説明

3−ジメチルアミノプロピルアミン(DMAPA)を製造するための低圧方法

低圧水素化方法を用いてN,N−ジメチルアミノプロピオニトリルから3−ジメチルアミノプロピルアミンを高純度で製造するための改良方法が開示されている。この基本的方法は、ニトリルと水素を触媒の存在下低圧でニトリルを第1級アミン生成物に変換するのに十分な条件下で接触させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には水素化方法によるジメチルアミノプロピオニトリル(DMAPN)からのジメチルアミノプロピルアミン(DMAPA)の製造に関する。より具体的には、本発明は、スポンジ(ラネー(登録商標))タイプ触媒とアルカリ金属水酸化物溶液を用いてジメチルアミノプロピオニトリルからジメチルアミノプロピルアミンを非常に高い選択率で製造するための低圧ジアミン水素化方法の使用に関する。特に、低温でスポンジニッケル触媒及び水酸化ナトリウム/水酸化カリウムの50重量%/50重量%混合物を用いるDMAPNのDMAPAへの低圧水素化を開示する。
【背景技術】
【0002】
N,N−ジメチルアミノプロピルアミン(DMAPA、N,N−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン、3−ジメチルアミノプロピルアミン)は各種の工業製品を大規模生産する際の重要な中間体である。例えば、DMAPAは、軟石鹸や他の製品を製造するための界面活性剤として、ベタインや脂肪アミンオキシドを製造するための中間体として重要な中間体である。N,N−ジメチルアミノプロピルアミンは凝集剤(メタクリルアミドに変換させることにより)、路面標識ペイントやポリウレタンを製造する際の出発物質としても使用される。DMAPAはボイラー水処理における腐食を抑制することが判明しており、ガソリン及びモーター油添加剤のための中間体である。DMAPAの有用性が広く、DMAPAに関係する製品が1年あたり数百万ポンド生産されている事実から、N,N−ジメチルアミノプロピルアミンを高い収率及び選択率で製造することが常に求められている。なぜならば、副生成物の汚染に伴ってコストが上がるからである。
【0003】
ジメチルアミノプロピルアミンのような脂肪族アミンを大量生産するために使用されているより一般的な方法の1つは第2級アミンの形成を抑えるべくアンモニアを用いたバッチまたはトリクルベッド水素化技術による脂肪族ニトリルの接触水素化であった。しかしながら、反応を進めるためには大量のアンモニアが必要であり、アンモニアの工業的取扱いには費用がかかり、環境上の問題を伴う。長年にわたり、DMAPAを製造するための最適方法を見つけるために幾つかのアプローチが試みられた。
【0004】
米国特許第3,821,305号明細書は、微細なラネー(登録商標)触媒及び苛性アルカリ塩基の存在下20〜50atmの圧力及び60〜100℃の温度での液相水素化方法を記載している。ここに具体的に記載されているように、HMDA、水、苛性アルカリ塩基及び触媒からなる液体媒体に水素及びニトリルを供給し、前記塩基の含量は苛性アルカリ1モルあたり2〜130モルである。
【0005】
米国特許第4,739,120号明細書では、Zuckermanがロジウム触媒及びpH8以上の無機もしくは有機塩基を用いて有機ニトリル基を第1級アミンに接触水素化する方法を記載している。前記反応を非混和性有機溶媒と水からなる2相溶媒系で実施すると記載されている。
【0006】
米国特許第4,885,391号明細書は、水を添加することにより触媒活性を維持しながらクロムを添加したラネー(登録商標)コバルト触媒を用いてC4−12ニトリルを水素化する方法を記載している。この方法は、苛性アルカリ塩基を用いることなく約80〜150℃の温度及び約400〜2500psigの圧力下で実施されている。
【0007】
米国特許第4,967,006号明細書は、反応圧を低くするために苛性アルカリ塩基の代わりにアルコール中アンモニアを用いることを記載している。しかしながら、使用するアルコールに依存して該アルコールを除去したりリサイクルすることが時々難しく、反応で望ましくない副生成物が形成される恐れがあるので、アルコールの使用は問題であり得る。
【0008】
