説明

3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンおよびその塩の製造方法、その製造方法に有用なキナゾリンジオン誘導体の製造方法ならびにキナゾリンジオン誘導体の製造方法に有用なイミン誘導体

【課題】医薬の製造中間体として使用されるキナゾリンジオン誘導体の製造方法の提供と、該キナゾリンジオン誘導体の製造原料であるイミン誘導体の提供。
【解決手段】イミン誘導体である5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オンを過酢酸のような酸化剤と反応させて、ニトロ基含有キナゾリンジオン誘導体とする製造方法、更に該ニトロ基含有キナゾリンジオン誘導体を還元して下記式で表されるキナゾリンジオン誘導体とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略、3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンおよびその塩(以下、総称して、「APFD」という。)を代表とする重要な医薬中間体の製造方法においてその前駆体として使用されるキナゾリンジオン誘導体の製造方法および前記前駆体の製造方法に有用な新規イミン誘導体を提供する。
【背景技術】
【0002】
重要な医薬中間体であるAPFDの製造前駆体として使用されるキナゾリンジオン誘導体として、6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオンが挙げられる。この製造前駆体の製造方法としては、種々の方法が知られている。
【0003】
例えば、2−アミノ−4,5−ジフルオロ安息香酸メチルと1−イソシアノ−4−ニトロベンゼンとを反応させて得られた4,5−ジフルオロ−2−[3−(4−ニトロフェニル)−ウレイド]−安息香酸メチルを、塩基存在下で環化させて製造する方法、2−アミノ−4,5−ジフルオロ安息香酸メチルとトリホスゲンと反応させて得られた4,5−ジフルオロ−2−[3−(4−ニトロフェニル)−ウレイド]−安息香酸メチルを、塩基の存在下で環化させて製造する方法(以上特許文献1)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第07/056219号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている製造方法によると、原料である2−アミノ−4,5−ジフルオロ安息香酸メチルは比較的高価な化合物であることから、この化合物を原料に用いた製造方法は、経済的に有利な合成方法とはいえない。また、反応試剤としてトリホスゲン用いた製造方法は、反応系内に猛毒性のホスゲンを発生させることから、特殊な製造設備を必要とする等、工業的生産において有利な製造方法ではなかった。
【0006】
かくして、本発明は、医薬中間体の前駆体として有用な化合物であるキナゾリンジオン誘導体を工業的に安価に、かつ容易に製造する方法、およびその製造方法に用いられる原料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、有用なキナゾリンジオン誘導体である6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオンを製造するための原料として、新規イミン誘導体である5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オンが有用であることを見いだした。
この新規イミン誘導体を、酸化剤を用いて酸化することによって、有用なキナゾリンジオン誘導体を工業的に安価に、かつ容易に製造することができる。
【0008】
本発明は、重要な医薬中間体である3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンおよびその塩の製造方法、ならびに、その有用な製造前駆体であるキナゾリンジオン誘導体:6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオンの製造方法、ならびに、それらの製造に有用な新規イミン誘導体:5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オンを提供する。
【0009】
すなわち、本発明は、
【0010】
[項1]
式(1):
【0011】
【化1】

で表されるイミン誘導体である5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オンを酸化剤と反応させて、式(2):
【0012】
【化2】

で表されるキナゾリンジオン誘導体である6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオンを得;ついで、式(2)で表されるキナゾリンジオン誘導体を還元させることを特徴とする、式(3):
【0013】
【化3】

で表される3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンまたはその塩の製造方法;
【0014】
[項2]
酸化剤が過酢酸である、項1の製造方法;
【0015】
[項3]
式(1):
【0016】
【化4】

で表されるイミン誘導体である5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オンを酸化剤と反応させることを特徴とする、式(2):
【0017】
【化5】

で表されるキナゾリンジオン誘導体である6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオンの製造方法;
【0018】
[項4]
酸化剤が過酢酸である項3の製造方法および
【0019】
[項5]
式(1):
【0020】
【化6】

で表されるイミン誘導体である5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オンを提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、重要な医薬中間体等の製造前駆体として有用なキナゾリンジオン誘導体を工業的に安価に、かつ容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明にかかる新規物質は、式(1):
【0023】
【化7】

で表されるイミン誘導体、5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オンである。
【0024】
式(1)で表されるイミン誘導体は、例えば、以下の方法により製造することができる。すなわち、式(5):
【0025】
【化8】

