説明

2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとアムモニアとの二元組成物

【課題】擬似共沸(quasiazeotropic)または共沸(azeotropic)で、および/または、従来の熱伝達流体(例えばR404AまたはR410A)よりエネルギー性能が良い、地球温暖化ポテンシャル(GWP)が低い他の熱伝達流体を提供する。
【解決手段】2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとアムモニアの二元組成物。1〜60%のアムモニアと、40〜99%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、好ましくは5〜45%のアムモニアと、55〜95%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンから成る

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの二元(バイナリー)組成物と、その使用、特に熱伝達流体としての使用とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フルオロカーボン化合物をベースにした流体は蒸気圧縮熱伝達システム、特に空調、ヒートポンプ、冷蔵または冷凍装置で広く使われている。これらの装置は低い圧力での流体の蒸発(ここで流体は熱を吸収する)と、蒸発した流体の高圧力への圧縮と、蒸発した流体の高圧力での液体への凝縮(ここで流体は熱を放出する)と、流体の膨張(これでサイクルが完了)とから成る熱力学サイクルをベースにした点で共通している。
【0003】
熱伝達流体(純粋化合物でも化合物の混合物でもよい)は流体の熱力学的性質および加的な制約を考慮して選択される。その一つの特に重要な判定基準は環境に対する流体の影響(インパクト)である。特に、塩素化合物(クロロフルオロカーボンおよびハイドロクロロフルオロカーボン)はオゾン層を破壊するという問題がある。従って、ハイドロフルオロカーボン、フルオロエーテルおよびフルオロオレフィンのような非塩素系化合物が一般に好ましい。
【0004】
しかし、現在使われている熱伝達流体よりも地球温暖化ポテンシャル(GWP)が低く、性能が同じか優れている他の熱伝達流体を開発する必要がある、熱伝達流体としてアムモニアを使用することは公知であるが、この化合物にはいくつかの問題がある。すなわち、ハイドロフルオロカーボと比較して圧縮機出口温度が非常に高く、オイルのリターンが無く、油分離器を設置する必要があり、この化合物の毒性のためにトータルチャージは制限される。
【0005】
特許文献1(国際特許第WO2007/126414号公報)には多数の熱伝達化合物の混合物、特に、2,3,3、3-テトラフルオロプロペン(HFO−l234yf)とアムモニアとから成る混合物が記載されている。この文献に特に開示の唯一の組成物は2つの化合物、すなわちジフルオロメタン(HFC-32)とペンタフルオロエタン(HFC-125)またはHFC-32とトリフルオロヨードメタンとを含む四元組成物である。
【0006】
特許文献2(国際特許第WO2008/009928号公報)にはペンタフルオロプロペンと、テトラフルオロプロペンと、少なくとも一つの追加の化合物(アムモニアでもよい)とをベースにした熱伝達組成物が記載されている。
【0007】
特許文献3(国際特許第WO2008/009922号公報)には、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-l225ye)をベースにした熱伝達組成物が記載され、その一つの実施例ではHFO-l234yfまたはアムモニアを含むことができる。
【0008】
特許文献4(米国特許第US 2006/024394号明細書)には多数の熱伝達化合物の混合物が記載され、特に、HFO-1234yとアムモニアを含む化合物のリストから選択される少なくとも一つの他の化合物との混合物が記載されている。この文献に記載の唯一の組成物は上記化合物と2つの追加の化合物、すなわちHFC-32とトリフルオロヨードメタンとを含む四元組成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際特許第WO2007/126414号公報
【特許文献2】国際特許第WO2008/009928号公報
【特許文献3】国際特許第WO2008/009922号公報
【特許文献4】米国特許第US 2006/024394号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、GWPがさらに低く、従来の熱伝達流体を代替可能な他の熱伝達流体を開発するというニーズが存在する。
