説明

2,6−ジクロロベンゾニトリル含有粒状肥料

【課題】芝地内に発生する雑草に対し、通常の製剤である粒剤に比べて少ない有効成分量で安定した除草効果を得、しかも日本芝に対する薬害の軽減された、日本芝に対する安全性の高い、除草剤含有肥料を提供すること。
【解決手段】窒素とリン酸、または窒素とカリの少なくとも2種を含有し、被覆用接着剤および樹脂を含有せず、日本芝に対する薬害の軽減されている、2,6−ベンゾニトリル含有粒状肥料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,6−ジクロロベンゾニトリル(以下、「化合物1」と称す)を含有する除草剤含有粒状肥料を用いることにより、日本芝に対する薬害軽減および化合物1の成分量を減じても長期間芝地内雑草を抑える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から農作業の省力化を目的として、農薬を含有する肥料についての検討が種々行われてきた。農薬を肥料に付着させる方法として、粒状肥料の表面をワックス状物質または界面活性剤で被覆し、そのワックス状物質または界面活性剤の被覆に農薬を含有させる方法が報告されている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。粒状肥料の表面を農薬と樹脂の混合物で被覆する方法も報告されている(例えば、特許文献4、特許文献5参照)。これらの被覆された肥料を、表面の被覆を堅固にする目的で、さらに樹脂で皮膜する方法も報告されている(例えば、特許文献6〜特許文献12参照)。以上のような種々の添加剤を使用すること無く、農薬活性成分を含む水溶液もしくは水分散液を粒状肥料に含浸もしくは被覆させた農薬含有粒状肥料も報告されている(例えば、特許文献13〜特許文献14参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−308689号公報
【特許文献2】特開2002−308690号公報
【特許文献3】特表平10−513148号公報
【特許文献4】特開平2−38393号公報
【特許文献5】特開平7−206564号公報
【特許文献6】特開平8−73291号公報
【特許文献7】特開平9−87077号公報
【特許文献8】特開平9−263475号公報
【特許文献9】特開平10−152387号公報
【特許文献10】特開2003−81705号公報
【特許文献11】特開2005−8470号公報
【特許文献12】特開2000−191407号公報
【特許文献13】特開平7−109192号公報
【特許文献14】特開2000−313685号公報
【0004】
芝地用の農薬含有粒状肥料としては、芝地用除草剤成分または殺菌剤成分の水分散液を粒状肥料に被覆することが報告されており、芝地用除草剤成分と肥料による複合肥料に関しては、「プロジアミン含有粒状肥料」(例えば、特許文献15参照)、および「ジチオピル含有粒状肥料」(例えば、特許文献16参照)がある。
【特許文献15】特開平7−109193号公報
【特許文献16】特開平7−118086号公報
【0005】
一方、化合物1は、芝地用除草剤として使用されており、秋に発生するイネ科雑草のスズメノカタビラに対しては高い殺草力と長期間の抑草期間を有することが知られている。しかし、化合物1は、蒸気圧が高いため、気温が高く、乾燥状態が長期間続く初夏から秋期にかけては、除草効果が極端に低下することが知られている。しかも、気温が低下する秋期から冬期においても土壌の乾湿、気温の高低により枯殺力および抑草期間に大きな変動を生じることが知られている。このため圃場条件では、化合物1が高い除草効果を発現する必要最低限の成分量よりも、さらに多くの有効成分を散布することにより、安定した除草効果を得ているのが実情である。しかし、芝地においては必要量以上に化合物1を増量して散布することにより、日本芝に対する薬害が発生しやすくなり、時期によっては翌春の萌芽時に薬害を引き起こす場合がある。他方、スズメノカタビラは窒素系肥料成分である硫安により、種子の休眠が覚醒して発芽することが報告されている。
【0006】
