説明

3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミン、及びその製造方法

本発明は、3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミン、並びにその製造方法に関し、この製造方法は、a)シクロヘキセノンとシアン水素とを、塩基性触媒の存在下で反応させる工程、b)工程a)で得られたシクロヘキサノンニトリルとアンモニアとを、イミン形成触媒の存在下で反応させる工程、及びc)工程b)で得られた3−シアノシクロヘキシルイミン含有反応混合物を、水素及びアンモニアと、水素化触媒で反応させる工程を有するものである。本願発明はさらに、3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンを、エポキシ樹脂用硬化剤として、ジイソシアネート製造の際の中間生成物として、ポリエーテルオール製造の際に開始剤として、及び/又はポリアミド製造のためのモノマーとして用いる使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミン(アミノメチルシクロヘキシルアミン、AMCHA)、並びにその製造方法に関し、この製造方法は、
a)シクロヘキセノンとシアン水素とを反応させる工程、
b)引き続き、工程a)で得られたシクロヘキサノンニトリルとアンモニアとを、イミン形成触媒の存在下で反応させる工程、及び
c)工程b)で得られた3−シアノシクロヘキシルイミン含有反応混合物を、水素及びアンモニアと、水素化触媒で反応させる後続の工程
を有するものである。
【0002】
本発明はさらに、3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンの使用に関する。
【0003】
脂環式ジアミンは、エポキシ樹脂で硬化剤として、ポリウレタン製造の際に重要となるジイソシアネート製造における中間生成物として、ポリエーテルオール製造における開始剤として、並びにポリアミド製造のためのモノマーとして使用される。
【0004】
使用されるジアミンの構造は、ジアミンから製造されるポリマー材料の特性、例えば耐候性、加水分解耐性、耐薬品性、耐光性、電気特性、及び機械特性に影響を与え得る。前記構造はまた、ジアミンを加工して相応するポリマー材料にすること、例えばエポキシ樹脂の硬化に影響を与え得る。
【0005】
工業的に使用される環式ジアミンは例えば、イソホロンジアミン(IPDA)、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン(PACM)、及び1,2−ジアミノシクロヘキサン(DACH)である。PACMとDACHは、相応する芳香族化合物、例えば4,4’−ジアミノジフェニルメタン若しくはo−フェニレンジアミンの水素化によって合成することができる。DACHはさらに、ヘキサメチレンジアミン生成で副生成物として現れる。
【0006】
DACHとPACMの場合、両方のアミノ基が脂肪族環のところで直接置換されており、よって同一の、又は少なくとも1つの類似の反応性を有する。特定の適用及び特性のため、ジアミンの両方のアミノ基が異なる反応性を有していれば有利であり得る。と言うのも、これによって加工性及び硬化性が影響を受けるからである。例えばIPDAの場合には、1つのアミノ基が直接脂肪族環と結合されている一方で、もう一方のアミノ基はメチレン架橋によって脂肪族環と結合されている。IPDAは通常、シアン水素をイソホロンに付加させてイソホロンニトリルにし、そして引き続きアンモニアの存在下で水素化してIPDAにすることによって製造される。
【0007】
同様にEP-A1-0394058には、反応性が異なるアミノ基を有する脂環式ジアミンが開示されている。アルキルフェニルケトンのニトロ化によりニトロフェニルアルキルケトンが得られ、これを水素及びアンモニアの存在下で(アミノフェニル)アルキルアミンに反応させる。これを引き続き相応する(アミノシクロヘキシル)アルキルアミンに還元する。最終的な水素化工程での収率は、約80〜90%である。
【0008】
EP-A1-0895984には、アルキル置換された3−ホルミルシクロアルカノンの還元アミノ化によって、反応性が異なるアミノ基を有する脂環式ジアミンの製造が記載されている。アルキル置換された3−ホルミルシクロアルカノンはここでも、アルキル置換されたシクロアルケノン及びホルムアルデヒドの反応によって得られる。使用されるシクロアルケノンから出発すると、アルキル置換された脂環式ジアミンの収率は、50〜60%の範囲である。
【0009】
IPDA、またEP-A-0394058で開示された(アミノシクロヘキシル)アルキルアミン、並びにEP-A1-0895984で開示されたアルキル置換された脂環式ジアミンは、1つ又は複数のアルキル置換基を有する。
【0010】
多くの適用にとって、アルキル分枝の無い脂環式ジアミンを使用することが有利であり得る。
【0011】
例えば、エポキシ樹脂で硬化剤として、ポリウレタン製造における中間生成物として、ポリエーテルオール製造における開始剤として、並びにポリアミド製造のためのモノマーとしてジアミンを使用する際、合目的な特性、例えば耐光性、加水分解耐性、耐薬品性、耐光性、電気特性、及び機械特性を調整し、これらに影響を与えるためには、多様な要求と様々な使用領域が原因で多くの基礎構造のバリエーションが必要となる。
【0012】
とりわけ本発明の範囲では脂環式ジアミンを利用すべきであり、これはIPDAと比較して様々な粘度若しくは溶解性を有し、これによって別のエポキシ樹脂成分、例えばビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBA)に対して別の相挙動が示される。と言うのも、これによってエポキシ樹脂調製の際により高い可撓性が可能になるからである。
【0013】
本発明によってさらに、3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミン(AMCHA)の製造方法が利用可能になり、これは高い空時収率を達成し、かつシス−アミノメチルシクロヘキシルアミン対トランス−アミノメチルシクロヘキシルアミンの異性対比を、反応条件の制御により特定の範囲内にするように影響を与えることを可能にするものである。と言うのも、これらの異性体はその反応性が異なるからである。とりわけこの方法によって、シス異性体対トランス異性体の高い比(CTV)が可能になる。
【0014】
加えて、反応混合物から分離困難な副生成物が非常に僅かにしか形成されないAMCHAの製造方法が利用可能になる。それは例えば、還元アミノ化の際に2つのニトリル基又はケト基のカップリングによって異なる分子を生じさせ得る二量体の形成である。とりわけ、反応生成物の高いニトリル変換率若しくは飽和度が達成されるのが望ましかった。と言うのも、ニトリルアミン又はアミノイミンはポリマー材料の特性を悪化させ、C−C二重結合は本来の色を損う可能性があるからである。その上、部分飽和化合物は通常、飽和反応生成物から分離するのが困難である。さらには高い方法経済性が、高収率及び高選択性により達成される。
【0015】
これに従って式(I)の化合物3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミン
【化1】

が発見された。
【0016】
本発明のさらなる対象は、
a)シクロヘキセノンとシアン水素とを、塩基性触媒の存在下で反応させる工程、
