説明

3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の取扱い方法または保管の方法

【課題】10〜90質量%の濃度を有する3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の、オリゴマー化を抑制して安定に取り扱う方法または保管する方法を提供する。
【解決手段】発酵により生成した3−ヒドロキシプロピオン酸を、10〜90質量%の濃度で含む溶液を、溶液中の水の含有量を10〜90質量%とし、かつ5〜50℃の範囲で取り扱うまたは保管することを特徴とする3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の取扱い方法または保管の方法により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の取扱い方法または保管の方法に関する。さらに3−ヒドロキシプロピオン酸溶液からのアクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止および環境保護の観点から、炭素源としてリサイクル可能な生物由来資源を従来の化石原料の代替として用いることが注目されている。例えば、汎用化成品、プラスチックおよび燃料生産の原料として、トウモロコシや小麦等の澱粉系バイオマス、サトウキビなどの糖質系バイオマス、および菜種の絞りかすや稲わら等のセルロース系バイオマス等のバイオマス資源を原料として利用する方法の開発が試みられている。また、バイオマス由来の糖類の利用以外にも、木質系バイオマスをガス化して得られる一酸化炭素と水素とを原料として利用する方法や、木質系バイオマスをガス化してメタノールを合成する方法についても検討・報告されている。このように、バイオマスから得られる糖類以外にも、様々な原料から汎用化成品を合成する技術が望まれている。
【0003】
3−ヒドロキシプロピオン酸(3HPとも称す)は、脂肪族ポリエステルの原料として有用な化合物であり、また、これから合成されるポリエステルは生分解性の地球にやさしいポリエステルとして注目されている。
【0004】
また3−ヒドロキシプロピオン酸は、脱水することによりアクリル酸を製造することができる。アクリル酸は、主にアクリル酸エステル製造の中間体として使用されており、アクリル酸エステルはコーティング剤、仕上げ剤、ペイント、接着剤の製造に使用され、吸着剤や洗浄剤用添加剤の製造にも使用されている。また、アクリル酸を部分中和させ、架橋性モノマーと共重合させることで吸水性樹脂を製造することもできる。アクリル酸の代替製造法としては、アクリロニトリルの硫酸による加水分解が知られている。しかし、この方法では、硫酸アンモニウム廃棄物が大量に生成し、それに伴うコストのために商業的には実施されていない。
【0005】
3−ヒドロヒドロキシプロピオン酸は微生物の培養により生産可能なことが報告されている。例えば、特許文献1では、3−ヒドロキシプロピオン酸生成能を有さない大腸菌に遺伝子組換えにより3―ヒドロキシプロピオン酸生成能を付与し、得られた組換え微生物を3−ヒドロキシプロピオン酸の発酵生産に用いる方法が開示されている。
【0006】
一方、非特許文献1および2では、3−ヒドロキシプロピオン酸生成能を元来保有する微生物を3−ヒドロキシプロピオン酸の発酵生産に用いる方法が開示されている。具体的に、非特許文献1では、Deusulforibrio属細菌を用いて、非特許文献2では、Lactobacillus属細菌を用いて、3−ヒドロキシプロピオン酸の発酵生産が行われている。
【0007】
また上記のような、3−ヒドロキシプロピオン酸を含んだ発酵液から、3−ヒドロキシプロピオン酸を取り出す方法も検討されており、例えば特許文献2では、3−ヒドロキシプロピオン酸のアンモニウム塩を含んだ液を、水に非混和性の有機アミンの存在下で加熱することにより、有機アミン相へ抽出し、さらに逆抽出することで、3−ヒドロキシプロピオン酸を分離することが開示されている。さらに特許文献3には、電気透析を用いた回収方法が開示されている。
【0008】
しかし、3−ヒドロキシプロピオン酸の発酵による製造や、その誘導体化の技術は未だ確立されておらず、工業化に当たっては技術のブラッシュアップが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2008/027742号
【特許文献2】国際公開第2002/090312号
【特許文献3】国際公開第2011/002892号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Qatibi AI et al.,Current Microbiology,1998,36,283−290
【非特許文献2】Sobolov M et al.,J. bacteriol,1960,79,261−266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、3−ヒドロキシプロピオン酸の合成、精製、誘導体化を検討する中で、3−ヒドロキシプロピオン酸は、分子間エステル化反応により二量体、三量体、四量体といったオリゴマーを形成しやすく、安定性に欠ける化合物であることを見出した。
【0012】
