説明

2重集束を有する磁気色消し質量分析計

たとえば2重集束を用いたSIMSタイプの色消し磁気質量分析計(200)であって、2次の4つの収差を相殺する手段(202、212、215、221)および軸外色消し性を相殺し、質量の分散を調節する手段(201、222)を備えることを特徴とする色消し磁気質量分析計(200)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2重集束を用いた色消し磁気質量分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計は、サンプルまたは分析物の構成分子の化学的構造が特徴付けられることを可能にするデバイスである。そのため、質量分析は、サンプルから、その分子重量またはその分子構造に関する情報を抽出するために、通常、数ピコモルのサンプルを必要とするだけである微小分析技法である。種々のタイプの質量分析計が存在し、その中で、飛行時間質量分析計、4重極質量分析計、および磁気質量分析計が主に留意される可能性がある。たとえば特に種々のタイプの質量分析計およびそれらの動作原理を紹介している1968年にInterscience出版社から出版されたJohn Robozによる出版物、Introduction to mass spectrometry、Instrumentation and techniquesまたは、1997年にLippincott−Ravenによって出版されたJ.Throck Watsonによる出版物、Introduction to Mass Spectrometryなどの一般的な出版物に対して参照が行われてもよい。磁気質量分析計は、さらに、単一集束を用いた分析計と2重集束を用いた分析計に分離される。質量分析計の光学特性に関連する理論的側面に関係する限り、1987年にAcademic Pressによって出版されたH.Wollnikによる研究、Optics of charged particlesに対して参照が行われてもよい。
【0003】
以下では、資格「光学的な(optical)」は、そのより広い意味で受容されるものとして考えられ、ここではイオン光学に適用される。
【0004】
1つの特定のタイプの質量分析は、一般に、「2次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry)」という表現についての頭字語であるSIMSという名前で示される。この分析技法に固有の問題の1つは、質量分析計で加速されたイオンが大きなエネルギー分散を示すことである。質量分析計、特に大きなエネルギー分散を示すイオンを含むデバイスの色収差特性に関して、1987年にJohn Wileyによって出版されたBenninghoven等による研究、Secondary Ion Mass Spectrometryに対して参照が行われてもよい。この出版物は、特に、SIMS技法を扱う。
【0005】
本発明は、特に、SIMSタイプの質量分析計の分野に入る。このタイプの分析計では、2次イオンの抽出のための原理が放出イオンのエネルギーの大きな分散をもたらすことが知られている。サンプルと磁気セクションとの間でSIMSタイプの質量分析計内に、静電セクションが有利には導入されてもよいことがさらに知られており、この静電セクションが、少なくとも1つの質量について質量分析計を色消しにするように設計されている。磁気セクションによって生成される磁界を変えることが一般に可能である。これは、たとえば磁界が電磁石によって生成される場合、電気励起を変えることによって容易に達成される。この場合、色消し性についての条件は、所与の質量ではなく、特定の軌道に関連する。この軌道が分析計の主軸と考えられる場合、分析計は、軸に関して色消性があり、軸から離れるまたは「軸外(off−axis)」であると色消し性がないと言われる。
【0006】
なおより詳細には、本発明は、「シングルコレクション(single−collection)」と呼ばれる、換言すれば軸に沿って質量を測定できる分析計と、「マルチコレクション(multi−collection)」と呼ばれる、換言すればいくつかの質量を同時に測定できる分析計の両方に関する可能性がある。たとえば、質量分析計の焦点面内に複数のコレクタを配設することによっていくつかの質量を同時に測定することが可能である。軸上質量と異なる所与の質量の焦点で観測されるぼやけは、イオンのエネルギー分布が比較的広い場合、軸外色収差と呼ばれる。先の出版物に提示されるH.Wollnikの表記を使用して、このぼやけは、式
