説明

2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法

【課題】 2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製造に使用する溶媒および原料となるγ−ブチロラクトンを反応後回収し、2層分離させることにより、回収液中のEDCA含有率を下げ、工業的にリサイクル使用する2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製法を提供する。
【解決手段】 γ−ブチロラクトンおよびγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を含むγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを反応させ2,2,2−トリフルオロエタノ−ルを製造する方法において、γ−ヒドロキシ酪酸塩原料系と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを反応させた反応液から2,2,2−トリフルオロエタノ−ルを蒸留分離し、その缶液中に含まれる副生塩化カリウムを除去した溶媒を静置して含有する4,4’−オキシ二酪酸を2層分離させ除去した回収液をγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩の原料および/またはγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系のγ−ブチロラクトンとしてリサイクル使用することを特徴とする2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ−ヒドロキシ酪酸塩と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンとを反応させ、2,2,2−トリフルオロエタノールを製造する方法であって反応後回収されるγ−ブチロラクトンをリサイクル使用する2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
γ−ヒドロキシ酪酸塩は、分子内に水酸基を有する有機酸塩であることから、有機溶媒に一部溶解する性質がある。このため、例えば、アルキル基、アルケニル基およびアリル基などの有機物ハライドの加水分解反応に応用され、対応するエステルやアルコール誘導体に誘導する反応試剤として有用である。
【0003】
このγ−ヒドロキシ酪酸塩は、γ−ブチロラクトンとアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩類を反応させることにより、容易に得られる。この反応は通常水の存在下で行うため、γ−ヒドロキシ酪酸塩は水溶液として得られる。これを加水分解やエステル化反応に利用するためには、脱水して水分濃度を調節する必要があり、その場合、γ−ヒドロキシ酪酸塩が固体となって析出することがある。そのために、反応には適切な非プロトン性溶媒を選択して使用するのが常である。
【0004】
しかし、γ−ヒドロキシ酪酸塩は脱水されるときに、その脱水2量化したエーテルジカルボン酸である4,4’−オキシ二酪酸塩類(以後、4,4’−オキシ二酪酸をEDCA、その金属塩類をEDCAM、と略記することがある)が副生する。例えば、ドイツ特許919167号には、γ−ブチロラクトンとアルカリまたはアルカリ土類金属の水酸化物を120〜130℃で混合し、酸化アルミニウムの存在下に180〜230℃で加熱し、8〜10時間で脱水すると、EDCAが収率50〜55%で生成すること、さらに、酸化アルミニウムを使用しない方法では、脱水時間が2倍になるものの、EDCAが同様な収率で生成することが記載されている。このように、これまではγ−ヒドロキシ酪酸塩は、加水分解反応などの試剤として有用であるが、水分濃度を低く調整したγ−ヒドロキシ酪酸塩を製造しようとするとEDCAMの副生は避けられなかった。
【0005】
一方、特公昭64−9299号公報、特公昭64−9300号公報には、非プロトン性極性溶媒としてγ−ブチロラクトンの存在下に、γ−ヒドロキシ酪酸塩と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを用いて、2,2,2−トリフルオロエタノールを製造する方法が開示されている。この方法では、γ−ブチロラクトンがアルカリ金属水酸化物や炭酸塩類と反応し、原料のγ−ヒドロキシ酪酸塩となる他、溶媒にもなっている。このγ−ヒドロキシ酪酸塩は、所望の2,2,2−トリフルオロエタノールを直接生成するだけでなく、反応後にγ−ブチロラクトンに転化するので、再びリサイクル使用できるこという極めて有利なプロセスとなる。
【0006】
これまでは、前述の方法で製造されたγ−ヒドロキシ酪酸塩が2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法に使用されてきた。その結果、2,2,2−トリフルオロエタノールを反応液から蒸留分離した後、その缶液を原料のγ−ブチロラクトンを含む非プロトン性極性溶媒としてリサイクル使用するプロセスにおいて、その缶液から副生した塩を分離する工程にさまざまな問題が生じていたのである。即ち、その缶液の粘度が上昇したり、副生塩に有機物や溶媒が付着し濾別操作が困難となり、溶媒ロスが大きくなるとか、副生する塩の結晶が有機物と大きな固まりを形成するとか、副生塩が肥料に不向きになるとか、廃棄物が多くなるとかの問題が発生し、工業用プロセスとして大きな欠陥となっていたのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、前述の2,2,2−トリフルオロエタノールの製造プロセスの大きな欠陥を改善するため、先ず、その原因の究明に取り組んだ。その結果、2,2,2−トリフルオロエタノールの製造プロセスに於いて、EDCAならびにEDCAMの存在が、大きな欠陥をもたらす主原因となっていることを見出した。すなわち、これらの副生成物がγ−ヒドロキシ酪酸塩の製造工程で主に生成すること、また、非プロトン性極性溶媒として回収されるγ−ブチロラクトン溶媒をリサイクル使用するとこれらの副生成物の含有量が徐々に増加し、前述の問題を引き起こすことを見出した。