b)工程a)で得られたシクロヘキサノンニトリルとアンモニアとを、イミン形成触媒の存在下で反応させる工程、及び
c)工程b)で得られた3−シアノシクロヘキシルイミン含有反応混合物を、水素及びアンモニアと、水素化触媒で反応させる工程
による、3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンの製造方法である。
【0017】
第一工程a)では、シクロヘキサ−2−エン−1−オン(シクロヘキセノン)とシアン水素(HCN)とを塩基性触媒の存在下で反応させる。
【0018】
塩基性触媒として適しているのは、シアン水素の存在下でシアン化物イオンを形成する又は含む、あらゆる物質である。これに該当するのは例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の、水酸化物、シアン化物及びアルコラート、並びに第四級アンモニウム化合物である。好適には、アルカリ金属シアン化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、及びC1〜C4アルカリ金属アルコラート、例えばナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムエチラート、カリウム−t−ブチラート、リチウムエチラートを使用し、特に好適なのは、ナトリウムエチラートである。極めて特に好ましくは、例えばNaOH及びHCNの接触による単離無しで製造可能なNaCNを使用する。
【0019】
触媒濃度は、反応混合物に対して0.01〜3質量%である。触媒濃度は好適には、反応温度と反応混合物の組成に依存する塩基性触媒の溶解性を越えないように選択し、これは反応混合物に対して好適には0.01〜3質量%の濃度である。
【0020】
HCN及びシクロヘキセノンの反応は、80〜220℃、好ましくは100〜180℃、特に好ましくは120℃〜170℃の反応温度で行うことができる。
【0021】
反応圧力(絶対圧で測定)は通常、0.05〜2MPa、好ましくは0.09〜1MPa、特に好ましくは大気圧(常圧)〜3barである。圧力は例えば、不活性ガス(窒素)の押圧(Aufpressen)により発生させることができる。
【0022】
HCNとシクロヘキセノンとの本発明による反応では通常、シクロヘキセノンをシアン水素に対して過剰量で使用する。2つの使用物質、シクロヘキセノン(CH)及びシアン水素(HCN)のCH:HCNモル比は通常、2:1〜10:1、好ましくは2:1〜5:1、特に好ましくは2:1〜3:1である。
【0023】
HCNとシクロヘキセノンとの反応は、不活性溶剤の存在下、又は不存在下で行うことができる。
【0024】
反応のための不活性溶剤として適しているのは、水、及びC1〜C20アルカノール、好ましくはC1〜C8アルカノール、特に好ましくはC1〜C4アルカノール、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、n−ブタノール、イソ−ブタノール、及びt−ブタノール、5〜30個、好ましくは5〜20個、特に好ましくは5〜10個のC原子を有する脂肪族炭化水素、例えばn−ペンタン、ペンタン異性体混合物、n−ヘキサン、ヘキサン異性体混合物、n−ヘプタン、ヘプタン異性体混合物、n−オクタン、オクタン異性体混合物、5〜20個、好ましくは5〜12個、特に好ましくは5〜8個のC原子を有する脂環式炭化水素、例えばシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、及びシクロオクタン、アミド、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、尿素、例えばN,N’−ジメチルエチレン尿素、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、N,N,N’,N’−テトラ−n−ブチル尿素、又は炭酸エステル、例えばエチレンカーボネート、及びプロピレンカーボネートである。
【0025】
特に好ましくは、シクロヘキセノンをHCNに対して過剰量で使用し、外部由来の溶剤は添加しない。
【0026】
本発明によるHCNとシクロヘキセノンとの反応は、非連続的に、半連続的に、又は好ましくは連続的に行うことができる。
【0027】
反応槽若しくは反応器として適しているのは例えば、撹拌反応器、管型反応器、撹拌容器カスケード、ループ型反応器、又は混合型循環である。連続的な方法実施は例えば、連続的にシクロヘキセノンとシアン水素と常圧下、又は高められた圧力下(0.09〜1MPa、絶対圧で測定)で反応させる装置に連続的に、塩基性触媒を(場合により不活性溶剤中、又はシクロヘキセノン中に溶解させて)供給して、行うことができる。
【0028】
反応は通常、多段階の撹拌槽カスケードで行うことができる。
【0029】
しかしながらまた、この反応を2つの別々の反応ゾーンで行うことも可能であり、この際に第一反応ゾーンは基本的に完全な逆混合を有し、かつ第二反応ゾーンは基本的に逆混合を有さない。
【0030】
基本的に完全な逆混合を有する第一反応ゾーンのための反応器としては例えば、撹拌槽、混合型循環、又はループ式反応器が使用できる。放出される反応熱は、適切な熱交換器を介して排出される。
【0031】
基本的に逆混合を有さない第二反応ゾーンのための反応器としては、逆混合を完全に又は部分的に防止する充填物又は固定配置された構造体を有する、円筒形反応器が適している。しかしながらまた、実験室スケールで合成を行う場合には、乱流範囲で稼働される管型反応器を使用することができる。
【0032】
完全なHCN反応に必要な滞留時間は、反応温度と触媒濃度に依存する。先の滞留時間は撹拌反応器については原則として、1〜4時間、逆混合無しで稼働される後反応器については原則として、0.2〜1.5時間である。
【0033】
非連続的若しくは半連続的な方法実施は以下のように
a)シクロヘキセノンを塩基性触媒とともに装入し、そしてシアン水素を不活性溶剤中、又はシクロヘキセノン中に添加するか、又は
b)シクロヘキセノンをシアン水素とともに装入し、そして塩基性触媒を不活性溶剤中、又はシクロヘキセノン中に添加するか、又は
c)シクロヘキセノンを装入し、そしてシアン水素と塩基性触媒を不活性溶剤中、又はシクロヘキセノン中に添加して、
行うことができる。
【0034】
ここでは、変法a)が好ましい。
【0035】
シクロヘキセノンとシアン水素との反応によって得られる反応混合物は、式(II)
【化2】

の3−シアノシクロヘキサン−1−オン(シクロヘキサノンニトリル)を含む。
【0036】
得られる反応混合物は、水で抽出して、溶解された触媒を除去することができる。
【0037】
しかしながら塩基性触媒はまた、有機酸若しくは無機酸の当量又は過剰量の添加によって中和することができる。
【0038】
反応搬出物を中和するためには、酸、例えば無機酸、例えばリン酸と硫酸、又は有機酸、例えばスルホン酸、例えばメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、カルボン酸、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、2−エチルヘキサン酸、及びアジピン酸を使用することができる。
【0039】
反応混合物は引き続き、場合により水による抽出又は中和を行った後、分留によって精製することができる。3−シアノシクロヘキサン−1−オン(シクロヘキサノンニトリル)が得られる。
【0040】
