説明

2,5−ピペラジンジオン,3,6−ビス(フェニルメチル)−,(3S,6S)−含有飲食品

【課題】
学習意欲改善作用を有する有用物質である2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)-を飲みやすい形で高濃度含有するエキス又は飲料を提供すること。
【解決手段】
2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)-含有量(単位:μg/100g)とブリックス(Bx)の比が6(μg/100g)/Bx以上のエキスまたは飲料は、香味や舌触りがよく、さらに外観もよい。また、学習意欲の改善に有用な飲食品として、長期の継続摂取が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)-を含有する飲食品、より詳しくは、2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)-を高濃度で含有するpHが5以上のエキスおよび飲料等に関する。
【背景技術】
【0002】
高度に複雑化した現代社会において、意欲の低下が問題となっている。例えば、「モチベーションクライシス」という言葉が叫ばれており、若者のモチベーション低下が大きな問題になっている。また、うつ病患者の多くは意欲低下症状を示すと言われており、意欲低下を改善できる薬剤の開発が望まれている。
【0003】
近年、アミノ酸が二つ結合した「ジペプチド」が機能性物質として注目されている。ジペプチドは単体アミノ酸にない物理的性質や新たな機能を付加することが可能であり、アミノ酸以上の応用範囲を有するものとして期待されている。 本発明者らは、2,5-ジケトピペラジン誘導体である2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)-(CA Registry Number: 2862-51-3)(以下、「化合物A」という。)が、学習意欲改善作用を有することを見出した(同日付け特許出願:特願2009−296164)。
【0004】
化合物Aを含有するものとして、液体としては畜肉を煮てなるチキンエキスが、固体としてはチキンコンソメ等が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2009−296164
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらチキンエキスやチキンコンソメに含有される化合物Aを高濃度で飲食品に含有させるには、チキンエキスやコンソメキューブを大量に添加することが必要になる。このように大量に添加する場合、チキンエキスやコンソメキューブ特有の味やぬめりが飲食品の香味に大きな影響を与えてしまい、飲食品の香味設計の自由度はほとんどなくなってしまう。
【0007】
また、チキンエキス中の化合物A含有量を高くするため、単に従来の方法で畜肉を長時間煮出したとしても、化合物A以外の様々な物質(例えば、苦味成分)も高濃度となってしまう。そのような様々な物質が高濃度で混合した液体、即ちBxの高い液体は、その物自体が飲料に向かないだけでなく、エキスとして飲料へ添加する場合であっても、香味や舌触りへの影響が大きく、飲料への添加にも向かないことが多い。
【0008】
また、化合物Aは水にはほとんど溶解しないので、学習意欲改善作用を有する有用物質である化合物Aを高濃度で、かつ飲みやすい形で摂取すべく飲料に含有させようとしても、そのまま簡単に添加することはできない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、学習意欲改善作用を有する有用物質である化合物Aを飲みやすい形で高濃度で含有するエキス又は飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、化合物Aを高濃度で含有しつつ、Bxの低いエキス及び飲料であって、香味や舌触りがよく、さらに外観のよいものを得ることができ、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、次の[1]〜[15]である。
[1] 化合物Aを含有するpHが5以上のエキスであって、化合物A含有量(単位:μg/100g)とブリックス(Bx)の比が6(μg/100g)/Bx以上である、前記エキス。
[2] 化合物Aを60μg/100g以上の濃度で含有する、[1]記載のエキス。
[3] 化合物Aが天然物から抽出されたものである、[1]または[2]記載のエキス。