【0008】
そこで、このEDCAならびにEDCAMの生成を抑制する方法について鋭意研究を重ね、特定の条件下にγ−ヒドロキシ酪酸塩を製造すると、問題のEDCAならびにEDCAMの生成が抑制できることを見出した。さらに、副生するEDCAならびにEDCAMの効率的な除去、分離方法についても鋭意研究を重ねた結果、反応後回収されるγ−ブチロラクトンを特定の条件下、2層分離することにより、含有するEDCAならびにEDCAMを除去しリサイクル使用が可能であることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製造に使用する溶媒および原料となるγ−ブチロラクトンを反応後回収し、2層分離させることにより、回収液中のEDCA含有率を下げ、工業的にリサイクル使用する2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製法を提供することである。
【0010】
本発明者らは、2,2,2−トリフルオロエタノールの製造プロセスの欠陥が、EDCAならびにEDCAMの存在にあり、このEDCAならびにEDCAMの生成は、γ−ヒドロキシ酪酸塩の製造工程で主に生成すること、また、γ−ブチロラクトン溶媒をリサイクル使用するとこれらの副生成物の含有量が徐々に増加し、前述の問題を引き起こすことを見出した。さらに、特定の条件下にγ−ヒドロキシ酪酸塩を製造すると、問題のEDCAならびにEDCAMの生成が抑制できること、また、反応後回収されるγ−ブチロラクトンを特定の条件下、2層分離することにより、含有するEDCAならびにEDCAMを除去しリサイクル使用が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、第1の本発明は、非プロトン性極性溶媒およびγ−ヒドロキシ酪酸塩を含むγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを反応させ、2,2,2−トリフルオロエタノールを製造する方法において、4,4’−オキシ二酪酸の含有率が6重量%以下のγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系を使用する2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法であって、前記非プロトン性極性溶媒が、非プロトン性極性溶媒中でγ−ヒドロキシ酪酸塩と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンと反応させた反応液から2,2,2−トリフルオロエタノールを蒸留分離した缶液であって、非プロトン性極性溶媒として回収された溶媒であることを特徴とする2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法に関するものである。
【0012】
第2の発明は、γ−ブチロラクトンおよびγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を含むγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを反応させ2,2,2−トリフルオロエタノ−ルを製造する方法において、γ−ヒドロキシ酪酸塩原料系と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを反応させた反応液から2,2,2−トリフルオロエタノ−ルを蒸留分離し、その缶液中に含まれる副生塩化カリウムを除去した溶媒を静置して含有する4,4’−オキシ二酪酸を2層分離させ除去した回収液をγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩の原料および/またはγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系のγ−ブチロラクトンとしてリサイクル使用することを特徴とする2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製法に関するものである。
【0013】
第3の発明は、前記第2の発明であって、前記回収液中の4,4’−オキシ二酪酸の含有率が6重量%以下であることを特徴とするものである。
【0014】
第4の発明は、前記第2または第3の発明であって、静置して4,4’−オキシ二酪酸を2層分離させ除去する操作の温度が0℃以上50℃以下であることを特徴とするものである。
【0015】
第5の発明は、前記第2ないし第4の発明であって、静置時間が少なくとも1時間以上であることを特徴とするものである。
【0016】
第6の発明は、前記第2ないし第5の発明であって、前記γ−ブチロラクトンおよびγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を含むγ−ヒドロキシ酪酸原料系が、回収精製したγ−ブチロラクトンと水酸化カリウム水溶液を混合した後、脱水することにより得られる反応混合物であることを特徴とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明では、非プロトン性極性溶媒およびγ−ヒドロキシ酪酸塩を含むγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを反応させ、2,2,2−トリフルオロエタノールを製造する方法において、EDCAの含有率が6重量%以下であるγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系を用いることを特徴とする。EDCAの含有率が6重量%以下のγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系を用いることにより、副生塩に有機物や溶媒が付着し濾別操作が困難となり、溶媒ロスが大きくなるとか、副生する塩の結晶が有機物と大きな固まりを形成するとか、副生塩が肥料に不向きになるとか、廃棄物が多くなるとかの問題を解消することができる。
