説明

2,4−ピリミジンジアミン化合物およびそのプロドラッグならびにそれらの使用

式(I)〜(III)の生物学的に活性な2,4−ピリミジンジアミン化合物およびその塩と、これらの化合物を含む組成物と、種々の治療応用においてこれらの化合物を用いる方法とを提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許仮出願第61/263,169号の優先権を主張し、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
開示の分野
本開示は、生物学的に活性な2,4−ピリミジンジアミン化合物およびそのプロドラッグ、これらの化合物を含む医薬組成物、これらの化合物を作製する合成方法および中間体、ならびに種々の疾患の処置または予防などの様々な状況においてこれらの化合物および組成物を使用する方法に関する。
【0003】
関連技術の説明
高親和性IgE受容体(FcεRI)および/または高親和性IgG受容体(FcγRI)などのFc受容体が架橋されることで、肥満細胞、好塩基球細胞および他の免疫細胞においてシグナルカスケードが活性化され、多数の有害事象に関与する化学メディエーターの放出がもたらされる。例えば、そのような架橋によって、ヒスタミンなどの、I型(即時型)アナフィラキシー過敏症反応の前もって形成されたメディエーターの、脱顆粒を介した顆粒内の貯蔵部位からの放出が引き起こされる。また、架橋は、炎症反応において重要な役割を果たすロイコトリエン、プロスタグランジンおよび血小板活性化因子(PAF)を含む他のメディエーターの合成および放出を引き起こす。Fc受容体の架橋後に、合成されて放出されるさらなるメディエーターには、サイトカインおよび一酸化窒素がある。
【0004】
FcεRIおよび/またはFcγRIなどのFc受容体の架橋によって活性化されるシグナルカスケードは、一連の細胞タンパク質を含む。最も重要な細胞内シグナルプロパゲータは、チロシンキナーゼである。FcεRIおよび/またはFcγRI受容体の架橋に関連するシグナル伝達経路、ならびに他のシグナル伝達カスケードに関与する重要な1つのチロシンキナーゼは、Sykキナーゼである(総説については、Valentら,2002,Intl.J.Hematol.75(4):257−362(非特許文献1)を参照されたい)。
【0005】
FcεRIおよびFcγRI受容体の架橋の結果として放出されるメディエーターは、多数の有害事象の症状の原因であり、または症状において重要な役割を果たす。近年では、FcεRIおよび/またはFcγRIのシグナルカスケードを阻害し、多数の治療目的用途がある種々のクラスの2,4−ピリミジンジアミン化合物が発見されている。例えば、2003年1月31日に提出された米国特許出願第10/355543号(米国特許出願公開第2004/0029902A1号)(特許文献1)、2003年1月31日に提出された国際特許出願PCT/US03/03022号(国際公開第03/063794号)(特許文献2)、2003年7月29日に提出された米国特許出願第10/631029号(米国特許第2007/0060603号)(特許文献3)、国際特許出願PCT/US03/24087号(国際公開第2004/014382号)(特許文献4)、2004年7月30日に提出された米国特許出願第10/903263号(米国特許出願公開第2005/0234049号)(特許文献5)、および国際特許出願PCT/US2004/24716号(国際公開第2005/016893号)(特許文献6)を参照されたい。それぞれの全体が参照によって本明細書に組み入れられる。これらの化合物の多くは良好な生物学的利用能の特性を示すが、場合によっては、特定の投与経路を経るそれらの生物学的利用能が最適化されるように、それらの溶解性または他の特性を目的に合わせることが望ましいことがある。
【0006】
2003年1月31日に提出された国際特許出願PCT/US03/03022号(国際公開第03/063794号)(特許文献7)、2007年11月20日に提出された国際特許出願PCT/US07/85313号(国際公開第2008/064274号)(特許文献8)、および2006年1月19日に提出された国際特許出願PCT/US06/01945号(国際公開第2006/078846号)(特許文献9)(それぞれの全体が参照によって本明細書に組み入れられる)は、種々のインビトロおよびインビボでの状況において有用であり、少なくとも一部はFc受容体シグナルカスケードの活性化によって媒介される疾患の処置および/または予防に含まれる、2,4−ピリミジンジアミン化合物およびそのプロドラッグの1つのクラスを開示する。これらの化合物は、種々のインビトロおよびインビボでの状況において有用であるが、向上した効果および作用の持続時間の増加を有する化合物の必要性は依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願第10/355543号(米国特許出願公開第2004/0029902A1号)
【特許文献2】国際特許出願PCT/US03/03022号(国際公開第03/063794号)
【特許文献3】米国特許出願第10/631029号(米国特許第2007/0060603号)
【特許文献4】国際特許出願PCT/US03/24087号(国際公開第2004/014382号)
【特許文献5】米国特許出願第10/903263号(米国特許出願公開第2005/0234049号)
【特許文献6】国際特許出願PCT/US2004/24716号(国際公開第2005/016893号)
【特許文献7】国際特許出願PCT/US03/03022号(国際公開第03/063794号)
【特許文献8】国際特許出願PCT/US07/85313号(国際公開第2008/064274号)
【特許文献9】国際特許出願PCT/US06/01945号(国際公開第2006/078846号)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Valentら,2002,Intl.J.Hematol.75(4):257−362
【発明の概要】
【0009】
開示の概要
広範な態様では、本開示は2,4−ピリミジンジアミン化合物およびそのプロドラッグを提供し、該化合物およびそのプロドラッグは、多数の生物活性を有し、したがって治療目的用途、該化合物およびプロドラッグを含む組成物、該化合物およびプロドラッグを合成するための有用な方法および中間体、ならびに少なくとも一部はFc受容体シグナルカスケードの活性化によって媒介される疾患の処置および/または予防を含む種々のインビトロおよびインビボでの状況において該化合物とプロドラッグを用いる方法を有する。
【0010】
このように、本開示の一態様は、式(I)の化合物およびその薬学的に許容される塩を提供する:

【0011】
本開示の別の一態様は、式(II)の化合物およびその薬学的に許容される塩を提供する:

【0012】
本開示の別の一態様は、式(III)の化合物およびその薬学的に許容される塩を提供する:

【0013】
本開示の別の一態様は、本開示の化合物または塩、および適切な担体、賦形剤または希釈剤を含む医薬組成物を提供する。該担体、賦形剤または希釈剤の正確な性質は、該組成物の所望の用途に依存し、獣医学での適切なまたは許容される用途から、ヒトでの適切なまたは許容される用途にまで及び得る。該組成物は、1つまたは複数の付加的な化合物を随意に含み得る。
【0014】
本開示の別の一態様は、対象において細胞脱顆粒を阻害する方法を提供し、該方法は、脱顆粒を阻害するのに有効な本開示の化合物、塩または組成物の薬学的有効量を該対象に投与することを含む。
【0015】
本開示のさらに別の一態様は、アレルギー疾患、軽度の瘢痕、組織破壊を伴う疾患、組織炎症を伴う疾患、炎症および瘢痕から選択される疾患を処置または予防するための方法を提供し、該方法は、本開示の化合物、塩または組成物の薬学的有効量を対象に投与することを含む。
【0016】
一態様では、本開示は、対象における関節リウマチを処置する方法を提供し、該方法は、関節リウマチを患っている対象に本開示の化合物、塩または組成物の薬学的有効量を投与することを含む。
【0017】
本開示の別の一態様は、対象においてSykキナーゼの活性を阻害する方法を提供し、該方法は、Sykキナーゼ活性を阻害するのに有効な本開示の化合物、塩または組成物の薬学的有効量を該対象に投与することを含む。
【0018】
別の一態様では、本開示は対象においてFc受容体シグナル伝達カスケードを阻害する方法を提供し、該方法は、Fc受容体シグナル伝達カスケードを阻害するのに有効な本開示の化合物、塩または組成物の薬学的有効量を該対象に投与することを含む。Fc受容体は、FcαRI、FcγRI、FcγRIIIおよびFcεRIから選択される。
【0019】
本開示の別の一態様は、対象において自己免疫疾患、および/またはそれに伴う1つもしくは複数の症状を処置または予防する方法を提供し、該方法は、該自己免疫疾患を処置または予防するのに有効な本開示の化合物、塩または組成物の薬学的有効量を該対象に投与することを含む。
【0020】
本開示の別の一態様は、対象において細胞増殖障害を処置する方法を提供し、該方法は、本開示による化合物、塩または組成物の薬学的有効量を、細胞増殖障害を患う対象に投与することを含む。
【0021】
本開示の別の一態様は、細胞においてSykキナーゼを調節または阻害する方法を提供し、該方法は、SykキナーゼまたはSykキナーゼを含む細胞と本開示の化合物または塩とを接触させることを含む。
【0022】
本開示の別の一態様は、Fc受容体シグナルカスケードを調節または阻害する方法を提供し、該方法は、Fc受容体を発現する細胞と本開示の化合物または塩とを接触させることを含む。
【0023】
本開示の別の一態様は、細胞の脱顆粒を調節または阻害する方法を提供し、該方法は、脱顆粒している細胞と本開示の化合物または塩とを接触させることを含む。
【0024】
本開示の別の一態様は、該シグナル伝達カスケードを調節または阻害する方法を提供し、該方法は、Syk依存性受容体またはSyk依存性受容体を発現する細胞と本開示の化合物または塩とを接触させることを含む。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
一実施形態では、本開示は、N4−(2,2−ジメチル−3−オキソ−4H−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル)−5−フルオロ−N2−[6−モルホリノピリジン−3−イル]−2,4−ピリミジンジアミンおよびその薬学的に許容される塩を提供する。この化合物は、式(I)を有する:

【0026】
別の一実施形態では、本開示は、N4−[2,2−ジメチル−4−[(二水素ホスホノキシ)メチル]−3−オキソ−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル]−5−フルオロ−N2−(6−モルホリノピリジン−3−イル)−2,4−ピリミジンジアミンおよびその薬学的に許容される塩を提供する。この化合物は、式(II)を有する:

【0027】
さらに別の一実施形態では、本開示は、N4−[2,2−ジメチル−4−[(二水素ホスホノキシ)メチル]−3−オキソ−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル]−5−フルオロ−N2−(4−モルホリノフェニル)−2,4−ピリミジンジアミンおよびその薬学的に許容される塩を提供する。この化合物は、式(III)を有する:

