説明

2電極左右差溶接方法

【課題】溶接とは別の外部熱源で入熱量を調整し、溶け込み深さをコントロールすることで被溶接部材の倒れを防止する2電極左右差溶接方法を提供する。
【解決手段】先行電極1と後行電極2とを用い被溶接部材12の両側から同時に隅肉溶接を行う2電極溶接方法において、隅肉溶接を施工中に、溶接以外の外部熱源(熱源6及び冷却源7)を用いて、先行電極1側の入熱量と後行電極2側の入熱量との間に差をつけることにより、被溶接部材12の両側の溶け込み深さを均一にし、被溶接部材12の倒れを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先行電極と後行電極の2電極を用いて隅肉溶接を行う際に、溶接とは別の外部熱源を用いて入熱量を調整し、被溶接部材の倒れを防止する2電極左右差溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造船、橋梁などの構造物においてはT型隅肉溶接が多く行われている。この時、溶接作業の能率向上のために電極をウェブ材の両側に配し、両側から同時に隅肉溶接を行うのが一般的である。
このような2電極を同時に使用する場合、ブローホールなどの溶接欠陥防止のために、2つの電極は一定の距離だけ離され、脚長を確保するために、両側の電極における溶接電流は等しくされている。
【0003】
ところが、2電極により同時に溶接を行う場合、先行側と後行側との溶着量および入熱量をそれぞれ等しくすると、先行側の入熱による影響で、後行側の溶け込みが先行側に対して大きくなり、したがってウェブ材が他方の被溶接部材に対して垂直に溶接されずに、後行側に倒れてしまうという欠点があった。
【0004】
このため、これを解決する手段として、後行側の電極による入熱量を減ずる(例えば、ワイヤー突き出し長さやワイヤー径を変える、つまり溶接電流を減ずる)ことで、両側の溶け込み深さを均一にし、ウェブ材の倒れを防止する2電極溶接方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−1341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際の溶接では図2に示すように、溶接ワイヤー3の曲がり癖やコンタクトチップ4の損耗の影響でコンタクトチップ4内の給電点5、つまりワイヤー突き出し長さLが常に変動している。
また、例えば図3に示すように、被溶接部材12には製作誤差が原因で、他方の被溶接部材11との間にギャップと呼ばれる不均一な隙間があるのが一般的である。ギャップ13があった場合は、所定脚長を確保するために溶接電流を調整しながら施工している。
つまり、実施工の中では、電極による入熱量を抑制し、左右の溶け込み深さをコントロールしようとしても、ギャップ13などに代表される部材誤差対応のための調整や、コンタクトチップ4の損耗による電流変化があり、両側の溶け込み深さを均一にすることは難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、溶接とは別の外部熱源で入熱量を調整し、溶け込み深さをコントロールすることで被溶接部材12の倒れを防止する2電極左右差溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る2電極左右差溶接方法は、先行電極と後行電極とを用いて被溶接部材の両側から同時に隅肉溶接を行う2電極溶接方法において、
前記隅肉溶接を施工中に、溶接以外の外部熱源を用いて、先行電極側の入熱量と後行電極側の入熱量との間に差をつけることにより、前記被溶接部材の両側の溶け込み深さを均一にすることを特徴とする。
【0009】
ここで、本発明において、先行電極側の入熱量とは、先行電極による溶接の入熱量と外部熱源による入熱量との和である総入熱量をいう。したがって、先行電極側に外部熱源がない場合は、先行電極側の入熱量は、先行電極による溶接の入熱量のみとなる。また、後行電極側の入熱量も同じく、後行電極による溶接の入熱量と外部熱源による入熱量との和である総入熱量をいう。したがって、後行電極側に外部熱源がない場合は、後行電極側の入熱量は、後行電極による溶接の入熱量のみとなる。
【0010】
また、本発明の2電極左右差溶接方法においては、外部熱源として、先行電極側には溶接部を加熱する熱源、後行電極側には溶接部を冷却する冷却源のいずれか一方または両方を設けるものである。
【0011】
また、本発明の2電極左右差溶接方法においては、温度センサーにより被溶接部材の特定の部位の温度を計測することにより、計測された温度に基づく先行電極側の入熱量を一定にして、後行電極側の冷却量を変更するものである。
【0012】
また、本発明の2電極左右差溶接方法においては、被溶接部材の特定の部位は、先行電極側の溶接部の前記被溶接部材の裏側の位置で、前記先行電極と前記後行電極との間の位置とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被溶接部材の隅肉溶接を施工中に、溶接以外の外部熱源を用いて、先行電極側の入熱量と後行電極側の入熱量との間に差をつけることとしたので、ギャップや消耗部品の損耗などがあっても、管理の難しい電極による入熱量の変更をともなわずに、被溶接部材の倒れを防止できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の施工の形態における2電極左右差溶接方法の概要を示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図2】電極のコンタクトチップ部の断面図である。
【図3】被溶接部材の製作誤差によるギャップを示す図で、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の施工の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明の施工の形態における2電極左右差溶接方法の概要を示す図である。