本発明は、発酵にて得られた3−ヒドロキシプロピオン酸を含む溶液の取扱いまたは保管する際に、3−ヒドロキシプロピオン酸のオリゴマー化を抑制し、3−ヒドロキシプロピオン酸を誘導体化するために十分な品質を保持する3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の取扱いまたは保管できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、種々検討の結果、発酵により得られた3−ヒドロキシプロピオン酸を濃度10〜90質量%の濃度で含む溶液を取り扱うまたは保管するに当たり、溶液中の水の含有量が10〜90質量%でかつ5〜50℃の範囲で取り扱うことまたは保管することを見出した。また3−ヒドロキシプロピオン酸を除く発酵由来の有機酸が3−ヒドロキシプロピオン酸に対して50質量%以下で取り扱うことまたは保管すること、さらに3−ヒドロキシプロピオン酸に対して、リン、窒素、マグネシウム、カルシウム、ナトリウムおよびカリウムから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み、該元素の合計が、1000質量ppm以下で取り扱うことまたは保管することにより、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液を安定に存在させることができ、3−ヒドロキシプロピオン酸の誘導体化も効率的に進行させることができることを見出した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば3−ヒドロキシプロピオン酸溶液を安定に取扱いまたは保管することができる。また3−ヒドロキシプロピオン酸の誘導体化へ問題なく使用することができため、誘導体化反応の効率化や、安定化、コストダウンに寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、発酵により生成した3−ヒドロキシプロピオン酸の二量体化、三量体化、四量体化等のオリゴマー化を抑制し、安定に存在させる方法である。3−ヒドロキシプロピオン酸溶液は、特に濃度が高くなると安定性が低下するため、高い濃度領域での安定性の保持が重要である。本発明の取扱い方法または保管の方法においては、3−ヒドロキシプロピオン酸の初期濃度が10〜90質量%の溶液の場合に効果的であり、20質量%以上の時により効果的であり、30質量%以上の時にさらに効果的であり、40質量%以上の時に一層効果的であり、50質量%以上の時により一層効果的である。10質量%未満の場合は、濃度が薄いため、その後の誘導体化反応において、反応速度が遅くなったり、コストアップの要因となり好ましくない。また90質量%を超える濃度では、安定性が著しく悪いため、安定に保管することは困難である。
【0016】
またヒドロキシカルボン酸はカルボキシル基と水酸基を有するため、オリゴマー化しやすいと考えられがちであるが、例えば3−ヒドロキシプロピオン酸の異性体である乳酸と比較すると、3−ヒドロキシプロピオン酸の方がオリゴマー化しやすく、これは3−ヒドロキシプロピオン酸の水酸基は1級であるのに対し、乳酸の水酸基は2級であることを考えると、驚くべきことであり、そのため本法により3−ヒドロキシプロピオン酸溶液を安定に取り扱うことまたは保管することは、非常に重要である。
【0017】
本発明の3−ヒドロキシプロピオン酸溶液は、3−ヒドロキシプロピオン酸と溶媒を含む。溶媒としては3−ヒドロキシプロピオン酸を溶解すればよく、特に限定されないが、水、アルコール、炭化水素、エーテル、ケトン、エステル、アミン、アミドまたはこれらを組み合わせた溶媒を用いることができる。好適には水である。
特に水の濃度は、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の安定性には影響が大きく、水の濃度によって、3−ヒドロキシプロピオン酸のカルボキシル基の解離平衡がずれpHが変化すること、また水は3−ヒドロキシプロピオン酸がオリゴマー化する際の副生物でもあるため、水の濃度によって見かけの反応速度が変わることから、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の安定な取扱い方法または保管の方法においては、最適な範囲を選択する必要がある。本発明においては、水は3−ヒドロキシプロピオン酸溶液中に10〜90質量%存在することが好ましく、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以下である。
本発明における3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の取扱い方法または保管の方法においては、温度は重要な要因である。温度が高すぎるとオリゴマー化速度が大きくなって好ましくないが、平衡的には温度が低い方がオリゴマー生成側に有利になるため、最適な温度範囲を選択する必要がある。本発明においては、5〜50℃の範囲で、3−ヒドロキシプロピオン酸を取り扱うことまたは保管することが望ましい。5℃未満の場合、長期の保管の場合、平衡的にオリゴマーが増加する恐れがあり、また粘度が高くなるため取扱いに支障が出る場合がある。50℃を超える温度では、オリゴマー化速度が大きくなり、短時間で安定性が低下する。
【0018】
