説明

2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストのステンレス鋼及び炭素鋼のエンドミル切削加工法

【課題】工具の異常摩耗が発生せず、工具寿命が長くなることができ、フライス盤が錆び
ることなく、2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを用いたステンレス鋼及び
炭素鋼のエンドミル切削加工法を提供することにある。
【解決手段】図1に示すエンドミル切削加工装置による切削加工において、ミスト噴射用
ノズルから霧状になった2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを回転している
エンドミル切削工具とステンレス鋼または炭素鋼の切削部分に噴射させながら切り屑を吸
引除去することを特徴とする2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを用いたス
テンレス鋼及び炭素鋼のエンドミル切削加工を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステンレス鋼及び炭素鋼のエンドミル切削加工技術に係り、多量の切削油
剤を使用しない方法で、環境に負荷をかけない方法において、工具刃先の欠損、チッピン
グ(工具刃先の微小な欠損)の発生を抑制し、工具寿命が長くすることができるエンドミ
ル切削加工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼及び炭素鋼の切削加工は、高能率化により、切削加工条件が過酷になれば、
工具刃先の欠損、チッピング(工具刃先の微小な欠損)が生じるので、多量の切削油剤を
工具刃先に噴射しながら切削加工が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「難削材の切削加工技術」狩野 勝吉著 工業調査会
【非特許文献2】「ステンレス鋼便覧」長谷川正義監修 日刊工業新聞社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステンレス鋼及び炭素鋼のエンドミル切削加工において、高能率化により、切削加工条
件が過酷になれば、工具刃先の欠損、チッピング(工具刃先の微小な欠損)が生じ、工具
寿命が短い等、様々な問題がある。
ステンレス鋼、炭素鋼のエンドミル切削加工において、高品質、高能率、低コストを目
標に、エンドミル切削工具への冷却効果及び潤滑効果を目的として、工具刃先に多量の切
削油剤が噴射されている。
切削油剤の種類によっては、環境悪化の要因となる塩素系化合物等が含有されているの
で、環境等の問題が生じている。さらに、使用後の切削油剤における最終的な廃液処理は
、重油を混入して焼却処分されるため、焼却による二酸化炭素の膨大な排出が余儀なくさ
れているのが現状である。あるいは、窒素化合物を含有する切削油剤は、廃液を焼却処理
した場合、窒素酸化物(NOx)を生成する可能性があるので、大気汚染の問題が生じる場
合があると考えられる。
環境問題への関心が高まり、それに伴う産業廃棄物の削減やリサイクル化の促進が謳われ
ているので、使用後の切削油剤の大部分が産業廃棄物として処理されることが問題となっ
ている。
ステンレス鋼、炭素鋼のエンドミル切削加工において、上記の多量な切削油剤の使用は、
環境問題になる可能性がある。切削油剤を使用してもエンドミル切削工具の刃先における
異常な摩耗、チッピング等が発生し、工具寿命を長くすることが困難である。また、切削
油剤(水溶性油剤)の種類、濃度等によって、工作機械の錆の発生が問題となっている。
【0005】
また、圧縮空気によって植物油をベースにした油剤を霧状に噴霧して、切削加工を行う
方法(油ミスト)も一部試験的に行われている。しかし、油ミストによるエンドミル切削
加工の予備実験の結果、過酷な切削加工条件では、油ミストが工具刃先への冷却効果がな
いため、工具摩耗が著しく、工具寿命が短い結果となった。
【0006】
この発明は、上記のような課題に鑑み、その課題を解決すべく創案されたものであって
、その目的とするところは、環境問題になる可能性がある上記の切削油剤を使用せずに、
2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを使用し、工作機械(フライス盤)が錆