Δ×1=(x/em)×(ΔE/E)×(M1−M0)/M0
によって規定される収差係数x/emによって特徴付けられてもよい。式中、M0は良好な色集束がそれについて存在する主軸上の質量であり、ΔEはビームのエネルギー分散であり、Δ×1は質量M1の軌道が開口で集束される場所で形成されるぼやけである。
【0007】
軸外質量分解能を改善するために、ぼやけΔ×1を減少させることが望ましい。このぼやけを減少させるために、目的は、係数x/emを相殺することである。したがって、マルチコレクション質量分析計では、質量の良好な分解能を保証するために、種々の質量が、軸外色収差をなくすまたは大幅に減少させることができることが必要である。
【0008】
軸上で色消し性であるように構築される種々のタイプの質量分析計が従来技術から知られている。これらのタイプの分析計の中で、ニアージョンソン(Nier−Johnson)分析計が述べられてもよい。
【0009】
従来技術から同様に知られているマッタウヘルツォク(Mattauch−Herzog)分析計は、特に、磁石の出口面が入口点に整列することによって特徴付けられる。この特定の構成は、ある数の顕著な特性を使用可能にし、特に、色消し性が種々の質量について得られることを可能にする。しかし、質量分析計が質量の大きな分散を有することが非常に有利であることがあり、この場合、マッタウヘルツォク分析計は適さない。
【0010】
質量の分解能を上げる目的で、2次の収差をなくすまたは減少させることが好ましいことがさらに知られている。静電セクションおよび磁気セクションなどの、主軸の周りに軸対称でない要素の質量分析計における使用が、2次の収差をもたらすことがここで思い起こされる。これらの収差は、定義上、集束プロセスによって補正されることができない。磁気セクションおよび静電セクションを備える質量分析計において4つのタイプの2次の収差が生成され、これらの2次の収差は、光学またはイオン光学の分野における使用に従って、ラジアル平面内の開口角度の2乗に比例するx/aaで示す第1の収差、横断平面内の開口角度の2乗に比例するx/bbで示す第2の収差、ラジアル平面内の開口角度およびエネルギーの相対的な差に比例するx/aeで示す第3の収差、およびエネルギーの相対的な差の2乗に比例するx/eeで示す第4の収差で示される。
【0011】
静電セクションおよび磁気セクションおよび他のイオン光学デバイスの各幾何学的パラメータが、4つの2次収差係数が互いに相殺されるように計算されてもよいことが知られている。たとえば、H.Matsudaによる研究、Double focusing mass spectrometer of second order,International Journal of Mass Spectometry and Ion Processes,14(1974)に対して参照が行われてもよい。この出版物では、一組の非常に精密に確定された物理的および幾何学的パラメータを持つように設計された2重集束を用いた分析計が、特に提案されている。このタイプの解決策は、いくつかの欠点を有し、収差についての補正を調整する可能性は存在せず、また、計算が完全に正確でない場合、収差は、実際には相殺されない。
【0012】
さらに、このタイプの分析計は、有利になることが望まれる性能仕様のタイプ、たとえば、軸上だけでの質量の非常に良好な分解能、または、マルチコレクションによって検出される全ての質量についての適度に良好な分解能に従って異なるように調整されることができない。最後に、このタイプの分析計は無収差(stigmatic)でなく、換言すれば、分析計の出口に、マスフィルタリングされた(filtered in mass)サンプル画像が表示されることを可能にするイオン顕微鏡機能を配設することは不可能である。
【0013】
6重極が2次の収差を補正できることも知られている。たとえば、Wollnikによる先の研究に対して参照が行われてもよい。6重極は、主軸の周りに配設され、かつ、+Vまたは−Vの電位で交互にバイアスされた一組の6つの極である。
【0014】
従来技術から知られている分析計、欧州特許出願公開第0124440号に記載されるような単一集束を用いた質量分析計または米国特許第4,638,160号に記載されるような2重集束を用いた質量分析計は、補正用静電6重極を装備する。収差を減少させるために静電6重極を導入する利点は、6重極の励起電圧を調整し、一方同時に、たとえば計数機構の上流に配設される分析計の出口スリットの縁部にわたるビームの走査、または、出口スリットの平面内のイオンビームの画像の、マイクロチャネルウェハなどのイオン−光子変換デバイス上への投影から生じる信号などの、スポットの鋭さに特有の信号を観測することによって、できる限り精密に収差補正を調整することが可能であることである。