特に、擬似共沸(quasiazeotropic)または共沸(azeotropic)で、および/または、従来の熱伝達流体(例えばR404AまたはR410A)よりエネルギー性能が良い、GWPが低い他の熱伝達流体を開発することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、アムモニアとの二元組成物に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】共沸および疑似共沸混合物の存在を証明すHFO-1234yfとNH3の二成分混合物の5℃での蒸気/液体平衡データを示す図。x軸はNH3の比率O〜1(=100%)を表し、y軸は圧力(バール)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一つの実施例の組成物は以下から成る:
1〜60%のアムモニアと、40〜99%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
好ましくは5〜45%のアムモニアと、55〜95%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
好ましくは15〜30%のアムモニアと、70〜85%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
好ましくは18〜26%のアムモニアと、74〜82%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
好ましくは21〜23%のアムモニアと、77〜79%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
【0014】
本発明はさらに、上記組成物の熱伝達流体(heat transfer fluid)としての使用にも関するものである。
本発明の一つの実施例では、上記組成物は擬似共沸(quasiazeotropic)であり、好ましくは共沸(azeotropic)である。
【0015】
本発明はさらに、上記組成物と、滑剤、安定化剤、界面活性剤、トレーサー、蛍光剤、芳香剤、可溶化剤およびこれらの混合物から成る群の中から選択される一種以上の添加剤とを含む熱伝達組成物にも関するものである。
【0016】
本発明はさらに、熱伝達流体として上記の組成物を含むか、上記熱伝達組成物を含む蒸気圧縮回路を有する熱伝達システムにも関するものである。
【0017】
本発明の一つの実施例では、本発明システムはヒートポンプを用いた加熱、空気調和、冷蔵、冷凍用の車両用または固定用システムおよびランキンサイクル、特に自動車の空調システムの中から選択される。
【0018】
本発明はさらに、熱伝達流体を含む蒸気圧縮回路を有する流体または物体の加熱または冷却プロセスにも関するものである。このプロセスは熱伝達流体の蒸発、熱伝達流体の圧縮、熱伝達流体の凝縮および熱伝達流体の膨張を順次有し、熱伝達流体は上記組成物である。
【0019】
本発明の一つの実施例では、上記プロセスは流体または物体の冷却プロセスであるか、流体または物体の加熱プロセスである。冷却プロセスでは、冷却される流体または物体の温度は-15℃〜15℃、好ましくは-10℃〜10℃、特に好ましくは-5℃〜5℃であり、加熱プロセスでは、加熱される物体の温度は30℃〜90℃、好ましくは35℃〜60℃、特に好ましくは40℃〜50℃である。
【0020】
本発明の一つの実施例は流体または物体の冷却プロセスであり、その冷却される流体または物体の温度は-40℃〜-10℃、好ましくは-35℃〜-25℃、特に好ましくは-30℃〜-20℃である。
【0021】
本発明の一つの実施例は流体または物体の加熱プロセスであり、その加熱される流体の温度は90℃以上、好ましくは100℃以上、さらには110℃以上であり、且つ120℃以下である。
【0022】
本発明はさらに、初期熱伝達流体を含む蒸気圧縮回路を有する熱伝達システムの環境に対するインパクトを減らすためのプロセスに関するものである。このプロセスは蒸気圧縮回路の初期熱伝達流体を最終熱伝達流体に交換する段階を含み、最終熱伝達流体は初期熱伝達流体より低いGWPを有し、最終熱伝達流体は上記組成物である。
【0023】
本発明はさらに、上記組成物の溶剤としての使用に関するものである。
本発明はさらに、上記組成物の膨張剤、好ましくはエーロゾル用膨張剤として使用に関するものである。
本発明はさらに、上記組成物の推進薬としての使用に関するものである。
本発明はさらに、上記組成物の洗剤としての使用に関するものである。
【0024】
本発明は、従来技術で要求されていた条件を満たすものである。特に、本発明は、熱伝達流体として使用可能な、特に従来の熱伝達流体の代替物とうして使用可能なGWPが低い新規な組成物を提供する。
【0025】
本発明は特に、共沸または疑似共沸組成物を提供する。
