説明

3−カルボキシムコノラクトンを原料とする新規ポリアミド及びその製造方法

【課題】植物由来物質を原料とするポリアミドの提供。
【解決手段】本発明は、下記の一般式(I)


(式中、Rはその構造中にヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素系の2価残基を示し、nは2〜24の整数を表す)
で表される繰り返し単位を有するポリアミド、を提供することを目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来物質である3-カルボキシムコノラクトン(以下、単に「3-CML」と略すこともある)を原料とするポリアミド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、広く用いられている樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等が知られており、各種容器等の成形品やゴミ袋、包装袋等に使用されている。しかしながら、これらの樹脂は石油を原料としているため、廃棄の際、焼却により地球上の二酸化炭素を増加させる原因となり、地球温暖化の一因となる。また、埋立処分しても、自然環境下ではほとんど分解されないため、半永久的に地中に残存する。
【0003】
近年、植物由来の原料や微生物により得られる植物由来樹脂が注目されている。これらの樹脂は、石油を原料としない、環境循環型の素材であり、焼却しても地球上の二酸化炭素を増大させず、また、焼却せずに埋設処理した場合は、微生物により分解されるため、環境破壊を招くことも少ない。このような樹脂としては、ポリ乳酸やポリヒドロキシ酪酸等があり、将来性のある素材として、各種成形材料への用途開発が進められている。しかしながら、これら植物由来樹脂においても、でんぷん、コーンスターチ等の食物を原料としている為、食物と競合する可能性がある。
【0004】
一方、植物成分であるリグニンは、芳香族高分子化合物として植物細胞壁に普遍的に含まれているバイオマス資源であるが、化学構造が多様な成分で構成されていることや複雑な高分子構造を持つために、有効な利用技術が開発されていない。そのため製紙工程で大量に生成するリグニンは有効利用されることなく、重油の代替え品として燃焼されている。しかしながら近年、リグニン等の植物芳香族成分が、加水分解や酸化分解、可溶媒分解などの化学的分解法、超臨界水や超臨界有機溶媒による物理化学的分解法などにより、数種の低分子混合物に変換され、更に機能性プラスチック原料や化学製品の原料となり得る単一の中間物質3-カルボキシムコノラクトンに変換することが可能になった。そのことからリグニンを食物と競合しない植物由来樹脂の原料として有効利用する余地があるといえる。
【0005】
WO99/54376は、リグニン分解産物である2H-ピラン-2-オン酸-4,6-ジカルボン酸(PDC)にジオール類を重合させて得られるポリエステル及びその製造方法を開示している。更に、WO99/54384では、PDCにジアミン類を重縮合させて得られるポリアミド及びその製造方法が開示されている。しかしながら、現在使用されている各種合成樹脂の多くが石油由来のものであり、植物由来樹脂のバリエーションを増大させる必要性は依然として存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO99/54376
【特許文献2】WO99/54384
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、植物由来物質を原料とするポリアミド及びその製造方法を提供し、環境負荷の少ないバイオマス樹脂のバリエーションを増大させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、有効な利用方法が未だ十分に確立されていないリグニンの分解産物のうち、3-カルボキシムコノラクトンに着目し、これを骨格とする新規ポリアミドを合成したところ、当該ポリアミドが高い熱安定性を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、(1)本発明は、下記の一般式(I)
【化1】

(式中、Rはその構造中にヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素系の2価残基を示し、nは2〜24の整数を表す)
で表される繰り返し単位を有するポリアミド、を提供する。
(2)本発明は、Rがヘキシレンである、(1)のポリアミド、を提供する。
(3)本発明は、任意に触媒の存在下で、有機溶媒中下記の式で表される3-カルボキシムコノラクトン
【化2】

とジイソシアネート化合物とを重合反応させるか、又は水非混和性溶媒に溶解した前記3-カルボキシムコノラクトンの酸クロライドと水酸化アルカリ水溶液に溶解したジアミン化合物とを重合反応させて、
下記の一般式(I)
【化3】

