説明

3位に置換基を有するオキセタン誘導体の重合方法および重合物

【課題】粘度が低く、結晶性を排除した非結晶性の末端シリル化鎖状ポリエーテル及びそれを得るための環状エーテルの重合方法を提供する。
【解決手段】下記構造式(a)で表される3位に置換基を有する繰り返し単位をもち、その酸素原子側の末端がシリル基であって他末端が水素であり、数平均分子量が500〜500,000であることを特徴とする末端シリル化オキセタン重合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非結晶性の末端シリル化オキセタン重合物及びそれを得るための重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、末端シリル化鎖状ポリエーテルとして特許文献1に記載されているものが知られている。特許文献1には、末端シリル化鎖状ポリエーテルが、多核ルテニウムカルボニル錯体からなる触媒の存在下で環状エーテルであるオキセタン化合物と水素原子を有するシランを反応させることによって得ることができることが記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載された末端シリル化鎖状ポリエーテル末端は、シロキシ基を有するため脂溶性があり、さらに、それに結合している置換基に応じてポリマーとしての性質を容易に変えることができるので、例えば、接着剤組成物などの各種組成物に混合させてその組成物の性質を改変するような成分として用いることができる。
【0004】
また、特許文献2にはポリ(3−置換−3−ヒドロキシメチルオキセタン)が開示されているが、このポリマーは結晶性であり、非結晶性の末端シリル化鎖状ポリエーテルは知られていない。
【0005】
一方、非特許文献1には、テトラヒドロフランの2位又は3位にメチル基等の置換基が存在する場合、多核ルテニウムカルボニル錯体からなる触媒の存在下で環状エーテルと水素原子を有するシランを反応させて環状エーテルを開環重合させる特許文献1と同様の反応は、進行しないことが記載されていた。
【0006】
【特許文献1】特開2001−59021号公報
【特許文献2】特開平2−29429号公報
【非特許文献1】Organometallics 2000,19,3579−3590
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、粘度が低く、結晶性を排除した非結晶性の末端シリル化オキセタン重合物及びそれを得るための重合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するため、本発明は、下記の末端シリル化オキセタン重合物を提供するものである。すなわち、本発明は、下記構造式(a)で表される3位に置換基を有する繰り返し単位をもち、その酸素原子側の末端が下記構造式(b)で表されるシリル基であって他末端が水素であり、数平均分子量が500〜500,000である、末端シリル化オキセタン重合物である。
【0009】
【化6】

【0010】
【化7】

【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、3位に置換基に置換基を設けることにより、粘度が低く、結晶性を排除した非結晶性の末端シリル化オキセタン重合物及びそれを得るための重合方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の末端シリル化オキセタン重合物は、上記式(a)で表される繰り返し単位をもち、その酸素原子側の末端が上記式(b)で表されるシリル基であって他末端が水素であるものであり、その数平均分子量は500〜500,000である。この末端シリル化オキセタン重合物として、具体的には、例えば、下記式(1)で表される重合物が挙げられ、また、上記式(a)で表される繰り返し単位として置換基の異なる繰り返し単位をもつ重合物(共重合物)も挙げられる。
【0013】
【化8】