【0026】
本発明の一つの実施例では、本発明は従来の熱伝達流体、特にR404AおよびR410Aより優れたエネルギー性能を有する熱伝達流体を提供する。
【0027】
本発明組成物は、従来の組成物よりも改良された容積性能および/または性能係数を有する。
【0028】
本発明を用いることで、アムモニアに関連する問題および上記課題を部分的または完全に克服することができる。
【0029】
以下、本発明をより詳細に説明する。
R404Aは52%の1,1,1-トリフルオロエタンと、44%のペンタフルオロエタンと、4%の1,1,1,2-テトラフルオロエタンとの合物を表す。R410Aは50%のジフルオロメタンと、50%のペンタフルオロエタンとの混合物を表す。
【0030】
特に記載しない限り、本明細書に記載の化合物の比率は重量百分率を表す。
【0031】
本明細書で地球温暖化ポテンシャル(GWP)は「The scientific assessment of ozone depletion,2002,a reportof the World Meteorological Association's Global ozone research and Monitoring Project」に記載の方法に従って、二酸化炭素に対して定義され、100年の期間に対して定義される。
【0032】
「熱伝達(heat transfer)化合物」、「熱伝達(heat transfer)流体」(または冷蔵流体)とは、蒸気圧縮回路(vapour compression circuit)中で低温低圧で蒸発することによって熱を吸収でき、高温高圧で凝縮することによって熱を放出できる化合物および流体を意味する。一般に、熱伝達流体は1種、2種、3種またはそれ以上の熱伝達化合物を含むことができる。
【0033】
「熱伝達(heat transfer)組成物」とは、熱伝達流体と、任意成分の用途に適した熱伝達性でない一種以上の添加剤とを含む組成物を意味する。
【0034】
添加剤は滑剤、安定化剤、界面活性剤、トレーサー、蛍光剤、芳香剤および可溶化剤の中から選択できる。
【0035】
安定化剤または安定化剤は、それらが存在する場合、熱伝達組成物の最大で5重量%にするのが好ましい。安定化剤の中では特にニトロメタン、アスコルビン酸、テレフタル酸、トルトリアゾール(tolutriazole)またはベンゾトリアゾールのようなアゾール、トコフェロールのようなフェノール化合物、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、2、6-ジ-tert-ブチル4-メチルフェノール、n-ブチルグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルフェニル・グリシジルエーテルのようなエポキシド(アルキル、必要に応じてフッ素化またはペルフルオロ化されるか、アルケニルまたは芳香族エポキシド)、ホスファイト、ホスホネート、チオールおよびラクトンを挙げることができる。
【0036】
滑剤としては特に無機起源のオイル、シリコンオイル、天然パラフィン、ナフテン、合成パラフィン、アルキルベンゼン、ポリ−α−オレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステルおよび/またはポリビニールエーテルを使用できる。
【0037】
トレーサー(検出可能)としては重水素化した(または重水素化しない)ハイドロフルオロカーボン、重水素化した炭化水素、パーフルオロカーボン、フルオロエーテル、臭化物、沃素化物、アルコール、アルデヒド、ケトン、窒素プロトキサイドおよびこれらの組合せが挙げられる。トレーサーは熱伝達流体を形成する熱伝達化合物とは異なる。
【0038】
可溶化剤としては炭化水素、ジメチルエーテル、ポリオキシアルキレン・エーテル、アミド、ケトン、ニトリル、クロロカーボン、エステル、ラクトン、アリールエーテル、フルオロエーテルおよび1,1,1トリフルオロアルカンを挙げることができる。可溶化剤は熱伝達流体を形成する熱伝達化合物とは異なる。
【0039】
蛍光剤としてはナフタルイミド、ペリレン、クマリン、アントラセン、フェナンスラセン、キサンテン誘導体、チオキサンテン誘導体、ナフトキサンテン、フルオレセインとその誘導体およびこれらの組合せが挙げられる。
【0040】
芳香剤としてはアクリル酸アルキル、アリルアクリレート、アクリル酸、アクリル酸エステル、アルキルエーテル、アルキルエステル、アルキン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ジサルファイド、イソチオシアン酸アリル、アルカノン酸、アミン、ノルボルネン、ノルボルネン誘導体、シクロヘキセン、複素環式芳香族化合物、アスカリドール、o-メトキシ(メチル)フェノールおよびこれらの組合せが挙げられる。
【0041】
