説明

2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法、粉末、及びそれを用いたポリイミド

【課題】 簡単な操作によって容易に着色の少ない2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を得る精製方法、着色の少ない2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末、及びそれを用いた光透過性が改良されたポリイミドを提供することを目的とする。
【解決手段】 溶媒の2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解した溶液に対する波長400nmの光透過率が80%以上であることを特徴とする2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色の少ない2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法、該粉末、及びそれを用いたポリイミドに関する。ここで、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末とは、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とし、実質的に2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる化学原料として好適に用いられる粉末のことである。
【背景技術】
【0002】
高度情報化社会の到来に伴い、光通信分野の光ファイバーや光導波路等、表示装置分野の液晶配向膜やカラーフィルター用保護膜等の光学材料の開発が進んでいる。さらに表示装置分野では、ガラス基板代替として軽量でフレキシブル性に優れたプラスチック基板の検討が行なわれ、それを用いて曲げたり丸めたりすることが可能なディスプレイの開発が進んでいる。
【0003】
ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られる樹脂であるが、高寸法安定性や高耐熱性などの優れた特性を有することから高性能光学材料としての用途展開が望まれている。しかしながら、ポリイミドはその化学構造に起因して容易に着色が起こり易いのみならず、原料のテトラカルボン酸二無水物やジアミンも着色を抑制することが容易ではなかった。
【0004】
ポリイミドの原料の一つに、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がある。
特許文献1には、製造工程が簡略化され、高収率で2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸が得られる製造方法及び、それを用いたポリイミド樹脂が開示されている。
特許文献2には、無水酢酸を用い、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸を無水化し、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を得る方法が開示されている。
ここに記載されているのは、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸及び、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の合成方法であって、着色の低減を目指した2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の精製方法については記載も示唆もなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−281616号公報
【特許文献2】特開2009−79009号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Chemical Society,1914, vol.105, p.2471
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の製造方法について開示されているが、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の製造については記載されていない。また、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−オキシジアリンから得られるポリイミド樹脂が、従来のポリイミド樹脂に比べ、着色が低いことが記載されているが、これは従来のポリイミドの分子構造と、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に由来する分子構造の違いに起因する効果であり、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の着色低減による効果について記載されたものではない。
特許文献2には、無水酢酸や、加熱により2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を得る方法が記載されているが、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の精製方法や、その着色については記載されていない。
【0008】
本発明は、従来のポリイミドの用途を超えた、高性能光学材料への展開を目指し、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の着色を改良する目的で種々検討した結果なされたものである。
すなわち本発明は、簡単な操作によって容易に着色の少ない2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を得る精製方法、着色の少ない2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末、及びそれを用いた光透過性が改良されたポリイミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の各項に関する。
【0010】
1. 溶媒の2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解した溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率が80%以上であることを特徴とする2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末。
【0011】
2. 波長400nm、光路長1cmの光透過率が90%以上であることを特徴とする前記項1に記載の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末。
【0012】