びることなく、工具刃先の異常な摩耗、チッピング(工具刃先の微小な欠損)が発生せず
、工具寿命を長くするが可能となるステンレス鋼及び炭素鋼のエンドミル切削加工法を提
供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するために、請求項1の発明は、ステンレス鋼をフライス盤のテーブル
に固定した後、ステンレス鋼の切削加工始端側にミスト用ノズルをステンレス鋼に向けて
配置し、切削加工終端側に吸引用ノズルを配置するとともに、切削加工始端側のミスト用
ノズルと切削加工終端側の吸引用ノズルとを一直線上に配置し、上記切削加工始端側のミ
スト用ノズルと上記切削加工終端側の吸引用ノズルとの間にフライス盤の工具ホルダに固
定されたエンドミル切削工具を上記切削加工始端側から上記切削加工終端側に向けて移動
自在に配置し、上記切削加工始端側に配置したミスト用ノズルから霧状になった2隔膜3
室電解法によるアルカリ性電解水ミストを回転しているエンドミル切削工具とステンレス
鋼の切削部分に噴霧し、エンドミル切削加工を行い、上記切削加工始端側に配置したミス
ト用ノズルに対して一直線上に配置した上記切削加工終端側の吸引用ノズルから切り屑を
吸引除去することを特徴とする2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを用いた
ステンレス鋼のエンドミル切削加工よりなるものである。
【0008】
以上の目的を達成するために、請求項2の発明は、炭素鋼をフライス盤のテーブルに固定
した後、炭素鋼の切削加工始端側にミスト用ノズルを炭素鋼に向けて配置し、切削加工終
端側に吸引用ノズルを配置するとともに、切削加工始端側のミスト用ノズルと切削加工終
端側の吸引用ノズルとを一直線上に配置し、上記切削加工始端側のミスト用ノズルと上記
切削加工終端側の吸引用ノズルとの間にフライス盤の工具ホルダに固定されたエンドミル
切削工具を上記切削加工始端側から上記切削加工終端側に向けて移動自在に配置し、上記
切削加工始端側に配置したミスト用ノズルから霧状になった2隔膜3室電解法によるアル
カリ性電解水ミストを回転しているエンドミル切削工具と炭素鋼の切削部分に噴霧し、エ
ンドミル切削加工を行い、上記切削加工始端側に配置したミスト用ノズルに対して一直線
上に配置した上記切削加工終端側の吸引用ノズルから切り屑を吸引除去することを特徴と
する2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを用いた炭素鋼のエンドミル切削加
工法よりなるものである。
【発明の効果】
【0009】
以上の記載より明らかなように、請求項1によれば、ステンレス鋼をフライス盤のテー
ブルに固定した後、ステンレス鋼の切削加工始端側にミスト用ノズルをステンレス鋼に向
けて配置し、切削加工終端側に吸引用ノズルを配置するとともに、切削加工始端側のミス
ト用ノズルと切削加工終端側の吸引用ノズルとを一直線上に配置し、上記切削加工始端側
のミスト用ノズルと上記切削加工終端側の吸引用ノズルとの間にフライス盤の工具ホルダ
に固定されたエンドミル切削工具を上記切削加工始端側から上記切削加工終端側に向けて
移動自在に配置し、上記切削加工始端側に配置したミスト用ノズルから霧状になった2隔
膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを回転しているエンドミル切削工具とステン
レス鋼の切削部分に噴霧し、エンドミル切削加工を行い、上記切削加工始端側に配置した
ミスト用ノズルに対して一直線上に配置した上記切削加工終端側の吸引用ノズルから切り
屑を吸引除去することを特徴とする2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを用
いたステンレス鋼のエンドミル切削加工法によって、工作機械(フライス盤)が錆びるこ
となく、エンドミル切削工具刃先の摩耗幅が小さく、工具寿命を長くすることが可能であ
る。
【0010】
以上の記載より明らかなように、請求項2によれば、炭素鋼をフライス盤のテーブルに固
定した後、炭素鋼の切削加工始端側にミスト用ノズルを炭素鋼に向けて配置し、切削加工