未反応のシクロヘキセノンは、反応工程に返送することができる。
【0041】
工程b)では工程a)で得られたシクロヘキサノンニトリル(CHN)を過剰量のアンモニアと、イミン形成触媒の存在下で反応させる(イミノ化)。
【0042】
イミン形成触媒として、例えば固体のブレンステッド酸又はルイス酸が考慮に入れられ、それらは例えばEP−A1−449089(第2頁、第2欄、第11行目〜第20行目)、及びTanabe et al.(K.Tanabe,Studies in Surface Science and Catalysis,Vol.51,1989,.p1以降)の論文に記載されている。ここでは例示的に、酸性の金属酸化物触媒、例えば酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム及び二酸化ケイ素が挙げられている。さらに、アンモニウムイオンで帯電された無機イオン交換体又は有機イオン交換体、例えばゼオライト又はスチレンとジビニルベンゼンとからのスルホン化コポリマー(例えばLanxess社の商標Lewatit(R)、Rohm&Haas社のAmberlite(R))又はシロキサンベースのイオン交換体(例えばDegussa社の商標Deloxan(R))が考慮に入れられる。
【0043】
通常は使用されるCHN1モル当たり、アンモニア(NH3) 5〜500モル、好ましくはNH3 10〜400モル、特に好ましくはNH3 20〜300モルが使用される。
【0044】
CHNのイミノ化は、溶剤の存在において行ってよく、例えばアルカノール又はエーテル、例えばエタノール、ブタノール又はテトラヒドロフラン(THF)中で行ってよい。CHNのイミノ化は好ましくは、溶剤を添加せずに実施される。
【0045】
イミノ化は、非連続的に、又は好ましくは連続的に実施することができる。非連続的なイミノ化は例えば、撹拌オートクレーブ、泡鐘塔、又は循環式反応器、例えばジェットループ式反応器(Strahlschlaufenreaktor)で行うことができる。
【0046】
非連続的なイミノ化の場合には通常、CHN及び触媒の懸濁液を反応器に装入する。高い反応率と高い選択性を保証するために、CHN及び触媒の懸濁液は通常、アンモニアと良好に、例えば乱流撹拌機によってオートクレーブ中で混合する。懸濁された触媒材料は、慣用の技術を用いて導入し、そして再度分離することができる(沈降分離、遠心分離、フィルターケーク濾過、クロスフロー濾過)。触媒は一回、又は複数回使用することができる。触媒濃度は有利には、CHN及び触媒から成る懸濁液の全質量に対してその都度、0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜40質量%、特に好ましくは1〜30質量%、とりわけ5〜20質量%である。
【0047】
平均触媒粒径は有利には、0.001〜1mmの範囲、好ましくは0.005〜0.5mmの範囲、とりわけ0.01〜0.25mmの範囲である。イミノ化は、好ましくは連続的に実施され、通常、圧力容器中又は圧力容器カスケード中で実施される。好ましくは、イミン形成触媒が固定床の形で配置されている管型反応器を通じて、CHN及びNH3が導かれる。
【0048】
連続的なイミノ化の場合には通常、触媒1kg及び1時間当たり、CHN0.01〜10kg、好ましくは0.05〜7kg、特に好ましくは0.1〜5kgの触媒負荷量が調整される。
【0049】
イミノ化は、好ましくは20〜150℃、好ましくは30〜130℃及び、とりわけ有利には50〜100℃の温度範囲内で実施される。イミノ化に際しての圧力は、一般に50〜300bar、有利には100〜250barである。
【0050】
イミノ化からの反応混合物は通常、式(III)
【化3】

の3−シアノシクロヘキシルイミン(CHNI)、並びにアンモニア、及び未反応のCHNを含む。
【0051】
CHNからCHNIへの反応率は通常、80%超、好適には90%超、及び特に好ましくは95%超である。
【0052】
工程b)からの反応混合物は、工程c)で水素及びアンモニアと、水素化触媒を用いて反応させる(還元アミノ化)。
【0053】
3−シアノシクロヘキシルイミン(CHNI)を含む反応混合物の反応は、好ましくは液体アンモニア中で行う。通常はCHNI1molあたり、5〜500molのNH3、好ましくは10〜400molのNH3、及び特に好ましくは20〜300molのNH3を使用する。目的に応じて、先のイミノ化に際してCHNとNH3とのモル比は、このモル比が還元アミノ化に際しても適した範囲内にあるように調整する。しかしながらNH3の割合は、還元アミノ化の前に付加的なNH3の添加によって所望の値に高めることができる。
【0054】
3−シアノ−シクロヘキシルイミン含有反応混合物の反応のためのさらなる出発物質としては、水素が使用される。水素対CHNIのモル比は通常、3〜10000:1、好ましくは4〜5000:1、及び特に好ましくは5〜1000:1である。
【0055】
水素は、3−シアノ−シクロヘキシルイミン含有反応混合物に対して、好ましくはイミノ化後、かつ還元アミノ化前に供給する。しかしながら、水素をすでにイミノ化の前に供給することも考えられ得る。なぜならイミノ化は通常、水素化を触媒しない触媒で行われるからである。従って、イミノ化前に供給される水素も、3−シアノ−シクロヘキシルイミン含有反応混合物の反応のための出発物質として還元アミノ化の間に提供してよい。
【0056】
水素化触媒としては原則的に、ニッケル、コバルト、鉄、銅、ルテニウム、パラジウム、白金、ロジウム、及び/又は周期表のその他の第VIII副族金属を含有する全ての水素化触媒を使用してよい。水素化触媒としてはさらに、元素のクロム、マンガン、モリブデン、タングステン、及び/又はレニウムを含有する触媒が適している。
【0057】
好ましくは、ルテニウム、コバルト、及び/又はニッケルを含有する水素化触媒を使用する。とりわけ有利なのは、ルテニウム及び/又はコバルトを含有する触媒である。
【0058】
上記の水素化触媒は通常、助触媒で、例えばクロム、鉄、コバルト、マンガン、タリウム、モリブデン、チタン、及び/又はリンでドープしてよい。
【0059】
触媒活性金属は、完全触媒として、又は担体上で使用してよい。そのような担体として、例えば酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム又は酸化マグネシウム/酸化アルミニウムが考慮に入れられる。該担体は、イミン基水素化の間にイミンと平衡に存在するケトンの反応を可能にするために、イミノ化活性であってもよい。
【0060】
本発明による方法で使用可能な水素化触媒は通常、水素を用いたいわゆる触媒前駆体の還元によって得られる。
【0061】
触媒前駆体は通常、上記金属の酸素含有化合物を含む。
【0062】
触媒前駆体は公知の方法に従って、例えば沈殿、沈降、又は含浸によって製造することができる。
【0063】
そのような触媒は例えば
EP-A-0636409で開示された触媒、その触媒活性物質が、水素による還元前にCoOとして計算してCoを55〜98質量%、H3PO4として計算してリンを0.2〜15質量%、MnO2として計算してマンガンを0.2〜15質量%、及びM2Oとして計算して(M=アルカリ金属)アルカリ金属を0.2〜15質量%を有するもの、又は
EP-A-0742045で開示された触媒、その触媒活性物質が、水素による還元前にCoOとして計算してCoを55〜98質量%、H3PO4として計算してリンを0.2〜15質量%、MnO2として計算してマンガンを0.2〜15質量%、及びM2Oとして計算して(M=アルカリ金属)アルカリ金属を0.05〜5質量%を有するもの、又は