【0018】
本発明において、EDCAの含有率が6重量%以下のγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系を製造するには、非プロトン性極性溶媒中でアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩類、アルカリ土類金属水酸化物およびアルカリ土類金属炭酸塩類から選ばれる1種または2種以上とγ−ブチロラクトンを反応させればよく、反応中あるいは反応後、反応液より170℃以下の温度で、水濃度を0.2〜8重量%に脱水することによりEDCA含有率が6重量%以下のγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系を製造することができる。
【0019】
本発明におけるEDCA含有率とは、以下の式により表されるものである。なお、EDCA含有率の算出においては、γ−ヒドロキシ酪酸原料系に含まれるEDCAがEDCAMのときはEDCAとして計算した値とする。
【0020】
EDCA含有率(%)=EDCA(g)×100/(非プロトン性極性溶媒(g)+γ−ヒドロキシ酪酸塩(g)+EDCA(g)+水(g)) …… (1)
【0021】
本発明におけるγ−ヒドロキシ酪酸塩とは、γ−ヒドロキシ酪酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩である。
【0022】
このようにして製造したγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系を、非プロトン性極性溶媒の存在下、1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンと反応させると、容易に高収率で2,2,2−トリフルオロエタノールを製造できる。この後、この反応液から所望の2,2,2−トリフルオロエタノールを蒸留などにより分離し、缶液となる非プロトン性溶媒から副生塩を除くだけで、これを精製することなく、再び前述の非プロトン性極性溶媒としてリサイクル使用できる。その結果、高収率で2,2,2−トリフルオロエタノールを取得できるだけでなく、前記条件の下に該非プロトン性極性溶媒をリサイクル使用してもEDCA濃度を長期に6重量%以下に保つことができる。
【0023】
本発明において、γ―ブチロラクトンを非プロトン性極性溶媒として用いた場合、EDCA濃度をさらに長期に6重量%以下に保ちリサイクル使用するためには、γ−ブチロラクトンおよびγ―ヒドロキシ酪酸カリウム塩を含むγ―ヒドロキシ酪酸原料系と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを反応させた反応液から2,2,2−トリフルオロエタノールを蒸留分離し、その缶液中に含まれる副生塩化カリウムを除去した溶媒を静置して含有するEDCAおよび/またはEDCAMを2層分離させ除去した回収液をγ−ブチロラクトンとしてγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩の原料および/またはγ―ヒドロキシ酪酸塩原料系のγ―ブチロラクトンとしてリサイクル使用ことができる。
【0024】
このようにすることにより、該溶媒の粘度が上昇したり、副生塩に多量の有機物が付着するとか、溶媒ロスが大きくなるとか、廃棄物が多くなるとか、副生塩の結晶が固まるなど濾別操作が著しく困難になるなどの問題は発生しない。また、副生した塩が肥料に不向きになる問題は発生しない。
【0025】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
【0026】
本発明における非プロトン性極性溶媒とは、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられるが、より好ましくは、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホランである。これらのうち、最も好ましいのはγ−ブチロラクトンである。このときγ−ブチロラクトンは、非プロトン性極性溶媒および反応試剤となり、いわゆる反応溶媒となる。これらは、必要なら各々単独あるいは、1種以上の混合溶媒として使用してよい。これら非プロトン性極性溶媒は、一般の市販品が使用できる。また、この非プロトン性極性溶媒は、2,2,2−トリフルオロエタノールの製造に使用され、副生塩を分離した後、リサイクルされるものであってもよい。このリサイクル溶媒は、未精製のものを使用して良い。
【0027】
本発明において、非プロトン性極性溶媒としてγ―ブチロラクトンを用いればさらに長期にわたってリサイクル使用することができる。この場合におけるγ−ブチロラクトンとは、2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製造に使用され、副生塩を分離した後、リサイクルされるものであって、そのままあるいは後述の精製を行った回収液を使用する。また、必要に応じて一般の市販品を適宜加えても良い。また、該γ−ブチロラクトンは、γ−ヒドロキシ酪酸塩原料系と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを反応させ2,2,2−トリフルオロエタノ−ルを製造する際の溶媒としてだけでなく、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を製造する際の原料および/または溶媒として使用される。よって、該γ−ブチロラクトンのEDCA含有率は、6重量%以下が好ましい。6重量%を超えると、原料として使用した場合には、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を製造する際に添加するアルカリの一部がEDCAに消費されγ−ヒドロキシ酪酸塩が所定量製造できない。一方、溶媒として使用した場合には、前述のプロセス上の問題が発生し好ましくない。なお、この場合、第1回目の反応において使用されるγ−ブチロラクトンは、市販品のγ−ブチロラクトンを使用し、2回目以降はリサイクルし,そのままあるいは後述の精製を行い使用する。