【0028】
式(II)および(III)の化合物において、ピリド[3,2−b]オキサジンの4位で置換されたメチル二水素ホスフェートは、使用条件下で代謝されるか、またはさもなければ転換されて、活性な2,4−ピリミジンジアミン化合物をもたらすプロ基として作用することができる。ホスフェート部分は、エステラーゼ、リパーゼおよび/またはホスファターゼなどの酵素によって、インビトロで切断されうる。そのような酵素は、体中にわたり広まっており、例えば、胃および消化管に、血液および/または血清中に、ならびに実質的にすべての組織および臓器に存在している。そのようなホスフェートを含むプロ基は、基礎をなす活性な2,4−ピリミジンジアミン化合物の水溶性を通常増加させ、例えば経口、頬側、静脈内、筋肉内および眼内の投与様式などの水溶性が望ましい場合に、そのようなホスフェート含有化合物を投与様式に適したものにする。
【0029】
本開示の一実施形態では、式(I)〜(III)のいずれかに関して上述した化合物への重原子の取り込み、特に重水素による水素の置換は、該化合物の薬物動態を変えることができる同位体効果を生じさせることができる。本開示の化合物の安定同位体標識は、pKaおよび脂溶性などのその物理化学的特性を変えることができる。これらの変化は、体内のその経路に沿って、様々な段階で化合物の運命に影響し得る。吸収、分布、代謝または排泄は、変えることができる。重水素化化合物は、非重水素化化合物よりも低い濃度で、哺乳類への作用の効果を増大し、かつ持続時間を増大することができる。
【0030】
重水素は、約0.015%の天然存在量を有する。したがって、自然界に存在するほぼ6,500の水素原子ごとに、重水素原子が1つ存在する。1つまたは複数の位置で重水素が濃縮された化合物を本明細書で開示する。このように、本開示の重水素含有化合物は、1つまたは複数の位置(場合によっては)で0.015%を超える存在量で重水素を有する。
【0031】
一実施形態では、式(I)〜(XII)のいずれかに関する上述の化合物は、重水素を有すると指定された位置では、化合物中で重水素として指定された各原子につき少なくとも2000(30%の重水素取り込み)、または少なくとも3000(45%の重水素取り込み)の最小同位体濃縮係数を有する。
【0032】
他の実施形態では、式(I)〜(III)のいずれかに関する上述の化合物は、各指定された重水素原子につき少なくとも3500(各指定された重水素原子につき52.5%の重水素取り込み)、少なくとも4000(60%の重水素取り込み)、少なくとも4500(67.5%の重水素取り込み)、少なくとも5000(75%の重水素取り込み)、少なくとも5500(82.5%の重水素取り込み)、少なくとも6000(90%の重水素取り込み)、少なくとも6333.3(95%の重水素取り込み)、少なくとも6466.7(97%の重水素取り込み)、少なくとも6600(99%の重水素取り込み)、または少なくとも6633.3(99.5%の重水素取り込み)の同位体濃縮係数を有する。
【0033】
別の一実施形態では、本開示は、式(I)〜(III)のいずれかに関する上述の化合物の薬学的に許容される塩を提供する。通常、薬学的に許容される塩は、親化合物の所望の薬理活性のうちの1つまたは複数を実質的に保持し、かつヒトへの投与に適している塩である。薬学的に許容される塩は、無機酸または有機酸によって形成される酸付加塩を含む。薬学的に許容される酸付加塩を形成することに適した無機酸には、限定ではなく一例として、ハロゲン化水素酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。薬学的に許容される酸付加塩を形成することに適している有機酸には、限定ではなく一例として、酢酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、パルミチン酸、安息香酸、3−(4−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、アルキルスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2−エタン−ジスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸等)、アリールスルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、4−クロロベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、4−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸等)、4−メチルビシクロ[2.2.2]−オクト−2−エン−l−カルボン酸、グルコヘプトン酸、3−フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、三級ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸等が挙げられる。例えば、一実施形態では、該塩は、ジトリフルオロ酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、塩酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、またはエタンスルホン酸塩である。
【0034】
薬学的に許容される塩には、親化合物中に存在する酸性プロトンが無機イオン(例えばNa、KもしくはLiなどのアルカリ金属イオン、Ca2+もしくはMg2+などのアルカリ土類イオン、アルミニウムイオン、またはアンモニウムイオン)と置換するか、または有機塩基(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、リジン、コリン、N−メチルグルカミン、モルホリン、ピペリジン、ジメチルアミン、ジエチルアミン等)と配位すると形成される塩も挙げられる。
【0035】
特定の代表的な塩には、一ナトリウム塩および二ナトリウム塩、一カリウム塩および二カリウム塩、一リチウム塩および二リチウム塩、モノアルキルアミン塩およびジアルキルアミン塩、一アンモニウム塩および二アンモニウム塩、一マグネシウム塩、一カルシウム塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。化合物が遊離ホスフェート(すなわち、−P(O)(OH))を含むとき、そのような塩は特に有用になり得る。
【0036】
本明細書に記述する化合物、ならびにその塩は、当技術分野で周知のように、水和物、溶媒和化合物およびN−酸化物の形でもあり得る。
【0037】
本明細書に記述する化合物の多く、特に式(I)〜(III)のいずれかに関する上述の化合物は、肥満細胞、好塩基球細胞、好中球細胞および/または好酸球細胞などの免疫細胞の脱顆粒の強力な阻害剤であるか、または代謝されて、肥満細胞、好塩基球細胞、好中球細胞および/または好酸球細胞などの免疫細胞の脱顆粒の強力な阻害剤である2,4−ピリミジンジアミン化合物をもたらす。このように、さらに別の一態様では、本開示は、そのような細胞の脱顆粒を調節する、特に阻害する方法を提供する。該方法は、細胞の脱顆粒を調節または阻害するための有効量で、本明細書に記述する適切な化合物またはその許容される塩と脱顆粒している該細胞とを接触させることを通常含む。該方法は、細胞脱顆粒によって特徴づけられる疾患、細胞脱顆粒に起因する疾患、または細胞脱顆粒に付随する疾患の処置もしくは予防に向けた治療的なアプローチとして、インビトロ状況下で、もしくはインビボ状況下で行われ得る。
【0038】
いかなる作用理論にも制約されないが、多くの2,4−ピリミジンジアミン化合物は、IgE(「FcεRI」)および/またはIgG(「FcγRI」)の高親和性Fc受容体の架橋によって開始されるシグナル伝達カスケードをブロックするまたは阻害することによって少なくとも一部においてそれらの脱顆粒阻害効果をもたらすことが生化学データから確認される(例えば、2003年7月29日に提出された米国特許出願第10/631029号(米国特許出願公開第2007/0060603号)、国際特許出願PCT/US03/24087号(国際公開第2004/014382号)、2004年7月30日に提出された米国特許出願第10/903263号(米国特許出願公開第2005/0234049号)、および国際特許出願PCT/US2004/24716号(国際公開第2005/016893号)を参照されたい。それら開示の全体が参照によって本明細書に組み入れられる)。実際に、これらの活性な2,4−ピリミジンジアミン化合物は、FcεRI媒介およびFcγRI媒介による両脱顆粒に対する強力な阻害剤である。結果として、本明細書に記述する化合物を用いて、マクロファージ、肥満細胞、好塩基球細胞、好中球細胞および/または好酸球細胞を含むがこれらに限定されないそのようなFcεRIおよび/またはFcγRI受容体を発現するいかなる細胞型において、これらのFc受容体シグナルカスケードを阻害することができる。
【0039】
また、該方法は、そのようなFc受容体シグナルカスケードを活性化した結果として生じる下流プロセスを、調節、特に阻害することを可能にする。そのような下流プロセスには、FcεRI媒介および/もしくはFcγRI媒介による脱顆粒、サイトカイン産生ならびに/またはロイコトリエンおよびプロスタグランジンなどの脂質メディエーターの産生および/もしくは放出が挙げられるが、これらに限定されるものではない。該方法は通常、上述の細胞型のうちの1つなどのFc受容体を発現する細胞と、このシグナルカスケードの活性化によって生じるFc受容体シグナルカスケードおよび/または下流プロセスを調節または阻害するのに有効な、本明細書に記述する化合物またはその許容される塩の一定量とを接触させることを含む。該方法は、脱顆粒後の顆粒特異的化学メディエーターの放出、サイトカインの放出および/または合成、ならびに/またはロイコトリエンとプロスタグランジンなどの脂質メディエーターの産生および/または合成により生じる疾患などの、Fc受容体シグナルカスケードによって特徴づけられる疾患、Fc受容体シグナルカスケードに起因する疾患、またはFc受容体シグナルカスケードに付随する疾患の処置もしくは予防に向けた治療的なアプローチとして、インビトロ状況下で、もしくはインビボ状況下で行われ得る。
【0040】
さらに別の一態様では、本開示は、FcεRIおよび/またはFcγRIのシグナルカスケードなどのFc受容体シグナルカスケードを活性化した結果としての化学メディエーターの放出によって特徴づけられる疾患、化学メディエーターの放出に起因する疾患、または化学メディエーターの放出に付随する疾患を処置および/または予防する方法を提供する。該方法は、獣医学状況下の動物において、または、ヒトにおいて行われ得る。該方法は、疾患を処置または予防するのに有効な、式(I)〜(III)のいずれかに関する上述の化合物またはその許容される塩の一定量を対象動物またはヒトに投与することを含む。上述のように、特定の免疫細胞においてFcεRIまたはFcγRIの受容体シグナルカスケードが活性化すると、種々の疾患の薬理学的メディエーターである種々の化学物質の放出および/または合成が引き起こされる。これらの疾患のいずれも、本明細書に記述する方法によって処置または予防され得る。
【0041】
本開示の化合物の多くは、チロシンキナーゼSykキナーゼの強力な阻害剤でもある。このように、さらに別の一態様では、本開示は、Sykキナーゼ活性を調節する、特に阻害する方法を提供する。該方法は通常、SykキナーゼまたはSykキナーゼを含む細胞と、Sykキナーゼ活性を調節または阻害するのに有効な、式(I)〜(III)のいずれかに関する上述の適切な化合物またはその許容される塩の一定量とを接触させることを含む。一実施形態では、Sykキナーゼは、単離されたまたは組換えSykキナーゼである。別の一実施形態では、Sykキナーゼは、細胞、例えば肥満細胞または好塩基球細胞によって発現する内在性もしくは組換えのSykキナーゼである。該方法は、Sykキナーゼ活性によって特徴づけられる疾患、Sykキナーゼ活性に起因する疾患、またはSykキナーゼ活性に付随する疾患の処置もしくは予防に向けた治療的なアプローチとして、インビトロ状況下で、もしくはインビボ状況下で行われ得る。
【0042】
いかなる特定の作用理論にも制約されないが、このような活性な2,4−ピリミジンジアミン化合物は、FcεRIのγ鎖ホモ二量体を介して活性化されるSykキナーゼを主に阻害することによって細胞脱顆粒および/または他の化学メディエーターの放出を阻害すると考えられる。このγ鎖ホモ二量体は、FcγRI、FcγRIIIおよびFcαRIを含む他のFc受容体によって共有される。これらの受容体のすべてについて、細胞内シグナル伝達は、共通のγ鎖ホモ二量体によって媒介される。それらの受容体の結合および凝集によって、Sykキナーゼなどのチロシンキナーゼの動員および活性化がもたらされる。これらの共通するシグナリング活性化の結果、式(I)〜(III)のいずれかに関する上述の化合物を用いて、FcεRI、FcγRI、FcγRIIIおよびFcαRIなどのこのγ鎖ホモ二量体を有するFc受容体のシグナルカスケード、ならびにこれらの受容体を介して誘発される細胞応答を調節する、特に阻害することができる。
【0043】
Sykキナーゼは、他のシグナルカスケードにおいて重要な役割を果たすことが知られている。例えば、Sykキナーゼは、B細胞受容体(BCR)シグナル伝達のエフェクターであり、かつ好中球中でシグナル伝達するインテグリンβ1、β2およびβ3の必須成分である。Sykキナーゼの強力な阻害剤である活性な2,4−ピリミジンジアミン化合物を用いて、Sykが例えば、Fc受容体シグナルカスケード、BCRシグナルカスケードおよびインテグリンシグナルカスケードなどの役割を果たす場合には、いずれのシグナルカスケードも、ならびにこれらのシグナルカスケードを介して誘発される細胞応答も調節する、特に阻害することができる。このように、式(I)〜(III)のいずれかに関する上述の化合物を用いて、そのような活性を調節することができる。当技術分野で周知のように、調節または阻害される特定の細胞応答は、特定の細胞型および受容体シグナルカスケードに一部は依存する。そのような化合物で調節または阻害され得る細胞応答の非限定例としては、呼吸性バースト、細胞接着、細胞脱顆粒、細胞伸展、細胞遊走、食作用(例えば、マクロファージにおいて)、カルシウムイオンの流れ(例えば、肥満細胞、好塩基球細胞、好中球細胞、好酸球細胞およびB細胞において)、血小板凝集、および細胞成熟(例えば、B細胞において)が挙げられる。
【0044】
このように、別の一態様では、本開示は、Sykが役割を果たすシグナル伝達カスケードを調節する、特に阻害する方法を提供する。該方法は通常、シグナル伝達カスケードを調節または阻害するために、Syk依存性受容体またはSyk依存性受容体を発現する細胞と、本明細書に記述する適応する化合物、またはその許容される塩の有効量とを接触させることを含む。また、該方法を用いて、特定のSyk依存性シグナル伝達カスケードの活性化によって誘発される下流プロセスまたは細胞応答を調節する、特に阻害することができる。該方法は、Sykが役割を果たすことが現在知られているか、または後に発見されるいずれのシグナル伝達カスケードをも調節する目的で行われ得る。該方法は、Syk依存性シグナル伝達カスケードの活性化によって特徴づけられる疾患、Syk依存性シグナル伝達カスケードの活性化に起因する疾患、またはSyk依存性シグナル伝達カスケードの活性化に付随する疾患の処置もしくは予防に向けた治療的なアプローチとして、インビトロ状況下で、もしくはインビボ状況下で行われ得る。そのような疾患の非限定例には、上述のものが含まれる。
【0045】
最近の研究では、コラーゲンによる血小板の活性化が、免疫受容体が用いるのと同じ経路を介して、中心的役割を果たしているFcRγ上の免疫受容体チロシンキナーゼモチーフによって媒介されること、また、FcRγがマウスにおけるバルーン障害の後に新生内膜過形成の生成において、おそらく、コラーゲンによって誘発される血小板および白血球の動員の活性化を介して中心的役割を果たすことを示している。このように、本明細書に記述する化合物を用いて、コラーゲンによって誘発される血小板活性化を阻害することもでき、血管損傷の後に例えば、新生内膜過形成および再狭窄などの血小板活性化に付随する疾患、または血小板活性化に起因する疾患を処置または予防することもできる。
【0046】
治療への応用
式(I)〜(III)のいずれかに関する上述の化合物は、処置を必要とする対象において、Sykの活性化を介して媒介される、または該活性化によって増悪する疾患もしくは障害を処置するために有用である。本開示は、式(I)〜(III)のいずれかに関する上述の、その塩もしくは溶媒和化合物を含む化合物の有効量を投与することによって、対象における炎症状態もしくは疾患、自己免疫疾患、細胞増殖障害、および変性骨障害などの状態を処置する方法を提供する。
【0047】
炎症状態
したがって、本開示は、その塩または溶媒和化合物を含む主題の化合物の有効量を投与することによって対象における炎症状態または疾患を処置する方法を提供する。療法を考慮される炎症状態は、Syk活性によって媒介されるか、または増悪する急性および慢性の炎症を含む。
【0048】
主題の化合物を用いて、炎症反応が該状態または疾患を伴う種々の炎症状態または疾患を処置することができる。そのような疾患および状態についての診断および臨床徴候は、当業者にとって周知であろうし、ガイダンスは、The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 1999,第17版,John Wiley & Sons;およびInternational Classification of Disease and Related Health Problems(ICD 10), 2003, World Health Organizationなどの種々の参照刊行物に提供されている。
【0049】
本開示は、Sykが役割を果たすシグナル伝達カスケードを調節または阻害する方法を提供する。該方法は通常、Syk依存性受容体またはSyk依存性受容体を発現する細胞と、該シグナル伝達カスケードを調節または阻害するのに有効な、主題の化合物の一定量とを接触させることを含む。また、該方法を用いて、特定のSyk依存性シグナル伝達カスケードの活性化によって誘発される下流プロセスまたは細胞応答を調節または阻害することができる。該方法は、Syk依存性シグナル伝達カスケードの活性化によって特徴づけられる疾患、Syk依存性シグナル伝達カスケードの活性化に起因する疾患、またはSyk依存性シグナル伝達カスケードの活性化に付随する疾患の処置もしくは予防に向けた治療的なアプローチとして、インビトロ状況下で、もしくはインビボ状況下で行われ得る。
【0050】
Sykは、肥満細胞および好塩基球細胞における脱顆粒プロセスを介したアトピー反応および/またはI型過敏症反応の前もって形成されたメディエーター(例えば、ヒスタミン、トリプターゼなどのプロテアーゼ等)の放出に関与している。そのようなアトピー反応またはI型過敏症反応としては、環境および他のアレルゲン(例えば花粉、昆虫および/または動物毒、食品、薬物、コントラスト色素等)に対するアナフィラキシー反応、アナフィラキシー様反応、枯草熱、アレルギー結膜炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性喘息、アトピー性皮膚炎、湿疹、じんま疹、粘膜障害、組織障害、および特定の胃腸障害が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0051】
脱顆粒を介した、前もって形成されたメディエーターの即時放出は、種々の他の化学メディエーターの放出および/または合成を伴い、血小板活性化因子(PAF)、プロスタグランジンおよびロイコトリエン(例えば、LTC4)ならびにTNF−α、IL−4、IL−5、IL−6、IL−13等のサイトカインの新規の合成および放出が含まれるがこれらに限定されるものではない。これらの、「後期」メディエーターは、上に列挙したアトピー反応およびI型過敏症反応の慢性症状の原因であり得、および加えて以下を含むがこれらに限定されない炎症および炎症状態の化学メディエーターである:骨関節炎、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、特発性炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、直腸痙攣、軽度の瘢痕、強皮症、増大した線維症、ケロイド、術後瘢痕、肺線維症、血管攣縮、片頭痛、再灌流傷害、心筋梗塞後症候群、および合併乾燥症または乾燥症候群。これらの疾患のすべては、本明細書に記述する方法によって処置、または予防され得る。
【0052】
主題の方法によって処置または予防されうるさらなる疾患は、好塩基球細胞および/または肥満細胞の病理学に関連した疾患を含む。そのような疾患の例としては、強皮症などの皮膚疾患、心筋梗塞後疾患などの心臓病、肺筋肉の変化またはリモデリングおよび慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺疾患、ならびに炎症性腸症候群(痙攣性直腸)などの腸の疾患が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0053】
主題の化合物を用いて処置され得る特定の炎症性疾患または障害としては、喘息、COPD、肺炎症、結核などの慢性肉芽腫症、ハンセン病、サルコイドーシス、および珪肺症、腎炎、アミロイドーシス、関節リウマチ、強直性脊椎炎、慢性気管支炎、強皮症、狼瘡、多発性筋炎、虫垂炎、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬、骨盤内炎症性疾患、過敏性腸症候群、眼窩の炎症性疾患、血栓性疾患、ならびにアトピー性皮膚炎と接触性皮膚炎を含む、ツタウルシ、花粉、昆虫刺傷および特定の食品などの環境刺激に対する不適切なアレルギー応答が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0054】
代表的な化合物は、肥満細胞などの免疫細胞の脱顆粒をもたらすFcεRIおよび/またはFcγRのシグナルカスケードを阻害するので、そのような化合物を用いて、アテローム性動脈硬化および付随する症状の発症と進行を阻害することができる。例えば、IgE受容体シグナル伝達経路が活性化すると、細胞の脱顆粒および結果として生じる放出および/またはヒスタミン、プロテアーゼ(例えば、トリプターゼおよびキマーゼ)を含む化学メディエーター、ロイコトリエン(例えばLTC4)、血小板活性化因子(PAP)およびプロスタグランジン(例えばPGD2)などの脂質メディエーター、TNF−α、IL−4、IL−13,IL−5、IL−6、IL−8、GMCSF、VEGFおよびTGF−βを含む一連のサイトカインの宿主の合成をもたらす。肥満細胞からのこれらのメディエーターの放出および/または合成は、細胞外基質の分解、脈管構造における脂肪線条の沈着、ならびに既存の動脈硬化プラークの破裂をもたらし得る。したがって、本開示の化合物を用いることで肥満細胞脱顆粒を阻害して、アテローム性動脈硬化を処置することができる。
【0055】
下述のように、主題の化合物は、独立して、または他の抗炎症性組成物との併用でのいずれかで用いることができる。
【0056】
自己免疫疾患
本開示は、その塩または溶媒和化合物を含む主題の化合物の有効量を投与することによって対象における自己免疫疾患を処置する方法を提供する。
【0057】
また、主題の化合物を用いて、自己免疫疾患および/またはそのような疾患の症状を処置または予防することができる。主題の化合物を用いて処置または予防されうる自己免疫疾患には、非アナフィラキシー過敏症反応(II型、III型および/またはIV型の過敏症反応)に一般に関連する疾患ならびに/または単球細胞においてFcγRシグナルカスケードの活性化によって少なくとも一部は媒介される疾患が含まれる。そのような自己免疫疾患には、単一臓器型または単一細胞型の自己免疫障害と呼ばれることが多い自己免疫疾患、および全身性の自己免疫障害に関与すると呼ばれることが多い自己免疫疾患がある。単一臓器型または単一細胞型の自己免疫障害と呼ばれることが多い疾患の非限定例としては、以下が挙げられる:橋本病、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血の自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性精巣炎、グッドパスチャー病、自己免疫性血小板減少症、交感性眼炎、重症筋無力症、グレーブス病、原発性胆汁性肝硬変症、慢性活動性肝炎、潰瘍性大腸炎および膜性糸球体症。全身性の自己免疫障害に関与すると呼ばれることが多い疾患の非限定例としては、以下が挙げられる:全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン症候群、ライター症候群、多発性筋炎・皮膚筋炎、全身性硬化症、結節性多発性動脈炎、多発性硬化症および水疱性類天疱瘡。
【0058】
処置の特定例としては、関節リウマチは、一般的に多関節様式(多発性関節炎)で関節に影響を及ぼす自己免疫疾患であると考えられる。該疾患は、リンパ球が高密度に込み入っている状態の慢性的に炎症を起こした滑膜によって特徴づけられる。自己免疫反応に起因する慢性的な炎症状態は、関節面の浸食および破壊をもたらし、それによって関節可動域を損ない、次いで変形が起こり得る。主題の化合物を用いて、関節リウマチのこれらの症状のいずれか1つ、いくつか、もしくはすべてを処置、または回復させ得る。
【0059】
