説明

3価クロムめっき液管理装置

【課題】一定の通電量に達した時点だけでなく、任意の時点で薬剤を供給することができ、溶解しにくい薬剤も使用することができる3価クロムめっき液管理装置を提供する。
【解決手段】調整槽1と、水酸化クロム貯蔵タンク2、グリシン貯蔵タンク3及び水酸化アンモニウム貯蔵タンク4と、水酸化クロム供給ポンプ14、グリシン供給ポンプ15及び水酸化アンモニウム供給ポンプ16とから構成し、論理制御部30、電流積算部32、水酸化クロム供給ポンプ駆動部35、グリシン供給ポンプ駆動部36及び水酸化アンモニウム供給ポンプ駆動部37を備える制御装置を設け、記憶させた単位通電量当たりの供給量と電流積算部32により計測された通電量とからその時点の通電量に対して必要な供給量を算出し、通電量が設定値に達したときあるいは操作部31から操作信号が入力されたとき、算出された供給量の薬剤を供給するように各ポンプを駆動するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価クロムめっき液に複数の薬剤を供給することにより3価クロムめっき液の組成を維持管理する3価クロムめっき液管理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロムめっきは大気中で腐食せず光沢を失わないことから装飾用として広く使用されており、また、高い硬度と低い摩擦係数を有することから耐摩耗性を要する機械部品等に広く使用されている。このように有用なクロムめっきではあるが、従来は殆んどが有害な6価クロムを多量に含むめっき液を使用してめっきされていた。そのため、有害な6価クロムを含まないめっき液によるクロムめっきが強く望まれ、例えば特許文献1に示されるような3価クロムめっき方法が提案されている。
【0003】
特許文献1に示される3価クロムめっき方法は、塩化クロムおよび塩化アンモニウムを含んで成るめっき液を用いて3価クロムめっきするにあたり、めっき液の一部を冷却装置に循環させ、この冷却装置において塩化アンモニウムの一部を晶析させ取除くことにより、めっき液中の塩化アンモニウム濃度を制御しながらめっきするものである。そして、実施例1では一定の通電量ごとに水酸化アンモニウムと塩化クロムをそれぞれ一定量ずつめっき液に添加すること、実施例2では一定の通電量ごとにアンモニア水、塩化クロム、グリシン及び硼酸をそれぞれ一定量ずつめっき液に添加することが示されている。
【0004】
一定の通電量ごとに薬剤をめっき液に添加するための装置としては、例えば特許文献2に示すようなものが知られており、こうしたものを使用することが考えられる。特許文献2に示される電気鍍金用添加剤補充装置は、被めっき物に流れる電流を検出する電流検出器と該電流検出器の出力を積分して一定積分値毎にパルスを出す積分器と積分器の出力パルスを計数して一定計数毎に出力を出す計数器と該計数器の出力により作動され一定量の添加剤を移送する定量移送装置とから構成されたものである。
【0005】
しかしながら、この特許文献2に示されるものはあらかじめ設定した一定の通電量ごとに一定量の薬剤の補給を行うものであるため、任意の時点で必要な量の薬剤の補給をすることができなかった。そのため一つの被めっき物をめっきした後に次の被めっき物をめっきする場合には、それまでに減少した成分をその時点で補給することができず、一部成分が減少したままで次の被めっき物のめっきを開始することになるという問題があった。また、複数の薬剤を補給することができないという問題があった。
【0006】