【0028】
本発明において、γ−ヒドロキシ酪酸塩を製造する原料の一つとして、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩類、アルカリ土類金属水酸化物およびアルカリ土類金属炭酸塩類から選ばれる1種または2種以上の無機化合物を挙げることができる。これらの例として、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの水酸化物や炭酸塩類が挙げられるが、好ましくはカリウムの水酸化物および/または炭酸塩である。水酸化カリウムの場合は、市販の水酸化カリウムを水に溶解させるか、または市販の水酸カリウム水溶液である。水酸化カリウム水溶液は、特に限定されるものではないが、一般に、10〜48重量%の濃度がよい。また、炭酸カリウム類は、炭酸カリウムおよび/または重炭酸カリウムである。これらは市販品がそのまま使用でき、粉体のままであっても、必要なら水溶液にして使用してもよい。
【0029】
本発明では、前記の原料を用いて、γ−ヒドロキシ酪酸塩原料系を製造する。ここでは、γ−ブチロラクトンと48%水酸化カリウム水溶液を例として説明する。まず、温度計、攪拌機、滴下設備および減圧装置を備えた反応容器に、非プロトン性極性溶媒および原料としてのγ−ブチロラクトンを所定量仕込む。次いで、攪拌しながら滴下設備から所定量の水酸化カリウム水溶液を滴下し、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を製造する。この反応は、ほぼ定量的に進行する発熱反応なので、必要ならば冷却水を使用しながら、反応する。滴下する水酸化カリウムの量は、生成するγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩が、非プロトン性極性溶媒に対して好ましくは30重量%以下となるようにする。γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩の濃度が30重量%を超えると、反応液の粘性が高くなり撹拌が困難になるため、脱水操作が困難となる。
【0030】
γ−ブチロラクトンと水酸化カリウムの上記反応は以下の化学式で表される。
【0031】
【化1】

【0032】
本発明では、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を含む非プロトン性極性溶媒は、次に加熱し脱水される。脱水方法は、170℃以下、好ましくは150℃以下の温度とし、常圧蒸留か、より好ましくは減圧蒸留する。減圧蒸留は、例えば0.07〜0.67MPa程度に減圧にする。この脱水操作は、好ましくは15時間以内で行い、非プロトン性極性溶媒中の含水量が0.2〜8重量%となるようにする。この操作が15時間を越えるとEDCAMが生成し易くなる。また、この非プロトン性極性溶媒の含水量が8重量%をこえると、次の1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを加水分解する速度が極端に低下するので好ましくない。
【0033】
本発明では、脱水後、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を含む非プロトン性極性溶媒を加圧容器に移液した後、1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンと反応させ、2,2,2−トリフルオロエタノールを製造できる。使用される1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンは、公知の方法により、例えば、触媒の存在下にトリクレンとフッ酸から製造したものを用いることができる。1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンの純度は、特に限定されるものではないが純度は98%以上が好ましい。また、本反応に関与しない1,1,2−テトラフルオロエタン(134a)のような不純物が含まれていても何ら差し支えない。
【0034】
本発明では、この反応の方法や諸条件は、本引例に記載の反応条件を適宜選択してよい。例えば、加圧容器に、前記のγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を含む非プロトン性極性溶媒と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを仕込み、反応温度を180〜220℃、3〜8時間撹拌下に反応を完結させる。この後、未反応の1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンをパージした後、加圧容器中の反応溶液を取り出し蒸留する。かくして、2,2,2−トリフルオロエタノールが製品として分離される。一方、蒸留した後の釜残液中には、γ−ブチロラクトンを含む非プロトン性極性溶液および副生した塩化カリウムがスラリーの形で含まれている。このスラリー液から、塩化カリウムは、例えば、濾過、遠心分離などの操作により固液分離される。固液分離により回収されたγ−ブチロラクトンを含む非プロトン性極性溶液は、そのまま溶媒およびγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩の原料としてリサイクル使用する。分離された非プロトン性極性溶液中のEDCA含有率は、6wt%以下とする。これを超えると、2,2,2−トリフルオロエタノールの収率が低下するとか、粘度が上昇し、濾過操作が困難になるとか、副生塩に多量の有機物が付着するとか、溶媒ロスが大きくなるとか、廃棄物が多くなるとか、副生塩の結晶が固まるといった点で問題を生ずる。
【0035】
本発明においては、非プロトン性極性溶媒としてγ―ブチロラクトンを用いさらに長期にわたってリサイクル使用する場合、前述のように固液分離により回収されたγ−ブチロラクトン溶媒を静置し2層分離させ精製する。静置し2層分離させる方法は、特別な方法、装置は必要なく、単に静かに静置するだけで、2層分離し、上層のγ−ブチロラクトン層に含まれるEDCA含有率が6重量%以下となり、回収液としてリサイクル使用できる。
