンサ104は通常、予めプログラムされたタイミング、強度で各装置が動作するように制御を行う。
【0018】
本実施の形態の磁気共鳴撮像装置は、送受信用RFコイル116として、2種類の磁気共鳴周波数に同調し、2種類の磁気共鳴周波数を持つ高周波磁場を高効率かつ均一に照射するとともに、2種類の磁気共鳴信号を高感度かつ均一な感度分布で受信する2重同調RFコイルを備えている。以下、送受信用RFコイル116として用いられる2重同調ループコイルの実施の形態を説明する。
【0019】
図3は、本発明の第1の実施の形態を示す2重同調ループコイルの回路図である。本実施の形態の2重同調ループコイルは、送受信用RFコイル116として用いられる。本ループコイルは、ループ導体1と、ループ導体1に設置されたキャパシタ10と、並列回路7と、ポート11とを備えている。インダクタ9(L9)はループ導体1の等価インダクタンスを表している。この値は、典型的な表面コイルでは1μHである。キャパシタ10と並列回路7は、このループコイルが2つの磁気共鳴周波数で共振するように、ループ導体1に設置されている。並列回路7は、第1の分岐路と第2の分岐路を備え、一方の分岐路には、キャパシタ4とインダクタ3で構成される並列共振回路5がキャパシタ6に直列接続されている。他方の分岐路にはキャパシタ2が挿入されている。インダクタ3は、数ターンの空芯コイルにより形成されている。また、ループ導体1には、ポート11から見たときのループコイルのインピーダンスをポート11に接続するケーブルのインピーダンスと合わせるため、インピーダンス調整用のキャパシタ8が接続されている。
【0020】
キャパシタ10および並列回路7を構成するキャパシタ2、4、6およびインダクタ3は、このループコイルが2つの磁気共鳴周波数で共振するために、それぞれ適切な値となるように調整されている。以下、2つの共振周波数のうち、周波数が高い方の第1共振周波数f1が、磁場強度1.5Tにおける水素原子核の磁気共鳴周波数64MHzであり、周波数が低い方の第2共振周波数f2が、磁場強度1.5Tにおけるフッ素の磁気共鳴周波数60MHzである場合を例に説明する。
まずキャパシタ2およびキャパシタ10の値(C2、C10)は、インダクタ9(L9)とともに第1共振周波数f1(64MHz)で共振するように、次式(1)を満たし、
【数1】

かつ、次式(2)となるように調整されている。
【数2】

ここで、ω1は第1共振周波数f1の角周波数であり、α=f2/f1である。ループ導体1のインダクタ9がL9=1μHのときの典型的な値は、C2=16pF、C10=10pFである。
【0021】
また、並列共振回路5は、第1共振周波数f1で共振するようにキャパシタ4(C4)とインダクタ3(L3)の値が調整されている。インダクタ3はループコイルにおける信号の送受信には直接寄与しないため、送受信効率を高めるためには、インダクタ9の値(L9=1μH)よりも著しく小さくすることが望ましい。例えばインダクタ3(L3)は50nHとする。L3=50nHのときの典型的なキャパシタ4の値(C4)は、124pFである。また、キャパシタ6は、キャパシタ10と並列回路7がインダクタ9とともに第2共振周波数f2(60MHz)で直列共振系を形成するように調整される。このときのキャパシタ6の値(C6)は、次式(3)で表される。
【数3】

キャパシタ2、4、10の値(C2、C4、C10)から、C6=5.2pFとなる。
【0022】
次に、以上のように調整された2重同調ループコイルの動作を説明する。まず高周波磁場発生器106により周波数f1の高周波信号が2重同調ループコイルに印加されると、並列共振回路5は周波数f1で共振するため開放状態となり、ループコイルに印加される高周波信号のほとんどがキャパシタ2を流れる。よって、並列回路7はキャパシタとして動作し、ループコイルは、図4に示すような、キャパシタ2とキャパシタ10、インダクタ9で構成される直列回路と見なすことができる。この直列回路は、周波数f1で共振するようにキャパシタ2、キャパシタ10、インダクタ9の値が調整されているため、ループコイルは周波数f1で共振し、周波数f1の高周波磁場を検査対象103に印加する。高周波磁場印加後、周波数f1の磁気共鳴信号が検査対象103から放射される。このとき、2重同調ループコイルは、周波数f1の高周波信号を送信する場合と同様に周波数f1で共振するため、水素原子核の磁気共鳴信号を高感度で検出する。したがって、図3に示すループコイルは、水素原子核の磁気共鳴信号のRFコイルとして動作する。
【0023】
また、高周波磁場発生器106により周波数f2の高周波信号が2重同調ループコイルに印加されると、ループコイルのインピーダンス(Zl)は、
【数4】

となる。なお、Z7は並列回路7のインピーダンスを示す。周波数f2における並列回路7のインピーダンス(Z7)は、
【数5】

で表され、Z7=1/jω27とおくと、式(4)は、
【数6】

で表される。
【0024】
周波数f2でループコイルが共振するには、式(6)において
【数7】

を満たす必要がある。式(1)およびα=f2/f1=ω2/ω1より、式(7)は、
【数8】

となる。このとき、式(2)の条件より、X7>0となり、並列回路7は周波数f2においてキャパシタとして動作する。
【0025】
一方、式(5)および並列共振回路5の共振条件ω12=1/(L34)より、X7は、
【数9】

で表される。そこで、式(8)および式(9)をC6について解くと、式(3)が求まる。したがって、式(3)を満たすようにC6を調整することで図3に示すループコイルは周波数f2で共振し、周波数f2の高周波磁場を検査対象103に印加する。高周波磁場印加後、周波数f2の磁気共鳴信号が検査対象103から放射され、このとき図3に示すループコイルは、周波数f2の高周波信号を送信する場合と同様に周波数f2で共振し、フッ素原子核の磁気共鳴信号を高感度で検出する。したがって、図3に示すループコイルは、フッ素原子核の磁気共鳴信号用のRFコイルとして動作する。
【0026】
上述したように、本実施の形態によれば、1μH以上や1nF以上の大きな値を持つインダクタやキャパシタを用いることなく、周波数が互いに近い2種類の磁気共鳴信号を同時に送受信可能なRFコイルが実現できる。これにより、インダクタやキャパシタの高周波損失が低減でき、2種類の磁気共鳴信号に対するRFコイルの受信感度および送信効率が向上する。また、並列回路7を構成するインダクタ3の値をループ導体1のインダクタンスに比べて著しく小さくできるため、インダクタ3に蓄えられる不要な電磁エネルギーを極力減らすことができ、2つの磁気共鳴周波数におけるRFコイルの送受信効率が向上する。また、2種類の磁気共鳴信号に対するコイルの受信感度および高周波磁場の照射分布が同じであるため、2つのコイルを用いて2種類の磁気共鳴信号を検出する場合と比べて、2種類の磁気共鳴信号を同様の感度分布で検出できる領域が拡大する。さらに、図3に示すループコイルを検査対象103のある部分に密着して配置することで、密着部分周辺の2種類の磁気共鳴信号を高感度で検出することができる。
【0027】