【化1】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
農作業の省力化を目的とする農薬含有粒状肥料についての報告は、前記した特許文献1〜特許文献16のように数多くなされているが、化合物1に適用した報告はなされていない。その理由は、前記した製造方法は高温での処理が必要なことから、蒸気圧の高い化合物1には適さないためと考えられる。また化合物1は水に対して弱いので、前記した製造方法は適さないと考えられる。さらに、秋に発生する1年生雑草であるスズメノカタビラは、秋以外の季節では種子の状態で存在しているので、除草剤の影響を受けにくいという問題がある。
【0008】
本発明は、化合物1を有効成分とする除草剤含有粒状肥料により、芝地内に発生する雑草に対し通常の化合物1を含有する製剤である粒剤に比べて、少ない有効成分量で安定した除草効果を得、しかも日本芝に対する薬害の軽減された、日本芝に対する安全性の高い除草剤含有粒状肥料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記した課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、化合物1と肥料を混合した除草剤含有粒状肥料を日本芝地内に散布することにより、芝地内に発生するスズメノカタビラに対する枯殺力が増し、さらにスズメノカタビラを長期間抑草することが可能であること、さらには、翌春に萌芽する日本芝に対する化合物1の薬害を軽減することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、窒素とリン酸、または窒素とカリの少なくとも2種を含有し、被覆用接着剤および樹脂を含有せず、日本芝に対する薬害の軽減されていることを特徴とする2,6−ジクロロベンゾニトリル含有粒状肥料である。また本発明は、窒素とリン酸、または窒素とカリの少なくとも2種を含有し、被覆用接着剤および樹脂を含有せず、日本芝に対する薬害の軽減されていることを特徴とする2,6−ジクロロベンゾニトリル含有粒状肥料を用いて、日本芝に対する肥料施肥と1年生雑草防除を1回の散布で行う方法である。さらに、本発明は2,6−ジクロロベンゾニトリルを0.1〜10%の範囲で含有することを特徴としており、粒状肥料の粒径が0.5mm〜3mmの範囲であることを特徴としている。
【0011】
本発明の粒状肥料を芝地内に散布することにより、芝地内に既発生の雑草に対し通常の除草剤散布製剤に比べ少量の成分量で枯殺力を増すことができる。さらに、窒素系肥料が雑草種子の休眠覚醒を引き起こすことにより、発芽可能な雑草種子が一斉に発芽することになり、土壌表面より発芽可能な雑草種子を全て枯殺することができるので、通常の2,6−ジクロロベンゾニトリルの散布製剤に比べて抑草期間が長く観察され、日本芝に対する薬害が無い除草剤含有粒状肥料が提供できるのである。
【0012】
本発明は被覆用接着剤および樹脂を含有しないので、被覆のための工程を省略することができ、また接着剤や樹脂が土壌中に散布されることによる弊害の不安が無い。
【0013】
本発明では、2,6−ジクロロベンゾニトリルを粒状肥料に含浸させる工程において、溶媒として揮発性有機溶媒を使用するのが好ましい。2,6−ジクロロベンゾニトリルは耐水性が弱いということと、溶媒乾燥のために高温環境に置くと昇華してしまうということが理由である。また、製剤中の2,6−ジクロロベンゾニトリルの昇華を防止するために、昇華抑制剤を添加することが好ましい。昇華抑制剤としては、ホワイトカーボン、酸化チタン等の無機化合物粉末、ポリオキシエチレン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリオキシプロピレン等の非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の粒状肥料を芝地内に散布することにより、通常の除草剤粒剤に比べ少量の有効成分で、秋冬期に発生する1年生イネ科雑草のスズメノカタビラに対し、高い枯殺力と長期間の雑草抑草期間を発揮することができ、また日本芝に対する薬害を軽減することができる。日本芝に対する肥料施肥と1年生雑草防除を、1回の散布で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の粒状肥料の肥料成分としては、市販化成肥料として造粒されている粒状化成肥料が使用できる。例えば、過リン酸石灰、石灰窒素、熔成りん肥、硝酸アンモニウム、硝酸加里、石灰、尿素、硫酸アンモニウム、硫酸加里などが挙げられる。