[4] 天然物が獣鳥肉類、魚介類、または貝類である、[3]記載のエキス。
[5] 天然物が鶏肉である、[3]又は[4]記載のエキス。
[6] [1]〜[5]のいずれかに記載のエキスを乾燥させて得られるエキス乾燥物。
[7] [1]〜[5]のいずれかに記載のエキス、又は[6]記載のエキス乾燥物を内包する、カプセル又はタブレット。
[8] [1]〜[5]のいずれかに記載のエキスを添加して得られる飲料。
[9] 化合物Aを含有するpH5〜10の飲料であって、化合物A含有量(単位:μg/100g)とブリックス(Bx)の比が6(μg/100g)/Bx以上である、前記飲料。
[10] 化合物Aを60μg/100g以上含有する、[8]又は[9]記載の飲料。
[11] [8]〜[10]のいずれかに記載の飲料が入れられた容器詰飲料。
[12] [1]記載のエキスの製造方法であって、
(1)獣鳥肉類、魚介類、または貝類を原料とし、液体中にて加熱することにより、それらに含有される水溶性タンパク質を除去する前処理工程、
(2)前記前処理後に液体を交換し、再度加熱する工程、および
(3)得られた液サンプルをろ過する工程、
を含む、製造方法。
[13] [1]記載のエキスの製造方法であって、
(1)獣鳥肉類、魚介類、または貝類を原料とし、液体中にて加熱することにより、それらに含有される水溶性タンパク質を除去する前処理工程、
(2)前記前処理後に液体を交換し、再度加熱する工程、
(3)得られた液サンプルをろ過する工程、および
(4)濃縮工程、
を含む、製造方法。
[14] [9]記載の飲料の製造方法であって、
(1)獣鳥肉類、魚介類、または貝類を原料とし、液体中にて加熱することにより、それらに含有される水溶性タンパク質を除去する前処理工程、
(2)前記前処理後に液体を交換し、再度加熱する工程、および
(3)得られた液サンプルをろ過する工程、
を含む、製造方法。
[15] [9]記載の飲料の製造方法であって、
(1)獣鳥肉類、魚介類、または貝類を原料とし、液体中にて加熱することにより、それらに含有される水溶性タンパク質を除去する前処理工程、
(2)前記前処理後に液体を交換し、再度加熱する工程、
(3)得られた液サンプルをろ過する工程、および
(4)濃縮工程、
を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、学習意欲改善作用を有し、副作用がなく安全性の高い化合物Aを、Bxを低くしたまま高含有可能なエキスおよび飲料を提供する。本発明のエキスは、飲食物本来の呈味を損なうことがなく飲料等に添加することができる。本発明のエキスまたは飲料、さらにはそれらが添加された飲食品は、学習意欲の改善に有用な飲食品として、長期の継続摂取が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、試験サンプルの摂取により、マウスが逃避台を見つけ出すまでの時間が反復試行により短縮されるかの試験結果を示す。
【図2】図2は、試験サンプルの摂取により、マウスが逃避台を見つけ出すまでの時間が反復試行により短縮されるかの試験結果を示す。
【図3】図3は、各種原料を用いて得られたエキス中の化合物Aの定量結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
<エキス>
本発明のエキスは、学習意欲改善作用を有する有用物質である化合物Aを高含有量で、かつ飲みやすい形で含有する。具体的には、化合物Aを高濃度で含有し、かつ化合物A含有量(単位:μg/100g)とブリックス(Bx)の比が6(μg/100g)/Bx以上のエキスである。
【0015】
化合物Aは、学習意欲改善作用を有する有用物質であるため、エキス中の含量が高い方が好ましい。具体的には、好ましくは60μg/100g以上、より好ましくは75μg/100g以上である。しかし、ブリックスが高いエキスは、原料由来の様々な物質(例えば、苦味成分)が高濃度で含まれることを意味しており、そのものが飲料に向かないだけでなく、香味や舌触りへの影響が大きく、飲料への添加にも向かない。従って、ブリックスは、低い方が好ましい。尚、ここでいうBxは、市販のBx測定計測器にて計測することができる。
【0016】
従って、有用物質である化合物Aを多く含み、かつブリックスが低いエキス、即ち化合物Aの含有量(単位:μg/100g)とブリックス(Bx)の比が高いエキスが好ましい。具体的には、化合物A含有量(単位:μg/100g)とブリックス(Bx)の比が6(μg/100g)/Bx以上が好ましく、より好ましくは、10(μg/100g)/Bx以上である。
【0017】