図5に、本発明の第2の実施の形態である2重同調鞍型コイルの構成を示す。本実施の形態のコイルも送受信用RFコイル116として用いることができる。図5の構成が、図3の実施の形態と異なる点は、ループ導体1が、対向した2つのループが同一方向に磁場を発生するように接続され、各ループの面が仮想的な円柱の側面に沿うように変形した形状、すなわち鞍型コイルの形状を有していることである。コイルの形状が異なるが、図5のコイルは図3のループコイルと回路構成および動作原理は同じである。よって、図5に示すコイルは、水素原子核およびフッ素原子核の組み合わせで代表される互いに周波数が近い2つの磁気共鳴信号に対するRFコイルとして動作する。また、鞍型コイルは表面コイルと比べて、より広い領域で均一な感度分布を持つ。相反定理により、鞍型コイルは表面コイルと比べて、より広い領域で均一な分布を持つ高周波磁場を照射することができる。
【0028】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態のループコイルと同様の効果が得られ、さらに、コイルが鞍型の形状を有していることから、図6に示すように鞍型コイルの中に、被検体の腕や足、胴体などの検査対象103を配置することにより、検査対象103の表面に加えて深部方向の領域に対して、2種類の磁気共鳴信号を高感度かつ均一な分布で検出することができる。なお、本実施の形態では、図5に示すループ導体1にキャパシタ10と並列回路7を1つずつ設置しているが、複数のキャパシタ10と複数の並列回路7をループ導体1に設置してもよい。
【0029】
図7に、図5に示す2重同調鞍型コイルを2つ組み合わせたコイルの構成を示す。このコイルは、第1の2重同調鞍型コイル13と、その内側に配置される第2の2重同調鞍型コイル14とからなる。これら2重同調鞍型コイル13、14は、それぞれコイルのループ面が図7(a)に示す座標軸12のz軸と平行となるように配置されるとともに、第1の2重同調鞍型コイル13と第2の2重同調鞍型コイル14が、座標軸12のz軸を回転軸として互いに90度回転した位置となるように配置されている。図7(b)は、図7(a)のz軸方向から2重同調鞍型コイルを見た図である。図7(b)に示すように、第1の2重同調鞍型コイル13が発生する磁場の向き15と第2の2重同調鞍型コイル14が発生する磁場の向き16は直交しているため、第1の2重同調鞍型コイル13と第2の2重同調鞍型コイル14は磁気的に結合せず、それぞれ独立して2種類の磁気共鳴信号に対するRFコイルとして動作が可能である。
【0030】
図7(a)のコイルと送信・受信器との接続例を図8に示す。高周波磁場発生器106の出力は分配器23に接続されて2つに分かれ、それぞれの出力がバラン19を通って第1のポート17および第2のポート18に接続されている。また、2つの2重同調鞍型コイルからの出力は、それぞれバラン19を通って信号増幅器20に接続され、信号増幅器20の出力は位相調整器21を通して合成器22の入力に接続され、その出力が受信器108に接続されている。
【0031】
このような構成において、高周波磁場発生器106により第1共振周波数f1または第2共振周波数f2の高周波信号が送信されると、分配器23で互いの信号の位相が直交するように、信号が2つに分配され、バラン19を通って第1のポート17および第2のポート18にそれぞれ印加される。第1および第2の2重同調鞍型コイル13、14は、第1共振周波数f1および第2共振周波数f2で共振するため、高周波磁場発生器106により送られた高周波信号を高周波磁場として検査対象103に照射する。このとき、第1および第2の2重同調鞍型コイル13、14が照射する高周波磁場の位相は互いに直交しているため、検査対象103には座標軸12のz軸を中心とした回転磁界が発生する。これはいわゆるクォドラチャー(QD)送信の方式である。また、検査対象103から発生する第1共振周波数f1または第2共振周波数f2の磁気共鳴信号に対して、第1および第2の2重同調鞍型コイル13、14は、それぞれ直交する信号成分を検出する。検出された信号はそれぞれ信号増幅器20で増幅され、位相調整器21で処理が行われた後、合成器22で合成され受信器108に送られる。これはいわゆるクォドラチャー(QD)受信の方式である。
【0032】
このように本実施の形態の2重同調鞍型コイルは、QD送信およびQD受信を行うことができるため、第2の実施の形態による効果に加えて、さらに高効率で高周波磁場を検査対象103に照射し、より高感度で2種類の磁気共鳴信号を検出することができるという効果が得られる。複数のキャパシタ10と複数の並列回路7をループ導体1に設置してもよい。
【0033】
図9に、本発明の第3の実施の形態である2重同調鳥かご型RFコイル25の構成を示す。2重同調鳥かご型RFコイル25は、図9(a)に示すように2つのループ導体28、29がループ面に垂直な軸を共通の軸として対向して配置され、ループ導体28、29の軸方向に平行な複数(図9では8本)の直線導体30で接続されている。これら複数の直線導体30には、このコイルが2つの磁気共鳴周波数で共振するように、それぞれ並列回路7とキャパシタ10が挿入されている。並列回路7は、第1および第2の実施の形態の並列回路7と同様の構造を有し、図9(b)に示すように、キャパシタ4とインダクタ3で構成される並列共振回路5がキャパシタ6に直列接続された回路と、キャパシタ2で構成される。
【0034】
また隣り合う2本の直線導体30とそれらをつなぐループ導体28、29の一部とで構成されるループ面31には、図9(a)に示すように、第1共振周波数の信号を送受信するための2つのピックアップコイル26と第2共振周波数の信号を送受信するための2つのピックアップコイル27が設置されている。2つのピックアップコイル26は、QD送信およびQD受信が可能となるように、ピックアップコイル26のループに垂直な軸が互いに直交するように配置されている。この配置はピックアップコイル27についても同様である。また、ピックアップコイル26とピックアップコイル27の磁気的結合を最小限とするため、ピックアップコイル26が配置されているループ面31とピックアップコイル27が配置されているループ面31が互いに対向するように、ピックアップコイル26、27の配置が調整され、ピックアップコイル26がループ導体28に近い方に、ピックアップコイル27がループ導体29に近い方に、それぞれ配置されている。
【0035】
なお、図9では、ループ導体28、29および直線導体30自体が持つインダクタンスの表記は省略してある。
【0036】
本実施の形態のコイルにおけるキャパシタ10および並列回路7を構成するキャパシタ2、4、6およびインダクタ3は、このループコイルが2つの磁気共鳴周波数で共振するために、それぞれ適切な値となるように調整されている。以下、2つの共振周波数のうち、周波数が高い方の第1共振周波数f1が、磁場強度1.5Tにおける水素原子核の磁気共鳴周波数64MHzであり、周波数が低い方の第2共振周波数f2はが磁場強度1.5Tにおけるフッ素の磁気共鳴周波数60MHzである場合を例に説明する。
【0037】
キャパシタ2および10の値(C2、C10)は、2重同調鳥かご型RFコイル25が第1共振周波数f1(64MHz)で共振するように調整されている。また、並列共振回路5は、第1共振周波数f1で共振するようにキャパシタ4(C4)とインダクタ3(L3)の値が調整されている。インダクタ3は信号の送受信には直接関与しないため、送受信効率を高めるためには、インダクタ3の値(L3)はループ導体28、29の一部と隣り合う2本の直線導体30で構成されるループのインダクタンスよりも著しく小さくすることが望ましい。また、キャパシタ6は式(10)を満たし、
【数10】

第2共振周波数f2(60MHz)において、2重同調鳥かご型RFコイル25が共振するよう、式(3)を満たすように調整される。
【数11】

キャパシタ6の値(C6)は、キャパシタ2、4、10の値(C2、C4、C10)から求められる。