主題の化合物は、下述のように、独立して、または他の抗炎症組成物との併用でのいずれかで用いることができる。
【0060】
細胞増殖障害
Sykが腫瘍抑制因子として作用し得ることを当技術は示唆しているが、本開示は、Sykがその推測される役割に反して機能するという徴候に一部は基づいている。例えば、腫瘍細胞におけるSykキナーゼの強制発現は、腫瘍細胞の形質転換表現型を逆転させるようには見えない。反対に、Sykは細胞増殖を促進するおよび/または維持する発癌能力において作用することが本明細書で示唆される。Sykの役割についてのこの観点に基づいて、本開示は、その塩または溶媒和化合物を含む主題の化合物の有効量を投与することによって、対象における細胞増殖障害を処置する方法を提供する。
【0061】
通常、本明細書に開示する主題の化合物を用いて処置可能な細胞増殖障害は、異常な細胞増殖によって特徴づけられるいずれの障害にも関する。これらは、良性または悪性の、転移性または非転移性の種々の腫瘍および癌を含む。組織侵襲性または転移性などの癌の特定の性質は、本明細書に記述する方法を用いることで標的とすることができる。細胞増殖障害には、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、胃腸癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、肺扁平上皮癌および腺癌を含むがこれらに限定されない種々の癌が含まれる。
【0062】
特定の例では、処置される細胞増殖障害は造血器腫瘍であり、これは造血系の細胞の異常な増殖である。
【0063】
特定の例では、造血器腫瘍は、異常細胞がリンパ球系列の細胞に由来し、および/または該系列の特徴的な表現型を示す、リンパ系腫瘍である。リンパ系腫瘍は、B細胞腫瘍、T細胞腫瘍およびNK細胞腫瘍、ならびにホジキンリンパ腫に細分化されうる。B細胞腫瘍は、前駆B細胞腫瘍および成熟/末梢B細胞腫瘍にさらに細分化されうる。特定のB細胞腫瘍は、前駆Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫(前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病)であるが、一方特定の成熟/末梢B細胞腫瘍は、B細胞慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、脾性辺縁帯B細胞リンパ腫、有毛様細胞白血病、形質細胞性骨髄腫/形質細胞腫、MALT型の節外性辺縁帯B細胞リンパ腫、節性辺縁帯B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性大B細胞リンパ腫、縦隔大B細胞リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、およびバーキットリンパ腫/バーキット細胞白血病である。T細胞腫瘍およびNK細胞腫瘍は、前駆T細胞腫瘍および成熟(末梢)T細胞腫瘍にさらに細分化させることができる。特定の前駆T細胞腫瘍は、前駆Tリンパ芽球性リンパ腫/白血病(前駆T細胞急性リンパ芽球性白血病)であり、一方特定の成熟(末梢)T細胞腫瘍は、T細胞前リンパ球性白血病、T細胞顆粒リンパ球性白血病、侵攻性NK細胞白血病、成人T細胞リンパ腫/白血病(HTLV−1)、節外性NK/T細胞リンパ腫,鼻型、腸症型T細胞リンパ腫、肝脾γ-δT細胞リンパ腫、皮下脂肪組織炎様T細胞リンパ腫、菌状息肉腫/セザリー症候群、未分化大細胞リンパ腫,T/ヌル細胞,皮膚原発型、末梢T細胞リンパ腫,それ以外は特徴づけられない、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫,T/ヌル細胞,全身原発型である。リンパ系腫瘍の別のメンバーは、ホジキンリンパ腫であり、ホジキン病とも称される。このクラスの特定の診断は、とりわけ、結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫と、ホジキン病の種々の古典的型とを含み、そのうちの特定のメンバーは、結節硬化型ホジキンリンパ腫(第1段階および第2段階)、リンパ球豊富型古典的ホジキンリンパ腫、混合細胞型ホジキンリンパ腫、およびリンパ球減少型ホジキンリンパ腫である。
【0064】
特定の例では、造血器腫瘍は骨髄腫瘍である。このグループには、骨髄細胞系統の細胞の特徴的な表現型を含むか、または示す細胞増殖障害の大きいクラスが含まれる。骨髄腫瘍は、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群、および急性骨髄性白血病に細分化されうる。特定の骨髄増殖性疾患としては、慢性骨髄性白血病(例えば、フィラデルフィア染色体陽性(t(9;22)(qq34;q11))、慢性好中球性白血病、慢性好酸球性白血病、好酸球増加症候群、慢性特発性骨髄線維症、真性多血症、および本態性血小板血症が挙げられる。特定の骨髄異形成/骨髄増殖性疾患としては、慢性骨髄単球性白血病、非定型慢性骨髄性白血病、および若年性骨髄単球性白血病が挙げられる。特定の骨髄異形成症候群としては、環状鉄芽球を伴う、および環状鉄芽球を伴わない不応性貧血、多系列の異形成を伴う不応性血球減少症(骨髄異形成症候群)、過剰芽球を伴う不応性貧血(骨髄異形成症候群)、5q−症候群、およびt(9;12)(q22;p12)(TEL−Syk融合)を伴う骨髄異形成症候群が挙げられる。
【0065】
特定の例では、該組成物を用いて、急性骨髄性白血病(AML)を処置することができる。AMLは、それ自体の障害の細分化を有する骨髄腫瘍の大きいクラスを表す。これらの細分化には、とりわけ、再現性のある染色体転座を伴うAML、多系列の異形成を伴うAML、および別に分類されてない他のAMLが含まれる。再現性のある染色体転座を伴う特定のAMLとしては、とりわけ、t(8;21)(q22;q22)を伴うAML、AML1(CBF−α)/ETO、急性前骨髄球性白血病(t(15;17)(q22;q11−12)を伴うAMLおよびバリアント、PML/RAR−α)、異常骨髄中好酸球を伴うAML(inv(16)(p13q22)またはt(16;16)(p13;q11)、CBFb/MYH11X)、および11q23(MLL)異常を伴うAMLが挙げられる。多系列の異形成を伴う特定のAMLには、以前の骨髄異形成症候群に関連する、または関連しないものがある。定義可能ないずれのグループにも分類されない他の急性骨髄性白血病としては、最小限に区別されるAML、未分化型AML、分化型AML、急性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、急性赤白血病、急性巨核芽球性白血病、急性好塩基球性白血病および骨髄線維症を伴う急性汎骨髄症が挙げられる。
【0066】
特定の例において、細胞増殖障害はウイルス媒介腫瘍を含む。これらは、正常な細胞を腫瘍細胞に形質転換する能力を有する腫瘍ウイルスによる細胞の感染に起因し得る。
【0067】
特定の例では、ウイルス媒介腫瘍は、Syk活性を調節することができる免疫受容体活性化チロシンモチーフ(ITAM)をコードするいずれのウイルスとも関連し得る。このモチーフは、非受容体チロシンキナーゼと相互作用して、活性化することによって機能する保存アミノ酸配列のモチーフを参照することができる。ITAMモチーフは、とりわけ、T細胞受容体のεサブユニットであるFcεRIのp鎖とy鎖、およびB細胞受容体の免疫グロブリンβ(Igβ)とIgαに見出される。標準配列のモチーフは、典型的にはYxx(L/I)x6−8Yxx(L/I)であり、ここでxは任意のアミノ酸を表す。
【0068】
したがって、特定の例では、ウイルス媒介腫瘍は、ヘルペスウイルスと関連するカポジ肉腫(KS)、すなわちカポジ肉腫に関与するリンパ球向性ウイルスに関連し得る。KS関連ヘルペスウイルスは、免疫受容体活性化チロシンモチーフ(ITAM)様配列を有する、KIと称される膜貫通タンパク質をコードする。
【0069】
特定の例では、ウイルス媒介腫瘍は、エプスタイン・バー(Epstein Barr)ウイルス(EBV)と関連し得る。エプスタイン・バーウイルスは、ヘルペスウイルスファミリーのメンバーであり、一次感染の後に、中咽頭の上皮細胞中で複製して、再循環Bリンパ球に感染する。EBV感染は、バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫、および成人T細胞白血病を伴い得る。
【0070】
特定の例では、ウイルス媒介腫瘍は、ヒトT細胞リンパ球向性ウイルス(HTLV−1ウイルス)、HIV−1と同じウイルスのクラスのレトロウイルスと関連し得る。
【0071】
特定の例では、ウイルス媒介腫瘍は、乳癌ウイルス(MTV)と関連し得る。ITAM配列は、マウス乳癌ウイルス(MMTV)のEnv遺伝子内で見出されることがあり、すなわちマウスにおける乳癌の病原体として同定されたB型レトロウイルスである。マウス乳癌ウイルス様配列は、乳癌およびT細胞リンパ腫などのヒト癌に存在し得る。
【0072】
ウイルス媒介腫瘍を処置するための主題の組成物の使用は、上で特定されたウイルスに関連した腫瘍に限定されないことを理解すべきである。記述したように、ITAM配列を含むか、含まないかにかかわらず、Sykがその発癌機構の一部として活性化される発癌ウイルスに関連する腫瘍は、主題の化合物を用いて標的とすることができる。
【0073】
特定の例では、主題の化合物は、腫瘍転移の処置のために使用することができる。転移は、悪性腫瘍細胞の特徴であり、それによって腫瘍細胞は、その出現部位から離れ、次いで拡散して他の部位でコロニーを作る。これらの続発性腫瘍は、腫瘍細胞が生じる細胞とは無関連の組織中で形成され得る。
【0074】
転移し得る種々の腫瘍型は、主題の化合物で処置することができる。そのような腫瘍には、乳癌、卵巣癌、腎臓癌、胃腸癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、肺扁平上皮癌、および腺癌が含まれるがこれらに限定されるものではない。確立した腫瘍の転移を減弱させる治療上の処置は、転移の診断後に続くことができる。転移の診断がなされなかった場合、主題の化合物を予防的に投与して、転移の確率を低下させることができる。
【0075】
当技術分野で認識されるように、主題の化合物は、独立して、または他の化学療法組成物との併用でのいずれかで用いることができる。
【0076】
変性骨障害
本開示は、その塩または溶媒和化合物を含む主題の化合物の有効量を投与することによって対象における変性骨障害を処置する方法を提供する。
【0077】
主題の化合物は、変性骨障害を処置するために、ならびに骨折のリスクの増加をもたらし得る骨量減少を防止するための予防的アプローチで使用することができる。これらの処置は、破骨細胞形成および破骨細胞活性を減弱させるか、または阻害するためにSyk阻害剤の使用に基づき、それによって破骨細胞の異常な活性と関連した過剰な骨量減少を低下させるか、または阻害する。加えて、不適当なリモデリングによって骨完全性は損なわれるが、著しい骨量減少をもたらすことはない変性骨障害において、骨吸収を抑制することで骨量が増加すると、骨の強度が十分に増加し、骨折リスクを低下させることができる。処置ならびに予防のために、主題の化合物は、独立して、または骨リモデリングの他の修飾薬(すなわち、再吸収抑制剤および骨同化剤)との併用で用いることができる。
【0078】
特定の障害の診断は、該障害を診断するために当業者が用いる典型的な臨床症状に基づいて行うことができる。本明細書でさらに考察されるように、疾患の生化学マーカーおよび分子マーカーの存在などの他の診断基準は、独立して、または臨床症状の検査への補足として使用することができる。標準的診断基準は、種々の参考文献で見出されうるものであり、限定ではなく一例として、World Health Organization's International Classification of Diseases,第10改訂(lCD−i0);Resnick,D., Diagnosis of Bone and Joint Disorders,第4編,W.B. Saunders Company(2002);およびAACE Medical Guidelines for Clinical Practice for the Prevention and Treatment of Postmenopausal Osteoporosis:2001年版、2003年選定最新版が挙げられる。
【0079】
特定の例では、主題の化合物を用いて、他のいかなる根底にある疾患または疾病にも関係のない骨量の損失である、原発性骨粗鬆症を処置することができる。原発性骨粗鬆症には一般型がある。高代謝回転または閉経後骨粗鬆症とも呼ばれるI型は、閉経後期間に卵巣によって分泌されるホルモンレベルの減少と相関している。低代謝回転または老人性骨粗鬆症とも呼ばれるII型は、骨吸収および骨形成のプロセスが調整されず、その結果骨吸収の正味過剰量が骨形成を超えるときに起こり得る。
【0080】
原発性骨粗鬆症の他の型は、特発性骨粗鬆症があり、骨量減少の特定できる原因がない骨粗鬆症の状態である。特発性骨粗鬆症は、小児および成人が発症し得る。若年性骨粗鬆症は、約8歳から約14歳の年齢の小児に起こる骨粗鬆症である。
【0081】
特定の例では、主題の化合物を用いて、損なわれた腎機能に起因する骨の変性である、骨形成異常症を処置することができる。骨形成異常症の臨床症状は、骨粗鬆症、骨軟化症、線維性骨炎、骨硬化症、骨軟化症および続発性副甲状腺機能亢進症の形であり得る。
【0082】
特定の例では、主題の化合物を用いて、ページェット病(別名変形性骨炎)を処置することができる。
【0083】
特定の例では、主題の化合物を用いて、歯周疾患を処置することができる。
【0084】
特定の例では、主題の化合物を用いて、骨変性が根底にある病状または疾患の結果である、続発性状態に起因する変性骨障害を処置することができる。このように、主題の化合物を続発性状態の患者に投与し、該続発性状態と関連する変性骨障害を処置または予防することができる。
【0085】
特定の続発性状態は内分泌疾患であり、これは異常なホルモン分泌によって特徴づけられる状態である。異常なホルモン分泌は、ホルモンレベルの増加か減少のいずれかであり得る。種々のホルモンは、骨代謝に影響を及ぼすことがあり、エストロゲン、テストステロン、成長ホルモン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモン関連タンパク質、グルココルチコイド、およびカルシトリオールを含むがこれらに限定されない。内分泌障害の種々の型は、骨量の低下および対応する骨変性と関連する。特定の例では、主題の化合物を用いて、副腎皮質ホルモン過剰症または副腎によるグルココルチコイド産生の異常な増加(例えば、クッシング症候群)に起因する骨変性を処置することができる。特定の例では、主題の化合物を用いて、性腺機能低下症に起因する骨変性を処置することができる。特定の例では、主題の化合物を用いて処置可能な骨変性は、手術(すなわち、卵巣切除または卵巣摘出)などによる性腺の一方または両方の破壊と関連した骨量減少であり得る。特定の例では、主題の化合物を用いて、副甲状腺機能亢進症に起因する骨変性を処置することができる。
【0086】
特定の例では、該方法は、遺伝性の遺伝子疾患と関連する骨変性を処置するために、主題の化合物の使用に関し得る。このように、主題の化合物を遺伝性の遺伝子疾患の対象に投与することで、該遺伝性遺伝子疾患に関連する変性骨障害を処置または予防することができる。遺伝性の遺伝子疾患は、とりわけ、単一遺伝子継承、多因子継承または多遺伝子継承、染色体異常、および親ゲノムインプリンティング異常に起因し得る。骨代謝に影響を及ぼす種々の遺伝型遺伝子異常は、骨形成不全症、ホモシスチン尿症、性腺形成不全、および低ホスファターゼ血症を含み特定されている。
【0087】
Syk阻害剤の使用は、本明細書に記述する変性骨障害に限定されることなく、骨吸収の正味過剰量が骨形成を超えることによって特徴づけられる変性骨障害に適用され得ることを理解すべきである。この状態は、破骨細胞形成の増加、破骨細胞活性化の増加、骨芽細胞形成の減少、骨芽細胞活性の減少、または破骨細胞形成の増加と骨芽細胞形成の減少との組み合わせに起因し得る。このように、本明細書の種々の方法は、骨形成を超える骨吸収の不均衡による変性骨障害の処置を広く包含する。
【0088】
当技術分野で認識されるように、主題の化合物は、独立して、または他の骨修飾薬との併用のいずれかで用いることができる。変性骨障害の処置に加えて、主題の化合物を予防として、独立して、または骨修飾薬との併用のいずれかで用いて、骨量減少のリスクおよび高い骨折リスクがある対象において骨量減少を予防することができる。
【0089】
併用療法
主題の化合物は、抗炎症薬に加えて、個々に、または適合する組み合わせとして投与され得る。異なる組み合わせでの主題の化合物を用いて、特定の炎症状態のための生物学的利用能、作用の持続、および有効性を調整することができる。本明細書での目的のための適切な組み合わせを同定することは、当業者の技術の範囲内である。
【0090】
ステロイド系抗炎症薬
炎症性疾患を処置するために、主題の化合物は、抗炎症薬などの付加的な化学療法薬との併用で投与することができる。特定の例では、本開示された化合物との併用での使用の抗炎症薬は、ステロイド系抗炎症薬である。本明細書で用いる場合、「ステロイド系抗炎症薬」または「抗炎症ステロイド」とは、ステロイド核を含む構造に基づいた化合物または組成物であり、単独でまたは他の薬剤との併用のいずれかで抗炎症活性を有する。ビタミンD化合物を除いて、ステロイド化合物は、ステランまたはゴナンとも呼ばれる、飽和四環系の炭化水素、1,2−シクロペンタノペルヒドロフェナントレンに基づくステロイド核に由来する。ステロイド化合物には、天然に存在するステロイド化合物および合成的に生成されたステロイド化合物の両方が含まれる。ステロイド化合物の異なるグループには、とりわけ、副腎皮質ステロイド、エストロゲン/プロゲスチン、およびアンドロゲンがある。
【0091】
特定の例では、ステロイド系抗炎症薬は、副腎皮質から放出されるステロイド化合物と呼ばれる副腎皮質ステロイドである。これらのステロイド化合物には、グルココルチコステロイドおよびミネラロコルチコステロイドのグループが含まれる。本明細書で用いる場合、副腎皮質ステロイドも天然に存在するステロイドによって示される生物学的特性を示す種々の合成類似体を含む。特定の構造的特徴は、すべてトランスステロイド骨格、Δ−3−ケトの存在、11β−OH、17β−OH、および9α−、6α−、16α−位での置換などのステロイドの抗炎症活性を、F>Cl>Br>Iで増強し得る。
【0092】
特定の例では、抗炎症ステロイド薬は、グルココルチコステロイド(同意語として「グルココルチコイド」)である。種々の抗炎症グルココルチコイドを使用することができる。限定ではなく一例として、これらには、21−アセトキシプレグネノロン、アルクロメタゾン、アルゲストン、アムシノニド、ベクロメタゾン、ブデソニド、クロロプレドニゾン、シクレソニド、クロベタゾール、クロベタゾン、クロコルトロン、クロプレドノール、コルチコステロン、コーチゾン、コルチバゾール、デフラザコート、デソニド、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、ジフロラゾン、ジフルコルトロン、ジフルプレドナート、エノキソロン、フルアザコート、フルランドレノロンアセトニド、フルクロロニド、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルオコルチンブチル、フルオコルトロン、フルオロメトロン、フルペロロンアセテート、フルプレドニデンアセテート、フルプレドニゾロン、フルランドレノリド、プロピオン酸フルチカゾン、ホルモコータル、ハルシノニド、ハロベタゾールプロピオナート、ハロメタゾン、ハロプレドンアセテート、ハイドロコルタメート、ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン17−ブチラート、ヒドロコルチゾン17−バレラート、エタボン酸ロテプレドノール、マジプレドノン、メドリゾン、メプレドニゾン(mepredinsone)、メチルプレドニゾロン、モメタソンフロアート、パラメタゾン、プレドニカルベート、プレドニゾロン、プレドニゾロン21−ジメチルアミノアセテート、プレドニゾロンリン酸ナトリウム、プレドニゾン、プレドニバール、プレドニリデン、リメキソロン、チキソコルトール、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンベネトニド、およびトリアムシノロンヘキサセトニドなどの天然ならびに合成のステロイド化合物が挙げられる。他のグルココルチコステロイドは、当業者にとって明らかであろう。
【0093】
特定の例では、抗炎症ステロイドは、ミネラロコルチコステロイド(同意語として、「ミネラロコルチコイド」)である。種々のミネラロコルチコイドには、とりわけ、アルドステロン、デオキシコルチコステロン、デオキシコルチコステロンアセテート、およびフルドロコルチゾンが含まれる。しかしながら、グルココルチコステロイドまたはミネラロコルチコステロイドの特徴づけは、説明目的のために使われ、かつ排他的であり得ないことを理解すべきである。グルココルチコイドは、一部のミネラロコルチコステロイド活性を示すが、一方一部のミネラロコルチコイドは一部のグルココルチコイド活性を示す。本明細書での目的で、抗炎症特性を有するミネラロコルチコイドが使用され得る。通常、一部のグルココルチコステロイド活性を有するミネラロコルチコステロイドは、抗炎症効果を有するようにみえる。特定の抗炎症性ミネラロコルチコイドは、フルドロコルチゾンである。
【0094】
特定の例では、抗炎症ステロイド薬は異なる生物学的作用半減期を有し、短時間作用型、中間時間作用型、または長時間作用型のステロイド化合物に分類することができる。特定の短時間作用型ステロイド化合物には、限定ではなく一例として、コルチゾールおよびコルチゾンが含まれる。特定の中間時間作用型ステロイド化合物には、限定ではなく一例として、プレドニゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、およびメチルプレドニゾロンが含まれる。特定の長時間作用型ステロイド化合物には、限定ではなく一例として、デキサメサゾン、ベタメタゾン、およびブデソニドが含まれる。
【0095】
特定の例では、抗炎症ステロイドはニトロステロイド化合物である。本明細書で用いる「ニトロステロイド」化合物は、NO放出活性(ニトロステロール)を有するステロイドであり、プレドニゾロン、フルニソリドおよびヒドロコルチゾンのNO放出形状が含まれる。
【0096】
特定の例では、ステロイド系抗炎症薬は吸入されるステロイド薬であり得、経鼻投与および/または肺を介する吸収にとって有用である。これらの形状は、喘息および吸入アレルゲンに対する反応を処置するための効果的な薬剤である。吸入剤として調剤された種々の形状のステロイド系抗炎症化合物には、とりわけ、ベクロメタゾン、ブデソニド、デキサメサゾン、フルニソリド、トリアムシノロンアセトニド、および上記のアンテドラッグが含まれる。
【0097】
特定の例では、ステロイド系抗炎症薬には、エストロゲンまたは合成エストロゲン類似体がある。使用され得る種々のエストロゲンおよびエストロゲン類似体には、限定ではなく一例として、エストロゲン、17β−エストラジオール、エストロゲンコンジュゲート、メドロキシプロゲステロン、2−メトキシエストラジオール(エストロゲン代謝物)、ジエチルスチルベストロール、レスベラトロール、フィトエストロゲン(例えばゲニステイン)、およびタモキシフェンが挙げられる。
【0098】
特定の例では、ステロイド系抗炎症化合物は、ビタミンDまたはその類似体である。この群の種々の抗炎症薬は、限定ではなく一例として、7−デヒドロコレステロール、コレカルシフェロール、エルゴステロール、1,25−ジヒドロキシビタミンD3、および22−エン−25−オキサ−ビタミンDが挙げられる。他のビタミンD類似体は、米国特許第6924400号;同第6858595号;同第6689922号:および同第6573256号に記述される。
【0099】
非ステロイド系抗炎症薬
特定の例では、抗炎症薬は非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)である。このクラスの薬剤は、異なる構造を有するが、共通の治療標的を介して作用する化合物の混成群を含む。NSAIDは、それらの化学構造および生物活性に基づいて分類される。特定の例では、主題の化合物に有用なNSAIDは、非選択的COX−2阻害剤であり、これらはCOX−1とCOX−2の両イソ型の活性を阻害する。特定の非選択的COX阻害剤は、サリチル酸とその誘導体である。このクラスの特定の化合物には、限定ではなく一例として、アセチルサリチル酸、サリチル酸ナトリウム、コリンマグネシウムトリサリチル酸、サルサレート、ジフルニサル、スルファサラジン、オルサラジン、およびメサラミンが挙げられる。
【0100】
特定の例では、非選択的COX阻害剤の1つのクラスは、インドールおよびインデン酢酸である。このクラスの特定の化合物には、とりわけ、インドメタシン、アセメタシン、アルクロフェナック、クリダナク、ジクロフェナク、フェンクロフェナク、フェンクロジン酸、フェンチアザク、フロフェナク、イブフェナク、イソキセパック、オキシピナク、スリンダク、チオピナク、トルメチン、ジドメタシン、およびゾメピラックを含む。
【0101】
特定の例では、非選択的COX阻害剤の1つのクラスは、ヘテロアリール酢酸である。このクラスの特定の化合物には、とりわけ、トルメチン、ジクロフェナク、およびケトロラクが含まれる。
【0102】