化合物Aの濃度は、種々の方法で定量することができるが、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量することができる。
本発明のエキスは、化合物Aを高含有量で含むにも関わらず、Bxが相対的に低いため、飲料への配合量が少なくてよく、飲料設計の自由度が増すという利点がある。その結果、外観的にも優れ(沈澱・濁りなし)、香味を損なわない飲料の調製が可能となる。
【0018】
また、本発明エキスのpHは、中性の液体に添加等しても沈澱を生じないために、5以上であることが好ましい。また、直接飲用するためには、pHは10以下、さらには8以下であることが好ましい。
【0019】
本発明でいうエキスとは、液体状の抽出物であり、そのまま飲用しても、飲食品に添加してもよい。また、エキスは、凍結乾燥やフリーズドライ等の工程によって容易に粉末化でき、得られるエキス粉末は水溶性のため、水などpHが5以上の液体に簡単に溶かして飲むことができる。また、粉末形態とすることにより、様々な飲食品への添加が容易となり、利用しやすいものとなる。
【0020】
また、ソフトカプセルまたはタブレットの形態とすることもできる。ソフトカプセルやタブレットは、本発明エキス、エキス粉末または顆粒を内包する。
エキスまたはエキス粉末を添加する飲食品の種類や形態は、何ら制限されない。例えば、錠剤およびカプセル剤等のタブレット形態の健康食品、ヨーグルト、加工食品、デザート類、菓子(例えば、ガム、キャンディ、ゼリー)等の固形食品、コーヒー、ウーロン茶、紅茶、清涼飲料、ドリンク剤等の液体飲料などの形態で提供することが可能である。また、ペットフードや動物用飼料も含まれる。
<飲料>
本発明は、化合物Aを含有し、かつ、化合物A含有量/Bxが6(μg/100g)/Bx以上の飲料、さらには、化合物Aを60μg/100g以上含有する飲料である。
【0021】
本発明の飲料は、香味や舌触りがよく、さらに外観もよい。また、学習意欲改善効果があり、長期の継続摂取も可能である。
本発明飲料のpHは、特に制限はないが、好ましくは5〜10の範囲である。
【0022】
本発明の飲料は、通常の飲料と同様、容器詰飲料とすることができる。
<エキス又は飲料の製造方法>
本発明は、化合物Aを含有するエキスまたは飲料であって、Bxが低くても化合物Aの濃度を高くすることのできるエキスまたは飲料である。それらは、例えば以下の製造方法にて調製することができる:
(1)獣鳥肉類、魚介類、または貝類を原料とし、液体中にて加熱することにより、それらに含有される水溶性タンパク質を除去する前処理工程、
(2)前記前処理後に液体を交換し、再度加熱する工程、および
(3)得られた液サンプルをろ過する工程、
(4)必要に応じ、濃縮工程。
【0023】
上記前処理工程(1)にて用いる原料は、有用成分である化合物Aを効率的に得られる天然物、特に獣鳥肉類、魚介類、または貝類が好ましい。獣鳥肉類には、畜肉である牛、豚、馬、羊、およびやぎ、獣肉である畜肉以外の肉、例えばイノシシやシカ、家禽肉である鶏、七面鳥、ウズラ、アヒルおよび合鴨、野鳥肉である家禽肉以外の鳥類の肉、例えば鴨、キジ、スズメ、およびツグミなどが含まれる。また、一般の食生活で食される魚介類および貝類を用いることができる。その他、植物体として、コーヒーやココア等を用いることもできる。これらの獣鳥肉、魚介類、および貝類の中でも、化合物Aを効率的に高濃度で得ることができる鶏肉を用いるのが好ましい。
【0024】
鶏肉を用いると化合物Aが多く得られる理由は不明であるが、鶏肉のたんぱく質が連続したフェニルアラニン(−Phe−Phe−)の構造を多く有するため、ジペプチド(Phe−Phe)が多く生成されることにより、結果として、目的とする化合物Aが多量に得られるものと推測される。
【0025】
前処理工程(1)としては、原料中に含有される水溶性タンパク質を低減させる処理を行えばよく、例えば、水中にて100℃〜160℃で30分〜数時間(好ましくは3時間〜8時間程度、さらに好ましくは、3時間〜4時間程度)ボイルすればよい。加熱装置としては、圧力鍋、オートクレーブなどを条件に合わせて用いることができる。また、前処理工程(1)において、液体を交換する回数に制限は無い。例えば、工程(1)中に、水等の液体や原料を適宜追加することで、エキスや又は飲料の濃度の調整が可能となる。
【0026】
また、加熱工程(2)は、高温高圧(100℃以上、1気圧以上)で行うことが好ましく、例えば、100℃以上、さらに好ましくは125℃以上が好ましい。さらに加熱工程(2)の加熱時間は30分〜数時間、さらに3〜7時間程度が好ましい。同様に、加熱装置としては、圧力鍋、オートクレーブなどを条件に合わせて用いることができる。