本発明の熱移送プロセスは、熱伝達流体を含む蒸気圧縮回路を含むシステムの使用がベースになっている。この熱移送プロセスは流体または物体(body)を加熱または冷却するプロセスにすることができる。
【0042】
熱伝達流体を含む蒸気圧縮回路は少なく一つの蒸発器と、圧縮機と、凝縮器と、膨張弁とを有し、さらにこれらの装置間で熱伝達流体を輸送するラインを有する。蒸発器および凝縮器は熱伝達流体と他の流体または物体との間で熱を交換することが可能な熱交換器を有している。
【0043】
圧縮機としては特に一段階以上のステージを有する遠心圧縮機または遠心ミニコンプレッサを使用することができる。また、ロータリーコンプレッサ、往復圧縮機またはスクリュー圧縮機も使用できる。圧縮機は電動機またはガスタービン(例えば、車両の排ガスから供給されるもの)または歯車装置で駆動できる。
【0044】
上記システムは電気を発生するためのタービンを有することができる(ランキンサイクル)。
【0045】
上記システムはさらに、必要に応じて、熱伝達流体回路と加熱または冷却される流体または物体との間で熱(状態変化があっても無くても良い)を伝達するのに使用される少なくとも一つの冷却剤回路を有することができる。
【0046】
上記システムはさらに、必要に応じて、互いに同じか、異なる熱伝達流体を含む2つ(以上)の蒸気圧縮回路を含むこともできる。例えば、各蒸気圧縮回路を一緒に連結することもできる。
【0047】
蒸気圧縮回路は従来の蒸気圧縮サイクルで運転される。このサイクルは比較的低圧力で熱伝達流体を液相(または液体/蒸気2相状態)から蒸気相まで状態変化させ、流体を蒸気相で比較的高い圧力まで圧縮し、熱伝達流体を蒸気相から液相へ比較的高い圧力で状態変化(凝縮)させ、減圧してサイクルを再び始める工程を含む。
【0048】
冷却プロセスの場合には、(直接または冷却剤を介して間接的に)冷却された流体または物体からの熱がその蒸発中に周囲環境に比べて相対的に低い温度で伝達流体に吸収される。冷却プロセスには空調プロセス(移動システム、例えば車両または固定システム)、冷凍プロセスまたは冷蔵プロセスが含まれる。
【0049】
加熱プロセスの場合には、その凝縮中に熱伝達流体から加熱される流体または物体に周囲環境と比べて相対的に高い温度で熱が(直接または冷却剤を介して間接的に)与えられる。この場合に熱伝達を実行できる系を「ヒートポンプ」と呼ぶ。
【0050】
本発明の熱伝達流体では任意の熱交換器が使用でき、特に並流熱交換器または好ましくは向流熱交換器を使用することができる。
【0051】
本発明で使用される熱伝達流体はHFO-1234yfとNH3の二元組成物である。
【0052】
「二元(binary)組成物」という用語はHFO-1234yfとNH3とから成る組成物または本質的にHFO-1234yfとNH3とから成り、さらに不純物を1%以下、好ましくは0.5%以下、好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.05以下、より好ましくは0.01%以下の量で含む組成物を意味する。
【0053】
本発明の特定の実施例では、熱伝達流体中のHFO-1234yfの配合比率は0.1〜5%または5〜10%または10〜15%または15〜20%または20〜25%または25〜30%または30〜35%または35〜40%または40〜45%または45〜50%または50〜55%または55〜60%または60〜65%または65〜70%または70〜75%または75〜80%または80〜85%または85〜90%または90〜95%または95〜99.9%である。
【0054】
本発明の特定の実施例では、熱伝達流体中のNH3の配合比率は0.1〜5%または5〜10%または10〜15%または15〜20%または20〜25%または25〜30%または30〜35%または35〜40%または40〜45%または45〜50%または50〜55%または55〜60%または60〜65%または65〜70%または70〜75%または75〜80%または80〜85%または85〜90%または90〜95%または95〜99.9%である。
【0055】
熱伝達流体として使用する場合、圧縮機出口で温度があまりに大きく増加するのを防ぐために、混合物中のNH3の配合比率はあまり高くしないのが好ましい。
【0056】
組成物は共沸または擬似共沸であるのが有利である。例えば、HFO-l234yf/NH3二成分混合物の場合の共沸は5℃(±1℃)の温度かつ7.3バール(±1バール)の圧力でNH3の配合比率が約23%(±2%)で得られる。
【0057】
「疑似共沸(quasi-azeotropic)」という用語は、一定温度で、液体飽和圧力と蒸気飽和圧力とがほぼ同じ(液体飽和圧力に対する最大圧力差が10%、有利には5%)になる組成物を表す。
【0058】
「共沸(azeotropic)」組成物の場合には、一定温度で上記最大圧力差はほぼゼロである。