終端側に吸引用ノズルを配置するとともに、切削加工始端側のミスト用ノズルと切削加工
終端側の吸引用ノズルとを一直線上に配置し、上記切削加工始端側のミスト用ノズルと上
記切削加工終端側の吸引用ノズルとの間にフライス盤の工具ホルダに固定されたエンドミ
ル切削工具を上記切削加工始端側から上記切削加工終端側に向けて移動自在に配置し、上
記切削加工始端側に配置したミスト用ノズルから霧状になった2隔膜3室電解法によるア
ルカリ性電解水ミストを回転しているエンドミル切削工具と炭素鋼の切削部分に噴霧し、
エンドミル切削加工を行い、上記切削加工始端側に配置したミスト用ノズルに対して一直
線上に配置した上記切削加工終端側の吸引用ノズルから切り屑を吸引除去することを特徴
とする2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを用いた炭素鋼のエンドミル切削
加工法によって、工作機械(フライス盤)が錆びることなく、エンドミル切削工具刃先の
摩耗幅が小さく、工具寿命を長くすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明を実施するための形態を示すもので、2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを用いたステンレス鋼または炭素鋼のエンドミル切削加工法の模式図である。
【図2】表1は、TiAlNコーテッド超硬エンドミル切削工具によるステンレス鋼(SUS304)の切削加工実験結果の一例である。
【図3】表2は、コーティングハイスエンドミル切削工具による炭素鋼(S45C)の切削加工実験結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、この発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下、この発明をより具体的に説明する。
ここで、図1は、2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを用いたステンレス
鋼または炭素鋼のエンドミル切削加工法の模式図である。
【0013】
図1において、ステンレス鋼1または炭素鋼1をフライス盤のテーブル5に固定し、フラ
イス盤の工具ホルダ6において、下向きに固定されたエンドミル切削工具2を挟んで、ス
テンレス鋼1または炭素鋼1の切削加工始端側に2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解
水ミストを噴射するミスト用ノズル3をステンレス鋼1または炭素鋼1に向けて配置し、
切削加工終端側に切り屑を吸引除去する吸引用ノズル4が配置するとともに、切削加工始
端側のミスト用ノズル3と切削加工終端側の吸引用ノズル4とを一直線上に配置している
。切削加工始端側に配置されたミスト用ノズル3と切削加工終端側に配置された吸引用ノ
ズル4との間にフライス盤の工具ホルダ6に固定されたエンドミル切削工具2を切削加工
始端側から切削加工終端側に向けて移動自在に配置する。図面において、フライス盤は、
エンドミル切削工具2、フライス盤のテーブル5、フライス盤の工具ホルダ6から構成さ
れ、フライス盤の装置本体部分は省略している。
【0014】
切削加工始端側に配置されたミスト用ノズル3のノズルの先端はエンドミル切削工具2に
向けて取り付けられている。ミスト用ノズル3には2隔膜3室電解法によるアルカリ性電
解水を圧縮空気によって霧状に送り出す2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水を貯蔵
するタンク及び2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水生成装置等に一端が接続され、
図示しないホースの他端側が接続されている。切削加工始端側に配置されたミスト用ノズ
ル3は、圧縮空気によって霧状になった2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミスト
を回転しているエンドミル切削工具2に向けて、噴射量1cc/時間〜20cc/時間で噴霧す
るものである。
【0015】
切削加工終端側に配置された吸引用ノズル4は、回転しているエンドミル切削工具2、切
削加工始端側に配置されたミスト用ノズル3に向けて、吸引装置の吸引条件として、真空