で表される5,6−ジフルオロ−1H−インドール−2,3−ジオンと、ニトロアニリンとを脱水反応させることによって、式(1)で表されるイミン誘導体を製造することができる。
【0026】
式(5)で表される5,6−ジフルオロ−1H−インドール−2,3−ジオンは、いずれの製造方法によって得られたものでも良いが、例えばJournal of Organic Chemistry,1958,vol.23,p1858−1860に記載の方法等によれば、比較的容易に製造することができる。
【0027】
本発明にかかる新規イミン誘導体にはE体およびZ体の異性体が存在し、立体選択的合成方法を用いて製造しなければ、E体およびZ体の混合物として得られる。本発明において、混合物中のE体とZ体との存在比は限定されない。
【0028】
本発明において、5,6−ジフルオロ−1H−インドール−2,3−ジオンとニトロアニリンとを反応させる際、ニトロアニリンの使用量は、特に限定されないが、5,6−ジフルオロ−1H−インドール−2,3−ジオン1モルに対して、1.0〜3.0モル使用することが好ましい。
【0029】
前記反応は、例えば、溶媒の存在下にて行われ、かかる溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンおよびヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンおよびクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;メタノールおよびエタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチルおよび酢酸ブチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中でも、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、とりわけトルエンが好適に用いられる。
【0030】
前記溶媒の使用量としては、特に限定されないが、5,6−ジフルオロ−1H−インドール−2,3−ジオン100重量部に対して100〜3000重量部であることが好ましく、1000〜1500重量部であることがより好ましい。溶媒の使用量が100重量部未満の場合、攪拌が困難になるおそれがあり、3000重量部を超える場合、それに見合う効果がなく、経済的でない。
【0031】
前記反応温度は室温から使用溶媒の沸点の範囲であればよい。反応の際、使用する溶媒によっては還流条件下に水分を反応系外に除去することにより反応の進行を速めることもできる。また、必要に応じ、モレキュラーシーブ、塩化カルシウム等の脱水剤、ならびに硫酸、塩酸、酢酸、p−トルエンスルホン酸、ピペリジンおよびピリジン等の酸塩基触媒を用いることもできる。
反応時間は、反応温度により異なるが通常1〜20時間である。
【0032】
反応終了後、イミン誘導体を含む反応液を冷却し、析出した結晶をろ過することにより、イミン誘導体を単離することができる。
【0033】
かくして得られたイミン誘導体である5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オンを、酸化剤を用いて酸化することによって、式(2):
【0034】
【化9】

で表されるキナゾリンジオン誘導体である6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオンを製造することができる。
【0035】
本発明にかかるイミン誘導体にはE体およびZ体の異性体が存在し、E体およびZ体の混合物からキナゾリンジオン誘導体を得ることができる。酸化反応において、E体とZ体とで反応性が異なることなく、混合物中のE体とZ体との存在比にかかわらず、いずれの異性体からも同一のキナゾリンジオン誘導体が得られる。したがって、本発明にかかるイミン誘導体からキナゾリンジオン誘導体を得るためには、E体またはZ体いずれか一方の異性体を用いても、混合物を用いてもよい。
【0036】
前記酸化剤は、過酸化物が好ましく、例えば、過酸化水素および有機過酸化物等が挙げられる。
【0037】
有機過酸化物としては、例えば、tert−ブチルヒドロペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−アミルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、メチルシクロヘキシルヒドロペルオキシド、テトラリンヒドロペルオキシド、イソブチルベンゼンヒドロペルオキシド、エチルナフタレンヒドロペルオキシド、メタクロロ過安息香酸、および過酢酸等が挙げられる。なお、これらの酸化剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
これらの中でも、過酢酸を使用することが好ましく、通常、0.0001重量%〜100重量%の濃度範囲の過酢酸溶液が酸化反応に用いられる。過酢酸は、市販のものを用いてもよいし、種々の公知の方法によって得られたものを用いてもよい。
【0039】
酸化剤の使用量としては、特に限定されないが、イミン誘導体1モルに対して、0.5〜3.0モル使用することが好ましく、1.0〜2.0モルを使用することがより好ましい。
【0040】
前記酸化反応は、例えば、溶媒の存在下にて行われ、かかる溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンおよびヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンおよびクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノールおよびエタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチルおよび酢酸ブチル等のエステル類;塩化メチレンおよびクロロホルム等のハロゲン系溶媒;ならびに、酢酸等の極性プロトン溶媒が挙げられる。これらの中でも、酢酸等の極性プロトン溶媒が好適に用いられる。
【0041】
前記溶媒の使用量としては、特に限定されないが、イミン誘導体100重量部に対して100〜3000重量部であることが好ましく、200〜1500重量部であることがより好ましい。溶媒の使用量が100重量部未満の場合、攪拌が困難になるおそれがある。また、溶媒の使用量が3000重量部を超える場合、それに見合う効果がなく、経済的でない。
【0042】
前記酸化反応の反応温度は、特に限定されないが、通常−10℃〜50℃で行なうことが好ましい。−10℃より低いと反応速度が遅く反応に長時間を要するおそれがあり、50℃より高いと、副反応が起こり、その結果として収率が低下するおそれがある。反応時間は、反応温度により異なるが通常0.5〜3時間である。
【0043】
反応終了後、キナゾリンジオン誘導体を含む反応液に、貧溶媒として水を添加し、析出した結晶をろ過することによりキナゾリンジオン誘導体を単離することができる。
【0044】
かくして得られたキナゾリンジオン誘導体は、式(2):
【化10】

