説明

3−トリフルオロメチルピリジンN−オキシドの製造方法

【課題】 医薬及び農薬の中間体として有用な3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドを、簡便な操作で、高生成率、高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】 3−トリフルオロメチルピリジン及び過酸化水素水を、タングステン酸、タングステン酸のアルカリ金属塩、タングステン酸のアルカリ土類金属塩、酸化モリブデン及びモリブデン酸アンモニウムから成る群から選択される少なくとも一種の触媒の存在下、酸化反応させることを特徴とする3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬及び農薬の中間体として有用な3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ピリジン類と過酸化水素水を、タングステン酸化合物及び/又はモリブデン酸化合物を含む触媒の存在下、pH3−9に保持させて、ピリジン類のN−オキシド誘導体を製造する方法が記載されている。しかしながら、ピリジン類の具体例として、3−トリフルオロメチルピリジンは記載されていない。
非特許文献1には、3−トリフルオロメチルピリジンを酢酸及び過酸化水素の存在下で酸化させて、3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドを製造する方法が記載されている。しかしながら、タングステン酸化合物及び/又はモリブデン酸化合物を触媒として使用して酸化反応を行う方法については記載されていない。また、非特許文献1に記載の方法では、酢酸溶媒を使用しているため、反応終了後に酢酸を留去し、さらにその残渣を炭酸ナトリウムで中和してから塩化メチレンで抽出を行うなど操作が煩雑である上、3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシド3−エトキシカルボニルピリジン N−オキシドの生成率の面で必ずしも満足されるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−324678号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chem. Pharm. Bull., 17(3), 2244-2247頁, 1969年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドを、簡便な操作で、高生成率、高収率に製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく種々の検討を行った結果、3−トリフルオロメチルピリジン及び過酸化水素水を、触媒であるタングステン酸化合物及び/又はモリブデン酸化合物の存在下、酸化反応させることにより、高生成率、高収率に3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドを製造する方法を見出した。
即ち本発明は、3−トリフルオロメチルピリジン及び過酸化水素水を、触媒であるタングステン酸化合物及び/又はモリブデン酸化合物の存在下、酸化反応させることを特徴とする3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドを簡便な操作で、高生成率、高収率に製造することができる。また、触媒をリサイクル使用できるので、経済的に目的物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドは、3−トリフルオロメチルピリジン及び過酸化水素水を、触媒であるタングステン酸化合物及び/又はモリブデン酸化合物の存在下、酸化反応させて製造することができる。
【0009】
【化1】


【0010】
触媒としては、タングステン酸化合物及び/又はモリブデン酸化合物を使用できる。タングステン酸化合物としては、例えば、タングステン酸;タングステン酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウムのようなタングステン酸のアルカリ金属塩;タングステン酸マグネシウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸バリウムのようなタングステン酸のアルカリ土類金属塩;等が挙げられる。また、モリブデン酸化合物としては、酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム等が挙げられる。これらのなかでも、タングステン酸、タングステン酸ナトリウム、酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウムが3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドを製造する上での生成率、収率の観点から望ましい。