3. 溶剤と、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を、少なくとも一部の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末が溶解していない不均一な状態で混合し、次いで混合液から未溶解の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を分離回収することを特徴とする2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【0013】
4. 溶剤が、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ニトリル系溶剤、アミド系溶剤、スルホン系溶剤、カーボネート溶剤、フェノール系溶剤、水、の少なくともいずれかを含むことを特徴とする前記項3に記載の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【0014】
5. 25℃の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の溶解度が、0.5g/100g以上である溶剤を用いることを特徴とする前記項3又は4に記載の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【0015】
6. 25℃の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の溶解度が、3g/100g〜20g/100gである溶剤を用いることを特徴とする前記項3又は4に記載の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【0016】
7. 溶剤が、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルー2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンであることを特徴とする前記項3〜6のいずれかに記載の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【0017】
8. 2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含む粉末を、酸無水物を含む溶液で、再結晶することを特徴とする2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【0018】
9. 2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含む粉末を150℃〜350℃に加熱し、50Torr以下の減圧下で、昇華することを特徴とする2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【0019】
10. 前記項1又は2に記載の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を用いて製造した、フィルムにしたときの光透過率が改良されたことを特徴とすることを特徴とするポリイミド。
【0020】
11. 膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおける光透過率が80%以上であることを特徴とする前記項10に記載のポリイミド。
【発明の効果】
【0021】
本発明によって、簡単な操作によって容易に着色の少ない2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を得る精製方法、着色の少ない2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末、及びそれを用いた光透過性が改良されたポリイミドを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末(以下、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物をi−BPDA、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末をi−BPDA粉末、と略記することもある。)は2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解して得られた溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率が80%以上であることを特徴とする。光透過率が80%未満の場合は、淡黄色を呈し、本発明の目的を達成することが出来ない。光透過率は、好ましくは90%以上である。
【0023】
本発明のi−BPDAの合成方法は任意であるが、中間体である2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸を得て、それを無水化することで得られる。
2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の合成方法としては、a)非特許文献1記載の銅粉存在下、高温に加熱してカップリング反応を行う、いわゆるウルマン反応を用いる製造方法や、b)特許文献1記載のジアルキルベンゼンモノニトロ化合物を出発原料として、還元反応と、ベンジジン転位反応と、脱アミノ化反応と、酸化反応とを順次おこなう製造方法や、c)特許文献2記載の2−ジメチル−3−クロロベンゼンを出発原料として、カップリング反応と、酸化反応とを順次おこなう製造方法が好適である。
【0024】
2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸を無水化し、i−BPDAを合成する方法としては、公知の方法が好適に用いることができる。例えば、無水酢酸などの酸無水物を加え脱水する方法や、水と共沸する溶剤を加え過熱し脱水する方法や、不活性ガスまたは減圧下加熱し脱水する方法などが挙げられる。一般に上記の製造方法で、従来のポリイミド製造で用いることができる純度90%以上、好ましくは95%以上のi−BPDA粉末を得ることができる。
【0025】
本発明のi−BPDA粉末の製造方法では、着色を低減する目的で、
(1)溶剤と、i−BPDA粉末を、少なくとも一部のi−BPDA粉末が溶解していない不均一な状態で混合し、次いで混合液から未溶解のi−BPDA粉末を分離回収する精製方法、
(2)酸無水物を含む溶液で再結晶する精製方法、
(3)加熱減圧下で昇華する精製方法
など、いずれかの精製工程を含むことが好ましい。また、これらの方法を複数繰り返すことや、組み合わせて精製することもできる。また、精製前のi−BPDAの純度としては、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上である。90%未満では、これらの精製工程で十分に着色を取り除くことができないことがある。
【0026】