で表される化合物である。
【0045】
この製造方法により得られたキナゾリンジオン誘導体を還元することにより、種々の医薬の製造前駆体として有用な化合物である、式(3):
【0046】
【化11】

で表される3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンまたはその塩を製造することができる。
【0047】
本発明にかかる3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンまたはその塩は、医薬品の製造工程の条件等により、その形態は選択されるものであり、その形態によって、物質の安定性等に影響せず、有用性が変わるものではない。
【0048】
前記塩としては、医薬的に許容される塩であればよく、かかる塩としては、例えば塩酸、硫酸、酢酸等よりなる群から選択される酸との塩が挙げられる。
これらの中でも、式(4):
【化12】

で表される3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオン塩酸塩が好適である。
【0049】
本発明において、キナゾリンジオン誘導体である6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオンを還元する際に使用する還元剤としては、特に限定されるものではなく、通常知られている還元法、例えば、鉄、亜鉛、スズ等の金属と塩酸、硫酸、酢酸等の酸による還元法、塩化鉄、塩化亜鉛、塩化スズ等のハロゲン化金属塩を用いる還元法、パラジウム−炭素、ラネーニッケル等を触媒とした水素添加法、硫化ナトリウム、硫化カリウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム等の無機硫化物を用いる還元法等を挙げることができる。これらの方法の中でも、工業的生産性の観点からパラジウム−炭素を触媒とした水素添加法が好ましい。
【0050】
前記還元剤の使用量は、使用する還元剤によって異なり、一概には言えないが、6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオン100重量部に対し、通常0.1〜20重量部、好ましくは1.0〜5.0重量部の範囲である。
【0051】
前記還元反応は、溶媒の存在下に行われ、かかる溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンおよびヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンおよびクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフランおよびジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール類;ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸メチル、酢酸エチルおよび酢酸ブチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中でも、メタノール、エタノール等のアルコール類とりわけメタノールが好適に用いられる。
【0052】
前記溶媒の使用量は、特に限定されないが、6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオン100重量部に対して100〜3000重量部であることが好ましく、1000重量部〜2500重量部であることがより好ましい。溶媒の使用量が100重量部未満の場合、攪拌が困難になるおそれがある。また、溶媒の使用量が3000重量部を超える場合、それに見合う効果がなく、経済的でない。
【0053】
前記反応温度は、特に限定されないが、通常10℃〜70℃、より好ましくは20〜40℃で行なう。10℃より低いと反応速度が遅く反応に長時間を要するおそれがあり、70℃より高いと、副反応が起こり、その結果として収率が低下するおそれがある。
反応時間は、反応温度により異なるが、通常5〜24時間である。
【0054】
反応終了後、必要に応じて、生成物である3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンをジメチルホルムアミド等の極性溶媒で溶解させ、還元剤をろ過等により除去後、貧溶媒として水を添加して析出した結晶をろ過することにより、単離することができる。
【0055】
かくして得られた3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンから、通常の塩形成反応によって、3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンの塩を製造できる。
具体的には、例えば3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンを生成した反応液に酸を添加することにより製造することができる。
前記酸を添加する際、効率よく反応を進めるという観点から、反応液中に生成した3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンを、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒で溶解させ、還元剤をろ過等により除去した反応液に添加することが好ましい。
【0056】
前記酸の使用量は、6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオン1モルに対して、1〜10モル使用することが好ましく、2〜6モルを使用することがより好ましい。
前記反応温度は、特に限定されないが、通常30〜50℃で行なうことが好ましい。
反応終了後、析出した3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンの塩をろ過することにより単離することができる。
【実施例】
【0057】
[実施例1]
攪拌機、冷却管、温度計および滴下ロートを備え付けた3L容の4つ口フラスコに、5,6−ジフルオロ−1H−インドール−2,3−ジオン88.1g(0.50モル)、p−ニトロアニリン69.1g(0.50モル)およびトルエン1320gを仕込み、p−トルエンスルホン酸8.6g(0.05モル)を添加した後、環流させながら4時間攪拌した。
【0058】
反応終了後、冷却し、析出した結晶をろ過し、得られた結晶を、トルエン100gで2回洗浄して、乾燥することにより5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オン62.5g(0.37モル)を得た。得られた5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オンの収率は、5,6−ジフルオロ−1H−インドール−2,3−ジオンに対して74.8%であった。なお、NMRにおけるE/Z比は3/2であった。
【0059】
