説明

3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体の製造方法

【課題】1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを合成する際の中間体である3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールを純度95%以上で得ることができる方法の提供。
【解決手段】対応する2−ベンゾイルアセトニトリルに、酸の存在下で、ヒドラジンを反応させて、式(II)で表される3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体を得る方法。


(式中、Rは炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体の製造方法に関し、より詳細には、アゾメチン染料のカプラーである1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールを合成する際の中間体である、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感熱昇華転写方式は、昇華性染料 をバインダー樹脂に溶解又は分散させた染料層を基材に担持した熱転写フィルムを使用し、この熱転写フィルムを受像フィルムに重ねてサーマルヘッド等の加熱デバイスに画像情報に応じたエネルギーを印加することにより、熱転写フィルム上の染料層中に含まれる昇華性染料を受像フィルムに移行させて画像を形成する方法である。
【0003】
この感熱昇華転写方式は、熱転写フィルムに印加するエネルギー量によってドット単位で染料の移行量を制御できるため、階調性画像の形成に優れるとともに、文字や記号等の形成が簡便である等の利点を有している。このような熱転写方式において得られる画像は銀塩写真と同様に高画質なものが形成可能となっており、それにつれて、画像の光・熱・湿度などの因子による画質劣化防止への要求が極めて高くなってきており、画像保存性を改良するための種々の昇華性染料の開発が行われている。
【0004】
例えば、転写性や保存性に優れる感熱転写用の色素として、特許第3013137号(特許文献1)や特許第3078308号(特許文献2)には、1H−ピラゾロ〔5,1−C〕〔1,2,4〕トリアゾール環をカプラーとし、ピリジル基が窒素原子を介してカプラーと結合した構造のアゾメチン化合物が開示されている。また、特許第2840901号(特許文献3)には、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環をカプラーとし、フェニルアミノ基が窒素原子を介してカプラーに結合した構造のアゾメチン化合物が開示されている。さらに、特開平5−239367号公報(特許文献4)には、両者を組み合わせた構造である、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環カプラーに、ピリジル基が窒素原子を介してカプラーと結合した構造のアゾメチン化合物が開示されている。
【0005】
上記の特許第3013137号や特許第3078308号に開示されているアゾメチン色素は、耐光性に優れるものの、1H−ピラゾロ〔5,1−C〕〔1,2,4〕トリアゾール環をカプラーとするため、コスト上の問題がある。また、原料カプラーとして1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環化合物を用いる特許第2840901号に記載のアゾメチン色素は、比較的安価に製造できるメリットはあるものの、耐光性が不十分な場合がある。
【0006】
一方、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環カプラーとピリジル基とを組み合わせた特開平5−239367号公報に記載の色素は、安価に製造でき、かつ耐光性にも優れるという利点がある。特に、特開平5−239367号公報中で提案されている、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環の置換基Rとしてフェニル基を導入したもの(9,10,11,22,112の化合物)は、その色素の色調が要求される色再現域に近くなるという点において優れるものである。
【0007】
しかしながら、特開平5−239367号公報に記載の化合物、とりわけトリアゾール環の置換基Rとして無置換のピリジル基を導入した化合物は、製造コストや耐光性の点で優れるものの、カップリング反応の反応率が低く、特開平5−239367号公報にも記載のように、概ね20%程度の収率である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3013137号
【特許文献2】特許第3078308号
【特許文献3】特許第2840901号
【特許文献4】特開平5−239367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、先の出願(特願2009−85637、出願日:平成21年3月31日)において、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環に窒素原子を介してピリジン環を結合させたアゾメチン化合物において、特定の置換基を有するアゾメチン化合物は、耐光性と製造コストの観点から優れるとともに、純度も高く、かつ溶解性や色素とした場合の感度にも優れることを提案している。そして、その先願において、本発明者らは、出発物質として安息香酸エステル化合物に、カリウム−t−ブトキシドの存在下でアセトニトリルを反応させて2−ベンゾイルアセトニトリルを得て、次いで得られた2−ベンゾイルアセトニトリルにヒドラジンを反応させて3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体を得て、この中間体にイミデート塩酸塩を作用させてアミジン化合物とした後、これにヒドロキシルアミンを作用させてアミドオキシム誘導体とし、次いで、得られたアミドオキシム誘導体にp−トルエンスルホン酸クロライドを反応させてピリジンの存在下で加熱還流することにより、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーが得られることも提案している。しかしながら、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体の純度が約94%と高いものの、純度の高いカプラーを得るためには、中間体である3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールを一旦精製する必要があった。
【0010】
本発明者らは、今般、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを合成する際の中間体である3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールを、2−アルコキシベンゾイルアセトニトリルにヒドラジンを反応させて合成する際に、特定の酸を用いることにより、95%以上の純度で3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体が得られ、その結果、中間体を一旦精製することなくそのまま、得られた中間体にイミデート塩酸塩を作用させてアミジン化合物とした後、これにヒドロキシルアミンを作用させてアミドオキシム誘導体とし、次いで得られた前記アミドオキシム誘導体にp−トルエンスルホン酸クロライドを反応させてピリジンの存在下で加熱還流することにより、目的化合物である1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを合成することができる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを合成する際の中間体である3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾールを分液のみの精製により95%以上の純度で得ることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体を製造する方法は、下記式(I)で表される2−アルコキシベンゾイルアセトニトリルに、酸の存在下で、ヒドラジンを反応させて、前記式(II)で表される3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体を得る、ことを含んでなることを特徴とするものである。
【化1】

