説明

25−ヒドロキシビタミンDに対する抗体

本発明は、ヒドロキシビタミンDに対する抗体の生成方法、本発明に従って生成される抗体、およびこれらの抗体を使用した25-ヒドロキシビタミンDの検出方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(背景情報)
本発明は、25-ヒドロキシビタミンDに対する抗体の作製方法、本発明に従って作製される抗体ならびにこれらの抗体を用いた25-ヒドロキシビタミンDの検出方法に関する。
【0002】
ビタミンDの充分な供給は、用語「ビタミン」が既に示すように、生命維持に必要である。ビタミンDの欠乏は、くる病または骨粗鬆症などの重篤な疾患をもたらす。ビタミンDは、前世紀の初めは依然として単独の物質とみなされていたが、ここ30年の間に、ビタミンD系は、ビタミンD代謝産物の複雑で種々のネットワークにさらに発展した。現在、40を超える異なるビタミンD代謝産物が知られている(Zerwekh, J.E., Ann. Clin. Biochem. 41 (2004) 272-281)。
【0003】
人間は、皮膚上で日光からの紫外線の作用によりD3ビタミン類またはカルシフェロールのみ生産することができる。皮膚で生産されたビタミンD3は、これを肝臓に輸送するいわゆるビタミンD結合タンパク質に結合し、そこで、25-ヒドロキシル化によって25-ヒドロキシビタミンD3に変換される。現在、既に述べた2つの器官である皮膚および肝臓に加えて数多くの他の組織がビタミンD代謝に関与することが知られている(Schmidt-Gayk, H. et al. (編), “Calcium regulating hormones, vitamin D metabolites and cyclic AMP”, Springer Verlag, Heidelberg (1990), pp.24-47を参照)。25-ヒドロキシビタミンDおよびより詳しくは25-ヒドロキシビタミンD2および25-ヒドロキシビタミンD3は、その量に関してヒト生体におけるビタミン-Dの主要な貯蔵形態である。必要な場合、これらの前駆体は腎臓で変換され、生物学的に活性な1α,25-ジヒドロキシビタミンD、いわゆるDホルモンが形成され得る。生物学的に活性なビタミンDは、とりわけ、腸からのカルシウム摂取、骨鉱化作用を調節し、例えばインスリン系などの多数の他の代謝経路に影響する。
【0004】
患者のビタミンD状態を調べる場合、ビタミンDレベル自体を測定することは、ビタミンD(ビタミンD2およびビタミンD3)の濃度が食物摂取に応じて大きく変動するためほとんと利益はない。また、ビタミンDは、循環系において比較的短い生物学的半減期(24時間)を有し、したがって、この理由によっても、患者のビタミンD状態の測定のために適当なパラメータではない。また、同じことがビタミンDの生理学的に活性な形態(1,25-ジヒドロキシビタミンD)に当てはまる。これらの生物学的活性形態はまた、25-ヒドロキシビタミンDと比べ、比較的小さく高度に変動する濃度で生じる。これらのすべての理由のため、25-ヒドロキシビタミンDの定量は特に、患者の全体的なビタミンD状態を包括的に解析するのに適当な手段である。
【0005】
25-ヒドロキシビタミンDの高い臨床的重要性のため、25-ヒドロキシビタミンDがいくぶん確実に測定されることを可能にする多数の方法が文献から知られている。
【0006】
例えば、Haddad, J.G. et al., J. Clin. Endocrinol. Metab. 33 (1971) 992-995およびEisman, J.A. et al., Anal. Biochem. 80 (1977) 298-305は、高速液体クロマトグラフィー (HPLC)を用いた血液試料中の25-ヒドロキシビタミンD濃度の測定を記載している。
【0007】
25-ヒドロキシビタミンDの測定のための他のアプローチは、とりわけ、乳汁中に存在するものなどのビタミンD結合タンパク質の使用に基づく。したがって、Holick, M.F.およびRay, R. (US 5,981,779)ならびにDeLuca et al. (EP 0 583 945)は、ヒドロキシビタミンDおよびジヒドロキシビタミンDに関するビタミンDアッセイを記載しており、該アッセイはこれらの物質のビタミンD結合タンパク質への結合に基づき、この場合、これらの物質の濃度は、競合試験手順によって測定される。しかしながら、この方法の必要条件は、測定されるビタミンD代謝産物を、まず、有機抽出によって元の血液または血清試料から単離しなければならず、例えばクロマトグラフィーによって精製しなければならないことである。
【0008】
