説明

3次元ポールトラップ装置及び該3次元ポールトラップ装置を用いたイオン検出装置

【課題】本発明は3次元ポールトラップ装置及び該3次元ポールトラップ装置を用いたイオン検出装置に関し、簡易化した構造のポールトラップにおいてもイオンの排出を速やかにすると共に、長めの円筒状リング電極を使った場合に貯蔵できるイオン量を増大させることを目的としている。
【解決手段】ほぼ円筒状の内部が中空のリング電極13と、該リング電極13の一端に設けられた、イオン源からのイオンを受けるエンドキャップ入口電極14と、前記リング電極13の中空内に配置される少なくとも4本の棒状電極16と、前記リング電極13の他端側に設けられた、リング電極13から輸送されてくるイオンを受けるエンドキャップ出口電極15と、を含んで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3次元ポールトラップ装置及び該3次元ポールトラップ装置を用いたイオン検出装置に関し、更に詳しくは荷電粒子の貯蔵と輸送の機能に改良を施した3次元ポールトラップ装置及び3次元ポールトラップ装置を用いたイオン検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポールトラップ(Paul Trap)は、3次元的回転双曲面電極に高周波磁場を印加させてイオンや電子を封じ込める(トラップ)ものである。図15はポールトラップの基本構造体を示す図である。ポールトラップは、図に示すように内部空間を囲う面が双曲面に加工された導電性部材で、一周するリング電極3と中心軸上に向かい合う形でリング電極3と空隙を置いて、2つのエンドキャップ電極4,5とでリング電極3を挟む構造である。図において、1は中心軸、4はエンドキャップ入口電極、3はリング電極、5はエンドキャップ出口電極である。
【0003】
図16は図15に示すポールトラップの断面形状を示す図である。図において、リング電極3とエンドキャップ電極4,5間には所定の電圧Vが印加されている状態を示している。エンドキャップ電極4,5には中心軸1に沿って穴が開いており、その中をイオンが輸送されることになる。この場合において、イオンは中の空間に貯留(トラップ)させることができる。
【0004】
図15,図16に示す理想的なポールトラップは性能がよいが、構造が複雑でありコストがかかる。そこで、図17に示すような簡易な構造を持つポールトラップが用いられる。図に示すポールトラップは、リング電極を円筒状にしたものである。円筒はリング電極3を構成しており、その両端にはエンドキャップ入口電極4とエンドキャップ出口電極5が設けられている。リング電極3には高周波電圧、エンドキャップ電極4,5には直流電圧が印加される。
【0005】
従来のこの種の装置としては、イオントラップは、トラップ内に各イオンを集積させ、その後、各イオンを選択的に励起して、各イオンがそれらイオンの質量/電荷比に従ってトラップを出るようにした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。また、2次結合型イオントラップにおいて、該イオントラップに親イオンを保持し、そこに電子線を照射することにより、反応時間を制御し、長くとることができるようにした技術が知られている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特表2005−529342号公報(第6頁、図1,図2)
【特許文献2】特開2005−235412号公報(段落0031、図14)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図15に示すポールトラップの基本構造体が3次元的な加工が必要で、技術的に要求される水準も高かったりするため、これを簡易化した図17に示す簡易構造体にした場合、以下のような問題が生じる。例えばイオンを真空中でガス成分の粒子と衝突させ、運動エネルギーを低下させる効果を利用して中心付近に集めようとした場合、円筒状のリング電極を長くすると、中心軸付近には集まるものの、図15の場合に可能だった中心の一点付近に集中させることができない。また、そこに集まったイオンをこの領域外へと排出させる場合も、極短時間ではすまなくなる。或いは取り出せなくなるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、簡易化した構造のポールトラップにおいてもイオンの排出を速やかにすると共に、長めの円筒状リング電極を使った場合に貯蔵できるイオン量を増大させることができ、イオンガイドとしても機能させることができる3次元ポールトラップ装置及び該3次元ポールトラップ装置を用いたイオン検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)請求項1記載の発明は、ほぼ円筒状の内部が中空のリング電極と、該リング電極の一端に設けられた、イオン源からのイオンを受けるエンドキャップ入口電極と、前記
リング電極の中空内に配置される少なくとも4本の棒状電極と、前記リング電極の他端側に設けられた、リング電極から輸送されてくるイオンを受けるエンドキャップ出口電極と、を含んで構成されることを特徴とする。