【0038】
図9に示す2重同調鳥かご型RFコイル25の寸法が、例えば、直径30cm、長さ30cmであり、ループ導体28、29および直線導体30の直径が5mmの場合、インダクタ3の値(L3)およびキャパシタ2、4、6、10の値(C2、C4、C6、C10)は、それぞれ、50nH、34pF、124pF、10.4pF、13pFである。
【0039】
図9に示す2重同調鳥かご型RFコイル25と送信・受信器との接続例を図10に示す。第1共振周波数を持つ高周波信号を発生する高周波磁場発生器106の出力は分配器23に接続されて2つに分かれ、それぞれの出力がバラン49を通ってピックアップコイル26に接続されている。第2共振周波数を持つ高周波信号を発生する高周波磁場発生器96の出力は分配器43に接続されて2つに分かれ、それぞれの出力がバラン39を通ってピックアップコイル27に接続されている。また、2重同調鳥かご型RFコイル25からの出力は、ピックアップコイル26、27に伝達される。2つのピックアップコイル26の出力は、それぞれバラン49を通って信号増幅器20に接続され、信号増幅器20の出力は位相調整器21を通して合成器22の入力に接続され、その出力が受信器108に接続されている。一方、2つのピックアップコイル27の出力は、バラン39を通って信号増幅器40に接続され、信号増幅器40の出力は位相調整器41を通して合成器42の入力に接続され、その出力が受信器98に接続されている。
【0040】
図10のバラン39、49の回路図を図11に示す。バラン39、49は、キャパシタ34(C34)とインダクタ35(L35)からなるブリッジ回路型のLCバランであり、ポート36がコイル側に接続されている。この回路は、次式(11)で与えられる周波数の近傍のみ信号を通過させる特性を持つ。
【数12】

バラン49は、fb=f1、バラン39はfb=f2となるようにキャパシタ34(C34)とインダクタ35(L35)の値が調整されている。
【0041】
次に、図9および10に示す2重同調鳥かご型RFコイル25の動作を説明する。図10に示す高周波磁場発生器106より第1共振周波数f1の高周波信号が送信されると、分配器23で互いの信号の位相が直交するように信号が2つに分配され、バラン49を通って2つのピックアップコイル26にそれぞれ印加される。図9に示す2重同調鳥かご型RFコイル25の並列共振回路5は周波数f1で共振するため開放状態となり、2重同調鳥かご型RFコイル25に印加される高周波信号のほとんどがキャパシタ2を流れ、並列回路7はキャパシタとして動作する。キャパシタ2の値は、2重同調鳥かご型RFコイル25が周波数f1で共振するように調整されているため、第1共振周波数f1の高周波磁場を検査対象103に照射する。このとき、それぞれのピックアップコイル26により2重同調鳥かご型RFコイル25が照射する高周波磁場の位相は互いに直交しているため、検査対象103には座標軸12のz軸を中心とした回転磁界が発生する。これはいわゆるクォドラチャー(QD)送信の方式である。また、検査対象103から発生する第1共振周波数f1の磁気共鳴信号に対して、2重同調鳥かご型RFコイル25は、高周波磁場照射時と同様に周波数f1で共振するため、高い感度で第1共振周波数f1の磁気共鳴信号を検出する。図10に示すピックアップコイル26、27は、2重同調鳥かご型RFコイル25が検出した第1共振周波数f1の磁気共鳴信号のそれぞれ直交する信号成分を検出し、この信号をバラン39、49に伝達する。バラン49は第1共振周波数f1の近傍のみ信号を通過させる特性を持つため、バラン39、49に伝達された信号は、バラン49からのみ出力される。バラン49からの出力信号は、信号増幅器20で増幅され、位相調整器21で処理が行われた後、合成器22で2つの受信信号が合成され受信器108に送られる。これはいわゆるクォドラチャー(QD)受信の方式である。
【0042】
図10に示す高周波磁場発生器96より第2共振周波数f2の高周波信号が送信されると、分配器43で互いの信号の位相が直交するように信号が2つに分配され、バラン39を通って2つのピックアップコイル27にそれぞれ印加される。第2共振周波数f2の高周波信号が2重同調鳥かご型RFコイル25に印加されたとき、図9に示す並列回路7のインピーダンスは、式(2)および式(10)の条件より容量性を示し、キャパシタとして動作する。このときキャパシタ6が式(3)で決まる値に調整されていることで、2重同調鳥かご型RFコイル25が周波数f2で共振するため、第2共振周波数f2の高周波磁場を検査対象103に照射する。このとき、2つのピックアップコイル27から2重同調鳥かご型RFコイル25が照射する高周波磁場の位相は互いに直交しているため、検査対象103には座標軸12のz軸を中心とした回転磁界が発生する。これはいわゆるクォドラチャー(QD)送信の方式である。また、検査対象103から発生する第2共振周波数f2の磁気共鳴信号に対して、2重同調鳥かご型RFコイル25は、高周波磁場照射時と同様に周波数f2で共振するため、高い感度で第2共振周波数f2の磁気共鳴信号を検出する。ピックアップコイル26、27は、2重同調鳥かご型RFコイル25が検出した第2共振周波数f2の磁気共鳴信号のそれぞれ直交する信号成分を検出し、この信号をバラン39、49に伝達する。バラン39は第2共振周波数f2の近傍のみ信号を通過させる特性を持つため、バラン39、49に伝達された信号は、バラン39からのみ出力される。バラン39からの出力信号は、信号増幅器40で増幅され、位相調整器41で処理が行われた後、合成器42で2つの受信信号が合成され受信器98に送られる。これはいわゆるクォドラチャー(QD)受信の方式である。
【0043】
上述してきたように、本実施の形態によれば、1μH以上や1nF以上の大きな値を持つインダクタやキャパシタを用いずに、周波数が互いに近い2つの磁気共鳴信号を同時に送受信可能なRFコイルとして動作することが可能となる。これにより、インダクタやキャパシタによる損失が低減でき、2つの磁気共鳴信号に対するRFコイルの受信感度および送信効率が向上する。また、並列回路7を構成するインダクタ3の値をループ導体1のインダクタンスに比べて著しく小さくできるため、インダクタ3に蓄えられるエネルギーを極力減らすことができ、2つの磁気共鳴周波数におけるRFコイルの送受信効率が向上する。また、QD送信およびQD受信を行うことができるため、さらに高効率で高周波磁場を検査対象103に照射し、より高感度で2つの磁気共鳴信号を検出することができる。また、鳥かご型コイルは、鞍型コイルと比べて高周波磁場の照射分布および感度分布の均一性が高いため、図5、7に示す実施の形態と比べて、さらに高い画質を持つ磁気共鳴画像を取得することが可能であり、特に頭部の撮像に有効である。
【0044】
なお図10に示す送信・受信器との接続例では、第1共振周波数および第2共振周波数の2系統の高周波磁場発生器106、96および受信器108、98を備えているが、2重同調鞍型コイルについて図8に示した1系統の高周波磁場発生器および受信器を用いることも可能である。また逆に、図8に示した2重同調鞍型コイルについて図10に示す2系統の高周波磁場発生器および受信器を用いることも可能である。
【0045】
図9に示す2重同調鳥かご型RFコイル25の変更例を図12に示す。このRFコイルは、キャパシタ50が、直線導体30ではなくループ導体28、29に挿入されている点が、図9の実施の形態と異なる。キャパシタ50がループ導体28、29に挿入された場合、キャパシタ2、6、50の値が変化するが、動作原理は図9に示す2重同調鳥かご型RFコイル25と同じである。よって、図12に示すコイルは、水素原子核およびフッ素原子核の組み合わせで代表される互いに周波数が近い2つの磁気共鳴信号に対するRFコイルとして動作する。