【0014】
上記式(1)において、nは、式(1)の末端シリル化オキセタン重合物の数平均分子量が500〜500,000となるような整数である。上記式(a)及び(1)において、R、Rは、水素原子、炭化水素基、並びに炭化水素基に含まれる一つ又は複数の水素原子がアルキル基、オルガノオキシ基、及びハロゲン原子のいずれかに置換された置換炭化水素基のいずれかを示し、R、Rは、同一であっても、異なっても良い。但し、両者が水素原子である場合を除く。
【0015】
炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられ、特にアルキル基が好ましい。
【0016】
前記アルキル基としては、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(及びその異性体)、ブチル基(及びその異性体)、ペンチル基(及びその異性体)、ヘキシル基(及びその異性体)、ヘプチル基(及びその異性体)、オクチル基(及びその異性体)、ノニル基(及びその異性体)、デシル基(及びその異性体)、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基等が挙げられる。
【0017】
前記アリール基としては、炭素数6〜18のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、トリル基(及びその異性体)、キシリル基(及びその異性体)、ナフチル基(及びその異性体)、ジメチルナフチル基(及びその異性体)、アントラセニル基、フェナントレニル基、クリセニル基、テトラフェニル基、ナフタセニル基等が挙げられる。
【0018】
前記アラルキル基としては、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましく、例えばベンジル基、ナフチルメチル基、インデニルメチル基、ビフェニルメチル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基などが挙げられる。
【0019】
前記置換炭化水素基を構成するハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0020】
同じくアルキル基としては、炭素原子数1〜20、特に1〜12のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。なお、これらの置換基は、その異性体を含む。
【0021】
同じくオルガノオキシ基としては、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、オルガノシロキシ基などが挙げられる。
【0022】
アルコキシ基としては、特に炭素原子数1〜10のアルコキシ基が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンタノキシ基、ヘキサノキシ基、ヘプタノキシ基、オクタノキシ基、ノナノキシ基、デカノキシ基等が挙げられる。なお、これらの置換基は、その異性体を含む。
【0023】
アラルキルオキシ基としては、特に炭素数7〜20のアラルキル基が好ましく、例えばベンジルオキシ基、ナフチルメチルオキシ基、インデニルメチルオキシ基、ビフェニルメチルオキシ基、ジフェニルメチルオキシ基、トリフェニルメチルオキシ基等が挙げられる。
【0024】
アリールオキシ基としては、特に炭素原子数6〜14のアリールオキシ基が好ましく、フェノキシ基、トリロキシ基、キシリロキシ基、ナフトキシ基、ジメチルナフトキシ基等が挙げられる。なお、これらの置換基は、その異性体を含む。
【0025】
オルガノシロキシ基としては、特に炭素数3〜18のオルガノシロキシ基が好ましく、トリメチルシロキシ基、ジメチルエチルシロキシ基、トリエチルシロキシ基、トリプロピルシロキシ基、トリブチルシロキシ基、ブチルジメチルシロキシ基、フェニルジメチルシロキシ基、ナフチルジメチルシロキシ基、ジメチルエチルシロキシ基、ジメチルエトキシシロキシ基、メチルジエトキシシロキシ基、トリエトキシシロキシ基等があげられる。なお、これらの置換基は、その異性体を含む。
【0026】
前記置換炭化水素基としては、アルキル基に含まれる一つ又は複数の水素原子がオルガノオキシ基、及びハロゲン原子のいずれかに置換された置換アルキル基が特に好ましい。
【0027】
上記のオルガノオキシ基に置換された置換アルキル基としては、例えばアルコキシメチル基(メトキシメチル基、エトキシメチル基など)、アラルキルオキシメチル基(ベンジルオキシメチル基、ジフェニルメチルオキシメチル基、トリフェニルメチルオキシ基など)、アリールオキシメチル基(フェノキシメチル基など)、オルガノシロキシメチル基(トリメチルシロキシメチル基など)などが挙げられる。
【0028】
さらに、R1、は結合して環を形成しても良い。これら2つの基が結合して形成する環としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロヘプテン環等が挙げられる。
【0029】
これらR、Rの組合せとしては、水素原子又は炭化水素基と、オルガノオキシ基で置換された置換炭化水素基との組合せが好ましい。
【0030】
次に、X、X、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアミノ基、ビニル基、シロキシ基、オルガノシロキシ基、オルガノシリル基、複素環基のいずれかを示し、X、X、Xは、それぞれ同一であっても、異なっても良い。
【0031】
これらの官能基の定義は、上記R、Rに含まれる一つまたは複数の水素原子を置換するこれら官能基として挙げたものと同一のものが挙げられる。また、複素環基としては、例えばピリジル基、キノリル基、イソキノリル基、キナゾリル基、ピリミジル基、キノキサリル基等が挙げられる。
【0032】
また、本発明は、3位に置換基を有するオキセタン誘導体を重合させて前記式(1)で表される末端シリル化オキセタン重合物を得る手法に関するものである。
【0033】
本発明において前記式(1)で表される末端シリル化オキセタン重合物は下記構造式(2)で表される3位に置換基を有するオキセタン誘導体を、2〜4核のルテニウムカルボニル錯体を触媒とし、下記構造式(3)で示されるシランの存在下に重合反応させることにより製造することができる。また、構造式(2)で表される3位に置換基を有するオキセタン誘導体は置換基の異なるものを複数(少なくとも二種)用いることもでき、その場合は、式(a)で表される繰り返し単位として、この置換基の異なるオキセタン誘導体に対応する、置換基の異なる繰り返し単位をもつ共重合物を製造することができる。
【0034】
【化9】