Armbruster, F.P. et al. (WO 99/67211)は、エタノール沈殿によるビタミンD測定のために血清または血漿試料を調製すべきであることを教示する。この方法では、タンパク質沈殿物は遠心分離によって除去され、エタノール上清みは可溶性ビタミンD代謝産物を含有する。これらは、競合的結合アッセイにおいて測定され得る。
【0009】
あるいは、EP 0 753 743は、タンパク質は、過ヨウ素酸塩を用いて血液または血清試料から分離され得ることを教示する。この場合、ビタミンD化合物は、過ヨウ素酸塩で処理した試料由来のタンパク質無含有上清み中で測定される。いくつかの市販の試験では、血清または血漿試料の抽出にアセトニトリルが推奨される(例えば、DiaSorinのラジオイムノアッセイまたは「Immundiagnostik」CompanyのビタミンD試験において)。
【0010】
近年、原理的には試料中に存在する結合タンパク質からビタミンD化合物を放出させるのに適するいくつかの異なる放出試薬が提案された。しかしながら、この放出または脱離は、比較的穏やかな条件下で行なうべきであり、したがって、結合試験において放出試薬で処理した試料の直接使用が可能になる(例えば、WO 02/57797およびUS 2004/0132104を参照)。近年の莫大な努力にもかかわらず、ビタミンDの測定に利用可能なすべての方法は、面倒な試料調製、不充分な標準化、試験手順間の不充分な一致または強化(spiked)ビタミンDの不良な回収などの特定の不都合点を有する(これについては、特に、上記のZerwekh, J.E.を参照)。
【0011】
特に、従来技術では、25-ヒドロキシビタミンDを測定するための抗体が確実に作製するために使用され得る方法は記載されていない。したがって、本発明の目的は、とりわけ、25-ヒドロキシビタミンD試験のための適当な抗体を確実に作製するために使用され得る方法を見出すことであった。かかる方法、該方法によって作製される抗体、ならびにこれらの抗体を用いてビタミンDを測定するための方法およびキットを以下に記載する。
【0012】
発明の要旨
本発明は、以下の工程:
a) ハプテンとして25-ヒドロキシビタミンD3または25-ヒドロキシビタミンD2を含むコンジュゲートで実験動物を免疫する工程、
b) 前記実験動物から血清または血漿を単離する工程および
c) それぞれ25-ヒドロキシビタミンD2または25-ヒドロキシビタミンD3を含む相補的なマトリックスへの免疫吸着によって血清または血漿中に含まれる抗体を精製する工程
を含む25-ヒドロキシビタミンDに対する抗体の作製方法に関する。
【0013】
さらに、本発明は、およそ10%〜1000%の大きさの25-ヒドロキシビタミンD2との交差反応を有する25-ヒドロキシビタミンD3に対する抗体に関する。
【0014】
本出願はまた、本発明による抗体が、25-ヒドロキシビタミンDを検出するための自動化された試験にどのようにして使用され得るかを記載する。
【0015】
また、試験手順に必要とされる試薬組成物、とりわけ、本発明による25-ヒドロキシビタミンDに対する抗体を含む25-ヒドロキシビタミンDを検出するための試験キットが開示される。
【0016】
(詳細説明)
本発明は、以下の工程:
a) ハプテンとして25-ヒドロキシビタミンD3または25-ヒドロキシビタミンD2を含むコンジュゲートで実験動物を免疫する工程、
b) 前記実験動物から血清または血漿を単離する工程および
c) それぞれ25-ヒドロキシビタミンD2または25-ヒドロキシビタミンD3を含む相補的なマトリックスへの免疫吸着によって血清または血漿中に含まれる抗体を精製する工程
を含む25-ヒドロキシビタミンDに対する抗体の作製方法に関する。
【0017】
特に記載のない限り、用語「ビタミンD」は、以下の構造式IおよびIIによるビタミンD2およびビタミンD3の形態を含むと理解されたい。
式I


式II

【0018】
構造式IおよびIIにおいて、ビタミンDの位置はステロイド命名法に従って記載する。25-ヒドロキシビタミンDは、構造式IおよびIIの25位がヒドロキシル化されたビタミンD代謝産物、すなわち、25-ヒドロキシビタミンD2および25-ヒドロキシビタミンD3を表す。既に上記で明らかなように、25-ヒドロキシビタミンD2および25-ヒドロキシビタミンD3は、診断についてビタミンDの特に関連した形態である。
【0019】
1,25-ジヒドロキシビタミンDは、構造式IおよびIIの1位および25位にヒドロキシル化を有するビタミンDの活性形態(いわゆるDホルモン)をいう。
【0020】
他の公知のビタミンD代謝産物は、24-ジヒドロキシビタミンD2および25-ジヒドロキシビタミンD2ならびに24-ジヒドロキシビタミンD3および25-ジヒドロキシビタミンD3である。