【0036】
本発明では、静置し2層分離させる際の温度は特に限定されないが、0℃以上50℃以下で行うのがよく、より好ましくは、0℃以上40℃以下である。50℃以上の温度で静置、2層分離を行うと2層分離に時間がかかるだけでなく、上層のγ−ブチロラクトン層すなわち回収液に含まれるEDCA含有率が若干高くなる。一方、0℃未満に冷却すると、大型の設備が冷却に必要となり好ましくない。
【0037】
本発明では、静置し2層分離させる時間は、特に限定されないが、少なくとも1時間以上静置する必要がある。静置する時間が短いと完全に2層分離されず、上層のγ−ブチロラクトン層すなわち回収液に含まれるEDCA含有率が若干高くなる。 本発明では、前記の精製を行う頻度は特に限定されず、回収溶媒を毎回あるいは、反応に繰り返し使用した後に静置し、2層分離させEDCAを除去しても良い。
【0038】
本発明では、前記のようにしてEDCAおよび/またはEDCAMを2層分離させ除去して精製した回収溶媒を再度2,2,2−トリフルオロエタノ−ル製造の溶媒および/または原料としてリサイクル使用する。かくして2,2,2−トリフルオロエタノ−ルを製造する工業的なプロセスにおいて、溶媒および/または原料として使用するγ−ブチロラクトン溶媒を特別な操作なしにリサイクル使用しても、何らプロセス上の問題しない。即ち溶媒の粘度が上昇したり、副生塩に多量の有機物が付着するとか、溶媒ロスが大きくなるとか、廃棄物が多くなるとか、副生塩の結晶が固まるなど濾別操作が著しく困難になるなどの問題が発生しないばかりか、副生した塩が肥料に不向きになる問題も発生せず、回収した溶媒は同じ精製を繰返すことでいくらでもリサイクルが可能となる。
【0039】
γ−ヒドロキシ酪酸カリウムと1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンとの反応は、下記化学式で示される。
【0040】
【化2】

【0041】
実施例
以下、本発明を具体的に実施例にて説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
減圧蒸留装置、温度計、撹拌機、滴下ロートを備えた1000mlフラスコにγ−ブチロラクトン650g(7.55モル)を仕込んだ。滴下ロートに、水酸化カリウム48%水溶液102g(水酸化カリウム:0.873モル)を取り、攪拌下に約40分で滴下した。滴下と同時に徐々に発熱し、内温は約50℃まで上昇した。その後、この系を0.4MPaの減圧とし、徐々に145℃まで加熱しながら、12時間で水を留去した。
【0043】
このγ−ブチロラクトン溶液には、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩が17.2重量%含まれていた。この一部をとり、塩酸で中和した後HPLCで分析した結果、EDCA(4,4’−オキシ二酪酸)の生成は認められなかった。得られたγ−ブチロラクトン溶液中の水分含有率をカールフィシャーにて分析した結果、反応液中の含水率は、3.4重量%であった。
【実施例2】
【0044】
水を留去する温度を165℃、系を0.8MPaの減圧とした以外は実施例1と同様にして、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を合成した。
【0045】
このγ−ブチロラクトン溶液には、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩が17.0重量%含まれていた。この一部をとり、塩酸で中和した後HPLCで分析した結果、EDCA(4,4’−オキシ二酪酸)の生成が0.2重量%認められた。得られたγ−ブチロラクトン溶液中の水分含有率をカールフィシャーにて分析した結果、反応液中の含水率は、3.3重量%であった。
【実施例3】
【0046】
水を留去する時間を18時間とした以外は実施例1と同様にして、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を合成した。
【0047】
このγ−ブチロラクトン溶液には、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩が16.6重量%含まれていた。この一部をとり、塩酸で中和した後HPLCで分析した結果、EDCA(4,4’−オキシ二酪酸)の生成が0.8重量%認められた。得られたγ−ブチロラクトン溶液中の水分含有率をカールフィシャーにて分析した結果、反応液中の含水率は、3.5重量%であった。
【実施例4】
【0048】
水酸化カリウム48%水溶液158g(水酸化カリウム:1.35モル)としたほかは、実施例1と同じようにしてγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を合成した。
【0049】
水酸化カリウムの滴下により、内温が約70℃まで上昇した。このγ−ブチロラクトン溶液には、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩が25.2重量%含まれていた。この一部をとり、塩酸で中和した後HPLCで分析した結果、EDCA(4,4’−オキシ二酪酸)の生成が0.3重量%認められた。得られたγ−ブチロラクトン溶液中の水分含有率をカールフィシャーにて分析した結果、反応液中の含水率は、3.7重量%であった。
【実施例5】
【0050】
γ−ブチロラクトンをN−メチルピロリドン521gとγ−ブチロラクトン129g(1.80モル)としたほかは、実施例1と同じようにしてγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を合成した。
【0051】
このγ−ブチロラクトン溶液には、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩が17.0重量%含まれていた。この反応液の一部をとり、塩酸で中和した後HPLCで分析した結果、EDCA(4,4’−オキシ二酪酸)の生成は認められなかった。得られた反応液中の水分含有率をカールフィシャーにて分析した結果、反応液中の含水率は、4.2重量%であった。
