説明

3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法

【課題】工業的に適した3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法を提供する。
【解決手段】金属アルコキシドの存在下、アセトニトリルのほかに溶媒を用いず、一酸化炭素とアセトニトリルを反応させることにより、3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩は、農薬、医薬品あるいは高分子材料重合用モノマーの原料として重要なことが知られている。例えば、特許文献1には、3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩を用いて、殺菌剤として有用な4−フェニルピロール誘導体が製造できる旨記載されている。
【0003】
3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法として種々の方法が知られている。 たとえば特許文献2に示されるように、金属アルコキシド存在下、アセトニトリルと一酸化炭素を反応させる方法が知られている。また、製造原料であるアセトニトリルは広く溶媒として用いられている物質であり、3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法において、アセトニトリル以外に特に溶媒を用いない場合、たとえアセトニトリルを過剰に用いたとしても回収再利用が容易であるため、最も経済的に好ましい。しかしながらそのような製造方法はほとんど知られておらず特許文献3にアセトニトリル以外に溶媒を用いることなく、金属アルコキシド存在下、アセトニトリルと一酸化炭素を反応させ3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩を経由して3−エトキシアクリロニトリルを製造する方法が記載されているのみである。
【特許文献1】特開昭61−85353号公報
【特許文献2】特開昭54−84526号公報
【特許文献3】特開昭58−157752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造については、特許文献2に示されるように、金属アルコキシド存在下、アセトニトリルと一酸化炭素を反応させる方法が経済的にもっとも好ましいが、特許文献2の実施例において溶媒として用いられるベンゼンは、その発がん性から現在では極力使用が控えられている物質であることなどから、改良する必要がある。
【0005】
また、特許文献3に記載された製造方法では、3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩の収率は明らかにされておらず、2工程での収率が73%と必ずしも経済的に好ましくなく、問題がある。
【0006】
本発明は、高品質の3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩を安価かつ安全に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を克服すべく鋭意検討を重ねた。まず、ベンゼンの代替として通常用いられるトルエンを溶媒とし、特許文献2と同様の条件で反応を実施したところ、収率は僅か37%であった。つづいて、一酸化炭素の圧力、添加するアルコールの量などを詳細に検討したが、収率は最高でも77%にとどまった。
【0008】
ところが、アセトニトリルのほかに溶媒を用いることなく反応を実施した場合には、反応収率の改善が見られ、従来技術を大きく上回る収率で3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩を得ることがわかった。以上のようにして本発明者らは最も経済的に好ましい形で本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、Mはリチウム、ナトリウムまたはカリウムを表し、Rは炭素数1〜8のアルキル基を表す。]で表される金属アルコキシドの存在下で、アセトニトリルのほかに溶媒を用いずに、アセトニトリルと一酸化炭素を反応させることを特徴とする、一般式(2)
【0012】
【化2】

【0013】
[式中、Mは前記と同様]で表される3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法。
[2] 一般式(1)において、Rがメチル基、エチル基または第三ブチル基である[1]記載の3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法。
[3] 一般式(1)において、Rがメチル基である[2]記載の3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法。
[4] 一般式(1)および一般式(2)において、Mがナトリウムである[1]乃至[3]いずれかに記載の3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば安全上の問題のある溶媒を使用せずに、従来知られている方法を大きく上回る収率で、3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の下記一般式(2)で表される3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法は、下記一般式(1)で表される金属アルコキシドの存在下で、アセトニトリルのほかに溶媒を用いずに、アセトニトリルと一酸化炭素を反応させることを特徴とする。
【0017】
【化3】

【0018】
以下、一般式(1)で表される金属アルコキシドについて説明する。
一般式(1)中のRは、炭素数1〜8のアルキル基を表す。前記炭素数1〜8のアルキル基は、直鎖アルキル基であっても分岐アルキル基であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、第2ブチル基、第3ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロヘキシル基などである。
【0019】
一般式(1)中のMは、リチウム、ナトリウムまたはカリウムである。
【0020】
一般式(1)で表される金属アルコキシドは、市販品を使用することもできるし、公知の方法で製造したものを使用することもできる。
【0021】
また、一般式(2)で表される3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩はシス体、トランス体あるいは一般式(3)
【0022】
【化4】