【0046】
図12に示す2重同調鳥かご型RFコイル25の寸法が、直径30cm、長さ30cmであり、ループ導体28、29および直線導体30の直径が5mmの場合、インダクタ3の値(L3)およびキャパシタ2、4、6、50の値(C2、C4、C6、C50)は、それぞれ、50nH、26pF、124pF、7.4pF、50pFである。
【0047】
本実施の形態の鳥かご型RFコイルは、ループ導体28、29および直線導体30の両方にキャパシタを挿入してもよい。これにより、同じ寸法の鳥かご型コイルのであってもキャパシタの値を変化させることが可能であり、キャパシタの値の設計自由度が高くなる。したがって、本実施の形態のRFコイルは、図9の実施の形態による効果に加えて、並列回路7の設計自由度が高くなり、2重同調鳥かご型RFコイル25の設計が容易となるという効果が得られる。なお図9の2重同調鳥かご型RFコイルは、素子数が少ないことからローパス型であり、本実施の形態の鳥かご型RFコイルは、ハイパス型である。
【0048】
図9に示す2重同調鳥かご型RFコイル25の別の変更例を図13に示す。このRFコイルは、並列回路7およびキャパシタ10が、直線導体30ではなくループ導体28、29に挿入されていることが、図9の実施の形態と異なる。なお、図13では、図を見やすくするため、ピックアップコイル26、27の配置を省略している。並列回路7およびキャパシタ10が、ループ導体28、29に挿入された場合、キャパシタ2、6、10の値が変化するが、図13に示すコイルは図9に示す2重同調鳥かご型RFコイル25と動作原理は同じである。よって、図13に示すコイルは、水素原子核およびフッ素原子核の組み合わせで代表される互いに周波数が近い2つの磁気共鳴信号に対するRFコイルとして動作する。
【0049】
図13に示す2重同調鳥かご型RFコイル25の寸法が、直径30cm、長さ30cmであり、ループ導体28、29および直線導体30の直径が5mmの場合、インダクタ3の値(L3)およびキャパシタ2、4、6、50の値(C2、C4、C6、C50)は、それぞれ50nH、89pF、124pF、12pF、50pFである。
この実施の形態では、並列回路7とキャパシタ10を直線導体30に配置していないため、被検体(患者)の頭部を撮像する際に、並列回路7やキャパシタ10によって視界を妨害することがない。したがって、図9の実施の形態による効果に加えて、被検体(患者)への圧迫感を軽減できるという利点がある。
【0050】
なお、本実施の形態においても、図12に示す実施の形態と同様に、直線導体30にキャパシタを挿入してもよく、それにより並列回路7の設計自由度を向上させ、2重同調鳥かご型RFコイル25の設計を容易とすることが可能である。このとき、キャパシタの位置を直線導体30の両端付近に配置することで、被検体(患者)の視界を妨げることなく、2重同調鳥かご型RFコイル25の設計を容易とすることができる。また図12および図13に示す2重同調鳥かご型RFコイルの送信・受信器との接続は、図8に示すような1系統でも図10に示すような2系統でもよく、動作は図9の2重同調鳥かご型RFコイルと同じである。
【0051】
次に本発明の第4の実施の形態である2重同調TEM型RFコイルを説明する。本実施の形態のRFコイルも送受信用RFコイル116として用いられる。図4は、本コイルの構成を示す図である。この2重同調TEM型RFコイル45は、図14(a)に示すように、円筒導体46の内側に、円筒導体46の軸に平行な複数(図13では8本)の直線導体47が円筒導体46の内側表面から一定の距離で円周方向に等間隔に配置され、その両端が円筒導体46の内側に接続されている。直線導体47と円筒導体46との接続部には、このコイルが2つの磁気共鳴周波数で共振するように、キャパシタ48と並列回路7が挿入されている。並列回路7は、第1〜第3の実施の形態の並列回路7と同様であり、図14(b)に示すように、キャパシタ4とインダクタ3で構成される並列共振回路5がキャパシタ6に直列接続された回路と、キャパシタ2で構成される。
【0052】
この2重同調TEM型RFコイルでは、各直線導体47は円筒導体46の内側とでそれぞれループを構成しているが、これらループのうち4つのループの位置51、55に、第1共振周波数の信号を送受信するための2つのピックアップコイル26と、第2共振周波数の信号を送受信するための2つのピックアップコイル27が配置されている。2つのピックアップコイル26は、ループに垂直な軸が互いに直交するように配置されている。同様に、2つのピックアップコイル27は、ループに垂直な軸が互いに直交するように配置されている。ピックアップコイル26とピックアップコイル27とは、磁気結合をなくすために、円筒導体46の異なる端部の近傍に配置される。
【0053】
なお、図14(a)に示す円筒導体46は、内部の複数の直線導体47の位置関係が分かるように、円筒導体46の側面が透明になっているが、実際には円筒導体46の側面は導体で覆われている。また図14(a)では、円筒導体46および直線導体47自体が持つインダクタンスの表記は省略してある。本実施の形態の2重同調TEM型RFコイル45と送信・受信器との接続関係は、図10と同様である。
【0054】
次に本実施の形態の2重同調TEM型RFコイル45におけるキャパシタとインダクタの調整を、第1共振周波数f1が磁場強度1.5Tにおける水素原子核の磁気共鳴周波数64MHz、第2共振周波数f2が磁場強度1.5Tにおけるフッ素の磁気共鳴周波数60MHzの場合を例に説明する。
【0055】
キャパシタ2および48の値(C2、C48)は、2重同調TEM型RFコイル45が第1共振周波数f1(64MHz)で共振するように調整されている。また、図14(b)に示す並列共振回路5は、第1共振周波数f1で共振するようにキャパシタ4(C4)とインダクタ3(L3)の値が調整されている。インダクタ3は信号の送受信には直接関与しないため、送受信効率を高めるためには、インダクタ3の値(L3)は、円筒導体46の一部と直線導体47で構成されるループのインダクタンスよりも著しく小さくすることが望ましい。また、キャパシタ6は、第3の実施の形態と同様に、次式(10)を満たし、
【数13】

第2共振周波数f2(60MHz)において、2重同調鳥かご型RFコイル25が共振するために、次式(12)を満たすように調整される。
【数14】

【0056】
