説明

3−カルボキシムコノラクトンを原料とする新規エポキシ化合物及びその製造方法

【課題】植物由来物質を原料とするエポキシ化合物の提供。
【解決手段】本発明は、下記の一般式(I)で表されるエポキシ化合物


(式中、Rは炭素数1〜18、好ましくは炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表す)を提供することを目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来物質である3-カルボキシムコノラクトン(以下、単に「3CML」と略すこともある)を原料とするエポキシ化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、広く用いられている樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等が知られており、各種容器等の成形品やゴミ袋、包装袋等に使用されている。しかしながら、これらの樹脂は石油を原料としているため、廃棄の際、焼却により地球上の二酸化炭素を増加させる原因となり、地球温暖化の一因となる。また、埋立処分しても、自然環境下ではほとんど分解されないため、半永久的に地中に残存する。
【0003】
近年、植物由来の原料や微生物により得られる植物由来樹脂が注目されている。これらの樹脂は、石油を原料としない、環境循環型の素材であり、焼却しても地球上の二酸化炭素を増大させず、また、焼却せずに埋設処理した場合は、微生物により分解されるため、環境破壊を招くことも少ない。このような樹脂としては、ポリ乳酸やポリヒドロキシ酪酸等があり、将来性のある素材として、各種成形材料への用途開発が進められている。しかしながら、これら植物由来樹脂においても、でんぷん、コーンスターチ等の食物を原料としている為、食物と競合する可能性がある。
【0004】
一方、植物成分であるリグニンは、芳香族高分子化合物として植物細胞壁に普遍的に含まれているバイオマス資源であるが、化学構造が多様な成分で構成されていることや複雑な高分子構造を持つために、有効な利用技術が開発されていない。そのため製紙工程で大量に生成するリグニンは有効利用されることなく、重油の代替え品として燃焼されている。しかしながら近年、リグニン等の植物芳香族成分が、加水分解や酸化分解、加溶媒分解などの化学的分解法、超臨界水や超臨界有機溶媒による物理化学的分解法などにより、数種の低分子混合物に変換され、更に機能性プラスチック原料や化学製品の原料となり得る単一の中間物質3-カルボキシムコノラクトンに変換することが可能になった。そのことからリグニンを食物と競合しない植物由来樹脂の原料として有効利用する余地があるといえる。
【0005】
特開2006−111654号公報では、生分解性を有するエポキシ樹脂組成物が開示されている。しかしながら、使用されているエポキシ樹脂は、トリエチレングリコールジビニルエーテル等の植物由来のものではない化合物を原料としており、そのため、生分解性を有していても上述のような地球温暖化問題には対処できない。
【0006】
WO99/54376は、リグニン分解産物である2H-ピラン-2-オン-4,6-ジカルボン酸(PDC)にジオール類を重合させて得られるポリエステル及びその製造方法を開示している。しかしながら、現在使用されている各種合成樹脂の多くが石油由来のものであり、植物由来樹脂のバリエーションを増大させる必要性は依然として存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−111654号公報
【特許文献2】WO99/54376
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、植物由来物質を原料とするエポキシ化合物及びその製造方法を提供し、環境負荷の少ないバイオマス樹脂のバリエーションを増大させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、有効な利用方法が未だ十分に確立されていないリグニンの分解産物のうち、3-カルボキシムコノラクトンに着目し、これを骨格とする新規エポキシ化合物を合成したところ、当該エポキシ化合物が接着剤等に好適なエポキシ樹脂を形成することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、(1)本発明は、下記の一般式(I)で表されるエポキシ化合物:
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜18、好ましくは炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表す)、を提供する。
(2)本発明は、Rがメチレンである、(1)のエポキシ化合物、を提供する。
(3)本発明は、有機溶媒中、任意に縮合剤及び触媒の存在下で、下記の式で表される3-カルボキシムコノラクトン
【化2】