【0009】
(2)請求項2記載の発明は、前記リング電極はエンドキャップ入口電極側とエンドキャップ出口電極側との径が異なることを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、前記リング電極は、エンドキャップ入口電極側とエンドキャップ出口電極側とが径が同じの直管構造であることを特徴とする。
【0010】
(4)請求項4記載の発明は、前記棒状電極をリング電極の内側に設置する際、上下に向かい合う組では、イオン検出部側の方が中心軸からの距離が離れる角度に傾けられ、左右に向かい合う組では、イオン源側の方が中心軸からの距離が離れる角度に傾けられることを特徴とする。
【0011】
(5)請求項5記載の発明は、前記棒状電極を6本又は8本とすることを特徴とする。
(6)請求項6記載の発明は、前記棒状電極はその断面形状としては、丸型のみならず、三角形状又は四角形状のものか、又はワイヤー線とすることを特徴とする。
【0012】
(7)請求項7記載の発明は、イオンを出射するイオン源と、該イオン源からのイオンを受けるエンドキャップ入口電極と、ほぼ円筒状の内部が中空のリング電極と、該リング電極の中空内に配置される少なくとも4本の棒状電極と、前記リング電極から輸送されてくるイオンを受けるエンドキャップ出口電極と、該エンドキャップ出口電極から輸送されてくるイオンを収束する収束電極と、該収束電極から出射されるイオンを検出するイオン検出部と、を含んで構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
(1)請求項1記載の発明によれば、簡易化した構造のポールトラップにおいてもイオンの排出を速やかにすると共に、長めの円筒状リング電極を使った場合に貯蔵できるイオン量を増大させることができ、イオンガイドとしても機能させることができる。
【0014】
(2)請求項2記載の発明によれば、エンドキャップ入口側電極とエンドキャップ出口側電極の径を異ならしむることにより、中に配置する棒状電極の接触や放電等の発生を抑えることができる。
【0015】
(3)請求項3記載の発明によれば、エンドキャップ入口電極側とエンドキャップ出口電極側のリング電極の径が同じ直管構造とすることにより、加工を容易にすることができる。
【0016】
(4)請求項4記載の発明によれば、前記棒状電極の配置を工夫することにより、軸方向の電場勾配が、イオン源からイオン検出部に向かって電位が低くなるように調整されるため、イオンの排出を速やかにすると共に、長めの円筒状リング電極を使った場合に貯蔵できるイオン量を増大させることができ、イオンガイドとしても機能させることができる。
【0017】
(5)請求項5記載の発明によれば、棒状電極を6本又は8本にしても最適な電場勾配を作ることができる。
(6)請求項6記載の発明によれば、棒状電極の断面形状を丸形のみならず、三角形状又は四角形状にしても丸形電極の場合と同様の効果を得ることができる。ワイヤー線とした場合も同様である。
【0018】
(7)請求項7記載の発明によれば、上述した3次元ポールトラップ装置を用いたイオン検出装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の第1の実施の形態を示す構成図で、リング電極と棒状電極の構成を示している。図15と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、13は中空のリング電極、1は中心軸、16はリング電極13内に配置された4本の棒状電極である。この棒状電極16の径は例えば0.4mm程度であり、リング電極13の中空領域の上下左右にそれぞれ4個配置されている。
【0020】
14はリング電極13のイオン入口側に設けられたエンドキャップ入口電極、15はイオン出口側に設けられたエンドキャップ出口電極である。この実施の形態では、エンドキャップ出口電極15の口径がエンドキャップ入口電極14より大きくなっている。例えば、エンドキャップ入口電極14の直径が7.6mm、エンドキャップ出口電極15の直径が8.6mm、リング電極13の長さが50mm程度である。
【0021】
これら構成を図2に示す構成に組み入れて、トラップの空間をこの内部に形成する。図2は3次元ポールトラップ機構部基本要素を示す図であり、本発明に係るポールトラップ装置の全体を示している。図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、14はエンドキャップ入口電極、15はエンドキャップ出口電極、13はリング電極、16は該リング電極13内に上下左右に4本設けられた棒状電極である。17はエンドキャップ入口電極14側に設けられたイオン源、18はエンドキャップ出口電極15側に設けられた、輸送されてきたイオンを収束させるための収束電極、19は収束電極18を経て輸送されてきたイオンを検出するイオン検出部である。イオン検出部19の出力は、例えば質量分析計等に入力され、質量分析が行なわれる。
【0022】