本発明の(1)の精製方法では、25℃におけるi−BPDAの溶解度が0.5g/100g以上である溶剤を用い、i−BPDA粉末を少なくとも一部のi−BPDA粉末が溶解していない不均一な状態で混合し、次いで混合液から未溶解のi−BPDA粉末を分離回収する精製方法を用いることができる。ここでの25℃におけるi−BPDAの溶解度が0.5g/100g以上である溶剤とは、25℃において、溶剤100gにi−BPDAが0.5g以上溶解することが可能な溶剤を示す。本発明でのi−BPDAの溶解度は、実施例記載の方法で求められるものである。
【0027】
本発明の(1)の精製方法で使用する溶剤としては、25℃におけるi−BPDAの溶解度が0.5g/100g以上、好ましくは3g/100g〜20g/100gである溶剤が使用できる。適切な溶解度を有する溶剤と、処理温度を設定することで、i−BPDA由来の劣化物や微量な不純物などを簡便に取り除くことが出来き、着色の低減されたi−BPDA粉末を高収率で容易に得ることができる。この溶剤は単一種の溶剤である必要はなく、複数種の溶剤の混合物であっても、混合物としての溶解度が0.5g/100g以上であれば構わない。
【0028】
好適な溶剤としては特に限定されないが、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ブタノール、ターシャリーブタノール、ブタンジオール、エチルヘキサノール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトンなどのエステル系溶剤、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、フラン、ジベンゾフラン 、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、メチルターシャリーブチルエーテル、ブチルカルビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル,3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエーテル系溶剤、アセトニトリル、プロピオニトリル、 ブチロニトリルなどのニトリル系溶剤、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメトルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤、ジメチルスルホキシドなどのスルホン系溶剤、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート溶剤、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶剤、その他、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、水などが挙げられ、特にジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルー2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンは好適である。これらの溶剤は、不純物、金属成分、水分を含まない高純度溶剤が好ましい。アルコール系溶剤や水などを用いる場合、酸無水物の一部が開環反応を起こすことがあるため、後の操作で加熱等により閉環することが好ましい。
【0029】
本発明の(1)の精製方法で、溶剤とi−BPDA粉末を混合する温度としては、溶剤の沸点未満であれば差し支えないが、150℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは0〜50℃である。溶剤の沸点温度付近で処理をおこなうと、溶剤が反応したり、分解したり、酸化劣化することにより着色することがある。
【0030】
本発明の(1)の精製方法で、混合液から未溶解のi−BPDA粉末を分離回収する方法としては、常圧でのろ過、加圧ろ過、吸引ろ過、遠心ろ過など公知の方法が好適に利用できる。常温以上で溶剤抽出をおこなった場合、析出を防ぐため、加熱することが好ましい。また、ろ別するまでに、抽出時の温度を下がる場合、溶剤へ溶解した不純物が析出することがあるので、好ましくない。
【0031】
本発明の(1)の精製方法では、i−BPDA粉末を分離回収後、乾燥させることが好ましい。その乾燥方法としては、熱風乾燥、不活性ガス気流下での加熱乾燥、真空乾燥等の公知の方法が好適に利用できる。溶剤抽出時に酸無水物の一部が開環反応を起こすことがあるため、乾燥時に加熱等により閉環することがより好ましい。
【0032】
本発明の(2)の精製方法では、i−BPDAを90%以上含む粉末を、酸無水物を含む溶液で、再結晶する精製工程を好適に使用することができる。ここで用いられる酸無水物を含む溶液は、無水酢酸、無水プロピオン酸などの脂肪族系酸無水物を2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸の2倍モル以上含む溶液であることが好ましい。溶媒としては、(1)の精製方法と同様の溶剤が好適に使用できる。精製物のろ別、乾燥方法は、前述の方法を好適に使用できる。
【0033】
本発明の(3)の精製方法では、i−BPDAを温度350℃以下、50Torr以下の減圧下で、昇華する精製工程を好適に使用することができる。昇華精製条件として、温度350℃以下、減圧50Torr以下、好ましくは温度150〜300℃以下、減圧5Torr以下である。温度が350℃以上場合、i−BPDAが分解し着色する可能性があり、150℃以下の場合、製造効率が低下する。また減圧50Torr以上の場合、i−BPDAが酸化し着色する可能性がある。また、特開2005−314296公報、特開2006−45198公報記載の製造方法で連続的に製造することもできる。
【0034】
本発明のポリイミドは、400nm、光路長1cmの光透過率が80%以上であるi−BPDAとジアミン誘導体を反応させて得られるもので、400nmの光透過率が80%未満であるi−BPDAとジアミン誘導体を反応させて得られるもの比べ、ポリイミドの光透過率が向上されたものである。好ましくは膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおける光透過率が70%以上、より好ましくは80%以上である。
【0035】