【0027】
前処理工程(1)および加熱工程(2)は、液交換は行わず連続する工程であっても、前処理工程の後、一旦畜肉を取り出し、液交換を行った後にさらに加熱工程を行ってもよい。前処理工程(1)の後に液交換を行い、その後に加熱工程(2)を行った方が、よりブリックスが低いサンプルが得られることから、液交換は行った方が好ましい。また、化合物Aを高濃度にするため濃縮工程を行った場合に、苦味やぬめり等の全体的香味の観点からも、香味が良くなり飲料に添加しても香味への影響は少ないものとなることから、液交換を行って前処理工程(1)および加熱工程(2)を行う方が好ましい。
【0028】
なお、工程(1)及び工程(2)における加熱処理は、植物体及び動物体の焦げを防止するため、溶媒中で行うのが好ましい。溶媒としては、水、エタノール、又はこれらの混合物等を用いるのが好ましい。すなわち、たんぱく質(好ましくは、連続したフェニルアラニン(−Phe−Phe−)の構造を多く有するたんぱく質)を含有する植物体又は動物体に溶媒を混合して加熱処理を施し、その溶媒を回収することで、化合物Aを高含有する溶液が得られる。
【0029】
ろ過工程(3)におけるろ過強度は、エキスを添加して得られる食品の形態に応じて適宜選択され、そのろ過方法も当業者が適宜決定することができる。例えば固形食品(例えばタブレット)に使用される場合や飲料が清澄であることが望まれない場合、例えば缶詰飲料など外観が見えない容器を使用する場合などは、沈殿物をろ過する程度でよく、ストレーナーを利用した濾過を実施すればよい。また、清澄であることが望まれる場合、例えば透明瓶やペットボトル詰飲料に使用される場合などは、強度な濾過を実施する必要がある。ストレーナーでの濾過の後、膜を使用した濾過(イオン交換膜、RO膜、ゼータ電位膜)や珪藻土を使用した濾過などを実施することで、清澄化を行えばよい。
【0030】
本発明エキスや飲料では、この化合物A高含有溶液をそのまま用いてもよいし、必要に応じて、濃縮して化合物A濃度を更に高めて用いてもよい。濃縮工程(4)は、エバポレーターや凍結乾燥などにより実施することができる。濃縮工程(4)の後、その濃縮液を別の液体に添加することにより、本発明の飲料を製造することもできる。
【0031】
なお、濃縮の前後では、化合物Aの含有量は増加するが、化合物Aの含有量(単位:μg/100g)とブリックス(Bx)の比はほとんど変化しない。これは、濃縮によってブリックス(Bx)も高くなるからである。従って、化合物Aの含有量(単位:μg/100g)とブリックス(Bx)の比が6(μg/100g)/Bx以上のものを濃縮することによって、化合物Aをさらに高含量で含む比が6(μg/100g)/Bx以上のエキスを得ることができるが、化合物Aの含有量(単位:μg/100g)とブリックス(Bx)の比が6(μg/100g)/Bx未満のものを濃縮しても、化合物Aを高含量で含むエキスは得られるが、化合物Aの含有量(単位:μg/100g)とブリックス(Bx)の比が6(μg/100g)/Bx以上のものは得られない。
【0032】
また、本発明のエキスおよび飲料は、化合物Aを溶解状態で含有するものであり、Bxは0.01以上のものとする。
本発明の飲料は、必要に応じ、適宜容器詰の飲料とすることができる。
【0033】
本発明を以下の実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
<実施例1> 化合物Aの学習意欲改善作用(1)
化合物Aの学習意欲増加作用について、当該技術分野で知られている方法、すなわちMorris型水迷路学習(Morris Water Maze:MWM)で評価した。
【0035】
まず、直径90cm、高さ35cmの円筒状のタンクに、墨汁で色を黒くした水を水深20cmになるように入れて、水温を22±1℃とした。このタンクに、C57BL/6マウス(雄性、9週齢)を入れ、オープン・スペース・スイミング(OSS)を行った。OSSを行うと、マウスはその行動に変化を起こし、うつ状態に相当する状態になる。5日間のOSS試行の後、マウスを7群に分けた。
【0036】
次に、上記の直径90cm、高さ35cmの円筒状のタンクに、直径10cmの逃避台を水深0.5cmとなるように設置した。上記7群に分けたマウスに、化合物A(Bachem AG (Bubendorf, Switzerland))又は比較薬物マレイン酸フルボキサミン(Fluvoxamine)を経口投与した60分後に、上記逃避台が設置されたタンクにマウスを投入し、水面下に置かれた不可視の逃避台を見つけ出すまでの時間(逃避台までの到達時間)を測定し、空間認知の記憶学習力を評価した(MWM)。コントロールマウスとして、OSSを行っていない動物に生理食塩水を投与して、MWMを行った。MWMは1日5回、10日間行った。
