説明

2,4−ジ置換ピリジンの製造法

【課題】2,4−ジ置換ピリジン(5)の効率的製法。
【解決手段】化合物(1)、(2)、(3)






の縮合で得る環状アミン化合物(4)より、スルホニル基を脱離し、化合物(5)


を得る製造方法。(式中、Aは固体担体、Bは結合基、Rはアルキレン基、アラルキレン基、アリーレン基、Rはアルキル基、アラルキル基、Rは水素原子、アルキル基、アラルキル基、Xはハロゲン原子、Rは置換もしくは無置換のアリール基又はヘテロアリール基)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬等の合成中間体として有用な2,4−ジ置換ピリジンの新規製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,4−ジ置換ピリジンはアルカロイドなどの各種医薬、あるいは農薬等の合成中間体として有用である。
従来のその合成法は多段階を要するため手間がかかり、さらに高温を必要とする反応が存在するなど、簡便かつ効率的に合成できるものではなかった。
特に4位置換ピリジン環の2位にヘテロアリール基を持つ化合物の合成に関しては有効な反応例は報告されておらず、例えば2,2’−ジピリジン−4−カルボキシレートは、ピリジンの2位にトリアルキルスズを導入し、これをピリジンの2位に塩素を導入した化合物とパラジウム触媒存在下縮合させる方法が提案されている(非特許文献1参照)が、この反応は135℃という高温下、12時間必要とし、さらにその収率も高くなく、実用的方法とは言い難い。また、4位置換ピリジン環の2位へのフェニル基の導入については、4−フェニルオキサゾールとマレイン酸との縮合による方法があるが、110℃で反応させ、収率も低いものであった(非特許文献2参照)。
その解決手段として、一つの反応容器内でスルホンアミド、2−ハロ−4−オキソブテン酸エステル、トリブチルスズビニル化合物の3化合物を、ハロゲン化リチウム、パラジウム錯体触媒の存在下で縮合せしめ、環状アミン化合物を得、これを塩基処理するだけで、2および4位に置換基を有するピリジンの製造法が本発明者により提示されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法はシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を必要とするため、実用面でなお問題が残っている。
【特許文献1】特開2007230963号公報
【非特許文献1】Org.Chem.,64,1015−1021(1999)
【非特許文献2】J.Med.Chem.,40,1794−1807(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は2,4−ジ置換ピリジンの簡便にして、効率的製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、これらの課題を解決すべく鋭意検討した結果、固体担体に結合させたスルホンアミドを原料として用いることにより、分液・精製が簡便な2,4−ジ置換ピリジンの製造法を開発した。
即ち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、Aは固体担体を表し、Bは結合基を表し、Rはアルキレン基、アラルキレン基またはアリーレン基を表す。)
で示されるスルホンアミド、
下記式(2)
【化2】

(式中、Rはアルキル基またはアラルキル基を表し、Rは水素原子、アルキル基またはアラルキル基を表し、そしてXはハロゲン原子を表す。)
で示される2−ハロ−4−オキソブテン酸エステル、および
下記式(3)
【化3】

(式中、Rは置換もしくは無置換アリール基、置換もしくは無置換ヘテロアリール基、または式R−CH=C(R)−[式中、Rは水素原子、保護されていてもよい水酸基、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数2〜4のアルケニル基を表し、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。]で示される基を表す。)
で示されるトリブチルスズビニル化合物の3化合物を、ハロゲン化リチウム、パラジウム錯体触媒の存在下、縮合せしめ、
下記式(4)
【化4】

(式中、A、R、R、RおよびRは前掲と同じ。)
で示される環状アミン化合物を得、これに塩基を作用させ、スルホニル基を脱離せしめることを特徴とする
下記式(5)
【化5】