【0021】
すべての公知のビタミンD代謝産物は、したがって免疫原性ではない。ビタミンD代謝由来の成分の化学的活性化およびその担体分子またはレポーター基へのカップリングは、些細なことではない。したがって、成功する免疫のためには、例えばハプテンとして25-ヒドロキシビタミンDを含むコンジュゲートを作製することが必須である。用語ハプテンは、当業者により、それ自体では免疫原性ではないが、より大きな担体分子とカップリングさせることにより、これに対して抗体が生じ得る形態で存在する物質である理解される。ハプテンコンジュゲートの作製に適当な担体物質は当業者に公知である。ウシ血清アルブミン、β-ガラクトシダーゼまたはいわゆるキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)が通常担体物質として使用される。
【0022】
KLHは、本発明による方法に特に適当な担体であることが示されている。したがって、25-ヒドロキシビタミンDおよびKLHのコンジュゲートが免疫に好ましく使用される。
【0023】
式IおよびIIに示す構造の種々の位置が、原理的に、活性化および担体物質のカップリングに適当である。25-ヒドロキシビタミンD2または25-ヒドロキシビタミンD3の3位を介したカップリングは、例えば、適当な様式で25-ヒドロキシビタミンDに結合する抗体の作製に有利なことが示されている。したがって、好ましい態様において、主鎖の3位を介してカップリングされた(式IおよびII参照)25-ヒドロキシビタミンD3または25-ヒドロキシビタミンD2を含むコンジュゲートが本発明による免疫方法に使用される。
【0024】
本発明の研究の一部である一連の実験において、25-ヒドロキシビタミンD3マトリックスへの免疫吸着によって25-ヒドロキシビタミンD3免疫原を用いて作製された抗体を精製するため、およびこれらを対応する試験に使用するための試みがなされた。しかしながら、これらの実験は不成功であった。しかしながら、驚くべきことに、同じ血清から、25-ヒドロキシビタミンD2マトリックスへの免疫吸着によって適当な抗体が得られ得ることがわかった。この方法は、確実で再現性があることが示された。したがって、本発明による方法は、25-ヒドロキシビタミンDのそれぞれの相補的な形態のコンジュゲートを含むマトリックスへの免疫吸着によって血清または血漿から25-ヒドロキシビタミンDx(ここでx=2または3)に対する抗体を精製するための工程を含む。この意味において、25-ヒドロキシビタミンD3は25-ヒドロキシビタミンD2に相補的であり、逆に25-ヒドロキシビタミンD2は25-ヒドロキシビタミンD3に相補的である。これは、25-ヒドロキシビタミンD3で免疫した場合に25-ヒドロキシビタミンD2への免疫吸着が行なわれ、25-ヒドロキシビタミンD2で免疫した場合に25-ヒドロキシビタミンD3への免疫吸着が行なわれることを意味する。
【0025】
さらに、免疫に使用される25-ヒドロキシビタミンDコンジュゲート、および免疫吸着に使用されるマトリックスにおける化学的カップリングでは、ビタミンD主鎖の同じ位置の使用することが有利であることが示された。25-ヒドロキシビタミンD3コンジュゲートにおけるカップリングは、好ましくは、免疫には25-ヒドロキシビタミンD3の3位を介し、25-ヒドロキシビタミンD2もまた、マトリックスの3位に好ましくカップリングされる。
【0026】
逆の手順、すなわち、25-ヒドロキシビタミンD2コンジュゲートでの免疫および25-ヒドロキシビタミンD3がカップリングされるマトリックスでの免疫吸着もまた成功である。本発明の別の好ましい要素において、25-ヒドロキシビタミンD2コンジュゲートは、免疫原コンジュゲートとして使用され、この免疫原を用いて生成される抗体は、25-ヒドロキシビタミンD3マトリックスに免疫吸着される。
【0027】
EAH-セファロースは、免疫吸着のためのマトリックス材料として特に適当であることが示された。好ましい態様において、25-ヒドロキシビタミンD3または25-ヒドロキシビタミンD2に対する免疫から血清または血漿中に含有される抗体は、25-ヒドロキシビタミンD2または25-ヒドロキシビタミンD3を含むマトリックスを用いた免疫吸着によって精製される。EAH-セファロースは好ましいカラム材料である。
【0028】