発酵による3−ヒドロキシプロピオン酸の生成においては、使用する酵素や菌体、酵母等の微生物の種類や、原料、発酵条件によっても異なるが、副生成物として有機酸が生成することが多い。例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、グリコール酸、乳酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、3−ヒドロキシイソ酪酸、コハク酸、ピルビン酸等が挙げられる。これらは3−ヒドロキシプロピオン酸と同様の有機酸のため、分離が難しい場合があり、発酵液から3−ヒドロキシプロピオン酸を回収した際に、不純物として含まれることが多い。
【0019】
これらの有機酸が不純物として含まれると、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の安定性は低下し、3−ヒドロキシプロピオン酸のオリゴマー化の速度が上がり、3−ヒドロキシプロピオン酸の濃度が低下する。そのため、3−ヒドロキシプロピオン酸を除く発酵由来の有機酸は3−ヒドロキシプロピオン酸に対して50モル%以下であることが好ましい。より好ましくは40モル%以下であり、一層好ましくは30モル%以下であり、さらに好ましくは20モル%以下であり、より一層好ましくは10モル%以下である。
【0020】
また、発酵により3−ヒドロキシプロピオン酸を合成する際には、微生物の生育を促すために培地を添加する場合が多い。培地としては、天然物を使用したり、化学薬品を使用する。天然物としては例えば肉汁、ペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、コーンミール、グルコース等が挙げられる。
【0021】
また化学薬品としては、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、パントテン酸、ニコチン酸、クエン酸、イノシトール等が挙げられる。
【0022】
3−ヒドロキシプロピオン酸やこれらの培地成分を含んだ発酵液より、3−ヒドロキシプロピオン酸を回収する際、一部の培地成分が、混入する場合がある。中でも、リン、窒素、マグネシウム、カルシウム、ナトリウムおよびカリウムから選ばれる少なくとも1種以上の元素が含まれると、3−ヒドロキシプロピオン酸のオリゴマー化速度が大きくなり、安定性が損なわれる。そのため、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液中のリン、窒素、マグネシウム、カルシウム、ナトリウムおよびカリウムの合計が、3−ヒドロキシプロピオン酸に対して、1000質量ppm以下が好ましい。より好ましくは700質量ppm以下である。
【0023】
また、特にリンについては、リン酸やリン酸塩の形で存在すると、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の安定性の低下に大きく影響を及ぼすため、リン酸および/またはリン酸塩の形で存在するリンの量は、3−ヒドロキシプロピオン酸に対して、500質量ppm以下が好ましく、より好ましくは300質量ppm以下である。
【0024】
また窒素については、アミンやアンモニウム塩の形で存在すると、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の安定性の低下に大きく影響を及ぼすため、アミンおよび/またはアンモニウム塩の形で存在する窒素の量は、3−ヒドロキシプロピオン酸に対して、500質量ppm以下が好ましく、より好ましくは300質量ppm以下である。
【0025】
上記のような条件で取扱いまたは保管された3−ヒドロキシプロピオン酸溶液は、オリゴマー化もある程度抑制され、安定に存在することができる。3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の取扱いとは、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の反応、物理的処理、化学的処理あるいは移送等を含む。また保管は、次の誘導体化工程までの間、タンクや容器中に貯蔵することを指す。上記のような条件で取扱いまたは保管された場合、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液はその後の誘導体化においても問題なく使用可能である。安定性の目安は、次の誘導体化反応にもよるが、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液中の3−ヒドロキシプロピオン酸のオリゴマーの濃度が3−ヒドロキシプロピオン酸の100質量%以下で留まることが望ましい。3−ヒドロキシプロピオン酸のオリゴマーは、3−ヒドロキシプロピオン酸分子が2〜10個結合したものが、オリゴマー全体の70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。さらに3−ヒドロキシプロピオン酸分子が2〜8個結合したものが、オリゴマー全体の70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。さらには3−ヒドロキシプロピオン酸分子が2〜5個結合したものが、オリゴマー全体の70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。3−ヒドロキシプロピオン酸溶液を上記条件に保持後、すぐに誘導体化反応する場合は、24時間以上安定であれば良く、好ましくは48時間以上である。3−ヒドロキシプロピオン酸溶液をある程度の期間、保管する場合は好ましくは1ヶ月以上、より好ましくは3ヶ月以上安定であればよい。
