説明

3価クロム化成皮膜処理稼動浴長寿命化用キレート樹脂の事前処理方法

【課題】 キレート樹脂を使用する3価クロム化成皮膜処理液(稼動浴)の長寿命化に当たり、その使用開始時において3価クロム化成皮膜処理液(稼動浴)の主要構成成分である3価クロムイオンやコバルトイオンが処理液から除去されてその組成が不安定になり、化成処理皮膜の外観、耐熱性、耐食性が劣化するという問題を解決する。
【解決手段】 使用される3価クロム化成皮膜処理稼動浴長寿命化用キレート樹脂に対し、予め3価クロムイオン及びコバルトイオンを水溶液として接触させて、該キレート樹脂を前記各イオンが飽和状態に吸着された状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3価クロム化成皮膜処理稼動浴の長寿命化のために用いられるキレート樹脂の事前処理方法、稼動浴の長寿命化方法及び該キレート樹脂を用いた3価クロム化成皮膜処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロメート処理は、亜鉛めっき鋼板、亜鉛系、アルミニウム系及びマグネシウム系製品の簡易防錆並びに塗装前処理として広く用いられている。従来、クロメート処理剤としては、6価クロムを含むクロメート液が用いられてきたが、6価クロムが人体に有害であるために、近年では3価クロムを主剤とする3価クロム化成皮膜処理液への転換が進んでいる。
【0003】
しかし、3価クロム化成皮膜処理液は、6価クロメート液に比べて、処理中に溶出した金属イオンの影響を受けやすく、例えば、亜鉛めっき鋼板の処理に使用した場合、鉄(Fe)や亜鉛(Zn)などの許容限界が狭く、処理液(稼動浴)の更新を頻繁に行う必要がある。この問題を解決するための手段として特許文献1には、3価クロム化成皮膜処理液を、イミノジ酢酸基のカルボキシル基のうち、カルボン酸形の割合が50モル%を超えるイミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に接触させて不純物金属イオンを低減する3価クロム化成皮膜処理液の再生方法が開示されている。
【0004】
このような3価クロム化成皮膜処理液の再生方法(長寿命化方法)に関連して、特許文献2には、重金属を含む原水を、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂に通水し、重金属が低減された処理水を生じさせる原水中の重金属の除去方法において、該処理水のpHが定常状態となった後、該処理水のpHの変化率の低下を指標として、該原水の該イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂への通水を停止する原水中の重金属の除去方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−137987号公報
【特許文献2】特開2004−174418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の手段によって、3価クロム化成皮膜処理液の長寿命化が可能になる。また、特許文献2により特許文献1に記載の手段を実施するための終点管理の基準などが与えられる。しかしながら、3価クロム化成皮膜処理液の再生処理、長寿命化処理に当たっては、特にキレート樹脂の使用開始時において処理液の主要構成成分である3価クロムイオンやコバルトイオンがキレート樹脂に吸着されて処理液から除去されるために3価クロム化成皮膜処理液(稼動浴)の組成が不安定になり、そのため、化成処理皮膜の外観、耐熱性、耐食性が劣化するという問題を生ずる。特許文献1,2に記載の技術的手段はこのようなキレート樹脂の使用開始時における問題を解決しない。
【0007】
本発明は、キレート樹脂を使用する3価クロム化成皮膜処理液(稼動浴)の長寿命化に当たり、特に、キレート樹脂の使用開始時において3価クロム化成皮膜処理液(稼動浴)の主要構成成分である3価クロムイオンやコバルトイオンが処理液から除去されてその組成が不安定になり、化成処理皮膜の外観、耐熱性、耐食性が劣化するという問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る3価クロム化成皮膜処理稼動浴長寿命化用キレート樹脂の事前処理方法は、使用される3価クロム化成皮膜処理稼動浴長寿命化用キレート樹脂に対し、予め3価クロムイオン及びコバルトイオンを水溶液として接触させて、該キレート樹脂を前記各イオンが飽和状態に吸着された状態とするものである。
【0009】