【実施例6】
【0052】
実施例1で得られたγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩の溶液700gを電磁撹拌機を備えた1000mlのSUS316製オートクレーブに移液した。これを密閉後に3回の窒素置換を行い、さらに圧力容器から1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを150g(1.27モル)を加えた。これを攪拌下で200℃に加温し、圧力1.5MPaで6時間反応を行った。その後、オートクレーブを150℃まで冷却し、オートクレーブの出口に約0℃に冷却したトラップを装着し、ゆっくり脱圧しながら未反応の1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンをパージした。次に、電磁攪拌機を回転させながら、生成物である2,2,2−トリフルオロエタノールを完全に留去させたところ、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩ベースで96%の収率であった。このオートクレーブの温度を室温にまで冷却し、γ−ブチロラクトンおよび副生塩化カリウムからなる缶液を得た。この缶液を、G3のガラスフィルターを用いて副生塩化カリウムを濾別した。この時、γ−ブチロラクトン溶媒は、薄い茶色に着色していたが通常の粘度を示し、副生塩は白色の粉体であり、濾別は容易であった。
【実施例7】
【0053】
実施例6で得られた缶液をγ−ブチロラクトンとして、実施例1、および実施例6の手順を6回繰り返し、いずれのバッチ反応でも収率94〜98%(水酸化カリウムベース)で2,2,2−トリフルオロエタノールを得た。この繰り返し実験ではサンプリングと操作によるロスのため、一回あたり数グラムのγ−ブチロラクトンを補充した。6回目の缶液は濃い黒褐色に着色していたが、通常の粘度を示した。副生塩はやや黄茶色を帯びた粉体で、G3のガラスフィルターを用いた濾別は容易であった。この缶液の一部を取り、塩酸で中和した後、HPLCを用いて、EDCA(4,4’−オキシ二酪酸)の分析を行った結果、EDCAが1.5%含まれていた。
【実施例8】
【0054】
後述の比較例2のようにして得られたEDCAを多量に含み回収されるγ−ブチロラクトン溶媒(EDCA含有率=8.0重量%)の一部を取り、50℃で30時間静置し2層分離させた。その結果、上層のγ−ブチロラクトン溶液すなわち回収溶液中のEDCA含有率は、3.9重量%であった。
【0055】
この上層を回収溶液として使用して2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製造を行った。即ち、減圧蒸留装置、温度計、攪拌機、滴下ロ−トを備えた300mlフラスコにγ−ブチロラクトン150g(全てγ−ブチロラクトンとして1.74モル)を仕込んだ。滴下ロ−トに、水酸化カリウム48%水溶液23.5g(水酸化カリウム:0.20モル)を取り、攪拌下に約40分で滴下した。滴下と同時に徐々に発熱し、内温は約50℃まで上昇した。その後、この系を0.4MPaの減圧とし、徐々に145℃まで加熱しながら、12時間で水を留去した。このようにして得られたγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩の溶液は、EDCA含有率が4.4重量%であり、水分含有率が3.6重量%であった。次に、このγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩の溶液165gを電磁攪拌機を備えた300mlのSUS316製オ−トクレ−ブに移液した。これを密閉後に3回の窒素置換を行い、さらに圧力容器から1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを35.3g(0.30モル)を加えた。これを攪拌下で200℃に加熱し、圧力1.5MPaで6時間反応を行った。その後、オ−トクレ−ブを150℃まで冷却し、オ−トクレ−ブの出口に約0℃に冷却したトラップを装着し、ゆっくり脱圧しながら未反応の1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンをパ−ジした。次に電磁攪拌機を回転させながら、生成物である2,2,2−トリフルオロエタノ−ルを完全に留去させたところ、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩ベ−スで95%の収率であった。このオ−トクレ−ブの温度を室温まで冷却し、γ−ブチロラクトンおよび副生塩化カリウムからなる缶液を得た。ついで、この缶液をG3のガラスフィルタ−を用いて副生塩化カリウムを濾別した。これにより回収されるγ−ブチロラクトン溶媒は、濃い茶色に着色しており、これに含まれるEDCAの含有率は、4.8重量%であったが、通常の粘度で、濾別に長時間を要するなどのプロセス上の問題は起こらなかった。
【実施例9】
【0056】
静置し2層分離させる際の条件を25℃で15時間とした以外は、実施例8と全く同様にして精製操作を行った。その結果、上層のγ−ブチロラクトン溶液すなわち回収溶液中のEDCA含有率は、3.3重量%であった。
【実施例10】
【0057】
静置し2層分離させる際の条件を0℃で1時間とした以外は、実施例8と全く同様にして行った。その結果、上層のγ−ブチロラクトン溶液すなわち回収溶液中のEDCA含有率は、3.1重量%であった。
【実施例11】
【0058】