【0026】
以下、3−ヒドロキシプロピオン酸を誘導体化する例として、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液を気相で脱水することによるアクリル酸の製造について例示するが、それ以外の液相での反応等、他の方法にも、本発明で得られた3−ヒドロキシプロピオン酸溶液は原料として使用できる。
【0027】
アクリル酸の製造に使われる3−ヒドロキシプロピオン酸を含む原料組成物は、上記の取扱い方法または保管の方法を経て得られた3−ヒドロキシプロピオン酸溶液をそのまま脱水反応の原料としても良いし、さらに濃度調整や溶媒や添加物等の添加によって、原料組成物を調製できる。
本発明における3−ヒドロキシプロピオン酸を含む原料組成物は、3−ヒドロキシプロピオン酸を含んでいれば良い。発酵やその後の回収工程、取扱いや保管中に生成する3−ヒドロキシプロピオン酸のダイマー等のオリゴマー類は、3−ヒドロキシプロピオン酸に対して100質量%以下であれば使用可能である。原料組成物に含まれる3−ヒドロキシプロピオン酸の濃度は5〜95質量%、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜90質量%である。
【0028】
3−ヒドロキシプロピオン酸を含む原料組成物には溶媒が含まれていてもよい。溶媒としては、3−ヒドロキシプロピオン酸を溶解すればよく、特に限定されないが、水、アルコール、炭化水素、エーテル、ケトン、エステル、アミン、アミドまたはこれらを組み合わせた溶媒を用いることができる。好適には水である。
【0029】
本発明において原料組成物に溶媒を用いる場合、溶媒の濃度は5〜95質量%であり、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは10〜80質量%である。5質量%以上であれば、粘度の低下により原料組成物の取扱いが容易になり、また気化した溶媒の同伴によって3−ヒドロキシプロピオン酸の蒸発が促進される効果が期待できる。一方95質量%以下とすることで、蒸発にかかる熱量を抑制し、用役費の低減に寄与できる。
【0030】
脱水反応においては、上記原料組成物を気化させた後、脱水触媒と接触させてアクリル酸を製造する。原料組成物の気化は、気化器にて原料組成物を蒸発させた後、脱水反応器に供給しても良いし、脱水反応器の上部に気化器を接続して一体化しても良い。
【0031】
脱水工程で使用する反応器は、中に固体触媒を保持し、加熱することができればよく、固定床式流通反応器や流動床式流通反応器等が使用できる。固定床式反応器は、反応器内に触媒を充填して加熱しておき、そこに原料組成物の蒸気を供給すればよい。原料組成物の蒸気は、上昇流、下降流、水平流いずれも好適に使用できる。また熱交換の容易さから、多管式固定床反応器が好適に使用できる。
流動床式反応器は、反応器の中に粒状の触媒を入れ、原料組成物の蒸気や、別途供給する不活性ガス等で触媒を流動させながら反応させることができる。触媒が流動しているため、重質分による閉塞が起こりにくい。また触媒の一部を連続的に抜き出して、新しい触媒や再生した触媒を連続的に供給することもできる。
【0032】
脱水反応の触媒は、3−ヒドロキシプロピオン酸をアクリル酸に転化する触媒作用を有するものであれば特に限定されず、ゼオライト等の結晶性メタロシリケート;カオリナイト、ベントナイト、モンモリロナイトなどの天然または合成粘土化合物;硫酸、ヘテロポリ酸、リン酸またはリン酸塩(リン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、リン酸マンガン、リン酸ジルコニウム等)をアルミナやシリカ等の担体に担持させた触媒;活性アルミナ、SiO、TiO、ZrO、SnO、V、SiO−Al、SiO−TiO、SiO−ZrO、TiO−WO、TiO−ZrOなどの無機酸化物または無機複合酸化物;MgSO、Al(SO、KSO、AlPO、Zr(SO等の金属の硫酸塩、リン酸塩などの固体酸性物質;を挙げることができる。また酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の固体塩基性物質も挙げられる。
【0033】
触媒層の温度は150〜500℃に保持することが好ましい。好ましくは200〜450℃である。この温度範囲であると、反応速度が速く、副反応も生じにくくアクリル酸の収率が高くなる。また反応圧力は特に限定されないが、原料組成物の蒸発方法、脱水反応の生産性や脱水反応後の捕集効率等を勘案して決定することができる。例えば反応圧力としては10〜1000kPaであり、好ましくは50〜300kPaである。
【0034】
本発明において、反応生成物を冷却してアクリル酸を含む組成物を得る方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、反応生成ガスを熱交換器に導入し反応生成ガスの露点以下の温度で凝縮して得る方法や、または反応生成ガスを溶剤等の捕集剤に接触させて吸収する方法等により冷却して、アクリル酸を含む組成物を得ることができる。
【0035】