【0059】
この熱伝達流体は使い易いという利点がある。大きな温度グライド(glide)が無い場合、循環している組成物に実質的な変化はなく、リークの場合でも組成物に有意な変化は無い。
【0060】
さらに、本発明の一定の組成物はR404Aおよび/またはR41OAに比べて性能が改善することが分かっている。特に、適度な温度冷却プロセスの場合すなわち冷却される流体または物体の温度が-15℃から15℃、好ましくは-10℃から10℃、より好ましくは-5℃から5℃(理想的には約0℃)へ冷却される場合、性能が改善する。この点で、NH3の配合比率が15%以上である組成物、特にNH3の配合比率が15〜30%、好ましくは18〜26%の組成物が好ましい。
【0061】
本発明の一定の組成物はR41OAに比べて性能が改善することも分かっている。特に、適度な温度加熱プロセスの場合すなわちは加熱される流体また物体の温度が30℃から80℃まで、好ましくは35℃から55℃まで、より好ましくは40℃から50℃(理想的には約45℃)まで加熱される場に性能が改善する。この点で、NH3の配合比率が15%以上である組成物、特にNH3の配合比率が20〜30%の組成物が好ましい。
【0062】
上記の「適度な温度の冷却または加熱プロセス」の場合、蒸発器での熱伝達流体の入口温度は-20℃〜10℃、特に-15℃〜5℃、より好ましくは-10℃〜0℃、例えば約-5℃にし、凝縮器での熱伝達流体の凝縮開始温度は25℃〜90℃、特に30℃〜70℃、特に好ましくは35℃〜55℃、例えば約50℃にするのが好ましい。これらのプロセスは冷凍プロセス、空調プロセスまたは加熱プロセスにすることができる。
【0063】
一定の組成物は高温加熱プロセス、例えば加熱される流体または物体の温度が90℃以上、例えば110℃以上または100℃以上で好ましくは120℃以下のプロセスに適する。
【0064】
本発明の一定の組成物はR404Aと比べて性能、特に低温冷凍プロセスでの性能が改善することも分かっている。すなわち冷却される流体または物体の温度が-40℃〜-10℃、好ましくは-35℃〜-25℃、より好ましくは-30℃〜-20℃(理想的には-25℃)である低温冷凍プロセスでの性能が改善する。この点で、NH3の配合比率が15%以上である組成物、特にNH3の配合比率が18〜24%の組成物が好ましい。
【0065】
上記の「低温冷凍」プロセスでは、蒸発器での熱伝達流体の入口温度は-45℃〜-15℃、好ましくは-40℃〜-20℃、より好ましくは-25℃〜-35℃、例えば約-30℃が好ましく、凝縮器での熱伝達流体の凝縮開始温度は25℃〜80℃、好ましくは30℃〜60℃、より好ましくは35℃〜55℃、例えば約40℃にするのが好ましい。
【0066】
より一般には、本発明組成物は任意の熱伝達用途、例えば自動車の空調での任意の熱伝達流体の代替として用いることができる。例えば、本発明組成物は下記の代替として用いることができる:
1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、
1,1-ジフルオロエタン(R152a)、
l,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(R245fa)、
ペンタフルオロエタン(R125)と1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)とイソブタン(R600a)の混合物(すなわちR422)、
クロロジフルオロメタン(R22)、
51.2%のクロロペンタフルオロエタン(R32)と48.8%のクロロジフルオロメタン(R22)の混合物(すなわちR502)、
任意の炭化水素、
20%のジフルオロメタン(R32)と40%のペンタフルオロエタン(R125)と40%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)との混合物(すなわちR407A)、
23%のジフルオロメタン(R32)と25%のペンタフルオロエタン(R125)と52%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)との混合物(すなわちR407C)、
30%のジフルオロメタン(R32)と30%のペンタフルオロエタン(R125)と40%の1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)との混合物(すなわちR407F)、
R1234yf(2,3,3,3-テトラフルオロプロペン)、
Rl234ze(1,3,3,3-テトラフルオロプロペン)
【0067】
本発明組成物は熱伝達流体としての使用の他に、発泡剤、推進薬(例えばエーロゾル用)、洗浄剤または溶剤としても使用できる。
【0068】