ところで、本願発明者は特許文献1に示される塩化クロム、塩化アンモニウム、グリシン、塩化アルミニウム及び硼酸を含む3価クロムめっき液、あるいはそこから塩化アルミニウムを除いた3価クロムめっき液を使用する3価クロムめっきについて実験を重ねた。その結果、特許文献1に補給する薬剤として示されている水酸化アンモニウム及び塩化クロム、あるいはアンモニア水、塩化クロム、グリシン及び硼酸に代えて、水酸化クロム、グリシン及び水酸化アンモニウムを一定の通電量ごとに補給することにより、良好な3価クロムめっきを継続することができることを見出した。また、めっき液の好適なpH値は塩化クロムの濃度により異なり、塩化クロム濃度が300g/lの場合0.1〜0.3、150g/lの場合0.4〜0.8であるとの知見を得ている。
【0007】
このような補給する薬剤の組み合わせは非常に良好な結果をもたらすのであるが、これらの薬剤を補給する際には水酸化クロムが溶解しにくく、特にアルカリ性である水酸化アンモニウムと同時にめっき槽に供給すると溶解しないためザラ等めっき不良を引き起こすという問題があった。
【特許文献1】特開2002−322599号公報
【特許文献2】実公昭46−009223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の問題点を解決し、一定の通電量に達したとき、操作信号が入力されたときのいずれのときにもそれまでの通電による成分の減少に見合う量の薬剤を供給することができ、供給する薬剤に溶解しにくい薬剤を使用することができる3価クロムめっき液管理装置を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題を解決するためになされた本発明の3価クロムめっき液管理装置は、調整槽と、複数の薬剤を貯蔵する貯蔵タンクと、各貯蔵タンクから薬剤を個別に調整槽へ送る複数の供給ポンプとから構成し、めっき槽から調整槽へ取り出しためっき液に各薬剤を供給することにより、通電量に比例して減少する成分を補給する3価クロムめっき液管理装置であって、被めっき物に流れる電流を積算して通電量を計測する電流積算手段と、単位通電量当たり必要な各薬剤の供給量を記憶する記憶手段と、計測された通電量と記憶手段の内容とから計測された通電量に対して必要な各薬剤の供給量を算出する計算手段と、通電量が設定した値に達したとき信号を出力する比較手段と、操作信号が入力されたとき信号を出力する入力手段と、比較手段あるいは入力手段の出力が与えられたとき各供給ポンプを駆動して計算手段により算出された供給量の薬剤をそれぞれ供給させる複数の供給ポンプ駆動手段とを備える制御装置を設けたことを特徴とするものである。
【0010】
ここにおいて、薬剤を水酸化クロム、グリシン及び水酸化アンモニウムとし、水酸化クロム供給ポンプ駆動手段を動作させ、水酸化クロム供給ポンプ駆動手段の動作完了後設定した待ち時間が経過した時点でグリシン供給ポンプ駆動手段を動作させ、グリシン供給ポンプ駆動手段の動作完了後設定した待ち時間が経過した時点で水酸化アンモニウム供給ポンプ駆動手段を動作させるシーケンス制御手段を制御装置に付加することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、計測された通電量とあらかじめ記憶させてある単位通電量当たり必要な各薬剤の供給量とから計測された通電量に対して必要な各薬剤の供給量を算出するようにしており、通電量が設定した値に達したとき又は操作信号が入力されたときのいずれのときにも、算出された量の薬剤を供給するので、任意の時点で成分の補給ができることになる。これにより、新たな被めっき物をめっきするときに補給すれば、常に新液と同様の条件でめっきを開始することができる効果がある。また、薬剤を水酸化クロム、グリシン及び水酸化アンモニウムとして水酸化クロム、グリシン、水酸化アンモニウムの順に間に待ち時間をとりながら供給するようにした場合には、溶解しにくい水酸化クロムの溶解が終わるまで他の薬剤、特に水酸化クロムの溶解の溶解を妨げる水酸化アンモニウムが供給されることがないので水酸化クロムが完全に溶解される利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、図を参照しながら具体的に説明する。
