説明

2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法

本発明は、簡便で効率的な高純度2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの工業的製造法を提供する。本発明は、カテコールと過酸化物とを反応させることを特徴とする2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法に関する。
【背景技術】
2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレン(以下「HHTP」ともいう)は、ディスコティック液晶を始めとする機能性有機材料の原料として有用な化合物である。
従来、HHTPは、遷移金属化合物(塩化第二鉄等)を用いてカテコールを三量化してHHTP遷移金属錯体及び/又はキノン体とし、これを還元処理する方法等により製造されている(例えば、特開平9−118642号公報)。
しかしながら、この方法では、高純度のHHTPを製造することは容易でないため過度の精製工程が必要であり、しかも、得られるHHTPは、外観が黒くなるため機能性有機材料として所望の性質が得られないという大きな問題があった。さらに、この方法は、塩化第二鉄等の危険で環境にも有害な遷移金属化合物を大量に使用することから、反応後の処理も工業的に多大な労力と資源とを必要とする問題があった。
【発明の開示】
上記したように、従来のカテコールと金属酸化剤からHHTPを製造する方法では、高純度でHHTPを製造することは困難であるなどの問題点を有していた。本発明は、これらの問題点を解決し得る、簡便で効率的な高純度のHHTPの工業的製造法を提供することを目的とする。
本発明は、上記の課題を解決すべくカテコールの酸化三量化の可能性について種々の酸化剤の検討を行った結果、過酸化物を用いると簡便かつ効率的に高純度HHTPを製造できることを見出した。かかる知見に基づき、さらに研究を重ねた結果本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、下記のHHTPの製造方法に関する。
項1.カテコールと過酸化物とを反応させることを特徴とする2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法。
項2.過酸化物が過硫酸塩である項1に記載の製造方法。
項3.過酸化物が過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である項1に記載の製造方法。
項4.過酸化物が過硫酸アンモニウムである項1に記載の製造方法。
項5.過酸化物が過酸化水素である項1に記載の製造方法。
項6.カテコール1モルに対し、過酸化物を0.5〜10モル使用する項1に記載の製造方法。
項7.カテコール1モルに対し、過硫酸塩を0.5〜10モル使用する項2に記載の製造方法。
項8.酸の存在下で反応させる項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
項9.使用する酸が硫酸又は過塩素酸である項8に記載の製造方法。
項10.使用する酸が50〜80重量%硫酸又は50〜80重量%過塩素酸水溶液である項8に記載の製造方法。
本発明は、さらに以下の態様を包含する。
項11.過酸化物が30〜65重量%の過酸化水素水である項1に記載の製造方法。
項12.カテコールと過酸化物を反応させた後、吸着剤を用いて処理する項1に記載の製造方法。
項13.カテコールと過酸化物を反応させた後、吸着剤を用いて処理し、さらに水及びアセトンを含む溶媒を用いて2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンを析出させる項1に記載の製造方法。
項14.生成物が2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの溶媒和物である項1〜13のいずれかに記載の製造方法。
発明の詳細な記述
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、カテコールと過酸化物を反応させることを特徴とする2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法に係る。
過酸化物としては、過硫酸塩、過酸化水素等を挙げることができる。
過硫酸塩としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられ、特に、過硫酸アンモニウムが好適である。過硫酸塩の使用量は、カテコール1モルに対して通常0.5〜10モル、好ましくは0.8〜3モル、より好ましくは0.9〜2モルの範囲で使用される。
過酸化水素としては、高純度過酸化水素、過酸化水素の水溶液、過酸化水素のエーテル溶液等が使用可能であるが、取り扱い上の安全性や工業的入手の容易さを考慮すると、30〜65重量%、特に30〜60重量%の過酸化水素の水溶液が好ましい。過酸化水素の使用量は、カテコール1モルに対して通常0.5〜10モル、好ましくは0.8〜3モル、より好ましくは0.9〜2モルの範囲で使用される。
なお、過酸化物のうち、HHTPの収率の点から、過酸化水素よりも過硫酸塩を用いる方が好ましい。
本反応において、溶媒を使用するのが好ましい。溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;THF、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル系溶媒;DMFやDMSO等の非プロトン性有機極性溶媒等を挙げることができ、これら溶媒を単独で、もしくは数種を組合わせて使用することができる。中でも、水、水と他の溶媒との混合溶媒などの水を含有する溶媒が好ましく、特に水が好ましい。なお、溶媒の使用量については、カテコールを必ずしも完全に溶解させる程は必要ではなく、カテコールが若干溶解する程度の量でも反応は進行する。
本反応においては、さらに有機酸、無機酸等の酸を反応系に存在させるのが好ましい。有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等の有機カルボン酸を挙げることができ、無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、過塩素酸、リン酸等の鉱酸を挙げることができる。有機酸はそのまま或いは水溶液の形態で、無機酸は水溶液の形態で使用することができ、無機酸の水溶液が好適である。特に、50〜80重量%硫酸や50〜80重量%過塩素酸の水溶液が好適である。有機酸又は無機酸の使用量は、カテコール1モルに対して1〜100モル、好ましくは3〜50モルの範囲で使用すればよい。
また、これら有機酸自身、有機酸の水溶液、又は無機酸の水溶液を反応溶媒として使用することができる。
本反応において、必要に応じて触媒を使用することができる。触媒としては、BF・O(Cのようなルイス酸触媒;ドデシル硫酸ナトリウム、テトラブチルアンモニウムハライド等の相間移動触媒等が挙げられる。触媒の使用量は通常、カテコール1モルに対して0.001〜0.5モル程度とすればよい。
