説明

2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸の製造方法

【課題】2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸−1,4:2,3−二無水物の製造前駆体である2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸が、低廉な原料を用いて温和な反応条件で高純度にて得られる製造法を提供する。
【解決手段】下記式[1]で表されるジシクロペンタジエンを、酸化性無機窒素酸化物と40〜80℃で接触させ、前記ジシクロペンタジエンを酸化して下記式[2]で表される2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸を生成させる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料分野などで使用される脂環式ポリイミドの原料として有用である、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸−1,4:2,3−二無水物の前駆体である2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリイミド樹脂はその特長である高い機械的強度、耐熱性、絶縁性、耐溶剤性のために、液晶表示素子や半導体における保護材料、絶縁材料、カラーフィルターなどの電子材料として広く用いられている。また、最近では光導波路用材料等の光通信用材料としての用途も期待されている。
【0003】
近年、電子材料や光通信用材料の分野の発展は目覚ましく、それに対応して、用いられるポリイミド樹脂材料に対しても益々高度な特性が要求されるようになっている。即ち、単に耐熱性、耐溶剤性に優れるだけでなく、用途に応じた性能を多数合わせ有するポリイミド樹脂材料が要求されてきている。
【0004】
しかし、一般的に、芳香族ポリイミド樹脂においては、濃い琥珀色を呈し着色するため、高い透明性を要求される光学材料用途においては問題が生じてくる。また、芳香族ポリイミド樹脂は有機溶剤に不溶であるため、実際にはその前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)を熱による脱水閉環によって得る必要がある。
【0005】
透明性を実現する手段として、脂環式テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重縮合反応によりポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得て、該ポリアミド酸をイミド化してポリイミドを製造すれば、比較的着色が少なく、高透明性のポリイミドが得られることは知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
一方、近年、構造式[3]
上記式[2]で表される
【化1】

で表される2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸−1,4:2,3−二無水物(以下、TCAとも略称する。)を使用するポリイミドが、液晶配向性、電気特性などの諸性能に優れるとともに、液晶配向膜を形成するための塗布性の向上した液晶配向剤を提供することが知られている。(特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、TCAの前駆体である、構造式[2]
【化2】

で表される2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸(以下、TCAAとも略称する。)の製造法には、以下のような実用的な問題を有していた。
【0008】
すなわち、従来、TCAAを製造する方法としては、原料として、式[4]
【化3】

で表されるヒドロキシ−ジシクロペンタジエン(以下、H−DCPとも略称する。)を硝酸酸化する方法が知られている(特許文献4参照)。しかし、H−DCPは、高価な化合物であり、実用的には不利な原料となっている。
【0009】
そこで、H−DCPの原料である大幅に低廉な構造式[1]
【化4】