図1は本発明の3価クロムめっき液管理装置の構成を示す図であって、調整槽1と水酸化クロム貯蔵タンク2、グリシン貯蔵タンク3、水酸化アンモニウム貯蔵タンク4、塩酸貯蔵タンク5及び純水貯蔵タンク6から構成したものである。調整槽1上にはpH測定電極7を取り付けたpH測定槽8が設けてあり、pH測定ポンプ9により調整槽1内のめっき液をpH測定槽8を通して循環させるように配管してある。
【0013】
調整槽1には攪拌機10が設けてあり、温度センサー11及びヒーター12を設けて温度調整するようにしてある。水酸化クロム貯蔵タンク2には攪拌機13が設けてあり、水酸化クロム供給ポンプ14を設けて水酸化クロム貯蔵タンク2内の水酸化クロムを調整槽1に供給するように配管してある。攪拌機10には回転翼式のものが使用可能であるが、攪拌機13にはマグネットスターラーと呼ばれる磁気でタンク外から攪拌子を駆動する方式のものを使用するのが望ましい。
【0014】
15、16、17及び18はそれぞれグリシン供給ポンプ、水酸化アンモニウム供給ポンプ、塩酸供給ポンプ及び純水供給ポンプであり、各ポンプによりグリシン貯蔵タンク3、水酸化アンモニウム貯蔵タンク4、塩酸貯蔵タンク5及び純水貯蔵タンク6からグリシン、水酸化アンモニウム、塩酸及び純水を調整槽1に供給するように配管してある。水酸化クロム、グリシン及び水酸化アンモニウムは電析あるいは分解により通電量に比例して消費される成分を補うために供給する薬剤であり、供給量を精密に制御する必要があることから水酸化クロム供給ポンプ14、グリシン供給ポンプ15及び水酸化アンモニウム供給ポンプ16は一定時間あたりの送液量が一定の定量ポンプとしてある。
【0015】
図1において、鎖線より左側は管理対象となるめっき液によりめっきが行われるめっき槽であり、調整槽1からフィルタ19を通してめっき槽20にめっき液を送る循環ポンプ21が設けてある。めっき槽20と調整槽1との間にはめっき槽20のオーバーフロー22から調整槽1にめっき液を流す配管が設けてある。めっき槽20には温度センサー23、ヒーター24の他図示しないが陽極、攪拌機、ハンガー受け等通常のめっき槽と同様の機器、装置等が設けられる。図中25、26は循環ポンプ21の前後に設けたバルブ、27はフィルター19の入り口側に設けた圧力計であり、メンテナンスの際に使用するものである。また、28は調整槽1に設けた液面センサーである。
【0016】
図2はpH測定ポンプ9、水酸化クロム供給ポンプ14、グリシン供給ポンプ15、水酸化アンモニウム供給ポンプ16、塩酸供給ポンプ17、純水供給ポンプ18等のポンプ及び攪拌機10、13を制御する制御装置の構成を示すブロック図である。この制御装置は論理制御部30、操作部31、電流積算部32、pH計測部33、pH測定ポンプ駆動部34、水酸化クロム供給ポンプ駆動部35、グリシン供給ポンプ駆動部36、水酸化アンモニウム供給ポンプ駆動部37、塩酸供給ポンプ駆動部38、純水供給ポンプ駆動部39、循環ポンプ駆動部40、攪拌機駆動部41及び42から構成してある。ここで攪拌機駆動部41及び42はそれぞれ攪拌機10及び13を駆動するものである。
【0017】
操作部31は押しボタンスイッチ及び表示器の機能を有するもので、いわゆるタッチパネルで構成することができ、各種パラメータ、運転操作等の入力した信号を論理制御部30に送り、論理制御部30から送られる入力応答、運転状態等の情報を表示するものとしてある。電流積算部32には分流器等で検出される被めっき物に流れる電流の瞬時値が入力してあり、その電流値を積算した通電量を論理制御部30に送るようにしてある。pH計測部にはpH測定電極7の信号が入力してあり、計測したpH値を論理制御部30に送るようにしてある。