Borninkhofらは、米国特許第5,571,943号明細書でモノ及び/またはジニトリルを水素化することによる第1級アミンの製造方法を記載している。ここで検討されているように、ニトリルは担体担持ニッケル及び/またはコバルト触媒系を場合により固体の反応媒体不溶性補助触媒と一緒に存在させてニトリルを水素化させている。前記触媒(及び補助触媒)は酸ではない。
【0009】
米国特許第5,789,621号明細書(Schnurr)は、コバルト及び/または鉄含有触媒を用い、高温(150〜400℃)及び0.1〜30MPaの水素化圧下でニトリルを水素化することによるアミン含有化合物の製造方法を記載している。この方法を溶媒の存在下または非存在下、固定床反応器において順流または逆流プロセスでバッチ式または連続的に実施することが更に記載されている。
【0010】
米国特許第5,840,989号明細書では、Cordierらは特別にドープさせたラネー(登録商標)ニッケル触媒の使用及び前記ドープ触媒を用いるニトリルのアミンへの水素化方法を記載している。ここに記載されているように、前記方法の別の実施態様では一部が水であり、残りがアルコールまたはアミドのような溶媒である液体反応媒体を用いている。
【0011】
米国特許第5,869,653号明細書(Johnson)は、アンモニアの非存在下、触媒量の水酸化リチウム及び水の存在下ラネー(登録商標)コバルト触媒を用いてニトリルを水素化する連続方法を記載している。ニトリルのアミンへの還元は1〜300バールの水素圧及び60〜160℃の温度で実施している。本明細書の記載によれば、所望の触媒効果を得るために触媒を水酸化リチウムで前処理するか、または水酸化リチウムを反応媒体それ自体中に存在させて反応を実施する。
【0012】
米国特許第5,874,625号明細書では、Elsasserは水性アルカリ金属水酸化物、少なくとも1つのラネー(登録商標)触媒、水及び水素を用いて150〜220℃の温度及び250〜2500psigの水素圧下で有機ニトリルを第1級アミンに水素化するための工業的バッチ方法を記載している。本明細書の記載によれば、この方法の改良点は充填物を乾燥し、水を添加するステップをなくし、系において必要な水を約0.2%に減らしたことである。
【0013】
欧州特許出願公開第0316,761号明細書(Kiek及びBauer)は、所望の第1級アミンに有利な反応の選択率をコントロールするためにスポンジコバルトまたはニッケル触媒、少量の酸化カルシウムまたは酸化マグネシウム及びアンモニアを用いることにより1,3−プロパンジアミン(PDA)副生成物を本質的に含まないDMAPAを製造できることを教示している。この特許明細書は、前記方法は160〜180℃の温度及び2200psigでバッチ式に実施され得ることも示唆している。
【0014】
米国特許第6,281,388号明細書(Goodwinら)は、水素化を用いてニトリルからアミンを製造する方法を記載している。この方法は、触媒、水及び無機塩基を収容している反応器に水素及びニトリルを供給するステップ及び反応器容量を最小限とすべく反応器を横切る少なくとも1つの方向でニトリルのバルク濃度を均一とするように反応媒体を混合するステップを含む。ここに記載されている方法はラネー(登録商標)ニッケル触媒及び無機塩基を用いて20〜50atm及び60〜120℃の温度で実施され得る。
【0015】
米国特許第6,469,211号明細書では、Ansmannらはアルミニウムと少なくとも1つの遷移金属の合金をベースとする活性化ラネー(登録商標)触媒を用いて亜硝酸エステル及びニトリルを第1級アミンに連続水素化する方法を記載している。この水素化方法はアンモニアも塩基性アルカリ(土類)金属化合物も存在させずに実施されると報告されている。
【0016】
米国特許出願公開第2002/0058841号明細書(Ansmannら)は、ニトリルを第1級アミンに水素化する際に使用するためのアルミニウムと少なくとも1つの遷移金属のα−Al合金をベースとする特別のマクロ孔性成形ラネー(登録商標)触媒の活性化及び使用を記載している。ここに詳記されているように、ニトリル水素化は有機溶媒(例えば、DMFまたはNMP)中10〜300バールの圧力下で実施されている。
【0017】
