説明

3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの製造法

【課題】優れた3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドの製造法を提供すること
【解決手段】本発明の製造法は、(1)反応温度が常温である、(2)収率が高い、(3)操作が簡便である、などの特徴を有し、3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドまたはその塩の工業的製造法として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬および農薬として重要な3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドまたはその塩の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドまたはその塩は、抗口蹄疫ウイルス剤として開発されている有用な化合物である[特許文献1]。
3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドまたはその塩の製造法として、たとえば、(1)アミノマロンアミドにグリオキサールの重亜硫酸ナトリウム塩を反応させる方法[非特許文献1]、(2)アミノマロンアミドにグリオキサールを反応させる方法[非特許文献2]などが、知られている。
しかし、上記(1)の製造法は、グリオキサールの重亜硫酸ナトリウム塩が高価である、反応温度が高い、操作が煩雑である、などの問題があった。上記(2)の製造法は、反応温度が低く、グリオキサール等の反応剤が過剰に必要である、などの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/139081号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・メディシナル・ケミストリー(J.Med.Chem.)、第26巻、第283〜286頁、1983年
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティー(J.Am.Chem.Soc.)、1949年、第71巻、第78〜81頁、1949年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
常温で、高収率に製造できる、操作が簡便な3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドまたはその塩の工業的製造法が、強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような状況下、本発明者らは鋭意研究を行った結果、アミノマロンアミドまたはその塩にグリオキサールおよび塩基を同時に添加して反応させることで3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドまたはその塩を常温で、高収率に製造できること、とりわけ、緩衝剤存在下では、高収率で3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドまたはその塩を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造法は、(1)反応温度が常温である、(2)収率が高い、(3)操作が簡便である、などの特徴を有している。
本発明の製造法は、3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドまたはその塩の工業的製造法として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、緩衝剤とは、緩衝作用を有する化合物を意味する。
【0009】
3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドには、互変異性体である3−オキソ−3,4−ジヒドロ−2−ピラジンカルボキサミドが存在する。本発明は、この異性体を包含するものである。
次に、本発明の製造法について説明する。
【0010】

【0011】
式[2]化合物またはその塩は、式[1]化合物またはその塩に、緩衝剤の存在下または不存在下、塩基およびグリオキサールを同時に添加して反応させることで製造することができる。
【0012】
式[1]の化合物の塩としては、たとえば、塩酸、臭化水素および硫酸などの鉱酸との塩;酒石酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸との塩;ならびにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸などのスルホン酸との塩などが挙げられる。好ましい塩としては、鉱酸との塩が挙げられ、塩酸塩がより好ましい。
【0013】
式[2]の化合物の塩としては、たとえば、ナトリウムおよびカリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウムおよびマグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;ならびにトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N−ベンジル−β−フェネチルアミン、1−エフェナミンおよびN,N'−ジベンジルエチレンジアミンなどの含窒素有機塩基との塩などを挙げることができる。好ましい塩としては、薬理学的に許容される塩が挙げられ、ナトリウムとの塩が、より好ましい。
【0014】
この反応に使用される溶媒としては、反応に影響を及ぼさないものであれば特に限定されないが、アセトニトリルなどのニトリル類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルおよびジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノールおよびブタノールなどのアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミドおよびN,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;ならびに水などが挙げられ、これらは、混合して使用してもよい。好ましい溶媒としては、アルコール類、アミド類、スルホキシド類および水が挙げられ、アルコール類および水がより好ましく、水がさらに好ましい。
溶媒の使用量は、特に限定されないが、式[1]の化合物に対して、1〜100倍量(v/w)が好ましく、1〜50倍量(v/w)がより好ましく、1〜10倍量(v/w)がさらに好ましい。
【0015】
この反応に使用されるグリオキサールとしては、たとえば、市販されているグリオキサールの水溶液が挙げられる。
グリオキサールの使用量は、式[1]の化合物に対して、1〜10倍モルが好ましく、1〜5倍モルがより好ましく、1〜1.1倍モルがさらに好ましい。
グリオキサールの水溶液を用いることが好ましい。
【0016】
この反応で使用される塩基としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウムおよびリン酸三カリウムなどの無機塩基;ならびにジエチルアミン、ジイソプロピルアミンおよびトリエチルアミンなどの有機塩基が挙げられる。好ましい塩基としては、無機塩基が挙げられ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウムおよびリン酸三カリウムから選ばれる一種以上の塩基がより好ましく、水酸化ナトリウムであることがさらに好ましい。
塩基の使用量は、式[1]の化合物に対して1〜10倍モルが好ましく、1〜5倍モルがより好ましく、1〜1.1倍モルがさらに好ましい。
塩基の使用量は、グリオキサールの使用量と等モルであることが好ましい。
塩基の水溶液を用いることが好ましい。
【0017】
この反応において、緩衝剤の存在下にグリオキサールおよび塩基を同時に添加することが好ましい。
緩衝剤としては、たとえば、炭酸のアルカリ金属塩およびリン酸のアルカリ金属塩が挙げられる。
炭酸のアルカリ金属塩としては、たとえば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムが挙げられ、これらは混合して使用してもよい。
リン酸のアルカリ金属塩としては、たとえば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウムおよびリン酸三カリウムが挙げられ、これらは混合して使用してもよい。
好ましい緩衝剤としては、リン酸のアルカリ金属塩が挙げられ、リン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
緩衝剤の使用量は、式[1]の化合物に対して0.1〜10倍モルが好ましく、0.2〜5倍モルがより好ましい。
緩衝剤の水溶液を用いることが好ましい。
緩衝剤は、反応系内で調製してもよい。
緩衝剤の水溶液は、反応溶媒として用いることができる。
【0018】
反応温度は、0〜100℃であればよく、10〜50℃が好ましく、10〜30℃がより好ましい。
反応時間は、5分間〜50時間であればよく、5分間〜10時間が好ましい。
【0019】
式[2]の化合物またはその塩は、濾取などの通常の方法によって単離することができるが、単離せずに次の工程に用いてもよい。
【0020】
次に、本発明の製造法の有用性を説明する。
【0021】
試験例1 式[2]の化合物の製造
本発明の製造法、非特許文献1の製造法および非特許文献2の製造法を比較した。結果を表1に示す。
グリオキサールおよびグリオキサール重亜硫酸ナトリウム塩の値は、アミノマロンアミドに対するモル比である。
【0022】
【表1】