で表されるジシクロペンタジエン(以下、DCPDと略称する。)を原料にし、該化合物をオゾンによりオゾニドを形成させた後、過酸化水素で分解する方法が知られている(非特許文献1参照)。しかし、この製造方法は実用的には、高価な大規模オゾン発生装置が必要であり、また化学的に不安定な中間体オゾニドの管理に大きな不安がある。更に、過酸化水素も硝酸に比べて高価であり、経済的な製造法とは言えない。
【0010】
DCPDを原料にする別の製法としては、塩化ルテニウム触媒下で過ヨウ素酸ナトリウムによる酸化方法が知られている(特許文献5参照)。しかし、この製造方法は実用的には、高価な過ヨウ素酸を過剰量必要とし、また、触媒である塩化ルテニウムも高価であり、経済的な製造法ではない。更に、この製造法の場合、塩素、ルテニウム、ヨウ素及びナトリウム等の元素が目的生成物であるTCAA中への混入が避けられない。製品の高純度が要求される電子材料用TCAAの製造法としては、相応しくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭60−188427号公報
【特許文献2】特開昭58−208322号公報
【特許文献3】特開2009−58867号公報
【特許文献4】特開昭60−13740号公報
【特許文献5】特開昭62−226941号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J. Org. Chem., 28 (10) 2537-2541 (1963)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、電子材料や光通信用材料の分野などで使用される脂環式ポリイミドの原料として有用な2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸−1,4:2,3−二無水物(TCA)の前駆体であるTCAAの製造方法であり、低廉な原料であるDCPDを用いて工業生産時の反応の制御が容易に可能な温和な反応条件下で金属等の不純物を含まない高純度の目的物が得られる新規な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行い、以下の要旨を有する本発明を完成させた。
(1)下記式[1]で表されるDCPDを、酸化性無機窒素酸化物と10〜80℃で接触させ、前記DCPDを酸化せしめることを特徴とする下記式[2]で表わされるTCAA)の製造方法。
【0015】
【化5】

【0016】
(2)DCPDを溶媒の存在下に酸化性無機窒素酸化物と接触させる上記(1)に記載の製造方法。
(3)DCPDの1モルに対して、酸化性無機窒素酸化物の5〜40モルを接触させる上記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)DCPDを、反応器に仕込んだ酸化性無機窒素酸化物に添加する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)DCPDを、反応器に仕込んだ酸化性無機窒素酸化物に添加し、次いで、該反応器中に酸化性無機窒素酸化物を1〜4回にわたって添加する上記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(6)DCPDを、反応器に仕込んだ酸化性無機窒素酸化物に添加して反応させ後、30〜50℃にて保持し、次いで前記保持温度より5℃以上高い温度にて保持する上記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(7)前記酸化性無機窒素酸化物が、硝酸(HNO)、亜硝酸(HNO)、二酸化窒素(NO)及び四酸化窒素(N)からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(8)前記酸化性無機窒素酸化物が、硝酸(HNO)である上記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)前記溶媒が、ハロゲン化炭化水素、酢酸、ニトロメタン又は飽和炭化水素である上記(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電子材料や光通信用材料の分野において有用な脂環式ポリイミド原料などとして使用される上記式[3]で表されるTCAの前駆体である上記式[2]で表されるTCAAが、低廉な原料である上記式[1]で表されるDCPDを用いて工業生産時の反応が容易に制御可能な温和な反応条件下で金属等の不純物を含まない高純度にて製造される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、上記式[1]で表されるDCPDを酸化性無機窒素酸化物と反応させ、DCPDを酸化せしめることにより式[2]で表されるTCAAを生成させるものである。