EP-A-696572で開示された触媒、その触媒活性物質が、水素による還元前にZrO2を20〜85質量%、CuOとして計算して銅の酸素含有化合物を1〜30質量%、NiOとして計算してニッケルの酸素含有化合物を30〜70質量%、MoO3として計算してモリブデンの酸素含有化合物を0.1〜5質量%、及びAl23若しくはMnO2として計算してアルミニウム及び/又はマンガンの酸素含有化合物を0〜10質量%含むもの、例えば上記文献のp8で開示された、組成がZrO2 31.5質量%、NiO 50質量%、CuO 17質量%、及びMoO3 1.5質量%の触媒
である。
【0064】
触媒活性金属は、スポンジ触媒、いわゆるラネー触媒の形でも使用してよい。ラネー触媒として、有利にはラネーコバルト触媒、ラネーニッケル触媒及び/又はラネー銅触媒が使用される。とりわけ有利には、ラネーコバルト触媒が使用される。
【0065】
水素化触媒として、好ましくは選択的水素化触媒も使用してよく、ここで選択的水素化触媒とは、有利にはイミン基を3−シアノ−シクロヘキシルイミンのニトリル基に対して水素化する触媒と理解されるべきである。
【0066】
選択的水素化触媒は、例えば、ルテニウム、パラジウム及び/又はロジウムを含有する水素化触媒である。有利な選択的水素化触媒はルテニウム及び/又はロジウムを含有し、とりわけ有利な選択的水素化触媒はルテニウムを含有する。
【0067】
還元アミノ化は好適には、塩基性化合物及び/又は塩基性水素化触媒の存在下で行う。
【0068】
ここで塩基性化合物という概念が、出発物質のアンモニアと理解されることはなく、下記の化合物を1つ又は複数包含するか、又は下記の化合物と同様に作用する化合物であると理解されることは自明のことである。
【0069】
適した塩基性化合物として、塩基性金属化合物、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は希土類金属の酸化物、水酸化物又は炭酸塩が考慮に入れられる。
【0070】
有利なのは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の金属化合物、例えば相応する酸化物、水酸化物及び炭酸塩、例えばLi2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、Cs2CO3、Rb2CO3、MgO、CaO、SrO、BaO、Mg(OH)2、Ca(OH)2、Sr(OH)2、Ba(OH)2、MgCO3、CaCO3、SrCO3又はBaCO3である。とりわけ有利なのは、LiOH、NaOH又はKOHである。
【0071】
同様に適した、有利な塩基性化合物はアミン又は水酸化アンモニウムである。
【0072】
とりわけ有利には、塩基性化合物は、水又はその他の適した溶剤、例えばC1〜C4−アルカノールのようなアルカノール、例えばメタノール若しくはエタノール、又は環式エーテルのようなエーテル、例えばTHF又はジオキサン中に溶解して反応混合物に加えられる。とりわけ有利には、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物が水に溶解して添加され、とりわけ有利には、LiOH、NaOH又はKOHが水に溶解して添加される。
【0073】
有利には、水又はその他の適した溶剤中での塩基性化合物の濃度は、0.01〜20質量%、有利には0.1〜10質量%及び、とりわけ有利には0.2〜5質量%である。
【0074】
塩基性化合物の供給溶液の量は通常、供給される塩基性化合物の質量対反応混合物中の3−シアノ−シクロヘキシルイミンの質量の比が、100〜10000対1000000、有利には150〜5000対1000000及び、とりわけ有利には200〜1000対1000000となるように選択される。
【0075】
還元アミノ化は、塩基性水素化触媒の存在下で行うこともできる。そのような塩基性水素化触媒は、塩基性成分、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属の酸化物又は水酸化物でドープされ、かつ/又は塩基性担体上に施与された上記の水素化触媒である。
【0076】
水素化触媒のための適した塩基性担体は、例えばβ−酸化アルミニウム又は酸化マグネシウム/酸化アルミニウム−混合物であり、その際、酸化マグネシウムの割合は5〜40質量%である。その際、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムを含有する担体は非晶質であってよく、又はスピネルとして存在してよい。塩基性担体上の触媒は、技術的にそれ自体公知の方法で得られる。そこで例えば塩基性担体上のルテニウムは、ルテニウム塩の水溶液、例えば塩化ルテニウム及び硝酸ルテニウムを相応する塩基性担体上に適用することによって得られる。
【0077】
塩基性担体上での、金属、殊にルテニウムの濃度は、一般に0.1〜10質量%、有利には0.5〜5質量%及び、とりわけ有利には1〜4質量%である。
【0078】
塩基性触媒とはまた、上記の塩基性成分、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属の酸化物又は水酸化物でドープされる水素化触媒と理解される。塩基性触媒は有利には、少なくとも1つの塩基性成分、例えばLi2O、Na2O、K2O、MgO、CaO、SrO又はBaOを含有する。
【0079】
塩基性水素化触媒中の塩基性成分、すなわち塩基性ドーパントの割合は、塩基性水素化触媒の全質量に対して、一般に0.5質量%を上回り、及び、とりわけ有利には0.7質量%を上回り、及び、とりわけ有利には1質量%を上回る。
【0080】
上記のように塩基性担体上に施与されなかった、かつ/又は触媒の全質量に対して0.5質量%、又はそれ未満の塩基性成分、すなわち塩基性ドーパントを含有する冒頭に記載した水素化触媒は、以下で非塩基性水素化触媒と呼ぶ。
【0081】
還元アミノ化は通常、50〜160℃の温度、50〜300barの圧力で行う。
【0082】
還元アミノ化は、非連続的に、又は好ましくは連続的に実施することができる。
【0083】
非連続的な還元アミノ化は例えば、撹拌オートクレーブ、泡鐘塔、又は循環式反応器、例えばジェットループ式反応器で行うことができる。
【0084】
非連続的な還元アミノ化の場合には通常、CHNI及び触媒の懸濁液を反応器に装入する。高い反応率と高い選択性を保証するために、CHNI及び触媒の懸濁液は通常、水素及びアミノ化剤と良好に、例えば乱流撹拌機によってオートクレーブ中で混合する。懸濁された触媒材料は、慣用の技術を用いて導入し、そして再度分離することができる(沈降分離、遠心分離、フィルターケーク濾過、クロスフロー濾過)。触媒は一回、又は複数回使用することができる。
【0085】
触媒濃度は有利には、CHNI及び触媒から成る懸濁液の全質量に対してその都度、0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜40質量%、特に好ましくは1〜30質量%、とりわけ5〜20質量%である。
【0086】
平均触媒粒径は有利には、0.001〜1mmの範囲、好ましくは0.005〜0.5mmの範囲、とりわけ0.01〜0.25mmの範囲である。場合により、出発物質の希釈を、精製された不活性溶剤(CHNIが良好な溶解性を有するもの)、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、N−メチルピロリドンによって行うことができる。