回収したγ−ブチロラクトンを精製するために、上層に抜き出し口を備えた5m3のγ−ブチロラクトン精製用のタンクを設置し、2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製造を行った。反応後副生塩化カリウムを濾別して、回収されるγ−ブチロラクトン溶媒は、そのまま再度反応の原料および溶媒として使用した。尚、副生する塩化カリウムに付着するなどで失われるγ−ブチロラクトンは適宜市販品を加えることで補充した。このサイクルを3ヶ月間繰り返した結果、回収されるγ−ブチロラクトン溶媒中のEDCA含有率が5.9%となった。そこで、一旦この回収されるγ−ブチロラクトン溶媒を精製用のタンクに入れ、25℃で10時間静置し精製した。その結果、2層分離し、上層のγ−ブチロラクトン溶媒すなわち回収溶液中のEDCA含有率は2.7%に低下していた。一方、下層のγ−ブチロラクトン溶液には、水、KCl、およびEDCAが多量に含まれていた。
【0059】
(比較例1)
水を留去する条件が、常圧で190〜200℃に加熱しながら20時間としたほかは、実施例1と同様の方法でγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩溶液を合成した。このγ−ブチロラクトン溶液には、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩が11.2重量%含まれていた。
【0060】
この一部をとり、塩酸で中和した後、HPLCで分析した結果、EDCA(4,4’−オキシ二酪酸)が7重量%生成していることがわかった。得られたγ−ブチロラクトン溶液中の水分含有率をカールフィシャーにて分析した結果、反応液中の含水率は4.5%であった。
【0061】
(比較例2)
比較例1で製造したγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩溶液をもちいて、実施例6と同じように、2,2,2−トリフルオロエタノールを製造し反応後の操作を同一にして、缶液を得た。2,2,2−トリフルオロエタノールの収率は91%であった。G3のガラスフィルターを用いて、この缶液から副生塩化カリウムを濾別操作した。この時、γ−ブチロラクトン溶媒は、薄い茶色に着色し、やや高い粘度を示し、白色の副生塩粉体には有機物の付着が見られ、濾別に時間がかかり、かなり困難であった。また、これによって回収されたγ―ブチロラクトン溶液に含まれるEDCA含有率は、8.0重量%であった。
【0062】
(比較例3)
48%水酸化カリウムの水溶液242g(水酸化カリウム:2.00モル)を仕込み内温が120℃にしたこと、水を留去する条件を常圧下200℃に加熱しながら24時間としたほかは、実施例1と同様の方法でγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩溶液を合成した。このγ−ブチロラクトン溶液には、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩が13.1重量%含まれていた。この溶液は著しく高い粘度となり、攪拌が容易ではなかった。
【0063】
この一部をとり、塩酸で中和した後、HPLCで分析した結果、EDCA(4,4’−オキシ二酪酸)が35.8重量%生成していることがわかった。得られたγ−ブチロラクトン溶液中の水分含有率をカールフィシャーにて分析した結果、反応液中の含水率は6.4%であった。
【0064】
次に、これを加水分解反応に使用したところ、加水分解反応はゆっくり進行した。その後、実施例6と同じようにして2,2,2−トリフルオロエタノールを分離し、缶液を得た。この時、2,2,2−トリフルオロエタノールの収率は86%であった。次いで、濾別操作を1時間続けたが、カリウム塩の分離はできなかった。
【0065】
(比較例4)
実施例1と全く同様にして、γ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩の水溶液を準備した。その後、この系を0.4MPaの減圧とし、徐々に145℃まで加熱しながら、15時間で水を徹底的に留去した。得られたγ−ブチロラクトン溶液中の水分含有率をカールフィシャーで分析した結果、反応液中の含水率は、0.1重量%であった。
【0066】
このγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩の溶液700gを電磁撹拌機を備えた1000mlのSUS316製オートクレーブに移液した。これを密閉後に3回の窒素置換を行い、さらに圧力容器から1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを150g(1.27モル)を加えた。これを攪拌下で200℃に加温し6時間反応を行った。その後、実施例6と同じようにして2,2,2−トリフルオロエタノールを分離し、缶液を得た。この時、2,2,2−トリフルオロエタノールの収率は73%であった。次いで、濾別操作を1時間続けたが、カリウム塩の分離はできなかった。
【0067】
(比較例5)
電磁撹拌機を備えた1000mlのSUS316製オートクレーブに、γ−ブチロラクトン650g(7.55モル)、ペレット状の固体水酸化カリウム49gを仕込み、これを密閉後に3回の窒素置換を行い、さらに圧力容器から1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを150g(1.27モル)を加えた。これを攪拌下で200℃に加温し、圧力1.5Paで6時間反応を行った。その後、オートクレーブを室温まで冷却し、ゆっくり脱圧しながら未反応の1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンをパージした。その後、実施例6と同じようにして2,2,2−トリフルオロエタノールを分離し缶液を得た。この時、2,2,2−トリフルオロエタノールの収率は68%であった。次いで、濾別操作を1時間続けたが、カリウム塩の分離はできなかった。
【0068】
(比較例6)
水を留去した時間を8時間とした他は、実施例1と同様にしてγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を合成した。この一部をとり、水分含有率をカールフィシャーにて分析した結果、反応液中の含水率は、10.1重量%であった。
【0069】
このγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩の溶液700gを用いて、実施例6と同様に反応した。その時、未反応の1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンが114g回収され、反応は、水酸化カリウムを基準として、27%しか進行しなかった。