文献は水素化技術を用いてDMAPAを合成するための方法をも記載している。例えば、Krupkaら,Coll.Czech.Chem.Commun.,65(11);1805−1819(2000)にはパラジウム触媒を用いる3−(ジメチルアミノ)プロピオニトリルの水素化の研究が記載されている。水素化選択率に対する反応条件、触媒の種類及び充填物へのアンモニアまたはアミンの添加の影響が報告されている。結果から、前記研究は好ましい触媒はPd/SiO−Al触媒であり、パラジウムを用いる3−(ジメチルアミノ)プロピオニトリルの水素化において第2級及び第3級アミンの形成が好ましいことを示している。
【0018】
Johnsonら,Catalysis of Organic Reactions,82(2000)は、バッチ式ニトリル水素化における第1級アミン選択率をコントロールするための水酸化リチウム改質スポンジ触媒の使用を記載している。LiOH改質スポンジコバルト触媒を使用すると、ニトリルを第1級アミンへ変換する際に高い第1級アミン選択率コントロールを与えたが、反応を実施するには高圧(750psig)が必要であった。
【0019】
しかしながら、たとえDMAPAの合成に利用できる方法は多数あっても、多くの方法は該化合物の商業的製造に使用するには適していない。DMAPAの多くの用途では高純度で多数の副生成物を含まない化合物を必要としている。上記した方法によれば、当該化合物が合成上許容され得る収率で得られるが、工業の厳しい要件を満たすことができず、例えば副生成物を>99%含まない生成物を高収率で得ることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
副生成物の汚染が最小限(<300ppm)の高純度DMAPAに対する需要が高いと、N,N−ジメチルアミノプロピルアミンを効率的に、高い選択率(通常、副生成物を含まない)、高生産速度、高収率及び99%以上の純度で製造する方法が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、低圧水素化により3−(ジメチルアミノ)プロピオニトリルからジメチルアミノプロピルアミンを99.50%以上の選択率で製造する改良方法に関する。好ましい実施態様によれば、基本的方法はニトリルと水素をスポンジニッケル触媒の存在下ニトリル基を第1級アミンに変換するのに適した条件下で接触させることを含む。この水素化方法の改良は、水素化を低圧(45〜500psig)及び温度(70〜100℃)で安価な苛性アルカリ水酸化物を含むスポンジニッケル触媒の存在下で実施することにある。スポンジニッケル中の苛性アルカリ水酸化物の量を触媒量とするために、反応を水に溶解し、反応媒体に中分散させた苛性アルカリ水酸化物を用いて実施し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
ニトリルの水素化中第1級アミン形成の選択率を高めるためにアルカリ物質を触媒の存在下で使用することは長い間公知である。触媒及び条件に応じて、ニトリルは第1級、第2級または第3級アミンに変換され得、非常にしばしばアミン生成物の混合物が形成される。商業的理由から、これらの生成物の1つのみが所望生成物であり、通常第1級アミンのみが興味あるアミンである。
【0023】
この分野の初期の研究は、ニトリルの水素化混合物にアンモニアを添加すると第2級アミン及び他の副生成物の形成が強く抑制されるであろうことを示した。この研究中に、生成物及び副生成物の両方が生ずるニトリルのアミンへの水素化方法を示すアプローチが提案された。例えば、ニトリルDMAPNの水素化中に表面結合第1級イミン(1°イミン)が形成されることが公知である。このイミンはDMAPAのような第1級アミン(1°アミン)による攻撃を受けることがあり得、その場合第2級イミン(2°イミン)の形成中可逆的ステップでアンモニアを追い出す。2°イミンを水素化すると、2°アミン、すなわち3,3’−イミノビス(N,N−ジメチルプロピルアミン(ジ(3−ジメチルアミノプロピル)アミン)が生ずる。2°アミンの形成は実際的目的でアルデヒドの還元アミノ化と同一である。出発ニトリルDMAPNからの微量の不純物、例えばジメチルアミン(DMA)及びDMAPAのDMA及びACNへの逆ミカエル付加に由来するアクリロニトリル(AN)が存在すると、問題で除去しがたい副生成物、例えばN,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン(TMPDA)が生じる恐れがあることも認める価値がある。反応媒体中の過剰の水のために各種の他の副生成物、例えばn−プロピルアミンが生じることもあり得る。