本発明のポリイミドでは、テトラカルボン酸二無水物としては、さらにi−BPDA以外のテトラカルボン酸二無水物を、テトラカルボン酸二無水物の総モル量に対し、90%以下、好ましくは50%以下で用いることができる。i−BPDA以外のテトラカルボン酸二無水物を用いることで、ポリイミド前駆体の溶解性が改善し、製造しやすくなる。i−BPDA以外のテトラカルボン酸二無水物成分としては、特に限定はなく、通常のポリイミドに採用されるテトラカルボン酸二無水物であればいずれでも構わないが、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。その様なテトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、m−ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピレン)ジフタル酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン類、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、(1,1’:3’,1”−ターフェニル)−3,3”,4,4”−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ジメチルシラジイル)ジフタル酸二無水物、4,4’−(1,4−フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸二無水物、など、より好ましくは2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を好適に挙げることができる。
【0036】
本発明のポリイミドで用いるジアミン誘導体としては、特に限定されないが、ポリイミドの透明性を向上させるため、以下のジアミン誘導体が好適である。
例えば、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジアミノウンデカン、ジアミノドデカンなどの直鎖状および分枝状の脂肪族ジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、3−メチル−1,4−ジアミノシクロヘキサン、3−メチル−、3−アミノメチル−、5,5−ジメチルシクロヘキシルアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4,4′−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3,3′−メチル−4,4′−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(アミノメチル)−トリシクロ〔5,2,1,0〕デカン、イソホロンジアミン、1,3−ジアミノアダマンタンなどの脂環構造を有するジアミン、
3,5−ジアミノベンゾトリフルオライド、2−(トリフルオロメチル)−1,4−フェニレンジアミン、 5−(トリフルオロメチル)−1,3−フェニレンジアミン、1,3 −ジアミノ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2’−ビス−(4−アミノフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、4,4−ビス(トリフルオロメトキシ)ベンジジン、3,3’−ジアミノ−5,5’−トリフルオロメチルビフェニル、3,3’−ジアミノ−6,6’−トリフルオロメチルビフェニル、3,3’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン;2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル] ヘキサフルオロプロパン、4,4’−トリフルオロメチル−2,2’− ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’,5,5’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)などのハロゲン基を有する芳香族ジアミン、
4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4−アミノフェニルー4−アミノベンゾエート、テレフタル酸ビス(4−アミノフェニル)エステル、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸ビス(4−アミノフェニル)1,4−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノベンズアニライド、N,N−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’−p−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)、N,N’−m−フェニレンビス(p−アミノベンズアミド)などのカルボニル基を有する芳香族ジアミン、
3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3、3’−ジアミノー4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、O−トリジンスルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホンなどのスルホニル基を有する芳香族ジアミンが好ましく
1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4,4′−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを用いて得られるポリイミドは、透明性、耐熱性に優れるためより好ましく、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンは、さらに熱線膨張係数が低いため特に好ましい。
【0037】
本発明のジアミン誘導体は、反応性や生成物の溶解性付与の目的で、前述のジアミンをシリル化剤(アミド系シリル化剤など)と反応させジアミン誘導体としても好適に用いることができる。
【0038】
本発明のポリイミドの前駆体は、特に限定されないが以下の製造方法により容易に製造することができる。
【0039】
1)ポリアミド酸
有機溶剤にジアミンを溶解し、この溶液に攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0〜100℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。
【0040】
2)ポリアミド酸シリルエステル
あらかじめ、ジアミンとシリル化剤を反応させ、シリル化されたジアミンを得え(必要に応じて、蒸留等によりシリル化されたジアミンの精製をおこなう。)、脱水された溶剤中にシリル化されたジアミンを溶解させておき、攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0〜100℃の範囲で1〜72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。ここで用いるシリル化剤として、塩素を含有しないシリル化剤を用いることは、シリル化されたジアミンを精製する必要がないため、好適である。塩素原子を含まないシリル化剤としては、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。フッ素原子を含まず低コストであることから、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが好ましい。また、ジアミンのシリル化反応には、反応を促進するために、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミンなどのアミン系触媒を用いることができる。この触媒はポリイミド前駆体の重合触媒として、そのまま使用することができる。