このようにして得られた反応生成物の組成物中には主な反応生成物である水、アクリル酸が含まれており、その他に副生物や原料組成物中の溶媒や不純物が含まれる場合がある。溶媒が水の場合は、アクリル酸の水溶液の状態で重合物製造の原料とすることができる。また精製工程を加えることにより高純度のアクリル酸にすることができる。精製工程は、蒸発、蒸留、抽出、膜分離、晶析等公知の技術により実施でき、それらを組み合わせて実施しても良い。
【0036】
以上の方法により、アクリル酸を製造することができる。かくして製造されたアクリル酸は、アクリル酸エステルなどのアクリル酸誘導体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムなどの親水性樹脂、吸水性樹脂などの合成原料として有用である。従って、本発明によるアクリル酸の製造方法は、アクリル酸誘導体や親水性樹脂の製造方法に取り入れることが当然可能である。
【0037】
3−ヒドロキシプロピオン酸は、公知の方法で入手可能であり、例えば国際公開第2008/027742号に記載されている、Streptomyces griseus ATCC21897由来beta−alanine aminotransferase遺伝子導入大腸菌を用いた、グルコースを炭素源とした発酵により得ることができる。また、国際公開第2001/016346号に記載されている、Klebsiella pneumoniae由来グリセリン脱水酵素および大腸菌由来アルデヒド酸化酵素導入大腸菌を用いた、グリセリンを炭素源とした発酵によっても得ることができる。
【0038】
3−ヒドロキシプロピオン酸の入手方法の例として上記公知文献を記載したが、本発明の方法を用いる限り、発酵に用いる細菌または組換え細菌は特に限定されず、3−ヒドロキシプロピオン酸生成能を有する生物を用いた発酵により入手した3−ヒドロキシプロピオン酸であれば本発明記載の方法で利用可能である。また、発酵以外にも原料とする糖類と生物とを接触させることで生成した3−ヒドロキシプロピオン酸でも本特許記載の方法でアクリル酸へ変換することができる。糖類と生物を接触させるとは、原料として利用する糖類の存在下で微生物又はその処理物を用いて反応を行うことをも包含する。該処理物としては、アセトン、トルエン等で処理した菌体、菌死体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物、これらから酵素を抽出した粗酵素液、精製酵素等が挙げられる。また、常法により担体に固定化した菌体、該処理物、酵素等を用いて反応を行うことにより入手した3−ヒドロキシプロピオン酸も用いることができる。
【0039】
本発明では、生物由来資源を用いて発酵により3−ヒドロキシプロピオン酸を得る具体的実施形態に係る方法において、固体、特に微細な植物の部分又は細胞及び/又は細胞断片、特に発酵の後に得られる3−ヒドロキシプロピオン酸及び微生物等を含む水性組成物から微生物や生物的材料等を分離するのが良い。前記分離は、固体を液状組成物から分離するための、当業者に公知の全ての方法により実施することができるが、好ましくは沈殿法、遠心分離法又は濾過法、最も好ましくは濾過法により分離するのがよい。
【0040】
3−ヒドロキシプロピオン酸及び微生物等を含む水性組成物から微生物等を分離する処理においては、そこに含まれる微生物に処理を施すことなく行っても良いが、加熱処理して、そこに含まれる微生物を殺菌する処理工程を含んでも良い。前記水性組成物から微生物等を殺菌する処理は、微生物を分離する前、その間若しくは後に行うことができる。上記加熱処理の方法としては、3−ヒドロキシプロピオン酸及び微生物等を含む水性組成物を少なくとも60秒間、好ましくは少なくとも10分間、更に好ましくは少なくとも30分間にわたり、少なくとも100℃、特に好ましくは少なくとも110℃、更に好ましくは少なくとも120℃の温度で加熱することによって実施するのが好ましく、当該加熱処理は、当業者に公知の装置(例えばオートクレーブ)において実施するのが好ましい。高エネルギー照射(例えば紫外線照射)により微生物を殺菌してもよいが、加熱による微生物の殺菌が特に好適である。
【0041】
3−ヒドロキシプロピオン酸を含む水性組成物から、さらに3−ヒドロキシプロピオン酸を回収する方法としては公知の技術が使用できる。例えば、蒸留、蒸発、抽出、膜分離、晶析、イオン交換、電気透析等が挙げられ、これらを組み合わせても良い。さらに具体的には、発酵により得られた粗製ヒドロキシプロピオン酸を、カルシウム塩を用いて沈殿させて3−ヒドロキシプロピオン酸のカルシウム塩として回収し、その後、硫酸等の酸と反応させて3−ヒドロキシプロピオン酸を精製する方法、または発酵により得たアンモニウム型の3−ヒドロキシプロピオン酸を電気透析または陽イオン交換法によって3−ヒドロキシプロピオン酸に化学変換させて精製する方法等が利用できる。また、発酵により得られたアンモニウム型の3−ヒドロキシプロピオン酸に、水に不混和性のアミン溶媒を添加し加熱することで、アンモニアを除去して3−ヒドロキシプロピオン酸のアミン溶液を得ることができる。そこに水を加えて加熱することで、3−ヒドロキシプロピオン酸の水溶液を得ることができる。このようにして発酵液より、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液を得ることができる。この3−ヒドロキシプロピオン酸溶液を、本発明の条件にて取り扱うまたは保管することによって、3−ヒドロキシプロピオン酸を誘導体化するに十分な品質を保持することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