既に詳細に記載した手順、すなわち、例えば、25-ヒドロキシビタミンD3コンジュゲートでの免疫および25-ヒドロキシビタミンD2コンジュゲートを用いた免疫吸着を用い、25-ヒドロキシビタミンDの両方の形態、すなわち、25-ヒドロキシビタミンD2および25-ヒドロキシビタミンD3と反応する抗体を再生可能に作製することが可能である。このようにして得られた抗体は、およそ10%〜1000%の大きさの交差反応を有する。したがって、好ましい態様において、本発明は、例えば、25-ヒドロキシビタミンD2と10%〜1000%の交差反応を有する25-ヒドロキシビタミンD3に対する抗体に関する。また、相補的な25-ヒドロキシビタミンD形態との交差反応は、好ましくは20%〜500%の範囲である。交差反応の程度は、本発明により作製される抗体を用いた免疫学的試験方法において測定される。ハプテンとしての25-ヒドロキシビタミンD3に対して生成される抗体は、同じ被検物濃度の25-ヒドロキシビタミンD2または25-ヒドロキシビタミンD3を用いた場合、例えば25-ヒドロキシビタミンD2に対して10%の交差反応を有し、25-ヒドロキシビタミンD3に関して作成した較正曲線において、25-ヒドロキシビタミンD3のわずか10分の1が読み取られる。
【0029】
本発明の方法によって作製される25-ヒドロキシビタミンDに対する抗体は、25-ヒドロキシビタミンDの自動化された試験における使用に適当であることが示された。したがって、本発明は、好ましくは、25-ヒドロキシビタミンDの検出のための免疫学的試験における25-ヒドロキシビタミンDに対する抗体の使用に関する。25-ヒドロキシビタミンDのための試験は、好ましくは完全に自動化される。本発明による抗体は、Roche Diagnosticsの自動化Elecsys(登録商標)解析装置で行なわれ得る試験において特に好ましく使用される。
【0030】
本発明による教示により、当業者は、25-ヒドロキシビタミンDの検出に必要とされるすべての成分を含む試験キットを作製することが可能になる。25-ヒドロキシビタミンDの検出のための好ましい試験キットは、特に、かかるキットが両方の形態の25-ヒドロキシビタミンDを認識する、すなわち、各場合で25-ヒドロキシビタミンDの相補的な形態に対して10%〜1000%の交差反応を有する25-ヒドロキシビタミンDに対する抗体を含むことを特徴とする。
【0031】
該試験は、好ましくは、本発明による25-ヒドロキシビタミンDに対する抗体が検出試薬として好ましく使用される競合的イムノアッセイとして行なわれる。競合試験において、規定量で試験に添加される25-ヒドロキシビタミンD「壁(wall)抗原」は、試料由来の25-ヒドロキシビタミンDと検出抗体の結合部位に関して競合する。試料中に存在する25-ヒドロキシビタミンDが多いほど、検出シグナルは少ない。
【0032】
また、競合試験において壁抗原として存在する25-ヒドロキシビタミンDの形態を免疫吸着に使用される形態に対応させることが有利であることが示された。例えば、25-ヒドロキシビタミンD3を含有する免疫原で免疫した場合、免疫吸着は25-ヒドロキシビタミンD2マトリックスにおいて行なわれ、25-ヒドロキシビタミンD2誘導体は、試験において壁抗原として好ましく使用される。また、壁抗原は、好ましくは、免疫原および免疫吸着のマトリックスに使用される25-ヒドロキシビタミンDと同じ環の位置が修飾される。
【0033】
さらなる好ましい態様において、本発明は、25-ヒドロキシビタミンDコンジュゲートでの免疫および相補的な25-ヒドロキシビタミンDコンジュゲートへの免疫吸着によって得られたポリクローナル抗体が使用され、競合試験において免疫原に相補的な25-ヒドロキシビタミンDの誘導体が壁抗原として使用される25-ヒドロキシビタミンDの免疫学的検出方法に関する。
【0034】
本発明は、以下の実施例および図面によってさらに明らかにされる。実際の保護範囲は、本発明に添付された特許請求の範囲からもたらされる。
【0035】
実施例1
25-ヒドロキシビタミンD3-3-ヘミスクシネート-KLHの合成
この合成のために、25-ヒドロキシビタミンD3を3位(式II参照)で化学的に活性化し、免疫原支持体としてKLHに結合させた。中間工程25-ヒドロキシビタミンD3-3-ヘミスクシネートおよび25-ヒドロキシビタミンD3-3-ヘミスクシネート-N-ヒドロキシスクシニミドエステルを介するこの合成を図1に模式的に示す。
【0036】
1.1 25-ヒドロキシビタミンD3-3-ヘミスクシネートの調製
10mg(25μmol)25-ヒドロキシビタミンD3(Sigma-Aldrich, No. H-4014)を、1mlの無水ピリジンに溶解して、室温、暗室下で4日間、125mg(1.25mmol)の無水コハク酸と共に攪拌する。反応混合物を10mlの酢酸エチルに溶解してそれぞれの場合において、2x10mlの水、0.1M塩酸およびその後再び水で洗浄する。約1gの無水硫酸ナトリウムを用いて有機相を乾燥させて濾過して、真空下で溶媒を除去する。残りの固体を高真空下で乾燥させる。10.5mg(収率84%)の無色の固形物を得る。