【0087】
連続的な還元アミノ化は例えば、連続稼働式撹拌オートクレーブ、連続稼働式泡鐘塔、連続稼働式ループ型反応器、例えばジェットループ型反応器、又は固定床反応器で行うことができる。
【0088】
連続的な還元アミノ化は好適には、触媒固定床を有する管型反応器で行う。
【0089】
この反応のためには殊に、触媒固定床を有する管型反応器が適している。概して、連続的な運転方式の場合の触媒負荷量は、触媒1kg及び1時間当たり、CHNI0.01〜10kg、好ましくは0.05〜7kg、とりわけ有利には0.1〜5kgである。
【0090】
還元アミノ化は好ましくは、触媒固定床を有する管型反応器で連続的に行う。
【0091】
還元アミノ化、すなわち、水素化触媒を用いる3−シアノ−シクロヘキシルイミン含有出発物質流と水素及びアンモニアとの反応は、1つ又は複数の互いに分離された反応室中で行ってよい。
【0092】
還元アミノ化を1つの反応室でのみ行う場合には通常、反応器入口と反応器出口の間の温度プロフィールをほぼ一定に保ち、かつ前記温度プロフィールを還元アミノ化の際に放出される反応熱により特定する。
【0093】
しかしながらまた、反応器入口と反応器出口との間の温度プロフィールを調整することもできる。そのような温度プロフィールの形成は、該反応器の各領域が分離され、かつ個別に調整可能に温度調節できることによって実現することができる。そのような場合において好ましいのは、反応器入口と反応器出口との間の温度が高められる場合である。好ましくは、反応器入口での温度は50〜100℃の範囲内にあり、他方で反応器出口での温度は100〜160℃である。反応器入口と反応器出口との間で増大する温度プロフィールは連続関数であってよく、又は不連続的な間隔で増加してよい。
【0094】
しかしながら、有利な一実施態様において、還元アミノ化は2つ又は複数の段階において行われ、その際、該段階は、分離された反応室中で行われる。とりわけ有利な一実施態様において、還元アミノ化は2段階において実施され、その際、該段階は、分離された反応室中で行われる。
【0095】
第一段階(段階I)は、一般に、50〜100℃の温度範囲内で、有利には55〜95℃で、及び、とりわけ有利には60〜90℃で、かつ15〜300bar、好ましくは20〜250bar及び、とりわけ有利には30〜230barの圧力で実施される。
【0096】
第二段階(段階II)は、通常、70〜160℃、有利には75〜150℃及び、とりわけ有利には80〜140℃の温度範囲内で、かつ50〜300bar、好ましくは80〜250barの圧力で、及び、とりわけ有利には100〜230barで実施される。
【0097】
両方の段階は、通常、それぞれ圧力容器中、殊に固定床反応器中で実施される。
【0098】
触媒としては両方の段階において、冒頭に記載した非塩基性及び/又は塩基性の水素化触媒を使用することができ、その際、有利には、コバルトを含有する非塩基性触媒を使用する。
【0099】
本発明のさらに別の一実施態様において、段階Iのみならず段階IIもさらに部分工程(Teilstufen)に区分することが可能であり、その際、部分工程も、それぞれ分離された反応室中で実施される。
【0100】
そうして、段階Iの部分工程を、2つ又は複数の圧力容器中、殊に固定床反応器中で実施することが可能である。
【0101】
上記のように、段階Iの部分工程は、通常、50〜100℃の温度範囲内及び15〜300barの圧力で実施される。圧力及び温度は、部分工程において、同じか又は互いに異なっていてよい。好ましくは、部分工程は、同じ温度及び同じ圧力で運転される。部分工程が異なる温度及び圧力で運転される場合には、部分工程から部分工程へと圧力及び温度が増大すれば、すなわち、圧力及び温度が第一部分工程において最も低くなるようにすれば有利である。
【0102】
各部分工程において冒頭に記載した非塩基性及び/又は塩基性の水素化触媒を使用することができ、この際に非塩基性水素化触媒を使用するのが好ましい。
【0103】
有利な一実施態様において、第一部分工程又は第一反応段階の第一部分工程において、非塩基性水素化触媒として選択的水素化触媒が使用される。
【0104】
方法の経済性の理由から、還元アミノ化の段階Iが3つを上回らない、好ましくは2つの、及び、とりわけ有利には1つの部分工程から成っていれば好ましい。なぜなら、反応器の数が増大するとともに投資は増大するからである。
【0105】
還元アミノ化の段階Iが1つの部分工程のみにおいて実施される場合、反応混合物の塩基性が、塩基性化合物を該反応混合物と段階Iの出口後に接触させることによって高められれば好ましい。
【0106】
そのうえ、還元アミノ化の段階IIをさらなる部分工程に区分することが可能であり、その際、部分工程は、好ましくは、それぞれ分離された反応室中で実施される。
【0107】
還元アミノ化の段階IIの部分工程は、上記のように、通常、70〜160℃の温度範囲内及び50〜300barの圧力で実施される。好ましくは、還元アミノ化の段階IIの部分工程は、2つ又は複数の圧力容器中、殊に固定床反応器中で実施される。
【0108】
還元アミノ化から得られる反応搬出物から、NH3及び水素が、場合により加圧下で分離される。こうして得られる式(I)
【化4】

の3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミン(AMCHA)は、例えば精留によって単離できる。
【0109】
本発明による方法により、シス−3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンと、トランス−3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンとの異性体混合物が得られる。本発明による方法により得られるシス異性体とトランス異性体の比(CTV)は通常、55:45〜99:1、好適には60:40〜95:5、特に好適には65:35〜90:10である。CTVは、ヒドロシアン化の段階で部分的に固定されるが、還元アミノ化/水素化で完全に定義される。
【0110】
反応搬出物中のCTVは、3−シアノ−シクロヘキシルイミン含有出発物質流を、還元アミノ化の段階Iへの導入前に分配することによって制御することができる。一部は、水素及びNH3と一緒に段階I又は段階Iの第一部分工程に通され、他方で、その他の部分は、後の段階(段階II)又は段階I若しくは段階IIの部分工程に供給される。有利には、3−シアノ−シクロヘキシルイミン含有出発物質流の一部が、還元アミノ化の第二段階(段階II)若しくは還元アミノ化の第二段階の部分工程に供給される。
【0111】
一般に、出発物質流の分配によって熱力学的に好ましい生成物が形成され、その結果、該出発物質流の分配制御によって異性体比率を調整することができる。つまり第二の水素化段階では、アミノ基から再度プロキラルなイミノ基若しくはケト基を形成することによって、キラル中心の部分的な異性体化を行うことができる。そうするとケト−エノール互変異性若しくはイミノ−エナミン互変異性によって、隣接するメチル基も、環平面について空間配置を変えることができる。
【0112】
CTVのさらなる制御可能性は、段階Iの第一部分工程における温度の調節という点にある。両方の場合において、最終的に、段階Iの第一部分工程における出発物質流の変換率が調節される。段階I若しくは段階Iの第一部分工程における変換率が高ければ高いほど、それだけ一層、生成物流中の動力学的に好ましい生成物の割合は高くなる。
