説明

3次元微細領域元素分析方法及び3次元微細領域元素分析装置

【課題】 3次元微細領域元素分析方法及び3次元微細領域元素分析装置に関し、試料に電界蒸発を起こすのに必要な高電圧パルスを印加することなく、一層ずつ制御された状態で、且つ、構成元素の蒸発電界の違いに影響されずに分析を行う。
【解決手段】 被分析試料1に飽和吸着し、且つ、エネルギービーム5の照射によってエッチングが進行するガス種3を被分析試料1に供給したのち、エネルギービーム5を照射して前記被分析試料1のガス種3の吸着した部分のみを脱離させ、脱離した被分析試料1由来の粒子6の質量分析を行なうことによって被分析試料1表面の元素分析を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3次元微細領域元素分析方法及び3次元微細領域元素分析装置に関するものであり、特に、金属材料や半導体材料、或いは半導体素子や磁気記録媒体・ヘッド等電子デバイスを1層ずつ制御された状態で高空間分解能で元素分析するための構成に特徴のある3次元微細領域元素分析方法及び3次元微細領域元素分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、微細領域の元素分析にはX線光電子分光(XPS)法、オージェ電子分光(AES)法、二次イオン質量分析(SIMS)法または二次中性粒子質量分析(SNMS)法、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)法、透過型電子顕微鏡(TEM)とX線分析(EDX)法或いは電子線損失分光(EELS)法の組み合わせ、アトムプローブ(AP)法等が用いられており、XPS法、AES法、EPMA法の場合、試料深さ方向の分析はイオンエッチングとの併用で行なっている。
【0003】
この内、アトムプローブ法においては、0.2mm以下の直径の細線試料を先端の曲率半径が100nm程度以下の先鋭な針状として、試料に正の高電圧を加えて、先端に発生する強電界によって先端近傍の原子を電界蒸発させ、飛行時間法によって放出された原子あるいはクラスタの質量分析を行っている(例えば、特許文献1或いは特許文献2参照)。
【0004】
このアトムプローブ法では、理想的には試料は表面から順に一原子ずつ電界蒸発していくため、検出された元素量の分析時間に対する変化をみることによって試料の深さ方向の元素分布を知ることができる。
【0005】
図22参照
図22は、試料面内の空間分解ができるように改良した3次元アトムプローブ(3DAP)法の原理の説明図であり、位置敏感検出器92を用いて針状試料91の先端から放射状に飛散するイオン93の空間分布を計測する。
この場合、位置敏感検出器92上での位置は針状試料91の表面を拡大投影したものになっているため、針状試料91の表面のどの位置から飛来した原子かが分かり、この2次元情報と古典的なアトムプローブの深さ情報から3次元的な元素分布を得ることができる。
以下、3次元アトムプローブ法も含めて単にアトムプローブと呼称する。
【0006】
上述の各種の分析方法において、3DAP及び深さ方向の分析ができないTEMを利用する方法を除くと、面内分解能は最も優れているAESでも10nm程度である。
一方、深さ分解能は最も優れているSIMSでも0.5〜1nm程度(数原子層)である。
【0007】
また、3DAP法は、上述のように原理的には面内・深さ両方向で原子分解能が得られるが、針状試料が必要であり、現状ではデバイス一般の分析は困難である。
【0008】
また、一般的な形状の試料の微細領域元素分析が可能な分析法の中で最も深さ分解能に優れているSIMS法でも、原子層分解能を達成することは困難である。
これは、SIMS法が試料に加速したイオンを衝突させて、イオンの運動量を試料原子に移行させることにより試料表面原子の結合を切って表面から脱離させて分析する手法であるため、カスケードに衝突が起こって試料表面から数層に渡って原子配列が乱れがちであることが大きい。
【0009】
そこで、この問題を解決するために、反応性ガスと非反応性のバッファガスとを含んでいるガス混合物を試料表面に密接させ、試料表面上のある部位にプローブビームをあてて、プローブビームとガス混合物とサンプル表面との間の相互作用により試料をエッチングする方法が考案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
この提案においては、所定部位から生じるエッチング生成物はレーザビームを用いることによりイオン化され、質量分析計に向かって加速させて質量分析を行なう。
これは、飛行時間型のSIMS法或いはSNMS法において、試料構成原子の脱離を物理的な衝撃ではなく化学的なエッチングを用いて行なうことに相当する。
【0011】
この場合、プローブビームとして低エネルギの電子ビームを用いることにより試料構造の破壊を防ぎ、また電子ビームを収束することによって試料面内の空間分解能を高めることができる。
【0012】
この場合のエッチング生成物脱離機構は、反応性ガスがプローブビームによって解離し、同時に試料表面原子が電子ビームによって励起されて、この両者が化合して揮発性の反応生成物が生じるという原理に基づいている。