【0018】
pH測定ポンプ駆動部34、水酸化クロム供給ポンプ駆動部35、グリシン供給ポンプ駆動部36、水酸化アンモニウム供給ポンプ駆動部37、塩酸供給ポンプ駆動部38、純水供給ポンプ駆動部39、循環ポンプ駆動部40、攪拌機駆動部41、42には論理制御部30から信号を送るようにしてあり、論理制御部30の信号が与えられるとそれぞれのポンプ、攪拌機に電力を供給して駆動する。その他図示していないがインターフェイスを介して温度センサー11及びヒーター12を論理制御部30に接続しておけば、論理制御部30によりヒーター12をオン、オフして調整槽1の温度制御をすることができる。
【0019】
以下このように構成された3価クロムめっき液管理装置の動作について説明する。まず運転に先立ち、操作部31から各種パラメータを入力する。入力する必要のあるパラメータは通電量、水酸化クロム、グリシン及び水酸化アンモニウムの各供給量、塩酸補給開始pH値、水酸化アンモニウム補給開始pH値、pH調整判定時間、待ち時間1ないし5の時間、水酸化クロム供給ポンプ14、グリシン供給ポンプ15及び水酸化アンモニウム供給ポンプ16の各送液ポンプの単位時間あたりの送液量である。ここで入力する通電量は、この通電量になるごとに各薬剤を供給するという値であり、水酸化クロム、グリシン及び水酸化アンモニウムの供給量は単位通電量当たり供給すべき各薬剤の供給量である。
【0020】
待ち時間1は攪拌機10、13運転開始後水酸化クロム供給ポンプ14運転開始までの時間、待ち時間2は水酸化クロム供給ポンプ14停止後グリシン供給ポンプ15運転開始までの時間、待ち時間3はグリシン供給ポンプ15停止後水酸化アンモニウム供給ポンプ16運転開始までの時間、待ち時間4は水酸化アンモニウム供給ポンプ16停止後循環ポンプ21運転開始までの時間であり、待ち時間5は循環ポンプ21運転開始後水酸化アンモニウム供給ポンプ16又は塩酸供給ポンプ17運転開始までの時間である。また、めっき液のpHは、塩化クロム濃度が300g/lであれば0.1〜0.3、150g/lであれば0.4〜0.8とすることが好ましいので、塩酸補給開始pH値は0.3〜0.8に、水酸化アンモニウム補給開始pH値は0.1〜0.4にそれぞれ設定することになる。
【0021】
このように各種パラメータを入力すると、論理制御部30は入力された水酸化クロム、グリシン及び水酸化アンモニウムの単位通電量当たりの供給量と、入力された水酸化クロム供給ポンプ14、グリシン供給ポンプ15及び水酸化アンモニウム供給ポンプ16の単位時間当たりの送液量とから、入力された単位通電量当たりの供給量に相当する量の水酸化クロム、グリシン及び水酸化アンモニウムをそれぞれ送液するのに必要な、水酸化クロム供給ポンプ14、グリシン供給ポンプ15及び水酸化アンモニウム供給ポンプ16の各運転時間を算出して記憶する。
【0022】
ここでめっきを開始し、3価クロムめっき液管理装置を運転すると、論理制御部30から循環ポンプ駆動部40と攪拌機駆動部41に信号が送られ、循環ポンプ21と攪拌機10が運転される。これにより調整槽1内のめっき液はフィルタ19を通して循環ポンプ21によりめっき槽20に送られ、めっき槽20内のめっき液はオーバーフロー22から調整槽1に流れて調整槽1とめっき槽20の間でめっき液が循環し、めっき槽20内のめっき液と調整槽1内のめっき液とは均一な状態が保たれる。また、調整槽1内のめっき液は攪拌機10により攪拌される。
【0023】
めっき槽20内の図示しない被めっき物に流れる電流は電流積算部32で積算され、通電量が論理制御部30に送られる。通電量が入力された通電量に達すると、論理制御部30から循環ポンプ駆動部40に信号が送られなくなり、攪拌機駆動部41、42に信号が送られるので、循環ポンプ21は停止し、攪拌機10、13が運転される。これにより調整槽1とめっき槽20の間のめっき液の循環が止まり、水酸化クロム貯蔵タンク2内の水酸化クロムが攪拌される。