なお、以下ことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0043】
(調製例1)
3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)を含む組成物の取得
Klebsiella pneumoniae ATCC25955株のゲノムDNAをテンプテレ−トとしてグリセロールデヒドラターゼ遺伝子(GD遺伝子)およびグリセロールデヒドラターゼ再活性化因子(GDR遺伝子)を含む領域を、下記の2つのプライマーを用いてPCRで増幅し、増幅断片の末端を制限酵素NdeI、BglIIで切断し、電気泳動によって切断断片を回収した。なお、GD遺伝子およびGDR遺伝子配列を増幅する以下のプライマーはGenBank Accession number:NC_009648記載のDNA配列を元に設計した。
フォワードプライマー:
5’−GCGCGCCATATGTTAATTCGCCTGACCGGCC−3’
リバースプライマー:
5’−GCGCGCAGATCTTCAGTTTCTCTCACTTAACG−3’
pACYCDuet−1プラスミド(タカラバイオ社)をテンプレートにして下記の2つのプライマーでベクター配列を増幅し、pACYCDuet−1プラスミドのT7プロモーターの後ろにNdeIサイトおよびBgl IIサイトを持ったDNA断片を増幅した。
フォワードプライマー:
5’−GAAGGAGATATACATATGGCGCGC−3’
リバースプライマー:
5’−CCGATATCCAATTGAGATCTGCGCGC−3’
増幅断片を制限酵素BglIIとNdeIで切断し、電気泳動によって切断断片を分離して回収した。この2つのDNA断片をライゲーションし、大腸菌TOP10コンピテントセル(インビトロジェン社)に導入し、クロラムフェニコール含有プレートに広げて培養しところ、クロラムフェニコール耐性大腸菌を得ることができた。クロラムフェニコール耐性大腸菌からプラスミドDNAを抽出し、制限酵素により分子量の確認を行ったところ、目的とするGD遺伝子およびGDR遺伝子がpACYCDuet−1プラスミドに挿入されていることが確認できた。構築した組換えプラスミドをGD−GDR/pACYCDuet−1と命名し、以降の実験に用いた。
【0044】
大腸菌K−12 W3110株のゲノムDNAをテンプテレ−トとしてγ−glutamyl−γ−aminobutyraldehyde dehydrogenase遺伝子(aldH遺伝子)を下記の2つのプライマーを用いてPCR法で増幅し、増幅断片の末端を制限酵素NdeI、BglIIで切断し、電気泳動によって切断断片を回収した。なお、以下プライマーはGenBank Accession number:AB200319記載のDNA配列を元に設計した。
フォワードプライマー:
5’−GGGGGGCCATATGAATTTTCATCATCTGGCTTACTG−3’
リバースプライマー:
5’−CCCCAGATCTTCAGGCCTCCAGGCTTATCCAGATG−3’
pUC18プラスミドをテンプレートにして下記の2つのプライマーでベクター配列を増幅し、pUC18プラスミドのlacプロモーターの後ろにNdeIサイトを持ち、lacZ遺伝子の終始コドンの位置にBamHIサイトを持ったDNA断片を増幅した。
フォワードプライマー:
5’−CCCCCCCATATGTGTTTCCTGTGTGAAATTGTTATCCGCTCACAATTCCACACAATATACGAGCC−3’
リバースプライマー:
5’−CCCCGGATCCTTAGTTAAGCCAGCCCCGACACCCGCCAACACC−3’
増幅断片を制限酵素BamHIとNdeIで切断し、電気泳動によって切断断片を分離して回収した。この2つのDNA断片をライゲーションし、大腸菌TOP10コンピテントセルに導入し、アンピシリン含有プレートに広げて培養した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出し、制限酵素処理により分子量の確認をしたところ、目的どおり、aldHがpUC18プラスミドに挿入されていることを確認した。構築した組換えプラスミドをaldH/pUC18と命名し、以降の実験で使用した。
構築したGD−GDR/pACYCDuet−1およびaldH/pUC18をEscherichia coli BL21(DE3) competent cell(Merck社)のプロトコールに従って、ヒートショック法により導入し、E.coli(GD−GDR/pACYCDuet−1、aldH/pUC18)を作出した。
【0045】