又はその酸クロライドと、分子内に少なくとも1つの水酸基を有するエポキシ化合物とを縮合させて、下記の一般式(I)で表されるエポキシ化合物:
【化3】

(式中、Rは、炭素数1〜18、好ましくは炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表す)を製造する方法、を提供する。
(4)本発明は、前記縮合工程において、テトラヒドロフラン中、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン及びN, N'-ジイソプロピルカルボジイミドの存在下、3-カルボキシムコノラクトンと前記エポキシ化合物とが縮合される、(3)の方法、を提供する。
(5)本発明は、前記縮合工程が−10〜60℃、好ましくは0〜30℃の範囲の温度で実施される、(4)の方法、を提供する。
(6)本発明は、前記縮合工程において、クロロホルム中、3-カルボキシムコノラクトンの酸クロライドと前記エポキシ化合物とが縮合される、(3)の方法、を提供する。
(7)本発明は、前記縮合工程が−10〜60℃、好ましくは0〜30℃の範囲の温度で実施される、(6)の方法、を提供する。
(8)本発明は、前記分子内に少なくとも1つの水酸基を有するエポキシ化合物がグリシドールである、(3)から(7)のいずれかの方法、を提供する。
(9)本発明は、(1)又は(2)のエポキシ化合物と、硬化剤とを含む、エポキシ樹脂組成物、を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、植物由来の3-カルボキシムコノラクトン又はその酸クロライドを利用することで、化石資源を原料とすることなくエポキシ化合物を製造することが可能となる。また、本発明のエポキシ化合物は、重合させることで、従来のものと同程度又はそれ以上の性能を有する構造材、接着剤、コーティング剤となり得る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のエポキシ化合物の骨格となる3-カルボキシムコノラクトンは、以下の構造を有する。
【化4】

【0013】
上記3-カルボキシムコノラクトンを原料として製造される本発明のエポキシ化合物は、下記の一般式(I)で表される:
【化5】

(式中、Rは炭素数1〜18、好ましくは炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表す)。
【0014】
上記一般式(I)中のRは、任意の置換基で置換されていてもよい。好ましい態様において、Rは、直鎖状のアルキレン基、特にメチレン、エチレン、プロピレン又はブチレンである。より好ましくは、Rがメチレンであるエポキシ化合物、すなわち、以下の構造を有するエポキシ化合物(3-カルボキシムコノラクトンのジグリシジルエステル)が好ましい。
【化6】