【0015】
無収差2重集束を用いた質量分析計では、ラジアル平面の画像と横断平面の画像との間の拡大の差が生成されない限り、上述した2次の第1および第2の収差x/aaおよびx/bbを同時に相殺することが可能ではないことが知られているが、この拡大の差が、欧州特許出願公開第0473488号に記載されるような適切な手段で生成される場合、これらの2つの収差を同時に相殺することが可能であることも知られている。
【0016】
1995年にJohn Wileyによって出版されたE.de Chambost等による文献、Achieving High Transmission with the Camera IMS1270、Secondary Mass Spectrometry,SIMSXに対して参照が行われてもよく、その文献では、入口スリットと静電セクションとの間に位置する6重極、磁気セクションの上流に位置する6重極、磁気セクションの下流に位置する6重極を用いて、上述した最初の3つの2次の収差x/aa、x/bb、およびx/aeが相殺される可能性があることが特に述べられている。この構成は、10,000程度の質量の分解能についての透過がかなり改善されることを可能にする。しかし、2次の第4の収差x/eeは相殺されず、20,000より大きな質量の分解能が必要とされるときに重大な欠点を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の1つの目的は、軸外色収差と共に4つの2次の収差を大幅に減少させる一方、同時に、質量の分散の調節、たとえば、モバイルコレクタの移動を低減するため焦点面上に質量を集中させるための質量の分散の減少、またはマルチコレクションシステムを用いて密接に離間した質量を測定できるための質量の分散の増加を可能にするための解決策を提供することによって少なくとも上述した欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このために、本発明の主題は、イオン源、入口スリット、静電セクション、磁気セクション、および少なくとも1つのイオン質量の同時検出のための手段を備える2重集束(double focusing)を用いた磁気質量分析計であり、磁気質量分析計は、
・イオン源と静電セクションの出口との間に設置され、イオンビームを、質量分析計の主軸上に集束させる第1の静電デバイスと、
・磁気セクションの下流に配設され、径方向電界であって、対象となる地点が軸から遠くなればなるほど高くなり、また、低い質量の側および高い質量の側のそれぞれの符号が反対である、径方向電界を、長手方向対称平面内に生成する第2の静電デバイスとを備え、
・静電セクションは、+Ve電圧が印加される外部電極および−Ve電圧が印加される内部電極を備える切頭球形静電セクションであり、外部電極および内部電極は、外部電極の両側に配設されかつ電圧Vextが印加される一対の外部平行板、および、内部電極の両側に配設されかつ電圧Vintが印加される一対の内部平行板をさらに備え、前記一対の内部および外部平行板は第1の静電デバイスを形成し、
外部および内部平行板にそれぞれ印加される電圧Vext、Vintは、軸上質量に相当するイオンビームが主軸上に常に集束されたままになるように質量の分散を調節するために、または、軸外色収差(off−axis chromatism)を相殺するために、第2の静電デバイスが作動されるたびに、同じ電圧差ΔVだけ調整されることを特徴とする。
【0019】
本発明の一実施形態では、磁気質量分析計は、第2の静電デバイスが、質量分析計の主軸上に中心を持つ静電レンズおよび/または4重極および/または8重極であって、横断平面内でかつラジアル軸に垂直な軸上に位置するその北極および南極は電位Vでバイアスされ、北極および南極によって画定される軸に垂直な、ラジアル平面内に位置する軸上に位置するその東極および西極は電位−Vでバイアスされる、静電レンズおよび/または4重極および/または8重極を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の一実施形態では、磁気質量分析計は、第1の静電デバイスが、スティグメータ(stigmtor)として作動されるレンズおよび/または4重極および/または多重極を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の一実施形態では、質量分析計は、2次の収差を相殺する手段をさらに備え、前記手段は、