特定の例では、非選択的COX阻害剤の1つのクラスは、アリールプロピオン酸またはプロピオン酸誘導体(プロフェン)である。このクラスの特定の化合物には、とりわけ、アルミノプロフェン、ベノキサプロフェン、ブクロキシ酸、カルプロフェン、フェンブフェン、フェノプロフェン、フルプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、インドプロフェン、ケトプロフェン、ミロプロフェン、ナプロキセン、オキサプロジン、ピルプロフェン、プラノプロフェン、スプロフェン、チアプロフェン酸、およびチオキサプロフェンが挙げられる。
【0103】
特定の例では、非選択的COX阻害剤の1つのクラスは、アントラニル酸(フェナム酸)である。このクラスの特定の化合物には、とりわけ、フルフェナム酸、メクロフェナム酸、メフェナム酸、ニフルム酸、およびトルフェナム酸が挙げられる。
【0104】
特定の例では、非選択的COX阻害剤の1つのクラスは、エノール酸(例えばオキシカム)である。このクラスの特定の化合物には、とりわけ、ピロキシカムおよびメロキシカム、イソオキシカム、およびスドキシカムおよびテノキシカムが含まれる。
【0105】
特定の例では、非選択的COX阻害剤の1つのクラスは、フェニルピラゾロンである。このクラスの特定の化合物には、とりわけ、フェニルブタゾン、アパゾン、ベンズピペリロン(bezpiperylon)、フェプラゾン、モフェブタゾン、オキシフェンブタゾンが含まれる。
【0106】
特定の例において、非選択的COX阻害剤の1つのクラスは、ビフェニルカルボン酸誘導体である。このクラスの特定の化合物には、とりわけ、ジフルニサルおよびフルフェニサルが含まれる。
【0107】
特定の例において、NSAIDは選択的COX−2阻害剤である。本明細書で用いる場合、選択的COX−2阻害剤は、COX−1アイソザイムの阻害と比較すると、好ましくはCOX−2アイソザイムの活性を阻害する。選択的COX−2阻害剤は、約10の、約20の、約50の、約100の、約200の、約500の、および約1000以上の選択性(すなわち、COX−2/COX−1の阻害)を有することができる。選択性は、COX活性を測定するのに典型的に用いられるアッセイに基づく。
【0108】
特定の例では、選択的COX−2阻害剤の1つのクラスは、ジアリール置換フラノンである。このクラスの特定の化合物には、とりわけ、商品名Vioxx(商標)のもとで入手可能なロフェコキシブ(refocoxib)が含まれる。
【0109】
特定の例では、選択的COX−2阻害剤の1つのクラスは、ジアリール置換ピラゾールである。このクラスの特定の化合物には、とりわけ、商品名Celebrex(商標)のもとで入手可能なセレコキシブが含まれる。
【0110】
特定の例では、選択的COX−2阻害剤の1つのクラスは、インドール酢酸である。このクラスの特定の化合物には、とりわけ、商品名Lodine(商標)のもとで入手可能なエトドラクが含まれる。
【0111】
特定の例では、選択的COX−2阻害剤の1つのクラスは、スルホンアニリドである。このクラスの特定の化合物には、とりわけ、ニメスリドが含まれる。
【0112】
リポキシゲナーゼおよび5−リポキシゲナーゼ活性化タンパク質(FLAP)アンタゴニスト
特定の例では、主題の化合物と共に使用され得る非ステロイド系抗炎症薬は、リポキシゲナーゼ、または5−リポキシゲナーゼ活性化タンパク質(FLAP)アンタゴニストである。
【0113】
特定の例では、リポキシゲナーゼの種々のアンタゴニストを用いて、ロイコトリエンによって媒介される炎症反応を寛解させ得る。リポキシゲナーゼ阻害剤のクラスには、とりわけ、N−ヒドロキシウレア誘導体、レドックス阻害剤、および非レドックス阻害剤が含まれる。特定のN−ヒドロキシウレア由来阻害剤には、限定ではなく一例として、1−(1−ベンゾチオフェン−2−イルエチル)−1−ヒドロキシ−ウレア(ロイトロール),1−[4−[5−(4−フルオロフェノキシ)−2−フリル]ブト−3−イン−2−イル]−1−ヒドロキシ−ウレア;1−[(2R)−4−[5−[(4−フルオロフェニル)メチル]チオフェン−2−イル]ブト−3−イン−2−イル]−1−ヒドロキシ−ウレア(アトレロイトン);3−(1−ベンゾチオフェン−2−イルエチル)−1−ヒドロキシ−ウレアが含まれる。特定のレドックス阻害剤には、限定ではなく一例として、2−(12−ヒドロキシドデカ−5,10−ジイニル)−3,5,6−トリメチル−シクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジオン(ドセベノン)が含まれる。特定の非レドックス阻害剤には、限定ではなく一例として、6−[[3−フルオロ−5−(4−メトキシオキサン−4−イル)フェノキシ]メチル]−1−メチル−キノリン−2−オン(すなわち、ZD2138)が含まれる。
【0114】
特定の例では、FLAPアンタゴニストは、抗炎症薬として使用され得る。FLAPアンタゴニストには、とりわけ、インドール誘導体およびキノリン誘導体が含まれる。FLAP阻害活性を有する特定のインドール誘導体には、限定ではなく一例として、3−[3−ブチルスルファニル−1−[(4−クロロフェニル)メチル]−5−プロパン−2−イル−インドール−2−イル]−2−,2−ジメチル−プロパン酸(すなわち、MK−866)および3−[1−[(4−クロロフェニル)メチル]−5−(キノリン−2−イルメトキシ)−3−tert−ブチルスルファン−イル−インドール−2−イル]−2,2−ジメチル−プロパン酸(すなわち、MK0591またはキフラポン)が含まれる。特定のキノリン誘導体には、限定ではなく一例として、(2R)−2−シクロペンチル−2−[4−(キノリン−2−イルメトキシ)フェニル]酢酸(すなわち、BAY−X1005およびベリフラポン)を含む。
【0115】
抗ヒスタミン薬
特定の例では、主題の化合物は、通常H1受容体アンタゴニストである抗ヒスタミン剤と併用で使用され得る。特定のH1受容体アンタゴニストには、とりわけ、ドキセピン、カルビノキサミン、クレマスチン、ジフェニルヒドラミン、ジメンヒドリネート、ピリラミン、トリペレナミン、クロルフェニラミン、ブロモフェニラミン、ヒドロキシジン、シクリジン、メクリジン、プロメタジン、シプロヘプタジン、フェニンダミン、アクリバスチン、セチリジン、アゼラスチン、レボカバスチン、ロラタジン、フェキソフェナジン、ならびにその種々の塩、水和物、N−酸化物およびプロドラッグが含まれる。
【0116】
β−アゴニスト
特定の例では、主題の化合物は、β−アドレナリン受容体アゴニスト(同意語として、「β−アゴニスト」またはβ−アドレナリンアゴニスト」)と併用で用いられ、これらは、非選択的β−アドレナリンアゴニストならびにβ−選択的アドレナリンアゴニストを含む。通常、短時間作用型β−アゴニストおよび長時間作用型β−アドレナリンアゴニストの2種類のβ−アゴニストがある。
【0117】
特定の短時間作用型β−アドレナリンアゴニストには、限定ではなく一例として、アルブテロール(サルブタモール)、イソエタリン(isotharine)、フェノテロール、レバルブテロール、メタプロテレノール(オルシプレナリン)、プロカテロール、テルブタリン、およびピルブテロールが含まれる。特定の長時間作用型β−アドレナリンアゴニストには、限定ではなく一例として、キシナホ酸サルメテロール、ホルモテロール、およびビトルテロールが含まれる。特定の非選択的β−アゴニストには、限定ではなく一例として、イソプロテレノールおよびドブタミンが含まれる。
【0118】
代謝拮抗薬抗炎症薬
特定の例では、抗炎症薬は、炎症に関与する細胞の活性化および/または増殖を減弱または阻害する代謝拮抗薬である。代謝拮抗薬は細胞静止効果または細胞毒性効果を有することもあり、したがって通常、免疫抑制特徴を示し得る。
【0119】
種々の抗炎症性代謝拮抗薬は主題の化合物と併用で使用され得る。特定の例では、抗増殖剤はメトトレキセートである。
【0120】
特定の例では、抗増殖性代謝拮抗薬には、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ(IMPDH)の阻害剤、イノシン由来のグアノシン一リン酸(GMP)の合成のためにサルベージ経路で作用する酵素が含まれる。抗炎症薬として有用なIMPDH阻害剤には、とりわけ、ミコフェノール酸、ミコフェノール酸モフェチル、リバビリン、チアゾフリン、セレナゾフリン、ベンズアミドアデニンジヌクレオチド、およびベンズアミドリボシドが含まれる。
【0121】
他の代謝拮抗薬には、アザチオプリン、6−メルカプトプリン(6−MP)、レフルノミド、およびマロノニトリルアミドが含まれる。
【0122】
別の代謝拮抗薬は、メトトレキセート(アメトプテリンまたは(2S)−2−[(4−{[2,4−ジアミノ−7,8−ジヒドロプテリジン−6−イル)メチル](メチル)アミノ}フェニル)ホルムアミド]ペンタン二酸)である。
【0123】
抗TNF−α薬
上記のもの以外の抗炎症薬は、主題の化合物と併用で使用され得ることを理解すべきである。これらには、炎症反応を促進することに関与すると考えられる細胞因子に向けられる種々の薬剤が含まれる。特定の例では、抗炎症薬は、炎症疾患に関与する主要なサイトカインであるTNF−αの作用をブロックする薬剤である。特定の例では、抗TNFは、TNF−αの作用をブロックする抗体である。特定の抗TNF抗体は、商品名Remicade(登録商標)のもとで入手可能なインフリキシマブである。
【0124】
特定の例では、抗TNF−α薬は、TNF−αに結合して、細胞上に存在するTNF受容体とのその相互作用を阻止する受容体構築物である。TNF−α受容体に基づく特定の抗炎症薬は、商品名Enbrel(登録商標)で入手可能なエタネルセプトである。
【0125】
スタチン
特定の例では、主題の化合物は、スタチンと併用で使用される。スタチンは、コレステロールを低下させ、かつHMG−CoA還元酵素阻害剤として作用することができる薬物のクラスである。スタチンの例としては、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、およびシンバスタチンが挙げられる。特定のスタチンは、商品名Lipitor(商標)のもとで入手可能なアトルバスタチンである。別のスタチンは、商品名Zocor(登録商標)のもとで入手可能なシンバスタチンである。
【0126】
また、Syk阻害性2,4−ピリミジンジアミン化合物および降圧剤を、炎症障害を有する患者に投与すること、それによって該炎症障害を処置することを含む方法が提供される。この方法では、降圧剤は、利尿薬、アドレナリン遮断薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト、カルシウムチャネル遮断薬、直接血管拡張薬、および中性エンドペプチダーゼ阻害剤からなる群から選択されてもよい。利尿薬は、水およびナトリウムの減少を引き起こすか、またはナトリウム輸送をブロックして、血圧の低下をもたらす。アドレナリン遮断薬には、血圧を上げることによってストレスに対応する交感神経系の作用を遮断するα−遮断薬、β−遮断薬、およびα/β遮断薬ラベタロールが含まれる。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤は、アンジオテンシン−レニン−アルドステロン系の作用を遮断することによって動脈を拡張することで血圧を下げる。アンジオテンシンII受容体アンタゴニストは、アンジオテンシンII受容体をブロックすることによって、血圧を下げる。カルシウムチャネル遮断薬および直接血管拡張薬は、血管拡張を引き起こすことによって、血圧を下げる。中性エンドペプチダーゼ阻害剤は、血管を拡大する心房性ナトリウム利尿ペプチドをより高い濃度で産生させる。代表的な降圧剤は、米国特許出願公開第2006/0160834号および同第2007/0092888号に記述されており、以下でより詳細に考察する。
【0127】
一実施形態では、降圧剤は、ACE阻害剤であり得る。ACE阻害剤は、アンジオテンシンの環化をブロックすることで、ならびにブラジキニンを分解することで血管を弛緩させるのを助ける。これら双方とも血管収縮を引き起こす。ACE阻害薬には様々なクラスがある。非ペプチド阻害剤の特定の例は、酵素活性に必要とされる亜鉛および重金属イオンをキレート化し、それによって触媒的に不完全な酵素をつくる。阻害剤の第2のクラスは、内在性基質と同様にACEと相互作用するペプチドおよびペプチド模倣薬を含む。ACE阻害剤の例としては、当業者にとって既知の適切な投与量のベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリル、フォシノプリル、イミダプリル、リシノプリル(losinopril)、モエキシプリル、キナプリル、キナプリラート、ラミプリル、ペリンドプリル、ペリンドロプリル(perindropril)、キナプリル、スピラプリル、テモカプリル(tenocapril)、トランドラプリル、およびゾフェノプリル、ならびにその薬学的に許容される塩またはエステルが挙げられる。
【0128】
別の一実施形態では、降圧剤はアンジオテンシンII受容体アンタゴニストであり得る。そのような薬剤は、遊離アンジオテンシンIIに結合して、血管収縮を含む多くの下流の生理学的作用を導く生化学的シグナル経路を開始するアンジオテンシンII受容体(GPCRの一種)をブロックすることによって血管を弛緩させるのを助ける。カンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン(2−ブチル−4−クロロ−1−[p−(o−1H−テトラゾール−5−イルフェニル)ベンジル]イミダゾール−5−メタノール)、プラトサルタン、タソサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、およびEXP−3137、FI6828K、およびRNH6270、ならびにその薬学的に許容される塩またはエステルは、アンジオテンシンII受容体アンタゴニストの例である。
【0129】
別の一実施形態では、降圧剤はカルシウムチャネル遮断薬であり得る。Ca2+は、細胞内のメッセンジャーとして作用する。Ca2+結合タンパク質は、Ca2+濃度の上昇を感知して、筋収縮などの細胞プロセスを誘発する。カルシウムチャネル遮断薬は、CaV1チャネル、特に心臓および平滑筋内で高度に発現されるCaV1.2チャネルを標的にし得る。3つの最も広く用いられるカルシウムチャネル遮断薬のクラスは、フェニルアルキルアミン(PAA;例えば、ベラパミル)、ベンゾチアゼピン(例えば、ジルチアゼム)、およびジヒドロピリジン(DHP;例えば、ニフェジピンまたはアムロジピン)である。各薬物クラスは、遮断を媒介するαサブユニット上の異なる部位に結合する。カルシウムチャネル遮断薬の例には、アムロジピン、アラニジピン、アゼルニジピン、バルニジピン、ベニジピン、ベプリジル、シナルジピン、クレビジピン、ジルチアゼム、エホニジピン、フェロジピン、ガロパミル、イスラジピン、ラシジピン、レミルジピン、レルカニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、マニジピン、プラニジピン、およびベラパミル、ならびにその薬学的に許容される塩またはエステルが含まれる。
【0130】
別の実施例では、降圧剤はβ遮断薬である。心臓交感神経活性が増加した場合に、該薬剤は心臓上で交感神経作用を遮断して、心拍出量を減らし、動脈圧を下げる際に通常効果的である。加えて、これらの薬剤は、アドレナリン作動性神経が媒介する腎傍糸球体細胞からのレニンの放出をブロックする。薬物のこの群の例として、アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ベバントロール、ビソプロロール、ボピンドロール、カルテオロール(carteoiol)、カルベジロール、セリプロロール、エスモロール、インデノロール、メトプロロール、ナドロール、ネビボロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロパノロール、ソタロール、テルタトロール、チリソロール、およびチモロール、ならびにその薬学的に許容される塩またはエステルなどの化学物質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。プロプラノロール、オクスプレノロール、ピンドロール、ナドロール、チモロール、およびラベタロールを含む非選択的β−受容体遮断薬は、各々βおよびβの両アドレナリン受容体を拮抗する。メトプロロール、アテノロール、エスモロール、およびアセブトロールを含む選択的アンタゴニストの場合、各々はβアドレナリン受容体に対して極めて高い結合親和性を有する。選択的β受容体遮断薬は、通常、β−受容体拮抗作用が有害作用のリスク増加を伴う可能性のある患者の治療に適応される。かかる患者には、喘息もしくは糖尿病の患者、または末梢血管疾患もしくはレイノー病の患者が含まれる。
【0131】
別の実施形態では、降圧剤は、利尿薬、すなわち、患者においてナトリウム利尿および体液量減少に影響を及ぼす薬剤である。利尿降圧薬には、チアジド(例えば、ヒドロクロロチアジド、クロロチアジド、およびクロルタリドン)、メトラゾン、ループ利尿薬(例えば、フロセミド、ブメタニド、エタクリン酸、ピレタニド、およびトルセミド)、ならびに抗アルドステロン薬(例えば、スピロノラクトン、トリアムテレン、およびアミロライド)が含まれる。
【0132】
本開示の化合物との併用使用に適している他の降圧剤としては、レニン阻害剤(例えば、レニンの産生を遅くするアリスキレンおよびテクターナ)、α−遮断薬(例えば、ロフェキシジン、チアメニジン、モクソニジン、リルメニジン、およびグアナベンズなどのα2aアゴニスト、ならびにテラゾシン、ウラピジル、プラゾシン、ブナゾシン、トリマゾシン、ドキサゾシン、ナフトピジル、インドラミン、WHIP164、およびXEN010などのα1遮断薬、ならびにその薬学的に許容される塩またはエステル)、α−β遮断薬(例えば、ニプラジロール、アロチノロール、およびアモスラロール、ならびにその薬学的に許容される塩またはエステル)、中心作用薬(心拍数を上げ、血管を狭くするように脳が神経系にシグナル伝達するのを防ぐ)、血管拡張、例えば、ヒドララジン(アプレゾリン)、クロニジン(カタプレス)、ミノキシジル(ロニテン)、およびニコチニルアルコール(ロニアコール)、およびその薬学的に許容される塩またはエステル、ならびにエンドセリンアンタゴニスト(例えば、テゾセンタン、A308165、およびYM62899、ならびにその薬学的に許容される塩またはエステル)が挙げられる。
【0133】
特に、本開示の化合物を用いて細胞増殖障害を処置する場合、該化合物は、1つまたは複数の治療的にもしくは予防的に有効な化学療法薬と併用で投与され得る。本開示の化合物との併用使用に適した化学療法薬には、一例として、血管新生阻害薬、代謝拮抗薬、アルキル化剤、配位化合物、白金複合体、DNA架橋化合物、転写酵素の阻害剤、プロテインキナーゼ阻害薬と通常記述されるものが挙げられ、チロシンキナーゼ阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、DNA副溝結合化合物、ビンカアルカロイド、タキサン、抗腫瘍抗生物質、ホルモン、アロマターゼ阻害薬、酵素、増殖因子受容体抗体、サイトカイン、細胞表面マーカー抗体、HDAC阻害剤、HSP90阻害剤、BCL−2阻害剤、mTOR阻害剤、プロテアソーム阻害剤またはモノクローナル抗体が含まれる。
【0134】
したがって、それを必要とする対象において癌の予防、処置または管理する方法の一実施形態は、本開示の化合物の治療的にまたは予防的に有効な量と、1または複数の化学療法薬の治療的もしくは予防的に有効な量とを併用で該対象に投与することを含む。ここで、1または複数の化学療法薬は、メクロレタミン(mechlorothamine)、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、クロラムブシル、エチレンイミン、メチルメラミン、プロカルバジン、ダカルバジン、テモゾロミド、ブスルファン、カルムスチン、ロムスチン、メトトレキセート、フルオロウラシル、カペシタビン、シタラビン、ゲムシタビン、シトシンアラビノシド、メルカプトプリン、フルダラビン、クラドリビン、チオグアニン、アザチオプリン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、コルヒチン、アクチノマイシンD、ダウノルビシン、ブレオマイシン、L−アスパラギナーゼ、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、プレドニゾン、デキサメタゾン、アミノグルテチミド、ホルメスタン、アナストロゾール、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、メドロキシプロゲステロン、タモキシフェン、アムサクリン、ミトキサントロン、トポテカン、イリノテカン、カンプトテシン、アキシチニブ、ボスチニブ、カーフィルゾミブ、セジラニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レスタウルチニブ、ニロチニブ、セマキシニブ、スニチニブ、バンデタニブ、バタラニブ、抗Her2抗体、インターフェロン−α、インターフェロン−γ、インターロイキン2、GM−CSF、抗CTLA−4抗体、リツキシマブ、抗CD33抗体、MGCD0103、ボリノスタット、17−AAG、サリドマイド、レナリドミド、ラパマイシン、CCI−779、ソラフェニブ、ドキソルビシン、ゲムシタビン、メルファラン、ボルテゾミブ、NPI052、ゲムツズマブ、アレムツズマブ、イブリツモマブチウセキタン、トシツモマブ、ヨウ素−131トシツモマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ、リツキシマブ、および抗TRAILデス受容体抗体からなる群から独立に選択される。
【0135】
医薬組成物
別の態様では、本開示は、式(I)〜(III)のいずれかに関する上述の1つまたは複数の化合物または塩、および適切な担体、賦形剤または希釈剤を含む組成物を提供する。該担体、賦形剤または希釈剤の正確な性質は、該組成物の所望の用途に依存し、獣医学での適切なまたは許容される用途から、ヒトでの適切なまたは許容される用途にまで及び得る。該組成物は、1つまたは複数のさらなる化合物を随意に含んでもよい。
【0136】
そのような疾患を処置または予防するのに用いられるとき、本明細書に記述する化合物は、単独で、1もしくは複数の化合物の混合物として、またはそのような疾患および/またはそのような疾患に付随する症状を処置するのに有用な他の薬剤との混合もしくは併用で投与され得る。少し例を挙げるならば、該化合物は、他の障害または疾患を処置するのに有用な薬剤、例えばステロイド、膜安定化薬、5LO阻害剤、ロイコトリエン合成および受容体阻害剤、IgEアイソタイプスイッチングまたはIgE合成の阻害剤、IgGアイソタイプスイッチングまたはIgG合成の阻害剤、β−アゴニスト、トリプターゼ阻害剤、アスピリン、COX阻害剤、メトトレキセート、抗TNF薬物、リツキサン、PD4阻害剤、p38阻害剤、PDE4阻害剤、および抗ヒスタミン剤との混合または併用で投与されてもよい。該化合物は、化合物それ自体の形状で、または、化合物を含む医薬組成物として投与され得る。
【0137】
該化合物を含む医薬組成物は、従来の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠化、粉末化、乳化、カプセル化、封入または凍結乾燥加工の方法で製造され得る。該組成物は、薬学的に使用されうる製剤への該化合物の加工を容易にする1つまたは複数の生理学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤もしくは佐剤を用いる従来の方法で製剤化され得る。
【0138】
前述のように、該化合物は、医薬組成物それ自体で、または水和物、溶媒和化合物、N−酸化物もしくは薬学的に許容される塩の形状で製剤化され得る。典型的には、そのような塩は、対応する遊離酸および塩基よりも水溶液に溶解するが、対応する遊離酸および塩基よりも低い溶解性を有する塩も形成することができる。
【0139】
医薬組成物は、例えば、局所、経眼、経口、頬側、全身、経鼻、注射、経皮、経直腸、経膣などのいずれの投与様式に実質的に適した形状、または吸入もしくはガス注入による投与に適した形状をとり得る。
【0140】
局所投与用の場合、当技術分野で周知のように、化合物は、液剤、ゲル剤、軟膏、クリーム剤、懸濁剤等として製剤化され得る。全身製剤には、例えば、皮下、静脈内、筋肉内、くも膜下腔内または腹腔内の注入の注射による投与用にデザインされたもの、ならびに経皮、経粘膜、経口または肺内の投与用にデザインされたものが含まれる。
【0141】
有用な注射用製剤には、水性ビヒクルまたは油性ビヒクル中の、活性化合物の無菌の懸濁液剤、溶液剤または乳剤が含まれる。組成物は、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤化剤を含有してもよい。また、注射用の製剤は、単位剤形で、例えば、アンプルで、または多回投与用容器で提供されてもよく、かつ付加的な保存剤を含み得る。あるいは、注射用製剤は、使用の前に、発熱物質を含まない無菌の蒸留水、緩衝液、ブドウ糖溶液等を含むがこれらに限定されない適切なビヒクルでの再構成のために粉体形状で提供され得る。この目的を達成するために、該活性化合物は、凍結乾燥などの当分野の任意の技法によって乾燥されて、使用の前に再構成され得る。
【0142】
経粘膜投与用の場合、浸透されるバリアに適した浸透剤が製剤で用いられる。そのような浸透剤は、当技術分野で知られている。
【0143】