上記事前処理方法において、前記キレート樹脂に対し、予め3価クロム化成皮膜処理稼動浴の建浴液用薬剤の水溶液又は3価クロム化成皮膜処理稼動浴の構成成分の水溶液を接触させることとすることができる。
【0010】
上記各発明を利用して3価クロム化成皮膜処理稼動浴を長寿命化することができる。また、3価クロム化成皮膜処理を実施することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、キレート樹脂を使用する3価クロム化成皮膜処理液(稼動浴)の長寿命化に当たり、キレート樹脂の使用開始直後において稼動浴から3価クロムイオンやコバルトイオンが処理液から除去されて組成が不安定になるという問題が解決され、キレート樹脂の使用全期間に亘って処理液の主要構成成分の含有量やpHを所定の範囲に収めるとともに、処理の全期間に亘って被処理物の耐食性や外観を良好に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のキレート樹脂の事前処理方法は、3価クロム化成皮膜処理稼動浴の長寿命化に用いるキレート樹脂に適用される。ここに、3価クロム化成皮膜処理稼動浴とは、被処理物の3価クロム化成皮膜処理に使用されているものをいい、被処理物の組成・成分や処理後に要求される表面処理特性に応じて濃度・組成が定められる。
【0013】
この稼動浴は、一般に、上記必要な薬剤を含有する濃縮液(原液)を希釈し、さらに必要に応じて成分調整用の薬剤を加えて建浴液とし、該建浴液を処理槽に注入して稼動浴とする。建浴液は、一般に、3価クロムイオンのほかにコバルトイオン及び必要に応じて硝酸イオン、硫黄化合物、リン化合物、シリカ、有機酸等を含有し、これに対し、稼動浴は、被処理物、例えば、亜鉛メッキされた自動車部品や、家電部品が浸漬されるので、上記建浴液成分の他、被処理物から溶出した亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン等を不純物として含有する。
【0014】
この不純物等の含有量が増大すると、3価クロム化成皮膜処理製品の外観や耐食性が低下するので、例えば、図1に示すように被処理物1を浸漬して搬送するように構成された3価クロム化成皮膜処理槽2からポンプ3により稼動浴4の一部を連続的に抽出し、これをイオン交換塔5に充填したキレート樹脂6に接触させて前記不純物を除去した後、配管7によって3価クロム化成皮膜処理槽2に戻す長寿命化処理が行われる。本発明においては、この長寿命化処理に当たり、イオン交換塔5に充填されるキレート樹脂6を、予め3価クロムイオン及びコバルトイオンを水溶液として接触させて、該キレート樹脂を前記各イオンが飽和状態に吸着された状態としたものを用いることとする。
【0015】
図2、図3は、マクロポーラス型構造のポリスチレンを基体とし、アミノメチルホスホン酸基を官能基として有するキレート樹脂を用いて表2に示す組成の処理液(稼動浴相当の組成を有するもの)を通液したときのカラムテストの結果を通液量(BV)と処理液濃度(mg-Cr/l)の関係図(図2)、通液量(BV)と処理液濃度(mg-Co/l)の関係図(図3)として示したものである。各図において、○印のプロットは、本発明による事前処理を施したキレート樹脂を用いた場合の関係を示し、×印のプロットは、本発明による事前処理が施されていない未処理のキレート樹脂を用いた場合の関係を示している。なお、事前処理は、上記キレート樹脂を水素形態とし、表1に示す組成の建浴液を3.5BV相当、SV10で10h循環通液することによって行った。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
図2、図3から、キレート樹脂に対して本発明による事前処理を行った場合には、通液開始直後からCr及びCoの濃度の極端な変動が認められないのに対し、事前処理を行わなかった場合には、通液量約25BVまでCr濃度が不安定であり、また、通液量約10BVまでCo濃度が不安定であることが分かる。
【0019】
図4は、前記図2、図3を得たときと同様の条件で処理液を通液したときのカラムテストの結果を示す通液量(BV)と処理液pHの関係図である。図4から、キレート樹脂に対して本発明による事前処理を行った場合には、事前処理を行わなかった場合に比べ、通液初期のpH低下を抑制していることが分かる。
【0020】
本発明においては、上記のように、3価クロム化成皮膜処理稼動浴長寿命化用キレート樹脂に対し、予め3価クロムイオン及びコバルトイオンを水溶液として接触させて、該キレート樹脂を前記各イオンが飽和状態に吸着された状態とし、これを3価クロム化成皮膜処理稼動浴長寿命化用キレート樹脂として用いることに特徴があり、キレート樹脂の構造や基体さらに官能基に特に制限がない。