【0035】
本重合反応で用いられる2〜4個のルテニウム原子にカルボニル基が配位した多核ルテニウムカルボニル錯体の具体的態様を化6に示す。これらのうち、特に1または6で表されるようなアセナフチレンまたはアズレンの配位した3核ルテニウムカルボニル錯体は、触媒として特に優れている。 これらは、例えばJ. Am. Chem. Soc., 115, 10430, (1993), 及び、Bull. Chem. Soc. Jpn., 71, 2441, (1998)記載の方法によって合成することができる。
【0036】
【化10】

【0037】
またこれらの多核ルテニウムカルボニル錯体は、酸素、水に対して安定であり、腐食性もないため、従来用いられてきたオニウム塩系触媒およびルイス酸もしくはプロトン酸触媒の課題を解決している。
【0038】
これらの多核ルテニウムカルボニル錯体の使用量は、3位に置換基を有するオキセタン誘導体(上記式(2))1モルに対して0.1〜0.00001モルであり、好ましくは0.05〜0.0001モルである。
【0039】
上記式(2)で表される3位に置換基を有するオキセタン化合物としては、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−メチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3-ヒドロキシメチルオキセタン、3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタン、3−ベンジロキシメチル−3−メチルオキセタン、3−トリメチルシロキシメチル−3−エチルオキセタン、3−トリメチルシロキシメチル−3−メチルオキセタン等が具体的に挙げられる。これらは、市販のものを使用しても良いし、J. Macromolecular Chem., Pure Appl. Chem., A30, 189記載の方法によって合成しても良い。この(2)のR、Rによって、構造式(1)で表される末端シリル化オキセタン重合物のR、Rが決定される。
【0040】
上記式(3)で表わされるシランは、市販のものを使用することができる。具体的には、トリメチルシラン、ジメチルエチルシラン、トリエチルシラン、トリプロピルシラン、トリブチルシラン、ブチルジメチルシラン、フェニルジメチルシラン、ナフチルジメチルシラン、ジメチルエチルシラン、ジメチルエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、トリエトキシシラン等が挙げられる。
【0041】
上記式(3)で表わされるシランの使用量は、多核ルテニウムカルボニル錯体1モルに対して、1〜10,000モルであり、好ましくは、10〜3,000モルである。本重合反応は無溶媒で行っても良いし、重合反応を阻害しない溶媒を用いてもよい。使用される溶媒としては、ジオキサン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等が挙げられる。
【0042】
上記溶媒の使用量は、上記式(2)で表わされる3位に置換基を有するオキセタン誘導体に対して体積比で0.01〜100であり、好ましくは0.5〜10である。
【0043】
また、反応温度は、上記式(2)で表わされる3位に置換基を有するオキセタン誘導体及び溶媒を使用する場合は5℃以上、沸点以下であり、好ましくは室温〜80℃である。
【0044】
反応時間は、反応条件によって変化するが0.5分〜200時間である。
【0045】
この反応は、通常、減圧下(10−2〜10−4 Torr)もしくは常圧下アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気、或はこれらのガス気流下で行うことができる。
【0046】
本反応によって得られる末端シリル化オキセタン重合物は必要に応じて減圧乾燥後、再沈殿等の公知の手段で適宣精製することができる。このようにして得られた末端シリル化オキセタン重合物は、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)によって数平均分子量(Mn)が決定される。
【実施例】
【0047】
次に、本発明に係る末端シリル化オキセタン重合物の実施例について説明する。先ず、以下、実施例8によって得られる下記(6)で示す末端シリル化オキセタン重合物、及び実施例23によって得られる下記(7)で示す末端シリル化オキセタン重合物について、示差走査熱量分析を行った。示差走査熱量分析は、セイコー電子工業社製DSC−220を用いて、サンプル10mgを窒素雰囲気下、−100〜100℃の範囲で10℃/分の昇温及び冷却速度で測定することによって行った。(6)で示す末端シリル化オキセタン重合物の分析図を図1に示し、(7)で示す末端シリル化オキセタン重合物の分析図を図2に示す。前者はガラス転移点(Tg)−51.7℃、後者は−58.9℃であり、両者とも結晶化熱等は観察されず、非結晶性ポリマーであることが明らかとなった。一方、主鎖に置換基のない末端シリル化ポリオキセタン(8)について同様の測定を行ったところ、Tgは−82.5℃であり、図3に示すように−44℃に結晶化に伴う発熱ピークが観察され、結晶性ポリマーであることが明らかである。
【0048】
【化11】