(式中、R、RおよびRは前掲と同じ。)
で示される2,4−ジ置換ピリジンの製造法に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明を実施することにより、簡便にして、効率よく目的化合物(5)を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明につき、更に詳細に説明する。
式(1)におけるAで示される固体担体としては、通常固相反応に使用される固体担体を表し、シリカ、合成シリケート、生体シリケート、多孔性ガラス、ヒドロゲル、シリケート含有鉱物、合成ポリマー、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミドおよびそれらのコポリマーからなる群から選択され、好ましくはポリスチレンとジビニルベンゼンとのコポリマー、ポリスチレンとポリエチレングリコールとのコポリマー、およびポリアクリルアミドとポリエチレングリコールとのコポリマーが挙げられる。Bで示される結合基としては、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、アミン結合、カーボネート結合、カルバメート結合、ウレア結合、イミノ結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合またはホスフェート結合が挙げられる。Rで示されるアルキレン基としては、特に限定されないが、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などが挙げられ、置換もしくは無置換アラルキレン基としては、特に限定されないが、ベンジレン基などが挙げられ、置換もしくは無置換アリーレン基としては、特に限定されないが、フェニレン基、ナフチレン基などが挙げられる。これらの中でもプロピレン基およびフェニレン基が入手性の観点から好ましい。
【0007】
式(2)におけるRおよびRで示されるアルキル基としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの低級アルキル基、好ましくはメチル基、エチル基が挙げられ、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
また、式(2)におけるXで示されるハロゲン原子としては、好ましくは臭素またはヨウ素で、さらに好ましくはヨウ素である。
式(3)におけるRで示される置換もしくは無置換アリール基あるいはヘテロアリール基としては、フェニル基、m−クロロフェニル基、p−ブロモフェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、p−シアノフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−ピリジル基、3−チオフェニル基、3−キノリル基、N−トシル−3−インドリル基等が挙げられる。またRの式R−CH=C(R)−で示される基としてはスズ原子と結合したビニル基に共役した二重結合を持つものであり、例えばビニル基、イソプロペニル基、プロペニル基等が挙げられる。
なお、上記置換アラルキル基、置換アリール基または置換ヘテロアリール基における置換基は、本反応を阻害しない限り特に限定されず、例えばメチル、シアノ、ハロゲン、ニトロ等が挙げられる。
【0008】
本発明の式(5)で示される2,4−ジ置換ピリジンの製造法について以下に述べる。
まず、式(1)で示されるスルホンアミドと式(2)で示される2−ハロ−4−オキソブテン酸エステルおよび式(3)で示されるトリブチルスズビニル化合物の3分子を、ハロゲン化リチウム、必要に応じホスフィン化合物を添加し、触媒量のパラジウム錯体の存在下、一気に縮合させ、式(4)で示される環状アミン化合物が得られる。
即ち、スルホンアミド(1)1モルに対し、2−ハロ−4−オキソブテン酸エステル(2)を1.0〜10.0モル等量、好ましくは1.0〜5.0モル等量加える。さらにトリブチルスズビニル化合物(3)を1.0〜20.0モル等量、好ましくは1.0〜10モル等量、さらに好ましくは1.0〜5.0モル等量加える。
これにハロゲン化リチウムを0.1〜10.0モル等量、好ましくは1.0〜4.0モル等量加える。ハロゲン化リチウムは特に限定されないが、最も好ましいものは塩化リチウムである。
これに触媒量のパラジウム錯体を加える。パラジウム錯体としては、具体的にはテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、ジベンジリデンアセトンパラジウム、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム等が挙げられるが、特に好ましくはトリス(ジベンジリデン)アセトンジパラジウムまたはビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウムであり、これを0.01〜2.0モル等量、さらに好ましくは0.1〜0.5モル等量加える。
反応溶媒としては、特に限定されないが、好ましくは非プロトン性極性溶媒、例えば、THF、DMF、DMSO、アセトニトリルなどが挙げられるが、最も好ましい溶媒はDMFである。反応原料が溶液であれば、これを溶媒に兼ねさせてもよい。
【0009】
これらの化合物を室温で混合し、50〜80℃に加熱することで、スルホンアミド(1)、2−ハロ−4−オキソブテン酸エステル(2)およびトリブチルスズビニル化合物(3)の3分子が一気に縮合し、2,4−ジ置換ピリジンの前駆体である固体担体に結合した環状アミン化合物(4)が得られる。
【0010】
ついで、その固体担体を洗浄して不要物を除去した後、塩基を加え、脱スルホニル化せしめることにより、目的の2,4−ジ置換ピリジン(5)が効率よく得られる。
用いられる塩基は3級アミン化合物であれば特に限定されず、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBUと略記)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBNと略記)、ピリジン、コリジン、ルチジンなどが挙げられるが、特に好ましくはDBUである。
この塩基を1モルのスルホンアミド(1)に対し、1.0〜10.0モル等量、好ましくは1.0〜5.0モル等量加え、常温で1時間攪拌することにより、2,4−ジ置換ピリジン(5)の調製は完了する。
2,4−ジ置換ピリジン(5)は、一般的な反応後の処理である反応液のろ過、飽和塩化アンモニウム水溶液による洗浄、飽和食塩水による洗浄操作後、溶媒留去濃縮操作によって、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを施すことなく、精製された2,4−ジ置換ピリジン(5)が得られる。
【0011】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。なお、実施例で用いた4−スルファミルブチリルAMレジン(Cat.No.01−64−0152)は、MERCK Novabiochem社から購入した。
【実施例】
【0012】
2−フェニルイソニコチン酸エチルの合成
【化6】