−x/bbの2次の収差を相殺する第1の6重極と、
−x/eeの2次の収差を相殺する第2の6重極と、
−x/aeの2次の収差を相殺する第3の6重極と、
−x/aaの2次の収差を相殺する第4の6重極と
を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明の他の特徴および利点は、例として提示される説明を読むことによって、また、添付図面に関して明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来技術から知られている軸上色消し磁気質量分析計の略図である。
【図2】本発明による磁気質量分析計の一例の全体組立て図である。
【図3a】本発明による磁気質量分析を装備するデバイスのための1つの好ましい実施形態を示す図である。
【図3b】本発明による磁気質量分析を装備するデバイスのための1つの好ましい実施形態を示す図である。
【図3c】本発明による磁気質量分析を装備するデバイスのための1つの好ましい実施形態を示す図である。
【図3d】本発明による磁気質量分析を装備するデバイスのための1つの好ましい実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、従来技術から知られている軸上色消し磁気質量分析計を略図によって示す。
【0025】
磁気質量分析計100は、ラジアル平面内の断面を通して示される。質量分析計100は、入口スリット101および出口スリット102を備える。ダイヤフラム103が、入口スリット101の下流に位置する。静電セクション104は、ダイヤフラム103の下流に位置する。磁気セクション105は、静電セクション104の下流に配設される。光学デバイス106は、静電セクション104と磁気セクション105との間に位置する。
【0026】
ラジアル平面は、入口スリット101の大きな寸法に垂直でかつ質量分析計100の主軸を含む質量分析計の対称平面として画定されることが最初に思い起こされる。所与の地点で、横断平面は、ラジアル平面に垂直でありまた同様に質量分析計100の主軸を含む平面として画定される。
【0027】
明確にするために、質量分析計自体は、入口スリット101の下流に位置し、入口スリット101までのイオン化デバイスおよびイオンビーム形成デバイスは図に示されないことが考えられる。同様に、出口スリット102の下流に位置する収集および測定デバイスは示されない。
【0028】
ラジアル平面において、イオンビームの開口角度θは、aで示される。図に示されない横断平面におけるイオンビームの開口角度はbで示される。
【0029】
図に示す質量分析計は、ニアージョンソン分析計である。このタイプの分析計は、軸上色消し質量分析計の一例である。質量分析計100の物理的および幾何学的特徴の特定の構成は、質量の所与の分解能を用いて所与の質量の軸における測定を可能にする。
【0030】
図2は、本発明による磁気質量分析計の一例の全体組立て図を示す。
【0031】
磁気質量分析計200は、入口スリット101、明確にするために図に示されない複数のコレクタに向かうイオンビームをフィルタリングするように設計された複数の出口スリット102を備える。磁気質量分析計200はまた、第1のダイヤフラム103、静電セクション104、および磁気セクション105を備える。磁気質量分析計200はさらに、静電セクション104の上流で入口スリット101の下流に位置する第1の静電デバイス201、および、第1の静電デバイス201の下流でかつダイヤフラム103の上流にある第1の6重極202を備える。
【0032】
静電セクション104の下流でかつ磁気セクション105の上流で、質量分析計200は、直列に、第1の光学デバイス211、第2の6重極212、第2のダイヤフラム213、第2の光学デバイス214、第3の6重極215、および第3の光学デバイス216を備える。
【0033】
磁気セクション105の下流でかつ出口スリット102の上流で、質量分析計200は、直列に、第4の6重極221および第2の静電デバイス222を備える。
【0034】
もちろん、ここで提示される構成は、例として与えられることが呼び起され、当業者は、複数の等価な構成を想定してもよく、光学および静電デバイスは、軸対称レンズ、ラジアル平面および横断平面でそれぞれ可変効率の異方性レンズを特に備えうる静電イオン光学システム、または、2重集束を用いた質量分析計で一般に使用されるデバイスなどの、軸上色消し性が得られることを可能にする多重極、またはさらに、たとえばE.de Chambost等による上述した出版物に記載されるように、横断平面内の軌道が異なるように同様に処理されることを可能にする多重極としてより広い意味で考えられるべきである。