【0113】
特に好ましい実施態様において反応混合物の塩基性は、3−シアノ−シクロヘキシルイミン(CHNI)の一部を反応させた後に、反応混合物をアンモニアとは異なる塩基性化合物及び/又は塩基性触媒と接触させることによって、CHNIとアンモニア及び水素との反応の間に高められる。
【0114】
3−シアノ−シクロヘキシルイミン、アンモニア、水素及び水素化触媒を含有する反応混合物の塩基性は、該反応混合物を塩基性化合物と接触させることによって高めることができる。そうして反応混合物の塩基性は、該反応混合物に塩基性化合物を加えることによって高めることができる。
【0115】
さらに別の一実施態様において、反応混合物の塩基性は、塩基性水素化触媒と該反応混合物を接触させることによって高めることができる。
【0116】
特に好ましい実施態様において反応混合物の塩基性は、3−シアノ−シクロヘキシルイミンの一部を反応させた後に、該反応混合物を塩基性化合物と接触させることによって、反応の間に高められる。
【0117】
その際、一般に塩基性は、反応混合物中の3−シアノ−シクロヘキシルイミンの1〜95%、有利には5〜80%及び、とりわけ有利には10〜40%を反応させた後に、反応混合物を塩基性化合物と接触させることによって高められる。
【0118】
一般的に塩基性を高める前には、反応混合物に塩基性化合物は添加されない。しかしながら、反応混合物は少量の塩基性化合物を含有することができる。しかしながら好ましくは、塩基性を高める前の反応混合物中における塩基性化合物の質量対3−シアノ−シクロヘキシルイミンの質量の比が、100対1000000未満、好ましくは50対1000000未満である。
【0119】
通常は塩基性を高める前に、反応混合物を非塩基性触媒と接触させる。
【0120】
還元アミノ化が1つの反応室中でのみ、例えば固定床反応器中で実施される場合、塩基性は、反応混合物と塩基性化合物とを、3−シアノ−シクロヘキシルイミン含有出発物質流がアンモニア及び水素と一緒に供給される反応器入口と反応器出口との間で塩基性化合物の計量供給を行う形で接触させることによって、高めることができる。出発物質流と塩基性化合物との接触は、特に好ましい実施態様の範囲では、還元アミノ化の前には行わない。
【0121】
上記のように、反応は、有利には高い圧力下で行われるので、それゆえ反応器中での塩基性化合物の計量供給は通常、高い運転圧力で行う必要がある。高圧条件下で物質を計量供給するための適した技術的装置は当業者に公知である。殊に、高圧条件下で物質を計量供給するために、ポンプ、例えば高圧ポンプ若しくはピストンポンプを使用してよい。
【0122】
しかしながらまた、反応混合物の塩基性は、まず3−シアノ−シクロヘキシルイミン含有出発物質流を水素及びアンモニアと、冒頭に記載した非塩基性水素化触媒及び後続の塩基性水素化触媒に導通する方法で塩基性触媒と接触させることによって高めることもできる。これは、触媒が適切に層状化されていることによって実現することができる。
【0123】
好ましくは、非塩基性水素化触媒の層と塩基性水素化触媒の層との間の移行部で、上記のように、塩基性化合物が計量供給される。なぜなら、該水素化触媒の塩基性成分は、運転継続時間の増大と伴に洗い流されることがあるからである。
【0124】
しかしながら還元アミノ化を2つの段階で行う場合、これらの段階は通常、別々の反応室内で行われ、これによって反応混合物の塩基性向上は、好ましくは反応混合物を塩基性化合物と接触させることにより、段階Iの出口と段階IIの入口の間に塩基性化合物の溶液を計量供給することによって、行うことができる。
【0125】
しかしながら、塩基性化合物と接触させることによる反応混合物の塩基性向上は、段階Iで冒頭に記載した非塩基性水素化触媒のうちの1つを用い、段階IIで塩基性水素化触媒を用いることによって行うこともできる。
【0126】
塩基性成分は、運転継続時間の増大と伴に塩基性触媒から洗い流されることがあるので、段階Iの出口と段階IIの入口との間で付加的に、塩基性化合物の溶液が計量供給されると好ましい。
【0127】
特に好ましい実施態様では段階Iにおいて、非塩基性水素化触媒として、冒頭に記載した選択的水素化触媒が使用される。
【0128】
還元アミノ化の段階Iが2つ又は複数の部分工程において実施される場合、反応混合物の塩基性は、該反応混合物と塩基性化合物との接触を、段階Iの第一部分工程後に行うことによって高めることが推奨される。
【0129】
好適には、塩基性化合物を段階Iの1つの部分工程の出口とその次の部分工程の入口との間で計量供給することによって、反応混合物と塩基性化合物とを接触させる。
【0130】
好ましくは、塩基性化合物の供給は、段階Iの第一部分工程と第二部分工程との間で行われる。しかしながらまた、2つの任意に連続する部分工程の出口と入口との間で、塩基性化合物を計量供給することも可能である。塩基性化合物の供給は好ましくは、段階Iの第一部分工程前には行わない。
【0131】
塩基性水素化触媒と接触させることによる反応混合物の塩基性向上は、第一部分工程において冒頭に記載した非塩基性水素化触媒の1つを用い、それに続く部分工程において塩基性水素化触媒を用いて行うことができる。部分工程において、非塩基性水素化触媒及び塩基性水素化触媒の層状化を行うことも考えられる。
【0132】
さらに、好ましいのは、塩基性水素化触媒の塩基性成分が洗い流される可能性を補うために、塩基性水素化触媒を有する部分工程に、付加的に塩基性化合物の溶液を供給することである。
【0133】
反応混合物の塩基性向上は好ましくは、反応混合物と塩基性化合物及び/又は塩基性水素化触媒との接触を段階IIの前で行うことによって行うべきである。しかしながら、反応混合物の接触を、第二反応段階の部分工程の1つで行うことも可能である。これは同様に、塩基性化合物の溶液を、段階IIの部分工程の間に計量供給するか、又は段階IIの第一部分工程の後方で塩基性水素化触媒を使用することによって行うことができる。
【0134】
さらに、段階IIの部分工程における水素化触媒及び塩基性触媒の層状化が可能である。
【0135】
本発明はさらに、3−アミノメチルシクロヘキシルアミンを、エポキシ樹脂用硬化剤として、ジイソシアネート製造の際の中間生成物として、ポリエーテルオール製造の際の開始剤として、及び/又はポリアミド製造用のモノマーとして用いる使用に関する。
【0136】
3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンは、IPDAとは異なり、脂肪族環にさらなるアルキル置換基を有さない脂環式アミンである。よって3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンは、その様々な構造、及び前記構造と結びついた様々な物理化学的な特性に基づき、エポキシ樹脂の調製及び加工の際に新たな可能性をもたらし、かつエポキシ樹脂の特性スペクトルを調整するために使用可能な、代替的なエポキシ樹脂用硬化剤である。
【0137】
とりわけ、3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンは、脂環式環にアルキル置換基がないことによって変化した溶解性を有し、ひいては他のエポキシ樹脂成分、例えばビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBA)に対して様々な相挙動を有し、よって他方エポキシ樹脂調製の際により高い可撓性を可能にする。