推進薬では、本発明組成物を単独で使用するか、公知の推進薬と一緒に使用できる。推進薬は本発明組成物から成るか、本発明組成物を含むのが好ましい。スプレーされる活性物質を上記推進剤および不活性化合物、溶剤または他の添加剤と混合してスプレー組成物を形成することができる。このスプレー組成物はエーロゾルであるのが好ましい。
【0069】
本発明組成物は発泡組成物中に発泡剤として入れることができる。発泡組成物は当業者に周知のように、適切な条件下反応して泡または細胞構造を形成できる一種以上の他の化合物を含むのが好ましい。
【0070】
本発明は最初に発泡性ポリマー組成物を作る工程を有する発泡熱可塑性製品の製造するプロセスを提供する。発泡性ポリマー組成物は一般にポリマー樹脂を可塑化し、最初の圧力で発泡剤組成物の化合物を混ぜる。ポリマー樹脂の可塑化は熱作用で実行でき、ポリマー樹脂を加熱して十分に軟化させて、発泡剤組成物を混合する。一般に、可塑化温度は結晶性ポリマーのガラス遷移温度または溶融温度の近くである。
【0071】
本発明組成物の他の用途には、溶剤、洗剤等の用途がある。例えば、蒸気脱脂、精密クリーニング、電子回路のクリーニング、ドライクリーニング、研摩クリーニング、沈着潤滑剤用溶剤、離型剤、その他の溶剤または表面処理剤が挙げられる。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
実施例1
共沸または疑似共沸組成物
サファイヤ・チューブを備えた真空セルをオイルバスで5℃に冷却する。熱平衡に達した時に真空セルにHFO-1234yfを入れ、平衡に達した時の圧力を記録する。真空セル中に所定量のNH3を入れ、平衡化を加速するために内容物を混合する。平衡した時点で気相および液相から最少量のサンプルを採り、熱検出器を有するガスクロマトグラフィで分析する。HFO-1234yfとNH3の各種組成物で得られた平衡データを[図1]に示す。
【0073】
実施例2
性能の研究
混合物の濃度、エンタルピー、エントロピーおよび液体/蒸気平衡データを計算するためにRK-Soaveの式を使用した。この式を使用するには対象混合物中で使われる純粋物体の特性と、各二成分混合物の相互作用係数に関する知識とが必要である。
【0074】
各純粋物体で利用可能なデータは沸点、臨界温度および臨界圧、沸点から臨界点までの温度を関数とする圧力曲線、温度を関数とする飽和液体および飽和蒸気濃度である。
【0075】
アムモニアのデータはASHRAEハンドブック2005、第20章に記載されており、また、Refrop(霊媒の特性を計算するためのNISTが開発したソフトウェア)を利用することもできる。
【0076】
HFO1234yfの温度-圧力曲線データは静的方法で測定した。臨界温度および臨界圧はSetaramから市販のC80カロリメータを使用して測定した。
【0077】
RK-Soaveの式は混合物中の化合物の挙動を表すために二元相互作用係数を使用する。この係数は実験による液体/蒸気平衡データの関数として計算される。
【0078】
エネルギー性能を評価するために、蒸発器、凝縮器、圧縮機および膨張弁を備えた圧縮系を考える。
【0079】
成績係数(COP)は系が与えたまたは消費したパワーに対する系から供給された有効パワーとして定義される。
【0080】
ローレンツ成績係数(COPLorenz)は参照成績係数である。これは温度を関数とする各種流体のCOPを比較するのに使われる。
【0081】
ローレンツ成績係数は下記のように定義される(の温度TはKである):
【0082】

【0083】
空調および冷凍の場合のローレンツCOPは下記である:
【0084】

【0085】
加熱の場合のローレンツCOPは下記である:
【0086】

【0087】
各組成物に対して、ローレンツサイクルの成績係数を対応温度を関数として計算する。
【0088】
下記の表で「T」は温度を示し、「P」は圧力を示し、「% CAP」は第1列に示した参照流体に対する流体の容積キャパシティーを示し、「% COP/COPLorenz」はローレンツ・サイクルに対する対応するCOPに対する系のCOPの比を示し、「グライド(glide)」は一定温度での蒸発器の上の温度変化を示す。
【0089】
ヒートポンプのエネルギー性能を評価するために、蒸発器、凝縮器および内部交換器を備え、スクリュー圧縮機および膨張弁を有する圧縮システムを考える。
【0090】
このシステムを5℃の過熱で運転する。蒸発温度は-5℃で、凝縮温度は50℃である。得られた結果は[表1]に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
適度な温度での冷蔵のエネルギー性能を評価するために、蒸発器、凝縮器および内部交換器を備え、スクリュー圧縮機と膨張弁とを有する圧縮システムを考える。このシステムを5℃の過熱で運転する。蒸発温度は-5℃であり、凝縮温度は50℃である。得られた結果は[表2]に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