(式中、Rは炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基である。)
【化2】

(式中、Rは炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基である。)
【0013】
また、本発明の態様においては、前記酸が、酢酸、塩酸、または安息香酸誘導体であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の態様においては、前記酸の濃度が、1〜5mol%であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の態様においては、前記式(I)および(II)のRが、エチル基であることが好ましい。
【0016】
本発明の別の態様においては、上記の製造方法により得られた3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体も提供される。
【0017】
また、本発明の別の態様における、3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体を用いて、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを製造する方法は、
上記の製造方法により得られた前記式(II)で表される3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体を精製することなく、イミデート塩酸塩を作用させてアミジン化合物とし、
前記アミジン化合物にヒドロキシルアミンを作用させてアミドオキシム誘導体とし、次いで、
得られた前記アミドオキシム誘導体にp−トルエンスルホン酸クロライドを反応させてピリジンの存在下で加熱還流することにより、下記式(III)で表される1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを得る、ことを含んでなることを特徴とするものである。
【化3】

(式中、Rは炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基である。)
【0018】
また、本発明の本発明の別の態様における、アゾメチン化合物を製造する方法は、上記の製造方法により得られた前記式(III)で表される1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーと、下記式(IV)で表されるピリジルジアミノ誘導体とを、塩基の存在下、酸化剤で反応させて、下記式(V)で表されるアゾメチン化合物を得ることを含んでなることを特徴とするものである。
【化4】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)
【化5】

(式中、Rは、炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)
【0019】
さらに、本発明の別の態様においては、上記の製造方法により得られたアゾメチン化合物からなる、感熱転写記録用色素も提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、2−アルコキシベンゾイルアセトニトリルにヒドラジンを反応させて3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体を得る際に、特定の酸を用いることにより、95%以上の純度で3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体が得られる。また、当該中間体が高純度で得られることから、中間体を一旦精製することなくそのまま、得られた中間体にイミデート塩酸塩を作用させてアミジン化合物とした後、これにヒドロキシルアミンを作用させてアミドオキシム誘導体とし、次いで得られたアミドオキシム誘導体に、p−トルエンスルホン酸クロライドを反応させてピリジンの存在下で加熱還流することにより、アゾメチン化合物を合成する際のカプラーである1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールを効率よく合成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体>
3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体は、上記したように、下記式(V)で表されるアゾメチン化合物のカプラー材料である1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環カプラーを合成する際の中間体として有用な材料である。
【化6】

(式中、Rは、炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)
【0022】
この下記式(II)で示される3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体は、下記の合成スキームに示されるように、下記式(I)で表される2−アルコキシベンゾイルアセトニトリルに、ヒドラジンを反応させることにより得ることができる。
【化7】

