説明

3−置換−α,β−不飽和カルボン酸エステル類の製造法

【課題】医薬、農薬の中間体として有用な3−置換−α,β−不飽和カルボン酸エステル類の新規製法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるエノール誘導体と、下記式(2)で表されるグリニャール試薬を、例えばエーテル類、炭化水素類等の有機溶媒中、ニッケル触媒、鉄触媒またはロジウム触媒の存在下にクロスカップリングさせ、下記式(3)で表される3−置換−α,β−不飽和カルボン酸エステル類を製造する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬の重要中間体となりうる3−置換−α,β−不飽和カルボン酸エステル類の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2−置換−1−シクロアルケンカルボン酸エステル類の製造法としては、i)環状β‐ケトエステルを無水トシル酸あるいはトシルクロリドで処理して得られるエノールトシラートとパラジウム触媒下でアリールボロン酸とを反応させる鈴木‐宮浦カップリング法(非特許文献1)、ii)環状β‐ケトエステルを無水トリフラートで処理して得られるエノールトリフラートとパラジウム触媒下でのアリール亜鉛ブロミドとのクロスカップリング反応(非特許文献2)、iii)同様にエノールトリフラートとパラジウム触媒下でのビニルトリブチルスズとのカップリング反応(非特許文献3)、iv)環状β‐ケトエステルを無水ノナフラートで処理して得られるエノールノナフラートとアリール亜鉛クロリドとパラジウム触媒下でのクロスカップリング反応(非特許文献4)などが知られている。
【0003】
しかしながら、これらの製造法では、高価なフッ素化アルキルスルホナートやパラジウム触媒を用いる必要があり、また反応終了後、廃棄物からのパラジウムの汚染、シリカゲル精製が必須であるという問題があった。このことから、より大きな生産スケールへの変換を困難にさせており、改良が望まれていた。
【0004】
【非特許文献1】Synlett, 471(1999).
【非特許文献2】Tetrahedron Lett., 38, 8067 (1997).
【非特許文献3】Tetrahedron Lett., 32, 6675 (1991).
【非特許文献4】Tetrahedron, 55,2103 (1999).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の各問題点が解決された3−置換−α,β−不飽和カルボン酸エステル類の新規製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下に示す製造法を開発することによって解決された。
即ち、一般式(1)
【化1】

(式中、Rは不飽和結合を有することもある炭素数が1〜8のアルキル基、アリール基、アラルキル基である。RおよびRは不飽和結合を有することもある直鎖または分岐鎖の炭素数1〜8のアルキル基であり、この場合RとRが結合して環を形成していてもよい。Rは、炭素数1〜4のアルキル基もしくはフェニル基で置換されたシリル基またはスルホニル基を意味する。)
で表されるエノール誘導体と、一般式(2)
【化2】

(式中、Rは非置換もしくは炭素数1〜4のアルキル基(アルキル基に存在する水素の1つ以上がハロゲン原子で置換されていてもよい)置換フェニル基、非置換もしくは炭素数1〜4のアルキル基(アルキル基に存在する水素の1つ以上がハロゲン原子で置換されていてもよい)置換ヘテロアリール基、非置換もしくは1つ以上の水素が炭素数1〜4のアルキル基に置換されたアミノ基置換フェニル基、または非置換もしくは1つ以上の水素が炭素数1〜4のアルキル基に置換されたアミノ基置換ヘテロアリール基を意味する。Xはハロゲン原子を意味する。)
で表されるグリニャール試薬を溶媒中、ニッケル触媒、鉄触媒またはロジウム触媒の存在下にクロスカップリングさせることを特徴とする一般式(3)
【化3】