【0011】
酸化反応は、3−トリフルオロメチルピリジンと過酸化水素水とを反応させることによって行われる。過酸化水素水の濃度は、通常の過酸化水素の濃度で使用することができるが、5−90重量%のものが望ましく、10−60重量%のものがさらに望ましい。また、過酸化水素水のほかに、溶媒としての水をさらに加えて反応を行ってもよい。
【0012】
過酸化水素水は、過酸化水素として3−トリフルオロメチルピリジン1モルに対して、通常1〜10倍モル、望ましくは1〜3倍モル使用することができる。但し、反応条件によっては、この範囲外の量を使用することもできる。
【0013】
反応温度は、通常0〜100℃程度、望ましくは10〜90℃程度、さらに望ましくは60〜90℃程度であり、反応時間は、通常0.1〜24時間程度、望ましくは0.5〜3時間程度である。
【0014】
反応終了後、反応溶液を冷却して触媒を析出させ、これをろ過などの分離操作により、固液分離し、使用した触媒を回収することができる。もしくは、反応溶液から反応生成物を溶媒抽出して回収した後、水溶液を亜硫酸ナトリウム水などの還元剤で処理して、希硫酸などの希酸で酸性化して触媒を析出させる。これをろ過などの分離操作により、固液分離し、使用した触媒を回収することが出来る。回収した触媒は乾燥して使用しても未乾燥のままでも再度、本発明の製造方法の酸化反応に用いることができる。
【実施例】
【0015】
本発明をより詳しく述べるために、以下に実施例を記載するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0016】
実施例1
攪拌器、温度計及び冷却管を備えた四ツ口フラスコに、3−トリフルオロメチルピリジン220.65gとタングステン酸15.0gを仕込んだ。そこへ75〜85℃で35%過酸化水素水182.1gを1時間かけて滴下し、同温度で2時間反応させた。
反応液を冷却後、30℃以下で20%水酸化ナトリウム水溶液30gを加えて15分攪拌後、さらに20%亜硫酸ナトリウム47.3gを添加した。添加後同温度で15分攪拌し、反応液中の過剰の過酸化水素の処理が完了していることをヨウ化カリウムデンプン紙により確認した。ジクロロメタンにより抽出を計2回(745ml、496ml)行い、3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドを含むジクロロメタン溶液1863gを得た。
ジクロロメタン溶液を常圧下で内温が50℃に達するまで加熱してジクロロメタンを留去すると共に系内の水分を除去し、3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドを含むジクロロメタン溶液977gを得た。液体クロマトグラフィーで分析した結果、収率はほぼ定量的であった。
3−トリフルオロメチルピリジンを溶媒抽出して取り除いた水層に20%硫酸66.0gを添加してpH1.5まで酸性化して結晶を析出させ、3時間撹拌を行った後、白色スラリーをろ過した。結晶を45℃で14時間乾燥させて触媒12.4gを回収した。
回収した触媒を用いて再度酸化反応を実施した。攪拌器、温度計及び冷却管を備えた四ツ口フラスコに、3−トリフルオロメチルピリジン77.4gと回収触媒6.25gを仕込んだ。そこへ75〜85℃で35%過酸化水素水63.9gを1時間かけて滴下し、同温度で3時間反応させた。
反応液を冷却後、30℃以下で20%水酸化ナトリウム水溶液10gを加えて15分攪拌後、さらに20%亜硫酸ナトリウム15.8gを添加した。添加後同温度で15分攪拌し、反応液中の過剰の過酸化水素の処理が完了していることをヨウ化カリウムデンプン紙により確認した。ジクロロメタンによる抽出を計2回(248ml、165ml)行い、濃縮して真空乾燥することで3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドの結晶79.9gを得た。
3−トリフルオロメチルピリジンを溶媒抽出して取り除いた水層に20%硫酸23.0gを添加してpH1.5まで酸性化して結晶を析出させ、3時間撹拌を行った後、白色スラリーをろ過した。湿結晶を45℃で14時間乾燥させて触媒5.1gを回収した。
【0017】
実施例2
攪拌器、温度計及び冷却管を備えた四ツ口フラスコに、3−トリフルオロメチルピリジン29.4gとタングステン酸1.50gを仕込んだ。そこへ75〜85℃で35%過酸化水素水29.1gを1時間かけて滴下し、同温度で3時間反応させた。反応液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3−トリフルオロメチルピリジンを0.57%、3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドを98.85%の割合で含んでいることを確認した。
反応液を10℃まで冷却し、スラリー液をヌッチェにてろ過し湿結晶の触媒2.34gを回収した。