圧20.6kPa、風量2.9m3/minで吸引し、切り屑を除去するものである。切削加工終端側に
配置された吸引用ノズル4は、吸引装置等に一端が接続され、図示しないホースの他端側
が接続されている。
【0016】
2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを用いたステンレス鋼及び炭素鋼のエン
ドミル切削加工法は、以下のとおりである。
(1)ステンレス鋼1または炭素鋼1をフライス盤のテーブル5に固定する。
(2)フライス盤の工具ホルダ6において、下向きに固定されたエンドミル切削工具2を
所定の回転数に上げ、所定の回転数になったエンドミル切削工具2に向けて、切削加工始
端側に配置されたミスト用ノズル3から2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミスト
を噴射量1cc/時間〜20cc/時間で噴霧する。切削加工終端側に配置された吸引用ノズル
4は、回転しているエンドミル切削工具2、切削加工始端側に配置されたミスト用ノズル
3に向けて、吸引装置の吸引条件として、真空圧20.6kPa、風量2.9m3/minで吸引し、切
り屑を除去する。切削加工始端側のミスト用ノズル3と切削加工終端側の吸引用ノズル4
は一直線上に配置している。なお、切削加工始端側に配置されたミスト用ノズル3の形状
は、外径7mm、内径3mm、長さ30mmである。切削加工終端側に配置された吸引用ノズル4の
形状は、外径38mm、内径34mm、長さ300mmである。
(3)切削加工始端側に配置したミスト用ノズル3から霧状になった2隔膜3室電解法に
よるアルカリ性電解水ミストを回転しているエンドミル切削工具2とステンレス鋼1また
は炭素鋼1の切削部分に噴霧し、エンドミル切削加工を行い、切削加工始端側に配置した
ミスト用ノズル3に対して一直線上の切削加工終端側に配置した吸引用ノズル4から切り
屑を吸引除去しながらステンレス鋼1または炭素鋼1の側面において、エンドミル切削加
工を行う。
(4)所定量(切削距離2m)のエンドミル切削加工が終了すれば、エンドミル切削工具2
の刃先における摩耗量(逃げ面摩耗幅)を測定し、顕微鏡で工具刃先の摩耗状況を観察し
た。さらに、評価(表1、表2)において、×印は、工具刃先の逃げ面摩耗幅が、10μm
以上の場合である。○印は、工具刃先の逃げ面摩耗幅が、10μmより小さい場合である。
【0017】
ステンレス鋼の実験結果の一例は表1、炭素鋼の実験結果の一例は、表2のとおりであ
る。表1中の被削材のステンレス鋼は、SUS304、表2中の炭素鋼は、S45Cの結果の一例で
ある。被削材のステンレス鋼及び炭素鋼の形状は、長さ100mmX幅50mmX高さ45mmである

ステンレス鋼の切削工具は、TiAlNコーテッド超硬エンドミル切削工具(外径8mm、3枚刃
)、炭素鋼の切削工具は、コーティングハイス切削工具(外径8mm、4枚刃)を使用した。
切削工具については、ステンレス鋼、炭素鋼に最適な切削工具をそれぞれ選択し、切削加
工条件は、過酷な切削加工条件で実験を行い、冷却方法(切削油剤、油ミスト、水ミスト
、アルカリ性電解水ミスト、アルカリ性電解水ミスト(吸引))の違いによる工具刃先の
逃げ面摩耗幅について比較検討を行った。
【0018】
ステンレス鋼の切削加工条件は、切削速度100m/min、送り速度358mm/min、半径方向の
切り込み量0.5mm、軸方向の切り込み量10mm、工具突き出し長27mmで同一の条件で行った
。炭素鋼の切削加工条件は、切削速度35m/min、送り速度180mm/min、半径方向の切り込
み量0.5mm、軸方向の切り込み量10mm、工具突き出し長27mmで同一の条件で行った。
【0019】
表1及び表2中の切削油剤は、水溶性切削油剤を噴射し、切り屑の吸引除去を行わなか
った結果である。表1及び表2中の油ミストは、植物油をベースにした油剤のミストを噴
射し、切り屑の吸引除去を行わなかった結果である。水ミストは、pH7の飲料水、例えば
、水道水を使用したミストを噴射し、切り屑の吸引除去を行わなかった結果である。表1
及び表2中のアルカリ性電解水ミストは、2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミス
トを噴射し、切り屑の吸引除去を行わなかった結果である。表1及び表2中のアルカリ性
電解水ミスト(吸引)は、2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを噴射し、切
り屑を吸引除去した結果である。
【0020】
ステンレス鋼及び炭素鋼において、アルカリ性電解水ミスト(吸引)の予備実験の結果よ
り、切削加工始端側のミスト用ノズルと切削加工終端側の吸引用ノズルが一直線上に配置
していない場合、切り屑の除去が困難であったため、逃げ面摩耗幅において、良好な結果
が得られなかった。切削加工始端側のミスト用ノズルと切削加工終端側の吸引用ノズルが
一直線上に配置して実験を行った。
【0021】
アルカリ性電解水は、2隔膜3室電解法の電解槽において、電解質(NaCl等)の電気分解
によって得られたアルカリ性電解水を用いた。上記の2隔膜3室電解法とは、電解槽を2
枚の異なる隔膜を利用し、陽極室、中間室、陰極室の3室に分け、電気分解を促進させる
ための電解質(NaCl等)は、中間室に添加する方法である。上記の2隔膜3室電解法は、
電気分解をしきれていない電解質(NaCl等)が残留しない無塩アルカリ性電解水を生成す
ることが可能である。
【0022】
ステンレス鋼及び炭素鋼の2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを噴射し、切
り屑を吸引除去した予備実験の結果より、アルカリ性電解水ミストの噴射量1cc/時間〜2
0cc/時間で行い、上記のミスト用ノズルと吸引用ノズルの配置の条件で切り屑を吸引除
去した場合、工具刃先の逃げ面摩耗幅は同程度であり、アルカリ性電解水ミスト(吸引)
の噴射量が工具摩耗に与える影響はなかった。
上記のミスト用ノズルと吸引用ノズルの配置の条件でアルカリ性電解水ミスト(吸引)の
噴射量1cc/時間より小さい場合、逃げ面摩耗幅において、良好な結果が得られなかった
。また、アルカリ性電解水ミスト(吸引)の噴射量20cc/時間より大きくすることは、装
置上、困難であった。
【0023】
吸引装置において、上記のミスト用ノズルと吸引用ノズルの配置の条件で吸引の条件は、
真空圧20.6kPa、風量2.9m3/minで行った。なお、吸引装置において、上記のミスト用ノ
ズルと吸引用ノズルの配置の条件で吸引の条件が、真空圧20.6kPa及び風量2.9m3/minよ
り小さい場合、切り屑の除去が困難であったため、逃げ面摩耗幅において、良好な結果が
得られなかった。さらに、予備実験の結果、上記のミスト用ノズルと吸引用ノズルの配置
の条件で上記の真空圧20.6kPa及び風量2.9m3/min以上の場合、問題なく切り屑の除去が
可能であった。上記の真空圧20.6kPa及び風量2.9m3/min以上の場合、工具刃先の逃げ面
摩耗幅は同程度であり、上記の真空圧、風量が工具摩耗に与える影響はなかった。
【0024】
表1及び表2中の切削油剤、油ミスト、水ミスト、アルカリ性電解水ミストはそれぞれノ
ズル1本で上記のアルカリ性電解水ミスト(吸引)のミスト用ノズルと同一の方向で噴射
し、実験を行った。切削油剤を噴射したノズル(切削油剤噴射用ノズル)の形状と油ミス
ト、水ミスト、アルカリ性電解水ミストを噴射したミスト用ノズルの形状は、上記のアル
カリ性電解水ミスト(吸引)を噴射したミスト用ノズルと同一の形状(外径7mm、内径3mm
、長さ30mm)で実験を行った。
切削油剤において、フライス盤内の切削油剤を貯蔵するタンクから切削油剤が供給装置を
経て、切削油剤がノズル(切削油剤噴射用ノズル)から噴射される。
油ミストにおいて、圧縮空気によって霧状に送り出す油を貯蔵するタンクに一端が接続さ
れ、油剤ミストがミスト用ノズルから噴射される。
水ミストにおいて、圧縮空気によって霧状に送り出す水を貯蔵するタンクに一端が接続さ
れ、水ミストがミスト用ノズルから噴射される。
アルカリ性電解水ミストにおいて、上記のアルカリ性電解水ミスト(吸引)の場合と同様
に、上記のミスト用ノズルには2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水を圧縮空気によ
って霧状に送り出す2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水を貯蔵するタンク及び2隔