(式中、R、R、R、Rは前記と同じ。)
で表される3−置換−α,β−不飽和カルボン酸エステル類の製造法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来の方法に比べ、安価かつ入手が容易な触媒を用いて、安価かつ合成容易なシリルエノールエーテルやトシルエノラートを原料とすることでプロセスコストの軽減が達成され、さらに従来のパラジウム系触媒の難点であった廃棄物質による環境汚染の問題が解決され、更には反応終了後、シリカゲル精製を必要とせず、抽出のみで目的物を得ることができるため、後処理が簡略化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
上記一般式(1)で表現されるエノール誘導体の具体例として、Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、ベンジル基などが挙げられ、特にメチル基が好ましい。また、R、Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基などがあげられ、また、RおよびRが共同して炭素数3〜6のメチレン鎖を構成して結合し、全体として不飽和の5〜8員環を形成してもよい。特に炭素数4のメチレン鎖を構成し、全体として6員環を形成している場合が好ましい。R4は、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基、p−トルエンスルホニル基、m−ニトロベンゼンスルホニル基、メタンスルホニル基などが挙げられる。R4が置換シリル基の場合はトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリエチルシリル基が特に好ましい。一方、R4が置換スルホニル基の場合はp−トルエンスルホニル基、m−ニトロベンゼンスルホニル基、メタンスルホニル基が好ましく、p−トルエンスルホニル基が特に好ましい。
【0009】
上記一般式(1)のうち、Rが置換シリル基である場合のシリルエノールエーテル類は、例えば、β−ケトエステル類をジクロロメタン、あるいはN,N−ジメチルホルムアミド溶媒中、N,N−ジメチルアミノピリジンを触媒として添加し、塩基としてトリエチルアミンを用い、相当するハロシランと反応させることで定量的に得ることができる。
【0010】
上記一般式(1)のうち、Rが置換スルホニル基である場合のエノールスルホナート類は、例えば、β−ケトエステル類をテトラヒドロフラン溶媒中、塩基として水素化ナトリウムを用い、相当するスルホニルクロリドと反応させ、容易に得ることができる。
【0011】
上記一般式(1)で表されるエノール誘導体の具体的な化合物としては、2−トリエチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル、2−トリメチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル、2−tert−ブチルジメチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル、2−p−トルエンスルホニルオキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステルが好ましく例示される。特に好ましくは、2−トリエチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステルが望ましい。
【0012】
上記一般式(2)で表されるグリニャール試薬は、例えば窒素雰囲気下、炭化水素系溶媒(例えばトルエン)、あるいはエーテル系溶媒(例えばテトラヒドロフラン)中、アリールハライドとマグネシウムとを反応させて容易に調製することができる。
グリニャール試薬は1種類を単独使用しても、また複数種類組み合わせて使用してもよい。
【0013】
グリニャール試薬の具体例としては、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、4−クロロトルエン、4−ブロモトルエン、4−ヨードトルエン、1−クロロ−4−エチルベンゼン、1−ブロモ−4−エチルベンゼン、1−エチル−4−ヨードベンゼン、1−tert−ブチル−4−クロロベンゼン、1−ブロモ−4−tert−ブチルベンゼン、1−tert−ブチル−4−ヨードベンゼン、1−クロロ−4−メトキシベンゼン、1−ブロモ−4−メトキシベンゼン、1−ヨード−4−メトキシベンゼン、1−クロロ−4−エトキシベンゼン、1−ブロモ−4−エトキシベンゼン、1−エトキシ−4−ヨードベンゼン、4−tert−ブトキシ−1−クロロベンゼン、1−ブロモ−4−tert−ブトキシベンゼン、4−tert−ブトキシ−1−ヨードベンゼン、4−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、4−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、4−ヨード−N,N−ジメチルアニリン、1−クロロ−4−フルオロベンゼン、1−ブロモ−4−フルオロベンゼン、1−フルオロ−4−ヨードベンゼン、1−クロロ−4−(トリフルオロメチル)ベンゼン、1−ブロモ−4−(トリフルオロメチル)ベンゼン、1−ヨード−4−(トリフルオロメチル)ベンゼン、1−クロロ−4−(トリフルオロメトキシ)ベンゼン、1−ブロモ−4−(トリフルオロメトキシ)ベンゼン、1−ヨード−4−(トリフルオロメトキシ)ベンゼン、3−ブロモピリジン、4−ブロモピリジン、2−アミノ−5−ブロモピリジン、2−アミノ−6−ブロモピリジン、3−アミノ−6−ブロモピリジン、2−アミノ−5−ブロモピリミジン、2−アミノ−5−ブロモチアゾール等のアリールハライドとマグネシウムから導かれる芳香族マグネシウム化合物を挙げることができる。
この場合、好ましいアリールハライドとしては、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、4−クロロトルエン、4−ブロモトルエン、4−ヨードトルエン、1−ブロモ−4−エチルベンゼンまたは4−ブロモ−N,N−ジメチルアニリンが望ましく、特に好ましくは4−ブロモトルエン、1−ブロモ−4−エチルベンゼン、4−ブロモ−N,N−ジメチルアニリンまたは1−ブロモ−4−メトキシベンゼンが望ましい。
【0014】
具体的なグリニャール試薬は、p−トリルマグネシウムクロリド、p−トリルマグネシウムブロミド、4−エチルフェニルマグネシウムブロミド、4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルマグネシウムブロミド、4−メトキシフェニルマグネシウムブロミドが好ましく例示される。
【0015】
グリニャール試薬の使用量は、特に限定されるものではないが、原料であるエノール誘導体(1)に対し、1〜3当量の割合で使用することが好ましく、特に好ましくは、1.5〜2当量の範囲である。
【0016】