【0023】
[式中、Mはリチウム、ナトリウムまたはカリウムを表す]で表される化合物のうちのいずれか一つの化合物、または三者の任意の割合の混合物でよく、その構造は限定されない。
【0024】
本発明の3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造法によれば、一般式(2)で表される3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩は、一般式(1)で表される金属アルコキシドの存在下、特にアセトニトリル以外の溶媒を用いることなく、アセトニトリルと一酸化炭素を反応させることにより得られる。
【0025】
用いるアセトニトリルの当量は、一般式(1)で表される金属アルコキシドに対して1当量以上であればよく特に制限は設けないが、反応中の撹拌の容易さおよび経済性を考慮すると、5当量以上、20当量以下が望ましい。用いる一酸化炭素の圧力は1MPa以上であればよいが、反応の効率および経済性を考慮すると、1.5MPa以上、5MPa以下が望ましい。
【0026】
反応温度は40℃以上であればよく、特に上限は設けないが、経済性を考慮すると40℃以上、70℃以下が望ましい。
【0027】
以上により、3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法を提供することが、可能になった。
【実施例】
【0028】
以下、具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれら限定されるものではない。
(参考例1)
トルエン50.38g、アセトニトリル20.88g、エタノール31.16gおよびナトリウムエトキシド11.23gを高圧反応装置に挿入した。一度、系内を窒素置換した後、完全に一酸化炭素で置換し圧力を5MPaに調整し、50℃で反応させた。2時間後一酸化炭素の吸収が停止したことを確認し、室温まで冷却し窒素置換後得られた反応混合物をろ過した。得られた固体を減圧下室温で18時間乾燥し、目的物である3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩6.36g(純度86.9% 収率36.8%)を得た。
(参考例2)
トルエン50.22g、アセトニトリル6.92g、エタノール15.23gおよびナトリウムエトキシド11.24gを高圧反応装置に挿入した。一度、系内を窒素置換した後、完全に一酸化炭素で置換し圧力を5MPaに調整し、50℃で反応させた。4時間後一酸化炭素の吸収が停止したことを確認し、室温まで冷却し窒素置換後得られた反応混合物をろ過した。得られた固体を減圧下室温で18時間乾燥し、目的物である3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩11.01g(純度98.7% 収率72.3%)を得た。
(参考例3)
トルエン50.22g、アセトニトリル6.77g、エタノール15.21gおよびナトリウムエトキシド11.24gを高圧反応装置に挿入した。一度、系内を窒素置換した後、完全に一酸化炭素で置換し圧力を2MPaに調整し、50℃で4時間反応させた。この間一酸化炭素の消費により圧力が1.5MPaまで低下する毎に2MPaの圧力に調整し直した。反応終了後室温まで冷却し窒素置換後得られた反応混合物をろ過した。得られた固体を減圧下室温で18時間乾燥し、目的物である3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩11.91g(純度93.8% 収率76.9%)を得た。
(参考例4)
トルエン50.22g、アセトニトリル6.92g、エタノール15.23gおよびナトリウムエトキシド11.24gを高圧反応装置に挿入した。一度、系内を窒素置換した後、完全に一酸化炭素で置換し圧力を1.5MPaに調整し、50℃で4時間反応させた。この間一酸化炭素の消費により圧力が1MPaまで低下する毎に1.5MPaの圧力に調整し直した。反応終了後室温まで冷却し窒素置換後得られた反応混合物をろ過した。得られた固体を減圧下室温で18時間乾燥し、目的物である3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩10.68g(純度96.8% 収率68.7%)を得た。
(参考例5)
トルエン50.00g、アセトニトリル6.77gおよびナトリウムエトキシド11.24gを高圧反応装置に挿入した。一度、系内を窒素置換した後、完全に一酸化炭素で置換し圧力を1.5MPaに調整し、50℃で4時間反応させた。この間一酸化炭素の消費により圧力が1MPaまで低下する毎に1.5MPaの圧力に調整し直した。反応終了後室温まで冷却し窒素置換後得られた反応混合物をろ過した。得られた固体を減圧下室温で18時間乾燥し、目的物である3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩10.72g(純度70.3% 収率51.9%)を得た。
【0029】
(実施例1)
アセトニトリル50.00g、ナトリウムエトキシド11.24gを高圧反応装置に挿入した。一度、系内を窒素置換した後、完全に一酸化炭素で置換し圧力を2MPaに調整し、50℃で6時間反応させた。この間一酸化炭素の消費により圧力が1.5MPaまで低下する毎に2MPaの圧力に調整し直した。反応終了後、室温まで冷却し窒素置換後得られた反応混合物をろ過した。得られた固体を減圧下室温で18時間乾燥し、目的物である3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩13.75g(純度93.3% 収率88.4%)を得た。
(実施例2)