【0024】
DMAPNからDMAPAへの接触水素化において潜在的に形成し得るすべての副生成物の中で、TMPDAまたは2°アミンの形成以上に商業的生成物の形成にとってより有害なものはない。これらの両生成物は除去しがたく、TMPDAは蒸留によりDMAPAから分離できない。これらの副生成物は、汚染DMAPAを中間体として使用するときには追加の副生成物を形成したり、目的生成物に対して望ましくない特性を付与する恐れがある。最も最近、TMPDAを300ppm未満しか含有しない中間体としてのDMAPAを必要とする大きな新しいDMAPA市場が開発された。
【0025】
興味深い生成物アミン、例えばN,N−ジメチルアミノプロピルアミンは通常1年あたり数十億ポンド生産されているので、このような高容量では、たとえ十分の数パーセントでも副生成物の除去及び廃棄の問題は重大であり、生成物を高い収率及び選択率で製造することが工業的な目標である。経済的見地から、これらの副生成物が商業的に使用されない限り、該副生成物は管理しがたく、処分にコストがかかるようになる。従って、N,N−ジメチルアミノプロピオニトリルの水素化中の第1級アミン生成物の選択率及び収率をコントロールするための改良された最適化技術を開発することが有益である。
【0026】
本明細書に記載したように、スポンジニッケル触媒に加えてIA族アルカリ金属水酸化物またはその混合物を配合するとDMAPNをDMAPAに水素化しながら選択率を高くコントロールすることができることが知見された。本発明の方法は低い水素圧及び温度で実施され得るので、所望の第1級アミンの3−ジメチルアミノプロピルアミンに有利な収率及び選択率をそれぞれ少なくとも99.0%及び99.98%ほどの高レベルに上昇させることができる。本発明の方法は除去が困難な副生成物、例えばTMAPA及び2°アミンを約300ppm未満しか生じないという効果をも有する。本発明に関連する更なる改良としては、操作コストが安いこと、廃棄物の量が少ないこと、水素化方法に伴う廃棄及び処理コストが少なくてすむことが挙げられる。
【0027】
本発明は3−ジメチルアミノプロピルアミンの製造方法に関するが、微細な触媒を液体反応媒体中に懸濁させて脂肪族及び芳香族ニトリルを含めたニトリル及びその誘導体、例えばプロピオニトリル、ブチロニトリル、タローニトリル、アセトニトリル、亜硝酸ベンジル等からの脂肪族及び芳香族アミンを含めたアミン及びその誘導体、例えばヘキサメチレンジアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、タローアミン、エチルアミン等の製造に適用され得る。
【0028】
具体的には、高い収率で及び選択率に3−ジメチルアミノプロピルアミンを製造する方法は、生じるアミンと共に反応媒体の液体成分中に分散させた微細なニッケルまたはコバルト触媒、水及び無機塩基を含む液体反応媒体に水素及びニトリルを供給することにより45〜500psig、好ましくは45〜150psig及び70〜100℃の温度で実施され得る。好ましい触媒はスポンジ(例えば、ラネー(登録商標))ニッケルであるが、この触媒に場合によりクロム及び/または鉄のような促進剤金属と組み合わせると水素化中活性の一部が失われる。
【0029】
触媒塊内の触媒活性を所与レベルに維持するためには、反応媒体中の触媒を参照により本明細書に含まれるとするCutchensらの米国特許第4,429,159号明細書に記載されているように徐々に再生しなければならない。この再生は、再生容器中に触媒を含むある量の反応媒体を捨て、この触媒を沈降させ、有機上層をデカントして反応容器に戻し、触媒を水で洗浄して触媒由来の汚染物質を除去した後、反応器にリサイクルすることにより実施する。リサイクルした触媒は、少量の新鮮触媒が反応器における触媒活性を高めるために必要な場合には新鮮触媒とリサイクルした触媒の混合物から構成され得る。
【0030】
本発明の低圧ジアミン水素化方法の有効性のキーは、反応の選択率を高めるためにスポンジニッケル触媒中に安価な苛性アルカリ水酸化物を有効量添加することである。好ましい水酸化物はリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びその混合物からなる群から選択される周期律表のIA族(“アルカリ金属”)元素の水酸化物である。より好ましい苛性アルカリ金属水酸化物は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム及びその混合物である。