クロスカップリング反応の際に使用するニッケル触媒、鉄触媒またはロジウム触媒は、それぞれ単独使用しても、また複数種類組み合わせて使用してもよい。
【0017】
好ましいニッケル触媒としては二塩化ニッケル、ニッケル(II)アセチルアセトナート、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジブロミド、ビス(トリn−ブチルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、〔1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン〕ニッケル(II)ジクロリド、〔1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン〕ニッケル(II)ジクロリド、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)鉄]ニッケル(II)ジクロリドが例示される。
また、好ましい鉄触媒としては、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、鉄(III)アセチルアセトナート、〔1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン〕鉄(II)ジクロリド、トリス(ジベンゾイルメタナート)鉄、サレン塩化鉄(II)が例示される。
また、好ましいロジウム触媒としては、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)ヨージド、(1,5−シクロオクタジエン)ビス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)が例示される。
【0018】
これらのうち特に好ましい触媒としては、ニッケル触媒としてニッケル(II)アセチルアセトナート、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、〔1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン〕ニッケル(II)ジクロリド、鉄触媒として鉄(III)アセチルアセトナートが挙げられる。
【0019】
これらの触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、一般式(1)で表されるエノール誘導体に対し、0.2〜20モル%の割合で使用することが好ましく、特に好ましくは、1モル%〜5モル%の範囲である。
【0020】
使用する溶媒は有機反応及び錯体合成で一般的に使用される溶媒であればよく、特に有機溶媒が好ましく、金属触媒の溶解性やグリニャール試薬の反応性を考慮して適宜選択され得る。
例えば、エーテル類(例えばジエチルエーテル、ジメトキシメタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル等)、炭化水素類(例えばヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、アミド類(例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等)、ニトリル類(例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等)、ならびにこれらの混合物等がある。
エーテル類、炭化水素類、アミド類、およびこれらの混合物が好ましく、例えば、エーテル類ではジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、炭化水素類ではヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アミド類ではジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミドがそれぞれ挙げられる。
エーテル類、炭化水素類、およびこれらの混合物が特に好ましく、エーテル類ではジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、炭化水素類ではシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンがそれぞれ挙げられる。
テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ベンゼン、トルエン、およびこれらの混合物が最も好ましい。
【0021】
使用する溶媒の量に特に限定は無いが、一般式(1)に表されるエノール誘導体に対して、5〜30倍容量で使用することが好ましく、特に好ましくは8〜21倍容量である。
【0022】
クロスカップリング反応の反応条件に特に限定は無いが、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、常圧で行うことが好ましく、温度範囲は−78℃から溶媒の還流温度で好ましく行うことができる。特に好ましくは、25℃から60℃の範囲である。
【0023】
反応容器への各試薬の投入順序に特に限定はなく、また、如何なる投入手段をも使用できる。例えば、エノール誘導体と金属触媒を予め反応容器内で混合しておき、そこにグリニャール試薬を投入する方法、グリニャール試薬と遷移金属触媒を予め反応容器内で混合しておき、そこにエノール誘導体を投入する方法等が好ましく挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を示すが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
なお、実施例中の略記号、TESはトリエチルシリル基、TBDMSはtert−ブチルジメチルシリル基、Tsはp−トルエンスルホニル基、Meはメチル基、Etはエチル基をおのおの意味する。
【0025】
製造例1
[2−トリエチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(4)の合成]
1Lのフラスコに、アルゴン雰囲気下、2−シクロヘキサノンカルボン酸エチルエステル10g(0.30mol)を量り取り、N,N−ジメチルホルムアミド400mL、トリエチルアミン33.39g(0.33mol)、N,N−ジメチルアミノピリジン3.66g(0.03mol)加えた。0℃に冷却下、トリエチルシリルクロリド48.23g(0.32mol)を1時間かけて滴下した。滴下終了後、25℃まで昇温させ、さらに1.5時間攪拌した。反応終了後、N,N−ジメチルホルムアミドを減圧留去し、残渣に水を加え、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、濃縮後、目的物である2−トリエチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(4)80.38g(0.28mol)を93.3%の収率で得た。
【0026】
【化4】