(式中のRは炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基を示す)
【0023】
本発明においては、上記の反応を酸の存在下で行うことにより、式(II)の中間体を反応液から単離する必要がない程度まで反応収率が向上することを見いだしたものである。その理由は明らかではないが、以下のように考えられる。すなわち、上記の式(I)の化合物とヒドラジンとを反応させる環化反応は、式(I)の2−アルコキシベンゾイルアセトニトリルのカルボニル基へのヒドラジンの求核置換反応が律速と考えられ、この反応に酸を使用することにより、求核置換反応の反応速度が増加し、その結果、中間体の反応収率が向上するものと考えられる。
【0024】
酸としては、プロトンを放出できるブレンステッド酸であれば特に制限なく使用することができ、例えば、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸類、酢酸、酪酸、オクタン酸、ラウリン酸、安息香酸、p−メチル安息香酸、2−メトキシ安息香酸や2−エトキシ安息香酸等のアルコキシ安息香酸、フタル酸等の有機カルボン酸類、リン酸ジメチル、リン酸ブチル、リン酸プロピル、リン酸ジプロピル、リン酸ブチル、リン酸ジブチル、リン酸オクチル、リン酸ジオクチル、リン酸ラウリル、リン酸フェニル、リン酸ジフェニル等の酸性リン酸エステル類、などが挙げられる。本発明においては、これらのなかでも、塩酸、酢酸、安息香酸、アルコキシ安息香酸がより好ましい。
【0025】
上記した酸は、水、またはアルコール中に溶解または懸濁して添加することができるが、これらのなかでも、メタノール、プロパノール中に溶解または懸濁させて使用することが好ましい。
【0026】
酸の添加量は、反応系に対して1〜5mol%が好ましい。酸の添加量が1mol%未満の場合、反応収率の向上が期待できず、また、5mol%を超えると、使用する酸によっては、反応容器としてガラス製のものを使用することを余儀なくされ、汎用的は合成方法とはいえなくなる。
【0027】
本発明においては、上記式(I)の化合物である2−アルコキシベンゾイルアセトニトリルのRは、メチル基(C1)、エチル基(C2)、またはプロピル基(C3)であることが好ましい。上記式(II)の中間体を経て、アゾメチン色素を合成した際のピラゾロトリアゾール母核の6位がエトキシフェニル基またはプロポキシフェニル基であることにより、溶解性および耐光性がより一層優れたものになる。より好ましいRはエチル基である。
【0028】
上記式(I)の化合物は、下記合成スキームのように、出発物質として安息香酸エステル化合物に、カリウム−t−ブトキシドの存在下でアセトニトリルを反応さることにより合成することができる。
【化8】

(式中、Rはメチル基、プロピル基等のアルキル基であり、R1は、炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基を示す。)
【0029】
また、上記式(I)の2−アルコキシベンゾイルアセトニトリルと反応させるヒドラジンは、1.0〜1.1mol/lの濃度で反応系に添加されることが好ましい。
【0030】
<1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラー>
上記のようにして得られた式(I)で表される中間体は、95〜100%の純度で得られる。そのため、後記するように1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを合成する際に、中間体を一旦精製することなく、上記した反応に続いて、以下に説明するような反応を経て、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを合成することができる。
【0031】
1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーは、下記合成スキームのようにして得られる。すなわち、出発物質である上記中間体(式(II)の化合物)に、イミデート塩酸塩を作用させてアミジン化合物とした後、これにヒドロキシルアミンを作用させて化合物cを得る。次いで、化合物cにp−トルエンスルホン酸クロライドを反応させ、ピリジンの存在下で加熱還流することにより、式(III)で表される化合物である1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを得ることができる。
【化9】

【0032】
<アゾメチン化合物>
上記式(III)と下記式(IV)で表されるピリジルジアミン誘導体とを、塩基の存在下、酸化剤で反応させてカップリングすることにより、下記式(V)で表されるような、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾール環に窒素原子を介してピリジン環を結合させたアゾメチン化合物を合成することができる。この反応は、例えば水冷下40℃以内で、約1時間行う。得られるアゾメチン化合物は、アゾメチン化合物は、製造コストや耐光性の観点で優れるだけでなく、色相感度や溶解性の観点からも優れるものである。
【化10】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)
【化11】

【0033】
上記式(IV)で表されるピリジルジアミン誘導体は、例えば、6−クロロ−3−ニトロ−2−ピコリンと炭酸カリウムとをアセトニトリルに溶解させた溶液にジアルキルアミンを滴下して攪拌し、油層を分離することにより、化合物dを得る。次いで、下記のスキームに示すように、得られた化合物dのエタノール溶液中にパラジウム−炭素を加え、1気圧下で水素ガスと反応させた後、反応液をろ過し、ろ液に塩酸ジオキサンを加えて攪拌することにより、式(IV)の塩酸塩化合物を得ることができる。このように、RおよびRが、いずれもエチル基、プロピル基またはブチル基であるピリジルジアミン誘導体を用いて合成されたアゾメチン化合物は、製造コストや耐光性の観点で優れるだけでなく、色相感度や溶解性の観点からも優れるものである。
【化12】