経口投与用の場合、医薬組成物は、例えば、結合剤(例えば、予めゼラチン化されたトウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース);フィラー(例えば、ラクトース、結晶セルロースまたはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ);崩壊剤(例えばジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば硫酸ラウリルナトリウム)などの薬学的に許容される賦形剤を用いる従来の方法によって調製されたトローチ剤、錠剤またはカプセル剤の形状をとってもよい。錠剤は、例えば、糖、薄膜または腸溶コーティングを用いる、当技術分野で周知の方法によって被覆され得る。
【0144】
経口投与のための液状製剤は、例えば、エリキシル剤、溶剤、シロップ剤または懸濁剤の形状をとってもよく、または該液状製剤は使用前に水もしくは他の適切なビヒクルによる構成用の乾燥製品として提供され得る。そのような液状製剤は、懸濁剤(例えばソルビトールシロップ、セルロース誘導体または硬化食用脂);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水溶媒(例えばアーモンドオイル、油性エステル、エチルアルコール、cremophore(商標) または精留植物油);および保存剤(例えば、メチルまたはプロピル−p−ヒドロキシ安息香酸塩またはソルビン酸)などの薬学的に許容される添加物を用いる従来の方法によって調製され得る。製剤は、必要に応じて緩衝塩、保存剤、香味料、着色料および甘味剤を含み得る。
【0145】
経口投与用の製剤は、周知のように、化合物の徐放を与えるために、適切に製剤化され得る。
【0146】
頬側投与用の場合、組成物は、従来の方法で製剤化される錠剤またはトローチ剤の形状をとってもよい。
【0147】
直腸および膣の投与経路の場合、化合物は、カカオバターまたは他のグリセリドなどの従来の坐薬基剤を含有する液剤(保持浣腸用)、坐薬または軟膏として製剤化され得る。
【0148】
経鼻投与または吸入もしくはガス注入による投与用の場合、化合物は、適切な噴霧剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、フルオロカーボン、二酸化炭素または他の適切なガスを用いて、加圧パックまたはネブライザーからエアゾールスプレーの形状で適宜に送達することができる。加圧されたエアゾールの場合、投与単位は、定量を送達するためのバルブを提供することによって決定され得る。吸入器また空気吸入器に使用するカプセルおよびカートリッジ(例えば、ゼラチンから構成されるカプセルおよびカートリッジ)は、化合物の粉体混合と、ラクトースまたはデンプンなどの適切な粉体基剤とを含み製剤化され得る。
【0149】
眼内投与用の場合、化合物は、眼への投与に適した液剤、乳剤、懸濁液剤等として製剤化され得る。眼への化合物の投与に適した種々のビヒクルは、当技術分野で既知である。
【0150】
長期間の送達の場合、化合物は、埋め込みまたは筋肉内注射による投与用のデポー製剤として製剤化することができる。化合物は、適切なポリマー材料もしくは疎水性材料(例えば、許容される油中の乳剤として)またはイオン交換樹脂と共に、または難溶性誘導体(例えば難溶性塩)として製剤化され得る。あるいは、経皮吸収のために化合物をゆっくりと放出する粘着盤またはパッチとして製造される経皮性の送達系が使用され得る。この目的を達成するために、浸透増強剤を用いて、化合物の経皮浸透を容易にし得る。
【0151】
あるいは、他の薬剤送達系を用いてもよい。リポソームおよび乳剤は、化合物を送達するために用いられ得る送達ビヒクルの周知の例である。ジメチルスルホキシド(DMSO)などの特定の有機溶媒も使用することができるが、通常、毒性が高いという代償を伴うことになる。
【0152】
医薬組成物は、必要に応じて、化合物を含有する1または複数の単位剤形を含み得るパックまたはディスペンサ装置で提供されてもよい。パックは、例えば、ブリスターパックなどの金属またはプラスチック箔を含み得る。パックまたはディスペンサ装置は、投与用の使用説明書が付随することもある。
【0153】
本明細書に記述する化合物またはその組成物は、通常、意図される結果を得るための有効量で、例えば処置される特定の疾患を処置または予防するための有効量で用いられることになる。化合物は、治療効果を得る目的で治療的に、または予防効果を得る目的で予防的に投与され得る。治療効果とは、根底にある障害に依然として苦しめられることもあろうが、感覚もしくは状態における改善を該患者が報告するように、処置されるべき根底にある障害の根絶もしくは寛解、および/または該根底にある障害に関連する1つまたは複数の症状の根絶もしくは寛解を意味する。例えば、アレルギー患者に化合物を投与することで、根底にあるアレルギー応答が根絶されるか、もしくは寛解される場合だけでなく、アレルゲンへの曝露の後に該アレルギーに関連する重症度もしくは症状の持続時間が減少したことを患者が報告する場合も治療効果を示す。別の例として、喘息の状況における治療効果は、喘息発作の発症後の呼吸の改善、または喘息性発症の頻度もしくは重症度の減少が含まれる。前述のように、関節リウマチの状況における治療効果も、ACR20、またはACR50またはACR70が含まれる。また、治療効果は通常、改善が認められるかどうかに関係なく、疾患の進行を食い止める、または遅らせることを含む。
【0154】
予防的投与の場合、該化合物は、前述した疾患のうちの1つを発症するリスクに曝されている患者に投与され得る。例えば、患者が特定の薬物に対するアレルギー体質であるかどうかが不明の場合、該薬物の投与の前に該化合物を投与して、該薬物に対するアレルギー応答を避けるかまたは寛解させ得る。あるいは、根底にある障害があると診断された患者において症状の発症を避ける目的で予防的投与が適用され得る。例えば、アレルゲンへの予想される曝露の前に、該化合物はアレルギー患者に投与され得る。障害の発症を予防するために、上記疾患のうちの1つとして知られている薬剤に繰り返し曝される健常な個人に、該化合物は予防的に投与され得る。例えば、個人がアレルギーを発症するのを防ぐ努力において、ラテックスなどのアレルギーを誘発することが知られているアレルゲンに繰り返し曝される健常な個人に該化合物は投与され得る。あるいは、喘息発作を誘発する活動に参加する前に喘息を患っている患者に該化合物を投与して、喘息発作の重症度を軽減する、または完全に回避することができる。
【0155】
投与される化合物の量は、種々の因子に依存する。該因子には、例えば、処置される特定の徴候、投与様式、所望の効果が予防目的または治療目的であるかどうか、処置される徴候の重症度ならびに患者の年齢および体重、特定の化合物の生物学的利用能、選択された投与経路下での実薬化合物への変換速度および効率、等が含まれる。
【0156】
特定の使用および投与様式のための化合物の有効投与量の決定は、当業者の能力の範囲内である。有効投与量は、最初に、インビトロ活性および代謝アッセイから推定され得る。例えば、動物における使用のための化合物の初期量は、インビトロアッセイで測定される特定の化合物のIC50以上である代謝活性化合物の循環血液中濃度または血清中濃度を得るために、製剤化され得る。所望の投与経路を介する特定の化合物の生物学的利用能を考慮に入れてそのような循環血液中濃度または血清中濃度を得るための算出投与量は、当業者の能力の範囲内である。化合物の初期量は、動物モデルなどのインビボデータから推定することもできる。上記の種々の疾患を処置または予防するための活性代謝物の有効性をテストすることに役立つ動物モデルは、当技術分野で周知である。生物学的利用能および/または化合物の活性代謝物への代謝作用のテストに適した動物モデルも、周知である。通常、当業者は人間の投与にふさわしい特定の化合物の投与量を決定するために、そのような情報を通常適応させることができる。
【0157】
投与総量は、典型的には、約0.0001mg/kg/日、0.001mg/kg/日または0.01mg/kg/日から約100mg/kg/日までの範囲であるが、いくつかある因子のなかで、活性代謝化合物の活性化、該化合物の生物学的利用能、その代謝動態と他の薬物動態特性、投与様式および上述の種々の他の因子に応じてより多くもしくはより少なくなり得る。例えば、治療的に有効な投与量は、約10mg/日から約600mg/日、例えば約20mg/日から約400mg/日、特に約75mg/日から約300mg/日であり得る。特定の投与レジメンでは、対象は、75mg、100mgまたは150mgを1日1回もしくは2回投与される。投与総量および投与間隔は、個々に調整され、治療効果または予防効果を維持するのに十分である該化合物および/または活性代謝化合物の血漿中濃度をもたらし得る。例えば、該化合物は、とりわけ、投与様式、処置される特定の徴候、および処方する医師の判断に応じて週1回、週数回(例えば一日おきに)、1日1回もしくは1日数回投与され得る。局所局部投与などの局所投与または選択的摂取の場合には、化合物および/または活性代謝化合物の有効な局所濃度は、血漿中濃度に関連がなくてもよい。当業者は、過度の実験なしで有効な局所投与量を最適化することができるであろう。
【0158】
定義
本明細書で用いるように、以下の用語は、以下の意味を持つように意図される。
【0159】
本明細書で用いる場合、用語「同位体濃縮係数」とは、特定の同位体の同位体存在量と天然存在量との間の比率を意味する。天然の同位体存在量の一部のバリエーションが、合成で使用される化学材料が原因して合成化合物に起こることを認識されるであろう。このように、いずれの化合物の調製も、重水素化アイソトポローグを少量本質的に含む。このバリエーションにも関わらず、天然に豊富な安定の水素同位体の濃度は、本開示の化合物の安定な同位体置換の程度と比較すると、少なく軽微である。本開示の化合物において、特定の位置が重水素を有すると指定されている場合、その位置の重水素の存在量は、約0.015%(モル/モルベースで)である天然の重水素の存在量よりもかなり多いものであると理解される。重水素を有すると指定される位置は、該化合物中で重水素として指定された各原子につき少なくとも3000(45%の重水素取り込み)の最小同位体濃縮係数を有することが多い。
【0160】
本開示の化合物では、特定の同位体として具体的に指定されてないいずれの原子でも、その原子の任意の安定同位体を表すことを意図する。特に明記しない限り、ある位置が具体的に「H」または「水素」として指定されている場合、その位置はほぼその天然存在量の同位体組成で水素を有すると理解される。
【0161】
用語「アイソトポローグ」とは、1つまたは複数の位置(例えばH対D)で同位体組成を除いて、別の化合物と同じ化学構造および式を有する種を指す。このように、アイソトポローグはそれらの同位体組成の点で異なる。
【0162】
「Fc受容体」とは、免疫グロブリンのFc部分(特異的な定常領域を含む)に結合する細胞表面分子のファミリーのメンバーを指す。各Fc受容体は、特異的な型の免疫グロブリンに結合する。例えば、Fcα受容体(「FcαR」)はIgAに結合し、FcεRはIgEに結合し、FcγRはIgGに結合する。
【0163】
FcαRファミリーには、IgA/IgMの上皮輸送に関与する多量体Ig受容体、骨髄特異的受容体RcαRI(CD89とも呼ばれる)、Fcα/μRおよび少なくとも2つの別のIgA受容体が含まれる(最近の総説については、Monteiro & van de Winkel,2003、Annu.Rev.Immunol,advanced e−publicationを参照されたい)。FcαRIは、好中球、好酸球、単球/マクロファージ、樹状細胞および星細胞上で発現される。FcαRIは、1つのα鎖と、細胞質ドメイン内に活性化モチーフ(ITAM)を有するFcRγホモ二量体とを含み、かつSykキナーゼをリン酸化する。
【0164】
FcεRファミリーには、FcεRIおよびFcεRII(別名CD23)と名付けられた2つの型がある。FcεRIは、肥満細胞、好塩基球細胞および好酸球細胞上に見られる高親和性受容体(約1010−1の親和性でIgEに結合する)であり、単量体のIgEを細胞表面に固着させる。FcεRIは、1つのα鎖、1つのβ鎖、および上述のγ鎖ホモ二量体を有する。FcεRIIは、単核食細胞、Bリンパ球、好酸球および血小板の上で発現される低親和性受容体である。FcεRIIは、1つのポリペプチド鎖を含み、γ鎖ホモ二量体を含まない。
【0165】
FcγRファミリーには、FcγRI(別名CD64)、FcγRII(別名CD32)およびFcγRIII(別名CD16)と名付けられた3つの型がある。FcγRIは、肥満細胞、好塩基球細胞、単核細胞、好中球、好酸球、樹状細胞および食細胞上に見られる高親和性受容体(10−1の親和性でIgG1に結合する)であり、単量体IgGを細胞表面に固着させる。FcγRIは、1つのα鎖と、FcαRIおよびFcεRIによって共有されるγ鎖二量体とを含む。
【0166】
FcγRIIは、好中球、単球、好酸球、血小板およびBリンパ球上で発現される低親和性受容体である。FcγRIIは1つのα鎖を含み、上述のγ鎖ホモ二量体は含まない。
【0167】
FcγRIIIは、NK、好酸球、マクロファージ、好中球および肥満細胞上で発現される低親和性のもの(5×10−1の親和性でIgG1に結合する)である。FcγRIIIは、1つのα鎖と、FcαRI、FcεRIおよびFcγRIによって共有されるγホモ二量体とを含む。
【0168】
当業者は、これらの種々のFc受容体のサブユニット構造および結合特性、ならびにそれらを発現する細胞型が完全に特徴づけられてないことを認識するであろう。上記の考察は、これらの受容体に関して現在の最高水準の技術を単に反映しており(例えば、Immunobiology:The Immune System in Health & Disease,第5版,Janewayら,編集,2001, ISBN 0−8153−3642−x,ページ371の図9.30を参照されたい)、かつ本明細書に記述する化合物によって調節されうる数多くの受容体シグナルカスケードに関して限定するようには意図されていない。
【0169】
「Fc受容体媒介脱顆粒」または「Fc受容体誘発脱顆粒」とは、Fc受容体の架橋によって開始されるFc受容体シグナル伝達カスケードを介して進行する脱顆粒を指す。
【0170】
「IgE誘発脱顆粒」または「FcεRI媒介脱顆粒」とは、FcεRI結合IgEの架橋によって開始されるIgE受容体シグナル伝達カスケードを介して進行する脱顆粒を指す。該架橋は、抗IgE抗体などのIgE特異的アレルゲンまたは他の多価結合剤によって誘発され得る。肥満細胞および/または好塩基球細胞において、脱顆粒をもたらすFcεRIシグナルカスケードは、2つの段階:上流および下流に分けられ得る。上流の段階は、カルシウムイオン動員の前に起こるプロセスのすべてを含む。下流の段階は、カルシウムイオン動員およびその下流のすべてのプロセスを含む。FcεRI媒介脱顆粒を阻害する化合物は、FcεRI媒介シグナル伝達カスケードに沿って、いかなる点でも作用し得る。上流のFcεRI媒介脱顆粒を選択的に阻害する化合物は、カルシウムイオン動員が誘発されるその点のFcεRIシグナルカスケード上流のその部分を阻害するように作用する。細胞ベースアッセイでは、上流のFcεRI媒介脱顆粒を選択的に阻害する化合物は、IgE特異的アレルゲンまたは結合剤(例えば抗IgE抗体)によって活性化または刺激された肥満細胞もしくは好塩基球細胞などの細胞の脱顆粒を阻害するが、例えば、カルシウムイオノフォア・イオノマイシンおよびA23187などのFcεRIシグナル経路を迂回する脱顆粒剤によって活性化または刺激された細胞の脱顆粒を大きくは阻害しない。
【0171】
「IgG誘発脱顆粒」または「FcγRI媒介脱顆粒」とは、FcγRI結合IgGの架橋によって開始されるFcγRIシグナル伝達カスケードを介して進行する脱顆粒を指す。該架橋は、IgG特異的アレルゲンまたは抗IgGもしくは抗体断片などの別の多価結合剤によって誘発され得る。FcεRIシグナルカスケードの様に、肥満細胞および好塩基球細胞では、FcγRIシグナルカスケードも、同じ2つの段階、すなわち上流および下流に分けられ得る脱顆粒をもたらす。FcεRI媒介脱顆粒と同様に、上流FcγRI媒介脱顆粒を選択的に阻害する化合物は、カルシウムイオン動員が誘発されるその点の上流に作用する。細胞ベースアッセイでは、上流のFcγRI媒介脱顆粒を選択的に阻害する化合物は、IgG特異的アレルゲンまたは結合剤(例えば抗IgG抗体もしくは断片)によって活性化または刺激された肥満細胞もしくは好塩基球細胞などの細胞の脱顆粒を阻害するが、例えば、カルシウムイオノフォア・イオノマイシンおよびA23187などのFcγRIシグナル経路を迂回する脱顆粒剤によって活性化または刺激された細胞の脱顆粒を大きくは阻害しない。
【0172】
「イオノフォア誘発脱顆粒」または「イオノフォア媒介脱顆粒」とは、肥満細胞もしくは好塩基球細胞などの細胞が例えばイオノマイシンまたはA23187などのカルシウムイオノフォアに曝されると、脱顆粒することを指す。
【0173】
「Sykキナーゼ」とは、B細胞および他の造血細胞内で発現される周知の72kDaの非受容体(細胞質の)脾臓タンパク質チロシンキナーゼを指す。Sykキナーゼには、リン酸化された免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(「ITAM」)に結合する、タンデム型の2つのコンセンサスSrc相同体2(SH2)ドメイン、すなわち「リンカー」ドメインおよび触媒ドメインを含む(Sykキナーゼの構造および機能についての総説は、Sadaら,2001,J.Biochem.(Tokyo)130:177−186);およびTurnerら,2000, Immunology Today 21:148−154)を参照されたい)。Sykキナーゼは、B細胞受容体(BCR)シグナル伝達のエフェクターとして、広範囲に研究されてきた(Turnerら,2000,上記を参照)。Sykキナーゼは、例えばCa2+動員およびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)カスケードおよび脱顆粒などの免疫受容体から通じる重要な経路を調節する多種タンパク質のチロシンリン酸化に対しても重大な意味をもつ。また、Sykキナーゼは、好中球内でシグナル伝達するインテグリンにおいて、重要な役割を果たす(例えば、Mocsaiら,2002, Immunity 16:547−558を参照されたい)。
【0174】
本明細書で用いる場合、Sykキナーゼは、動物の任意の種に由来するキナーゼを含み、Sykファミリーに属すると認識されるのは、ホモサピエンス、サル、ウシ、ブタ、齧歯動物、他が挙げられるがこれらに限定されるものではない。具体的には、天然に存在するおよび人為的なアイソフォーム、スプライスバリアント、対立遺伝子バリアント、変異体が含まれる。そのようなSykキナーゼのアミノ酸配列は、周知であり、GENBANKから入手可能である。ヒトSykキナーゼの異なるアイソフォームをコードするmRNAの特定例としては、GENBANKアクセッション番号gi|21361552|ref|NM_003177.2|,gi|496899|emb|Z29630.1|HSSYKPTK[496899]およびgi|15030258|gb|BC011399.1|BC011399[15030258]で見出されうる。これらは参照によって本明細書に組み入れられる。
【0175】
他のファミリーに属しているチロシンキナーゼが、Sykの活性部位または結合ポケットと三次元構造が似ている活性部位または結合ポケットを有することもあることを当業者は、認識するであろう。この構造類似性の結果として、そのようなキナーゼ(本明細書では「Syk模倣物」と呼ぶ)は、Sykによってリン酸化される基質のリン酸化反応を触媒すると思われる。このように、そのようなSyk模倣物、そのようなSyk模倣物が役割を果たすシグナル伝達カスケード、ならびにそのようなSyk模倣物およびSyk模倣物に依存するシグナルカスケードによってもたらされる生体応答が、本明細書に記述する多数の化合物を用いて調節され得る、特に阻害され得ることは、理解されるであろう。
【0176】
「Syk依存性シグナルカスケード」とは、Sykキナーゼが役割を果たすシグナル伝達カスケードを指す。そのようなSyk依存性シグナルカスケードの非限定例には、FcαRI、FcεRI、FcγRI、FcγRIII、BCRおよびインテグリンシグナルカスケードが含まれる。
【0177】
「自己免疫疾患」とは、内在性および/または外因性由来の1つまたは複数の免疫原性の物質に対して、対象自身の体液性免疫応答および/または細胞媒介性免疫応答の結果として通常起こる非アナフィラキシー過敏症反応(II型、III型および/またはIV型の過敏症反応)を一般に伴うそれらの疾患を指す。そのような自己免疫疾患は、アナフィラキシー過敏症の反応(I型またはIgE媒介)を伴う疾患と区別される。
【0178】
合成方法
開示された化合物を合成するために有用な一般に広く知られている化学合成スキームおよび条件を提供する多数の一般参照は、入手可能である(例えば、SmithおよびMarch, March's Advanced Organic Chemistry;Reactions,Mechanisms, and Structure,第5版, Wiley−Interscience,2001;またはVogel, A Textbook of Practical Organic Chemistry, Including Qualitative Organic Analysis,第4版, New York:Longman, 1978)。
【0179】
本明細書に記述する化合物は、当技術分野で既知の任意の方法によって精製することができ、該方法は、例えば、HPLC、調製的分取薄層クロマトグラフィー、フラッシュカラムクロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーのクロマトグラフ的方法を含む。順相および逆相、イオン樹脂を含む、任意の適切な固定相を用いることができる。最も典型的には、本開示する化合物は、シリカゲルおよび/またはアルミナクロマトグラフィーを介して精製される。例えば、Introduction to Modern Liquid Chromatography,第2版、編集L. R. SnyderおよびJ. J. Kirkland, John Wiley and Sons,1979;およびThin Layer Chromatography,編集E. Stahl, Springer−Verlag, New York,1969を参照されたい。
【0180】
主題の化合物を調製するいずれかの過程の間に、関係するいずれかの分子上の感受性が高い基または反応基を保護することが必要になり得る、および/または望ましいこともある。これは、標準的な刊行物に記述される従来の保護基を用いて実現され得る。例えば、J. F. W. McOmie,"Protective Groups in Organic Chemistry", Plenum Press, London and New York 1973に、T. W. GreeneおよびP. G. M. Wuts,"Protective Groups in Organic Synthesis",第3版,Wiley, New York 1999に、"The Peptides";Volume 3(編集者:E. GrossおよびJ. Meienhofer), Academic Press, London and New York 1981に、"Methoden der organischen Chemie", Houben−Weyl,第4版, Vol. 15/l, Georg Thieme Verlag, Stuttgart 1974に、H.−D. JakubkeおよびH. Jescheit, "Aminosauren, Peptide, Proteine", Verlag Chemie, Weinheim, Deerfield Beach, and Basel 1982に、 および/またはJochen Lehmann, "Chemie der Kohlenhydrate;Monosaccharide and Derivate", Georg Thieme Verlag, Stuttgart 1974に記述されている。保護基は、当技術分野で既知の方法を用いて、その後の適宜な段階で除去され得る。
【0181】
有機合成の当業者は、本化合物を合成するために適している例を、米国特許第7122542号、同第7449458号、同第7517886号、および同第7557210号、ならびに2003年1月31日に提出された国際特許出願PCT/US03/03022号(国際公開第03/063794号)、2007年11月20日に提出された国際特許出願PCT/US07/85313号(国際公開第2008/064274号)、ならびに2006年1月19日に提出された国際特許出願PCT/US06/01945号(国際公開第2006/078846号)に見出すことであろう。これらの特許および刊行物の各々はその全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0182】
本開示の化合物を以下の実施例によってさらに例示する。これらの実施例は、例示目的で提示するものであり、範囲または精神の点で本開示を、実施例で記述する特定の化合物に限定するとの解釈を意図するものではない。
【0183】
実施例1:
N4−(2,2−ジメチル−3−オキソ−4H−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル)−5−フルオロ−N2−[6−モルホリノピリジン−3−イル]−2,4−ピリミジンジアミン(化合物1)