【0037】
1.2 25-ヒドロキシビタミンD3-3-ヘミスクシネート-N-ヒドロキシスクシニミドエステルの調製
10.0mg(20μmol)の25-ヒドロキシビタミンD3-3-ヘミスクシネートを7mlの無水ジクロロメタンに溶解し、2.76mg(24μmol)のN-ヒドロキシ-スクシニミドおよび3.72mg(24μmol)N(3-ジメチルアミノプロピル)-N′-エチル-カルボジイミド(EDC)と混合する。アルゴン下で一晩攪拌して、次いで有機相を10mlの水で2度洗浄し、約1gの無水硫酸ナトリウムで乾燥させ濾過する。真空下で溶媒を除去し、残りの反応生成物を高真空下で3時間、乾燥させる。さらなる精製を行なうことなくコンジュゲートに使用する、11.3mg(収率94%)のN-ヒドロキシスクシニミドエステルを得る。
【0038】
1.3 25-ヒドロキシビタミンD3-3-ヘミスクシネート-KLHの合成
150mgのキーホールリンペットヘモシアニン(KLH; Sigma-Aldrich No. H 8283)を25mlの0.1Mリン酸カリウム緩衝液pH8.0に溶解し、2ml DMSO中11.3mgのN-ヒドロキシ-スクシニミドエステルを添加した。室温で一晩攪拌し、次いで生成物をゲルカラム(AcA 202、カラム容積0.5l;0.1Mリン酸カリウム緩衝液pH7.0)で精製する。コンジュゲートされたタンパク質を含有する画分をUV吸光(λ=256nm)で検出して貯める。10%グリセロールを添加して、灰色乳光溶液を免疫に使用した。
【0039】
実施例2
25-ヒドロキシビタミンD3に対する抗体の精製および単離
2.1 免疫
ヒツジで抗体を生成する。実施例1の25-ヒドロキシビタミンD3-3-ヘミスクシネートKLHコンジュゲートを免疫に使用する。免疫用量は動物当り0.1mgである。完全フロイトアジュバント中で1回目の免疫を行なう。10ヶ月かけて、不完全フロイトアジュバント中で4週間の間隔を開けて、さらに免疫を行なう。各免疫間隔の中間点で血清を回収する。
【0040】
2.2 ポリクローナルヒツジ抗体の精製
Aerosil(登録商標)(1.5%)の補助により25-ヒドロキシビタミンD3-3-ヘミスクシネート-KLHコンジュゲートで免疫したヒツジの血清から脂質含有成分を取り除く。その後、硫酸アンモニウム(1.7M)で免疫グロブリンを沈殿させる。50mM NaClを含有するpH7.0の15mMリン酸カリウム緩衝液で沈殿物を透析し、その後DEAEセファロースでクロマトグラフィーにより精製する。IgG画分(=PAB<25-ヒドロキシビタミンD3>S-IgG(DE))をこのクロマトグラフィーカラムのフロースルーから得る。
【0041】
2.3 25-ヒドロキシビタミンD特異的抗体を精製するためのアフィニティークロマトグラフィー
特異性決定因子としてコンジュゲート25-ヒドロキシビタミンD2を含有する免疫吸着体をポリクローナル抗体の免疫クロマトグラフ精製用に調製する。以下の手順により免疫吸着体を得る。
【0042】
a) ヒドロキシビタミンD3-3-2’シアノエチルエーテルの合成
20.6mg(50μmol)25-ヒドロキシビタミンD2(Fluka No.17937)を内部温度計を備えた25ml三つ口丸底フラスコ中、10ml乾燥アセトニトリルにアルゴン雰囲気下で溶解する。1.5ml tert.-ブタノール/アセトニトリル(9:1)を溶液に添加し、氷浴中6℃まで冷却する。続いて820μlのアクリロニトリル溶液(1.0mlアセトニトリル中86μlのアクリロニトリル)を添加し、15分間6℃で攪拌する。次いで、205μlの水素化カリウム溶液(0.5ml tert.-ブタノール/アセトニトリル9:1中25mg KH)を添加する。フロキュレーションを生じた後に透明な溶液が得られる。反応溶液をさらに45分、6℃で攪拌し、続いて4℃で60分間攪拌する。
【0043】
その後反応溶液を10mlメチルtert.-ブチルエーテルで希釈し、毎回10mlのH2Oで2回洗浄する。有機相を約1gの無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、G3ガラスフリットで濾過し、回転式エバポレーターで蒸発させる。それを高真空下で乾燥させ約55mgの質量を有する粘着性の透明な残渣とする。
【0044】
b) ヒドロキシビタミンD2-3-3’アミノプロピルエーテル
先に得られたニトリル全体を15mlジエチルエーテルに溶解し、攪拌しながら7.5mlジエチルエーテル中の7.5mg水素化リチウム懸濁物と混合する。反応混合物を室温で1時間攪拌する。その後38.4の水素化リチウムアルミニウムの6.6mlジエチルエーテル中懸濁物を添加する。これは混合物の強い混濁を生じる。反応混合物をさらに1時間室温で攪拌し、次いで反応混合物を氷浴中で0〜5℃に冷却して35mlの水を注意深く添加する。10Mの水酸化カリウム溶液を添加してpHを強塩基性にする。