【0138】
さらに3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンは粘度が低く、このことによってより大きな成形部材又はより微細な構造の製造が有利になる。
【0139】
3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンはまた、式(IV)
【化5】

の3−イソシアナトメチル−シクロヘキシルイソシアネートを製造する際の中間生成物として使用可能である。このジイソシアネートは、耐光性ポリウレタンの製造のため、例えば塗料又は被覆として適しており、かつその構造に基づいて新たな調製物可能性を提供し、ひいては新たな興味深い特性プロフィールへの利用可能性をもたらす。
【0140】
3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンはまた、ポリエーテルオール製造の際の開始剤として使用可能である。3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンは、塩基で脱プロトン化可能な、後続のアルキレンオキシド、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、及び/又はブチレンオキシドに付加可能なCH酸性化合物である。アルコキシ化されたジアミンは例えば、PUR製造において触媒として使用可能である。
【0141】
さらに3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンは、ポリアミド製造の際にモノマーとして使用可能である。よって3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンは例えば、ジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸、テレフタル酸、及び/又はフタル酸と反応させてポリマーにすることができる。3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンはアルキル置換基を有さず、3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンの使用により、ポリアミドの結晶性及び/又はガラス転移温度を所望のやり方で制御できる。
【0142】
記載された発明によって、高いAMCHA収率の達成が可能となる。CTVは反応条件の調整によって制御できる。とりわけ、高いCTVが達成可能である。
【0143】
示された方法は、高い空時収率で運転することができる。障害となる副生成物、とりわけ二量体の形成は、ほとんど避けられる。本方法の特別な特徴は、反応生成物の可能な限り高いニトリル変換率若しくは飽和度を達成することである。というのも、ポリマー中での最適な特性のためには、ニトリルアミン、アミノイミン、及びオレフィン残分が存在することは許されないからである。部分飽和化合物は一般に、飽和化合物から分離するのが困難である。
【0144】
3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンはポリマー材料製造、例えばエポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエステルなどを製造する際に利用可能であり、これらのポリマー材料の特性プロフィールを、例えば耐候性、加水分解耐性、薬品耐性、耐光性、電気的及び機械的特性の点で制御し、これによって前記材料調製の際に、より多くの変法可能性が可能になる。
【0145】
とりわけ本発明による方法で提供されるべきは脂環式ジアミンであり、これはIPDAと比較して様々な粘度若しくは溶解性を有し、これによって別のエポキシ樹脂成分、例えばビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBA)に対して別の相挙動が示され、その結果、エポキシ樹脂の調製の際により高い可撓性が可能になる。
【0146】
本発明は、後続の実施例において説明される。
【0147】
実施例:
実施例1:シクロヘキセノンから3−シアノシクロヘキサノンへの反応
シクロヘキセノン100g(1.04mol)を、撹拌器付きの不活性化された500mlのガラスフラスコに装入し、140℃に加熱した。ナトリウムメチラート1.2gを、水中で30%のナトリウムメチラート溶液の形で添加した。引き続き、さらなるシクロヘキセノン100g(1.04mol)を、青酸40.2g(1.49mol)と混合し、そして5時間以内によく撹拌した装入物に滴加した。バッチは時間につれて、黄色〜オレンジに色が付いた。HCN/シクロヘキセノン混合物を完全に添加後、さらに0.5時間145℃で後撹拌した。遊離青酸含分をフォルハルト滴定で決定し、遊離青酸(HCN)0%という結果が得られた。このバッチは、リン酸1.0g(85%)を用いて安定化させた。秤量は、236gであった。
【0148】
未精製の反応混合物は、蒸留装置(500mlの3つ口フラスコ、塔頂、沸騰キャピラリー、熱カバー、10cmのVigreux塔)に移し、蒸留した。0.1mbarで、生成物は108〜112℃で移した。
【0149】
画分のGC分析によって、それぞれの画分の生成物含分を計算に入れて、総収率160.7g(HCNに対して収率87.7%)、蒸留収率98.3g(61%)という結果が得られた。
【0150】
蒸留された生成物は、純度が96%だった。
【0151】
実施例2:3−シアノシクロヘキサノンから、3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンへの反応
使用される装置は、8つの直列に接続された管型反応器から成っていた。第一の2つの管(C1〜C2)の寸法は、1500×6×1mmであった。さらなる6つの管(C3〜C8)の寸法は、2000×8×1.5mmであった。最初の2つの反応器(C1〜C2)は、直径が1.5mmのTiO2ストランド15.7gで充填し、残りの6つの反応器は、水素により280℃で圧力1barで24時間還元された水素化触媒(Mn34 5〜6.2%、Na2O 0〜0.5%、H3PO4 2.8〜3.8%、残分はCo+CoO)約85gでそれぞれ充填した。
【0152】
最初の2つの反応器C1〜C2の温度は、60℃に調整した。反応器C3〜C4の温度は90℃であり、反応器C5〜C6の温度は115℃であり、そして反応器C7〜C8の温度は130℃に調整した。反応器C2とC3との間に、反応混合物に圧力下で水素を供給した。稼働圧力は、230barであった。
【0153】
1時間ごとにTHFと3−シアノシクロヘキサノンの混合物(比率1:1)23gを、NH3 73gとともに第一反応器(C1)にポンプ輸送し、反応器C3の前でさらに17標準リットル/hの水素を供給した。反応搬出物は、制御弁によって放圧した。後接続された相分離器で引き続き水素を分離し、そしてアンモニアを蒸発させた。
【0154】
合計で592gの3−シアノシクロヘキサノンを使用した。未精製の搬出物を、60cmの充填塔によって<1mbarで蒸留した。54℃で生成物を移した。3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミン433.7gが、純度99.5%のシス/トランス異性体の混合物として得られた(シス体85.6、トランス体14.1、CT比は86:14)。水素化工程での収率は、様々な画分における生成物含分を計算に入れると84%であり、蒸留後の純粋生成物については、70.4%であった。