【0184】
実施例2:
N4−[2,2−ジメチル−4−[(二水素ホスホノキシ)メチル]−3−オキソ−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル]−5−フルオロ−N2−(6−モルホリノピリジン−3−イル)−2,4−ピリミジンジアミン二ナトリウム塩(化合物2)

【0185】
実施例3:
N4−(2,2−ジメチル−3−オキソ−4H−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル)−5−フルオロ−N2−(4−モルホリノフェニル)−2,4−ピリミジンジアミン(化合物3)

【0186】
実施例4:
N4−[2,2−ジメチル−4−[(二水素ホスホノキシ)メチル]−3−オキソ−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル]−5−フルオロ−N2−(4−モルホリノフェニル)−2,4−ピリミジンジアミン二ナトリウム塩(化合物4)

【0187】
代表的な化合物のトリプターゼ放出アッセイ
FcγRの架橋によって誘発される肥満細胞活性化の阻害について、脱顆粒後に放出されるトリプターゼの活性を以下のとおり測定することで化合物をアッセイする。
【0188】
米国特許出願公開第2005/0234049号に記述されるように、ヒト肥満細胞を、CD38陰性前駆細胞から培養し、分化させる。この特許出願公開は参照によってその全体が本明細書に組み入れられる。例えば、65μLの種々の濃度の試験化合物を、2%MeOHおよび1%DMSOを含有するMT(137mMのNaCl、2.7mMのKCl、1.8mMのCaCl、1.0mMのMgCl、5.6mMのグルコース、20mMのHepes(pH7.4)、0.1%のウシ血清アルブミン(Sigma,#A4503))中で調製するか、または対照緩衝液を2つ組の96ウェルV底プレートに添加する。ペレット状にして(温かいMT中で)再懸濁したCHMC細胞(65μL)を各96ウェルプレートに加え、混合して、37℃で1時間インキュベートする。親和性精製した(Bethyl Laboratories,#A80−105A3)最終濃度1μg/mLの6×抗IgGウサギ抗ヒトIgG 25μLを試験ウェルに加える。MT(25μL)を対照ウェルに加える。37℃で60分間のインキュベーションの後、1000rpmで10分間遠心して、細胞および細胞片をペレット状にし、次いでトリプターゼおよびロイコトリエンCのレベルを測定する。
【0189】
トリプターゼレベルを測定するために、各ウェルから25μLの上清を新しい96ウェル黒底プレートに移す。該プレートに100μLの新鮮なトリプターゼ基質溶液[(Z−Ala−Lys−Arg−AMC2TFA;Enzyme Systems Products,#AMC−246)]をトリプターゼアッセイ緩衝液[0.1MのHepes(pH7.5)、10%w/vのグリセロール、10μMのヘパリン(Sigma,H−4898)、0.01%のNaN]中1:2000で加える。室温で30分間のインキュベーションの後、該プレートの光学濃度を分光光度プレートリーダーで355nm/460nmで測定する。
【0190】
FcγRの架橋によって誘発される肥満細胞の活性化を阻害する能力について、脱顆粒後に放出されたトリプターゼの活性を測定することによって、本開示の化合物をアッセイした。LDトリプターゼアッセイのIC50値を表1に示す。
【0191】
【表1】