【0031】
本発明において使用するのに適した触媒は、“骨格”または“スポンジタイプ”金属触媒としても公知のラネー(登録商標)タイプ触媒である。ニッケルスポンジ触媒及びコバルトスポンジ触媒の両方が使用できる場合には、コバルトスポンジ触媒の使用に関連するコストがより高いために、本発明でラネー(登録商標)ニッケル触媒を使用することが好ましい。
【0032】
本発明の低圧水素化方法で使用されるニッケル触媒はスポンジニッケルであり、しばしばラネー(登録商標)ニッケルと称されているものである。この触媒は複数の業者(W.R.Grace and Co.;Degussa;Activated Metals)から市販されており、または文献、例えばMozingo,Organic Syntheses Collected,Vol.3,p.181及びFieser及びFieser,Reagents for Organic Synthesis,Vol.1,p.723−731及びここに引用されている参考文献に記載されている複数の方法を用いて作成され得る。
【0033】
本発明で使用され得る別の触媒はコバルト触媒である。本発明の低圧水素化方法で使用されるコバルト触媒はラネー(登録商標)コバルトとしても公知のスポンジコバルトである。この触媒も複数の業者から市販されており、文献に記載されているルートを用いて合成的に入手することができる。
【0034】
スポンジ触媒に慣用の促進剤を当業者に公知の一般量配合してもよい。触媒に配合するのに適した促進剤としては、VIA族及びVIII族金属、例えばクロム、鉄、モリブデン等が例示される。
【0035】
本発明において出発材料(供給原料)として使用されるN,N−ジメチルアミノプロピオニトリル(DMAPN)は複数の業者(Acros;Aldrich Chemical Co.)から市販されている。或いは、DMAPNはアクリロニトリルとジメチルアミンの反応のような当業界で公知の方法により合成的に入手することができる。この種の方法、すなわちブローカラム反応器におけるジメチルアミンとアクリロニトリルの反応はドイツ国特許出願公開第27 09 966号明細書に記載されている。本発明で使用するためには、DMAPAは市販業者から入手したもので、n−プロピルアミンもジアミノプロパンも実質的に含んでいないことが好ましい。
【0036】
本発明によるDMAPNのDMAPAへの水素化は、反応器内で最小量の水しか使用しないですむような条件で実施する。反応媒体の液体部分は2相、すなわち無機塩基の水溶液及び触媒の水溶液からなる。還元プロセスで使用するのに適した水の量は反応混合物の約0.1〜約10重量%、好ましくは約2重量%である。水/無機塩基の比に関して、好ましい比は苛性アルカリ金属1モルあたり0.5〜10モルの水である。
【0037】
ニトリルのアミンへの還元は、約45psigくらいの低さから約500psigくらいの高さの水素圧下で実施され得る。しかしながら、DMAPNのDMAPAへの水素化は、好ましくは45〜300psig、より好ましくは45〜150psigまたは45〜110psigの水素圧下で実施する。ニトリルのアミンへの還元は、好ましくは約70〜約100℃、より好ましくは約80〜約100℃、更に好ましくは85〜95℃の温度で実施する。DMAPNのDMAPAへの還元は約100psig及び約90℃で実施することが最も好ましい。
【0038】
本明細書に記載したように、圧力はpsig(ポンド/インチの二乗,ゲージ)で測定する。1psigは0.068atmまたは0.069バールである。換言すると、本発明によるニトリルのアミンへの還元を約3.0〜約10.2atmの水素圧で実施することが好ましい。
【0039】