【0155】
異性体ジアミンの混合物は、GC−MS、NMR、及び元素分析によって同定した。
【0156】
13C-NMR (125 MHz, DMSO): 50,33 (シス-AMCHA), 48,57 (シス-AMCHA), 47,22 (トランス- AMCHA), 45,35 (トランス-AMCHA), 41 ,26 (シス-AMCHA), 40,43 (シス-AMCHA), 38,02 (トランス-AMCHA), 36,88 (シス-AMCHA), 35,03 (トランス-AMCHA), 34,53 (トランス-AMCHA), 29,87 (シス-AMCHA), 29,44 (トランス-AMCHA), 24,61 (シス-AMCHA), 19,66 (トランス-AMCHA)。
【0157】
30m db35 MS 0.25マイクロメーター 60℃の出発温度、温度ランプ5℃/分で280℃、30分この温度で加熱、という手法によるGC−MSで、2つのメインピークを検知、保持時間19.07分(85.6Fl%)、19.2分(14.1Fl%)。
【0158】
以下のフラグメント分布が得られた(M+=128が、それぞれモルピークに相当):
ピーク1:

【0159】
ピーク2:

【0160】
元素分析測定のために、分析オートマットElementar社のVario El IIIを使用した。
【0161】
元素分析により以下の値が得られた:C=64.8(予測値65.6);N=22.1(予測値21.9);H=12.8(予測値:12.6)g/100g。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

の3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミン。
【請求項2】
シス異性体とトランス異性体との比が55:1〜95:5の範囲である、3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンの異性体混合物。
【請求項3】
a)シクロヘキセノンとシアン水素とを、塩基性触媒の存在下で反応させる工程、
b)工程a)で得られるシクロヘキサノンニトリルとアンモニアとを、イミン形成触媒の存在下で反応させる工程、
c)工程b)で得られる3−シアノシクロヘキシルイミン含有反応混合物と、水素及びアンモニアとを水素化触媒で反応させる工程、
による、3−アミノメチルシクロヘキシルアミンの製造方法。
【請求項4】
塩基性触媒として工程a)で、水酸化ナトリウム、シアン化ナトリウム、又はナトリウムメチラートを使用することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
イミン形成触媒として、1つ又は複数の酸性金属酸化物触媒、例えば酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、及び二酸化ケイ素を使用することを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
工程c)が、アンモニアとは異なる塩基性化合物及び/又は塩基性触媒の存在下で行われることを特徴とする、請求項3から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
3−シアノ−シクロヘキシルイミンの一部を反応させた後に、反応混合物とアンモニアとは異なる塩基性化合物及び/又は塩基性触媒とを接触させることによって、工程c)で反応中に反応混合物の塩基性を上昇させることを特徴とする、請求項3から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
塩基性上昇の前に、非塩基性水素化触媒を使用することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
塩基性化合物を溶液として添加し、かつ溶液として添加される塩基性化合物の量を、添加された塩基性化合物の質量対原料流中の3−シアノシクロヘキシルイミンの質量の比が、100〜10000:1000000であるように選択することによって、反応混合物の塩基性を高めることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
塩基性化合物として塩基性水素化触媒を使用し、
この際に塩基性水素化触媒中の塩基性成分の割合が、塩基性水素化触媒の全質量に対して少なくとも0.5質量%であり、かつ/又は前記水素化触媒が塩基性担体に担持されていることによって、反応混合物の塩基性を高めることを特徴とする、請求項7から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
コバルト含有水素化触媒を使用することを特徴とする、請求項3から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程c)における反応を2段階(段階I及び段階II)で行うことを特徴とする、請求項3から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
工程Iを50〜100℃の温度範囲、15〜300barの圧力で行い、工程IIを70〜160℃の温度範囲、50〜300barの圧力で行うことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程Iでルテニウム及び/又はロジウムを含有する触媒を用いることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
反応混合物を工程Iの後に、塩基性化合物と接触させることを特徴とする、請求項12から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
工程I及び/又は工程IIを、2つ又はそれより多くの部分工程で行い、この際に反応混合物を、最も早くても工程Iの第一部分工程の後に塩基性化合物と接触させることを特徴とする、請求項12から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
原料流の一部を工程Iに、かつ原料流の一部を直接工程IIに導くことによって、原料流を分割することを特徴とする、請求項12から16までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
3−シアノシクロヘキシルイミンが5〜80%反応した後に、塩基性を高めることを特徴とする、請求項3から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
3−アミノメチル−1−シクロヘキシルアミンを、エポキシ樹脂用硬化剤として、ジイソシアネート製造の際の中間生成物として、ポリエーテルオール製造の際に開始剤として、及び/又はポリアミド製造のためのモノマーとして用いる使用。

【公表番号】特表2011−529027(P2011−529027A)
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519115(P2011−519115)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058887
【国際公開番号】WO2010/009994
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】