【0037】
結果を図1に示す。図1より明らかなとおり、OSSを行っていないマウス(no OSS-Vehicle)では、逃避台を見つけ出すまでの時間が反復試行により短縮されていくが、OSSを行ったマウスでは、学習の意欲が低下しており、逃避台に至るまでの時間が短縮されなかった(OSS-Saline)。一方、化合物Aを投与した群では、投与量が増加するに伴い、逃避台に至るまでの時間が短縮された。0.02mg/kg投与群では、OSSを行った動物に生理食塩水を投与したコントロール群(OSS-Saline)に比べて、MWMの試行10日後の逃避台への到達時間は20%程度短縮された。また、20mg/kg投与群では、SSRIとして多用されているマレイン酸フルボキサミン投与群(OSS-Fluvoxamine)と比較して、MWMの試行10日後の到達時間はほぼ同程度であった。このことから、化合物Aが学習意欲増加作用を有することが示された。
<実施例2> 学習意欲改善作用(2)
実施例1と同様の方法で、マウスに20mg/kgの化合物Aを投与した後に、MWM試験を行った。比較として、直鎖状のジペプチド(Phe−Phe)を20mg/kg投与した後に、MWM試験を行った。
【0038】
図2に結果を示す。図2より明らかなとおり、直鎖状のジペプチド(Phe−Phe)は、有意な作用が確認できなかったが、化合物Aは、コントロール群(OSS−Saline)と比較して有意な学習意欲改善作用が認められた。すなわち、学習意欲改善作用は、環状ジペプチド構造が必要であることが分かった。
<実施例3> 原料の検討
たんぱく質を含有する原料として、牛肉、豚肉、魚、うずら肉、しじみ、鶏肉(Black Chicken, Chicken)を用いた。動物体に1倍量の水を混合して容器に入れ、オートクレーブにて前処理工程として135℃4時間、加熱工程として135℃4時間加熱処理を行った。加熱処理後の液体を回収し、アセトニトリルにて前処理カラム(OASIS MAX (Waters : 30mg/1cc))にて溶出し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、化合物A含量を定量した。HPLCの条件は以下のとおり。結果を図3に示す。
【0039】
(HPLC条件)
・ 装置:Agilent 1100 series
・ カラム:Develosil C30-UG-5 (4.6 x 150mm, 5μm)
・ 移動相A:水、移動相B:100%アセトニトリル溶液
・ グラジエント: Time (min) Solvent B
0.00 20%
9.00 20%
23.00 28%
24.00 70%
31.00 70%
31.10 20%
40.00 20%
・ 注入量:10μl
・ UV検出器波長:215nm
・ 流速:1.0ml/min
・ カラム温度:32℃
なお、焙煎コーヒー豆そのものからは、化合物A含有液体を回収できるが、焙煎豆を抽出したコーヒー飲料においては、化合物Aは測定されなかった。
<実施例4> 化合物A高含有溶エキスの製造(2)
(1)水溶性タンパク質を除去する前処理工程として、鶏肉(200g)および水(200g)を装置カラム部に入れて、400cc高温高圧反応機(株式会社AKIKO)を用いて高温高圧処理を行った。
【0040】
(2)その後、加熱工程として、上記の容器中の液体のみを取り出し、液体を廃棄した。鶏肉の質量と同量の水を加えて、再度(1)と同様に高温高圧処理を行った。
(3)得られた液体を40メッシュ程度のストレーナーでろ過した。その後ろ液を遠心分離(6500rpm、5分)し、さらに、ストレーナー(300メッシュ)でろ過後、5μmフィルタ(住友スリーエム社製)ろ過を行った。
【0041】
なお、下記表1のエキス1については、前処理工程を行っていない。
それぞれのエキスについて、pH、化合物Aの含有量、Bxを測定し、化合物A含有量/Bxの比を算出した。
【0042】
なお、Bxに関してはBx測定計測器(RX-5000α:株式会社アタゴ製)を用いて測定した。
表1の結果から、(1)前処理の水溶性タンパク質の除去工程を行うこと、また、前処理条件を高温・長時間にすることで、(2)加熱工程で得られるエキスのBxは低くなることがわかった。その結果、化合物Aの含有量(単位:μg/100g)とブリックス(Bx)の比が高いエキスが得られることが明らかになった。
【0043】
【表1】

【0044】
<実施例5>