アセトニトリル100.00g、ナトリウムメトキシド8.97g(純度96.3%)を高圧反応装置に挿入した。一度、系内を窒素置換した後、完全に一酸化炭素で置換し圧力を2MPaに調整し、50℃で4時間反応させた。この間一酸化炭素の消費により圧力が1.5MPaまで低下する毎に2MPaの圧力に調整し直した。反応終了後、室温まで冷却し窒素置換後得られた反応混合物をろ過した。得られた固体を減圧下50℃で18時間乾燥し、目的物である3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩14.41g(純度95.7% 収率94.8%)を得た。
(実施例3)
アセトニトリル100.00g、ナトリウムメトキシド8.97g(純度96.3%)を高圧反応装置に挿入した。一度、系内を窒素置換した後、完全に一酸化炭素で置換し圧力を2MPaに調整し、55℃で4時間反応させた。この間一酸化炭素の消費により圧力が1.5MPaまで低下する毎に2MPaの圧力に調整し直した。反応終了後、室温まで冷却し窒素置換後得られた反応混合物をろ過した。得られた固体を減圧下50℃で18時間乾燥し、目的物である3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩14.40g(純度95.3% 収率94.3%)を得た。
(実施例4)
アセトニトリル100.00g、ナトリウムメトキシド8.97g(純度96.3%)を高圧反応装置に挿入した。一度、系内を窒素置換した後、完全に一酸化炭素で置換し圧力を2MPaに調整し、45℃で6時間反応させた。この間一酸化炭素の消費により圧力が1.5MPaまで低下する毎に2MPaの圧力に調整し直した。反応終了後、室温まで冷却し窒素置換後得られた反応混合物をろ過した。得られた固体を減圧下50℃で18時間乾燥し、目的物である3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩14.42g(純度98.5% 収率97.5%)を得た。
(実施例5)
アセトニトリル100.00g、ナトリウムメトキシド8.97g(純度96.3%)を高圧反応装置に挿入した。一度、系内を窒素置換した後、完全に一酸化炭素で置換し圧力を2MPaに調整し、60℃で4時間反応させた。この間一酸化炭素の消費により圧力が1.5MPaまで低下する毎に2MPaの圧力に調整し直した。反応終了後、室温まで冷却し窒素置換後得られた反応混合物をろ過した。得られた固体を減圧下50℃で18時間乾燥し、目的物である3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩14.44g(純度95.0% 収率94.2%)を得た。
(実施例6)
アセトニトリル100.00g、ナトリウムメトキシド8.97g(純度96.3%)を高圧反応装置に挿入した。一度、系内を窒素置換した後、完全に一酸化炭素で置換し圧力を3MPaに調整し、50℃で4時間反応させた。この間一酸化炭素の消費により圧力が2.5MPaまで低下する毎に3MPaの圧力に調整し直した。反応終了後、室温まで冷却し窒素置換後得られた反応混合物をろ過した。得られた固体を減圧下50℃で18時間乾燥し、目的物である3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩14.24g(純度97.4% 収率95.3%)を得た。
(実施例7)
アセトニトリル100.00g、ナトリウムメトキシド8.97g(純度96.3%)を高圧反応装置に挿入した。一度、系内を窒素置換した後、完全に一酸化炭素で置換し圧力を1.5MPaに調整し、50℃で4時間反応させた。この間一酸化炭素の消費により圧力が1MPaまで低下する毎に1.5MPaの圧力に調整し直した。反応終了後、室温まで冷却し窒素置換後得られた反応混合物をろ過した。得られた固体を減圧下50℃で18時間乾燥し、目的物である3−ヒドロキシアクリロニトリルのナトリウム塩14.23g(純度100.0% 収率98.9%)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によって、安全上問題のある溶媒を使用しない上、従来知られている方法を大きく上回る収率で、3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造が可能になった。本発明は工業的製造方法としても適している。また、得られた3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩は、農園芸用殺菌剤、殺虫剤および除草剤あるいは医薬品、もしくは高分子材料重合用モノマーの重要な原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】


[式中、Mはリチウム、ナトリウムまたはカリウムを表し、Rは炭素数1〜8のアルキル基を表す。]で表される金属アルコキシドの存在下で、アセトニトリルのほかに溶媒を用いずに、アセトニトリルと一酸化炭素を反応させることを特徴とする、一般式(2)
【化2】


[式中、Mは前記と同様]で表される3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法。
【請求項2】
一般式(1)において、Rがメチル基、エチル基または第三ブチル基である請求項1記載の3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)において、Rがメチル基である請求項2記載の3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)および一般式(2)において、Mがナトリウムである請求項1乃至3いずれかに記載の3−ヒドロキシアクリロニトリルの金属塩の製造方法。

【公開番号】特開2009−269870(P2009−269870A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122949(P2008−122949)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(303020956)三井化学アグロ株式会社 (70)
【Fターム(参考)】