説明

3価クロムめっき液及びスルファミン酸クロム溶液の製造方法

【課題】 実用的な大きさの被めっき物にクロムめっきを施した場合であっても、めっき液の温度が上昇し過ぎることなく、数マイクロメートル以上のクロムめっきを施すことができる3価クロムめっき液、さらには、スルファミン酸クロム溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】 スルファミン酸クロムと、クエン酸カリウムと、硫酸アンモニウムとを含んでなることを特徴とする3価クロムめっき液により課題を解決し、スルファミン酸を水に溶かしたスルファミン酸水溶液に、粒径0.001mm以上5mm以下のクロム金属粉を加えて、35〜65℃に保ちながら攪拌して、スルファミン酸とクロム金属を反応させてなることを特徴とするスルファミン酸クロム溶液の製造方法などにより課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価クロムを主成分とする3価クロムめっき液及びスルファミン酸クロム溶液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硬質クロムめっき技術としては、通常6価のクロム酸溶液に触媒としての硫酸やフッ素化合物を添加した浴を用いたものが主流である。この6価クロムめっき液から得られるクロムめっきは、光沢があって、耐食性に優れ、変色し難いことから、ニッケルめっき上に施した装飾用めっきとして使用されている。また、6価クロムめっき液を用いて、被めっき物に数マイクロメートル以上のクロムめっきを直接施すと、マイクロビッカース硬度Hv750以上の値が得られるため、6価クロムめっきは、耐摩耗性、耐潤滑性などに優れた工業用めっきとして、機械部品を含むさまざまな分野に貢献している。
【0003】
ところが、6価クロム化合物は、人体に有毒であるため、作業環境が劣悪となることに加え、公害物質であるため、厳しい大気排出規制と廃水規制が課せられ、特別な大気排出処理装置や排水処理システムも必要となる。
【0004】
また、近年、世界各国において、環境問題がクローズアップされ、6価クロムめっき液を用いた各種プロセスの代替え技術の開発が強く望まれ、諸外国では、6価クロムの使用を制限しており、我が国においても、6価クロムの使用量を減少させていくことが環境の点からも好ましいと考えられている。
【0005】
そこで、6価クロムめっき液の代替物として、6価クロムと比べ、毒性の少ない3価クロムを主成分とする3価クロムめっき液の開発が行われている。3価クロムめっき液は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−95793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によると、特許文献1に記載された3価クロムめっき液において、約50マイクロメートル程度のめっき厚を得るためには、40A/dmの電流密度で、電気めっきを1時間行う必要がある(特許文献1の実施例3参照)。ここで、40A/dmという電流密度は、実験室レベルのオーダーであるため、実用的な大きさの被めっき物に40A/dmの電流密度で電気めっきを施した場合には、10〜20分位でめっき液の温度が上昇し過ぎて、めっき液が使用できなくなる等の不都合が生じるという欠点があった。
【0008】
一方、スルファミン酸クロムを水に溶かしたスルファミン酸クロム溶液の入手は、現在困難な状況にある。本発明者は、スルファミン酸クロム溶液を入手すべく、日本、欧州、米国の市場等を調査したが、発見することができなかった。なお、スルファミン酸クロム溶液の入手が困難であることは、(1)JISハンドブック2008−48試薬(日本規格協会編纂)、(2)Reagent Chemicals 9th Edition(Oxford University Press)、(3)McGraw Hill Dictionary of Chemistry(McGraw Hill著)(4)Merck Index 14th Editionのいずれにも記載されていないことからしても明らかであろう。
【0009】
本発明の目的とするところは、実用的な大きさの被めっき物の表面にクロムめっきを施した場合であっても、めっき液の温度が上昇し過ぎることなく、数マイクロメートル以上のクロムめっきを施すことができる3価クロムめっき液、さらには、スルファミン酸クロム溶液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、スルファミン酸クロムと、クエン酸カリウムと、硫酸アンモニウムとを含んでなる3価クロムめっき液が上記目的を達成することを見出した。