【0015】
本発明のエポキシ化合物は、有機溶媒中、任意に縮合剤及び触媒の存在下で、3-カルボキシムコノラクトン又はその酸クロライドと、分子内に少なくとも1つの水酸基を有するエポキシ化合物とを脱水縮合させることにより調製することができる。
【0016】
本明細書で使用する場合、3-カルボキシムコノラクトンの「酸クロライド」とは、3-カルボキシムコノラクトンのカルボン酸塩化物を意味する。3-カルボキシムコノラクトンの酸クロライドは、3-カルボキシムコノラクトンとハロゲン化剤、例えば塩化オキサリルとを反応させることで調製することができる。
【0017】
ここで、3-カルボキシムコノラクトンは、WO2008/018640号公報に記載のとおり、リグニンの分解産物であるバニリン、バニリン酸、及び/又はプロトカテク酸を出発材料とし、3種の酵素、ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ(LigV)、バニリン酸ディメチラーゼ(VanAB)、プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ(PcaHG)が同調的に分解することで調製される。しかしながら、3-カルボキシムコノラクトンの製法は、この方法に限定されず、他の発酵生産プロセスを経由してもよく、あるいはリグニン以外の植物由来成分を出発材料として調製してもよい。
【0018】
ヘテロ五員環構造を有する3-カルボキシムコノラクトンは、同様にヘテロ環を有するPDCと比較した場合、PDCのヘテロ環が六員環で安定しているのに対し、ヘテロ五員環は六員環と比較すると不安定で開裂しやすい。そのため、所望のエポキシ化合物を形成した後、開環することにより更に修飾を加えて他の樹脂原料に変換するのに適している。
【0019】
本明細書で使用する場合、「分子内に少なくとも1つの水酸基を有するエポキシ化合物」とは、その水酸基が3-カルボキシムコノラクトンのカルボキシル基と縮合してエステルを形成し、これにより本発明のエポキシ化合物を製造することができる任意のエポキシ化合物を意味する。「分子内に少なくとも1つの水酸基を有するエポキシ化合物」は、エポキシ基以外の部分が分枝していないもの、例えば2,3‐エポキシ‐1‐プロパノール(以下グリシドール)、3,4‐エポキシ‐1‐ブタノール、4,5‐エポキシ‐1‐ヘプタノール、5,6‐エポキシ‐1‐ヘキサノール等が好ましい。これらのエポキシ化合物の中でも、グリシドールは入手性の観点から好ましいが、他のエポキシ化合物も対応する不飽和アルコールをエポキシ化することにより容易に得られる。
【0020】
具体的な態様において、本発明のエポキシ化合物は、有機溶媒中、縮合剤及び触媒の存在下、3-カルボキシムコノラクトンと「分子内に少なくとも1つの水酸基を有するエポキシ化合物」とを縮合させるか、又は3-カルボキシムコノラクトンの酸クロライドを出発材料として、有機溶媒中、当該酸クロライドと「分子内に少なくとも1つの水酸基を有するエポキシ化合物」とを縮合させることで調製される。
【0021】
1. 縮合剤を利用した縮合反応
3-カルボキシムコノラクトンと「分子内に少なくとも1つの水酸基を有するエポキシ化合物」との縮合反応は、有機溶媒中、脱水縮合剤及び触媒の存在下で実施される。当該縮合反応で使用される溶媒は、重合反応を阻害しないものであれば特に制限されない。テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の脂環式炭化水素系溶媒;酢酸エステル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール等のジオール系溶媒などが使用できる。これらの溶媒は2種類以上を組み合わせて使用することもできる。当該反応で使用される縮合剤は、3-カルボキシムコノラクトンのラクトン環を開環させないもの、例えばN,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)、カルボニルジイミダゾール(CDI)等が好ましい。ジイソプロピルカルボジイミド(DCC)はラクトン環を開環させるため好ましくないが、反応条件を穏やかなものにすることで使用することもできる。縮合反応溶液中に添加される触媒は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、トリエチルアミンン、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチル-N-メチルジピペリジン、ピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン、N-メチルモルホリン、ナトリウムエトキシド等を用いることが出来る。当該触媒を反応溶液中に触媒量添加することで縮合反応を促進することができる。
【0022】
かかる縮合反応は、3-カルボキシムコノラクトンを所定の有機溶媒中で溶解し、分子内に少なくとも1つの水酸基を有するエポキシ化合物を添加した後、ラクトン環を開環させないように低温、例えば−10〜60℃、好ましくは0〜30℃で実施される。3-カルボキシムコノラクトンを溶解する溶媒は、上記縮合工程で使用される有機溶媒と同じでも異なっていてもよい。
【0023】
また、アゾジカルボン酸エステルとトリフェニルホスフィンを用いて光延反応により縮合してもよい。アゾジカルボン酸エステルには例えばアゾジカルボン酸ジエチル(DEAD)等が挙げられる。
【0024】
本発明のエポキシ化合物は3CML由来であり、ヘテロ五員環であるため、アルカリ条件下で壊れやすい。上記縮合反応後、過剰なDICの存在により反応液はアルカリ雰囲気となっているため、塩酸等の酸で洗浄して酸性雰囲気にする必要がある。また、縮合剤経由の反応では、所望のエポキシ化合物の他に、縮合剤由来の副生成物である尿素誘導体が形成されるため、反応生成物を重合反応に供する前に生成した尿素誘導体を除去することが望ましい。