【0045】
これを毎回65mlのメチルtert.-ブチルエーテルで3回抽出する。混合した有機相を約5gの無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、濾過して室温で回転式エバポレーターにより蒸発させる。残渣を乾燥させオイルポンプを用いて質量定常性にする。粗生成物5ml DMSOおよび3.0mlアセトニトリルに溶解して予備的HPLCにより精製する。
溶出A = Millipore H2O + 0.1%トリフルオロ酢酸;
溶出B= 95%アセトニトリル+ 5%Millipore H2O + 0.1% TFA;
勾配:100分で50%B〜100%B
流速: 30ml/分
温度: 室温
カラム寸法: φ= 5.0cm; L = 25cm;
カラム材質: Vydac C18/300Å/15〜20μm
測定波長: 226 nm
【0046】
生成物含有量が85%より高いHPLC(Vydac C18/300Å/5μm; 4.6 x 250mm)による画分を丸底フラスコに集め、凍結乾燥して13.7mg(収量58%)の無色の凍結乾燥物を得る。
【0047】
c) ヒドロキシビタミンD2-3-3'-N-(ヘミスベリル)アミノプロピル-エーテル-ヒドロキシスクシニミドエステルの合成
11.7mg(25μmol)のアミノ誘導体を5mlの新しい蒸留DMFに溶解し、92mg(250μmol)のスベリン酸-N-ヒドロキシスクシニミドエステルを添加する。3.5μlトリエチルアミンを添加し、溶液を一晩アルゴン下で攪拌する。粗生成物を予備的HPLC(上述の条件)で精製する。凍結乾燥後10.1mg(収率56%)のN-ヒドロキシスクシニミドエステルを得る。
【0048】
d) ヒドロキシビタミンD2免疫吸着体の合成
G3ガラスフリット上で20ml EAHセファロース(Amersham Biosciences, No. 17-0569-03)を200ml 0.5M塩化ナトリウム溶液を用いて洗浄して200ml 0.03Mリン酸ナトリウム緩衝液pH7.1で平衡化する。余分な液体をフリットから排出した後懸濁物を200mlの同じ緩衝液に溶解し、10ml DMSO中で1.7mg(2.3μmol)のN-ヒドロキシスクシニミドエステルを添加する。反応混合物をシェーカーで、室温で一晩かき混ぜる。それを再びG3ガラスフリットに移し、排出させて500ml 0.05Mリン酸カリウム緩衝液/0.15M塩化ナトリウムpH7.0で洗浄する。完全に排出した後、それを25mlの同じ緩衝液に再懸濁し、保存のために0.15mlの25%アジ化ナトリウム溶液を添加する。
【0049】
e) 抗体の精製
10mlのd)のアフィニティーマトリックスをカラムに詰め、50mMリン酸カリウム緩衝液、150mM NaCl、pH7.5(PBS)で平衡化する。3.6gのPAB<25-ヒドロキシビタミンD3>S-IgG(DE)をカラムに流す。カラムをPBS、0.05%Tween(登録商標)20および30mM塩化ナトリウムを含有する0.5M NaCl溶液で段階的に洗浄する。特異的に結合した免疫グロブリンを3mM HCl溶液を用いてアフィニティーマトリックスから解離する。凍結乾燥物をPBSに溶解し、Superdex200(登録商標)上でクロマトグラフィーにより凝集物を除去し、この方法で得られる免疫吸着したポリクローナル抗体をさらなる工程に使用する。免疫アフィニティーマトリックスを1Mプロピオン酸で再生し、0.9%アジ化ナトリウムを含有するPBS溶液中で保存する。
【0050】
実施例3
25-ヒドロキシビタミンDの検出アッセイ
製造業者の指示に従い市販のアッセイを用いる。25-ヒドロキシビタミンDの測定を、文献に記載されるようにHPLC(“Immundiagnostik” Company, Bensheim, 注文番号KC 3400の25(OH)ビタミンD3用試験)またはLC-MS-MS(Vogeser, M. et al., Clin. Chem. 50 (2004) 1415-1417)により実施する。
【0051】
新しい免疫試験の成分の調製および一般的な試験手順を、本発明により生成される抗体に基づき以下に記載する:
【0052】
3.1 ヒドロキシビタミンD2-3-3'-N-(ヘミスベリル)アミノプロピル-エーテル-ビオチン-(β-Ala)-Glu-Glu-Lys(ε)コンジュゲート(=Ag-Bi)の合成