(式中、Rはその構造中にヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素系の2価残基を示し、nは2〜24の整数を表す)
で表される繰り返し単位を有するポリアミドを製造する方法、を提供する。
(4)本発明は、Rがヘキシレンである、(4)の方法、を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、植物由来の3-カルボキシムコノラクトン又はその酸クロライドを利用することで、化石資源を原料とすることなくポリアミドを製造することが可能となる。また、本発明のポリアミドは、PDC由来のポリアミドに匹敵する耐熱性を有すると考えられるため、高耐熱性繊維、プラスチック材料としての使用が想定される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリアミドの骨格となる3-カルボキシムコノラクトンは、以下の構造を有する。
【化4】

【0012】
上記3-カルボキシムコノラクトンを原料として製造される本発明のポリアミドは、下記の一般式(I)で表される:
【化5】

(式中、Rはその構造中にヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素系の2価残基を示し、nは重合度を表す正の整数、特に2〜24の整数を表す)。ここで、本発明の製造法によって得られるポリアミドは、上記一般式(I)の繰り返し単位を有するものであるが、式(I)中、Rは、その構造中に活性水素を有さないヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素系の二価残基を示し、R又はR−(OR)a−で表される二価残基(ここで、Rは炭素数2〜24の飽和又は不飽和炭化水素であり;aは1〜4の整数を示す。)を示すことが好ましい。
【0013】
炭素数2〜24の飽和又は不飽和炭化水素の二価残基としては、炭素数2〜24の直鎖又は分枝鎖のアルキレン基、炭素数3〜8の環状アルカンの二価残基、又は炭素数5〜10の芳香族炭化水素の二価残基が挙げられ、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ドデカメチレン基、フェニレン基、キシリレン基、シクロヘキシレン基等が好ましい。R2−(OR2)a−としては、例えば、−CH2CH2(OCH2CH22−が挙げられる。これらの基は、アルコキシ基(好ましくは、C1-6アルコキシ基)、アルカノイル基(好ましくは、C2-6アルカノイル基)、アルキル基(好ましくは、C1-6アルキル基)、アリール基(好ましくは、C6-14アリール基)、アラルキル基(例えば、C1-6アルキル基とC6-14アリール基とからなるアラルキル基)等の活性水素を有さない置換基で更に置換されていてもよい。
【0014】
上記化合物の一例として、Rがヘキシレンであるポリアミドの構造を以下に示す。
【化6】