【0049】
よって、3位に置換基を有するオキセタン誘導体を、本発明により重合させて得られる末端シリル化オキセタン重合物は非結晶性高分子であり、結晶に由来する複屈折および結晶配向に起因する散乱がないため、透明フィルム、シート、光記録層保護材などの光学材料への応用が期待される。
【0050】
また、これら式(6)乃至(8)で示すポリマーの粘度について、E型粘度計を用いて50℃で測定した。その結果を表1に示す。このように本発明に係る(6)及び(7)で示すポリマーは、従来技術である(8)で示すポリマーに比べて粘度が低いので、作業性に優れている。以下、本発明に係る末端シリル化オキセタン重合物の実施例について説明する。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例1(3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタンのバルク重合)
30mL二口フラスコに、磁気撹拌子、AceRu3(CO)7(化10の化合物1)(2.15mg,、0.0033 mmol)を加えて、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した。1,4−ジオキサン(0.056mL)をマイクロシリンジで加えて錯体を溶解した。この錯体溶液に、ジメチルフェニルシラン(0.05mL、0.33 mmol)を加えて30分撹拌すると、溶液の色が濃橙色からうすい橙色へと変化した。つぎに、3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタン(0.67mL、3.3 mmol)を加え、室温で撹拌した。発熱を伴う溶液の粘度の急激な増加が観察された。1分後に溶液を10−3Torrの減圧下で濃縮乾燥し、得られた残渣をベンゼン(1mL)に溶解したのち、メタノール(2mL)に加えてポリマーを沈殿させた。沈殿したポリマー溶液をデカンテーションで分離し、ポリマーを10−3Torrの減圧下で乾燥させることにより、ポリマーを得た。この結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
本重合反応により得られたポリマーについて、H及び13Cの核磁気共鳴スペクトルにより、その主骨格の構造を確認した。その解析結果を次に示す。
【0055】
600MHzのNMR(室温、溶媒=C6D6)で測定したH NMRの帰属
δ0.99(t,J=7.4Hz,3H,エチル基中のCH3
δ1.66(q,J=7.4Hz,2H,エチル基中のCH2
δ3.40(d,J=8.8Hz,2H,ポリマー鎖中のCH2
δ3.43(d,J=8.8Hz,2H,ポリマー鎖中のCH2)
δ3.47(bs,2H,OCH2-C)
δ4.40(s,2H,ベンジル基のCH2
δ7.09(t,J=7.4Hz,1H,ベンジル基の芳香環に結合した水素)
δ7.19(dd,J=7.7,7.4Hz,2H,ベンジル基の芳香環に結合した水素)
δ7.32(d,J=7.7Hz,2H,ベンジル基の芳香環に結合した水素)
【0056】
150MHzのNMR(室温、溶媒=C6D6)で測定した13C NMRの帰属
δ8.3(エチル基中のCH3
δ23.9(エチル基中のCH2
δ44.0(ポリマー鎖中のC
δ71.8(OCH2-C)
δ72.2(ポリマー鎖中のCH2
δ73.6(ベンジル基のCH2
δ127.5(ベンジル基の芳香環の炭素)
δ127.6(ベンジル基の芳香環の炭素)
δ128.5(ベンジル基の芳香環の炭素)
δ139.5(ベンジル基の芳香環の炭素)
【0057】
また、SEC(カラム:Shodex GPC-KF-804L と KF-805L を連結。溶出液 THF。分子量の算出基準:ポリスチレン標準サンプル)により、そのポリマーの分子量、分子量分布を決定した。実施例1で得られたポリマーのSECチャートを図4に示す。その結果、Mn=49,000、Mw/Mn=2.00であった。
【0058】
実施例2〜6(シランとモノマー比の制御による分子量の制御)
実施例1と同様の触媒AceRu3(CO)7(2.15mg、0.0033mmol)のジオキサン溶液を用いて、ジメチルフェニルシラン /3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタン比(シラン/ モノマー比)を触媒を1として 10/1000、100/100、100/5000、1000/1000、5000/1000 に変化させて室温で重合を行った。その結果を表2に示す。
【0059】
実施例3により得られたポリマーについて、H、13C、29Siの核磁気共鳴スペクトルの測定を行なった。これらの結果を図5乃至7に示す。これらの結果は、このポリマー中にケイ素上に2つのメチル基と1つのフェニル基をもつシロキシ部分構造が存在することを示すので、末端のシリル基の存在が確認された。よって、これら図5乃至7及び実施例1に示す結果から、このポリマーの構造が上記(6)で示すものであると推定することができる。
【0060】
表2から表5に示す実施例で得られるポリマーのうち、分子量が1万を越えるものについては、核磁気共鳴スペクトルにおいて、ポリマー鎖に由来するピークと比較して末端ケイ素官能基に帰属されるピークは相対的に小さいが、いずれの場合もH NMRにより確認されることから、得られたポリマーは末端のケイ素官能基が存在していることが理解できる。
【0061】
実施例7(3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタンのバルク重合(アンプル中))
重合は、フラスコ中アルゴン雰囲気下のみでなく、真空封管したアンプル中でも行うことができる。30mLガラスアンプルに、磁気撹拌子、触媒AceRu3(CO)7 (2.15mg、0.0033mmol)を入れ、アルゴン雰囲気に置換する。1,4−ジオキサン(0.056mL)を加えて錯体溶液を作り、その中にジメチルフェニルシラン(0.05mL、0.33mmol)を加えて30分撹拌した。溶液をドライアイス・メタノール浴で冷却したのち、0℃に冷却した3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタン(0.67mL、3.3mmol)を加えた。混合物を液体窒素で2回凍結脱気したのち、10−3Torrの減圧下で封管した。溶液が室温になった段階から5分で重合が終了した。封管を切って、溶媒を減圧除去し、ポリマーをベンゼン(1mL)に溶解した。メタノール(2mL)に加えて再沈をおこない、上澄み液を除去したのちに、ポリマーを10−3Torrの減圧下で乾燥させた。得られるポリマーの収量は、0.68g、Mn=33,000、Mw/Mn=2.18であった。
【0062】
実施例8(3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタンのバルク重合(大量合成))
50mL二口フラスコに、攪拌子、触媒AceRu3(CO)7 (19.53mg 0.030mmol)を加え、アルゴン雰囲気とした。1.4−ジオキサン(0.55mL)を加え、錯体溶液を作り、その中にジメチルフェニルシラン (0.47mL、 3.0mmol)を加え30分攪拌した。3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタン(6mL、 30mmol)を加えた。5分後に生成したポリマーを減圧乾燥させ、ベンゼン(6mL)に溶解させたのち、メタノール(12mL)に加えることにより再沈をおこなった。上澄みを除去し、その後10−3Torrで減圧乾燥させ、ポリマーを得た。得られたポリマーの収量は36g、収率は88%、Mn=42,000、Mw/Mn=2.70であった。
【0063】
実施例9〜12(3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタンの溶液重合)
本発明に係るポリマーは、溶液重合法を用いても得ることができる。表3に室温で6時間反応させた結果をまとめた。代表例として、ジオキサン、ベンゼン、オクタン、ヘキサンを溶媒として用いた重合が可能である。
【0064】
【表3】