【0011】
即ち、本発明の3価クロムめっき液は、スルファミン酸クロムと、クエン酸カリウムと、硫酸アンモニウムとを含んでなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の3価クロムめっき液の好適形態としては、前記スルファミン酸クロムは、前記3価クロムめっき液1リットル当たり150〜400g含有され、前記3価クロムめっき液は、さらに、サッカリンを含んでなり、スルホン酸ソーダを含んでなる。
【0013】
本発明者は、スルファミン酸クロム溶液の入手を容易にすべく、鋭意検討を重ねた結果、以下のスルファミン酸クロム溶液の製造方法を見出した。
【0014】
即ち、本発明の第一のスルファミン酸クロム溶液の製造方法は、スルファミン酸を水に溶かしたスルファミン酸水溶液に、粒径0.001mm以上5mm以下のクロム金属粉を加えて、35〜65℃に保ちながら攪拌して、スルファミン酸とクロム金属を反応させてなることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第二のスルファミン酸クロム溶液の製造方法は、塩化クロム6水和物を水に溶かした後、苛性ソーダを加え、中和して得られた沈殿物を脱水し、その後、脱水した沈殿物を水で2回以上洗浄した後に得られた水酸化クロムと、スルファミン酸を水に溶かしたスルファミン酸水溶液とを、混合してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
実用的な大きさの被めっき物の表面に本発明の3価クロムめっき液を用いてクロムめっきを行った場合には、めっき液の温度上昇が非常に効果的に抑制され、数マイクロメートル以上のクロムめっきを施すことが可能である。
【0017】
本発明のスルファミン酸クロム溶液の製造方法により、入手困難であるスルファミン酸クロム溶液を容易に入手することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の3価クロムめっき液は、スルファミン酸クロムと、クエン酸カリウムと、硫酸アンモニウムとを含んでなる。
【0019】
スルファミン酸クロムは、3価クロム化合物であり、6価クロム化合物に比べ毒性が少ない。しかしながら、上述したように、スルファミン酸クロムを水に溶解したスルファミン酸クロム溶液の入手は現状では困難であるため、本発明者は、粉末のクロム金属をスルファミン酸液に反応させ、水素ガスを放出して、スルファミン酸クロム溶液を製造する方法(本発明の第一のスルファミン酸クロム溶液の製造方法)を開発し、塩化クロムを苛性ソーダで反応させて水酸化クロムを作成し、作成した水酸化クロムをスルファミン酸に反応させて、スルファミン酸クロム溶液を製造する方法(本発明の第二のスルファミン酸クロム溶液の製造方法)を開発した。
【0020】
本発明の第一のスルファミン酸クロム溶液の製造方法において、スルファミン酸を水に溶かしたスルファミン酸水溶液に加えるクロム金属粉の粒径を0.001mm以上5mm以下とするのは、粒径0.001mm未満のクロム金属粉は作成困難だからであり、逆に、粒径5mmを超えるクロム金属粉は反応することなく固まりとして残ってしまうため、想定する量のスルファミン酸クロムを含有するスルファミン酸クロム溶液が得られないからである。
【0021】
スルファミン酸水溶液にクロム金属粉を加えると、液温40℃以上で5分程度は変化がないが、その後、6NHSOH+2Cr→2Cr(NHSO+3H↑という反応が急激に進行し(発熱反応)、スルファミン酸クロムが生成すると共に、水素ガスが発生して、そのまま何もしないと、溶液の温度が70〜80℃位まで上昇する。ここで、スルファミン酸とクロム金属を反応させる際の溶液の温度を攪拌しながら35〜65℃に保持するのは、溶液の温度が35℃未満であると、反応が進まないからであり、逆に65℃を超えると、生成したスルファミン酸クロムが分解してしまうだけでなく、発熱反応が過剰に進み過ぎて、多量の水素ガスが一気に発生し、最悪の場合には爆発することもあるからである。
【0022】
例えば、スルファミン酸1.68kgを水5リットルに溶かしたスルファミン酸水溶液にクロム金属粉300gを加えて、攪拌し、溶液の温度を40〜60℃にして反応を完結させると、スルファミン酸クロムが1リットル当たり392g(クロム金属量は1リットル当たり60g)含有されたスルファミン酸クロム溶液ができる。