回収した触媒を全量用いて再度酸化反応を実施した。攪拌器、温度計及び冷却管を備えた四ツ口フラスコに、3−トリフルオロメチルピリジン29.4gと回収触媒2.34gを仕込んだ。そこへ75〜85℃で35%過酸化水素水29.1gを1時間かけて滴下し、同温度で1時間反応させた。タングステン酸0.5gを追加してさらに反応を3時間継続した。反応液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3−トリフルオロメチルピリジンを0.53%、3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドを98.80%の割合で含んでいることを確認した。
【0018】
実施例3
攪拌器、温度計及び冷却管を備えた四ツ口フラスコに、3−トリフルオロメチルピリジン30.2gとタングステン酸ナトリウム二水和物2.6gと濃硫酸0.8gを仕込んだ。そこへ75〜85℃で35%過酸化水素水182.1gを1時間10分かけて滴下し、同温度で4時間反応させた。反応液を冷却後、30℃以下で10%亜硫酸ナトリウム75.6gを添加した。添加後同温度で15分攪拌し、反応液中の過剰の過酸化水素の処理が完了していることをヨウ化カリウムデンプン紙により確認した。ジクロロメタン75gによる抽出を3回行い、溶媒を減圧留去し真空乾燥して3−トリフルオロメチルピリジン−N−オキシドの結晶20.4gを得た。
【0019】
実施例4
撹拌器、温度計及び冷却管を備えた四ツ口フラスコに、3−トリフルオロメチルピリジン73.55gと酸化モリブデン2.16gを仕込んだ。そこへ75〜85℃で約1時間かけて35%過酸化水素水72.86gを投入し、同温度条件下3時間反応させた。
反応液を冷却後、30℃以下で亜硫酸ナトリウム17.38gを添加した。添加後30〜40℃で1時間程度撹拌し、反応液中の過剰の過酸化水素の処理が完了していることをヨウ化カリウムデンプン紙により確認した。そこへ水36mlを投入し、その後、ジクロロメタン147.1mlによる抽出を3回繰り返した。
抽出したジクロロメタン溶液を常圧で濃縮した後、還流下で共沸脱水をおこない、3−トリフルオロメチルピリジンN-オキシド80.16gを含むジクロロメタン溶液145.4gを得た。
【0020】
実施例5
撹拌器、温度計及び冷却管を備えた四ツ口フラスコに、3−トリフルオロメチルピリジン44.13gと7−モリブデン酸6−アンモニウム18.54gと水90.0gを仕込んだ。そこへ75〜85℃で約1時間かけて35%過酸化水素水98.79gを投入し、同温度条件下1時間反応させた。
反応液を冷却後、30℃以下で亜硫酸ナトリウム37.82gを添加した。添加後30〜40℃で1時間程度撹拌し、反応液中の過剰の過酸化水素の処理が完了していることをヨウ化カリウムデンプン紙により確認した。反応液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3−トリフルオロメチルピリジンを0.25%、3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドを99.39%の割合で含んでいることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−トリフルオロメチルピリジン及び過酸化水素水を、触媒であるタングステン酸化合物及び/又はモリブデン酸化合物の存在下、酸化反応させることを特徴とする3−トリフルオロメチルピリジン N−オキシドの製造方法。
【請求項2】
タングステン酸化合物がタングステン酸、タングステン酸のアルカリ金属塩及びタングステン酸のアルカリ土類金属塩から成る群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
モリブデン酸化合物が酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸アンモニウムである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
触媒が、タングステン酸、タングステン酸のアルカリ金属塩、タングステン酸のアルカリ土類金属塩、酸化モリブデン及びモリブデン酸アンモニウムから成る群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
3−トリフルオロメチルピリジン1モルに対して、過酸化水素を1〜10倍モル使用する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
酸化反応を0〜100℃の反応温度で行う、請求項1の方法。

【公開番号】特開2013−32336(P2013−32336A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−130741(P2012−130741)
【出願日】平成24年6月8日(2012.6.8)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】