【0065】
実施例9の実験例を以下に示す。30mL二口フラスコに、攪拌子、触媒AceRu3(CO)7 (2.15mg,、0.0033mmol)を加え、アルゴン雰囲気とした。1.4−ジオキサン(0.056mL)を加え、錯体溶液を作り、その中にジメチルフェニルシラン(0.05mL、0.33mmol)を加え30分攪拌した。その後3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタン(0.67mL、 3.3mmol)とジオキサン(0.67mL)を混合した溶液を加えた。6時間後に生成したポリマーを減圧乾燥させ、ベンゼン(1mL)に溶解したのちに、メタノール(2mL)中に加えて再沈精製をおこなった。溶媒を除去し、その後ラインで減圧乾燥させた。上澄みを除去し、その後10−3Torrで減圧乾燥させ、ポリマーを得た。得られたポリマーの収量は0.58g、Mn=40,000、Mw/Mn=2.49であった。
【0066】
なお実施例10〜12では使用する溶媒をジオキサンから表3記載の溶媒に変更する以外は実施例9と同様の操作を行った。
【0067】
実施例13〜17(3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタンの重合(シランの効果))
開始剤として、他のシランを用いても重合を達成することができる。表4に代表例をまとめる。嵩高いシランを用いると反応が遅く、収率が低下するとともに、分子量が大きくなった。なお、実施例13〜17では使用するシランをジメチルフェニルシランから表4記載のシランに変更する以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0068】
【表4】