H−NMR(CDCl、270MHz):0.71(6H,q,J=7.6Hz),0.99(9H, t,J=7.6Hz),1.28(3H,t,J=6.8Hz),1.50−1.71(4H,m),2.10−2.20(2H,m),2.25−2.35(2H,m),4.17(2H,q,J=6.8Hz).
【0027】
製造例2
[2−tert−ブチルジメチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(5)の合成]
30mLのフラスコに、アルゴン雰囲気下、2−シクロヘキサノンカルボン酸エチルエステル1g(5.87mmol)を量り取り、N,N−ジメチルホルムアミド10mL、トリエチルアミン1.23mL(8.805mmol)、N,N−ジメチルアミノピリジン0.359g(2.94mmol)加えた。0℃に冷却下、tert−ブチルジメチルシリルクロリドのトルエン溶液3.1mL(8.805mmol)を滴下した。滴下終了後、60℃で15時間攪拌した。反応終了後、水を加え、酢酸エチルで2回抽出した。酢酸エチル層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、1N塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、濃縮後、目的物である2−tert−ブチルジメチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(5)1.65g(5.800mmol)を99%の収率で得た。
【0028】
【化5】

H−NMR(CDCl、270MHz):0.18(6H,s),0.95(9H, ts),1.28(3H,t,J=7.3Hz),1.50−1.70(4H,m),2.10−2.20(2H,m),2.25−2.35(2H,m),4.16(2H,q,J=7.3Hz).
【0029】
製造例3
[2−p−トルエンスルホニルオキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(6)の合成]
300mLのフラスコに、アルゴン雰囲気下、ナトリウムヒドリド(60%オイルサスペンション)2.59g(64.62mmol)、テトラヒドロフラン120mLを加え、0℃に冷却し、2−シクロヘキサノンカルボン酸エチルエステル10g(58.75mmol)のテトラヒドロフラン(20mL)溶液を滴下した。0℃のまま30分間攪拌した後、p−トルエンスルニルクロリド11.76g(61.69mmol)のテトラヒドロフラン(20mL)溶液を滴下した。20分間攪拌した後、25℃まで昇温させ、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、反応混合物をクエンチした。さらに水を加え、酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を10%炭酸カリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、濃縮後、目的物である2−p−トルエンスルホニルオキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(6)16.49g(50.83mmol)を86.5%の収率で得た。
【0030】
【化6】

H−NMR(CDCl、270MHz):1.24(3H,t,J=7.0Hz),1.50−1.62(4H,m),2.15−2.28(2H,m),2.30−2.45(2H,m),2.45(3H,s),4.09(2H,q,J=7.0Hz),7.33(2H,d,J=7.8Hz),7.83(2H,d,J=7.8Hz).
【0031】
実施例1
窒素気流下、50mLフラスコに、p−トリルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液2.0mL(2.0mmol)を量り取り、25℃でビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド32.7mg(0.05mmol)を添加し、マグネチックスターラーにより攪拌した。製造例2で調製した2−tert−ブチルジメチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(5)0.284g(1.0mmol)のテトラヒドロフラン(2.0mL)溶液を滴下し、滴下終了後、内温を40℃となる様に加熱し、3時間攪拌した。反応終了後、内温を25℃まで冷却し、1N塩酸を投入し、反応をクエンチした。酢酸エチルで抽出後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、濃縮後、目的物である2−p−トリル−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(7)0.105g(0.429mmol)を42.9%の収率で得た。
【0032】
【化7】