【0023】
本発明の第二のスルファミン酸クロム溶液の製造方法において、塩化クロム6水和物を水に溶かし、苛性ソーダを加えて中和すると、水酸化クロムと塩化ナトリウムができる(CrCl+3NaOH→Cr(OH)+3NaCl)。ここで、水酸化クロムは沈殿物中に含まれているため、上澄み液を捨て、沈殿物(水酸化クロムと塩化ナトリウム)を脱水する。その後、沈殿物を水で2回以上洗浄して、塩化ナトリウムを除去すると、水酸化クロムが得られる。スルファミン酸を水に溶かしたスルファミン酸水溶液に得られた水酸化クロムを加えると、水酸化クロムとスルファミン酸が反応して、水素ガスが発生し、スルファミン酸クロム溶液ができる(2Cr(OH)+6NHSOH+→2Cr(NHSO+3H↑+3HO)。
【0024】
例えば、塩化クロム6水和物270gを水5リットルに溶かし、その後、5重量%の市販の苛性ソーダ2.4kgを加え、中和すると、水酸化クロムと塩化ナトリウムができる。ここで、12時間以上放置して、水酸化クロムを沈殿させた後、上澄み液を捨て、沈殿物を脱水し、その後、沈殿物を水で2回以上洗浄し、塩化ナトリウムを除去すると、103gの水酸化クロムが得られる。得られた水酸化クロム103gを5.5重量%スルファミン酸水溶液に入れて溶かすと、スルファミン酸クロムが1リットル当たり79g(クロム金属量は1リットル当たり12g)含有されたスルファミン酸クロム溶液ができる。
【0025】
本発明の3価クロムめっき液において、スルファミン酸クロムは3価クロムめっき液1リットル当たり150〜400g(クロム金属量は1リットル当たり30〜75g)含有されるのが好ましい。スルファミン酸クロムが3価クロムめっき液1リットル当たり150g未満であると、十分なめっき厚が得られないおそれがあるため、好ましくなく、逆にスルファミン酸クロムが3価クロムめっき液1リットル当たり400gを超えると、スルファミン酸クロム塩が過飽和の状態となり、スルファミン酸クロム塩が沈殿物として液中に存在することになり、公害問題にも結びつくおそれもあるため、好ましくないからである。
【0026】
なお、本発明の3価クロムめっき液において、スルファミン酸クロムが3価クロムめっき液1リットル当たり150〜400g含有されるようにするためには、本発明の第一のスルファミン酸クロム溶液の製造方法により製造されたスルファミン酸クロム溶液を用いた方が本発明の第二のスルファミン酸クロム溶液の製造方法により製造されたスルファミン酸クロム溶液を用いるよりも望ましい。
【0027】
本発明の3価クロムめっき液において、クエン酸カリウムは、安定剤として機能するが、pH緩衝作用としての働きも果たす。クエン酸カリウムは3価クロムめっき液1リットル当たり30〜80gが好ましい。クエン酸カリウムが3価クロムめっき液1リットル当たり30g未満であると、電着安定性を損なうことがあるため、好ましくなく、逆にクエン酸カリウムが3価クロムめっき液1リットル当たり80gを超えると、密着性が悪くなって、めっきが剥離したり、めっき用焼けやコゲが生じる場合があるため、好ましくないからである。
【0028】
本発明の3価クロムめっき液において、硫酸アンモニウムは、促進剤として機能するが、pH緩衝作用としての働きも果たす。硫酸アンモニウムは、3価クロムめっき液1リットル当たり50〜150gが好ましい。硫酸アンモニウムが3価クロムめっき液1リットル当たり50g未満であると、電流が流れにくくなることがあるため、好ましくなく、逆に硫酸アンモニウムが3価クロムめっき液1リットル当たり150gを超えると、クロム金属の濃度と比べて、促進剤である硫酸アンモニウムの含有量が多くなりすぎるため、電着性が悪化するおそれがあるため、好ましくないからである。
【0029】
本発明の3価クロムめっき液において、光沢安定剤として、サッカリンを、クロム金属量に対して、0.1〜0.4重量%含有するのが好ましく、ゼラチンを、クロム金属量に対して、0.1〜0.5重量%含有するのが好ましい。
【0030】
また、本発明の3価クロムめっき液において、スルホン酸ソーダを3価クロムめっき液1リットル当たり10〜30g含有することも好ましい。
【0031】