【0016】
2,6−ジクロロベンゾニトリルを溶解して、粒状肥料に含浸させる揮発性有機溶媒としては、低沸点のケトン類、低沸点のエステル類、低沸点のアルコール類、その他の低沸点有機溶媒が挙げられ、毒性の低いものが好ましい。具体的にはアセトン、アセトニトリル、シクロヘキサノン、エタノールなどが挙げられる。
【0017】
以下、実施例を掲げてさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0018】
[化合物1の細粒状複合肥料の作製]
粉末状燐安加里(住友苦土入り化成)を99部、化合物1を0.5部アセトン10部に溶解し、ニューグラマシン(セイシン企業株式会社製:造粒機)に入れ、450rpmにて攪拌した。次いで、水20部を攪拌しながら、徐々に加え、粒径300μmまで造粒した。後、ホワイトカーボン0.5部を加え、10分間攪拌し、乾燥することにより、化合物1の細粒状複合肥料を得た。
【実施例2】
【0019】
[化合物1の中粒状複合肥料の作製]
粉末状燐安加里(住友苦土入り化成)を99部、化合物1を0.5部アセトン10部に溶解し、ニューグラマシン(セイシン企業株式会社製:造粒機)に入れ、450rpmにて攪拌した。次いで、水20部を攪拌しながら、徐々に加え、粒径1000μmまで造粒した。後、ホワイトカーボン0.5部を加え、10分間攪拌し、乾燥することにより、化合物1の中粒状複合肥料を得た。
【実施例3】
【0020】
[化合物1の大粒状複合肥料の作製]
粉末状燐安加里(住友苦土入り化成)を99部、化合物1を0.5部アセトン10部に溶解し、ニューグラマシン(セイシン企業株式会社製:造粒機)に入れ、450rpmにて攪拌した。次いで、水20部を攪拌しながら、徐々に加え、粒径3000μmまで造粒した。後、ホワイトカーボン0.5部を加え、10分間攪拌し、乾燥することにより、化合物1の大粒状複合肥料を得た。
【0021】
[比較例1]化合物1の粒剤の作製
化合物1を2.5部、ベントナイトを30部、クレーを63.5部、Sorpol5050を1部、Sorpol5060を1.5部、エアロールCT−1Lを1.5部加え、ライカイ機にて20分攪拌した。後、水20部を加え、0.7mmφ横型押し出し造粒機にて押し出し、乾燥することにより、化合物1の粒剤を得た。
【実施例4】
【0022】
[秋冬期芝地内雑草に対する除草効果とノシバに対する薬害試験1]
茨城県において9月下旬に慣行の生育管理を行っているノシバ圃場内に1m×1mの区画を作製し、区画内にスズメノカタビラを播種した。
10月上旬に、実施例1、2、3および比較例1に準じた方法により調製した化合物1粒状肥料と市販のプロジアミン含有粒状肥料(商品名:テマナックス)の所定施用量を区画内に均一に散布した。
処理時のスズメノカタビラの葉令は、最高葉令で約1葉であった。
調査は、薬剤処理1カ月後、3カ月後および翌春ノシバが萌芽した直後の6カ月後にスズメノカタビラに対する除草効果程度およびノシバに対する薬害程度を観察調査し、本剤の有効性を調査した。
結果は、表−1に示す通りである。
【0023】
芝地内の雑草に対する除草効果は、以下に示す観察基準に従い行った。
0:無処理区同様除草効果は観察されない。
1:無処理区に対し20%程度の防除効果を示す。
2:無処理区に対し40%程度の防除効果を示す。
3:無処理区に対し60%程度の防除効果を示す。
4:無処理区に対し80%程度の防除効果を示す。
5:完全枯死
【0024】
日本芝に対する薬害程度の調査は、以下に示す観察基準に従い行った。
0:無処理区同様(影響なし)
1:僅かな薬害症状有り
2:薬害症状が観察されるが実用上問題ないと判断される程度
3:薬害症状が観察され実用できないと判断される程度
4:薬害症状は甚大であり実用できないと判断される程度
5:薬害症状により完全に枯死している程度
【0025】
【表1】