【0021】
例えば除去対象となる不純物を選択的に除去可能な陽イオン交換樹脂或いはキレート樹脂を任意に選択することができ、官能基として、イミノジ酢酸基、アミノメチルホスホン酸基、ホスホン酸基、ホスホン酸・スルホン酸基、ポリエチレンポリアミン基、アミノカルボン酸基、ポリアミン基、アミドオキシム基、リン酸基、アミノリン酸基等を有するものから任意に選択することができ、キレート樹脂の基体としてアクリル酸又はポリスチレンを選択することができる。また、キレート樹脂の構造としては、マクロポーラス型又はゲル型を任意に選択することができる。さらにキレート樹脂のイオン形態を水素形態におくこと又はナトリウム形態におくことも自由に選択し得る。例えば、亜鉛メッキ鋼板の3価クロム化成皮膜処理液の長寿命化に用いる代表的なキレート樹脂として、官能基としてアミノメチルホスホン酸基を有し、ポリスチレンを基体とするマクロポーラス型構造の住化ケムテックス株式会社製のキレート樹脂MC−960を挙げることができる。
【0022】
本発明の実施に当たっては、上記キレート樹脂を少なくとも3価クロムイオン及びコバルトイオンと接触させて、これらイオンを飽和状態に吸着された状態とすることが必要である。これらイオンは、いずれも3価クロム化成皮膜処理稼動浴の基本成分をなすものであり、その欠乏は生成化成処理皮膜の耐食性や外観等を損なう原因になるからである。
【0023】
3価クロム化成皮膜処理稼動浴の他の構成成分、例えば、硝酸イオン、硫黄化合物、リン化合物、シリカ、有機酸等等については、使用される樹脂との関係において事前処理の対象とするかどうかを定めればよい。これら成分が顕著に吸着される場合は、これら成分を含むように事前処理液を作成して使用される樹脂にこれら成分を吸着させるようにすればよい。
【0024】
上記吸着操作を行うための処理液としては、例えば、建浴液を用いることができるが、これに限ることはない。例えば、Cr及びCoのみを吸着させる場合には、これらの塩、例えば、塩化クロム、硝酸クロム、硫酸コバルトなどの水溶液を選択することができる。この場合において、その濃度の選択は、処理対象であるキレート樹脂との関係において、極力短時間にこれら金属イオンを飽和状態に吸着できるように選択すればよく、例えば、これら金属イオンのモル濃度を建浴液におけるモル濃度とほぼ同等になるようにすることもできる。
【0025】
本発明の事前処理方法に当たっては、これら金属イオンが樹脂に飽和状態になるまで吸着させることが必要である。そのための手段は特定する必要はないが、例えば、図5に示すような、イオン交換塔5に未処理のキレート樹脂8を充填しておき、これに事前処理液貯留槽9からポンプ10によって事前処理液11を通液する事前処理設備を用いることによって行うことができる。この事前処理設備を用いた場合、事前処理のための通液の終点は、イオン交換塔5の入口12及び出口13において浴の成分濃度、例えば、3価クロムイオン及びコバルトイオンの濃度を測定し、それらの濃度差がなくなったことを確認することにより行えばよい。あるいは、使用されるキレート樹脂と事前処理液の組合せ毎に3価クロムイオン及びコバルトイオンが飽和状態になるまでの通液量(BV)を決定しておき、これによって事前処理管理を行うこともできる。
【0026】
なお、上記に代えて、図6に示すように、3価クロム化成皮膜処理槽2と未処理のキレート樹脂の充填されたイオン交換塔5を準備しておき、3価クロム化成皮膜処理槽2から3価クロム化成皮膜処理液の建浴液若しくは稼動液をポンプ3、配管7により循環させて未処理のキレート樹脂に接触させて飽和吸着させる、つまり建浴液濃度に達するまで循環接触させるようにすることもできる。この場合、図5に例示した場合に比べ、事前処理液貯留液9を省略でき、さらに、キレート樹脂の事前処理の完了を確認し次第、そのまま、長寿命化処理を行いながら3価クロム化成皮膜処理に移行できるという利点がある。また、事前処理設備を別途設ける必要がないという利点もある。
【0027】
上記のようにして事前処理を施すことにより、イオン交換塔5は、充填されているキレート樹脂が3価クロムイオン、コバルトイオンを飽和状態に吸着された状態となるので、該イオン交換塔5を稼動浴用のイオン交換塔4として使用することができるようになるので、そのまま稼動浴の長寿命化処理に供すればよい。
【0028】