【0041】
また、前記製造方法は、いずれも有機溶媒中で好適に行なうことができるので、その結果として、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物を容易に得ることができる。
【0042】
これらの製造方法においては、いずれも、テトラカルボン酸成分とジアミン成分のモル比は、必要とするポリイミド前駆体の粘度により任意に設定できるが、好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05である。
【0043】
前記製造方法で使用する有機溶媒は、具体的にはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホオキシド等の非プロトン性溶媒が好ましいが、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体が溶解すれば問題はなく使用できるので、特にその構造には限定されない。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、0−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、プチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。
【0044】
本発明のポリイミド前駆体は、必要に応じて、化学イミド化剤(無水酢酸などの酸無水物や、ピリジン、イソキノリンなどのアミン化合物)、酸化防止剤、フィラー、染料、無機顔料、シランカップリング剤、難燃材、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤(流動補助剤)、剥離剤などを添加することができる。
【0045】
本発明のポリイミドは、本発明のポリイミド前駆体を脱水閉環反応(イミド化反応)することで製造することができる。イミド化の方法は特に限定されず、公知の熱イミド化、化学イミド化方法を適用することができる。得られるポリイミドの形態は、フィルム、ポリイミド積層体、粉末、ビーズ、成型体、発泡体およびワニスなどを好適に挙げることができる。
【0046】
以下では、本発明のポリイミドフィルム、及びそれを基板に積層した基板積層体の製造方法について述べる。ただし、以下の方法に限定されるものではない。
例えばセラミック(ガラス、シリコン、アルミナ)、金属(銅、アルミニウム、ステンレス)、耐熱プラスチックフィルム(ポリイミド)などの基板に、本発明のポリイミド前駆体溶液組成物を流延し、真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中で、熱風もしくは赤外線を用い、20〜180℃、好ましくは20〜150℃で乾燥する。次に得られたポリイミド前駆体を基板上で、もしくはポリイミド前駆体(フィルム)を剥離し、そのフィルム端部を固定した状態で、真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中で、熱風もしくは赤外線を用い、200〜500℃、より好ましくは250〜450℃で加熱することでポリイミド/基板積層体、もしくはポリイミドフィルムを製造することができる。得られるポリイミドが酸化劣化するのを防ぐため、イミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましい。イミド化温度が高すぎなければ空気中で行なっても差し支えない。
【0047】
またイミド化反応は、前記のような熱処理に代えて、ポリイミド前駆体をピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水環化試薬を含有する溶液に浸漬することによって行うことも可能である。また、これらの脱水環化試薬をあらかじめ、ポリイミド前駆体溶液組成物中に投入・攪拌し、それを基板上に流延・乾燥することで、部分的にイミド化したポリイミド前駆体を作製することもでき、これを更に前記のようにして熱処理することでもポリイミド/基板積層体、もしくはポリイミドフィルムを得ることができる。
【0048】
ここで、前記ポリイミド/基板積層体を用いた積層体の製造方法の一例を説明すると、ポリイミド前駆体溶液組成物を、セラミック基板、金属基板、或いは耐熱性プラスチック基板へ塗布し、真空中、窒素もしくは空気中で、200〜500℃まで加熱してイミド化し、ポリイミド/基板積層体を製造する工程と、基板よりポリイミドを剥離せずに、得られた積層体のポリイミド表面にセラミック薄膜もしくは金属薄膜を形成させ、薄膜/ポリイミド/基板積層体を製造する工程と、その後基板よりポリイミドを剥離する工程を具備してなる。基板よりポリイミドを剥離せずに、ポリイミド/基板積層体の状態で、スパッタ蒸着などによって前記薄膜を形成するなどの、その後の加工に用いることで、経済的であり、搬送性が良好であり、寸法安定性や加工時の高い寸法精度を得ることができる。
【0049】
また、本発明のポリイミドは、その限りではないが、フィルムにしたときの50℃〜200℃における平均熱線膨張係数が50ppm/K以下、好ましく30ppm/K以下、より好ましくは20ppm/K以下である。
【0050】
本発明のポリイミドからなるフィルムは、用途にもよるが、フィルムの厚みとしては1μm〜200μm程度が好ましく、さらには1μm〜100μm程度が好ましい。
【0051】
本発明のポリイミドは、特に限定されないが、優れた透明性と靭性を有する特性から、光学材料として好適である。例えば、ディスプレイ用透明基材、タッチパネル用透明基材、太陽電池用透明基板として好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
以下の各例で使用した原材料は、次のとおりである。
2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(i−BPDA):CHANGZHOU WEIJIA CHEMICAL株式会社製 純度 99.9%(開環後した2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99%
3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA):宇部興産株式会社製 純度99.9%(開環後した3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸のHPLC分析で求めた純度)、酸無水化率 99.8%に同質量のN−メチル−2−ピロリドンを加え室温下3時間攪拌後、溶け残った粉末を回収し、真空乾燥させたものを用いた。