【0024】
攪拌機13の運転開始後待ち時間1が経過すると、論理制御部30から水酸化クロム供給ポンプ駆動部35に信号が送られ、水酸化クロム供給ポンプ14が一定時間運転される。これにより水酸化クロム貯蔵タンク2内の水酸化クロムが調整槽1に送られる。待ち時間1は水酸化クロム貯蔵タンク2内の水酸化クロムが均一になる時間である。この水酸化クロム供給ポンプ14が運転される時間は論理制御部30で算出、記憶された水酸化クロムの単位通電量当たりの供給量を送るのに必要な水酸化クロム供給ポンプ14の運転時間と、通電量とから算出されるので、通電量に見合う量の水酸化クロムが送られることになる。調整槽1内のめっき液は強酸性であり、攪拌機10により攪拌されているので、水酸化クロム供給ポンプ14により送られた水酸化クロムはめっき液に溶解する。
【0025】
水酸化クロム供給ポンプ14の運転終了後待ち時間2が経過すると、論理制御部30からグリシン供給ポンプ駆動部36に信号が送られ、グリシン供給ポンプ15が一定時間運転される。これによりグリシン貯蔵タンク3内のグリシンが調整槽1に送られる。待ち時間2は調整槽1に送られた水酸化クロムがめっき液に溶解する時間である。グリシン供給ポンプ15が運転される時間は論理制御部30で算出、記憶されたグリシンの単位通電量当たりの供給量を送るのに必要なグリシン供給ポンプ15の運転時間と、通電量とから算出されるので、通電量に見合う量のグリシンが送られることになる。調整槽1内のめっき液は攪拌機10により攪拌されており、グリシン供給ポンプ15により送られたグリシンはめっき液に混合される。
【0026】
グリシン供給ポンプ15の運転終了後待ち時間3が経過すると、論理制御部30から水酸化アンモニウム供給ポンプ駆動部37に信号が送られ、水酸化アンモニウム供給ポンプ16が一定時間運転される。これにより水酸化アンモニウム貯蔵タンク4内の水酸化アンモニウムが調整槽1に送られる。待ち時間3は調整槽1に送られたグリシンがめっき液に混合される時間である。水酸化アンモニウム供給ポンプ16が運転される時間は論理制御部30で算出、記憶された水酸化アンモニウムの単位通電量当たりの供給量を送るのに必要な水酸化アンモニウム供給ポンプ16の運転時間と、通電量とから算出されるので、通電量に見合う量の水酸化アンモニウムが送られることになる。調整槽1内のめっき液は攪拌機10により攪拌されており、水酸化アンモニウム供給ポンプ16により送られた水酸化アンモニウムはめっき液に混合される。
【0027】
水酸化アンモニウム供給ポンプ16の運転終了後待ち時間4が経過すると、論理制御部30からpH測定ポンプ駆動部34と循環ポンプ駆動部40に信号が送られ、pH測定ポンプ9と循環ポンプ21が運転される。これにより、水酸化クロム、グリシン及び水酸化アンモニウムの供給によって通電による成分の減少分が補給された調整槽1内のめっき液は循環ポンプ21によりめっき槽20に送られ、成分が減少しためっき槽20内のめっき液はオーバーフロー22から調整槽1に流れるので、めっき槽20内のめっき液と調整槽1内のめっき液が均一になり、めっき槽20内のめっき液に減少分の成分が補給されることになる。待ち時間4は水酸化アンモニウムがめっき液に混合される時間である。
【0028】
pH測定ポンプ9と循環ポンプ21の運転開始後入力された待ち時間5が経過すると、論理制御部30でpH計測部33から送られるpH値と塩酸補給開始pH値及び水酸化アンモニウム補給開始pH値とが比較され、pH値が塩酸補給開始pH値より高ければ塩酸供給ポンプ駆動部38に、pH値が水酸化アンモニウム補給開始pH値より低ければ水酸化アンモニウム供給ポンプ駆動部37にそれぞれ論理制御部30から信号が送られる。これにより塩酸供給ポンプ17又は水酸化アンモニウム供給ポンプ16が運転される。待ち時間5はめっき槽20内のめっき液と調整槽1内のめっき液が均一になり、pH測定電極7及びpH計測部33が安定するまでの時間である。