【0069】
実施例18〜20(3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタンの重合(温度効果))
表5に反応時間6時間に固定した際の温度効果をまとめる。高温での反応は、分子量の小さなポリマーを与えた。以下に実施例20の実験例を示す。30mL二口フラスコに、磁気攪拌子、触媒AceRu3(CO)7(2.15mg、0.0033mmol)を加え、アルゴン雰囲気下とした。1.4−ジオキサン(0.056 mL)、を加えて錯体溶液を作り、その中にジメチルフェニルシラン(0.05mL、 0.33 mmol)を加え30分攪拌したのち、80℃に暖めていた3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタン(0.67mL、 3.3mmol)と1,4−ジオキサン(0.67mL)を混合した溶液を加えた。混合物を80℃に加温した湯浴の中で反応させた。6時間後に生成したポリマーを減圧乾燥させ、ベンゼン(1mL)に溶解してメタノール(2mL)に加えることにより、再沈操作を行った。上澄みを除去し、その後減圧乾燥させてポリマーを得た。この得られたポリマーの収量は0.55gであり、Mn=25,000、Mw/Mn=2.11であった。実施例18、19は反応温度を表5記載の温度に変更する他は実施例20と同様に反応を行った。
【0070】
【表5】

【0071】
実施例21(3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンのバルク重合(1))
30mL二口フラスコに、磁気攪拌子、触媒AceRu3(CO)7(2.15mg、 0.0033mmol)を加え、フラスコ内をアルゴン置換した。テトラヒドロピラン(THP)(0.056 mL)を加え、錯体溶液を作り、その中にジメチルフェニルシラン(0.55mL、3.63mmol)を加え30分攪拌した。続いて3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(0.47mL、 3.3mmol)を加え常温で攪拌した。水素と考えられるガスの発生が観察された。15分後に、生成したポリマーを減圧乾燥させ、ベンゼン(1mL)に溶解した。メタノール(2mL)にベンゼン溶液を加えて再沈精製を行った。溶媒をデカンテーションで除去し、その後10−3Torrで減圧乾燥させ、ポリマーを得た。得られたポリマーの収量は0.68g、Mn=18,000、 Mw/Mn=3.67であった。ポリマーのH及び13C NMRによる分析結果を図8及び9に示す。なお、原料化合物である3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンの水酸基が脱水素シリル化によりオルガノシロキシ基に変換されて重合反応が進むことにより、このポリマーはオルガノシロキシ基が導入されたポリマーとなっている。
【0072】
実施例22(3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンのバルク重合(2))
三方コックのついた二口ナスフラスコ(30ml)に、磁気攪拌子、AceRu3(CO)7 (2.15mg、0.0033mmol)を加え、アルゴン雰囲気下とした。THP(0.056mL)を加え、錯体溶液を作り、その中にジメチルフェニルシラン(0.55ml、 3.63mmol)を加え30分室温で攪拌した。その後、ドライアイス・メタノール浴中でフラスコ−60℃に冷却し、0℃にあらかじめ冷却した3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン (0.37ml、3.3mmol)を加えた。1時間にわたり、攪拌しながら少しずつ温度を室温まで上げ、さらに45分間室温で反応させた。生成したポリマーを減圧乾燥させ、ベンゼン(1mL)に溶解した。メタノール(2mL)にベンゼン溶液を加えて再沈精製を行った。溶媒をデカンテーションで除去し、その後10−3Torrで減圧乾燥させ、ポリマーを得た。得られたポリマーの収量は0.69g、Mn=55,000、Mw/Mn=2.29であった。
【0073】
実施例23(3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンのバルク重合(3))