【0025】
2. 酸クロライドを経由する縮合反応
酸クロライドを経由する縮合反応は、上記縮合剤経由の反応と比較して、尿素誘導体が生成せず、精製工程を必須としない。出発材料である3-カルボキシムコノラクトンの酸クロライドは、上述のとおり、3-カルボキシムコノラクトンと所定のハロゲン化剤とを反応させることで調製することができる。使用するハロゲン化剤は、ラクトン環を開環させない穏やかなもの、塩化オキサリル、塩化ホスホリル、塩化スルフリル、三塩化リン、五塩化リン等が好ましい。中でも、塩化オキサリルを使用するのが特に好ましい。カルボン酸の塩素化に一般的に使用される塩化チオニルは、ラクトン環を開環させることがあるため、使用の際には反応条件を検討する必要がある。
【0026】
得られた3-カルボキシムコノラクトンの酸クロライドは、所定の有機溶媒に溶解した後、分子内に少なくとも1つの水酸基を有するエポキシ化合物との縮合反応にかけられる。縮合反応で使用される有機溶媒は、酸クロライドを溶解する溶媒と同一であっても異なっていてもよい。限定しないが、当該有機溶媒は、クロロホルム、塩化メチル、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒:テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒:シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の脂環式炭化水素系溶媒が挙げられる。上記縮合剤経由の反応と同様に、酸クロライドを経由する縮合反応もラクトン環を開環させないような反応条件を設定する必要があり、反応温度は、例えば室温又はそれ以下の温度、例えば0〜30℃であることが好ましい。反応時間は1分〜24時間、好ましくは3分〜1時間である。
【0027】
本発明のエポキシ化合物の収率の観点からは、縮合剤を利用した縮合反応が好ましく、尿素誘導体などの副生成物が生成しない観点からは酸クロライド経由の縮合反応が好ましい。しかしながら、3-カルボキシムコノラクトン又はその酸クロライドを出発材料とする限り、本発明の方法は上記反応に限定されない。
【0028】
本発明のエポキシ化合物は、硬化剤と反応させることでエポキシ樹脂となる。硬化剤としては、種々の酸無水物やポリアミンが使用できるが、硬化を加温下で行う場合には、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、4-メチルフタル酸無水物、4-メチルシクロヘキサンジカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、テトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物を使用することが好ましい。これらの中で、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、4-メチルフタル酸無水物、又は4-メチルシクロヘキサンジカルボン酸無水物がより好ましい。更に、硬化開始剤を添加することで硬化反応を促進することができる。本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化は、本発明のエポキシ樹脂組成物を例えば接着剤として使用する場合には、該組成物をガラス、セラミックス、金属、耐熱性プラスチック等の材料間に介在させ、必要により最大50 MPaの圧力を加えて圧着しながら、80〜150℃好ましくは100〜130℃の比較的低い温度で、約10分間〜約1時間、好ましくは約10〜約30分間で行うことができる。本発明のエポキシ樹脂組成物は市販のエポキシ系接着剤(例えばコニシボンドMOS-7、セメダインEP001、セメダインEP582等)と同程度の引張強度を有することから、当該エポキシ樹脂は、構造材、接着剤、塗料、ポッティング材等、通常のエポキシ樹脂と同様の用途に利用することができる。
【0029】
本発明は、上記エポキシ化合物及び硬化剤を必須成分として含んで成るエポキシ樹脂組成物を提供する。本発明のエポキシ樹脂組成物における硬化剤の配合量は、エポキシ化合物に対する当量比(硬化剤/エポキシ化合物)が、0.3〜1.5の範囲内であって、組成物全体量において30〜60質量%の範囲内で含まれていることが好ましい。別の態様において、本発明のエポキシ樹脂組成物は、更に硬化開始剤等の他の成分を含んで成る。硬化開始剤として、アミン系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、アミド系化合物等の、一般的な硬化促進剤を添加してもよい。また、本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、反応性希釈剤、可塑剤、シリカ等の無機充填剤、難燃剤、離型剤、消泡剤、沈降防止剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、染料、顔料、着色剤等を配合することができる。
【0030】
以下の実施例を用いて、本発明を更に具体的に説明する。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
3-カルボキシムコノラクトン ジグリシジルエステル(以下3CML-DG)(オキシラン-2-イルメチル 2-(2-(オキシラン-2-イルメチル)-2-オキソエチル)-5-オキソ-2,5-ジヒドロフラン-3-カルボキシレート))の合成
本実施例では、以下の構造を有する3CML-DGを合成した。
【化7】