【0035】
入口スリット101と静電セクション104の出口との間、磁気セクション105と出口スリット102との間にそれぞれ位置する、第1の静電デバイス201と第2の静電デバイス222との間での組合せが存在し、質量の分散を調節する問題と軸外色収差をなくす問題の両方が解決されることを可能にする。両方の場合、アクティブであるのは第2の静電デバイス222であるが、第2の静電デバイス222が検出平面内で入口スリット101の画像の焦点ずれ(defocusing)を生成するため、この効果は、第1の静電デバイス201によって補償されなければならない。第1の静電デバイス201は、軌道が質量的に分散する領域または軌道がエネルギー的に分散する領域に配置されてはならない。
【0036】
軸外色収差x/emを相殺するために、本発明の考えは、集束デバイス−第2の静電デバイス222−を、軌道が質量的に分散する場所、換言すれば、磁気セクション105と出口スリット102との間に部分的に配設することである。第2の静電デバイス222は、必然的に中心に比べて周辺の周りでより効率が高く、その収束(convergence)は、必然的に粒子のエネルギーに反比例する。換言すれば、こうしたデバイスは、軌道の変位
Δx=K(ΔE/E)(M1−M0)/M0
を生成する。
【0037】
これは、軸外色収差と反対になるように適切に調整される必要があるだけである。この調整は、たとえば、適した計算プログラムによって、または、エネルギーのシフトから生じるビームの鋭さまたはビームの変位が特徴付けられることを可能にする適切な測定によって実行されてもよい。この計算に適合するプログラムの中で、「ISIOS:a program to calculate imperfect charged particle optical systems」(Nucl.Instr.and Meth.in Phys.Res.,Vol.363,n°1,1995,pp.416−422)の中でM.I.Yavor,A.S.Berdnikovによって述べられるISIOS、または、「Principles of GIOS and COSY(AIP Conference Proceedings,ed.C.Eminhizer,Vol.177(1988),pp.74−75)の中でH.Wollnik等によって述べられるGIOSが述べられてもよい。
【0038】
問題が、軸外収差を減少させることではなく、質量の分散を調節することであるとき、この同じ静電デバイス222は、異なる励起を用いて使用される、換言すれば、異なる電圧でバイアスされてもよい。
【0039】
両方の場合、換言すれば、軸外色収差を相殺する問題および質量の分散を調節する問題では、好ましくない2次効果は、入口スリットの画像の平面の変位である。この好ましくない2次効果は、第1の静電デバイス201によって補償され、対象となるイオンの質量がどれだけであっても、軌道に同じ影響を及ぼす。
【0040】
磁気セクション105の下流の第2の静電デバイス222は、軸に垂直な平面内で、対象となる地点が軸から遠くなればなるほど増加する電界を生成する。この電界は、場所−低い質量の側または高い質量の側−に応じて反対の符号である。これらの静電手段は、軸上に中心を持つ静電レンズ、換言すれば、印加電圧によってバイアスされた一連の軸対称電極でありうる。これらの静電手段はまた、反対極の対のうちの1つの対を含む平面が分析計のラジアル平面を含むような4重極デバイスであってよい。これらの静電手段はまた、OxおよびOy軸上に位置する極が4重極として励起され、対角線上の極がゼロに設定される8重極であってよい。
【0041】
入口スリット101と静電セクション104の出口との間に位置する静電手段は、磁石と検出器との間に位置するデバイスの作動によって乱される開口における集束を再編成するように設計される。
【0042】
全ての色収差を相殺するために、本発明は、一組の賢明な方法で位置決めされた4つの6重極と、ラジアル平面および横断平面におけるビームの相対的拡大が、2つの端部6重極間で、すなわち第1の6重極202と第4の6重極221との間で修正されることを可能にするシステムの両方を提供する。
【0043】
図の例で入口スリット101と静電セクション104との間に配設される第1の6重極202は、2次の第2の収差x/bbの相殺に専用である。