50mL二口フラスコに、攪拌子、触媒AceRu3(CO)7(19.53mg、0.030mmol)を加え、アルゴン雰囲気とした。1,4−ジオキサン(0.55mL)を加え、錯体溶液を作り、その中にジメチルフェニルシラン(5.1mL、33.0mmol)を加え30分攪拌した。3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタン(6mL、30mmol)を加えた。5分後に生成したポリマーを減圧乾燥させ、ベンゼン(6mL)に溶解させ、これをメタノール(12mL)に加えることにより再沈を行った。上澄みを除去した後、10−3Torrで減圧乾燥させてポリマーを得た。得られたポリマーの収量は6.20g、Mn=31,000、Mw/Mn=4.30であった。
【0074】
実施例24 (3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタンの重合(触媒種の効果))
磁気撹拌子を入れた30mL二口フラスコに、TMA−Ru3(化6の化合物6)(2.21mg、0.0033mmol)を加えてアルゴン雰囲気下とした。次いで、1,4−ジオキサン(0.056mL)を加えて触媒溶液(錯体溶液)を作り、その中にジメチルフェニルシラン(0.050mL、0.33mmol)を加えて40℃で30分撹拌した後、3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタン(0.67mL、3.3mmol)を加えた。引き続き、40℃で撹拌すると5分で重合反応が進んだ。生成したポリマーを減圧乾燥させてベンゼン(1mL)に溶解させ、これをメタノール(2mL)に加えることにより再沈操作を行った。上澄みを除去した後、減圧乾燥させてポリマーを得た。得られたポリマーの収量は0.60g(収率88%)、Mn=39000、Mw/Mn=2.57であった。
【0075】
実施例25〜29(3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタン及び3−フェニルジメチルシロキシメチル−3−エチルオキセタンのバルク重合)
磁気撹拌子を入れた30mL二口フラスコに、AceRu3(CO)7(25.8mg、0.039mmol)を加え、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した後、1,4−ジオキサン(0.6mL)を加えて錯体を溶解した。この錯体溶液に、ジメチルフェニルシラン(0.6mL、3.9mmol)を加えて30分撹拌すると溶液の色が濃橙色からうすい橙色へと変化した。次いで、3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタン(モノマー1)と3−フェニルジメチルシロキシメチル−3−エチルオキセタン(モノマー2)の混合物(合計1000当量:39mmol)を加え、室温で30分撹拌した。生成したポリマーを減圧乾燥し、ベンゼン(6mL)に溶解させた後、メタノール(12mL)に加えることにより再沈を行った。その後、上澄みを除去し、10−3Torrで減圧乾燥してポリマー(共重合物)を得た。各モノマーの比率を変更した場合の反応成績及び各共重合物の物性を表6に示す。表6中、1及び2はモノマー1及びモノマー2をそれぞれ表す。
【0076】
【表6】

【0077】
これら共重合物について粘度及びDSC測定を行った結果を表6に併せて示す。いずれも、粘度は10000〜20000cPで無置換のものよりかなり粘性が低く作業性に優れていた。また、DSCの結果(図10)から、Tgはそれぞれのホモポリマーと同程度であり、いずれの共重合物も結晶化熱は観測されず非結晶性ポリマーであった。
【0078】
実施例30〜31(3−ベンジロキシメチル−3−エチルオキセタン及び3−トリメチルシロキシメチル−3−エチルオキセタンのバルク重合)
モノマー2を3−トリメチルシロキシメチル−3−エチルオキセタン(モノマー3)に代えた以外は、実施例25と同様に行って、ポリマー(共重合物)を得た。各モノマーの比率を変更した場合の反応成績及び各共重合物の物性を表7に示す。表7中、1及び3はモノマー1及びモノマー3をそれぞれ表す。
【0079】
【表7】