本明細書に記載されているN,N−ジメチルアミノプロピオニトリルをN,N−ジメチルアミノプロピルアミンに水素化するための方法によれば、反応中第2級アミン副生成物の形成を最小限または皆無としながらニトリル基を第1級アミンに驚くほど高い選択率及び収率で変換させることができる。換言すると、生成されるアミン、すなわちDMAPAは99.90%以上の選択率で生成され、(出発DMAPNに基づいて)少なくとも99%の収率で生成される。本明細書に記載されているように、選択率は反応中に生じ得る副生成物の形成を含めたDMAPNから形成されたDMAPAの量を指す。具体的には、本発明の方法は少なくとも99.60%というDMAPNからDMAPAへの選択率を示し、より好ましくは少なくとも99.70%というDMAPNからDMAPAへの選択率を示し、更に好ましくは少なくとも99.90%というDMAPNからDMAPAへの選択率を示す。本発明に従って製造されるDMAPAの収率は、好ましくは出発DMAPNに基づいて少なくとも99%であり、出発ニトリルに基づいて約99.1%、約99.2%、約99.3%、約99.4%、約99.5%、約99.6%、約99.7%、約99.8%及び約99.9%であり得る。本発明の方法が少なくとも99.98%の選択率及びN,N−ジメチルアミノプロピオニトリルから少なくとも99%の収率を示すことが最も好ましい。
【0040】
前記水素化は、変換を実施するのに適した慣用の水素化装置を用いて実施され得る。例えば、適当な装置には撹拌式タンクまたはループ反応器、連続撹拌式タンク反応器、連続ガスリフト反応器、固定床反応器、トリクルベッド反応器、バブルカラム反応器またはシーブトレー反応器が含まれるが、これらに限定されない。操作の好ましい方法は参照により本明細書に含まれるとする米国特許第6,281,388号明細書に記載されている方法を含む。
【0041】
本発明は、通常高圧・高温及びスポンジ、すなわちラネー(登録商標)タイプの触媒を用いる他の水素化方法に適用可能であるとも考えられる。適用可能であると考えられる前記方法の具体例は、ラネー(登録商標)ニッケル触媒及び強苛性アルカリ塩基を含む混合物を用いる方法である。前記方法により、DMAPNのDMAPAへの低圧水素化のために本明細書に記載されている方法と同様の改良が得られると予測される。例えば、アジポニトリルのヘキサメチレンジアミンへの低圧水素化も同様に改良された結果を生ずると予測される。
【0042】
下記実施例は本発明の好ましい実施態様を説明するために提示する。下記実施例に記載されている技術は本発明を実施する際に十分に機能するように本発明者らが知見した技術を表しており、よって本発明の実施のための好ましいモードを構成すると見做し得ることを当業者認識すべきである。しかしながら、当業者は本明細書の記載にてらして特定実施態様に本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく多くの変化を加えることができ、類似または同様の結果を得ることができることを認識すべきである。
【実施例】
【0043】
実施例1:苛性アルカリの調製
苛性アルカリを調製するために、まず溶存二酸化炭素を除去すべく煮沸した蒸留水を用意する。苛性アルカリ溶液を100gバッチ中に約25重量%で調製する。苛性アルカリ(KOH、NaOH等)を脱ガス水(〜60ml)に撹拌しながら添加する。苛性アルカリが完全に溶解したら、追加の水を添加して溶液の総重量を100gとする。溶液を濾過し、空気からのCOの吸収を最小限とすべく使用するまで密閉容器中に保存する。
【0044】
実施例2:水素化方法
水素と3−(ジメチルアミノ)プロピオニトリルを反応させるために、2枚のタービン羽根、分散混合型撹拌子、温度コントロールのための恒温浴からの移動流体を循環させるために底部から伸長しているコイル及び液体レベル以下の溶融ステンレススチール金属サンプル出口を備えた1L容量のオートクレーブ反応器を用いる。圧力が設定圧以下に下がったときに反応器に水素を添加するために圧力計及びレギュレータを備えたシリンダーから水素を供給する。水素をマスフローメーターを介して流す。3−(ジメチルアミノ)プロピオニトリル(Acros)をIscoモデル 500Dシリンジポンプを用いてオートクレーブにポンピングする。オートクレーブに水素化反応を促進するために鉄及びクロムを添加したスポンジニッケル触媒(Degussa MC 502)(この触媒は約85% ニッケル、10% アルミニウム、2% クロム及び2% 鉄)(37.5g)を充填する。触媒を水で3回、3−ジメチルアミノプロピオニトリル(Acros,GC分析によれば72ppmのTMPDAで汚染されている)で3回洗浄する。毎回の洗浄で、100L容量のメスシリンダーにおいて触媒及び材料を混合し、触媒を沈降させ、上部の透明な液体50mlをデカントする。次いで、50mlに達する量の触媒、水及び3−ジメチルアミノプロピルアミンスラリーをオートクレーブに充填する。更に、100% 3−ジメチルアミノプロピルアミン(265ml)及び25重量% 苛性アルカリ水溶液(6ml)を充填する。苛性アルカリ溶液は50重量%の水酸化ナトリウム及び50重量%の水酸化カリウムのブレンドである。攪拌子を動かし、オートクレーブを60℃に加熱する。次いで、オートクレーブに窒素を3回パージし、次いで水素を3回パージした後、水素で7.805atmに加圧する。次いで、オートクレーブを90℃に加熱し、圧力をチェックし、5分間維持する。