13.7mg(25μmol)ヒドロキシビタミンD2-3-3'アミノプロピルエーテルを3.5ml DMSOに溶解し、28.7mg(30μmol)ビオチン-(β-Ala)-Glu-Glu-Lys(ε)-ヘミ-スべリン酸-N-ヒドロキシスクシニミドエステル(Roche Applied Science, No. 11866656)および12.5μlトリエチルアミンを添加して、それを室温で一晩攪拌する。反応溶液を4.5ml DMSOに希釈し、0.45μmのマイクロフィルターで濾過し、続いて予備的HPLC(条件は実施例2.3 b)を参照)により精製する。解析HPLCによる85%より多くの生成物を含有する画分を集めて凍結乾燥する。9.8mg(収率30%)の精製ビオチンコンジュゲートを得る。
【0053】
3.2 アフィニティークロマトグラフィーで精製される25-ヒドロキシビタミンD(=PAB-Ru)に対するポリクローナル抗体のルテニウム付加
実施例2.3 e)でアフィニティー精製される抗体を100mMのリン酸カリウム緩衝液、pH8.5に移し、タンパク質濃度を1mg/mlに調整する。ルテニウム付加試薬(ルテニウム(II)tris(ビピリジル)-N-ヒドロキシスクシニミドエステル)をDMSOに溶解し、7.5:1のモル比で抗体溶液に添加する。60分の反応時間後に、l-リシンを添加して反応を停止し、余分な標識試薬をSephadex G25上でゲル透化クロマトグラフィーにより分離する。
【0054】
3.3 イムノアッセイの試験手順
Roche Diagnostics companyのElecsys(登録商標)システムを用いて試料を測定する。25μlの試料を30μlの放出試薬と混合し、同時にまたは続いて15μlのルテニウム付加検出抗体と混合し、9分間インキュベートする。次の工程でビオチン付加壁抗原(biotinylated wall antigen)(50μl)を添加し、pH値をさらなる放出試薬(50μl)の添加により所望の範囲で一定にする。さらに9分間インキュベートした後、ストレプトアビジン(SA)でコートした磁性ポリプロピレン粒子(30μl)を添加してさらに9分間インキュベートし、その後結合するルテニウム付加抗体の量を常法で測定する。
【0055】
ルテニウム付加<25-OH-ビタミンD>抗体コンジュゲートを含有する溶液は
20mM リン酸緩衝液、pH6.5
0.1% オキシピリオン(oxypyrion)
0.1% MIT(N-メチルイソチアゾロン-HCl)
10% DMSO(ジメチルスルホキシド)
1% EtOH(エタノール)
0.1% ポリドカノール
1% ウサギIgG(DET)
2.0μg/ml PAB-Ru(実施例3.2由来)
を含有する。
【0056】
放出試薬は
220mM 酢酸緩衝液、pH4.0
0.1% オキシピリオン
0.1% MIT
10% DMSO
1% EtOH
0.1% ポリドカノール
0.2% ウサギIgG
を含有する。
【0057】
ビオチン付加壁抗体を有する溶液は
20mM リン酸緩衝液、pH6.5
0.1% オキシピリオン
10% DMSO
1% EtOH
0.1% ポリドカノール
0.2% ウサギIgG
0.18μg/ml Ag-Bi(実施例3.1由来)
を含有する。
【0058】
SAコートラテックス粒子の懸濁物は
0.72mg/ml 470ng/mlの結合容量を有するSAコート磁性ポリプロピレン粒子
を含有する。
【0059】
実施例4
結果および考察
4.1 25-ヒドロキシビタミンD3を免疫原および免疫吸着体として用いて得られる抗体
多くの(失敗した)実験において、従来技術の方法、即ち25-ヒドロキシビタミンD3による免疫および25-ヒドロキシビタミンD3に対する免疫吸着により生成した抗体を使用した。図4は、一例として、これらの抗体が25-ヒドロキシビタミンDの確実な測定に適さないことを示す。図4は、これらの抗体を使用したイムノアッセイで測定された25-ヒドロキシビタミンD値が参照の方法(HPLC)と一致しないことを明示する。
【0060】
4.2 HPLCとLC-MS-MSの比較
Vogeser, M., et al., Clin. Chem. 50 (2004) 1415-1417に記載されるようなLC-MS-MSによるビタミンD代謝の検出は、徐々にビタミンD代謝測定値の基準方法になってきている。そのために、従来のHPLCの基準方法が、より新しいLC-MS-MSの基準方法と同等の値を生じるかどうかを調べた。図5から分かるように、両方の基準方法は良好に同等である。直線回帰により0.94の相関係数が測定された。
【0061】
4.3 本発明による25-ヒドロキシビタミンDに対する抗体を用いるイムノアッセイ
新しい免疫試験において、および25-ヒドロキシビタミンDの含有量に関するLC-MS-MSにより、全体で66の試料を比較する。図6から分かるように、両方の方法で測定された値は非常に良く一致する。直線回帰により0.85の相関係数が生じる。両方の解析法は完全に異なる原理に基づくことを考慮すると、これは驚くほどに高い。