次に、本実施の形態の2重同調TEM型RFコイル45が図10に示すように送信・受信器に接続されている場合の動作を説明する。高周波磁場発生器106から第1共振周波数f1の高周波信号が送信されると、分配器23で互いの信号の位相が直交するように信号が2つに分配され、バラン49を通って図14に示す2つのピックアップコイル26にそれぞれ印加される。図14(b)に示す並列共振回路5は周波数f1で共振するため開放状態となり、2重同調TEM型RFコイル45に印加される高周波信号のほとんどがキャパシタ2を流れ、図14(a)に示す並列回路7はキャパシタ2として動作する。キャパシタ2の値は、2重同調TEM型RFコイル45が周波数f1で共振するように調整されているため、第1共振周波数f1の高周波磁場を検査対象103に照射する。このとき、それぞれのピックアップコイル26により2重同調TEM型RFコイル45が照射する高周波磁場の位相は互いに直交しているため、検査対象103には円筒導体46の軸を中心とした回転磁界が発生する。これはいわゆるクォドラチャー(QD)送信の方式である。また、検査対象103から発生する第1共振周波数f1の磁気共鳴信号に対して、2重同調TEM型RFコイル45は、高周波磁場照射時と同様に周波数f1で共振するため、高い感度で第1共振周波数f1の磁気共鳴信号を検出する。図14(a)に示すピックアップコイル26、27は、2重同調TEM型RFコイル45が検出した第1共振周波数f1の磁気共鳴信号のそれぞれ直交する信号成分を検出し、この信号を図10に示すバラン39、49に伝達する。バラン49は第1共振周波数f1の近傍のみ信号を通過させる特性を持つため、バラン39、49に伝達された信号は、バラン49からのみ出力される。バラン49からの出力信号は、信号増幅器20で増幅され、位相調整器21で処理が行われた後、合成器22で2つの受信信号が合成され受信器108に送られる。これはいわゆるクォドラチャー(QD)受信の方式である。
【0057】
図10に示す高周波磁場発生器96から第2共振周波数f2の高周波信号が送信されると、分配器43で互いの信号の位相が直交するように信号が2つに分配され、バラン39を通って図14(a)に示す2つのピックアップコイル27にそれぞれ印加される。第2共振周波数f2の高周波信号が2重同調TEM型RFコイル45に印加されたとき、図14(b)に示す並列回路7のインピーダンスは、式(2)および式(10)の条件より容量性を示し、キャパシタとして動作する。このときキャパシタ6が式(12)で決まる値に調整されていることで、2重同調TEM型RFコイル45が周波数f2で共振するため、第2共振周波数f2の高周波磁場を検査対象103に照射する。このとき、それぞれのピックアップコイル27により2重同調TEM型RFコイル45が照射する高周波磁場の位相は互いに直交しているため、検査対象103には円筒導体46の軸を中心とした回転磁界が発生する。これはいわゆるクォドラチャー(QD)送信の方式である。また、検査対象103から発生する第2共振周波数f2の磁気共鳴信号に対して、2重同調TEM型RFコイル45は、高周波磁場照射時と同様に周波数f2で共振するため、高い感度で第2共振周波数f2の磁気共鳴信号を検出する。ピックアップコイル26、27は、2重同調TEM型RFコイル45が検出した第2共振周波数f2の磁気共鳴信号のそれぞれ直交する信号成分を検出し、この信号を図10に示すバラン39、49に伝達する。バラン39は第2共振周波数f2の近傍のみ信号を通過させる特性を持つため、バラン39、49に伝達された信号は、バラン39からのみ出力される。バラン39からの出力信号は、信号増幅器40で増幅され、位相調整器41で処理が行われた後、合成器42で2つの受信信号が合成され受信器98に送られる。これはいわゆるクォドラチャー(QD)受信の方式である。
【0058】
上述してきたように、本実施の形態の2重同調TEM型RFコイルも、周波数が互いに近い2つの磁気共鳴信号が同時に送受信可能なRFコイルとして動作することが可能であり、QD送信およびQD受信を行うことができるため、高効率で高周波磁場を検査対象103に照射し、より高感度で2つの磁気共鳴信号を検出することができる。また、TEM型コイルは、鳥かご型コイルと比べて、より高い周波数でも高効率で高周波磁場を照射し、高感度で磁気共鳴信号を検出することができるため、本実施の形態によって、3T以上のより高い磁場強度においても、水素原子核およびフッ素原子核の組み合わせで代表される互いに周波数が近い2つの磁気共鳴信号に対するRFコイルとして安定に動作することができる。
【0059】
次に本発明の磁気共鳴撮像装置の第2の実施の形態を説明する。図15は、本発明の第5の実施の形態に係る磁気共鳴撮像装置の概略構成を示すブロック図である。図15において、図2に示す第1の実施の形態の磁気共鳴撮像装置と同じ要素は同一の符号で示している。本実施の形態の磁気共鳴撮像装置が図2に示す装置と異なる点は、高周波磁場を送信するための送信用RFコイル107と、検査対象103から発生したRF信号を受信するための受信用RFコイル114が、別個に設けられている点であり、これら送信用RFコイル107および受信用RFコイル114は、磁気結合防止回路駆動装置115からの磁気結合防止信号により切替えられる。高周波磁場が送信用RFコイル107を通じて検査対象103に印加される時には、シーケンサ104から送られた命令により磁気結合防止回路駆動装置115から受信用RFコイル114に磁気結合防止信号が送られ、受信用RFコイル114が開放状態となり、送信用RFコイル107との磁気結合を防止する。また検査対象103から発生したRF信号を受信用RFコイル114によって受波するときは、シーケンサ104から送られた命令により磁気結合防止回路駆動装置115から送信用RFコイル107に磁気結合防止信号が送られ、送信用RFコイル107が開放状態となり、受信用RFコイル114との磁気結合を防止する。その他の構成および動作は図2の磁気共鳴撮像装置と同様である。
【0060】
次に本実施の形態の磁気共鳴撮像装置に採用される送信用RFコイルおよび受信用RFコイルの実施の形態を説明する。
【0061】
図16に、送信用RFコイルの一実施の形態として、2重同調鳥かご形RFコイル52を示す。本コイルは、図16(a)に示すように、図13に示す2重同調鳥かご型RFコイル25と類似した構造を有しているが、ループ導体28に挿入されている並列回路7が、並列回路57に置き換わった構成となっている。
【0062】
並列回路57は、図16(b)に示すように、キャパシタ4とインダクタ3で構成される並列共振回路5がキャパシタ6に直列接続された回路と、キャパシタ62とキャパシタ64が直列に接続された回路が並列に接続されている。また、キャパシタ6には、PINダイオード61とインダクタ67が直列に接続された回路が並列に接続され、キャパシタ62には、PINダイオード59とインダクタ63が直列に接続された回路が並列に接続され、キャパシタ64には、PINダイオード60とインダクタ65が直列に接続された回路が並列に接続されている。PINダイオードは、ダイオードの順方向に流れる直流電流の値が一定値以上で概ね導通状態となる特性を持ち、直流電流によりオン/オフが制御される。また、磁気結合防止回路駆動装置115の出力端子は、PINダイオード60とインダクタ65の接続点とPINダイオード59とインダクタ63の接続点に接続されている。磁気結合防止回路駆動装置115からの制御電流で並列回路57のダイオード59〜61をオン/オフ制御することにより、高周波磁場送信時には、本コイル52が送信用RFコイルとして機能し、高周波信号受信時には、高インピーダンスとなって受信用RFコイルと干渉しないようにする。この動作については後述する。
【0063】
この並列回路57は、キャパシタ62、64の値(C62、C64)を、図13(b)に示すキャパシタ2の値をC2としたとき、C62=C64=2C2となるように設定し、図13の実施の形態と同様の方法で、インダクタ3(L3)、キャパシタ4、6、62、64の値(C4、C6、C62、C64)を設定している。また、インダクタ63の値(L63)は、PINダイオード59がオンのときにキャパシタ62とインダクタ63が第1共振周波数で共振するように設定され、インダクタ65の値(L65)は、PINダイオード60がオンのときにキャパシタ64とインダクタ65が第2共振周波数で共振するように設定され、インダクタ67の値(L67)は、PINダイオード61がオンのときにキャパシタ6とインダクタ67が第2共振周波数で共振するように設定されている。