膜3室電解法によるアルカリ性電解水生成装置等に一端が接続され、図示しないホースの
他端側が接続されている。
【0025】
表1及び表2中の切削油剤は切削油剤(水溶性切削油剤)の噴射量50cc/s、油ミスト、
水ミスト(pH7)、アルカリ性電解水ミスト、アルカリ性電解水ミスト(吸引)は、噴射
量10cc/時間の結果である。
【0026】
ステンレス鋼及び炭素鋼の予備実験の結果、切削油剤の噴射量が5cc/s〜100cc/sの範囲
では、切削油剤による工具刃先の逃げ面摩耗幅は同程度であり、切削油剤の噴射量が工具
摩耗に与える影響はなかった。上記の切削油剤の噴射量が5cc/s〜100cc/sの範囲におい
て、上記のアルカリ性電解水ミスト(吸引)における吸引の条件(真空圧20.6kPa、風量2
.9m3/min)及び上記のミスト用ノズルと吸引用ノズルの配置の条件で切り屑の吸引除去
を行っても工具刃先の逃げ面摩耗幅は同程度であり、吸引によって工具摩耗が良好な結果
を得ることができなかった。上記のミスト用ノズルと吸引用ノズルの配置の条件で吸引の
条件が真空圧20.6kPa及び風量2.9m3/minより小さい場合、切り屑の除去が困難であった
ため、逃げ面摩耗幅において、良好な結果が得られなかった。また、上記のミスト用ノズ
ルと吸引用ノズルの配置の条件で上記の真空圧20.6kPa及び風量2.9m3/min以上の場合、
工具刃先の逃げ面摩耗幅は、良好な結果を得ることがでなかった。上記の真空圧、風量が
工具摩耗に与える影響はなかった。
切削油剤の噴射量が5cc/sより小さい場合、逃げ面摩耗幅が著しく大きくなり、工具摩耗
が大きい結果となった。切削油剤の噴射量が100cc/sより大きくすることは、装置上、困
難であった。
切削油剤は、水溶性切削油剤を使用し、5%〜30%の濃度範囲で実験を行った。表1及び
表2中の切削油剤(水溶性切削油剤)の濃度は、20%の結果である。予備実験の結果、上
記の5%〜30%の濃度範囲において、工具刃先の逃げ面摩耗幅は同程度であり、切削油剤
(水溶性切削油剤)の濃度が工具摩耗に与える影響はなかった。水溶性切削油剤の濃度が
5%〜30%の範囲において、上記の切削油剤の噴射量が5cc/s〜100cc/sの範囲において
、上記のアルカリ性電解水ミスト(吸引)における吸引の条件(真空圧20.6kPa、風量2.9
m3/min)及び上記のミスト用ノズルと吸引用ノズルの配置の条件で切り屑の吸引除去を
行っても工具刃先の逃げ面摩耗幅は同程度であり、吸引によって工具摩耗が良好な結果を
得ることができなかった。上記のミスト用ノズルと吸引用ノズルの配置の条件で吸引の条
件が真空圧20.6kPa及び風量2.9m3/minより小さい場合、切り屑の除去が困難であったた
め、逃げ面摩耗幅において、良好な結果が得られなかった。また、上記のミスト用ノズル
と吸引用ノズルの配置の条件で上記の真空圧20.6kPa及び風量2.9m3/min以上の場合、工
具刃先の逃げ面摩耗幅は、良好な結果を得ることがでなかった。上記の真空圧、風量が工
具摩耗に与える影響はなかった。
切削油剤(水溶性切削油剤)の濃度が5%より小さい場合、逃げ面摩耗幅が著しく大きく
なり、工具摩耗が大きい結果となった。切削油剤(水溶性切削油剤)の濃度が30%より大
きい場合、逃げ面摩耗幅が著しく大きくなり、工具摩耗が大きい結果となった。
【0027】
油ミスト、水ミスト、アルカリ性電解水ミスト、アルカリ性電解水ミスト(吸引)におい
て、噴射量1cc/時間〜20cc/時間の範囲では、表1、表2に示すように、アルカリ性電
解水ミスト(吸引)が最も良好な逃げ面摩耗幅の結果が得られた。
油ミスト、水ミストにおいて、噴射量1cc/時間〜20cc/時間の範囲では、上記のアルカ
リ性電解水ミスト(吸引)における吸引の条件(真空圧20.6kPa、風量2.9m3/min)及び
上記のミスト用ノズルと吸引用ノズルの配置の条件で切り屑の吸引除去を行っても工具刃
先の逃げ面摩耗幅は同程度であり、吸引によって工具摩耗が良好な結果を得ることができ
なかった。上記のミスト用ノズルと吸引用ノズルの配置の条件で吸引の条件が真空圧20.6
kPa及び風量2.9m3/minより小さい場合、切り屑の除去が困難であったため、逃げ面摩耗
幅において、良好な結果が得られなかった。また、上記のミスト用ノズルと吸引用ノズル