【0044】
磁気セクション105と出口スリット102がその上に位置する検出平面との間に配設される第4の6重極221は、2次の第1の収差x/aaの相殺に専用である。
【0045】
エネルギーにおけるスリットを形成する第2のダイヤフラム213の近くに配設される第2の6重極212は、2次の第4の収差x/eeの相殺に専用である。
【0046】
第2のダイヤフラム213と磁気セクション105との間に配設される第3の6重極215は、2次の第3の収差x/aeの相殺に専用である。
【0047】
特に光学デバイス211、214、および216を備える、ラジアル平面および横断平面内での拡大が変更されることを可能にするシステムは、たとえば、上述した欧州特許出願公開第0473488号に記載されるシステムであってよい。
【0048】
図3aは、本発明による磁気質量分析計200の磁気セクション105のための1つの好ましい実施形態を示す。
【0049】
質量分析計の構造は、たとえばニアージョンソンタイプである。磁気セクション105は、主軸上で90°の角度でイオンの軌道の偏向を生成する。磁気セクション105では、主軸上のイオンの軌道は、585mmに等しい曲率半径を示す。磁気セクション105の入口および出口面301および302は、軸に垂直な平面に関して27°の角度に対向して、従来技術自体から知られている構成に従って、磁気セクション105に無収差特性を与える。主軸上の質量の焦点は、磁気セクション105の出口から1220mmの距離に位置する。
【0050】
図3bは、第2の静電デバイス222のための1つの好ましい実施形態を示す。3つの異なる質量M0、M1、M2について3つの異なる軌道が示される。M0は、主軸上の質量である。正接平面Pも示され、この平面Pは、種々の質量M0、M1、M2がそこに集束される表面に対する近似である。
【0051】
図3cは、第2の静電デバイス222を形成する8重極の例の好ましい実施形態の斜視図を示す。8重極222は、主軸の周りに配設された8つの円柱バーによって形成された8つの極、北、北−東、東、南−東、南、南−西、西、および北−西を備える。北−南軸は、ラジアル平面に垂直であり、横断平面内に位置する。東−西軸は、北−南軸に垂直であり、ラジアル平面内に位置する。
【0052】
たとえば、100mm深さの8重極222が、質量M0の焦点の上流460mmに配設されうる。8重極の8つの極は、75mmに等しい半径を持つ円上に位置しうる。円柱極の直径は、約30mmでありうる。正イオンの軌道を圧縮し、質量の分散を減少させることが所望される場合、8重極の北−西、北−東、南−東、および南−西の極は、0ボルトで、東および西の極は正電位+Vで、北および南極は電位−Vで励起されうる。
【0053】
例として述べた上述した特定の幾何形状の場合、軸外色収差を相殺する電圧Vの典型的な値は、10keVのイオン運動エネルギーについて300ボルトである。色収差の補償と同時に、極に対する電圧の印加は、質量的に分散した軌道を密接にさせる(tightening)効果を持ち、したがって、質量の分散を、通常2/3倍だけ減少させる。
【0054】
8重極ではなく、静電レンズ、換言すれば、たとえば8重極と同じ内径のアクティブ電極を有するアインツェル(Einzel)レンズとして知られるレンズが使用される場合、同じ効果が得られうる。通常、イオンの加速電圧の半分程度の電圧が、アクティブ電極に印加されなければならず、その電圧は、オフアクイス色収差の相殺に加えて、約2/3倍だけの質量の分散を減少させる効果も有する。
【0055】
先に提示した2つの場合に、第2の静電デバイス222によって導入されるさらなる収束は、入口スリット101の開口における集束を出口スリット102の平面内で乱す。この現象を補償するために、ビームが質量的にも分散せず、エネルギー的にも分散しない領域に位置する集束デバイスが作動される必要がある。
【0056】
本発明の1つの好ましい実施形態では、スティグメータ機能は、図3dに示すように静電セクション104に一体化されうる。
【0057】
図3dは、質量分析計の主軸に垂直な平面の断面で観察した、静電セクション104の例示的な実施形態を示す。静電セクション104は、たとえば、正に帯電したイオンの場合、電圧+Veが印加される外部電極343、および、依然として正に帯電したイオンの場合、電圧−Veが印加される内部電極344からなる切頭球形静電セクション上に配設されたマツダ(Matsuda)板と呼ばれる一対の付加的な外部平行板341および第2の対の内部平行板342を備える。ラジアル平面に関して対称である2つの外部板341が共に接続され、2つの内部板342もまた共に接続される。付加的な板341および342は、計算または実験によって確定されたそれぞれの電圧VextおよびVintが印加される場合、切頭セクションに対して完全な球対称を回復させる。電圧VextおよびVintは、差の成分Vhexおよび共通成分Vstigの形で表現されてもよい。