なお、本発明の3価クロムめっき液にはホウ酸を一切含有させない方が望ましい。めっき液には、pH緩衝作用によりpHを安定させると共に、めっき被膜の品質を改善させるため、所要量のホウ酸を含有させることが一般的であるが、クロムめっき液にホウ酸が含まれていると、クロムめっき液中にスルファミン酸クロムを溶解させにくくなるため、クロムめっき液に含まれるスルファミン酸クロムの濃度は必然的に薄くならざるを得ず、被めっき物に十分な厚みのクロムめっきを施すためには、高い電流密度で電気めっきを行う必要があるだけでなく、めっき後の洗浄水からホウ酸成分を除去することは容易でないため、特別な設備を付加する必要があり、クロムめっきの製造コストが増大するからである。
【実施例】
【0032】
(1)スルファミン酸クロム溶液の作成
(実施例1)
スルファミン酸26.88kgを80リットルの水に投入し、40℃に加熱して、スルファミン酸を溶かし、スルファミン酸水溶液を得た。得られたスルファミン酸水溶液に、粒径0.01mm以上2mm以下のクロム金属粉4.8kgを加え、攪拌しながら、液温を40〜60℃に維持して、反応を完結させ、1リットル当たりスルファミン酸クロム392g(クロム金属量は1リットル当たり60g)を含有する、本発明により作成したスルファミン酸クロム溶液1を得た。
【0033】
(実施例2)
スルファミン酸26.88kgを22.41kgに代え、クロム金属粉4.8kgを3.2kgに代えた以外は、スルファミン酸クロム溶液1の作成と同様の操作を繰り返し、1リットル当たりスルファミン酸クロム261g(クロム金属量は1リットル当たり40g)を含有する、本発明により作成したスルファミン酸クロム溶液2を得た。
【0034】
(実施例3)
スルファミン酸26.88kgを31.37kgに代え、クロム金属粉4.8kgを5.6kgに代えた以外は、スルファミン酸クロム溶液1の作成と同様の操作を繰り返し、1リットル当たりスルファミン酸クロム457g(クロム金属量は1リットル当たり70g)を含有する、本発明により作成したスルファミン酸クロム溶液3を得た。
【0035】
(実施例4)
塩化クロム6水和物4.32kgを水80リットルに溶かし、その後、5重量%の市販の苛性ソーダ3.84kgを加えて、塩化クロム6水和物と苛性ソーダを反応させ(中和)、水酸化クロムと塩化ナトリウムを得た。その後、12時間放置し、水酸化クロムを沈殿させた。上澄み液を捨て、沈殿物(水酸化クロムと塩化ナトリウム)を遠心分離器で脱水した。脱水した沈殿物を水で3回洗浄して、塩化ナトリウムを除去したところ、1.65kgの水酸化クロムが得られた。別途、容器にスルファミン酸4.66kgを水80リットルに溶かし、5.5重量%のスルファミン酸水溶液を作成した。得られた5.5重量%スルファミン酸水溶液に、水酸化クロム1.65kgを入れて、水酸化クロムとスルファミン酸を反応させ、1リットル当たりスルファミン酸クロム78.8g(クロム金属量は1リットル当たり12g)を含有する、本発明により作成したスルファミン酸クロム溶液4を得た。
【0036】
(2)3価クロムめっき液の作成
(実施例5)
反応槽5aに、水10リットルと硫酸アンモニウム10kgを投入し、温度を40〜50℃に保ちながら硫酸アンモニウムを水に溶解させて、硫酸アンモニウム水溶液5bを作成した。硫酸アンモニウム水溶液5bのpHは4であった。硫酸アンモニウム水溶液5bにおいて硫酸アンモニウムが水に完全に溶解していることを確認した後、硫酸アンモニウム水溶液5bの入った反応槽5aにクエン酸カリウム5kgを投入して溶解させ、混合溶液5cを作成した。混合溶液5cのpHは8.5であった。混合溶液5cの入った反応槽5aに実施例1で作成したスルファミン酸クロム溶液1を80リットル投入し、その後に水を加えた。そして、1リットル当たりスルファミン酸クロムが313g(クロム金属量は1リットル当たり60g)含有する、本発明の3価クロムめっき液5を100リットル得た。
【0037】
(実施例6)
スルファミン酸クロム溶液1を、スルファミン酸クロム溶液2に代えた以外は、3価クロムめっき液5の作成と同様の操作を繰り返し、1リットル当たりスルファミン酸クロムが210g(クロム金属量は1リットル当たり40g)含有する、本発明の3価クロムめっき液6を100リットル得た。
【0038】
(実施例7)
スルファミン酸クロム溶液1を、スルファミン酸クロム溶液3に代えた以外は、3価クロムめっき液5の作成と同様の操作を繰り返し、1リットル当たりスルファミン酸クロムが366g(クロム金属量は1リットル当たり70g)含有する、本発明の3価クロムめっき液7を100リットル得た。
【0039】
(実施例8)
硫酸アンモニウム10kgを8kgに代え、クエン酸カリウム5kgを6kgに代えた以外は、3価クロムめっき液5の作成と同様の操作を繰り返し、本発明の3価クロムめっき液8を100リットル得た。
【0040】
(実施例9)