トラップの空間はリング電極13の内部に形成されるが、リング電極13の両端開口部にエンドキャップ入口電極14とエンドキャップ出口電極15が空隙をおいて配置され、円筒開口両端の電位障壁とする。リング電極13の入口(上流)側にはイオン源17が配置される。その反対側の下流側になる位置には、中心軸1上にエンドキャップ出口電極15、次に収束電極18やイオン検出部19等のイオンモニタ或いはその利用部に相当するものが配置される。
【0023】
イオン源17と収束電極18とイオン検出部19はここでの発明の効果には特に言及する必要のない構成要素であり、これらに供給される電圧、電流等のその他の構成部分は省略している。図2の構成部は、真空容器内に格納・設置され、この空間に任意のガス成分が種類・量共に制御されて供給され得るものとしてそれらの部分は省略している。
【0024】
エンドキャップ入口電極14とエンドキャップ出口電極15と収束電極18のそれぞれには中心軸1上に開口部分があり、またこれらの電極には電圧が印加できるようになっている。具体的には電圧を印加するための端子が設けられている。棒状電極16は、この例では、導電性材料で作られた丸棒の電極(極子とも呼ぶ)である。
【0025】
リング電極13には、高周波{Vo・cos(ωt+θ);Vo;高周波振幅電圧値、ω;角周波数、t;時間、θ;位相}と2種類の直流電圧U1(特定質量共鳴用)とU2(軸電位設定用)とが印加され、棒状電極16には直流電圧U3が印加される。エンドキャップ入口電極14とエンドキャップ出口電極15には、それぞれ直流電圧U4とU5が印加される。図2には図示されていないが、構成する電極に供給される各電圧は、印加するタイミングや設定値制御のためのシーケンサやコンピュータ等の制御系とユニットを備えている。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0026】
図2において、エンドキャップ出口電極15の電位U5(例えば40V)を、入ってくるイオン(この場合平均的な質量数100)の持つエネルギー(例えば10eV)よりも高いエネルギー障壁にした条件で、時刻t0(0μs)において、例えば40Vの電位にあるイオン源17からイオンを高周波電圧V0(例えば3MHz,540V)が印加されたリング電極13に囲まれたこの領域には、例えばヘリウムガスが供給されていて、導入されたイオンと衝突が起こる真空度になっている。その平均自由行程は、0.1〜10mm程度(例えば1mm)である。
【0027】
イオンが導入されている期間は、エンドキャップ入口電極14の電位U4(例えば20V)とリング電極13の軸電位U2(例えば−8V)は、低い電位に設定されている。棒状電極16には、軸方向に電場勾配を形成するために、直流電圧U3(例えば30V)が印加される。任意の時間t2(例えば150μs)を経過後、エンドキャップ入口電極14の電位U4は、通常だとエンドキャップ出口電極15の電位U5と等しい値に設定される。この間、リング電極13の領域に導入されたイオンは、短期的には動径方向に、長期的には軸方向にも振動しながら、ヘリウムガスの粒子との衝突で次第に運動エネルギーを減じながら中心軸1付近の位置に集まってくると同時に、軸方向にも電場勾配があるため、電荷を持ったイオンは、リング電極13に囲まれた空間領域の中でもエンドキャップ出口電極15よりの付近にその集団の中心位置が移動してくる。
【0028】
その状況をシミュレーションで示したのが、図3と図4である。図3はイオン導入中の様子を示す図、図4はイオンが狭い範囲に絞られた様子を示す図である。イオン粒子30、イオン粒子群31として記した矢印の先の中心軸1付近に集まって少し横に広がった点の集団が確認できる。この様子は、図3の段階では横方向に広がっているが、次第に図4に示すようにエンドキャップ出口電極15寄りに集まってくる。
【0029】
また、この時間t2(例えば150μs)の時点では、エンドキャップ出口電極15の電位U5も同時に下げて(例えば20V)、イオン粒子群の中心を更にエンドキャップ出口電極15に近づけて射出に備える。その様子は、図4の状態から図5の変化で確認できる。図5はイオン群の中心が移動した様子を示す図である。
【0030】
更に時間が経過すると、図6に示すようにほぼ一点に凝集してくる。図6はイオンがほぼ一塊になった状態を示す図である。この状態に至った頃のt3(例えば300μs)の時刻にリング電極13の高周波電圧Voを例えば0V、軸電位U2を例えば−10Vに設定し、それと同時にエンドキャップ出口電極15の電位U4の電圧も例えば0Vに設定すると、先に説明した「イオン粒子群31」の集団は、エンドキャップ出口電極15の方向へ速やかに移動し、更に先に位置するイオン検出部19へと飛行して検出される。
【0031】
この様子を図6から図9のシミュレーションで示す。図6はイオンがほぼ一塊になった様子を示す図、図7はイオンが排出開始直後の様子を示す図、図8はイオンが排出されイオン検出部前を飛行中の様子を示す図、図9はイオンがイオン検出部19に当たった様子を示す図である。この排出に要する時間は、時刻t3を起点にしてイオン粒子群31の集団がイオン検出部19に全て到達し終わるまでとすると、5μs程度が得られた。