低温冷蔵プロセスでのエネルギー性能を評価するために、蒸発器、凝縮器および内部交換器を備え、膨張弁と60%の等エントロピー効率を有する圧縮機を有する圧縮系を考える。このシステムを15℃の過熱で運転する。蒸発温度は-30℃であり、凝縮温度は40℃である。得られた結果は[表3]に示す。
【0095】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとアムモニアとの二元組成物。
【請求項2】
1〜60%のアムモニアと、40〜99%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、好ましくは5〜45%のアムモニアと、55〜95%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、好ましくは15〜30%のアムモニアと、70〜85%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、好ましくは18〜26%のアムモニアと、74〜82%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、好ましくは21〜23%のアムモニアと、77〜79の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンから成る請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物の、熱伝達流体としての使用。
【請求項4】
組成物が疑似共沸、好ましくは共沸である請求項3に記載の使用。
【請求項5】
請求項1または2に記載の化合物と、滑剤、安定化剤、界面活性剤、トレーサー、蛍光剤、芳香剤、可溶化剤およびこれらの混合物の中から選択ささる一つ以上の添加剤とを含む熱伝達組成物。
【請求項6】
熱伝達流体として請求項1または2に記載の組成物を含むか、請求項5に記載の熱伝達組成物を含む蒸気圧縮回路を有する熱伝達流体システム。
【請求項7】
ヒートポンプを用いた加熱、空調、冷蔵、冷凍用の車両用または固定用システムおよびランキンサイクルの中から選択される請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
熱伝達流体が請求項1または2の組成物であることを特徴とする、熱伝達流体の蒸発、熱伝達流体の圧縮、熱伝達流体の凝縮および熱伝達流体の膨張とを含む、熱伝達流体を含む蒸気圧縮回路を用いて流体または物体を加熱または冷却する方法。
【請求項9】
冷却される流体または物体の温度が−15℃〜15℃、好ましくは-10℃〜10℃、特に好ましくは-5℃〜5℃である流体または物体の冷却方法、または、加熱される流体または物体の温度が30℃〜90℃、好ましくは35℃〜60℃、特に好ましくは40℃〜50℃である流体または物体の加熱方法である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
冷却される流体または物体の温度が-40℃〜-10℃、好ましくは-35℃〜-25℃、特に好ましくは-30℃〜-20℃でしる請求項8に記載の流体または物体の冷却方法。
【請求項11】
加熱される流体または物体の温度が90℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上でかつ120℃以下である請求項8に記載の流体または物体の加熱方法。
【請求項12】
初期熱伝達流体を含む蒸気圧縮回路を有する熱伝達システムの環境に解するインパクトを減らすための方法であって、蒸気圧縮回路の初期熱伝達流体を最終伝達流体に代え、この最終伝達流体のGWPが初期熱伝達流体より低く、最終伝達流体が請求項1または2に記載の組成物であることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1または2に記載の組成物の溶剤としての使用。
【請求項14】
請求項1または2に記載の組成物の発泡剤としての使用。
【請求項15】
請求項1または2に記載の組成物の推進薬、好ましくはエーロゾル用推進薬としての使用。
【請求項16】
請求項1または2に記載の組成物の洗剤としての使用。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−167275(P2012−167275A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−25414(P2012−25414)
【出願日】平成24年2月8日(2012.2.8)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】