ext=Vhex+Vstig
int=−Vhex+Vstig
【0058】
アナログまたはデジタルエレクトロニクスの従来の手段は、電圧VextおよびVintが、コンピュータによってもちろん制御されてもよい電圧VhexおよびVstigから始まって生成されることを可能にする。
【0059】
換言すれば、共通成分Vstigの板341および342への印加は、スティグメータ効果を生成し、スティグメータ効果は、賢明な方法で使用されて、磁気セクション105の下流に配設された第2の静電デバイス222によって生成される焦点ずれを補償しうるが、質量の分散には何の影響も及ぼさない。この実施形態では、したがって、マツダ板341および342を第1の静電デバイス201と置換することが可能である。
【0060】
目的が軸外色収差を相殺することであるとき、たとえば上述した計算プログラムによって、種々の静電デバイスに印加される必要がある電圧がどんなものかを計算することが可能であるが、純粋に実験的な方法によって電圧を確定することも可能である。そして、提案される方法は、次の通りであってよい。共にeVで表現されるエネルギーのスリットの幅ΔEおよび位置は、当業者にそれ自体知られている計算dx(mm)=K(ΔE/E)(Eはイオンの加速エネルギーである)に従って、静電セクションのエネルギー分散係数Kを使用することによって長さの単位に容易に変換されることが最初に留意される。
・値は、第2の静電セクション222の励起に割当てられる。
・第1の静電デバイス201の励起の値は、軸上にビームを再集束させるために調整される。第1の静電デバイス201が付加的な板341および342によって形成される先に述べた実施形態では、たとえば、付加的な板341および342にそれぞれ印加される電圧VextおよびVintを同じ電圧差ΔVだけ調整することが可能である。
・静電セクション104と磁気セクション105との間に配設される、第2のダイヤフラム213またはエネルギーのスリットは、低い値、通常1eVに調整される。
・このスリットは、通常0〜20eVの範囲にわたって走査される、換言すれば、エネルギーのスリットは、この範囲にわたって一定増分だけ変位する。
・軸外コレクタ上でビームによって誘起される変位が観測される。通常、このコレクタの入口スリットにわたって、換言すれば、このコレクタに関連する出口スリット102において出口ビームを走査することによって、誘起される変位は、軸外色収差に特有であり、これが、このステップで相殺したいと所望される収差である。
・そして、逐次反復によって、最小軸外色収差を提供する第2のデバイス222についての励起の値を確定することが可能である。
【0061】
本発明の1つの利点は、本方法が、質量分析計200の耐用期間中に一度、ただ一度実行されなければならないだけであることである。
【0062】
2次の4つの収差の相殺に関して、4つの6重極はそれぞれ、単一パラメータによって励起され、3つの極に印加される電圧は正であり、他の3つの極に印加される電圧は負である。これらの4つの6重極が調整されることを可能にする方法は、もう一度図2を参照してたとえば次の通りである。
・第2の6重極212の調整は、最初に実行される。
・フィールドダイヤフラムまたは角度開口ダイヤフラムと一般に呼ばれる第1のダイヤフラム103は、それぞれ(x/aa).a、(x/bb).b、および(x/ae).a.e.である2次の第1、第2、および第3の収差が無視できるように開口aおよびbを十分に減少させるために閉鎖される。
・そして、たとえばイオンの加速電圧を変更することによってイオンのエネルギーを変更することが可能である。または、イオン放出プロセスが大きなエネルギー分布を生成するとき、第2のダイヤフラム213またはエネルギーのスリットを閉鎖すること、また、このエネルギーのスリットを移動させ、したがって閉鎖させることで十分であることになる。2次の第4の収差x/eeが相殺されないとき、イオンのエネルギーのこの変動は、測定することが可能である入口スリット101の画像の変位をもたらす。したがって、この変位が最小になるように第2の6重極212の励起を調整することが可能である。