【0015】
本発明のポリアミドは、任意に触媒の存在下で、1)有機溶媒中、3-カルボキシムコノラクトンとジイソシアネート化合物とを重合反応させるか、又は2)水非混和性溶媒に溶解した3-カルボキシムコノラクトンの酸クロライドと、水酸化アルカリ水溶液に溶解したジアミン化合物とを重合反応させることにより調製することができる。重合度(n)は、所望とするポリアミドの特性、例えば耐熱性に応じて適宜選択される。重合度(n)の調節は当業者にとって周知の手段によって行うことができ、例えば、反応時の原材料のモル比、重合度調整剤の種類、温度、時間、溶媒種、触媒の種類等、上記反応の条件を調節することで達成される。本発明の方法によると、nが2〜24の整数を表すポリアミドを生成することができる。
【0016】
3-カルボキシムコノラクトンは、WO2008/018640号公報に記載のとおり、リグニンの分解産物であるバニリン、バニリン酸、及び/又はプロトカテク酸を出発材料とし、3種の酵素、ベンズアルデヒドデヒドロゲナーゼ(LigV)、バニリン酸ディメチラーゼ(VanAB)、プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ(PcaHG)が同調的に分解することで調製される。しかしながら、3-カルボキシムコノラクトンの製法は、この方法に限定されず、他の発酵生産プロセスを経由してもよく、あるいはリグニン以外の植物由来成分を出発材料として調製してもよい。
【0017】
本明細書で使用する場合、3-カルボキシムコノラクトンの「酸クロライド」とは、3-カルボキシムコノラクトンのカルボン酸塩化物を意味する。3-カルボキシムコノラクトンの酸クロライドは、3-カルボキシムコノラクトンとハロゲン化剤、例えば塩化オキサリルとを反応させることで調製することができる。
【0018】
ヘテロ五員環構造を有する3-カルボキシムコノラクトンは、同様にヘテロ環を有するPDCと比較した場合、PDCのヘテロ環が六員環で安定しているのに対し、ヘテロ五員環は六員環と比較すると不安定で開裂しやすい。そのため、所望のポリアミドを形成した後、開環することにより更に修飾を加えて他の樹脂原料に変換するのに適している。
【0019】
1. ジイソシアネート化合物との重合反応
本明細書で使用する場合、「ジイソシアネート化合物」とは、O=C=N−R−N=C=O(式中、Rは上記定義のとおりである)を表す。具体的なジイソシアネート化合物として、ジイソシアン酸n-ヘキシル、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。ジイソシアネート化合物の中でも、ジイソシアン酸n-ヘキシルは入手性の観点から好ましい。
【0020】
3-カルボキシムコノラクトンとジイソシアネート化合物との重合反応は、3-カルボキシムコノラクトンを所定の有機溶媒中で溶解したものと、ジイソシアネート化合物を当該有機溶媒と同一又は異なる有機溶媒中で溶解したものとを混合した後、任意に触媒の存在下で実施される。後述するジアミン化合物との重合反応と比較した場合、ジイソシアネート化合物との重合反応は穏やかであり、3-カルボキシムコノラクトンが開環する虞が無い点で好ましい。3-カルボキシムコノラクトン及びジイソシアネート化合物の溶解、そしてその重合反応で使用される溶媒は、重合反応を阻害しないものであれば特に制限されない。このような溶媒として、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の脂環式炭化水素系溶媒;酢酸エステル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は2種以上を組み合わせて使用することもできる。溶媒の使用量は、原料モノマーの総量100重量部に対して通常20〜1,000重量部の量で用いられる。
【0021】
上記重合反応溶液中に添加される触媒としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N−メチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチルジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、N−メチル−N’−ジメチルアミノエチルピペラジン、N’N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ブタンジアミン、1,2−ジメチルイミダゾールその他の第3級アミン類;ジメチルアミン等の第2級アミン類;N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンその他のアルカノールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドその他のテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド類;ナトリウムフェノラートなどのアルカリ金属フェノラート;水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;ナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、2−エチルヘキサン酸カリウムなどのカルボン酸のアルカリ金属塩;トリエチルホスフィンなどの金属キレート化合物;スタナスアセテート、スタナスオクトエート(2−エチルヘキサン酸スズ)その他の有機スズ(II)化合物;ジブチルチンオキシド、ジブチルチンジクロライド、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジアセテート、その他の有機スズ(IV)化合物;ジアルキルチタネートその他の有機金属化合物が挙げられる。