H−NMR(CDCl、270MHz):0.88(3H,t,J=7.0Hz),1.60−1.80(4H,m),2.30−2.45(4H,m),2.33(3H,s),3.89(2H,q,J=7.0Hz),7.02(2H,d,J=8.1Hz),7.10(2H,d,J=8.1Hz).
【0033】
実施例2
窒素気流下、50mLフラスコに、製造例1で調製した2−トリエチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(4)0.284g(1.0mmol)、テトラヒドロフラン2mLを量り取り、25℃でニッケル(II)アセチルアセトナート12.8mg(0.05mmol)を添加し、マグネチックスターラーにより攪拌した。p−トリルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液2.0mL(2.0mmol)を滴下し、滴下終了後、内温を40℃となる様に加熱し、2時間攪拌した。反応終了後、実施例1と同様に処理し、目的物である2−p−トリル−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(7)0.155g(0.634mmol)を63.4%の収率で得た。H−NMRのスペクトルデータは実施例1で得られたものと同様であった。
【0034】
実施例3
窒素気流下、50mLフラスコに、製造例1で調製した2−トリエチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(4)0.284g(1.0mmol)、テトラヒドロフラン2.0mLを量り取り、25℃でビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド32.7mg(0.05mmol)を添加し、マグネチックスターラーにより攪拌した。p−トリルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液2.0mL(2.0mmol)を滴下し、滴下終了後、内温を40℃となる様に加熱し、1.5時間攪拌した。反応終了後、実施例1と同様に処理し、目的物である2−p−トリル−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(7)0.168g(0.687mmol)を68.7%の収率で得た。H−NMRのスペクトルデータは実施例1で得られたものと同様であった。
【0035】
実施例4
窒素気流下、50mLフラスコに、製造例1で調製した2−トリエチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(4)0.284g(1.0mmol)、テトラヒドロフラン2.0mLを量り取り、25℃で〔1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン〕ニッケル(II)ジクロリド26.4mg(0.05mmol)を添加し、マグネチックスターラーにより攪拌した。p−トリルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液2.0mL(2.0mmol)を滴下し、滴下終了後、内温を40℃となる様に加熱し、2.0時間攪拌した。反応終了後、実施例1と同様に処理し、目的物である2−p−トリル−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(7)0.128g(0.526mmol)を52.6%の収率で得た。H−NMRのスペクトルデータは実施例1で得られたものと同様であった。
【0036】
実施例5
[グリニャール試薬の調製]
窒素気流下、50mLのフラスコに、マグネシウム0.248g(10.2mmol)、テトラヒドロフラン2mLを量り取り、マグネチックスターラで攪拌しながら、4−ブロモ−エチルベンゼン1.85g(10mmol)のテトラヒドロフラン(4mL)溶液を0.4mL滴下し、発熱を確認後、残りを滴下した。滴下終了後、内温を40℃となるように加熱した。1時間後、25℃まで冷却し、4−エチルフェニルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液を得た。
[クロスカップリング反応]
窒素気流下、50mLフラスコに、製造例1で調製した2−トリエチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(4)1.424g(5.0mmol)、テトラヒドロフラン7mLを量り取り、25℃でビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド0.163g(0.25mmol)を添加し、マグネチックスターラーにより攪拌した。上記で調製した4−エチルフェニルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液を滴下し、滴下終了後、内温を40℃となる様に加熱し、1.5時間攪拌した。反応終了後、実施例1と同様に処理し、目的物である2−(4−エチルフェニル)−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(8)0.812g(3.14mmol)を62.8%の収率で得た。
【0037】
【化8】

H−NMR(CDCl、270MHz):0.83(3H,t,J=7.3Hz),1.22(3H,t,J=7.6Hz),1.62−1.80(4H,m),2.30−2.48(4H,m),2.63(2H,q,J=7.6Hz),3.87(2H,q,J=7.3Hz),7.05(2H,d,J=8.1Hz),7.12(2H,d,J=8.1Hz).
【0038】
実施例6
[グリニャール試薬の調製]
窒素気流下、50mLのフラスコに、マグネシウム0.248g(10.2mmol)、テトラヒドロフラン2mLを量り取り、マグネチックスターラで攪拌しながら、4−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン2.0g(10mmol)のテトラヒドロフラン(4mL)溶液を1.0mL滴下し、発熱を確認後、残りを滴下した。滴下終了後、内温を40℃となるように加熱した。1時間後、25℃まで冷却し、4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液を得た。
[クロスカップリング反応]
窒素気流下、50mLフラスコに、製造例1で調製した2−トリエチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(4)1.424g(5.0mmol)、テトラヒドロフラン7mLを量り取り、25℃でビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド0.163g(0.25mmol)を添加し、マグネチックスターラーにより攪拌した。上記で調製した4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液を滴下し、滴下終了後、内温を40℃となるように加熱し、1.5時間攪拌した。反応終了後、実施例1と同様に処理し、目的物である2−[4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニル]−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(9)0.489g(1.789mmol)を35.8%の収率で得た。
【0039】
【化9】