【0062】
従って、25-ヒドロキシビタミンDの検出試験は、25-ヒドロキシビタミンDの確実な検出が可能な本発明の抗体を用いて確立され得る。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、25-ヒドロキシビタミンD3免疫原の合成の概略図である。ビタミンD3は、式IIの主鎖の3位を介して活性化し、担体としてのキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)にカップリングした。
【図2】図2は、25-ヒドロキシビタミンD2免疫吸着体の合成の概略図である。ビタミンD2は、式Iの主鎖の3位を介して活性化し、マトリックス材料 EAH-セファロースにカップリングした。
【図3】図3は、ビオチン化ビタミンD2の合成の概略図である。壁抗原として使用される25-ヒドロキシビタミンD2の合成工程を図式的に示す。
【図4】図4は、従来技術の抗体を用いたイムノアッセイである。25-ヒドロキシビタミンDの含有量をイムノアッセイおよびHPLCによって合計32の試料において測定した。イムノアッセイにおいて測定された値をY軸に、およびHPLC値をX軸にプロットする。
【図5】図5は、HPLCおよびLC-MS-MSの比較である。25-ヒドロキシビタミンDの含有量をLC-MS-MSおよびHPLCによって合計66の試料において測定した。LC-MS-MSにおいて測定された値をY軸に、およびHPLC値をX軸にプロットする。
【図6】図6は、本発明による抗体を用いたイムノアッセイおよびLC-MS-MSの比較である。25-ヒドロキシビタミンDの含有量を本発明による抗体に基づくイムノアッセイおよびHPLCによって合計66の試料において測定した。イムノアッセイにおいて測定された値をY軸に、およびHPLC値をX軸にプロットする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 実験動物を、ハプテンとして25-ヒドロキシビタミンD3または25-ヒドロキシビタミンD2を含むコンジュゲートで免疫する工程、
b) 前記実験動物から血清または血漿を単離する工程、および
c) 血清または血漿に含まれる抗体を、25-ヒドロキシビタミンD2または25-ヒドロキシビタミンD3それぞれを含む相補的なマトリックスへの免疫吸着により精製する工程
を含む、25-ヒドロキシビタミンDに対する抗体の生成方法。
【請求項2】
25-ヒドロキシビタミンD3コンジュゲート中の結合が、25-ヒドロキシビタミンD3の3位を介することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
25-ヒドロキシビタミンD2コンジュゲート中の結合が、25-ヒドロキシビタミンD2の3位を介することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
25-ヒドロキシビタミンD2が、25-ヒドロキシビタミンD2の3位を介した免疫吸着に使用されるマトリックスに結合することを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項5】
25-ヒドロキシビタミンD3が、25-ヒドロキシビタミンD3の3位を介した免疫吸着に使用されるマトリックスに結合することを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項6】
25-ヒドロキシビタミンD2と10%〜1000%の交差反応を有する、25-ヒドロキシビタミンD3に対する抗体。
【請求項7】
25-ヒドロキシビタミンD2と20%〜500%の交差反応を有する、25-ヒドロキシビタミンD3に対する抗体。
【請求項8】
25-ヒドロキシビタミンD3の検出試験における、請求項6または7記載の抗体の使用。
【請求項9】
請求項6または7記載の抗体を含むことを特徴とする、25-ヒドロキシビタミンD3検出用試験キット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−509992(P2009−509992A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532656(P2008−532656)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009360
【国際公開番号】WO2007/039193
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】