反応に使用しうる触媒は、好ましくは、2−エチルヘキサン酸スズである(スタナス2−エチルヘキソエートと記載されていた箇所は、2−エチルヘキサン酸スズに置き換えました)。当該触媒を反応溶液中に触媒量添加することで重合反応を促進することができる。例えば、これらの触媒は、反応混合物中、約0.001〜1重量%で用いることができる。
【0022】
重合反応が完了した後、重合反応溶液を再沈殿等の精製工程等にかけてもよい。再沈殿した場合、沈殿物をろ過後真空乾燥することで所望のポリアミドを得ることができる。反応温度は、3-カルボキシムコノラクトンを開環させないように低温、例えば−10〜60℃、0〜30℃が好ましい。反応時間は5分〜48時間、例えば30分〜24時間が好ましい。
【0023】
2. ジアミン化合物との重合反応
本明細書で使用する場合、「ジアミン化合物」とは、H2N−R−NH2(式中、Rは上記定義のとおりである)を具体的なジアミン化合物として、エチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,4−ジアミノシクロヘキサン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロへキサン、α−(3−アミノシクロヘキシル)メチルアミン、α−(3−アミノシクロヘキシル)エチルアミン、α−(3−アミノシクロヘキシル)プロピルアミン、α−(3−アミノシクロヘキシル)ブチルアミン、ノルボルナンジアミノメチル、トリシクロデカンジアミノメチル等の脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、α−(3−アミノフェニル)メチルアミン、α−(3−アミノフェニル)エチルアミン、α−(3−アミノフェニル)プロピルアミン、4,4−ジアミノジフェニルプロパン、4,4−ジアミノジフェニルメタン、3,4−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0024】
本発明のポリアミドは、ジイソシアネート化合物の代わりに、ジアミン化合物と3-カルボキシムコノラクトンの酸クロライドとを重合させることによっても得られる。酸クロライドとの重合反応を介して本発明のポリアミドの合成を行うと、副生成物が少ないため精製工程を短縮することが出来、また、分子量が高いポリマーを得ることが出来る。出発材料である3-カルボキシムコノラクトンの酸クロライドは、上述のとおり、3-カルボキシムコノラクトンと所定のハロゲン化剤とを反応させることで調製することができる。使用するハロゲン化剤は、ラクトン環を開環させない穏やかなもの、塩化オキサリル、塩化ホスホリル、塩化スルフリル、三塩化リン、五塩化リン等が好ましい。中でも、塩化オキサリルを使用するのが特に好ましい。カルボン酸の塩素化に一般的に使用される塩化チオニルは、ラクトン環を開環させることがあるため、使用の際には反応条件を検討する必要がある。
【0025】
得られた3-カルボキシムコノラクトンの酸クロライドは、所定の有機溶媒に溶解した後、ジアミン化合物との重縮合反応にかけられる。当該重縮合反応は、当業界で知られているポリアミドの合成反応であれば特に制限されない。ジアミンの塩基性による3-カルボキシムコノラクトンの開環反応を防ぐ観点からは、界面重縮合反応(ショッテン・バウマン反応)を使用することが好ましいが、低温溶液重縮合法を使用してもよい。界面重縮合反応を用いる場合、ジアミン化合物は水酸化アルカリ水溶液、例えば水酸化ナトリウム水溶液に溶解した後、溶解した上記酸クロライドとの反応に供される。酸クロライドが有機層から水層へと移行しないよう、当該酸クロライドはベンゼン等の水非混和性溶媒で溶解するのが好ましい。また、アルカリ性の水層を通過する際に3-カルボキシムコノラクトンを構成するラクトン環の開環が起こることを防ぐため、酸クロライド化物を溶解する溶媒は比重が1以下であることが望ましい。水層と有機層との間の界面に発生した固体を回収し、任意に洗浄等の精製工程を経ることで、所望のポリアミドが得られる。
【0026】
本発明の製造方法において、重縮合前の3-CML酸クロライド化物とジアミン類との配合割合は、3-CML酸クロライド化物1.00モルに対して、ジアミン類を好ましくは1.00〜3.00モル、より好ましくは1.00〜1.20モル、さらに好ましくは1.00〜1.10モル、特に好ましくは、1.00モルとなるようにするのがよい。3-CML酸クロライド化物とジアミン類との配合割合が上記範囲以外であると、得られるポリアミドの重合度が低下しやすい。
【0027】