【0045】
次いで、0.04重量%の水を含有する3−(ジメチルアミノ)プロピオニトリルをシリンジポンブを用いて5ml/分の速度でオートクレーブに供給する。ラン中ずっと圧力及び温度をそれぞれ7.805atm及び90℃に維持する。27分後、供給を停止し、分析のためにサンプル150gをオートクレーブから抜き取る。次いで、上記と同一条件で供給を再開する。その後、この手順を全部で7サイクル繰り返す。
【0046】
各サイクル後に反応混合物をサンプリングし、純度、反応の進行及び(形成されたならば)副生成物の存在及び量を分析した。副生不純物を定量するために、水素炎イオン化型検出器を備えたガスクロマトグラフィー(HP 5990 シリーズII;Phenomenex Zebron ZB−1毛細管カラム,Phenomenexカタログ番号7HK−G001−36)により分析した。サイクル及び生成物の分析を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1は、DMAPNを本発明の方法に従ってスポンジニッケル触媒及びIA族アルカリ金属水酸化物を用いて水素化したときに、全反応中の第2級アミンの残存量が通常300ppm以下であることを示している。触媒スラリーを調製するために用いた供給物DMAPA中に存在する不純物に由来するTMPDAの形成量は反応中減少し、最終生成物はこの一般的で除去が困難な副生成物を含んでいなかった。
【0049】
表1に示すデータから明らかなように、生成物3−(ジメチルアミノ)プロピルアミンは99.98%のモル収率、>99%の純度であり、TMPDAまたは他の第2級アミン不純物は検出されず、最終生成物中に存在する第2級アミンは300ppm未満であった。
【0050】
実施例3:各種アルカリ金属水酸化物を添加したスポンジニッケルを用いたDMAPNNの水素化
実施例1及び2に詳記したのと同一の手順を用いる水素化のためにスポンジニッケル触媒に対する各種アルカリ金属水酸化物添加の影響を調べるために一連のランを実施した。実施例2に特定した50重量%の水酸化ナトリウム及び50重量%の水酸化カリウムからなる苛性アルカリ溶液の代わりに、表2に示す量のアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いた。表2に指定した数の反応サイクル後に、GC分析のためにサンプルを抜き取った。DMAPAの残存量及び各種第2級アミン副生成物の生成量を記録した。条件及び結果を表2に明記する。
【0051】
【表2】

【0052】
表1及び2から、KOH、CsOH及びKOH/NaOH混合物のようなアルカリ金属水酸化物を使用すると、高DMAPN変換に向けて、例えば第1級アミンの選択率を高く維持しながら適当な時間内に生成物DMAPA中に残っているDMAPN濃度が低くなるように、反応を進行させることができることが明らかである。LiOHの使用(ラン5)の場合には、他のランと同一の触媒を使用しても副生成物の形成量の改善は低いことが分かる。これらの結果から、ジメチルアミノプロピオニトリルのジメチルアミノプロピルアミンへの水素化における高い選択率を維持するためにKOH、CsOH及びKOH/NaOH混合物がアルカリ金属水酸化物として最も有効である。
【0053】