本発明の製造法は、使用される試薬の量が少なく、反応温度が常温であり、高収率であった。
一方、非特許文献の製造法は、試薬の量が多く、反応温度が高温または低温であった。
本発明の製造法は、(1)グリオキサールの使用量が少ない、(2)高価なグリオキサールの重亜硫酸ナトリウム塩が必要でない、(3)反応温度が常温である、などの特徴を有し、工業的製造法として優れていた。
【実施例】
【0023】
次に、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
DMSO-d6:重ジメチルスルホキシド
【0024】
実施例1

水酸化ナトリウム13.7g、85%リン酸19.7gおよび水600mLを混合し、リン酸緩衝液を得た。このリン酸緩衝液にアミノマロンアミド100gを添加し、20〜30℃で水酸化ナトリウム34.2gの水105mL溶液および40%グリオキサール水溶液130gを1時間かけて同時に滴下し、同温度で30分間撹拌した。反応混合物に濃塩酸25mLを加え、85℃に加熱し、濃塩酸60mLを加え、15℃に冷却した。固形物を濾取し、褐色固体の3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミド118gを得た。
1H-NMR(DMSO-d6)δ値:7.88-8.10(3H,m),8.69(1H,s)
【0025】
実施例2
アミノマロンアミド30.0gの水180mL懸濁液に20〜30℃で水酸化ナトリウム10.3gの水30mL溶液および40%グリオキサール水溶液42.7gを1時間かけて同時に滴下し、同温度で1時間撹拌した。反応混合物に濃塩酸7.5mLを加え、85℃に加熱し、濃塩酸13.5mLを加え、25℃に冷却した。固形物を濾取し、褐色固体の3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミド33.6gを得た。
NMRは、実施例1と一致した。
【0026】
実施例3
水20.0L、85%リン酸0.69kgおよび30%水酸化ナトリウム水溶液1.40Lを混合し、25℃に調整し、リン酸緩衝液を得た。このリン酸緩衝液にアミノマロンアミド3.50kgを添加し、20〜30℃で30%水酸化ナトリウム水溶液3.60Lおよび40%グリオキサール水溶液4.55kgを35分かけて同時に滴下し、同温度で1時間撹拌した。反応混合物に濃塩酸0.90Lを加え、85℃に加熱し、同温度で濃塩酸2.30Lを滴下し、25℃に冷却した。固形物を濾取し、褐色固体の3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミド4.07kgを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノマロンアミドまたはその塩に、グリオキサールおよび塩基を同時に添加して反応させることを特徴とする3−ヒドロキシ−2−ピラジンカルボキサミドまたはその塩の製造法。
【請求項2】
塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウムおよびリン酸三カリウムから選ばれる一種以上の塩基である請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
塩基が、水酸化ナトリウムである請求項1に記載の製造法。
【請求項4】
緩衝剤の存在下にグリオキサールおよび塩基を同時に添加して反応させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項5】
緩衝剤が、炭酸のアルカリ金属塩またはリン酸のアルカリ金属塩である請求項4に記載の製造法。
【請求項6】
緩衝剤が、リン酸水素二ナトリウムである請求項4に記載の製造法。

【公開番号】特開2010−241806(P2010−241806A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60872(P2010−60872)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003698)富山化学工業株式会社 (37)