・その後、第1の6重極202の調整が、たとえば燐光スクリーンに関連するマイクロチャネルウェハ上で生成される出口平面の画像上で直接観測される可能性があるビーム幅を最小にすることによって、または、出口スリットの縁部にわたって出口ビームを走査し、出口スリットの下流のイオン電流Sを測定することによって得られるフロント(front)S(M)の幅を観測することによって間接的に実行される。出口ビームは、軸上軌道に関連するイオンの質量Mの値がそれに関連する磁界を一定ステップで増分することによって走査される。
・その後、第3の6重極215の調整が実行される。
・最後に、第4の6重極221の調整が実行される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源、入口スリット(101)、静電セクション(104)、磁気セクション(105)、および少なくとも1つのイオン質量の同時検出のための手段(102)を備える2重集束を用いた磁気質量分析計(200)であって、
・前記イオン源と前記静電セクション(104)の出口との間に設置され、イオンビームを、前記質量分析計(200)の主軸上に集束させる第1の静電デバイス(201)と、
・前記磁気セクション(105)の下流に配設され、径方向電界であって、対象となる地点が前記軸から遠くなればなるほど高くなり、かつ、低い質量の側および高い質量の側のそれぞれの符号が反対である径方向電界を、長手方向対称平面内に生成する第2の静電デバイス(222)とを備え、
・前記静電セクション(104)は、+Ve電圧が印加される外部電極(343)および−Ve電圧が印加される内部電極(344)を備える切頭球形静電セクションであり、前記外部電極(343)および前記内部電極(344)は、前記外部電極(343)の両側に配設されかつ電圧Vextが印加される一対の外部平行板(341)、および、前記内部電極(344)の両側に配設されかつ電圧Vintが印加される一対の内部平行板(342)をさらに備え、前記一対の内部および外部平行板(341、342)は前記第1の静電デバイス(201)を形成し、
前記外部および内部平行板(342、342)にそれぞれ印加される電圧Vext、Vintは、軸上質量に相当するイオンビームが前記主軸上に常に集束されたままになるよう質量の分散を調節するために、または、軸外色収差を相殺するために、前記第2の静電デバイス(222)が作動されるたびに、同じ電圧差ΔVだけ調整されることを特徴とする磁気質量分析計(200)。
【請求項2】
前記第2の静電デバイス(222)は、前記質量分析計(200)の主軸上に中心を持つ静電レンズおよび/または4重極および/または8重極であって、横断平面内でかつラジアル軸に垂直な軸上に位置するその北極および南極は電位Vでバイアスされ、前記北極および前記南極によって画定される軸に垂直な、ラジアル平面内に位置する軸上に位置するその東極および西極は電位−Vでバイアスされる、静電レンズおよび/または4重極および/または8重極を備えることを特徴とする請求項1に記載の磁気質量分析計(200)。
【請求項3】
2次の収差を相殺する手段をさらに備え、前記手段は、
−収差x/bbと称す横断平面内の開口角度の2乗に比例する2次の収差を相殺する第1の6重極(202)と、
−収差x/eeと称すエネルギーの相対的な差の2乗に比例する2次の収差を相殺する第2の6重極(212)と、
−収差x/aeと称すラジアル平面内の開口角度およびエネルギーの相対的な差に比例する2次の収差を相殺する第3の6重極(215)と、
−収差x/aaと称すラジアル平面内の開口角度の2乗に比例する2次の収差を相殺する第4の6重極(221)とを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気質量分析計(200)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図3c】
image rotate

【図3d】
image rotate


【公表番号】特表2012−517083(P2012−517083A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548651(P2011−548651)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051101
【国際公開番号】WO2010/089260
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(511124079)
【Fターム(参考)】