請求の範囲を含めた本明細書中に記載されている方法はすべて本明細書の開示にてらして過度の実験を実施することなく実施及び実行することができる。本発明の方法を好ましい実施態様に関して説明してきたが、方法及び本明細書に記載の方法のステップまたはステップの順序に対していろいろな変更を本発明の概念、趣旨及び範囲を逸脱することなく加えることができることは当業者には自明である。より具体的には、本明細書に記載されている物質を化学的に関連する特定物質で置換して、同一または同様の結果を得ることができることは自明である。当業者に自明であるこのような置換及び修飾は本発明の趣旨、範囲及び概念の範囲内であると見做される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポンジニッケル触媒、少なくとも1つのIA族アルカリ金属水酸化物及び水が収容されている低圧反応器に水素及びN,N−ジメチルアミノプロピオニトリルを供給して反応媒体を形成すること、
前記反応媒体を約70〜約100℃の温度に加熱すること、
前記反応器を約45〜約500psigの圧力に加圧すること、および
前記ニトリルを水素化してN,N−ジメチルアミノプロピルアミンを形成すること
を含む、低圧水素化によるN,N−ジメチルアミノプロピオニトリルからのN,N−ジメチルアミノプロピルアミンの製造方法。
【請求項2】
N,N−ジメチルアミノプロピオニトリルのN,N−ジメチルアミノプロピルアミンへの選択率が約99.60%以上である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
N,N−ジメチルアミノプロピオニトリルのN,N−ジメチルアミノプロピルアミンへの選択率が約99.90%以上である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
IA族アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム及びその混合物からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
IA族アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウムである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
IA族アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
IA族アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
温度が85から95℃である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
圧力が45から300psigである請求項1に記載の方法。
【請求項10】
圧力が45から150psigである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
圧力が45から110psigである請求項1に記載の方法。
【請求項12】
水の量が反応媒体の約0.1から約10重量%である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
触媒、少なくとも1つのIA族アルカリ金属水酸化物及び水が収容されている低圧反応器に水素及びN,N−ジメチルアミノプロピオニトリルを供給して反応媒体を形成すること、
前記反応媒体を約70〜約100℃の温度に加熱すること、
前記反応器を約45〜約150psigの圧力に加圧すること、および
前記ニトリルを水素化してN,N−ジメチルアミノプロピルアミンを形成すること
を含む、低圧水素化によるN,N−ジメチルアミノプロピオニトリルからのN,N−ジメチルアミノプロピルアミンの製造方法。
【請求項14】
触媒がスポンジニッケル触媒である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
触媒がコバルト触媒である請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2006−512415(P2006−512415A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508577(P2005−508577)
【出願日】平成15年12月12日(2003.12.12)
【国際出願番号】PCT/US2003/039447
【国際公開番号】WO2004/060853
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(500276390)ソリユテイア・インコーポレイテツド (43)
【Fターム(参考)】