説明

2電極アーク溶接方法

【課題】溶接部の溶存酸素量を低減することが可能な2電極アーク溶接方法を提供すること。
【解決手段】溶接母材Pに対して送給されるワイヤWとこのワイヤWを囲うように同心状に配置された非消耗電極とを備えた溶接トーチを用い、ワイヤと溶接母材Pとの間にGMAアーク6aを発生させ、かつ上記非消耗電極と溶接母材Pとの間にプラズマアーク6bを発生させるとともに、GMAアーク6aを直接囲うようにセンターガスGcを供給し、かつセンターガスGcに対して同心軸外側にシールドガスGsを供給する、2電極アーク溶接方法であって、センターガスGcは、不活性ガスであり、シールドガスGsは、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスである。このような構成とすることにより、溶融池Mpに溶解した酸素を除去することが可能であり、溶接ビードWpの溶存酸素量を低減することができる。これにより、溶接ビードWpの低温靭性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極および非消耗電極を有する溶接トーチを用いて、消耗電極アークおよび非消耗電極アークを発生させる、2電極アーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消耗電極としてワイヤを送給しながら消耗電極アークを発生させることと、たとえばArなどのプラズマガスを用いて消耗電極アークを囲う非消耗電極アークを発生させることと、を同時に行う2電極アーク溶接が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。消耗電極アークおよび非消耗電極アークの双方から溶接母材に対して熱を与えるとともに溶融したワイヤを供給するこの手法は、比較的速い溶接速度で溶接する、高効率溶接に適している。特許文献1に記載の構成においては、上記消耗電極アークを空気から遮蔽するとともに、上記非消耗電極アークを発生させることを目的として、上記消耗電極アークを囲うようにプラズマガスが供給される。また、上記非消耗電極アークを囲うようにシールドガスが供給される。これらのプラズマガスおよびシールドガスとしては、一般的にArなどの不活性ガスが用いられる。
【0003】
たとえば低温物質である液化天然ガス(以下、LNG)を貯蔵するLNGタンクは、高い低温靭性が求められる。低温靭性とは、常温を大きく下回るような低温下において、ある部材が衝撃を受けたときの破断しにくさ、あるいは粘り強さをいう。このため、LNGタンクを建造する際に鋼板の接合手段として溶接を用いる場合、その溶接部に対しても高い低温靭性が要求される。溶接部の低温靭性を高めるには、溶接時に溶解した酸素が溶接部に残存する量(溶存酸素量)が低いほど好ましい。しかしながら、溶接過程において母材の一部が溶融状態となった溶融池においては、高温である溶融金属に上記プラズマガスまたはシールドガスによって巻き込まれた酸素が溶解しやすい。このため、上記プラズマガスおよびシールドガスとしてArなどの不活性ガスを用いたとしても、溶接部の溶存酸素量は70ppmを上回ることがほとんどであり、たとえばLNGタンクの接合部としては十分ではなかった。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−168283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、溶接部の溶存酸素量を低減することが可能な2電極アーク溶接方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって提供される2電極アーク溶接方法は、溶接対象物に対して送給される消耗電極とこの消耗電極を囲うように同心状に配置された非消耗電極とを備えた溶接トーチを用い、上記消耗電極と溶接対象物との間に消耗電極アークを発生させ、かつ上記非消耗電極と溶接対象物との間に非消耗電極アークを発生させるとともに、上記消耗電極アークを直接囲うように第1ガスを供給し、かつ上記第1ガスに対して同心軸外側に第2ガスを供給する、2電極アーク溶接方法であって、上記第1ガスは、不活性ガスであり、上記第2ガスは、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスであることを特徴としている。
【0007】
このような構成によれば、上記消耗電極アークおよび上記非消耗電極アークによって形成された溶融池に、上記第2ガスが吹き付けられる。高温の溶融金属からなる溶融池は、酸素が溶解する割合が大きい。しかし、上記第2ガスに含まれる還元性ガスの還元作用によって、溶融池に溶解した酸素を適切に除去することが可能である。したがって、溶接部の溶存酸素量を低減することが可能であり、溶接部の低温靭性を高めることができる。
【0008】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0010】
図1は、本発明に係る2電極アーク溶接方法に用いられる溶接装置の一例を示している。本実施形態の溶接装置Aは、溶接トーチB、GMAアーク溶接電源(消耗電極アーク溶接電源)PSM、およびプラズマアーク溶接電源(非消耗電極アーク溶接電源)PSPを備えている。溶接トーチBは、シールドガスノズル4内に、プラズマノズル3、プラズマ電極(非消耗電極)2、およびコンタクトチップ1が同心軸上に配置された構造とされている。
【0011】
プラズマ電極2とコンタクトチップ1との間には、たとえばArなどのセンターガス(第1ガス)Gcが供給される。プラズマノズル3とプラズマ電極2との間には、プラズマガスGpが供給される。シールドガスノズル4とプラズマノズル3との隙間からは、シールドガス(第2ガス)Gsが供給される。本実施形態においては、センターガスGcおよびプラズマガスGpとして、Arなどの不活性ガスが供給される。一方、シールドガスGsとしては、Arなどの不活性ガスにH2またはCH4(メタン)などの還元性ガスが3%程度混入された混合ガスが供給される。
【0012】
コンタクトチップ1に設けられた貫通孔からは、消耗電極としてのワイヤWが送給される。コンタクトチップ1は、ワイヤWに対して導通している。ワイヤWは、モータMを駆動源とする送給ローラ5によって送給される。プラズマ電極2は、たとえばCuまたはCu合金からなり、図外の経路を通る冷却水によって間接的に水冷されている。プラズマノズル3は、たとえばCuまたはCu合金からなり、冷却水を通すチャネルが形成されていることにより、直接水冷されている。溶接トーチBは、通常ロボット(図示略)によって保持された状態で、溶接母材Pに対して移動させられる。