ここで、酸化性無機窒素酸化物は、DCPDを酸化せしめる酸化力がある無機酸化物であり、好ましくは、硝酸(HNO)、亜硝酸(HNO)、二酸化窒素(NO)及び四酸化窒素(N)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なかでも、硝酸が入手性及び操作性上好ましい。酸化性無機窒素酸化物が硝酸の場合、その濃度は、所望とする反応速度と目的物の選択性から好ましくは50〜90質量%、より好ましくは70〜89質量%である。硝酸の濃度が低い場合は、得られた生成物中の目的物の純度が低くなり、精製が困難で好ましくない。
【0019】
本発明におけるDCPDの酸化反応は、溶媒の存在下で行うのが好ましい。これにより反応における発熱を制御し、急激な温度上昇を緩和することがきる。本発明者の知見によると、DCPDの酸化反応は、反応初期のDCPDと酸化性無機窒素酸化物との混合時に大きく、また、反応時におけるNO発生時の発熱が大きいが、かかる溶媒を存在させることにより、反応速度を制御でき、また、発生するNOガスの反応系外への流出を容易に抑制することもできるので工業的な規模での実施にとって好ましい。
溶媒の使用量は、溶媒量が多くなり過ぎると反応の進行が遅くなることから、原料DCPDに対し0.5〜10質量倍が好ましく、特に1〜5質量倍が好ましい。
【0020】
上記溶媒としては、有機溶媒が好ましく、有機溶媒としては、好ましくは、炭素数が好ましくは1〜5のハロゲン化炭化水素、炭素数が好ましくは1〜10の炭化水素、酢酸、ニトロメタン、ジオキサン等が挙げられる。なかでも、ハロゲン化炭化水素は、酸化反応の終了時に析出する結晶中の目的物の純度が高くできるので特に好ましい。ハロゲン化炭化水素の具体例としては、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1,2−ジクロロプロパン、1,3−ジクロロプロパン、2,2−ジクロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1,4−ジクロロブタン等が挙げられる。なかでも、1,2−ジクロロエタン、又は1,2−ジクロロプロパンが好ましい。
【0021】
本発明において、DCPDの酸化反応を行う場合、通常、反応の初期には、誘導期があり、攪拌開始後しばらくしてから急激な発熱を伴ったNOガスの発生が起きる。この場合、触媒を存在させることにより反応を穏やかに進行させることができる。触媒としては、好ましくは、亜硝酸金属塩、バナジン酸アンモニウム及び/又は酸化バナジウム(V)の硝酸水溶液を使用できる。
しかし、本発明の場合、かかる触媒を使用しなくても十分に大きい反応速度で目的物が得られるために、触媒の使用は必須でない。触媒を使用する場合には、生成されたTCAA中にバナジウムなどの金属が不純物として混入し、その除去精製は通常困難であるので用途によっては使用が制限されるためである。
【0022】
酸化性無機窒素酸化物を使用してDCPDの酸化反応を行う場合、酸化性無機窒素酸化物は、好ましくは50〜90質量%の水溶液とし、かかる酸化性無機窒素酸化物の水溶液を好ましくは溶媒と混合し、その混合液をDCPDと接触せしめるのが好ましい。この場合、本発明者によると、上記酸化性無機窒素酸化物の水溶液を好ましくは溶媒と混合した混合液に対して、DCPDを、好ましくは溶媒で希釈した溶液にて、滴下などの手段にて徐々に接触させることにより、急激な発熱を制御し、NOガスを徐々に発生しつつ反応を行わせ得ることを見出した。
一方、上記とは逆に、DCPDを溶媒で希釈した溶液に対して、酸化性無機窒素酸化物の水溶液又は溶媒と混合した混合液を接触させた場合には、たとえ、酸化性無機窒素酸化物の水溶液又は溶媒と混合した混合液を徐々に接触させた場合であっても、発熱が激しく、接触させる中途の段階において突然のNOガス発生と昇温を伴い極めて危険であることがあることが判明した。
【0023】