【0029】
論理制御部30では引き続きpH値と塩酸補給開始pH値及び水酸化アンモニウム補給開始pH値との比較が継続され、塩酸供給ポンプ17が運転された後pH値が塩酸補給開始pH値より低くなったとき、あるいは水酸化アンモニウム供給ポンプ16が運転された後pH値が水酸化アンモニウム補給開始pH値より高くなったときからpH調整判定時間を超える時間その状態が継続すれば、論理制御部30から塩酸供給ポンプ駆動部38あるいは水酸化アンモニウム供給ポンプ駆動部37に信号が送れられなくなり、塩酸供給ポンプ17あるいは水酸化アンモニウム供給ポンプ16が停止して塩酸あるいは水酸化アンモニウムの供給が停止する。
【0030】
待ち時間5が経過した時点でpH値が塩酸補給開始pH値より低く、水酸化アンモニウム補給開始pH値より高ければpH値は所定の範囲にあることになり、塩酸供給ポンプ駆動部38、水酸化アンモニウム供給ポンプ駆動部37のいずれにも信号は送られず、塩酸供給ポンプ17、水酸化アンモニウム供給ポンプ16はいずれも運転されることはない。これによりめっき液のpH値が所定の範囲であればそのまま、所定の範囲を外れていれば塩酸あるいは水酸化アンモニウムが供給され、pH値は塩化クロムの濃度に応じた所定の範囲に調整される。さらに、めっき液の量が減少した場合には、論理制御部30から純水供給ポンプ駆動部39に信号が送られ、純水供給ポンプ18が運転されて純水が調整槽1に送られ、めっき液の量が維持される。
【0031】
このようにして、被めっき物に流れた電流の通電量が入力した通電量に達するごとに消費された成分を補うように水酸化クロム、グリシン及び水酸化アンモニウムが供給され、pHを所定の範囲に保つように塩酸あるいは水酸化アンモニウムが供給され、めっき液の量を維持するように純水が供給されるのであるが、任意の時点で操作部31から補給指令を入力した場合には、上記と同様の順序で各供給動作を行うように論理制御部30が水酸化クロム供給ポンプ駆動部35その他に信号を送り、水酸化クロム供給ポンプ14その他が順次運転される。
【0032】
このときの水酸化クロム供給ポンプ14が運転される時間は論理制御部30で算出、記憶された水酸化クロムの単位通電量当たりの供給量を送るのに必要な水酸化クロム供給ポンプ14の運転時間と、前回補給されてから補給指令を入力した時点までの通電量とから算出されるので、前回補給されてから補給指令を入力した時点までの間に消費された成分を補給するのに必要な量の水酸化クロムが供給されることになる。グリシン供給ポンプ15及び水酸化アンモニウム供給ポンプ16が運転される時間も同様に算出されるので、その間に消費された成分を補給するのに必要な量のグリシン及び水酸化アンモニウムが供給されることになる。
【0033】
以上の説明によっても明らかなように、本発明の3価クロムめっき液管理装置では、通電量が設定した一定値に達したとき又は操作信号が入力されたときのいずれのときにも、それまでの通電により減少した成分を補給するのに必要な量の薬剤を供給するので、新規に被めっき物のめっきを開始するときに操作信号を入力すれば、成分の不足がないめっき液でめっきすることができる利点がある。補給する水酸化クロム、グリシン及び水酸化アンモニウムは順を追ってめっき槽とは別に設けた調整槽でめっき液に溶解、混合するので、溶解しにくい水酸化クロムも完全に溶解する利点がある。また、全ての薬剤を供給後めっき槽に送るので、被めっき物は成分の一部だけが補給された不完全なめっき液でめっきされることはない。
【0034】