【0192】
化合物2はマイクロモル濃度での阻害しか示さないが、化合物2は、100nm未満のIC50値を有する化合物1へと代謝されると考えられる。同様に、化合物4はマイクロモル濃度での阻害しか示さないが、化合物4は、100nm未満のIC50値を有する化合物3へと代謝されると考えられる。
【0193】
蛍光偏光Sykキナーゼアッセイ
単離したSykキナーゼによる生化学的蛍光偏光アッセイにおいて、ペプチド基質のリン酸化を触媒するSykキナーゼを阻害する能力について、化合物を試験する。
【0194】
試験化合物の保存液(10mM)をDMSO中2.5mMから開始して段階希釈し、次いで50μM(5×)の所望の濃度までさらに希釈して、キナーゼ緩衝液(20mMのHEPES(pH7.4)、5mMのMgCl、2mMのMnCl、1mMのDTT、0.1mg/mLのアセチル化ウシγ−グロブリン)中2%DMSO濃度を得る。黒の96ウェル低容量プレート(Molecular Devices,#42−000−0117)において、キナーゼ緩衝液中ATP/基質(TK2ペプチド)と室温で予め混合した2%DMSO(最終0.4%DMSO)へと化合物を移すことによって、このアッセイを行う。Sykキナーゼ(Millipore,#14−314)を加えて最終反応容量20μLとし、反応物を室温で30分間インキュベートする。最終的な酵素反応の条件は、20mMのHEPES(pH7.4)、5mMのMgCl、2mMのMnCl、1mMのDTT、0.1mg/mLのアセチル化ウシγ−グロブリン(Invitrogen,#P2255)、25ngのSyk、2.5μMのATP、5μMのペプチド基質(ビオチン−EGPWLEEEEEAYGWMDF−CONH, Anaspec,#60329−1)である。製造業者(Invitrogen)の使用説明書に従って、反応を停止するために、EDTA(最終10mM)/抗ホスホチロシン抗体(最終1×)/FP希釈緩衝液中に希釈した蛍光リンペプチドトレーサー(最終0.5×)を含有する20μLのPTKクエンチ混合液を加えて総量40μLとすることでこの反応を停止させる。プレートを暗所、室温でさらに30分間インキュベートし、次いでPolarion蛍光偏光プレートリーダー(Tecan)で読み取る。データは、チロシンキナーゼ・アッセイ・キット、Green(Invitrogen,#P2837)で提供されたリンペプチド競合物との競合によって作成された較正曲線を使用して、リンペプチドの存在量に変換する。
【0195】
CD63アッセイ
アレルゲン誘発性の好塩基球脱顆粒を阻害する能力について、化合物を試験する。BASOTEST(登録商標)キット(Orpegen Pharma GmbH,#10−0500)を本アッセイで使用する。5mLのFACS試験管中の105μLのヘパリン処理した全血中で、25μLの試験化合物溶液(DMSO中)を室温で30〜60分間インキュベートする。脱顆粒を誘発するために、20μLの刺激緩衝液(試薬B)を加えて、該試験管を37℃の水浴中で10分間インキュベートする。次いで、100μLの抗IgE(2μg/mL)を加えるか、または100Lの洗浄液(試薬A)を加える(すなわち、負の対照として)。該試験管を37℃の水浴中で20分間インキュベートする。次いで、氷上で5分間インキュベートして脱顆粒を停止させる。20μLの染色試薬(試薬F)を加えて、該試験管を暗所、氷上で20分間インキュベートする。2mLの室温の溶解溶液を加えて、該試験管を室温で10分間インキュベートする。該試験管を4℃、1600rpmで5分間遠心沈殿させて、その上清を捨てる。3mLの洗浄溶液(試薬A)を加えて、該試験管を4℃、1600rpmで5分間遠心沈殿させて、その上清を捨てる。200μLの洗浄溶液を残りの細胞ペレットに加え、次いで該試料を分析まで暗所、氷上でインキュベートする(2時間以内)。活性化した好塩基性顆粒球のパーセンテージを決定するために、BASOTEST(登録商標)キットの使用説明書に特定される条件で、フローサイトメトリーを488nmで使用して分析を行う。
【0196】
VEGFR生化学アッセイ
ELISAアッセイにおいて、VEGF2を阻害する能力について化合物を試験する。NUNC MAXISORP96ウェルプレート(#436110)を1×PBS中0.01mg/mLのNeutrAvidin(100μL/ウェル)で4℃で18〜24時間被覆する。次いで、プレート洗浄機を使用してプレートを1×PBSTで洗浄して、1×PBST中2%BSA(100μL/ウェル)を用いて室温で1時間ブロックする。NeutrAvidinで被覆したプレートを、プレート洗浄機を使用して1×PBSTで再度洗浄する。
【0197】
種々の濃度の試験化合物溶液(DMSO中)(4.8μL/ウェル)を、未使用の非被覆96ウェルプレートのウェルに移し、反応溶液115μL/ウェル(4700部のキナーゼ緩衝液(5772部の水、120部の1M HEPES(pH7.4)、30部の1M MgCl、12部の1M MnCl、6部の1M DTT、60部の1%Brij−35)、1.14部の10mM ATP、11.4部の1mM TK2ペプチド(AnaSpec,#60329−1))を共に加える。試験化合物/反応溶液を混合して、NeutrAvidinで被覆したプレートの各ウェルに加える(50μL/ウェル)。6×酵素溶液(1000部のキナーゼ緩衝液、0.6部のKDR/VEGFR2酵素(50μg/mL、Millipore,#14−630)を、負の対照として指定したウェル以外のすべてのウェルに加える。該プレートを室温、振盪機上で30分間インキュベートする。
【0198】
PBST中10000部の0.1%BSAと、1部の抗pTyrマウスモノクローナル抗体(Cell Signaling,#9411)および1部のHRPヤギ抗マウスIgG(Jackson Immunoresearch,#115−035−003)とを混合して検出試薬を調製する。この検出試薬を100μL/ウェルで加えて、該プレートを室温で60分間インキュベートし、次いでプレート洗浄機を使用して1×PBSTで洗浄する。プレートに100LのELISA Pico Chemi基質(Fisher Scientific,#PI−37069)を加えて、発色させ、化学発光(0.1s)によってWallac1420カウンターを使用して読み取る。
【0199】
VEGFR細胞アッセイ
HUVEC細胞においてVEGFRのVEGF誘発リン酸化を示す能力について化合物を試験する。
【0200】
96ウェル高結合乳白色プレート(Pierce,#15042)を、5μg/mLのマウス抗ヒトVEGFR2モノクローナル抗体(R&D Systems,#MAB3572)で一晩被覆する。次いで、被覆したプレートをPBS中2%BSAで2時間ブロックする。
【0201】
HUVEC細胞(Cambrex,#CC−2519、完全培地で培養して、37℃で、5%COの加湿雰囲気中でインキュベートした)を96ウェル透明底プレート中100μLの完全培地(EGM−2BulletKit,Cambrex,#CC−3162)に18〜20K細胞/ウェルの密度で播種して、37℃/5%COインキュベータ内で24時間インキュベートする。細胞をPBSで1回洗浄する。100μLの飢餓培地(1%BSAおよび0.2%FBSを含有するEBM2培地、Cambrex,#CC3156)を加えて、細胞を該インキュベータに戻して、20〜24時間インキュベートする。試験化合物または対照薬物を化合物プレート中DMSOで段階希釈し、さらに飢餓培地で1:250に希釈する。100μLのこの2×濃度を細胞に投与する。1時間の前処理の後、細胞を100ng/mLの組換えヒトVEGF165(R&D Systems,#293−VE)で5分間刺激する。刺激の直後に、該細胞を冷PBSで1回洗浄し、次いでプロテアーゼ阻害剤錠剤(Roche,#1697498)、1mMのNEM、1mMのPMSF、10μMのMG132、および1mMのNaVOを含有する33μLの冷溶解緩衝液(9ml RIPA緩衝液、Teknova,#R3792)ならびに1mLの10×細胞溶解緩衝液(Cell Signal Technology,#9803)を加える。次いで、プレートを4℃で、ロッカー/振盪機上で1時間振盪させる。
【0202】
リン酸化VEGFR2をELISAで測定する。TBSTでの洗浄の後、細胞可溶化物30μL/ウェルを、PBS中1%BSAを200μL/ウェル含有する抗ヒトVEGFR2モノクローナル抗体で被覆したプレート(上述)に移し、4℃で一晩、振盪させながらインキュベートする。該プレートをTBSTで4回洗浄し、TBST中0.2%BSAで1:1000に希釈したリン酸化VEGFR2ウサギモノクローナル抗体(Cell Signal Technology,2478)で染色し、2時間振盪させる。プレートをTBSTで4回洗浄して、TBST中0.2%BSAで1:5000に希釈した抗ウサギHRP(Jackson ImmunoResearch,#111−035−144)を加えて、該プレートをさらに1時間振盪機上で振盪させる。最終的にTBSTで4回洗浄して、HRPコンジュゲートの化学発光検出のために、SuperSignal ELISA Pico基質(Pierce,#37070a/b)を、試験化合物A、Bおよび水1:1:1の割合で加えた。SpectraMax M5プレートリーダーを使用して、シグナルを読み取る。
【0203】
Ret細胞アッセイ
細胞においてRetキナーゼを阻害する能力について化合物を試験する。10%のウシ胎児血清(JRH,#12106−500M)を含むDMEM(Cellgro Mediatech,#10−013−CV)中で維持し平板培養したSK−N−SH脳神経芽細胞腫細胞(ATCC,#HTB−1)を、10cmプレート中10mLの培地に播種して、翌日までに85%コンフルエンスに達成させる。該培地をDMSOまたは試験化合物(最終0.1%DMSO)を含有するDMEM(ウシ胎児血清を含まない)5mLと交換して、37℃/5%COで1時間インキュベートする。次いで、SK−N−SH細胞を50ng/mLのヒト組換えGDNF(Peprotech,#450−10)で10分間刺激する。細胞を冷1×PBSで1回洗浄して、500μLの1%NP−40溶解緩衝液(150mMのNaCl、1mMのNaVn、1%Nonidet−P40(Fisher Scientific,#PI−28324)、プロテアーゼ阻害剤錠剤(Roche,1697498)を含むTris HCl(pH7.4))で溶解する。該プレートを氷上に10分間静置してから、溶解緩衝液中でプレートから細胞をこすり落とす。4℃で、14,000rpmで10分間遠心して、界面活性剤不溶の部分を取り除く。界面活性剤溶解細胞可溶化物を3μLの抗Retウサギポリクローナル抗体(Cell Signaling Technology,Cat#3220)および15μLのタンパク質A/Gアガロース(Fisher Scientific,#PI−20421)と共に4℃で一晩回転させて、Retを免疫沈降させる。
【0204】
該アガロースを溶解緩衝液で2回洗浄して、1×NuPAGE LDS試料緩衝液(Invitrogen,#NP0007)中、98℃で5分間加熱して、Retタンパク質を溶出させる。溶出タンパク質をTris−Bisゲル(NuPAGE Bis−Tris 4〜12%ゲル、1.0mm、15ウェル、Invitrogen,#NP0323BOX)上で電気泳動によって分離して、Invitrolon PVDF膜(ポア径0.45μm、Invitrogen,#LC2005)に移す。該膜を、5%乳を含有する1×TBSTで1時間ブロックする。1×TBST+5%乳中で、該膜を抗ホスホチロシン(4G10)マウスモノクローナル抗体(Millipore Corporation,Cat#05−321、1:5000)と共に4℃で一晩プローブする。
【0205】
1×TBSTで2時間、緩衝液を5回変えて洗浄した後に、該膜を、1×TBST+5%乳中ヤギ抗マウスIgG HRP抗体(Jackson Immunoresearch Labs,#115−035−146、1:2000)で1時間室温でプローブする。該膜をTBSTで2時間、緩衝液を5回変えて洗浄し、使用説明書に従って、ECL+ウエスタンブロット検出試薬(GE Healthcare,旧社名Amersham,#RPN2132)を用いて処理し、次いで化学発光シグナルをKodak Biomax MRフィルム(VWR,#IB8701302)上で検出する。
【0206】
Ret生化学アッセイ
ELISAベースのアッセイにおいて、Retキナーゼを阻害する能力について化合物を試験する。このアッセイは、0.01mg/mLのNeutrAvidin(Pierce、100μL/ウェル)で一晩被覆したCostar白色96ウェルプレート(Fisher Scientific,#07−200−591)で4℃で行う。アッセイを開始する前に、前もって被覆した96ウェルプレートを、PBST緩衝液中2%BSAを用いて室温で少なくとも1時間ブロックする。段階希釈試験化合物保存液を、DMSO溶液中300μMから開始して別々に調製し、この希釈化合物2μL/ウェル(DMSO最終濃度3%)を、ATPおよびキナーゼ基質(TK2ペプチド)と前もって混合したキナーゼ反応緩衝液55.5μL/ウェル(20mMのHEPES(pH7.4)、5mMのMgCl、1mMのDTT、0.01%Brij−35)を含有するNeutrAvidinで被覆したアッセイプレートに直接加える。Retキナーゼ2.5μL/ウェル(Millipore,#14−570)を加えることで反応を開始し、60μLの最終反応容量を得る。該反応を室温で30分間継続させる。60μL中の最終的な酵素反応条件は、20mMのHEPES(pH7.4)、5mMのMgCl、1mMのDTT、0.01% Brij−35、0.15ngのRet、2μMのATP、2μMのペプチドTK2基質(ビオチン−EGPWLEEEEEAYGWMDF−CONH、Anaspec,#60329−1)である。反応が完了してから、ウェルをPBSTで3回洗浄して、リンペプチド検出抗体溶液100μL/ウェル(1:10000希釈のマウス抗pTyrモノクローナル抗体(Cell Signal Technology,#9411)と、1:10000希釈のヤギHRPコンジュゲート抗マウスIgG(Jackson Immunoresearch,#115−035−003)との混合物)と共に室温で1時間インキュベートする。該プレートをPBSTで3回洗浄して、スーパーシグナルELISAピコ化学発光基質(Pierce)を用いて発色させ、次いでSpectraMax M5マイクロプレートリーダー(Molecular Devices)で読み取る。
【0207】
結果
トリプターゼアッセイ、FPベースSykアッセイ、CD63アッセイ、VEGFRアッセイおよびRetアッセイによる、化合物1、N4−(2,2−ジメチル−3−オキソ−4H−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル)−5−フルオロ−N2−(6−モルホリノピリジン−3−イル)−2,4−ピリミジンジアミン、化合物3、N4−(2,2−ジメチル−3−オキソ−4H−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル)−5−フルオロ−N2−(4−モルホリノフェニル)−2,4−ピリミジンジアミン、ならびに対照化合物、N4−(2,2−ジメチル−3−オキソ−4H−5−ピリド[1,4]オキサジン−6−イル)−5−フルオロ−N2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−2,4−ピリミジンジアミンについての結果を表2に示す。
【0208】
【表2】