【0080】
また、これら共重合物の粘度及びDSC測定の結果も表7に併せて示す。いずれも、粘度は10000〜35000cPで無置換のものよりかなり粘性が低く作業性に優れ、DSCの結果(図11)より結晶化熱は観測されず非結晶性ポリマーであった。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る化11の(6)で示す末端シリル化オキセタン重合物について、示差走査熱量分析を行った分析図である。
【図2】本発明に係る化11の(7)で示す末端シリル化オキセタン重合物について、示差走査熱量分析を行った分析図である。
【図3】従来技術に係る化11の(8)で示す末端シリル化オキセタン重合物について、示差走査熱量分析を行った分析図である。
【図4】実施例1で得られたポリマーのSECチャートである。
【図5】実施例3の生成物ポリマーの NMRチャートである。
【図6】実施例3の生成物ポリマーの13C NMRチャートである。
【図7】実施例3の生成物ポリマーの29Si NMRチャートである。
【図8】実施例21によって得られたポリマーのH NMRチャートである。
【図9】実施例21によって得られたポリマーの13C NMRチャートである。
【図10】実施例25〜29で得られた末端シリル化オキセタン重合物(共重合物)について、示差走査熱量分析を行った分析図である。但し、上段左、上段右、中段左、中段右、下段の順に実施例25、26、27、28、29にそれぞれ対応する。
【図11】実施例30〜31で得られた末端シリル化オキセタン重合物(共重合物)について、示差走査熱量分析を行った分析図である。但し、左、右の順に実施例30、31にそれぞれ対応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(a)で表される3位に置換基を有する繰り返し単位をもち、その酸素原子側の末端が下記構造式(b)で表されるシリル基であって他末端が水素であり、数平均分子量が500〜500,000であることを特徴とする末端シリル化オキセタン重合物。
【化1】

(式中、R、Rは、水素原子、炭化水素基、並びに炭化水素基に含まれる一つ又は複数の水素原子がアルキル基、オルガノオキシ基、及びハロゲン原子のいずれかに置換された置換炭化水素基のいずれかを示し、R、Rは、同一であっても、異なっても良い。但し、両者が水素原子である場合を除く。また、R、Rは、互いに結合して環を形成しても良い。)
【化2】

(式中、X、X、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアミノ基、ビニル基、シロキシ基、オルガノシロキシ基、オルガノシリル基、複素環基のいずれかを示し、X、X、Xは、それぞれ同一であっても、異なっても良い。)
【請求項2】
下記構造式(1)で表されることを特徴とする請求項1記載の末端シリル化オキセタン重合物。
【化3】

(式中、nは、式(1)の末端シリル化オキセタン重合物の数平均分子量が500〜500,000となるような整数である。R、Rは、水素原子、炭化水素基、並びに炭化水素基に含まれる一つ又は複数の水素原子がアルキル基、オルガノオキシ基、及びハロゲン原子のいずれかに置換された置換炭化水素基のいずれかを示し、R、Rは、同一であっても、異なっても良い。但し、両者が水素原子である場合を除く。また、R、Rは、互いに結合して環を形成しても良い。X、X、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基、アルキルアミノ基、アリール基、アリールアミノ基、ビニル基、シロキシ基、オルガノシロキシ基、オルガノシリル基、複素環基のいずれかを示し、X、X、Xは、それぞれ同一であっても、異なっても良い。)
【請求項3】
構造式(a)で表される繰り返し単位として置換基の異なる繰り返し単位をもつことを特徴とする請求項1記載の末端シリル化オキセタン重合物。
【請求項4】
請求項2の構造式(1)で表される末端シリル化オキセタン重合物の製造法であって、下記構造式(2)で表される3位に置換基を有するオキセタン誘導体を2〜4核のルテニウムカルボニル錯体を触媒とし、下記構造式(3)で示されるシランの存在下に反応させることを特徴とする3位に置換基を有するオキセタン誘導体の重合方法。
【化4】

(式中、R、R及びX、X、Xは、請求項2と同義である)
【請求項5】
前記ルテニウムカルボニル錯体が下記の式(4)又は(5)で表されるアセナフチレン又はアズレンの配意した3核ルテニウムカルボニル錯体であることを特徴とする請求項4記載の3位に置換基を有するオキセタン誘導体の重合方法。
【化5】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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