【0032】
1. N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(以下、DIC)を縮合剤に利用する縮合反応
50mlナス型フラスコに3-カルボキシムコノラクトン(以下3CML)を1.01gを取り、そこにテトラヒドロフラン(以下THF)を45ml加えて攪拌し、溶解した。完全に3CMLが溶解したのち、グリシドールを0.94ml(2.6eq mol)を加え、0℃に冷却した。
【0033】
DIC 2.19ml(2.6eq mol)、反応触媒としてN,N-ジメチル-4-アミノピリジン(以下DMAP)0.13gをTHF 5mlに溶解した。DICとDMAPの混合溶液を3CML溶液側に3分間かけて滴下し、1時間攪拌した。反応後、ろ過を行い副生成物の尿素誘導体を除去した。
【0034】
得られたろ液を0.1mol%塩酸で3回洗浄した。その後、飽和食塩水で3回洗浄した。ろ液に硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、ろ過を行い硫酸マグネシウムを除去した。その後、クロロホルムを減圧留去した。
【0035】
得られた溶液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒 クロロホルム:アセトン=7:1)を用いて精製を行い、表題の化合物が薄黄色透明液体として得られた。339mg 収率21.2%
【0036】
2. 酸クロライドを出発材料とする縮合反応
50mlフラスコに3CMLを1.00g取り、クロロホルムを100ml加えて攪拌した(この時点では3CMLはクロロホルムに溶解していない)。塩化オキサリル 1.0mlを加え(2eq mol)、触媒としてDMFを10μl加えた。室温で10min攪拌し、粉末を完全にクロロホルムに溶解した。
【0037】
余分な塩化オキサリルを除去するため真空引きを行った。さらにクロロホルムを10ml加えて真空引きするという作業を2回行い、3CMLの酸クロライド化物を得た。
【0038】
得られた3CML酸クロライド化物にクロロホルムを10ml加えて溶解した。別の200mlフラスコにグリシドール2.0gを取り、クロロホルム100mlを加えて攪拌した。そこに3CML酸クロライド溶液を加え、室温で30分攪拌した。
【0039】
反応溶液を3回飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムを加えて脱水した。硫酸マグネシウムを濾去した後、溶媒を留去して表題の化合物を含む粘性物質が1.56g得られた。収量0.086g 収率5.6%(1H-NMRのプロトン比より算出)
【0040】
評価
i)GC-MS測定(Hewlett Packerd製GC System6890 Mass Selective Detector 5973)
GC-MS測定により、合成の確認を行った。溶媒はクロロホルムを用いた。3CML-DGの分子量298に対し、以下のフラグメントが得られた。
GC-MS m/z:298、241、224、196
【0041】
ii)NMR測定(日本電子製 JNM-ECA500)
1H-NMR(500MHz, CDCl3) δ(ppm) :2.6-2.7(2H, m)、2.70(1H, m)、2.8-2.9(2H,m)、2.92(1H, m)、3.29(2H, m)、4.11(2H, m)、4.66(2H, m)、5.59(1H, m)、6.80(1H, d)
【0042】
13C-NMR(500MHz, CDCl3) δ(ppm) :36.99(ラクトン環5位α)、44.68(エポキシ基)、44.72(エポキシ基)、48.86(エポキシ基)、49.13(エポキシ基)、65.84(-CH2-)、66.87(-CH2-)、78.18(ラクトン環)、128.08(ラクトン環)、155.27(ラクトン環)、160.47(カルボキシル基)、168.41(ラクトン環C=O)、169.99(カルボキシル基)
【0043】
iii )FT-IR測定(日本分光製 Irtron IRT-30)
907cm-1(エポキシ基)、1752(ラクトン環)
【0044】
iv)TG-DTA測定(TG/DTA220,エスアイアイナノテクノロジー製)
測定条件:昇温速度10℃/min、Air雰囲気下
結果:5%重量減少温度=221℃、20%重量減少温度=321℃、50%重量減少温度=390℃
【0045】
せん断引張試験
3CML-DGであることが確認された上記エポキシ化合物を硬化させ、接着剤としての特性について検討した。
【0046】
50mlナス型フラスコに3CML-DG 339mgと無水コハク酸192mgを取り、アセトン1.69mlを加えて攪拌、混合した。硬化開始剤としてN,N-ジメチルベンジルアミン50μlを加え、さらに1分間攪拌し接着剤を作成した。接着面にショット処理を行い、表面を粗くした(Ra=1.0)、100×25×1.5mmのステンレス(SUS304)板の端面から12.5mmまで接着剤を0.3ml塗布し、10分間室温で乾燥させた。
【0047】
その後、2枚の板の接着剤塗布面同士をすり合わせて接着した。また、スペーサーを使用して接着層の厚みを100μmとした。接着した後、130℃の乾燥炉で30分焼成した。常温に戻した後、島津製作所社製AG-S万能試験機を用いて、JIS1994 K-6850に従い引張せん断試験を行った。引張速度 1mm/min
【0048】
3CML-DGの引張せん断試験の結果を以下の表に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のエポキシ化合物は、酸無水物と反応させることによりエポキシ樹脂とすることができ、得られたエポキシ樹脂は、構造材、接着剤、塗料、ポッティング材等、通常のエポキシ樹脂と同様の用途に利用することができ、特に、本発明のエポキシ樹脂は、その固有の強度、粘着性から、接着剤として好適である。また、植物を出発材料とする本発明のエポキシ化合物は生分解性も高いと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で表されるエポキシ化合物:
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜18の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表す)。
【請求項2】
Rがメチレンである、請求項1に記載のエポキシ化合物。
【請求項3】
有機溶媒中、任意に縮合剤及び触媒の存在下で、下記の式で表される3-カルボキシムコノラクトン
【化2】

又はその酸クロライドと、分子内に少なくとも1つの水酸基を有するエポキシ化合物とを縮合させて、下記の一般式(I)で表されるエポキシ化合物:
【化3】

(式中、Rは、炭素数1〜18の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表す)を製造する方法。
【請求項4】
前記縮合工程において、テトラヒドロフラン中、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン及びN, N'-ジイソプロピルカルボジイミドの存在下、3-カルボキシムコノラクトンと前記エポキシ化合物とが縮合される、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記縮合工程が−10〜60℃、好ましくは0〜30℃の範囲の温度で実施される、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記縮合工程において、クロロホルム中、3-カルボキシムコノラクトンの酸クロライドと前記エポキシ化合物とが縮合される、請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
前記縮合工程が―10〜60℃、好ましくは0〜30℃の範囲の温度で実施される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記分子内に少なくとも1つの水酸基を有するエポキシ化合物がグリシドールである、請求項3〜7のいずれかの製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のエポキシ化合物と、硬化剤とを含む、エポキシ樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−6879(P2012−6879A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145213(P2010−145213)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(501186173)独立行政法人森林総合研究所 (91)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】