酸化性無機窒素酸化物を使用してDCPDの酸化反応を行う場合、酸化性無機窒素酸化物は、DCPDの1モルに対し、好ましくは5〜40モル、より好ましくは8〜30モル使用される。この場合、上記の酸化性無機窒素酸化物の全量を反応器に仕込んでこれに対してDCPDを好ましくは攪拌しながら接触させ、そのまま反応終了させることもできる。しかし、上記の酸化性無機窒素酸化物を分割し、DCPDの1モルに対して好ましくは1〜20モルの酸化性無機窒素酸化物を反応器に仕込み、DCPDを好ましくは攪拌しながら添加して反応させ、その後に残りの4〜20モルの酸化性無機窒素酸化物を添加するのが好ましい。この場合、酸化性無機窒素酸化物を1度に添加するよりも、好ましくは2〜4回、より好ましくは2〜3回に分けて攪拌しながら添加した場合、さらに良好に反応を制御し、発熱を抑制できることが判明した。
【0024】
酸化性無機窒素酸化物を使用してDCPDの酸化反応を行う温度は、好ましくは10〜80℃、より好ましくは20〜75℃である。 温度が低過ぎる場合は、誘導期が見られ、未反応のDCPDが反応槽内に蓄積され、その後急激な発熱を伴なって反応するので好ましくない。また、高過ぎる場合にはNOガスの発生が激しく反応槽外へ飛散し、かつ目的物の収率面からも好ましくない。
上記した酸化性無機窒素酸化物を分割してDCPDと接触させる場合、最初に酸化性無機窒素酸化物に対してDCPDの添加する温度は、10〜50℃が好ましく、特には20〜45℃で行うことが、副生物の生成を抑制しつつ目的物の収率面から好ましい。次に、酸化性無機窒素酸化物を添加して反応させる温度は、30〜45℃で行うことが好ましい。
【0025】
本発明では、酸化性無機窒素酸化物とDCPDと接触させた後、好ましくは2〜4の多段階に昇温させて保持することにより、目的物の収率を向上することが見出された。すなわち、上記接触後、1段目で好ましくは30〜50℃、2段目以降が、1段目よりも好ましくは5℃以上高い、好ましくは51〜80℃に保持することにより目的物の収率が向上する。特に、1段目で40〜50℃、2段目で1段目よりも好ましくは5℃以上高い、51〜60℃、3段目で2段目よりも好ましくは5℃以上高い、61〜80℃の3段階以上で保持することが好ましい。
【0026】
酸化反応に要する時間は、安全上及び目的物の収率面から時間をかけて行うのが好ましい。酸化性無機窒素酸化物に対するDCPDの添加時間や、酸化性無機窒素酸化物を分割する場合の追加の酸化性無機窒素酸化物の添加時間は、反応の規模や反応槽の冷却能力により異なるが、通常は0.2〜10時間が好ましい。そして、好ましくは実施されるその後の昇温保持する時間は、通常5〜120時間が好ましく、特には10〜80時間が好ましい。
【0027】
反応後に目的物であるTCAAの反応液からの単離は、反応液を濃縮して得られた残渣をアセトニトリルなどの有機溶媒に溶解させた後氷冷下に静置させて行ってもよいが、攪拌することにより効率的にTCAAの結晶が析出する。この際、アセトニトリルなどの有機溶媒の溶液にTCAAの種結晶を添加してから攪拌することにより、結晶の析出を促進させることもできる。析出したTCAAの結晶は濾取後、好ましくは酢酸エチル、n−ヘプタンなどの有機溶媒で洗浄し乾燥することにより一次結晶として得られる。更に、濾液の同様な処理により、より高純度のTCAAの二次結晶が得られる。
【0028】
上記のようにして得られたTCAAは、例えば、無水酢酸などに代表される脂肪族カルボン酸無水物などの脱水剤で脱水することによりTCAが得られる。このTCAは触媒を使用しない場合は高純度であり、電子材料や光通信用材料の分野において有利に使用できる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明の解釈はこれらの実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
なお、実施例及び比較例の記載中、「得率」とは、目的物の純度を100%として場合の収率であり、「得率」の目的物の純度を掛けた値が収率である。
また、実施例及び比較例で用いた分析法は以下の通りである。
[1] [質量分析(MASS)]
機種:装置:AcuTof(Jeol社製)イオン化法:DART+ 測定範囲:m/z = 100〜1000.
[2] [H NMR]
機種:Varian社製NMR System 400NB(400MHz),
測定溶媒:DMSO−d6
標準物質:テトラメチルシラン(TMS).
[3] [融点(m.p.)]