H−NMR(CDCl、270MHz):0.94(3H,t,J=7.3Hz),1.65−1.80(4H,m),2.30−2.45(4H,m),2.93(6H,s),3.94(2H,q,J=7.3Hz),6.66(2H,d,J=8.9Hz),7.05(2H,d,J=8.9Hz).
【0040】
実施例7
窒素気流下、50mLフラスコに、製造例1で調製した2−トリエチルシロキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(4)0.284g(1.0mmol)、テトラヒドロフラン2mLを取り、25℃でビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド32.7mg(0.05mmol)を添加し、マグネチックスターラーにより攪拌した。4−メトキシフェニルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液4.0mL(2.0mmol)を滴下し、滴下終了後、内温を40℃となる様に加熱し、1.5時間攪拌した。反応終了後、実施例1と同様に処理し、目的物である2−(4−メトキシフェニル)−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(10)0.136g(0.524mmol)を52.4%の収率で得た。
【0041】
【化10】

H−NMR(CDCl、270MHz):0.91(3H,t,J=7.3Hz),1.65−1.80(4H,m),2.28−2.45(4H,m),3.80(3H,s),3.91(2H,q,J=7.3Hz),6.83(2H,d,J=8.4Hz),7.08(2H,d,J=8.4Hz).
【0042】
実施例8
窒素気流下、50mLフラスコに、製造例3で調製した2−p−トルエンスルホニルオキシ−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(6)0.324g(1.0mmol)、N−メチルピロリドン0.65mL、テトラヒドロフラン3.0mLを取り、25℃で鉄(III)アセチルアセトナート20mg(0.057mmol)を添加し、マグネチックスターラーにより攪拌した。p−トリルマグネシウムブロミドのテトラヒドロフラン溶液1.5mL(1.5mmol)を滴下し、滴下終了後、1時間攪拌した。反応終了後、実施例1と同様に処理し、目的物である2−p−トリル−1−シクロへキセンカルボン酸エチルエステル(7)0.155g(0.634mmol)を63.4%の収率で得た。
H−NMRのスペクトルデータは実施例1で得られたものと同様であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Rは不飽和結合を有することもある炭素数が1〜8のアルキル基、アリール基、アラルキル基である。RおよびRは不飽和結合を有することもある直鎖または分岐鎖の炭素数1〜8のアルキル基であり、この場合RとRが結合して環を形成していてもよい。Rは、炭素数1〜4のアルキル基もしくはフェニル基で置換されたシリル基またはスルホニル基を意味する。)
で表されるエノール誘導体と、一般式(2)
【化2】

(式中、Rは非置換もしくは炭素数1〜4のアルキル基(アルキル基に存在する水素の1つ以上がハロゲン原子で置換されていてもよい)置換フェニル基、非置換もしくは炭素数1〜4のアルキル基(アルキル基に存在する水素の1つ以上がハロゲン原子で置換されていてもよい)置換ヘテロアリール基、非置換もしくは1つ以上の水素が炭素数1〜4のアルキル基に置換されたアミノ基置換フェニル基、または非置換もしくは1つ以上の水素が炭素数1〜4のアルキル基に置換されたアミノ基置換ヘテロアリール基を意味する。Xはハロゲン原子を意味する。)
で表されるグリニャール試薬を溶媒中、ニッケル触媒、鉄触媒またはロジウム触媒の存在下にクロスカップリングさせることを特徴とする一般式(3)
【化3】

(式中、R、R、R、Rは前記と同じ。)
で表される3−置換−α,β−不飽和カルボン酸エステル類の製造法。
【請求項2】
一般式(1)中のRおよびRが共同して炭素数3〜6のメチレン鎖を構成して結合し、全体として不飽和の5〜8員環を形成している請求項1記載の3−置換−α,β−不飽和カルボン酸エステル類の製造法。
【請求項3】
一般式(1)中のRがトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、またはtert-ブチルジメチルシリル基である請求項1または2記載の3−置換−α,β−不飽和カルボン酸エステル類の製造法。
【請求項4】
一般式(1)中のRがp−トルエンスルホニル基、m−ニトロベンゼンスルホニル基、またはメタンスルホニル基である請求項1または2記載の3−置換−α,β−不飽和カルボン酸エステル類の製造法。
【請求項5】
触媒がニッケル触媒、または鉄触媒である請求項1〜4のいずれかに記載の3−置換−α,β−不飽和カルボン酸エステル類の製造法。
【請求項6】
触媒がニッケル(II)アセチルアセトナート、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド、または〔1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン〕ニッケル(II)ジクロリドである請求項1〜4のいずれかに記載の3−置換−α,β−不飽和カルボン酸エステル類の製造法。
【請求項7】
触媒が鉄(III)アセチルアセトナートである請求項1〜4のいずれかに記載の3−置換−α,β−不飽和カルボン酸エステル類の製造法。


【公開番号】特開2007−153772(P2007−153772A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348873(P2005−348873)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】