まず、下記(1)〜(3)の工程により、異なる11条件でエキス(サンプルNo.1〜No.11)を製造した。
【0045】
(1)水溶性タンパク質を除去する前処理工程として、鶏肉(1kg)および水(1kg)を2L耐圧容器に入れて、オートクレーブ装置(トミー精工、LSX500)を用いて高温処理を行った。
【0046】
(2)その後、加熱工程として、上記の容器中の液体のみを取り出し、液体を廃棄した。鶏肉の質量と同量の水を加えて、再度(1)と同様に高温処理を行った。
(3)得られた液体を40メッシュ程度のストレーナーでろ過した。その後ろ液を遠心分離(6500rpm、5分)し、さらに、ストレーナー(300メッシュ)でろ過後、5μmフィルタ(住友スリーエム社製)ろ過を行った。
【0047】
こうして製造したエキスについて、官能評価を実施した。さらに、No1-10のサンプルを、No.11の化合物A含有量(77.79μg/100g)になるまで、エバポレーターによる濃縮操作を行った。濃縮操作により、化合物Aを同濃度含む11種類のエキスを得て、再度官能評価を実施した。結果を表2に示す。尚、表2中、化合物AをPBと表記している。
【0048】
【表2】

【0049】
<実施例6> エキスを添加した飲料のpHの検討
上記実施例4のエキス3(1g)を、クエン酸とクエン酸3NaでpH調整した各pHの液体100gに添加した場合に沈殿が生成するかの試験を行った。
【0050】
その結果、pHが5以上の液体に添加等しても沈澱を生じないことが確認された。
【0051】
【表3】

【0052】
<実施例7> 従来品における化合物AとBxの測定
市販品のチキンエキス、顆粒の鶏がらスープ、またはコンソメキューブを所定の分量で溶解したスープについて、化合物A含有量およびBxを測定し、その比を算出した。
【0053】
市販されているチキンエキスおよびチキンスープでは、その比が6を越えるものは得られないことを確認した。チキンコンソメキューブを用いて、所定の濃度の二倍濃度にてスープを作成したとしても、Bxも同様に高くなるためその比は変わらなかった。これは、市販のチキンエキスを濃縮した際にも、同様のことが言える。つまり、市販の製品を用いて、化合物A含有量とブリックスの比が6(μg/100g)/Bx以上のエキスを製造することはできなかった。
【0054】
【表4】

【0055】
<実施例8>再加熱による化合物AとBxの値の変化
市販のチキンエキスに、従来行われてきた加熱工程を再度行うことによって、化合物A含有量とBxがどのように変化するかを確認した。従来行われてきた加熱工程とは、家庭用圧力鍋を用いた加熱工程である。なお、圧力なべの加熱温度は、約120℃である。
【0056】
加熱時間経過に伴い、化合物A含有量は若干増えるものの、劇的な増加は見られなかった。従来品の再加熱では、化合物AとBxの比はほとんど変化しないことを確認した。即ち、市販品のチキンエキスを用いて再加熱処理を行うことによっても、化合物A含有量とブリックスの比が6(μg/100g)/Bx以上のエキスを得ることはできないことが明らかとなった。
【0057】
【表5】

【0058】
<実施例9> 化合物A含有飲料の製造(1)
上記実施例4にて製造したエキス3を、飲料に添加した。レシピは以下の通り。いずれも、Bxは10に統一した。市販のチキンエキスに比べて、本レシピにより製造した原料は、Bxが同じであるにも関わらず、化合物Aの含有量が高く、さらに香味および外観的にも優れていることが分かった。
【0059】
【表6】

【0060】
<実施例10> 化合物A含有エキス粉末およびそれを添加した飲料の製造
上記実施例4にて製造したエキスを、スプレードライにより凍結乾燥し、エキス粉末を製造した。
1.エキス(実施例4のエキス3)100gを200mlナスフラスコに採取した。
2.冷凍庫(-18℃)にて、完全に凍結するまで2−3日保管した。
3.凍結乾燥機(LABCONCO製、設定-40℃以下)に設置し、完全乾燥するまで凍結乾燥を継続した。
4.乾燥粉末を1.38g得た。
5.上記4にて得られた粉末0.817gを測りとり、99.183gの水を加え攪拌して、化合物Aを60μg/100gの濃度で含有する飲用可能な液体を得た。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、学習意欲改善作用を有し、副作用がなく安全性の高いエキスおよび飲料を提供する。本発明のエキスは、飲食物本来の呈味を損なうことがなく飲料等に添加することができる。本発明のエキスまたは飲料、さらにはそれらが添加された飲食品は、学習意欲の改善に有用な飲食品として、長期の継続摂取が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)-を含有するpH5以上のエキスであって、2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)-含有量(μg/100g)とブリックス(Bx)の比が6(μg/100g)/Bx以上である、前記エキス。