【0064】
なお送信用RFコイルとしては、図16に示す構造のほか、図5および図7に示すような鞍型RFコイル、図9および図12に示す他の鳥かご型RFコイル、図14に示すようなTEM型RFコイルも、それらの並列回路7を並列回路57に置き換えることにより、採用することができる。
【0065】
図17に、受信用RFコイルの一実施の形態として、2重同調コイル53を示す。本コイルは、図3に示す2重同調ループコイルと類似した構造を有しているが、ループ導体1に挿入されている並列回路7が、図17(b)に示す並列回路57に置き換わった構成となっている。この並列回路57は、図16に示した2重同調鳥かご形RFコイル52の並列回路57と同じ構造を有している。この並列回路57のダイオード59〜61も、磁気結合防止回路駆動装置115からの制御電流によりオン/オフ制御され、高周波信号受信時には、本コイル52が受信用RFコイルとして機能し、高周波磁場送信時には、高インピーダンスとなって送信用RFコイルと干渉しないようにする。この動作については後述する。
【0066】
並列回路57のキャパシタ62、64の値(C62、C64)は、図3に示すキャパシタ2の値をC2とすると、C62=C64=2C2となるように設定し、図3の実施の形態の場合と同様の方法で、インダクタ3(L3)、キャパシタ4、6、62、64の値(C4、C6、C62、C64)を設定している。また、インダクタ63の値(L63)は、PINダイオード59がオンのときにキャパシタ62とインダクタ63が第1共振周波数で共振するように設定され、インダクタ65の値(L65)は、PINダイオード60がオンのときにキャパシタ64とインダクタ65が第2共振周波数で共振するように設定され、インダクタ67の値(L67)は、PINダイオード61がオンのときにキャパシタ6とインダクタ67が第2共振周波数で共振するように設定されている。
【0067】
受信用RFコイルの他の実施の形態を図18に示す。図18に示すコイルは、図17に示す受信用2重同調コイル53をアレイ状に並べたものである。受信用RFコイルとしては、その他、図17の受信用2重同調コイル53のループ導体を変形させたもの、例えば、8の字RFコイルや図5に示すような鞍型RFコイルなどが採用することができる。
【0068】
上述した送信用RFコイルと受信用RFコイルの位置関係と、送信器・受信器との接続関係を説明する。図19に上述した送信用2重同調鳥かご形RFコイル52と受信用2重同調コイル53の場合を例示する。第1共振周波数を持つ高周波磁場を発生する高周波磁場発生器106の出力は分配器23に接続されて2つに分かれ、それぞれの出力がバラン49を通ってピックアップコイル26に接続されている。また、第2共振周波数を持つ高周波磁場を発生する高周波磁場発生器96の出力は分配器43に接続されて2つに分かれ、それぞれの出力がバラン39を通ってピックアップコイル27に接続されている。ピックアップコイル26、27は、図16に示す送信用2重同調鳥かご形RFコイル52に第1および第2共振周波数(f1、f2)の高周波信号をそれぞれ伝達するように配置されている。また、磁気結合防止回路駆動装置115から、送信用2重同調鳥かご形RFコイル52に設置されている複数の並列回路57に複数の制御用信号線58が接続されている。また、受信用2重同調コイル53は、送信用2重同調鳥かご形RFコイル52の内部に配置され、検査対象103に近接するように配置されている。受信用2重同調コイル53の出力端子は、バラン19を通って信号増幅器20に接続され、受信器108に接続されている。また、磁気結合防止回路駆動装置115から、受信用2重同調コイル53に設置されている並列回路57に複数の制御用信号線58が接続されている。
【0069】
次に、図16、図17および図19を用いて送信用2重同調鳥かご形RFコイル52および受信用2重同調コイル53の動作を説明する。図19に示す高周波磁場発生器106より第1共振周波数f1の高周波磁場を送信用2重同調鳥かご形RFコイル52に印加する場合、その直前に、磁気結合防止回路駆動装置115は図16(b)に示す送信用2重同調鳥かご形RFコイル52のPINダイオード59、60、61に流す制御電流66の値を0に設定するとともに、図17(b)に示す受信用2重同調コイル53のPINダイオード59、60、61がオンとなるように、直流の制御電流66を印加する。制御電流66を受信用2重同調コイル53に印加することにより、図17に示すダイオード59、60、61がオンとなり、キャパシタ62とインダクタ63からなる並列共振回路が第1共振周波数で共振し、キャパシタ64とインダクタ65からなる並列共振回路およびキャパシタ6とインダクタ67からなる並列共振回路が第2共振周波数で共振する。また、キャパシタ4とインダクタ3からなる並列共振回路は、第1共振周波数で共振するため、並列回路57は、概ね開放状態となる。その結果、受信用2重同調コイル53のインピーダンスは極めて高くなる。
【0070】
一方、図16に示す送信用2重同調鳥かご形RFコイル52では、ダイオード59、60、61に流れる制御電流66の値が0となることで、全てのダイオード9はオフとなり、図16(b)に示す並列回路57は、図13(b)示す並列回路7と等価な回路となり、送信用2重同調鳥かご形RFコイル52は、第1および第2の共振周波数(f1、f2)で共振するコイルとして動作する。したがって、送信用2重同調鳥かご形RFコイル52と受信用2重同調コイル53との磁気結合が無くなり、送信用2重同調鳥かご形RFコイル52は、磁気結合による共振周波数の移動やコイルのQ値の低下が起こることなく、第1共振周波数f1の高周波磁場を検査対象103に照射することができる。高周波磁場発生器106によって印加された第1共振周波数f1の高周波信号は、分配器23で互いの信号の位相が直交するように信号が2つに分配され、バラン49を通って2つのピックアップコイル26にそれぞれ印加される。図18に示す高周波磁場発生器96より第2共振周波数f2の高周波磁場を送信用2重同調鳥かご形RFコイル52に印加する場合についても同様の動作によって、送信用2重同調鳥かご形RFコイル52と受信用2重同調コイル53の磁気結合による共振周波数の移動やコイルのQ値の低下が起こることなく、第2共振周波数f2の高周波磁場を検査対象103に照射することができる。
【0071】
高周波磁場を印加した後、検査対象103から発せられる磁気共鳴信号を受信する際には、磁気結合防止回路駆動装置115は、図16(b)に示す送信用2重同調鳥かご形RFコイル52のダイオード59、60、61がオンとなるように制御電流66を印加し、図17(b)に示す受信用2重同調コイル53のダイオード59、60、61に流す制御電流66の値を0に設定する。制御電流66を送信用2重同調鳥かご形RFコイル52に印加することにより、図16(b)に示すダイオード59、60、61がオンとなり、キャパシタ62とインダクタ63からなる並列共振回路が第1共振周波数で共振し、キャパシタ64とインダクタ65からなる並列共振回路およびキャパシタ6とインダクタ67からなる並列共振回路が第2共振周波数で共振する。また、キャパシタ4とインダクタ3からなる並列共振回路は、第1共振周波数で共振するため、並列回路57は、第1および第2共振周波数(f1、f2)において概ね開放状態となる。その結果、第1および第2共振周波数(f1、f2)において送信用2重同調鳥かご形RFコイル52のインピーダンスは極めて高くなる。