機種:微量融点測定装置(MP−S3)(ヤナコ機器開発研究所社製)
【0030】
[4] [GC分析]
TCAAは、以下に示すジアゾメタン処理を行い、ガスクロマトグラフ(GC)により分析した。
TCAA約0.03gを、メタノール1.5mlに超音波照射にて完全溶解させ、更にジエチルエーテル5.0mlを加えた。
水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム24gと水60g)とエタノール144gの混合溶液中に、p−トルエンスルホニル−N−メチル−N−ニトロソアミド5gを添加してジアゾメタンを発生させ、アルゴンガス(流量300〜500ml/分)にて、15分間、TCAA溶液中へ吹き込んだ。更に、同様に、p−トルエンスルホニル−N−メチル−N−ニトロソアミド2gを添加し、約5分間吹き込んだ。
ジアゾメタンの吹き込み終了後、アルゴンガス(流量300〜500ml/分)のみを、5分間、TCAA溶液中へ吹き込み、過剰なジアゾメタンを留去した。
TCAA溶液を、減圧下にて溶媒を留去した。得られた濃縮物に、メタノール1.0gを加え、そのメタノール溶液をGC分析した。
【0031】
GC分析装置、及び分析条件を以下に示す。
装置:GC−2010(島津製作所社製)
カラム:TC−1:長さ30m、外径0.25mm、肉厚0.25μm(GLサイエンス)
分析条件
カラム温度:100℃(2分)、100から290℃(8℃/分)、290℃(15分)
キャリアガス:ヘリウム
注入温度:290℃
検出温度:290℃
検出方法:FID法
【0032】
【化6】

【0033】
実施例1
500mL(リットル)の四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.2mol)及び1,2−ジクロロエタン(EDC)5.30gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、DCPD5.3g(0.04mol)をEDC5.30gに溶解した溶液を40〜45℃で20分かけて滴下した。続いて、45〜50℃で硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)36.0g(0.4mol)を50分かけて滴下した。次に、50℃で2時間、55℃で3時間、更に60℃で20時間攪拌を継続した。
【0034】
次いで、減圧濃縮すると黄色ガラス状固体9.4g(得率90%)が得られた。
この固体をジアゾメタンでメチル化した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、TCAA純度50.9%(収率45.8%)であった。
この固体7.9gにアセトニトリル18gを加えて溶解し、更にTCAAの種晶0.1gを加えて5℃で1週間静置した。析出した結晶をろ過し、酢酸エチルで洗浄した後減圧乾燥するとTCAA白色結晶1.2gが得られた。
この結晶は、MASS及びH NMR分析結果より、TCAAであることを確認した。
MASS ( ESI+, m/z(%) ) : 261([M+H], 100), 243(80)
【0035】
実施例2
500mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.2mol)及びEDC5.3gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、DCPD5.30g(0.04mol)をEDC5.30gに溶解した溶液を40〜45℃で20分かけて滴下した。続いて、45〜50℃で硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)36.0g(0.4mol)を50分かけて滴下した。次に、50℃で2時間、55℃で4時間、60℃で16時間、更に65℃で24時間攪拌を継続した。
【0036】
次いで、減圧濃縮すると黄色ガラス状固体8.6g(得率83%)が得られた。
この固体をジアゾメタンでメチル化した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、TCAA純度57.2%(収率47.8%)であった。
この固体7.5gにアセトニトリル30gを加えて溶解し、総重量14gまで濃縮してからTCAAの種晶0.1gを加えて5℃で1週間静置した。析出した結晶をろ過し、酢酸エチルで洗浄した後減圧乾燥するとTCAA白色結晶2.2gが得られた。
【0037】
実施例3
200mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.20mol)及びEDC5.3gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、DCPD5.30g(0.04mol)をEDC5.30gに溶解した溶液を37〜41℃で50分かけて滴下した。続いて、40℃で硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.20mol)を15分かけて滴下した。
35〜47℃で30分攪拌した後、42℃で発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)20.0g(0.28mol)を1時間かけて滴下した。次に、40〜45℃で21時間、53〜55℃で24時間、更に60℃で8時間攪拌を継続した。
【0038】
次いで、減圧濃縮すると黄色ガラス状固体9.89g(得率95.1%)が得られた。この固体をジアゾメタンでメチル化した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、TCAA純度57.3%(収率54.4%)であった。
この固体9.0gにアセトニトリル30gを加えて溶解し、総重量17gまで濃縮してからTCAAの種晶0.1gを加えて5℃で16時間攪拌した。析出した結晶をろ過し、酢酸エチルで洗浄した後減圧乾燥するとTCAA白色結晶3.80gが得られた。
【0039】
実施例4
200mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.20mol)及びEDC5.30gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、DCPD5.30g(0.04mol)をEDC5.30gに溶解した溶液を38〜40℃で25分かけて滴下した。続いて、50℃で発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)14.0g(0.20mol)を50分かけて滴下した。
次に、45℃で6時間、50℃で16時間攪拌を継続した。
続いて50℃で発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)14.0g(0.20mol)を15分かけて滴下した。
次に、55℃で8時間、60℃で16時間攪拌を継続した。
再び発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)14.0g(0.20mol)を10分かけて滴下した。
【0040】
次に、60℃で24時間、65℃で7時間攪拌を継続した。
次いで、減圧濃縮すると黄色ガラス状固体9.44g(得率91%)が得られた。
この固体をジアゾメタンでメチル化した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、TCAA純度62.4%(収率56.8%)であった。
この固体8.5gにアセトニトリル30gを加えて溶解し、総重量15gまで濃縮してからTCAAの種晶を加えずそのまま5℃で20時間攪拌した。析出した結晶をろ過し、酢酸エチルで洗浄した後減圧乾燥するとTCAA白色結晶2.33gが得られた。
【0041】
実施例5
200mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.20mol)及びEDC5.30gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、DCPD5.30g(0.04mol)をEDC5.30gに溶解した溶液を33〜35℃で1時間15分かけて滴下した。続いて、40〜45℃で発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)12.6g(0.18mol)を20分かけて滴下した。
次に、45℃で22時間攪拌を継続した。
続いて45℃で発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)12.6g(0.18mol)を5分かけて滴下した。
次に、50℃で5時間、60℃で17時間攪拌を継続した。
【0042】
次いで、減圧濃縮すると黄色ガラス状固体9.54g(得率92%)が得られた。
この固体をジアゾメタンでメチル化した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、TCAA純度51.9%(収率47.7%)であった。
この固体8.7gにアセトニトリル30gを加えて溶解し、総重量14gまで濃縮してからTCAAの種晶0.1gを加えて5℃で20時間攪拌した。析出した結晶をろ過し、酢酸エチルで洗浄した後減圧乾燥するとTCAA白色一次結晶1.83gが得られた。濾液と洗液を混合して濃縮し、その残渣にアセトニトリル30gを加えて溶解し、総重量13gまで濃縮してからTCAAの種晶0.1gを加えて5℃で24時間攪拌した。析出した結晶をろ過し、酢酸エチルで洗浄した後減圧乾燥するとTCAA白色二次結晶1.67gが得られた。
【0043】
実施例6
200mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)7.2g(0.08mol)及びEDC5.30gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、DCPD5.30g(0.04mol)をEDC5.30gに溶解した溶液を20〜27℃で15分かけて滴下した。続いて、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)10.8g(0.12mol)を15分かけて滴下した。更に、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)28.0g(0.40mol)を28〜40℃で1時間かけて滴下した。
次に、43℃で4時間、50℃で15時間、60℃で4時間、65℃で3時間、70℃で16時間攪拌を継続した。
【0044】
続いて57℃で発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)14.0g(0.20mol)を2分かけて滴下した。
次に、70℃で7時間攪拌を継続した。
次いで、減圧濃縮すると黄色ガラス状固体9.00g(得率87%)が得られた。
この固体をジアゾメタンでメチル化した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、TCAA純度56.4%(収率49.1%)であった。
この固体8.5gにアセトニトリル30gを加えて溶解し、総重量14gまで濃縮してからTCAAの種晶0.1gを加えて5℃で20時間攪拌した。析出した結晶をろ過し、酢酸エチルで洗浄した後減圧乾燥するとTCAA白色一次結晶3.9g(得率40%)が得られた。
濾液と洗液を混合して濃縮し、その残渣にアセトニトリル30gを加えて溶解し、総重量13gまで濃縮してからTCAAの種晶0.1gを加えて5℃で24時間攪拌した。析出した結晶をろ過し、酢酸エチルで洗浄した後減圧乾燥するとTCAA白色二次結晶0.73g(得率8%)が得られた。
【0045】
実施例7
200mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)7.2g(0.08mol)及びEDC5.30gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、DCPD5.30g(0.04mol)をEDC5.30gに溶解した溶液を17〜22℃で20分かけて滴下した。続いて、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)10.8g(0.12mol)を10分かけて滴下した。更に、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)28.0g(0.40mol)を24〜40℃で1時間30分かけて滴下した。