の配置の条件で上記の真空圧20.6kPa及び風量2.9m3/min以上の場合、工具刃先の逃げ面
摩耗幅は、良好な結果を得ることがでなかった。上記の真空圧、風量が工具摩耗に与える
影響はなかった。
油ミスト、水ミスト、アルカリ性電解水ミストにおいて、上記のアルカリ性電解水ミスト
を噴射し、切り屑を吸引除去したステンレス鋼及び炭素鋼の予備実験の結果と同様に、油
ミスト、水ミスト、アルカリ性電解水ミストの噴射量1cc/時間より小さい場合、逃げ面
摩耗幅において、良好な結果が得られなかった。また、油ミスト、水ミスト、アルカリ性
電解水ミストの噴射量20cc/時間より大きくすることは、装置上、困難であった。油ミス
ト、水ミスト、アルカリ性電解水ミストの噴射量1cc/時間〜20cc/時間の範囲では、逃
げ面摩耗幅は同程度であり、油ミスト、水ミスト、アルカリ性電解水ミストの噴射量が工
具摩耗に与える影響はなかった。油ミスト、水ミスト、アルカリ性電解水ミスト、アルカ
リ性電解水ミスト(吸引)において、噴射量1cc/時間〜20cc/時間の範囲で実験を行っ
た。
【0028】
2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストのpH濃度は、pH9〜pH12の範囲で行った
。表1、表2の結果におけるアルカリ性電解水ミスト及びアルカリ性電解水ミスト(吸引
)のpH濃度は、pH11である。なお、アルカリ性電解水ミストのpH濃度は、pH9〜pH12の範
囲におけるアルカリ性電解水ミストによるステンレス鋼及び炭素鋼のエンドミル切削加工
の予備実験の結果、上記のpH濃度の範囲では、pH濃度の変化に伴う逃げ面摩耗幅の変化は
なく、工作機械、周辺機器への著しい錆の発生はなかった。また、被削材にステンレス鋼
及び炭素鋼において、上記のpH濃度範囲では、腐食等は観察されなかった。予備実験の結
果、水ミスト(pH7)で実験を行った場合、工作機械、周辺機器への著しい錆の発生があ
った。
予備実験の結果、pH12より高い値は装置上、制御することが困難であった。特に、pH13よ
り高い場合、工作機械の主成分であるFeは、アルカリ腐食の範囲になる。pH9より小さい
値の場合、工作機械、周辺機器等に錆が発生した。
上記の2隔膜3室電解法は、電解水生成法において、無隔膜電解法、1隔膜2室電解法に
比べて、残留電解質(NaCl等)が存在しないため、上記の2隔膜3室電解法によるアルカ
リ性電解水ミストがpH9〜pH 12の範囲では、工作機械の腐食が発生しなかった。しかし、
無隔膜電解法及び1隔膜2室電解法によるアルカリ性電解水ミストにおいて、pH9〜pH12
の範囲では、電気分解をしきれていない電解質(NaCl等)が残留するため、工作機械の腐
食が発生した。さらに、上記の無隔膜電解法及び1隔膜2室電解法によるアルカリ性電解
水ミスト(pH9〜pH 12の範囲)をステンレス鋼、炭素鋼に噴射し、切り屑を吸引除去した
エンドミル切削加工実験の結果、上記の2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミスト
(pH9〜pH12の範囲)を噴射し、切り屑を吸引除去したエンドミル切削加工実験の結果に
比べて、逃げ面摩耗幅が著しく大きく、良好な結果を得ることができなかった。
【0029】
ステンレス鋼(SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステン
レス鋼、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼)
において、上記の2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを噴射し、切り屑を吸
引除去したエンドミル切削加工実験を行った結果、逃げ面摩耗幅が著しく減少し、同様な
結果が得られた。
【0030】
炭素鋼(S45Cに代表される機械構造鋼炭素鋼、一般構造用圧延鋼、高張力鋼)において、
上記の2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを噴射し、切り屑を吸引除去した
エンドミル切削加工実験を行った結果、逃げ面摩耗幅が著しく減少し、同様な結果が得ら
れた。
炭素鋼に含まれる合金鋼(クロムモリブデン鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリ
ブデン鋼)において、上記の2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを噴射し、
切り屑を吸引除去したエンドミル切削加工実験を行った結果、逃げ面摩耗幅が著しく減少
し、同様な結果が得られた。
【0031】
アルカリ性電解水ミストが発生する冷却効果と、吸引装置による切り屑の除去の効果が、
工具刃先の摩耗防止において、相乗効果として作用し、逃げ面摩耗幅が極めて良好な結果
を得ることができたと考えられる。
【0032】
なお、この発明は上記発明を実施するための最良の形態に限定されるものでなく、この
発明の精神を逸脱しない範囲で種々の改変をなし得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
1 ステンレス鋼または炭素鋼
2 エンドミル切削工具
3 ミスト用ノズル(2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを噴射するノズル
で、2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水の貯蔵するタンク及び2隔膜3室電解法に
よるアルカリ性電解水生成装置に接続)
4 吸引用ノズル(吸引装置に接続)
5 フライス盤のテーブル
6 フライス盤の工具ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼をフライス盤のテーブルに固定した後、ステンレス鋼の切削加工始端側に
ミスト用ノズルをステンレス鋼に向けて配置し、切削加工終端側に吸引用ノズルを配置す
るとともに、切削加工始端側のミスト用ノズルと切削加工終端側の吸引用ノズルとを一直
線上に配置し、上記切削加工始端側のミスト用ノズルと上記切削加工終端側の吸引用ノズ
ルとの間にフライス盤の工具ホルダに固定されたエンドミル切削工具を上記切削加工始端
側から上記切削加工終端側に向けて移動自在に配置し、上記切削加工始端側に配置したミ
スト用ノズルから霧状になった2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを回転し
ているエンドミル切削工具とステンレス鋼の切削部分に噴霧し、エンドミル切削加工を行
い、上記切削加工始端側に配置したミスト用ノズルに対して一直線上に配置した上記切削
加工終端側の吸引用ノズルから切り屑を吸引除去することを特徴とする2隔膜3室電解法
によるアルカリ性電解水ミストを用いたステンレス鋼のエンドミル切削加工法。

【請求項2】
炭素鋼をフライス盤のテーブルに固定した後、炭素鋼の切削加工始端側にミスト用ノズ
ルを炭素鋼に向けて配置し、切削加工終端側に吸引用ノズルを配置するとともに、切削加
工始端側のミスト用ノズルと切削加工終端側の吸引用ノズルとを一直線上に配置し、上記
切削加工始端側のミスト用ノズルと上記切削加工終端側の吸引用ノズルとの間にフライス
盤の工具ホルダに固定されたエンドミル切削工具を上記切削加工始端側から上記切削加工
終端側に向けて移動自在に配置し、上記切削加工始端側に配置したミスト用ノズルから霧
状になった2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミストを回転しているエンドミル切
削工具と炭素鋼の切削部分に噴霧し、エンドミル切削加工を行い、上記切削加工始端側に
配置したミスト用ノズルに対して一直線上に配置した上記切削加工終端側の吸引用ノズル
から切り屑を吸引除去することを特徴とする2隔膜3室電解法によるアルカリ性電解水ミ
ストを用いた炭素鋼のエンドミル切削加工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−200800(P2012−200800A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65543(P2011−65543)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【出願人】(504356993)株式会社タケシマ (3)
【出願人】(507365488)株式会社サンテクノ (1)
【出願人】(511075771)株式会社森口鉄工所 (1)
【Fターム(参考)】