【0032】
以上の過程を通して、導入から排出までのイオン1個の軌跡を記録した例を図10に示す。図10はイオン1個のみの飛行の様子を示す図である。イオン粒子群31の全体の軌跡も図11にその例を示す。図11は複数のイオンの軌跡を重ねた様子を示す図である。図12に中心軸1の方向に電場勾配が形成されている様子を示す。図12はエンドキャップ入口側と出口側の等電位線を示す図である。図12の(a)はエンドキャップ入口電極14側のリング電極13の一端から2mm中へ進んだ位置の中心軸1に垂直な断面での等電位線図である。
【0033】
ここでの中心軸1上の電位は約17.08Vである。図12の(b)はエンドキャップ出口電極15側のリング電極13の一端から2mm中へ戻った位置の中心軸1に垂直な断面での等電位線図である。ここでの、中心軸1上の電位は約12.46Vである。よって、この例では、軸方向に約0.10042V/mmの電位勾配となる。
【0034】
このように、第1の実施の形態によれば、簡易化した構造のポールトラップにおいてもイオンの排出を速やかにすると共に、長めの円筒状リング電極を使った場合に貯蔵できるイオン量を増大させることができ、イオンガイドとしても機能させることができる。
【0035】
また、エンドキャップ入口側電極とエンドキャップ出口側電極の径を異ならしむることにより、中に配置する棒状電極の接触や放電等の発生を抑えることができる。
図13は本発明の第2の実施の形態を示す構成図である。図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。図13に示す実施の形態は、リング電極13をエンドキャップ入口側の径とエンドキャップ出口側の径とを等しくした直管構造としたものである。このように、リング電極13の内径の違いの変更は可能である。
【0036】
この実施の形態は図1に示す実施の形態と同様な操作並びに動作となる。このように、実施の形態2によれば、エンドキャップ入口電極側とエンドキャップ出口電極側のリング電極の径が同じ直管構造とすることにより、加工を容易にすることができる。なお、図では、エンドキャップ入口電極側の棒状電極16で構成される径が、エンドキャップ出口電極側の棒状電極16で構成される径よりも小さい場合を示しているが、この逆でもよい。
【0037】
図14は本発明の第3の実施の形態を示す構成図である。図13と同一のものは、同一の符号を付して示す。この実施の構成は、図13において示された構成が、図14に示すような構成に置き換えられた構成となっている。
【0038】
この例の場合、棒状電極16をリング電極13の内側に設置する際、上下にあって向かい合う組では、右側即ちイオン検出部19の側の方が、中心軸1からの距離が離れる角度に傾けられ、左右にあって向かい合う組では、左側即ちイオン源17側の方が、中心軸1からの距離が離れる角度に傾けられる。この棒状電極16に印加される直流電圧は、正電荷のイオンを想定しているが、例えば上下に+15V、左右に−15Vが設定される。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0039】
この実施の形態の場合、棒状電極16に逆極性の電圧が印加されることで、実施の形態の場合に形成された軸方向の電場勾配が、イオン源17側からイオン検出部19側に向かって電位が低くなるように調整されるため、実施の形態1と同様な操作並びに動作となる。即ち、前記棒状電極の配置を工夫することにより、軸方向の電場勾配が、イオン源からイオン検出部に向かって電位が低くなるように調整されるため、イオンの排出を速やかにすると共に、長めの円筒状リング電極を使った場合に貯蔵できるイオン量を増大させることができ、イオンガイドとしても機能させることができる。
【0040】
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。先に示した例で、「棒状電極16」とした部分は、六重極や八重極等の多極子構造のものでもよい。また、隣り合う極子で中心軸1との角度が同じである場合は、印加される電圧も同様であるが、第3の実施の形態のように交互に角度が異なる場合は、第3の実施の形態3と同じように、逆極性の電圧を印加する。
【0041】
また、棒状電極16の断面形状は、円形ではなく四角、三角などでもよく、ワイヤー等の線材でもよい。その他、イオンの貯蔵、輸送のための条件最適化で、構成部の大きさ、長さ、各部印加電圧値、真空度等の諸条件は必要に応じて変えることができる。棒状電極16の配置は、中心軸1と対称性を備えた事例を示してきたが、必要があれば、対称性を崩すことも可能である。イオンの正負が逆になれば、印加される直流電圧の極性も逆に設定させることで対応させることができる。
【0042】
このように構成された装置において、第1の実施の形態とほぼ同様な操作並びに動作となる。但し、印加する電圧値などは異なる。棒状電極16などの配置で、中心軸1との対称性のある部分を崩した場合は、イオンが運動エネルギーを低下させて行なった時に安定化する位置が中心軸1の上とはならないので、意図すればそのようなこともできる。イオンを空間に留め、排出させる時間の設定変更も可能で、必要に応じて最適化してもよい。