ポリプロピレン製シリンジ型反応容器に4−スルファミルブチリルAMレジン(100mg,0.110mmol/g)を入れ、レジンを膨潤させ、また洗浄するために、DMF(1mL)を加え5分間振盪させ、不純物を流しだした。これを3回繰り返した。
上記シリンジ型反応容器に、スチリルトリブチルスズ(173mg,0.440mmol)、(2Z)−2−ヨード−4−オキソ−2−ブテン酸エチル(56mg,0.220mmol)、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム(8mg,0.022mmol)、塩化リチウム(11mg,0.264mmol)を溶かしたDMF(0.7ml)溶液を入れた。
この反応容器を80℃に加温後、2時間振盪させた後、反応溶液を流しだした。
使用したレジンを洗浄するため、DMF(1ml)を反応容器に加え5分間振盪させ流しだした。次に、ジエチルエーテル(1ml、レジンを収縮させる溶媒)を反応溶液に加え5分間振盪させ流しだした。この操作を交互に5回ずつ繰り返し、計10回使用したレジンを洗浄した。
使用したレジンをTHFで置換するためにTHF(1ml)を加え、5分間振盪させた後流しだした。これを2回繰り返した。
レジンから首記化合物の切り出しのため、DBU(50mg,0.330mmol)を溶かしたTHF(0.7ml)溶液をシリンジ型反応容器に加えた。反応容器を室温で1時間振盪させた。
切り出した首記化合物の溶液を反応容器から流しだした。レジンを洗浄するため、THF(1ml)を反応容器に加え5分間振盪し流しだした。次いでジエチルエーテル(1ml)を反応容器に加え、5分間振盪させ流しだした。この操作を交互に5回ずつ繰り返し、計10回首記化合物をレジンから流しだした。
流しだした有機層を集め、飽和塩化アンモニウム水溶液(DBU除去)、飽和食塩水溶液(少量のDMF除去)で順次洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過し、減圧濃縮して首記化合物2−フェニルイソニコチン酸エチル(18mg、収率72%)を黄色固体として得た。
【0013】
上記実施例と同様の反応操作を行って、下記の化合物を合成した。

【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明方法を実施することにより、アルカロイドなどの各種医薬、農薬等の合成中間体として有用な2,4−ジ置換ピリジン(5)を簡便な精製単離工程により効率よく製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、Aは固体担体を表し、Bは結合基を表し、Rはアルキレン基、アラルキレン基またはアリーレン基を表す。)
で示されるスルホンアミド、
下記式(2)
【化2】

(式中、Rはアルキル基またはアラルキル基を表し、Rは水素原子、アルキル基またはアラルキル基を表し、そしてXはハロゲン原子を表す。)
で示される2−ハロ−4−オキソブテン酸エステル、および
下記式(3)
【化3】

(式中、Rは置換もしくは無置換アリール基、置換もしくは無置換ヘテロアリール基、または式R−CH=C(R)−[式中、Rは水素原子、保護されていてもよい水酸基、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数2〜4のアルケニル基を表し、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。]で示される基を表す。)
で示されるトリブチルスズビニル化合物の3化合物を、ハロゲン化リチウム、パラジウム錯体触媒の存在下、縮合せしめ、
下記式(4)
【化4】

(式中、A、B、R、R、RおよびRは前掲と同じ。)
で示される環状アミン化合物を得、これに塩基を作用させ、スルホニル基を脱離せしめることを特徴とする
下記式(5)
【化5】

(式中、R、RおよびRは前掲と同じ。)
で示される2,4−ジ置換ピリジンの製造法。
【請求項2】
式(1)におけるAが、ジビニルベンゼンと架橋したポリスチレンである請求項1に記載の2,4−ジ置換ピリジンの製造法。
【請求項3】
式(1)におけるAがジビニルベンゼンと架橋したポリスチレンであり、Bがアミド結合であり、Rが1,3−プロピレン基であり、式(2)におけるRがアルキル基またはアラルキル基であり、Rが水素原子、またはアルキル基またはアラルキル基であり、Xがハロゲン原子であり、そして式(3)におけるRが置換もしくは無置換アリール基、置換もしくは無置換ヘテロアリール基、または式R−CH=C(R)−[式中、Rは水素原子、保護されていてもよい水酸基、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数2〜4のアルケニル基を表し、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。]で示される基である請求項1に記載の2,4−ジ置換ピリジンの製造法。
【請求項4】
式(1)におけるAがジビニルベンゼンと架橋したポリスチレンであり、Bがアミド結合であり、Rが1,3−プロピレン基であり、式(2)におけるRがメチル基またはエチル基であり、Rが水素原子、またはエチル基であり、Xがヨウ素原子であり、そして式(3)におけるRがアリール基またはヘテロアリール基である請求項1に記載の2,4−ジ置換ピリジンの製造法。

【公開番号】特開2009−280521(P2009−280521A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134219(P2008−134219)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】