【0034】
上記したアゾメチン化合物は、感熱熱転写材料として有用である。例えば、上記式(V)で表されるアゾメチン化合物は、昇華型熱転写用のマゼンタ色素として使用でき、他の公知のイエロー色素、シアン色素、その他の色素等と組み合わせて、好適に使用できる。このマゼンタ色素に加えイエロー、シアン、ブラック等複数の染料層を面順次に基材上に設けて熱転写シートとすることができる。また、上記複数の染料層に加え転写性保護層を面順次に設けたもの等であってもよい。なお、さらに熱溶融性インキ層のブラックを設けてもよい。イエロー、シアン、ブラック等の昇華型熱転写用色素や熱溶融性色素としては、従来公知のものを使用することができる。
【実施例】
【0035】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明が実施例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1
<試薬の準備>
1000ml4頭フラスコに、100gの2−エトキシ安息香酸エチル(0.52 mol)とトルエン500mlと21.1gのアセトニトリル(0.52mol)とを加え、氷浴中で攪拌した。その後、57.7gのカリウム−t−ブトキシド(0.52mol)を約10分かけて投入した。反応液は白色のスラリー状態であった。その後、反応系を室温に戻し1時間攪拌した。水浴中反応系に水100mlを3分かけて滴下したところ、反応液が2層に分離した。水層を回収し、油層を50mlの水で2回洗浄し、洗浄水も水層として回収した。
得られた水層に、11.1Mの濃塩酸50ml(0.55 mol)を用いて水浴中でpH1程度まで中和すると結晶が析出した。これをろ過し結晶を60℃で一晩乾燥させて目的の化合物A1を57.2g(0.32 mol)得た。収率は59%であり、純度はHPLC単純面積比94%であった。合成スキームを以下に示す。
【0037】
【化13】

【0038】
1000ml4頭フラスコに、86.4gの2−アニス酸メチル(0.52mol)と、トルエン300mlと、21.1gのアセトニトリル(0.52mol)とを投入し、氷浴中で攪拌した。その後、反応系に57.8gのカリウム−t−ブトキシド(0.52mol)を約10分かけて加えた。反応液は白色のスラリー状態であった。その後、反応系を室温に戻し1時間攪拌した。HPLCにより反応が完結したことを確認し、水浴中で反応系に水100mlを3分かけて滴下した。そのまま攪拌すると反応系の結晶が溶解し反応液は2層に分離した。反応液を分液して水層を回収し、油層は水100mlで洗浄し、洗浄水も水層として回収した。得られた水層に、濃塩酸を用いて水浴中でpH2程度まで中和すると結晶が析出した。この結晶を酢酸エチル300mlで溶かし再び分液し、水層を酢酸エチル200mlで2回抽出した。油層をロータリーエバポレーターを用いて約50℃で濃縮し、化合物A2を56.5g得た。収率は62%であり、純度はHPLC単純面積比93%であった。合成スキームを以下に示す。
【0039】
【化14】