図1に示すように、いずれも消耗電極である先行電極1と後行電極2とが所定の極間距離Sを隔てて、被溶接部材12の例えば図1の左側と右側に配置されている。被溶接部材12は、他方の被溶接部材11の上に立設され、先行電極1と後行電極2とにより被溶接部材12の両側から同時に隅肉溶接される。
先行電極1は溶接進行方向(矢印の方向)の先頭に位置する電極であり、消耗電極の溶接ワイヤー3aが所要の突出し長さとなるように自動送給されるようになっている。後行電極2は先行電極1より後方に所定の距離Sだけ離れた位置に配置されており、同様に消耗電極の溶接ワイヤー3bが所要の突出し長さとなるように自動送給されるようになっている。なお、溶接ワイヤー3a、3bの種類(ソリッドワイヤー、コアードワイヤーなど)、ワイヤー径は同種、同径、あるいは異種、異径のどのような組み合わせでもかまわない。
【0017】
さらに、先行電極1側には溶接部10aを加熱する熱源6が設けられている。熱源6は、例えばガスバーナーや高周波加熱などにより加熱を行うものである。一方、後行電極2側には溶接部10bを冷却する冷却源7が設けられている。冷却源7は、例えば圧縮空気の噴きつけや接触式の水冷銅板などにより冷却するものである。熱源6および冷却源7は、例えば不図示の溶接台車(被溶接部材12に沿って移動する台車)に先行電極1、後行電極2の各溶接トーチと共に搭載して手動または自動で移動させることができる。なお、熱源6および冷却源7は両方を使用してもよく、どちらか一方を使用してもよい。
【0018】
また、後行電極2側には被溶接部材12の温度を検知する温度センサー8(例えば、赤外線センサー)が設置されている。温度センサー8も上記溶接台車上に設置されている。この温度センサー8は、被溶接部材12の特定の部位の温度を計測するものである。すなわち、先行電極1の溶接熱の伝播による入熱、つまり後行電極2側の溶接前の部材温度上昇を知りたいので、温度センサー8は後行電極2側に配置する。ここで、特定の部位とは、先行電極1側の溶接部10aの被溶接部材12の裏側の位置で、先行電極1と後行電極2との間の位置をいう。
【0019】
次に、この2電極左右差溶接方法の作用について説明する。
被溶接部材12は、先行電極1と後行電極2とにより両側から同時に隅肉溶接される。この溶接施工中に、先行電極1側に設けられたバーナー等の熱源6により溶接部10aを加熱し、入熱量を調整し、溶け込み深さをコントロールする。また、溶接施工中には、ギャップの多少により作業者が溶接電流を増減させるので、熱源6による加熱量もこれに応じて調整する。すなわち、ギャップが大きい場合は溶接速度を遅くしたり、溶接電流を上げるなどの調整を行うことにより溶接による入熱量が多くなる。よって、この場合は、熱源6による加熱量を少なくすることで総入熱量(溶接入熱量と熱源6の加熱量との和)が一定になるように調整する。
【0020】
一方、後行電極2側では、冷却源7の圧縮空気の噴きつけなどにより溶接部10bを冷却することで総入熱量を調整し、溶け込み深さをコントロールする。冷却量は、温度センサー8により計測した温度情報と後行側の電極による入熱量を元に決定する。特定の部位の計測温度、後行側の電極による入熱量と冷却量の関係はあらかじめ実験により求めたものをデータベース化しておき、溶接施工中においては、このデータベースを参照し、冷却量を調整する。
【0021】
本発明では、上述のように隅肉溶接施工中に、外部熱源を用いて、先行電極1側の総入熱量と後行電極2側の総入熱量との間に差をつけることで、両側の溶け込み深さを均一にし、被溶接部材12の倒れを防止するものである。例えば、先行電極1側の総入熱量は一定にして、後行電極2側の冷却量を変更することで、先行後行の総入熱量に差をつける。
したがって、本発明によれば、不安定で調整の難しい電極による入熱量ではなく、外部の熱源6または冷却源7による入熱量の調整であるので、部材の製作誤差や消耗部品の損耗度の影響があった場合でも被溶接部材の倒れを確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0022】
1 先行電極
2 後行電極
3a、3b 溶接ワイヤー
6 熱源
7 冷却源
8 温度センサー
10a、10b 溶接部
11、12 被溶接部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行電極と後行電極とを用いて被溶接部材の両側から同時に隅肉溶接を行う2電極溶接方法において、
前記隅肉溶接を施工中に、溶接以外の外部熱源を用いて、先行電極側の入熱量と後行電極側の入熱量との間に差をつけることにより、前記被溶接部材の両側の溶け込み深さを均一にすることを特徴とする2電極左右差溶接方法。
【請求項2】
前記外部熱源として、先行電極側には溶接部を加熱する熱源、後行電極側には溶接部を冷却する冷却源のいずれか一方または両方を設けることを特徴とする請求項1に記載の2電極左右差溶接方法。
【請求項3】
温度センサーにより前記被溶接部材の特定の部位の温度を計測することにより、計測された温度に基づく先行電極側の入熱量を一定にして、後行電極側の冷却量を変更することを特徴とする請求項2に記載の2電極左右差溶接方法。
【請求項4】
前記被溶接部材の特定の部位は、先行電極側の溶接部の前記被溶接部材の裏側の位置で、前記先行電極と前記後行電極との間の位置とすることを特徴とする請求項3に記載の2電極左右差溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−71149(P2013−71149A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211524(P2011−211524)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(502116922)ジャパンマリンユナイテッド株式会社 (172)
【Fターム(参考)】