【請求項2】
2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)-を60μg/100g以上の濃度で含有する、請求項1記載のエキス。
【請求項3】
2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)-が天然物から抽出されたものである、請求項1または2記載のエキス。
【請求項4】
天然物が獣鳥肉類、魚介類、または貝類である、請求項3記載のエキス。
【請求項5】
天然物が鶏肉である、請求項3又は4記載のエキス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載のエキスを乾燥させて得られるエキス乾燥物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項記載のエキス、又は請求項6記載のエキス乾燥物を内包する、カプセル又はタブレット。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項記載のエキスを添加して得られる飲料。
【請求項9】
2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)-を含有するpH5〜10の飲料であって、2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)-含有量(μg/100g)とブリックス(Bx)の比が6(μg/100g)/Bx以上である、前記飲料。
【請求項10】
2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)-を60μg/100g以上含有する、請求項8又は9記載の飲料。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか一項記載の飲料が入れられた容器詰飲料。
【請求項12】
請求項1記載のエキスの製造方法であって、
(1)獣鳥肉類、魚介類、または貝類を原料とし、液体中にて加熱することにより、それらに含有される水溶性タンパク質を除去する前処理工程、
(2)前記前処理後に液体を交換し、再度加熱する工程、および
(3)得られた液サンプルをろ過する工程、
を含む、製造方法。
【請求項13】
請求項1記載のエキスの製造方法であって、
(1)獣鳥肉類、魚介類、または貝類を原料とし、液体中にて加熱することにより、それらに含有される水溶性タンパク質を除去する前処理工程、
(2)前記前処理後に液体を交換し、再度加熱する工程、
(3)得られた液サンプルをろ過する工程、および
(4)濃縮工程、
を含む、製造方法。
【請求項14】
請求項9記載の飲料の製造方法であって、
(1)獣鳥肉類、魚介類、または貝類を原料とし、液体中にて加熱することにより、それらに含有される水溶性タンパク質を除去する前処理工程、
(2)前記前処理後に液体を交換し、再度加熱する工程、および
(3)得られた液サンプルをろ過する工程、
を含む、製造方法。
【請求項15】
請求項9記載の飲料の製造方法であって、
(1)獣鳥肉類、魚介類、または貝類を原料とし、液体中にて加熱することにより、それらに含有される水溶性タンパク質を除去する前処理工程、
(2)前記前処理後に液体を交換し、再度加熱する工程、
(3)得られた液サンプルをろ過する工程、および
(4)濃縮工程、
を含む、製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−517214(P2012−517214A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534852(P2011−534852)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国際出願番号】PCT/JP2010/053592
【国際公開番号】WO2011/077759
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【出願人】(501106768)セレボス パシフィック リミテッド (4)
【Fターム(参考)】