なお、上記においては、事前処理がイオン交換塔5に事前処理液を循環通液する方法によって行われているが、本発明の事前処理方法はこれに限られるものではなく、未使用のキレート樹脂と事前処理液を確実に接触させて、3価クロム及びコバルトの各イオン、さらには建浴液中に含まれる有効成分を飽和状態になるまで吸着させる方法によってもよい。例えば、事前処理液を満たしたタンク中に未使用のキレート樹脂を装入し、適当な撹拌装置を利用して、これらを十分接触させるような手段を取ることもできる。
【0029】
本発明により、図2、図3によって示したように、キレート樹脂を用いて長寿命化処理を行った場合においても、新たなキレート樹脂の使用開始直後(キレート樹脂の交換直後)から稼動浴中の3価クロムイオン及びコバルトイオンのレベルを安定させることができ、これによって化成処理皮膜の外観、耐食性などを常に高いレベルに維持することが可能になる。また、図4に示したように、通液初期のpH変動を小さくすることができる。
【0030】
なお、本発明による長寿命化処理のために利用されたキレート樹脂は、不純物の吸着が進むともはやそれ以上吸着が進まない状態である破過に至る。かかる状態になったことが検知されると、長寿命化処理を停止して、キレート樹脂の再生処理が施される。この再生処理の施されたキレート樹脂は、そのまま使用に供すると、使用開始時において、3価クロムイオン、コバルトイオンを吸着し、3価クロム化成皮膜処理稼動浴の組成が不安定になり、そのため、化成処理皮膜の外観、耐熱性、耐食性が劣化するという問題を生ずる。したがって、本発明による事前処理は、かかる再生処理の施されたキレート樹脂を再使用する際にも行われなければならない。
【0031】
以上、本発明を典型的な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、本発明にしたがう事前処理条件を適宜制御すること、あるいは、事前処理条件をプログラム化して実施することなどは、自由になし得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明が適用される3価クロム化成皮膜処理設備のレイアウト図である。
【図2】本発明により3価クロム化成皮膜処理稼動浴の長寿命化処理を行ったときの通液量(BV)と処理液濃度(mg-Cr/l)の関係図である。
【図3】本発明により3価クロム化成皮膜処理稼動浴の長寿命化処理を行ったときの通液量(BV)と処理液濃度(mg-Co/l)の関係図である。
【図4】本発明により3価クロム化成皮膜処理稼動浴の長寿命化処理を行ったときの通液量(BV)と処理液pHの関係図である。
【図5】本発明に用いる事前処理設備のレイアウト図である。
【図6】本発明を3価クロム化成皮膜処理槽に直結して行う場合のレイアウト図である。
【符号の説明】
【0033】
1:被処理物
2:3価クロム化成皮膜処理槽
3:ポンプ
4:稼動浴
5:イオン交換塔
6:キレート樹脂
7:配管
8:(未処理の)キレート樹脂
9:事前処理液貯留槽
10:ポンプ
11:事前処理液
12:(イオン交換塔の)入口
13:(イオン交換塔の)出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価クロム化成皮膜処理稼動浴長寿命化用キレート樹脂に対し、予め3価クロムイオン及びコバルトイオンを水溶液として接触させて、該キレート樹脂を前記各イオンが飽和状態に吸着された状態とすることを特徴とする3価クロム化成皮膜処理稼動浴長寿命化用キレート樹脂の事前処理方法。
【請求項2】
前記キレート樹脂に対し、予め3価クロム化成皮膜処理稼動浴の建浴液用薬剤の水溶液又は3価クロム化成皮膜処理稼動浴の構成成分の水溶液を接触させることを特徴とする請求項1記載の3価クロム化成皮膜処理稼動浴長寿命化用キレート樹脂の事前処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の3価クロム化成皮膜処理稼動浴長寿命化用キレート樹脂の事前処理方法により処理されたキレート樹脂を用いることを特徴とする3価クロム化成皮膜処理稼動浴の長寿命化方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の3価クロム化成皮膜処理稼動浴長寿命化用キレート樹脂の事前処理方法により処理されたキレート樹脂を用いて3価クロム化成皮膜処理稼動浴の長寿命化処理を行うことを特徴とする3価クロム化成皮膜処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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