得られた5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オンは、下記の物性を示すことから同定することができた。
【0060】
融点:155−160℃
H−核磁気共鳴スペクトル(CDCl、TMS基準)E体δ(ppm):8.79(s、1H)、8.37(d、2H)、7.13(d、2H)、6.81(m、1H)、6.43(t、1H)
H−核磁気共鳴スペクトル(CDCl、TMS基準)Z体δ(ppm):8.26(d、2H)、8.15(s、1H)、7.55(dd、1H)、7.03(d、2H)、6.81(m、1H)
【0061】
[実施例2]
攪拌機、冷却管、温度計および滴下ロートを備え付けた300mL容の4つ口フラスコに、実施例1と同じ方法で得られた5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オン15.8g(0.052モル)、酢酸31.6gを仕込み、10℃に冷却した。次いで、同温度にて39重量%過酢酸水溶液11.1g(0.057モル)を1時間かけて滴下し、10〜15℃で2時間攪拌した。
【0062】
反応終了後、反応液に、水31.6gを添加して、析出した結晶をろ過した。得られた結晶を、水で洗浄し、乾燥することで6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオン12.4g(0.039モル)を得た。得られた6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオンの収率は、5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オンに対して75.0%であった。
【0063】
得られた6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオンは、下記の物性を示すことから同定することができた。
【0064】
H−核磁気共鳴スペクトル(DMSO−d、TMS基準)δ(ppm):7.19(dd、1H)、7.68(m、2H)、7.95(dd、1H)、8.35(m、2H)、11.85(s、1H)
【0065】
[実施例3]
内容積1L容のオートクレーブに、実施例2と同じ方法で得られた6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオン12.4g(0.039モル)、メタノール124.0g、およびパラジウム−炭素0.2gを仕込んだ。次いで、オートクレーブ内雰囲気を窒素で置換した後、さらに水素で置換し、25℃まで昇温した。10kg/cm圧以下で、同温度で8時間攪拌した。反応終了後、窒素雰囲気下に、ジメチルホルムアミド124.0gを添加して、ろ過によりパラジウム−炭素を除去した後、水500gを添加して、析出した結晶をろ過し、乾燥して、3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオン10.2g(0.035モル)を得た。得られた3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンの収率は、6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオンに対して90%であった。
【0066】
得られた3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンは、MSスペクトルで確認した。
【0067】
[実施例4]
内容積1L容のオートクレーブに、実施例2と同じ方法で得られた6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオン12.4g(0.039モル)、メタノール124.0g、およびパラジウム−炭素0.2gを仕込んだ。次いで、オートクレーブ内雰囲気を窒素で置換した、さらに水素で置換し、25℃まで昇温した。10kg/cm圧以下で、同温度で8時間攪拌した。反応終了後、窒素雰囲気下に、ジメチルホルムアミド124.0gを添加して、ろ過によりパラジウム−炭素除去した。引き続き、40℃まで昇温し、塩酸ガス2.8g(0.078モル)を吹き込み、さらに同温度にて3時間攪拌した。析出した結晶をろ過し、乾燥して、3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオン塩酸塩10.8g(0.033モル)を得た。得られた3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオン塩酸塩の収率は、6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオンに対して85%であった。
【0068】
得られた3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオン塩酸塩は、MSスペクトルで確認した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、重要な医薬の製造中間体として使用されるキナゾリンジオン誘導体を安価に、かつ安全に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

で表されるイミン誘導体である5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オンを酸化剤と反応させて、式(2):
【化2】

で表されるキナゾリンジオン誘導体である6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオンを得;ついで、式(2)で表されるキナゾリンジオンを還元させることを特徴とする、式(3):
【化3】

で表される3−(4−アミノフェニル)−6,7−ジフルオロ−1H−キナゾリン−2,4−ジオンまたはその塩の製造方法。
【請求項2】
酸化剤が過酢酸である、請求項1の製造方法。
【請求項3】
式(1):
【化4】

で表されるイミン誘導体である5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オンを酸化剤と反応させることを特徴とする、式(2):
【化5】

で表されるキナゾリンジオン誘導体である6,7−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニル)−1H−キナゾリン−2,4−ジオンの製造方法。
【請求項4】
酸化剤が過酢酸である請求項3の製造方法。
【請求項5】
式(1):
【化6】

で表されるイミン誘導体である5,6−ジフルオロ−3−(4−ニトロフェニルイミノ)−1,3−ジヒドロ−インドール−2−オン。

【公開番号】特開2012−149015(P2012−149015A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9769(P2011−9769)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】