【0040】
<3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体の合成>
500ml4頭フラスコに、89.0gの化合物A1(0.47mol)と、メタノール90mlとを加えた。その際に、反応系は溶液に着色が見られるもののスラリー状態であった。次いで、反応系に、0.282gの酢酸(0.0048mol)を加え、その後、23.5gのヒドラジン水和物(0.47mol)を5分かけてフラスコ内に滴下し、続いて3時間の加熱還流を行った。その後、反応液を、ロータリーエバポレーターを用いて50℃で減圧回収を行った後、300mlの酢酸エチルで溶解し、100mlの飽和重曹水を用いて分液した。続いて、飽和食塩水を用いて乾燥し、油層をロータリーエバポレーターにて50℃で濃縮して、褐色オイル状の中間体1(3−(2−エトキシフェニル)−5−アミノピラゾール)を得た。得られた中間体1をHPLCにて分析を行ったところ、中間体1の純度は95.77%であった(単純面積法により算出)。
【0041】
実施例2
実施例1において、加える酢酸の量を0.0141g(0.0024mol)に変えた以外は実施例1と同様にして、中間体2(3−(2−エトキシシフェニル)−5−アミノピラゾール)を得た。また、得られた中間体2について、実施例1と同様に、HPLC分析を行ったところ、中間体2の純度は100%であった。
【0042】
実施例3
実施例2において、滴下するヒドラジン1水和物を、26.0g(0.52mol)に変えた以外は実施例2と同様にして、中間体4(3−(2−エトキシシフェニル)−5−アミノピラゾール)を得た。また、得られた中間体3について、実施例1と同様に、HPLC分析を行ったところ、中間体4の純度は100%であった。
【0043】
実施例4
実施例3において、酢酸添加後の加熱環流の時間を1時間に変えた以外は実施例3と同様にして、中間体5(3−(2−エトキシシフェニル)−5−アミノピラゾール)を得た。また、得られた中間体4について、実施例1と同様に、HPLC分析を行ったところ、中間体5の純度は99.48%であった。
【0044】
実施例5
実施例4において、添加する酢酸を0.57gの安息香酸(0.0047mol)に変え、加熱環流の時間を3時間に変えた以外は実施例4と同様にして、中間体5(3−(2−エトキシシフェニル)−5−アミノピラゾール)を得た。得られた中間体5について、実施例1と同様に、HPLC分析を行ったところ、中間体6の純度は99.48%であった。
【0045】
実施例6
実施例5において、出発物質を化合物A1から82.3gの化合物A2(0.47mol)に変え、添加する安息香酸を、0.78gの2−エトキシ安息香酸(0.0047mol)に変えた以外は実施例5と同様にして、中間体6(3−(2−メトキシフェニル)−5−アミノピラゾール)を得た。得られた中間体6について、実施例1と同様に、HPLC分析を行ったところ、中間体6の純度は99.48%であった。
【0046】
実施例7
実施例7において、添加する2−エトキシ安息香酸を、0.71gの2−メトキシ安息香酸(0.047mol)に変えた以外は実施例6と同様にして、中間体7(3−(2−メトキシフェニル)−5−アミノピラゾール)を得た。得られた中間体7について、実施例1と同様に、HPLC分析を行ったところ、中間体8の純度は100%であった。
【0047】
比較例1
実施例1において、酢酸を添加しなかった以外は実施例1と同様にして中間体8(3−(2−エトキシシフェニル)−5−アミノピラゾール)を得た。また、得られた中間体8について、実施例1と同様に、HPLC分析を行ったところ、中間体8の純度は94.12%であった。
【0048】
比較例2
比較例1において、出発物質を化合物A1から78.1gの化合物A2(0.47mol)に変えた以外は比較例1と同様にして中間体9(3−(2−メトキシフェニル)−5−アミノピラゾール)を得た。また、得られた中間体9について、実施例1と同様に、HPLC分析を行ったところ、中間体9の純度は94.51%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体を製造する方法であって、
下記式(I)で表される2−ベンゾイルアセトニトリルに、酸の存在下で、ヒドラジンを反応させて、前記式(II)で表される3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体を得る、ことを含んでなることを特徴とする、方法。
【化1】

(式中、Rは炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基である。)
【化2】

(式中、Rは炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基である。)
【請求項2】
前記酸が、塩酸、硫酸、およびカルボン酸からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸の濃度が、1〜5mol%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記式(I)および(II)のRが、エチル基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法により得られた3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体。
【請求項6】
3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体を用いて、1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを製造する方法であって、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法により得られた前記式(II)で表される3−(2−アルコキシフェニル)−5−アミノピラゾール中間体を精製することなく、イミデート塩酸塩を作用させてアミジン化合物とし、
前記アミジン化合物にヒドロキシルアミンを作用させてアミドオキシム誘導体とし、次いで、
得られた前記アミドオキシム誘導体にp−トルエンスルホン酸クロライドを反応させてピリジンの存在下で加熱還流することにより、下記式(III)で表される1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーを得る、ことを含んでなることを特徴とする方法。
【化3】

(式中、Rは炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基である。)
【請求項7】
アゾメチン化合物を製造する方法であって、請求項6に記載の製造方法により得られた前記式(III)で表される1H−ピラゾロ〔1,5−b〕〔1,2,4〕トリアゾールカプラーと、下記式(IV)で表されるピリジルジアミノ誘導体とを、塩基の存在下、酸化剤で反応させて、下記式(V)で表されるアゾメチン化合物を得ることを含んでなることを特徴とする、方法。
【化4】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)
【化5】

(式中、Rは、炭素数C1〜3の直鎖または分枝を有するアルキル基であり、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数C2〜4のアルキル基を示す。)
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により得られたアゾメチン化合物からなる、感熱転写記録用色素。

【公開番号】特開2012−153645(P2012−153645A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14261(P2011−14261)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】