2N 水酸化ナトリウム水溶液:東京化成株式会社製 水酸化ナトリウム水溶液
トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン(t−DACH):ZHEJIANG TAIZHOU QINGQUAN MEDICAL & CHEMICAL株式会社製 純度 99.1%(GC分析)を昇華精製したものを使用
1,4−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン(BABB):三國製薬工業株式会社製を、活性炭処理後、昇華精製したものを使用
【0054】
以下の各例において評価は次の方法で行った。
【0055】
[25℃のi−BPDAの溶解度]
ガラス製容器に純度99.9%、酸無水化率99%のi−BPDA粉末 5.0g、溶剤 50.0gを仕込み、25℃で3時間、十分に攪拌した。溶け残ったi−BPDAをアドバンテック製ろ紙5Aを用いろ別し、i−BPDA飽和溶液を得た。i−BPDA飽和溶液5gをアルミ製シャーレに入れ、80℃で1時間、200℃で1時間加熱した。加熱後残分より飽和溶液中に含まれていたi−BPDAの質量を求め、溶解度を算出した。
[光透過率]
所定量のi−BPDA粉末を2N水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、10質量%溶液を得た。大塚電子製MCPD−300、光路長1cmの標準セルを用いて、2N水酸化ナトリウム水溶液をブランクとし、i−BPDA溶液の400nmにおける光透過率を測定した。
【0056】
ポリイミド前駆体、ポリイミドの評価
[対数粘度]
0.5g/dLのポリイミド前駆体 N,N−ジメチルアセトアミド溶液を、ウベローデ粘度計を用いて、30℃で測定した。
[光透過率]
10質量%のポリイミド前駆体/N,N−ジメチルアセトアミド溶液を、大塚電子製MCPD−300を用いて、光路長1cmの標準セルで測定した。N,N−ジメチルアセトアミドをブランクとし、10質量%のポリイミド前駆体/N,N−ジメチルアセトアミド溶液の400nmにおける光透過率を求めた。
[光透過率]
大塚電子製MCPD−300を用いて、膜厚約10μmのポリイミド膜の400nmにおける光透過率を測定した。
[弾性率、破断伸度]
ポリイミド膜をIEC450規格のダンベル形状に打ち抜いて試験片とし、ORIENTEC社製TENSILONを用いて、チャック間 30mm、引張速度 2mm/minで、初期の弾性率、破断伸度を測定した。
[熱膨張係数(CTE)]
ポリイミド膜を幅4mmの短冊状に切り取って試験片とし、島津製作所製TMA−50を用い、チャック間長15mm、荷重2g、昇温速度20℃/minで300℃まで昇温した。得られたTMA曲線から、50℃から200℃までの平均熱膨張係数を求めた。
【0057】
〔実施例1〕
ガラス製容器にi−BPDA 10.0g、溶媒としてジメチルスルホキシド 10.0gを仕込み、25℃で3時間、十分に攪拌した。溶液をろ別し、得られた固体を100℃ 2時間真空乾燥し、着色が低減されたi−BPDAを得た。この方法で得られたi−BPDAの光透過率の結果を表1に示す。
【0058】
〔実施例2〜3〕
溶媒を表1記載の溶剤へ変更した以外は、実施例1と同様にして着色が低減されたi−BPDAを得た。この方法で得られたi−BPDAの光透過率の結果を表1に示す。
【0059】
〔実施例4〕 不活性ガス雰囲気下での再結晶
ガラス製容器にi−BPDA 10.0g、無水酢酸 150gを仕込み、窒素気流下、加熱還流し溶解した。溶解後すぐに攪拌しながら25℃まで冷却し、結晶を析出させた。溶液をろ別し、得られた粉末を100℃ 2時間真空乾燥した。収量は、7.9gであった。この方法で得られたi−BPDAの光透過率の結果を表1に示す。
【0060】
〔実施例5〕 不活性ガス雰囲気下での再結晶
ガラス製容器にi−BPDA 5.0g、無水酢酸 75gを仕込み、窒素気流下、130℃に加熱し溶解した。溶解後、活性炭(Norit SXプラス) 0.05gを加え、30分攪拌した。活性炭をろ過で取り除き、ろ液を攪拌しながら25℃まで冷却した。得られた粉末を100℃ 2時間真空乾燥した。収量は、4.1gであった。この方法で得られたi−BPDAの光透過率の結果を表1に示す。
【0061】
〔実施例6〕 300℃以下での昇華
ガラス製昇華装置に実施例6と同様の方法で得たi−BPDA 10.0gを仕込み、1Torr以下に減圧した。i−BPDAが接している壁面の温度を230〜250℃に加熱し、25℃の冷却水を通したガラス面に昇華物を得た。収量は、8.8gであった。この方法で得られたi−BPDAの光透過率の結果を表1に示す。
【0062】
〔実施例7〕 300℃以上での昇華
ガラス製昇華装置に実施例6と同様の方法で得たi−BPDA 10.0gを仕込み、1Torr以下に減圧した。i−BPDAが接している壁面の温度を300〜320℃に加熱し、25℃の冷却水を通したガラス面に昇華物を得た。収量は、8.4gであった。この方法で得られたi−BPDAの光透過率の結果を表1に示す。
【0063】
〔比較例1〕
精製等の処理をおこなわないi−BPDAの光透過率を表1に示す。
【0064】
〔比較例2〕
溶媒を表1記載の溶剤へ変更した以外は、実施例1と同様にしてi−BPDAを得た。この方法で得られたi−BPDAの光透過率の結果を表1に示す。
【0065】
〔比較例3〕 空気下での再結晶
ガラス製容器にi−BPDA 5.0g、無水酢酸 75gを仕込み、空気雰囲気下、3時間加熱還流した。溶解後25℃まで冷却し結晶を析出させた。溶液をろ別し、得られた粉末を100℃ 2時間真空乾燥した。収量は、3.6gであった。この方法で得られたi−BPDAの光透過率の結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示した結果から分かるとおり、本発明の着色性が低減したi−BPDAは、400nmにおける光透過率が80%以上であり、好ましくは90%以上であり光学材料用途ポリイミドの原料として好適である。
【0068】
〔実施例8〕
反応容器中に昇華精製したトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン(t−DACH) 1.40g(0.0122モル)を入れ、モレキュラーシーブを用いて脱水したN,N−ジメチルアセトアミド 28.4gに溶解した。この溶液を50℃に加熱し、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA) 3.25g(0.0110モル)と、実施例3で得られたi−BPDA 0.36g(0.0012モル)とを徐々に加えた。50℃で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0069】
得られたポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下で120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、350℃で5分 まで昇温して熱的にイミド化を行なって、無色透明なポリイミド/ガラス積層体を得た。次いで、得られた共重合ポリイミド/ガラス積層体を水に浸漬した後剥離し、膜厚が10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0070】
〔実施例9〕
反応容器に、活性炭処理後、昇華精製した1,4−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)ベンゼン(BABB) 3.48g(0.01モル)、モレキュラーシーブを用い脱水したN,N−ジメチルアセトアミド 36.41gを加え、50℃、窒素気流下で溶解した。この溶液に実施例3で得られたi−BPDA 2.94g(0.01モル)を徐々に加え、50℃で12時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
【0071】
得られたポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、窒素雰囲気下120℃で1時間、150℃で30分、200℃で30分、350℃で5分加熱して熱的にイミド化を行なって、無色透明なポリイミド/ガラス積層体を得た。次いで、得られた共重合ポリイミド/ガラス積層体を水に浸漬した後剥離し、膜厚が10μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0072】
〔比較例4〕
i−BPDAとして、未精製のi−BPDAを用いた以外は、実施例9と同様の方法で、ポリイミドフィルムを得た。このフィルムの特性を測定した結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によって、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を主成分とし、着色の少ない2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を提供することができる。また、本発明の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いたポリイミド及びその前駆体は、高い透明性を発現できることから、特にフレキシブルなディスプレイやタッチパネルなどの表示装置において透明性基材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒の2規定の水酸化ナトリウム水溶液に10質量%の濃度で溶解した溶液に対する波長400nm、光路長1cmの光透過率が80%以上であることを特徴とする2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末。
【請求項2】
波長400nm、光路長1cmの光透過率が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末。
【請求項3】
溶剤と、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を、少なくとも一部の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末が溶解していない不均一な状態で混合し、次いで混合液から未溶解の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を分離回収することを特徴とする2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【請求項4】
溶剤が、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、ニトリル系溶剤、アミド系溶剤、スルホン系溶剤、カーボネート溶剤、フェノール系溶剤、水、の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項3記載の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【請求項5】
25℃の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の溶解度が、0.5g/100g以上である溶剤を用いることを特徴とする請求項3又は4に記載の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【請求項6】
25℃の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の溶解度が、3g/100g〜20g/100gである溶剤を用いることを特徴とする請求項3又は4に記載の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【請求項7】
溶剤が、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルー2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンであることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【請求項8】
2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含む粉末を、酸無水物を含む溶液で、再結晶することを特徴とする2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【請求項9】
2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含む粉末を150℃〜350℃に加熱し、50Torr以下の減圧下で、昇華することを特徴とする2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末の精製方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物粉末を用いて製造した、フィルムにしたときの光透過率が改良されたことを特徴とすることを特徴とするポリイミド。
【請求項11】
膜厚10μmのフィルムにしたときの400nmにおける光透過率が80%以上であることを特徴とする請求項10に記載のポリイミド。

【公開番号】特開2013−23584(P2013−23584A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159850(P2011−159850)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】