【0072】
一方、受信用2重同調コイル53では、図17(b)に示すダイオード59、60、61に流れる制御電流66の値が0となることで、ダイオード59、60、61はオフとなり、共振形成用回路47と同調用キャパシタ1との接続が切れる。その結果、図17(b)に示す並列回路57は、図3示す並列回路7と等価な回路となり、受信用2重同調コイル53は、第1および第2の共振周波数(f1、f2)で共振するコイルとして動作する。
【0073】
したがって、検査対象から発せられる第1または第2の共振周波数(f1、f2)に対応する2つの磁気共鳴信号を受信するとき、送信用2重同調鳥かご形RFコイル52が極めて高いインピーダンスとなるため、受信用2重同調コイル53と送信用2重同調鳥かご形RFコイル52との磁気結合が無くなり、受信用2重同調コイル53は、磁気結合による共振周波数の移動やコイルのQ値の低下が起こることなく、第1および第2の共振周波数(f1、f2)に対応する2つの磁気共鳴信号を高感度かつ同時に受信することができる。受信用2重同調コイル53で受信した信号はバラン49をとおり、信号増幅器20で増幅されて受信器108で受信され、信号処理が行われ磁気共鳴画像に変換される。
【0074】
上述したように、本実施の形態によれば、高周波磁場印加時には受信用2重同調コイル53が極めて高いインピーダンスとなり、磁気共鳴信号の受信時には送信用2重同調鳥かご形RFコイル52が極めて高いインピーダンスとなることにより、互いに近い2つの磁気共鳴周波数に同調した送信用コイルと受信用コイルが、互いの磁気結合を防止することが可能となる。その結果、送信用コイルが互いに近い2種類の磁気共鳴周波数を持つ均一な高周波磁場を印加し、かつ受信用コイルが互いに近い2種類の磁気共鳴信号を高感度かつ同時に受信することができる。よって、送信コイルの形状と受信コイルの形状を独立に選択することが可能となり、照射分布の均一性が高い2重同調鳥かご形コイルやTEM型コイルを送信コイルとして用い、検査対象103の形状や大きさに応じて受信コイルの形状を選ぶことで、個々の検査対象103に最適化した磁気共鳴画像の撮像が可能となる。例えば、図18に示す受信用RFコイル54をフェイズドアレイコイルとして用いることにより、1個の受信用2重同調コイル53と比べて非常に広い領域の撮像が可能となり、検査対象103である被検体(患者)の体幹部全体に対して、互いに近い2種類の磁気共鳴信号を高感度かつ同時に受信することが可能となる。
【0075】
なお上述した実施の形態では、送信用RFコイルとして鳥かご型コイル、受信用RFコイルとして表面コイルを用いた場合を説明したが、それぞれ、第1の実施の形態の磁気共鳴撮像装置において説明した送受信用RFコイルの並列回路7を並列回路57に置き換えたものであれば、いずれのタイプを用いることも可能である。また送信用RFコイルと受信用RFコイルが別個の場合に、それぞれ本発明の2重同調RFコイルを用いた場合を説明したが、一方のみに本発明の2重同調RFコイルを採用したものも本発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明が適用される磁気共鳴撮像装置の外観を示す図。
【図2】本発明の磁気共鳴撮像装置の第1の実施の形態の概略構成を示すブロック図。
【図3】本発明の送受信用RFコイルの第1の実施の形態(2重同調ループコイル)を示す図。
【図4】図3の2重同調ループコイルの、第1の共振周波数における等価回路を示す図。
【図5】本発明の第2の実施の形態の送受信用RFコイル(2重同調鞍型コイル)を示す図。
【図6】図5の2重同調鞍型コイルと検査対象の位置関係を示す図。
【図7】2つの2重同調鞍型コイルを組み合わせた例を示す図。
【図8】図7のコイルと送信器・受信器との接続例を示すブロック図。
【図9】本発明の送受信用RFコイルの第3の実施の形態(2重同調鳥かご型RFコイル)を示す図。
【図10】図9に示す2重同調鳥かご型RFコイルと送信・受信器との接続例を示すブロック図。
【図11】図10の回路に含まれるバランの回路構成を示す図。
【図12】図9に示す2重同調鳥かご型RFコイルの変形例を示す図。
【図13】図9に示す2重同調鳥かご型RFコイルの他の変形例を示す図。
【図14】本発明の送受信用RFコイルの第4の実施の形態(2重同調TEM型RFコイル)の構成を示す図である。
【図15】本発明の磁気共鳴撮像装置の第2の実施の形態の概略構成を示すブロック図。
【図16】本発明の送信用RFコイルの第1の実施の形態(送信用2重同調鳥かご形コイル)の回路図。
【図17】本発明の受信用RFコイルの第1の実施の形態(受信用2重同調コイル)の回路図。
【図18】本発明の受信用RFコイルの第2の実施の形態(2重同調アレイコイル)の回路図。
【図19】図16の送信用2重同調鳥かご形RFコイルと図17の受信用2重同調コイルの位置関係と、送信器・受信器との接続関係を表す模式図。
【図20】従来の2重同調RFコイルの構成を示す図。
【図21】従来の2重同調鞍型RFコイルの構成を示す図。
【符号の説明】
【0077】
1、28、29 ループ導体
2、4、6、10、34、48、50、62、64 キャパシタ
3、9、35、63、65、67 インダクタ
5 並列共振回路
7、57 並列回路
8 インピーダンス調整用キャパシタ
12 座標軸
13 第1の2重同調鞍型コイル
14 第2の2重同調鞍型コイル
19、39、49 バラン
24 鳥かご型ループ
25 2重同調鳥かご型RFコイル
26 第1のピックアップコイル
27 第2のピックアップコイル
30、47 直線導体
31 ループ面
45 2重同調TEM型RFコイル
46 円筒導体
51 ループ
52 送信用2重同調鳥かご形RFコイル
53 受信用2重同調コイル
54 2重同調アレイコイル
59、60、61 PINダイオード
96、106 高周波磁場発生器
98、108 受信器
101 静磁場を発生するマグネット
102 傾斜磁場を発生するコイル
103 検査対象
104 シーケンサ
105 傾斜磁場電源
107 送信用RFコイル
109 計算機
110 ディスプレイ
111 記憶媒体
112 シムコイル
113 シム電源
114 受信用RFコイル
115 磁気結合防止回路駆動装置
116 送受信用RFコイル
301 テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの導線のループを有し、磁気共鳴周波数の異なる第1元素及び第2元素の各々に対応する第1共振周波数及び第2共振周波数で共振するRFコイルであって、
前記導線のループは、第1キャパシタを具備した第1分岐路と、第2キャパシタと第1インダクタとの第1並列共振回路および第3キャパシタを具備する第2分岐路とを備えた並列回路を有し、
前記第1共振周波数が前記第2共振周波数より周波数が高いときに、前記第1キャパシタは、前記第1共振周波数の信号送受信時に前記RFコイルが共振するための容量を有し、
前記第2キャパシタの容量と前記第1インダクタの値とは、その積算値が前記第1共振周波数により定まり、
前記第3のキャパシタは、前記第2共振周波数の信号送受信時に前記第1並列共振回路と前記第3のキャパシタとの直列回路の共振周波数が前記第2共振周波数より高くなる容量を有することを特徴とするRFコイル。
【請求項2】
請求項1に記載のRFコイルであって、
前記導線のループは、仮想円柱の表面に、当該仮想円柱の中心軸を通る面に対し略面対称に配置された2つの導体ループを、該導体ループにより生じる磁場の向きが互いに同じとなるように接続してなる鞍型コイルであることを特徴とするRFコイル。