本反応は、カテコールと過酸化物を混合し、好ましくは反応溶媒及び/又は酸を加えて、公知の機械的撹拌や超音波の照射等により行う。溶媒としては、カテコールもしくは過硫酸塩が若干でも溶解する溶媒を用いることが望ましい。また、反応は、通常大気圧程度で、大気雰囲気下で実施することができる。反応温度は、通常−30℃から溶媒の還流温度で行われるが、好ましくは室温付近(例えば、10〜30℃程度)で反応を行う。反応時間は、上記の過酸化物の使用量、反応容媒、反応温度等にもよるが、通常1〜20時間程度で完了する。
後処理は反応液から未反応原料、副生成物、溶媒などの夾雑物を抽出、蒸留、洗浄、濃縮、沈殿、濾過、乾燥などの常法により除去した後、吸着、溶離、蒸留、沈殿、析出、クロマトグラフィーなど常法の後処理方法を組み合わせて単離することが出来る。
特に、工業的スケールで実施する場合には、反応終了後に沈殿物を濾過し、反応液中の副生成物等を吸着剤で除去した後、所定の溶媒(例えば、水、アセトン等)によりHHTPを析出させる方法が好適に採用される。使用される吸着剤としては、活性炭、シリカゲル、活性アルミナ、活性白土、モレキュラーシーブス及び高分子吸着剤から選ばれる1種又は2種以上である。
バッチ式で吸着剤処理する場合、吸着剤の使用量は特に制限されないが、例えば、生成するHHTP100重量部に対し、通常1〜50重量部、好ましくは2〜25重量部、より好ましくは5〜20重量部である。
また、カラムに吸着剤を充填して連続的に処理する場合、吸着剤の使用量に制限はなく、カラム操作に支障のない量の充填剤でカラムを作製し、所定の溶剤を用いて溶出処理を行う。吸着能が低下した時点で吸着剤を交換或いは再生すればよい。
なお、HHTPは無水物として得ることもできるが、採用する後処理工程に応じてHHTPが溶媒和された形態、例えば、HHTP・水和物(例えば、HHTP・1HO)、HHTPとアセトンの溶媒和物などとして得ることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本発明を実施例を掲げて一層明らかにするが、これに限定されるものではない。
各実施例で得られたHHTPの純度は、下記条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。
カラム:TOSOH TSK−GEL ODS−80TS(東ソー株式会社製)4.6×150mm
移動相:メタノール/水(HPO:0.5モル/L、NaHPO:0.5モル/L)
流速:1.0ml/分
【実施例1】
カテコール16.5g(0.15モル)を、70重量%硫酸水溶液50mlに分散し、これに過硫酸アンモニウム34.2g(0.15モル)を加えた。室温で7時間撹拌した後沈殿を濾別、水洗した。この沈殿物にアセトン300ml、活性炭1.5gを加え室温で30分撹拌した後、不溶物を濾別した。ろ液にイオン交換水300mlを加え、常圧下(101.3kPa)、留去温度(56〜100℃)の条件で、アセトンを留去した。得られた沈殿物を濾取、減圧乾燥することによりHHTPの結晶14.2g(収率83.1%、純度>99%)を得た。
【実施例2】
過硫酸アンモニウム68.4g(0.30モル)を用い、60重量%過塩素酸水溶液250mlを用いたこと以外、実施例1と同様の条件で反応及び後処理を行うことにより、HHTPの結晶(収率72.6%、純度>99%)を得た。
【実施例3】
過硫酸アンモニウム68.4g(0.30モル)を用い、60重量%過塩素酸水溶液125ml及びジクロロエタン125mlを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で反応及び後処理を行うことにより、HHTPの結晶(純度>99%)を得た。
【実施例4】
60重量%過酸化水素水8.5g(0.15モル)を用い、70重量%硫酸100mlを用いて3時間反応したこと以外は、実施例1と同様の条件で反応及び後処理を行うことにより、HHTPの結晶(純度>99%)を得た。
【実施例5】
31重量%過酸化水素水16.5g(0.15モル)を用い、70重量%硫酸100mlを用いて3時間反応したこと以外は、実施例1と同様の条件で反応及び後処理を行うことにより、HHTPの結晶(純度>99%)を得た。
【実施例6】
31重量%過酸化水素水33g(0.3モル)を用い、トリフルオロ酢酸100mlを用いて3時間反応したこと以外は、実施例1と同様の条件で反応及び後処理を行うことにより、HHTPの結晶(純度>99%)を得た。
【発明の効果】
本発明は、不安定なHHTPを簡便かつ効率的にしかも高純度にて製造し得る方法であり、特に大規模な工業的製造方法としての利用価値が高い。
本発明は、従来法である、環境に有害でありHHTPと錯体を形成しやすい遷移金属化合物に代えて、HHTPと錯体を形成しない過酸化物を用いてカテコールの酸化三量化を行う方法であり、これにより簡便に高純度のHHTPを製造することができるようになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテコールと過酸化物とを反応させることを特徴とする2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法。
【請求項2】
過酸化物が過硫酸塩である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
過酸化物が過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
過酸化物が過硫酸アンモニウムである請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
過酸化物が過酸化水素である請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
カテコール1モルに対し、過酸化物を0.5〜10モル使用する請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
カテコール1モルに対し、過硫酸塩を0.5〜10モル使用する請求項2に記載の製造方法。
【請求項8】
酸の存在下で反応させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
使用する酸が硫酸又は過塩素酸である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
使用する酸が50〜80重量%硫酸又は50〜80重量%過塩素酸水溶液である請求項8に記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/037754
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514887(P2005−514887)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015865
【国際出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】