【実施例5】
【0026】
[秋冬期芝地内雑草に対する除草効果とノシバに対する薬害試験2]
茨城県において9月下旬に慣行の生育管理を行っているノシバ圃場内に1m×1mの区画を作製し、区画内にスズメノカタビラを播種した。
11月上旬に、実施例1、2、3および比較例1に準じた方法により調製した化合物1複合肥料および市販のプロジアミン含有粒状肥料(商品名:テマナックス)の所定施用量を区画内に均一に散布した。
処理時のスズメノカタビラの葉令は、最高葉令で約3葉であった。
調査は、薬剤処理1カ月後、2カ月後および翌春ノシバが萌芽した直後の5カ月後にスズメノカタビラに対する除草効果程度およびノシバに対する薬害程度を観察調査し、本剤の有効性を調査した。
結果は、表−2に示す通りである。
【0027】
【表2】

【実施例6】
【0028】
[秋冬期芝地内雑草に対する除草効果とノシバに対する薬害試験3]
茨城県において9月下旬に慣行の生育管理を行っているノシバ圃場内に1m×1mの区画を作製し、区画内にスズメノカタビラを播種した。
12月上旬に、実施例1、2、3および比較例1に準じた方法により調製した化合物1複合肥料および市販のプロジアミン含有粒状肥料(商品名:テマナックス)の所定施用量を区画内に均一に散布した。
処理時のスズメノカタビラの葉令は、最高葉令で約4葉であった。
調査は、薬剤処理1カ月後、2カ月後および翌春ノシバが萌芽した直後の4カ月後にスズメノカタビラに対する除草効果程度およびノシバに対する薬害程度を観察調査し、本剤の有効性を調査した。
結果は、表−3に示す通りである。
【0029】
【表3】

【0030】
10月処理では表1に示す通り、スズメノカタビラなどの秋冬期に発生する雑草に対し、比較例1に示した粒剤に比べ少ない有効成分量で長期間の抑草が可能であることが示された。
【0031】
また12月処理では表3に示す通り、秋冬期に発生する雑草に対する枯殺力が比較例1に比べ少ない有効成分量で高く発現し、ノシバに対する薬害が高薬量処理区において軽減されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
化合物1を含有する複合肥料を用いることにより、秋冬期に芝地内に発生する1年生イネ科雑草のスズメノカタビラに対し薬剤処理後長期間芝地内からの発生を抑制し雑草を抑草し、日本芝に対する薬害軽減により、日本芝に対し安全性の高い除草剤含有粒状肥料を提供することが可能となった。日本芝に対する肥料施肥と1年生雑草防除を、1回の散布で済ませるという場面に適用できる。















【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素と燐酸、または窒素とカリの少なくとも2種を含有し、被覆用の接着剤および樹脂を含有せず、日本芝に対する薬害の軽減されていることを特徴とする2,6−ジクロロベンゾニトリル含有粒状肥料。
【請求項2】
前記した2,6−ジクロロベンゾニトリルの含有量が0.1〜10%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の2,6−ジクロロベンゾニトリル含有粒状肥料。
【請求項3】
前記した粒状肥料の粒径が0.5mm〜3mmの範囲であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の2,6−ジクロロベンゾニトリル含有粒状肥料。
【請求項4】
前記した2,6−ジクロロベンゾニトリル含有粒状肥料が、日本芝の芝地で使用されるものである請求項1〜請求項3いずれかの項に記載の2,6−ジクロロベンゾニトリル含有粒状肥料。
【請求項5】
2,6−ジクロロベンゾニトリルの昇華を抑制するために、粒剤中に昇華抑制剤を添加することを特徴とする請求項1〜請求項4いずれかの項に記載の2,6−ジクロロベンゾニトリル含有粒状肥料。
【請求項6】
2,6−ジクロロベンゾニトリルが粒状肥料に含有されるに際して、2,6−ジクロロベンゾニトリルが揮発性有機溶媒の溶液として粒状肥料に含浸され、後に乾燥されたものである請求項1〜請求項5いずれかの項に記載の2,6−ジクロロベンゾニトリル含有粒状肥料。
【請求項7】
窒素と燐酸、または窒素とカリの少なくとも2種を含有し、被覆用の接着剤および樹脂を含有せず、日本芝に対する薬害の軽減されていることを特徴とする2,6−ジクロロベンゾニトリル含有粒状肥料を用いて、日本芝に対する肥料施肥と1年生雑草防除を1回の散布で行う方法。
【請求項8】
前記した2,6−ジクロロベンゾニトリルの含有量が0.1〜10%の範囲であることを特徴とする請求項7記載の日本芝に対する肥料施肥と1年生雑草防除を1回の散布で行う方法。
【請求項9】
前記した粒状肥料の粒径が0.5mm〜3mmの範囲であることを特徴とする請求項7または請求項8記載の日本芝に対する肥料施肥と1年生雑草防除を1回の散布で行う方法。
【請求項10】
2,6−ジクロロベンゾニトリルの昇華を抑制するために、粒剤中に昇華抑制剤が添加されていることを特徴とする請求項7〜請求項9いずれかの項に記載の日本芝に対する肥料施肥と1年生雑草防除を1回の散布で行う方法。


【公開番号】特開2007−176737(P2007−176737A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377015(P2005−377015)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】