【請求項3】
請求項2に記載のRFコイルであって、
前記導線のループとして、半径が異なる2つの鞍型コイルを備え、
前記半径が異なる2つの鞍型コイルが共通の軸を有し、該鞍型コイルにより生じる磁場の向きが互いに直交するように配置されていることを特徴とするRFコイル
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のRFコイルであって、
前記並列回路に、少なくとも1つのキャパシタが直列に接続されていることを特徴とするRFコイル。
【請求項5】
請求項1に記載のRFコイルであって、
前記RFコイルは、互いに対向して配置された2つのループ導体と、両端がこれら2つのループ導体に接続された、前記ループ導体の軸方向に平行な複数の直線導体とからなり、隣接する2本の前記直線導体とそれら2本の直線導体を接続するループ導体の一部とで前記導線のループが構成される鳥かご型RFコイルであることを特徴とするRFコイル
【請求項6】
請求項5に記載のRFコイルであって、
前記並列回路が、前記複数の直線導体にそれぞれ少なくとも1つ設置されていることを特徴とするRFコイル。
【請求項7】
請求項6に記載のRFコイルであって、
少なくとも1つの前記ループ導体の、隣接する直線導体が接続された接続点の間にそれぞれ少なくとも1つのキャパシタが挿入されていることを特徴とするRFコイル。
【請求項8】
請求項5に記載のRFコイルであって、
前記並列回路が、前記ループ導体の、隣接する直線導体が接続された接続点の間にそれぞれ設置されていることを特徴とするRFコイル。
【請求項9】
請求項8に記載のRFコイルであって、
複数の前記直線導体にそれぞれ少なくとも1つのキャパシタが設置されていることを特徴とするRFコイル。
【請求項10】
請求項1に記載のRFコイルであって、
前記RFコイルは、円筒状導体と、該円筒状導体の内側に、該円筒状導体の内側表面から一定の距離で該円筒状導体の円周方向に等間隔に配置された該円筒状導体の軸に平行な複数の直線導体とからなり、各直線導体の両端が前記円筒状導体の内側表面と導体で接続され、前記導線のループを形成するTEM型コイルであって、前記並列回路が各直線導体または各直線導体と円筒状導体とを接続する導体に設置されていることを特徴とするRFコイル。
【請求項11】
請求項10に記載のRFコイルであって、
前記並列回路に、少なくとも1つのキャパシタが直列に接続されていることを特徴とするRFコイル。
【請求項12】
請求項1に記載のRFコイルであって、
前記導線のループが1ターンのループからなる表面コイルであることを特徴とするRFコイル。
【請求項13】
請求項12に記載のRFコイルであって、
前記表面コイルを、略同一面内に複数配置したアレイコイルであることを特徴とするRFコイル。
【請求項14】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載のRFコイルであって、
前記第2共振周波数が、前記第1共振周波数の80%以上であることを特徴とするRFコイル。
【請求項15】
請求項14に記載のRFコイルであって、
前記第1元素は水素で、前記第2元素はフッ素であることを特徴とするRFコイル。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれか1項に記載のRFコイルであって、
前記並列回路に、前記第1共振周波数において開放状態となる第2並列共振回路と前記第2共振周波数において開放状態となる第3並列共振回路が接続されていることを特徴とするRFコイル。
【請求項17】
静磁場を形成する静磁場形成手段と、傾斜磁場を形成する傾斜磁場形成手段と、高周波磁場を形成する高周波磁場形成手段と、前記高周波磁場を検査対象に印加し検査対象からの磁気共鳴信号を検出する送受信用コイルと、前記磁気共鳴信号を受信する受信手段と、前記傾斜磁場形成手段、前記高周波磁場形成手段および前記受信手段を制御する制御手段と、を備える磁気共鳴撮像装置であって、
前記送受信用コイルとして、請求項1ないし15のいずれか1項に記載のRFコイルを用いたことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項18】
静磁場を形成する静磁場形成手段と、傾斜磁場を形成する傾斜磁場形成手段と、高周波磁場を形成する高周波磁場形成手段と、前記高周波磁場を検査対象に印加する送信用コイルと、検査対象からの磁気共鳴信号を検出する受信用コイルと、前記磁気共鳴信号を受信する受信手段と、前記傾斜磁場形成手段、前記高周波磁場形成手段および前記受信手段を制御する制御手段と、を備える磁気共鳴撮像装置であって、
前記送信用コイルとして、請求項16に記載のRFコイルを用いたことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項19】
静磁場を形成する静磁場形成手段と、傾斜磁場を形成する傾斜磁場形成手段と、高周波磁場を形成する高周波磁場形成手段と、前記高周波磁場を検査対象に印加する送信用コイルと、検査対象からの磁気共鳴信号を検出する受信用コイルと、前記磁気共鳴信号を受信する受信手段と、前記傾斜磁場形成手段、前記高周波磁場形成手段および前記受信手段を制御する制御手段と、を備える磁気共鳴撮像装置であって、
前記受信用コイルとして、請求項16に記載のRFコイルを用いたことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項20】
請求項18に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記受信用コイルとして、請求項16に記載のRFコイルを用いたことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項21】
請求項20項に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記送信用コイルが、鳥かご型又はTEM型コイルであり、前記受信用コイルが、表面コイル又はアレイコイルであることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項22】
請求項17ないし21のいずれか1項に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記高周波磁場形成手段および前記受信手段は一系統であって、一系統の高周波磁場形成手段および受信手段を複数の導線のループに分配する手段を備えたことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項23】
請求項17ないし21のいずれか1項に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記高周波磁場形成手段および前記受信手段は二系統であって、一方の系統は複数の導線のループの一つに接続され、他方の系統は複数の導線のループの他の一つに接続されることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2007−325826(P2007−325826A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160818(P2006−160818)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】