【0209】
LDトリプターゼアッセイ、FPベース生化学アッセイ、およびCD63アッセイは、的確なアッセイである。化合物1および3は、全細胞アッセイおよび生化学アッセイにおいて対照よりもいくらか効力が低いが、これらの化合物は全血存在下(CD63アッセイ)ではより効力が高い。いかなる特定の理論にも限定されないが、出願者らは、対照による高い非特異的結合と比較して、全血の存在下での化合物1および3の効力は、高い特異的結合によるものであると考える。
【0210】
VEGFアッセイのデータは有意義である。なぜなら、いかなる特定の理論にも限定されないが、出願者らは現在、VEGF阻害が血圧上昇をもたらすと考えるからである(Kambaら,British Journal of Cancer 96:1788−1795(2007);Roodhartら,Current Clinical Pharmacology 3:132−143(2008);Franklinら,JPET 329:928−937(2009)を参照されたい)。化合物1および3は、対照と比較するとVEGFに対する選択性を有意に増加させ、したがって高血圧のリスクがかなり減少する。
【0211】
Retキナーゼは、腎臓発生にとって必要であると考えられている。関節炎患者は、男性よりも女性が多いので、いかなる潜在的な発達毒性でも、例えばRet阻害に関連し得るような場合、重大な限定となる(Clemensら,Birth defect Research(Part A)85:130−136(2009)を参照されたい)。化合物1および3は、対照よりもRetキナーゼに対して有意により選択的である。
【0212】
本明細書に記述する実施例および実施形態は例示目的だけのものであり、それを踏まえて、種々の改変または変更が、当業者に示唆され、かつ本出願の精神および範囲内ならびに添付する特許請求の範囲内に組み入れられることになると理解される。本明細書に引用するすべての刊行物、特許、および特許出願は、あらゆる目的のために参照によって本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)〜(III)

のいずれかの化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
式(I)

を有する、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
式(II)

を有する、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
式(III)

を有する、請求項1に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物の薬学的に許容される塩。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物の一ナトリウム塩もしくは二ナトリウム塩、一カリウム塩もしくは二カリウム塩、一リチウム塩もしくは二リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物の一トリフルオロ酢酸塩もしくは二トリフルオロ酢酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、塩酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、またはエタンスルホン酸塩。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物または塩と、許容される担体、賦形剤および/または希釈剤とを含む医薬組成物。
【請求項9】
対象において細胞脱顆粒を阻害する方法であって、脱顆粒を阻害するのに有効な、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物もしくは塩の薬学的有効量、または請求項8に記載の医薬組成物の薬学的有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項10】
対象において、アレルギー疾患、軽度の瘢痕、組織破壊を伴う疾患、組織炎症を伴う疾患、炎症および瘢痕から選択される疾患を処置または予防する方法であって、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物もしくは塩の薬学的有効量、または請求項8に記載の医薬組成物の薬学的有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項11】
前記疾患が関節リウマチである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
対象においてSykキナーゼ活性を阻害する方法であって、前記Sykキナーゼ活性を阻害するのに有効な、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物もしくは塩の薬学的有効量、または請求項8に記載の医薬組成物の薬学的有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項13】
対象においてFc受容体シグナル伝達カスケードを阻害する方法であって、前記Fc受容体シグナル伝達カスケードを阻害するのに有効な、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物もしくは塩の薬学的有効量、または請求項8に記載の医薬組成物の薬学的有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項14】
前記Fc受容体がFcαRI、FcγRI、FcγRIIIおよびFcεRIから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
対象において自己免疫疾患および/またはそれに伴う1つもしくは複数の症状を処置または予防する方法であって、前記自己免疫疾患を処置または予防するのに有効な、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物もしくは塩の薬学的有効量、または請求項8に記載の医薬組成物の薬学的有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項16】
前記自己免疫疾患が、単一臓器型または単一細胞型の自己免疫障害と呼ばれることが多い自己免疫疾患、および全身性の自己免疫障害に関与すると呼ばれることが多い自己免疫疾患から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記自己免疫疾患が、橋本病、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血の自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性精巣炎、グッドパスチャー病、自己免疫性血小板減少症、交感性眼炎、重症筋無力症、グレーブス病、原発性胆汁性肝硬変症、慢性活動性肝炎、潰瘍性大腸炎、膜性糸球体症、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン症候群、ライター症候群、多発性筋炎・皮膚筋炎、全身性硬化症、結節性多発性動脈炎、多発性硬化症および水疱性類天疱瘡から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
対象において関節リウマチを処置する方法であって、関節リウマチを患う対象に、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物もしくは塩の薬学的有効量、または請求項8に記載の医薬組成物の薬学的有効量を投与することを含む方法。
【請求項19】
投与される化合物の量が、インビトロアッセイで測定して、薬物のSyk阻害のIC50以上である対応する薬物の血清中濃度を得るのに有効である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
対象において細胞増殖障害を処置する方法であって、関節リウマチを患う対象に、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物もしくは塩の薬学的有効量、または請求項8に記載の医薬組成物の薬学的有効量を投与することを含む方法。
【請求項21】
前記細胞増殖障害が造血器腫瘍である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞増殖障害が骨髄腫瘍である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記増殖障害が、Sykキナーゼ活性の調節に起因するウイルス媒介腫瘍である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
細胞においてSykキナーゼを調節または阻害する方法であって、SykキナーゼまたはSykキナーゼを含む細胞と、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物または塩とを接触させることを含む方法。
【請求項25】
細胞の脱顆粒を調節または阻害する方法であって、脱顆粒している細胞と、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物または塩とを接触させることを含む方法。
【請求項26】
Fc受容体シグナルカスケードを調節または阻害する方法であって、Fc受容体を発現する細胞と、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物または塩とを接触させることを含む方法。
【請求項27】
シグナル伝達カスケードを調節または阻害する方法であって、Syk依存性受容体またはSyk依存性受容体を発現する細胞と、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物または塩とを接触させることを含む方法。

【公表番号】特表2013−511547(P2013−511547A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540093(P2012−540093)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/057442
【国際公開番号】WO2011/063241
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(504294145)ライジェル ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (63)
【Fターム(参考)】