【0070】
(比較例7)
静置し2層分離させる時間を30分とした以外は、実施例10と全く同様の方法で精製した。その結果、2層分離せず、精製することができなかった。
得られた回収溶媒をそのまま使用して、実施例8に記載の方法と全く同じ方法で2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製造を行った。その結果、2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの収率は78%であった。G3のグラスフィルタ−を用いて副生塩化カリウムを濾別操作した。この時、γ−ブチロラクトンは濃い茶色に着色し、やや高い粘度を示し、薄い黄色の副生塩粉体には有機物の付着が見られ、濾別に長い時間を要し、困難であった。濾別できた濾液中のEDCA含有率を分析すると8.7重量%であった。
【0071】
(比較例8)
静置し2層分離させる温度を60℃とした以外は、実施例9と全く同様の方法で精製した。その結果、2層分離せず、精製することができなかった。
【0072】
(比較例9)
静置し2層分離させる時間を30分とした以外は、実施例9と全く同様の方法で精製した。その結果、2層分離せず、精製することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
請求項1に記載の本発明により、2,2,2−トリフルオロエタノールの収率を高め、かつ副生塩を容易に分離することができ、回収リサイクルされた非プロトン性極性溶媒を使用することができる。
【0074】
請求項2ないし6に記載の本発明により原料および溶媒として使用するγ―ブチロラクトンを1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンの加水分解反応に使用した後、回収し、2層分離により精製することで、副生するEDCAおよび/またはEDCAMを除去し、回収液をγ―ブチロラクトンとしていくらでもリサイクル使用できるようになった。そのため、本プロセスの溶媒ロスが少なくなり、副生塩の分離が容易になり、副生塩は肥料向けに使用できるようになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性極性溶媒およびγ−ヒドロキシ酪酸塩を含むγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを反応させ、2,2,2−トリフルオロエタノールを製造する方法において、4,4’−オキシ二酪酸の含有率が6重量%以下のγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系を使用する2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法であって、前記非プロトン性極性溶媒が、非プロトン性極性溶媒中でγ−ヒドロキシ酪酸塩と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンと反応させた反応液から2,2,2−トリフルオロエタノールを蒸留分離した缶液であって、非プロトン性極性溶媒として回収された溶媒であることを特徴とする2,2,2−トリフルオロエタノールの製造方法。
【請求項2】
γ−ブチロラクトンおよびγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を含むγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを反応させ2,2,2−トリフルオロエタノ−ルを製造する方法において、γ−ヒドロキシ酪酸塩原料系と1,1,1−トリフルオロ−2−クロロエタンを反応させた反応液から2,2,2−トリフルオロエタノ−ルを蒸留分離し、その缶液中に含まれる副生塩化カリウムを除去した溶媒を静置して含有する4,4’−オキシ二酪酸を2層分離させ除去した回収液をγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩の原料および/またはγ−ヒドロキシ酪酸塩原料系のγ−ブチロラクトンとしてリサイクル使用することを特徴とする2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製法。
【請求項3】
前記回収液中の4,4’−オキシ二酪酸の含有率が6重量%以下であることを特徴とする請求項2に記載の2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製法。
【請求項4】
静置して4,4’−オキシ二酪酸を2層分離させ除去する操作の温度が0℃以上50℃以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製法。
【請求項5】
静置時間が少なくとも1時間以上であることを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製法。
【請求項6】
前記γ−ブチロラクトンおよびγ−ヒドロキシ酪酸カリウム塩を含むγ−ヒドロキシ酪酸原料系が、回収精製したγ−ブチロラクトンと水酸化カリウム水溶液を混合した後、脱水することにより得られる反応混合物であることを特徴とする請求項2ないし5のいずれか1項に記載の2,2,2−トリフルオロエタノ−ルの製法。

【公開番号】特開2008−280353(P2008−280353A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164125(P2008−164125)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【分割の表示】特願2003−528754(P2003−528754)の分割
【原出願日】平成14年9月13日(2002.9.13)
【出願人】(591180358)東ソ−・エフテック株式会社 (91)
【Fターム(参考)】