E.coli(GD−GDR/pACYCDuet−1、aldH/pUC18)を、アンピシリン100ppm、クロラムフェニコール50ppm添加LB液体培地5mL(LB培地1Lあたりの組成:トリプトン10g、酵母エキス5g、NaCl10g)で37℃、16時間、振盪培養し、前培養液を得た。次に前培養液5mLを、アンピシリン100ppm、クロラムフェニコール50ppm、添加NS液体培地1Lに植菌し、37℃、攪拌速度725rpm、通気量1L/min、で通気攪拌培養を行った。なお、NS液体培地の組成は、グリセリン40g/L、硫酸アンモニウム10g/L、リン酸二水素カリウム2g/L、リン酸水素二カリウム6g/L、硫酸マグネシウム7水和物1g/L、酵母エキス40g/Lである。また、培養には、バイオット製ジャーファーメンター:BMJ−02NP2を使用し、培養中はアンモニア水を用いて培養液中のpHを7にコントロールした。培養8時間後に1M IPTG溶液を1mL、8mMアデノシルコバラミン溶液を1mL添加し、培養途中にグリセリンが枯渇しないように適時グリセリンを添加しながら100時間培養を行った。得られた培養液を遠心分離にかけ、培養液上清を回収した。以下記載の高速液体クロマトグラフィーを用いた分析方法で培養液上清中の生成物の確認を行ったところ、生成物である3−ヒドロキシプロピオン酸のピークを7.9分の位置に確認することができ、培養液中の3−ヒドロキシプロピオン酸の濃度は2質量%であった。
【0046】
高速液体クロマトグラフィーでの分析条件:
使用カラム: YMC−pACK FA(YMC社)
流量:1mL/min
インジェクション量:10μL
溶離液:メタノール/アセトニトリル/HO=40/5/55(V/V/V)
内部標準:2−Hydroxy−2−methyl−n−butyric acid
検出:UV 400nm
培養上清100μLに内部標準液200μLを加えた。ヒドロキシカルボン酸ラベル化試薬(YMC社)の試薬A液200μL、試薬B液200μLを加え、よく混合した後、60℃、20分間処理した。ヒドロキシカルボン酸ラベル化試薬(YMC社)の試薬C液200μLを添加し、よく混合した。60℃、15分間処理後、室温まで冷えたら0.45mmフィルターに通し、LC分析サンプルとして供した。
【0047】
菌体を除去した2質量%の3−ヒドロキシプロピオン酸含有培養液からWO2002/090312記載の方法で、3HPを12質量%含む水溶液を得た。またこの水溶液中には、発酵副生物である酢酸が7.2質量%含まれていた。
【0048】
(実施例1)
調製例1で得られた3HP水溶液を、薄膜式蒸発器を用いて濃縮を行った。圧力を20mmHg、ジャケット温度を50℃として、軽沸分を留去した。得られたボトム液をさらに薄膜蒸発器にかけ、圧力2mmHg、ジャケット温度を100℃として、3HPを含む留分を得た。この留分を3HP溶液とした。この3HP溶液中の3HP濃度は88.0質量%であった。この溶液を、35℃、50℃にて24時間保管した。保管後の3HP濃度は、35℃保管の場合で81.3質量%、50℃保管の場合で69.1質量%であった。
【0049】
(比較例1)
実施例1で得られた、88.0質量%の3HP溶液を65℃で24時間保管した。保管後の3HP濃度は30.7質量%であった。
【0050】
(比較例2)
調製例1で得られた3HP水溶液を、薄膜式蒸発器を用いて濃縮を行った。圧力を15mmHg、ジャケット温度を50℃として、軽沸分を留去した。得られたボトム液をさらに薄膜蒸発器にかけ、圧力2mmHg、ジャケット温度を100℃として、3HPを含む留分を得た。この留分を3HP溶液とした。この3HP溶液中の3HP濃度は95.0質量%であった。この溶液を、50℃にて24時間保管した。保管後の3HP濃度は、43.5質量%であった。
【0051】
(実施例2)
実施例1で得られた88.0質量%の3HP溶液に、水を添加して3HPが49.3質量%になるように調製した。この3HP溶液中の酢酸濃度は、5.4質量%(3HPに対して16.4mol%)であった。この溶液を35℃で24時間保管した。保管後の3HP濃度は、48.3質量%であった。
【0052】
(実施例3)
調製例1で得られた、12質量%の3HP水溶液を薄膜蒸発器で濃縮を行った。圧力30mmHg、ジャケット温度40℃として、軽沸分を除去した。得られたボトム液をさらに薄膜蒸発器にかけ、圧力2mmHg、ジャケット温度を100℃として、3HPを含む留分を得た。その留分に水を添加して3HPが49.3質量%になるように調製し3HP溶液とした。この溶液中の酢酸濃度は、17.7質量%(3HPに対して53.9mol%)であった。この溶液を35℃で24時間保管した。保管後の3HP濃度は、45.4質量%であった。
【0053】
(実施例4)
調製例1において、培養液のpH調整をアンモニア水の代わりに水酸化カルシウムを用いて実施した。培養終了後、培養液に、使用した水酸化カルシウムに対して98モル%相当の硫酸水溶液を滴下し、30℃で2時間撹拌した。得られた液から濾過により、菌体と生成した硫酸カルシウムを除去した。濾液を100℃で2時間加熱することにより、タンパク質の変性物を析出させ、これを濾過により除去した。得られた濾液を、薄膜蒸発器にて濃縮した。圧力を20mmHg、ジャケット温度を50℃として、軽沸分を留去した(薄膜蒸発1回目)。得られたボトム液をさらに薄膜蒸発器にかけ、圧力2mmHg、ジャケット温度を100℃として、3HPを含む留分を得た(薄膜蒸発2回目)。得られた留分に水を添加し、3HPが69.0質量%になるように調製し3HP溶液とした。この溶液中のリン酸イオン、アンモニウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンをイオンクロマトグラフィーにて分析した(表1)。この溶液を35℃にて24時間保管した。保管後の3HP濃度は65.9%質量であった。
【0054】
(実施例5)