本発明の製造法では重縮合溶媒として比重が1より小さい溶媒を使用する。比重が1より大きい溶媒を使用すると、界面に生成したポリアミド膜を引き上げる際にポリイミド膜がアルカリ性の水相を通過する結果、3-CMLのラクトン環が開裂してしまうためである。比重が1より小さい溶媒としては、水相との界面が形成できるものであれば特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の脂環式炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらの中で、芳香族炭化水素系溶媒が好ましく、特にベンゼンが好ましい。これらの溶媒は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0028】
モノマーの重縮合反応を十分に促進させる目的で、脱酸剤(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、トリエチルアミン等)
や、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)を添加してもよい。
【0029】
本発明の製造法における反応は、重縮合反応の速度が極めて速いため、特に加熱設備を必要とせずにほぼ常温で行うことができ、例えば、−10〜60℃の温度範囲で好ましく行うことができる。反応時間は、モノマー種の反応速度、ジアミン類の種類や量、重合温度等にもよるが、通常、水相と有機相とを接触させることにより瞬時に固体が生成し、例えば2〜30分で反応操作を終了させることができる。
【0030】
3. 縮合剤を利用した縮合反応
縮合剤を使用して、有機溶媒中、脱水縮合剤及び触媒の存在下で合成を行ってもよい。当該縮合反応で使用される溶媒は、重合反応を阻害しないものであれば特に制限されない。テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の脂環式炭化水素系溶媒;酢酸エステル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール等のジオール系溶媒などが使用できる。これらの溶媒は2種類以上を組み合わせて使用することもできる。当該反応で使用される縮合剤は、3-カルボキシムコノラクトンのラクトン環を開環させないもの、例えばN,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)、カルボニルジイミダゾール(CDI)等が好ましい。ジイソプロピルカルボジイミド(DCC)はラクトン環を開環させるため好ましくないが、反応条件を穏やかなものにすることで使用することもできる。縮合反応溶液中に添加される触媒は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、トリエチルアミンン、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N-メチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチル-N-メチルジピペリジン、ピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジン、N-メチルモルホリン、ナトリウムエトキシド等を用いることが出来る。当該触媒を反応溶液中に触媒量添加することで縮合反応を促進することができる。
【0031】
かかる縮合反応は、3-CMLを所定の有機溶媒中で溶解し、ジアミンを加えた後、ラクトン環を開環させないように低温、例えば−10〜60℃、好ましくは0〜30℃で実施される。3-カルボキシムコノラクトンを溶解する溶媒は、上記縮合工程で使用される有機溶媒と同じでも異なっていてもよい。
【0032】
また、アゾジカルボン酸エステルとトリフェニルホスフィンを用いて光延反応により縮合してもよい。アゾジカルボン酸エステルには例えばアゾジカルボン酸ジエチル(DEAD)等が挙げられる。
【0033】
上記縮合反応後、過剰なDICの存在により反応液はアルカリ雰囲気となっているため、塩酸等の酸で洗浄して酸性雰囲気にする必要がある。また、縮合剤経由の反応では、所望のエポキシ化合物の他に、縮合剤由来の副生成物である尿素誘導体が形成されるため、反応生成物を重合反応に供する前に生成した尿素誘導体を除去することが望ましい。
【0034】
上記方法によって得られたポリアミドには、必要に応じて、各種添加剤、例えば酸化防止剤、着色剤、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、充填剤、塗面改良剤等を配合することができる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例中、ポリアミドの熱重量測定は、熱重量分析(TGA)計(TG50;メトラートレド製)により、窒素雰囲気下、50℃から昇温速度10℃/分で昇温した時の初期重量から減少した重量の温度を測定することにより行った。
【0036】
3−カルボキシムコノラクトン(以下3-CML)を原料とするポリアミドの合成
本実施例では下記の式で表されるポリアミドを以下に記載する二種類の反応を介して合成した。
【化7】