なお、めっき液は硼酸あるいは硼酸と塩化アルミニウムを含むものであるが、硼酸と塩化アルミニウムが電析あるいは分解により減少することはなく、汲み出しによってのみ減少するものである。したがって、こうした汲み出しにより減少する成分に関しては、あらかじめ汲み出し量を予測して一定時間ごとに薬剤を供給する等の方法によりその量を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の3価クロムめっき液管理装置の構成を示す図である。
【図2】制御装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0036】
1 調整槽
2 水酸化クロム貯蔵タンク
3 グリシン貯蔵タンク
4 水酸化アンモニウム貯蔵タンク
5 塩酸貯蔵タンク
6 純水貯蔵タンク
7 pH測定電極
8 pH測定槽
9 pH測定ポンプ
10 攪拌機
11 温度センサー
12 ヒーター
13 攪拌機
14 水酸化クロム供給ポンプ
15 グリシン供給ポンプ
16 水酸化アンモニウム供給ポンプ
17 塩酸供給ポンプ
18 純水供給ポンプ
19 フィルタ
20 めっき槽
21 循環ポンプ
22 オーバーフロー
23 温度センサー
24 ヒーター
25、26 バルブ
27 圧力計
28 液面センサー
30 論理制御部
31 操作部
32 電流積算部
33 pH計測部
34 pH測定ポンプ駆動部
35 水酸化クロム供給ポンプ駆動部
36 グリシン供給ポンプ駆動部
37 水酸化アンモニウム供給ポンプ駆動部
38 塩酸供給ポンプ駆動部
39 純水供給ポンプ駆動部
40 循環ポンプ駆動部
41、42 攪拌機駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調整槽と、複数の薬剤を貯蔵する貯蔵タンクと、各貯蔵タンクから薬剤を個別に調整槽へ送る複数の供給ポンプとから構成し、めっき槽から調整槽へ取り出しためっき液に各薬剤を供給することにより、通電量に比例して減少する成分を補給する3価クロムめっき液管理装置であって、被めっき物に流れる電流を積算して通電量を計測する電流積算手段と、単位通電量当たり必要な各薬剤の供給量を記憶する記憶手段と、計測された通電量と記憶手段の内容とから計測された通電量に対して必要な各薬剤の供給量を算出する計算手段と、通電量が設定した値に達したとき信号を出力する比較手段と、操作信号が入力されたとき信号を出力する入力手段と、比較手段あるいは入力手段の出力が与えられたとき各供給ポンプを駆動して計算手段により算出された供給量の薬剤をそれぞれ供給させる複数の供給ポンプ駆動手段とを備える制御装置を設けたことを特徴とする3価クロムめっき液管理装置。
【請求項2】
薬剤を水酸化クロム、グリシン及び水酸化アンモニウムとし、水酸化クロム供給ポンプ駆動手段を動作させ、水酸化クロム供給ポンプ駆動手段の動作完了後設定した待ち時間が経過した時点でグリシン供給ポンプ駆動手段を動作させ、グリシン供給ポンプ駆動手段の動作完了後設定した待ち時間が経過した時点で水酸化アンモニウム供給ポンプ駆動手段を動作させるシーケンス制御手段を制御装置に付加したことを特徴とする請求項1に記載の3価クロムめっき液管理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−249707(P2009−249707A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100960(P2008−100960)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(592230944)
【出願人】(508109335)
【出願人】(000150202)株式会社中央製作所 (35)
【Fターム(参考)】