次に、40℃で6時間、45℃で15時間、55℃で3時間、65℃で6時間、70℃で15時間更に74℃で6時間攪拌を継続した。
次いで、減圧濃縮すると黄色ガラス状固体9.4g(得率90.4%)が得られた。
この固体をジアゾメタンでメチル化した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、TCAA純度55.3%(収率50.0%)であった。
【0046】
実施例8
200mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.20mol)及びEDC5.30gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、DCPD5.30g(0.04mol)をEDC5.30gに溶解した溶液を34〜35℃で20分かけて滴下した。続いて、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.20mol)を10分かけて滴下した。更に、発煙硝酸(濃度90〜94重量%、密度1.50g/ml)19.6g(0.28mol)を36〜40℃で1時間30分かけて滴下した。
次に、42℃で20時間、45℃で3時間30分、50℃で5時間、55℃で15時間、更に60℃で7時間30分攪拌を継続した。
次いで、減圧濃縮すると黄色ガラス状固体9.74g(得率93.6%)が得られた。
この固体をジアゾメタンでメチル化した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、TCAA純度52.7%(収率49.3%)であった。
【0047】
実施例9
200mLの四つ口反応フラスコに、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)18.0g(0.20mol)を仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、DCPD5.30g(0.04mol)を37〜48℃で10分かけて滴下した。続いて、硝酸(濃度69〜70重量%、密度1.42g/ml)36.0g(0.40mol)を32℃で滴下を開始した。この硝酸10gを滴下した10分後に65℃まで昇温したので冷却した。35℃まで下がってから再び残りの硝酸を35〜45℃で40分かけて滴下した。次に、50℃で7時間、55℃で15時間及び60℃で24時間攪拌を継続した。
次いで、減圧濃縮すると黄色ガラス状固体9.80g(得率94%)が得られた。
この固体をジアゾメタンでメチル化した後、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、TCAA純度55.1%(収率51.8%)であった。
この固体8.5gにアセトニトリル30gを加えて溶解し、総重量19gまで濃縮してからTCAAの種晶0.1gを加えて5℃で20時間攪拌した。析出した結晶をろ過し、酢酸エチル/n−ヘプタン=1/1で洗浄した後減圧乾燥するとTCAA白色一次結晶2.6g(得率28%)が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明により製造される2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸(TCAA)は、金属等の不純物を含まない高純度であり、電子材料や光通信材料などの分野で使用される脂環式ポリイミドの原料である2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸−1,4:2,3−二無水物(TCA)の製造などに有利に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]で表されるジシクロペンタジエンを、酸化性無機窒素酸化物と10〜80℃で接触させ、前記ジシクロペンタジエンを酸化せしめることを特徴とする下記式(2)で表わされる2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸の製造方法。
【化1】

【請求項2】
前記ジシクロペンタジエンを、溶媒の存在下に酸化性無機窒素酸化物と接触させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ジシクロペンタジエンの1モルに対して、酸化性無機窒素酸化物の5〜40モルを接触させる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ジシクロペンタジエンを、反応器に仕込んだ酸化性無機窒素酸化物に添加する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記ジシクロペンタジエンを、反応器に仕込んだ酸化性無機窒素酸化物に添加し、次いで、該反応器中に酸化性無機窒素酸化物を1〜4回にわたって添加する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記ジシクロペンタジエンを、反応器に仕込んだ酸化性無機窒素酸化物に添加して反応させ後、30〜50℃にて保持し、次いで前記保持温度より5℃以上高い温度にて保持する請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記酸化性無機窒素酸化物が、硝酸(HNO)、亜硝酸(HNO)、二酸化窒素(NO)及び四酸化窒素(N)からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記酸化性無機窒素酸化物が、硝酸(HNO)である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒が、ハロゲン化炭化水素、酢酸、ニトロメタン又は飽和炭化水素である請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−241161(P2011−241161A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113608(P2010−113608)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】