【0043】
以上説明したように、本発明によればポールトラップ(Paul Trap)の3次元型において、リング電極の囲う領域に、直流電圧を印加する棒状電極を配して、リング電極の回転軸の方向に電場勾配を形成されるようにしたので、イオンの収束位置を変えることができる。また、円筒型のリング電極とそれが囲む領域に直流電圧を印加する棒状電極を設置することで、イオン輸送の機能も付加できる。
【0044】
本発明によれば、簡易化した構造のポールトラップにおいてもイオンの排出を速やかにすると共に、長めの円筒状リング電極を使った場合に貯蔵できるイオン量を増大させることができ、イオンガイドとしても機能させることができる3次元ポールトラップ装置を提供することができる。また、該ポールトラップ装置を用いたイオン検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す構成図である。
【図2】3次元ポールトラップの機構部基本要素を示す図である。
【図3】イオン導入中の様子を示す図である。
【図4】イオンが狭い範囲に絞られた様子を示す図である。
【図5】イオン群の中心が移動した様子を示す図である。
【図6】イオンがほぼ一塊になった様子を示す図である。
【図7】イオンが排出開始直後の様子を示す図である。
【図8】イオンが排出されイオン検出部前を飛行中の様子を示す図である。
【図9】イオンがイオン検出部に当たった様子を示す図である。
【図10】イオン1個のみの飛行の様子を示す図である。
【図11】複数のイオンの軌跡を重ねた様子を示す図である。
【図12】エンドキャップ入口側と出口側の等電位線を示す図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態を示す構成図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態を示す構成図である。
【図15】ポールトラップの基本構造体を示す図である。
【図16】ポールトラップの断面形状を示す図である。
【図17】ポールトラップの簡易化構造体を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 中心軸
13 リング電極
14 エンドキャップ入口側電極
15 エンドキャップ出口側電極
16 棒状電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ほぼ円筒状の内部が中空のリング電極と、
該リング電極の一端に設けられた、イオン源からのイオンを受けるエンドキャップ入口電極と、
前記リング電極の中空内に配置される少なくとも4本の棒状電極と、
前記リング電極の他端側に設けられた、リング電極から輸送されてくるイオンを受けるエンドキャップ出口電極と、
を含んで構成される3次元ポールトラップ装置。
【請求項2】
前記リング電極はエンドキャップ入口電極側とエンドキャップ出口電極側との径が異なることを特徴とする請求項1記載の3次元ポールトラップ装置。
【請求項3】
前記リング電極は、エンドキャップ入口電極側とエンドキャップ出口電極側とが径が同じの直管構造であることを特徴とする請求項1記載の3次元ポールトラップ装置。
【請求項4】
前記棒状電極をリング電極の内側に設置する際、上下に向かい合う組では、イオン検出部側の方が中心軸からの距離が離れる角度に傾けられ、左右に向かい合う組では、イオン源側の方が中心軸からの距離が離れる角度に傾けられることを特徴とする請求項3記載の3次元ポールトラップ装置。
【請求項5】
前記棒状電極を6本又は8本とすることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の3次元ポールトラップ装置。
【請求項6】
前記棒状電極は、その断面形状としては、丸型のみならず、三角形状又は四角形状のものか、又はワイヤー線とすることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の3次元ポールトラップ装置。
【請求項7】
イオンを出射するイオン源と
イオン源からのイオンを受けるエンドキャップ入口電極と、
ほぼ円筒状の内部が中空のリング電極と、
該リング電極の中空内に配置される少なくとも4本の棒状電極と、
前記リング電極から輸送されてくるイオンを受けるエンドキャップ出口電極と、
該エンドキャップ出口電極から輸送されてくるイオンを収束する収束電極と、
該収束電極から出射されるイオンを検出するイオン検出部と、
を含んで構成される3次元ポールトラップ装置を用いたイオン検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−289560(P2009−289560A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140294(P2008−140294)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】