実施例4において、薄膜蒸発1回目で得られたボトム液に水を添加した後、陽イオン交換樹脂アンバーリスト15(オルガノ社製)を添加し、30℃で2時間撹拌し、液中のイオン成分を吸着させた。陽イオン交換樹脂および析出物を除去後、3HPが69.0質量%になるように調製し3HP溶液とした。この溶液中のリン酸イオン、アンモニウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンをイオンクロマトグラフィーにて分析した(表1)。この溶液を35℃にて24時間保管した。保管後の3HP濃度は58.1質量%であった。
【0055】
【表1】

【0056】
(実施例6)
実施例1において35℃で保管して得られた3HP溶液に、水を添加して3HP濃度が60質量%になるように原料組成物を調整した。NMRにて、3HPと3HPのオリゴマーを分析したところ、3HPに対して、3HPオリゴマーは8質量%含まれていた。上記3HP水溶液にメトキノンを100質量ppmになるように添加した。
内径10mmの反応管に、固体触媒としてγ−アルミナを充填し、その上に蒸発層としてディクソンパッキンを充填した。反応管を電気炉にて300℃に加熱し、上記原料組成物を毎時2.9gの速度で反応管の上部に供給した。同時に、毎時20Lの速度で窒素ガスを流した。8時間継続して脱水反応を実施した。
反応管の下部から抜き出した反応ガスを、冷却捕集し反応液を得た。得られた反応液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、3HPおよび3HPオリゴマーの転化率は95%、3HPと3HPオリゴマーの合計に対するアクリル酸の収率は90モル%であった。
【0057】
(比較例3)
比較例2で保管された3HP溶液を、実施例6の原料組成物と3HPとオリゴマー(3HP換算)の合計濃度が同じになるように調製した。3HP濃度は29.8質量%、3HPのオリゴマーは31.7質量%であり、3HPに対して、3HPのオリゴマーは107質量%含まれていた。この原料組成物を、実施例6と同じ条件で脱水反応に用いた。3HPおよび3HPオリゴマーの転化率は88%、3HPと3HPオリゴマーの合計に対するアクリル酸の収率は72モル%であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、発酵により生成した3−ヒドロキシプロピオン酸を含む溶液を安定に取扱いまたは保管することができ、さらにこの3−ヒドロキシプロピオン酸溶液を原料として高品質のアクリル酸を高収率で安定的かつ連続的に製造することを可能にする。リサイクル可能な生物由来資源(例えばバイオマス)から入手または調製された3−ヒドロキシプロピオン酸を使用するため、地球温暖化対策に多大の貢献をなすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵により生成した3−ヒドロキシプロピオン酸を、10〜90質量%の濃度で含む溶液の取扱いまたは保管の方法であって、溶液中の水の含有量を10〜90質量%とし、かつ5〜50℃の範囲で取り扱うことまたは保管することを特徴とする3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の取扱い方法または保管の方法。
【請求項2】
3−ヒドロキシプロピオン酸に対して、3−ヒドロキシプロピオン酸を除く発酵由来の有機酸が50モル%以下であることを特徴とする請求項1に記載の3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の取扱い方法または保管の方法。
【請求項3】
3−ヒドロキシプロピオン酸に対して、リン、窒素、マグネシウム、カルシウム、ナトリウムおよびカリウムから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み、該元素の合計が、1000質量ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の取扱い方法または保管の方法。
【請求項4】
リンがリン酸および/またはリン酸塩であることを特徴とする請求項3記載の3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の取扱い方法または保管の方法。
【請求項5】
窒素がアミンおよび/またはアンモニウム塩であることを特徴とする請求項3または4記載の3−ヒドロキシプロピオン酸溶液の取扱い方法または保管の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項の方法で取扱いまたは保管された、3−ヒドロキシプロピオン酸溶液中のオリゴマーが3−ヒドロキシプロピオン酸に対して100質量%以下である3−ヒドロキシプロピオン酸溶液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項の方法で取扱いまたは保管された3−ヒドロキシプロピオン酸溶液を、脱水することを特徴とするアクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2013−23481(P2013−23481A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160924(P2011−160924)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】