【0013】
GMAアーク溶接電源PSMは、コンタクトチップ1を介してワイヤWと溶接母材Pとの間に、GMAアーク溶接電圧Vwaを印加することにより、GMAアーク溶接電流Iwaを流すための電源である。GMAアーク溶接電源PSMには、電圧設定回路VRから電圧設定信号Vrmが送られる。GMAアーク溶接電源PSMからは、モータMに対して送給制御信号Fcが送られる。GMAアーク溶接電源PSMからGMAアーク溶接電圧Vwaが印加されるときは、ワイヤWが+側とされる。
【0014】
プラズマアーク溶接電源PSPは、プラズマ電極2と溶接母材Pとの間にプラズマアーク溶接電圧Vwbを印加することによりプラズマアーク溶接電流Iwbを流すための電源である。プラズマアーク溶接電源PSPには、電圧設定回路VRから電圧設定信号Vrpが送られる。プラズマアーク溶接電源PSPからプラズマアーク溶接電圧Vwbが印加されるときは、プラズマ電極2が+側とされる。
【0015】
次に、本実施形態の2電極アーク溶接方法の作用について説明する。
【0016】
図2に示すように、溶融池Mpは、GMAアーク6aおよびプラズマアーク6bからの入熱によって溶融した溶接母材Pの一部、さらに溶融したワイヤWが溜まっている部分である。このような溶融池Mpにおいては、センターガスGc、プラズマガスGp、およびシールドガスGsによって巻き込まれた酸素が高温の溶融金属に溶け込みやすい状態となっている。このため、溶融池Mpのうち比較的濃色とした部分は、多くの酸素が溶解している部分となっている。
【0017】
しかし、本実施形態においては、シールドガスGsに還元性ガスであるH2またはCH4が含まれている。これらのH2またはCH4が溶融池Mpに吹き付けられると、溶融金属が還元されることとなり、溶解した酸素が除去される。これにより、溶融池Mpのうち比較的淡色とした部分は、溶解した酸素の量が顕著に小となる。この結果、溶融池Mpが凝固することによって形成される溶接ビードWpの溶存酸素量をたとえば50ppm程度に低減することが可能である。したがって、溶接ビードWpの低温靭性を高めることが可能であり、たとえばLNGタンクの建造に用いるのに適している。
【0018】
シールドガスGsに還元性ガスを混入させると、いわゆるクリーニング効果が増幅され、溶接箇所から酸化膜が除去されやすい。このような場合、GMAアーク6aおよびプラズマアーク6bが不安定となりやすく、プラズマアーク6bが広がってしまうおそれがある。しかしながら、図1に示すように、プラズマガスGpは、プラズマノズル3によってその噴出方向が規定されている。プラズマノズル3は、水冷構造とされているため、プラズマガスGpを絞り、プラズマアーク6bを緊縮させる効果を発揮する。これにより、GMAアーク6aを安定させることが可能である。したがって、溶接ビードWpの幅方向断面形状を中心付近が急峻に深くなったバランスのよい形状としつつ、溶接ビードWpが溶接方向に対して不当にふらつくことを防止することができる。
【0019】
本発明に係る2電極アーク溶接方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る2電極アーク溶接方法の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0020】
シールドガスGsのみに還元性ガスを混入させる構成に限定されず、シールドガスGsおよびプラズマガスGpに還元性ガスを混入させる構成であってもよい。センターガスGc、プラズマガスGp、およびシールドガスGsを供給することは、溶接ビードWpの外観を良好とするのに好ましいが、本発明はこれに限定されず、たとえば不活性ガスのみからなるセンターガスGcと還元性ガスを混入させたシールドガスGsのみを供給する構成であってもよい。H2およびCH4は、還元性ガスの一例である。本発明でいう還元性ガスとしては、溶融池Mpに溶解した酸素を還元作用によって適切に低減することが可能なガスを用いればよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る2電極アーク溶接方法に用いられる溶接装置の一例を示すシステム構成図である。
【図2】本発明に係る2電極アーク溶接方法の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0022】
A 溶接装置
B 溶接トーチ
Gc センターガス(第1ガス)
Gp プラズマガス
Gs シールドガス(第2ガス)
Iwa GMAアーク溶接電流
Iwb プラズマアーク溶接電流
P 溶接母材
PSM GMAアーク溶接電源
PSP プラズマアーク溶接電源
VR 電圧設定回路
Vrm,Vrp 電圧設定信号
Vwa GMAアーク溶接電圧
Vwb プラズマアーク溶接電圧
W ワイヤ(消耗電極)
1 コンタクトチップ
2 プラズマ電極(非消耗電極)
3 プラズマノズル
4 シールドガスノズル
5 送給ローラ
6a GMAアーク(消耗電極アーク)
6b プラズマアーク(非消耗電極アーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接対象物に対して送給される消耗電極とこの消耗電極を囲うように同心状に配置された非消耗電極とを備えた溶接トーチを用い、
上記消耗電極と溶接対象物との間に消耗電極アークを発生させ、かつ上記非消耗電極と溶接対象物との間に非消耗電極アークを発生させるとともに、
上記消耗電極アークを直接囲うように第1ガスを供給し、かつ上記第1ガスに対して同心軸外側に第2ガスを供給する、2電極アーク溶接方法であって、
上記第1ガスは、不活性ガスであり、
上記第2ガスは、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスであることを特徴とする、2電極アーク溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−78274(P2009−78274A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247074(P2007−247074)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】