【0037】
1. 3-CMLとヘキサメチレンジイソシアネートとの重合反応
50mlの2口フラスコに3-CML 1.01gを取り、フラスコ内をAr置換した後ジメチルスルホキシド3.0ml(脱水)を加えて攪拌し、溶解した。完全に3-CMLが溶解したのち、ヘキサメチレンジイソシアネート 0.92g(1eq mol)をジメチルスルホキシド1ml(脱水)に溶解したものを2口フラスコに加え1分間攪拌した。その後、触媒として2-エチルヘキサン酸スズを数滴加えて24時間室温で攪拌した。
【0038】
上記反応後、ジメチルスルホキシド5mlを加えて攪拌した後、メタノール500mlに再沈殿した。沈殿物をろ過後真空乾燥することで、表題のポリアミドが得られた。収量0.29g 収率19.9%
【0039】
上記反応により得られたポリアミドについて以下の物性評価を行った。
i)GPC測定(HLC-8220、東ソー製)
分子量Mw=200,000以上(溶媒:ジメチルホルムアミド)
【0040】
ii)NMR測定 (日本電子製 JNM-ECA500)
1H-NMR(500MHz, CDCl3) δ(ppm) :1.1-1.25(アルキル鎖)、1.25-1.35(アルキル鎖)、2.5(ラクトン環5位‐α)、3.0(アルキル鎖)、3.1(ラクトン環5位-α)、3.4(アルキル鎖)、5.5(ラクトン環)、6.7(ラクトン環)、7.9(アミド)、8.7(アミド)
13C-NMR(500MHz, CDCl3) δ(ppm) :26.1(アルキル鎖)、30.1(アルキル鎖)、38.8(ラクトン環5位-α)、39.2(アルキル鎖)、79.0(ラクトン環)、120.8(ラクトン環)、158.1(カルボニル)、160.0(ラクトン環)、170.5(ラクトン環)、171.4(カルボニル)
【0041】
iii )FT-IR測定 (ALPHA-T、BRUKER社製)
3320(NH)、2940(-CH2-)、2864(-CH2-)、1766(ピラン環の>CO)、1655(アミドI)、1561(アミドII)cm-1
【0042】
iv)熱重量測定 (TG/DTA220,エスアイアイナノテクノロジー製)
試験条件:昇温速度10℃/min、Air雰囲気下
結果:5%重量減少温度=174℃、20%重量減少温度=258℃、50%重量減少温度=441℃
【0043】
以上の結果から、ジイソシアネート化合物を用いて得られる本発明のポリアミドは、高耐熱性であることが分かる。
【0044】
2. 3-CML酸クロライド化物とヘキサメチレンジアミンとの重合反応
50mlフラスコに3-CML 0.1031gを取り、クロロホルムを10ml加えて攪拌した。(この時点では3-CMLはクロロホルムに溶解していない)。塩化オキサリル 1.0mlを加え(20eq mol)、触媒としてDMFを10μl加えた。室温で30min攪拌し、粉末を完全にクロロホルムに溶解した。
【0045】
余分な塩化オキサリルを除去するため真空引きを行った。さらにクロロホルムを5ml加えて真空引きするという作業を2回行い、3-CMLの酸クロライド化物を得た。NMR測定(日本電子製 JNM-ECA500)により3-CML酸クロライド化物の構造を確認した。
1H-NMR(500MHz, CDCl3) δ(ppm) :3.37(1H q), 3.74(1H q), 5.55(1H m), 7.07(1H d)
13C-NMR(500MHz, CDCl3) δ(ppm) :47.80(ラクトン環5位α), 76.66(ラクトン環), 133.84(ラクトン環), 156.82(ラクトン環), 162.05(カルボキシル基), 167.63(ラクトン環), 169.36(カルボキシル基)
【0046】
得られた3-CML酸クロライド化物にベンゼンを2ml加えて溶解した。小瓶にヘキサメチレンジアミンを0.062g(1eq mol)取り、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液を2ml加えて溶解した。そこに上記酸クロライド化物のベンゼン溶液をベンゼン層と水層が混ざらないように静かに加えた。界面に出来た固体をピンセットで巻き取り回収した。これを純水中で洗浄、その後120℃で減圧乾燥させて式5で表されるポリアミドを得た。収量00161g 収率10.9%
【0047】
上記反応により得られたポリアミドについて以下の物性評価を行った。尚、得られたポリアミドは重溶媒に溶解せず、NMR測定は実施できなかった。
i)分子量測定 (HLC-8220、東ソー製)
得られたポリアミドを溶媒に浸漬し、上澄みを測定した。大部分は溶解せず。
分子量Mw=1000,000以上 (溶媒:ジメチルホルムアミド)
【0048】
ii)FT-IR測定 (ALPHA-T、BRUKER社製)
3294(NH)、2928(-CH2-)、2854(-CH2-)、1752(ピラン環の>CO)、1639(アミドI)、1531(アミドII)cm-1
【0049】
iii)熱重量測定 (TG/DTA220,エスアイアイナノテクノロジー製)
試験条件:昇温速度10℃/min、Air雰囲気下
結果:5%重量減少温度=215℃、20%重量減少温度=344℃、50%重量減少温度=443℃
【0050】
iv)DSC測定 (DSC200,エスアイアイナノテクノロジー製)
試験条件:昇温速度10℃/min
結果:Tg=121℃
【0051】
以上の結果から、ジアミン化合物を用いて得られる本発明のポリアミドは、高重合度であり、高耐熱性のポリマーであることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)
【化1】

(式中、Rはその構造中にヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素系の2価残基を示し、nは2〜24の整数を表す)
で表される繰り返し単位を有するポリアミド。
【請求項2】
Rがヘキシレンである、請求項1に記載のポリアミド。
【請求項3】
任意に触媒の存在下で、有機溶媒中下記の式で表される3-カルボキシムコノラクトン
【化2】

とジイソシアネート化合物とを重合反応させるか、又は水非混和性溶媒に溶解した前記3-カルボキシムコノラクトンの酸クロライドと水酸化アルカリ水溶液に溶解したジアミン化合物とを重合反応させて、
下記の一般式(I)
【化3】

(式中、Rはその構造中にヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素系の2価残基を示し、nは2〜24の整数を表す)
で表される繰り返し単位を有するポリアミドを製造する方法。
【請求項4】
Rがヘキシレンである、請求項3に記載の方法。

【公開番号】特開2012−7102(P2012−7102A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145189(P2010−145189)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(501186173)独立行政法人森林総合研究所 (91)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】