本発明の3価クロムめっき液5に、サッカリンをクロム金属量に対して0.3重量%加え、本発明の3価クロムめっき液9を100リットル得た。
【0041】
(実施例10)
スルファミン酸クロム溶液1を、スルファミン酸クロム溶液4に代えた以外は、3価クロムめっき液5の作成と同様の操作を繰り返し、1リットル当たりスルファミン酸クロムが63g(クロム金属量は1リットル当たり12g)含有する、本発明の3価クロムめっき液10を100リットル得た。
【0042】
(比較例1)
クエン酸カリウム5kgを0kgに代えた以外は、3価クロムめっき液5の作成と同様の操作を繰り返し、比較例となる3価クロムめっき液R1を100リットル得た。
【0043】
(比較例2)
硫酸アンモニウム10kgをホウ酸3kgに代えた以外は、3価クロムめっき液5の作成と同様の操作を繰り返し、比較例となる3価クロムめっき液R2を100リットル得た。
【0044】
(試験例1)クロムめっき電着試験
A.熟成電着
長方形の小型浴槽を8個用意し、小型浴槽5〜10、R1、R2とした。小型浴槽5〜10、R1、R2のそれぞれに、3価クロムめっき液5〜10、R1、R2を100リットル投入した後、以下の方法で熟成電解を行った。陰極には100mm×650mm×1mmの鉄板を使用し、陽極にはクロム金属板を使用した。40℃の温度、電流密度1〜2.5A/dmで、弱電気分解を10時間〜24時間行った。
【0045】
B.クロムめっき電着試験
小型浴槽5〜10、R1、R2の3価クロムめっき液5〜10、R1、R2の中に、陽極として作用するクロム板2枚を配置し、陰極として作用する100mm×650mm×1mmの鉄SPC板1枚と100mm×650mm×1mmの真鍮BS板1枚を設置した。pH1.5〜3.5の条件下で、30分間クロムめっきを行った。電流密度は、10A/dm、20A/dm、30A/dmの3通りとした。
【0046】
3価クロムめっき液5〜10、R1、R2の温度は、試験中、いずれも、50±10℃であった。
【0047】
小型浴槽5〜10に配置した鉄SPC板の表面は、地色からセミブラックに変化した後、クロム白色に変化した。その後、小型浴槽5〜9に配置した鉄SPC板の表面は均一のクロム白色となった。真鍮BS板も鉄SPC板と同様の色に変化した。小型浴槽5〜9に配置された鉄SPC板の表面に施されたクロムめっきのめっき厚を蛍光X線により測定したところ、いずれも、電流密度10A/dmの場合は5〜10マイクロメートル、電流密度20A/dmの場合は約20マイクロメートル、電流密度30A/dmの場合は約30マイクロメートルであった。
【0048】
一方、小型浴槽R1、R2に配置した鉄SPC板の表面は、地色からセミブラックに変化したのみであり、鉄SPC板の表面にクロムめっきが施された痕跡は見当たらなかった。真鍮BS板も鉄SPC板と同様であった。
【0049】
以上の結果より、本発明の3価クロムめっき液は、適度な電流密度で、めっき液の温度上昇が非常に効果的に抑制され、実用的な大きさの被めっき物に数マイクロメートル以上のクロムめっきを施すことが可能となることが証明された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルファミン酸クロムと、クエン酸カリウムと、硫酸アンモニウムとを含んでなることを特徴とする3価クロムめっき液。
【請求項2】
前記スルファミン酸クロムは、前記3価クロムめっき液1リットル当たり150〜400g含有されていることを特徴とする請求項1に記載の3価クロムめっき液。
【請求項3】
前記3価クロムめっき液は、さらに、サッカリンを含んでなることを特徴とする請求項1又は2に記載の3価クロムめっき液。
【請求項4】
前記3価クロムめっき液は、さらに、スルホン酸ソーダを含んでなることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一つの項に記載の3価クロムめっき液。
【請求項5】
スルファミン酸を水に溶かしたスルファミン酸水溶液に、粒径0.001mm以上5mm以下のクロム金属粉を加えて、35〜65℃に保ちながら攪拌して、スルファミン酸とクロム金属を反応させてなることを特徴とするスルファミン酸クロム溶液の製造方法。
【請求項6】
塩化クロム6水和物を水に溶かした後、苛性ソーダを加え、中和して得られた沈殿物を脱水し、その後、脱水した沈殿物を水で2回以上洗浄した後に得られた水酸化クロムと、スルファミン酸を水に溶かしたスルファミン酸水溶液とを、混合してなることを特徴とするスルファミン酸クロム溶液の製造方法。