【特許文献1】特開平09−152410号公報
【特許文献2】特開平05−152410号公報
【特許文献3】特開2003−194748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上述のアトムプローブ法においては、試料を電界蒸発させるために必要な電圧は試料先端の曲率半径に依存して大きくなるため、
(1)極端に先鋭な先端を持つ試料が必要となるという問題があった。
【0014】
また、飛行時間法を用いるためには電界蒸発をパルス的に行なわなければならないが、そのために、
(2)試料に印加する電界蒸発用の高電圧を高速でオン―オフしなければならないという問題もある。
【0015】
さらに、理想的には、試料は1原子層ずつ電界蒸発すると考えられるが、
(3)実際にはクラスターとして蒸発するものが多いという問題があり、加えて、
(4)電界蒸発のし易さが異なる元素が混在した試料においては電界蒸発し易い元素が先に蒸発してしまう場合があるという問題がある。
【0016】
また、上述の特許文献3の場合には、ガス混合物の供給時間制御は行なわれていないため、プローブビームによって反応生成物が脱離した後の新たな表面にもガス混合物は同様に供給されるため、試料のエッチングは表面から内部へと順を追って際限なく進行してしまうことは明らかである。
【0017】
したがって、プローブビームが照射されている部分では常にエッチングが進行してしまうため、プローブビームの照射量を調整しても深さ方向の分解能を原子層レベルの分解能を持たせることは容易ではないという問題がある。
【0018】
したがって、本発明は、試料に電界蒸発を起こすのに必要な高電圧パルスを印加することなく、一層ずつ制御された状態で、且つ、構成元素の蒸発電界の違いに影響されずに分析を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
図1は本発明の原理的構成図であり、ここで図1を参照して、本発明における課題を解決するための手段を説明する。
図1参照
上記課題を解決するために、本発明は、3次元微細領域元素分析方法において、被分析試料1に吸着し、且つ、エネルギービーム5の照射によってエッチングが進行するガス種3を被分析試料1に供給したのち、エネルギービーム5を照射して被分析試料1のガス種3の吸着した部分のみを脱離させ、脱離した被分析試料1由来の粒子6の質量分析を行なうことによって被分析試料1表面の元素分析を行なうことを特徴とする。
【0020】
このように、ガス種3、特に、ハロゲン、典型的には塩素の吸着及びその後のエネルギービーム5の照射によるエッチングを被分析試料1表面の元素の脱離に利用することによって、従来のように電界蒸発に必要な高電界を印加する必要がなくなり、且つ、構成元素の蒸発電界の違いに影響されことがなく、さらには、ガス種3が吸着した部分のみが脱離するため一層ずつ制御された脱離が可能になる。
なお、この場合のガス種3の吸着は、一般には飽和吸着である。
【0021】
また、吸着したガス種3がエネルギービーム5の照射によって、被分析試料1表面の元素と化合物を構成して脱離するので、クラスターとして脱離することがなく、また、電界蒸発ではなく化学的な反応を利用しているので、被分析試料1として極端に先鋭な先端を持つ試料を必要とすることがない。
なお、エネルギービーム5とは、電子ビームや原子ビーム等の粒子ビームあるいはレーザ光等の光ビームであるが、典型的には電子ビーム或いはレーザ光である。
【0022】
なお、被エッチング材料に、単に吸着しただけではエッチングが進行せず、吸着が飽和するエッチャントを吸着させ、そこに電子線等を照射して、エッチャントと吸着している表面層のみをエッチングする方法は、半導体高精度加工分野においてディジタルエッチングとして知られている(必要ならば、Applied Physics Letters,Vol.56,p.1552,1990参照)。
【0023】
このディジタルエッチングにおいては、電子線等の照射により、エッチャントが吸着した材料表面の1層目の原子は、2層目との結合が切断され、エッチャントと分子を作って材料から脱離するものであり、この反応はエッチャントが吸着している材料表面でのみ起こるため、材料を原子層レベルで制御してエッチングしていくことが可能となる。
【0024】
本発明者は、鋭意研究の結果、アトムプローブ法等の分析分野とは全く関連のない半導体高精度加工分野におけるディジタルエッチング技術に注目し、この技術を創意工夫の上、3次元微細領域元素分析方法に取り入れたものである。
【0025】
この場合、脱離した被分析試料1由来の粒子6をエネルギービーム5の照射或いは電界の印加の少なくとも一方によってイオン化したのち、印加した電界によって加速させて検出器7に飛行させることになる。
【0026】
また、質量分析を行なう際には、飛行時間型の質量分析法を用いて元素分析を行なうことが典型的であり、その場合に、脱離の進行に対する元素分析のデータを記録することによって被分析試料1の表面から深さ方向への元素分布を分析したり、或いは、脱離した被分析試料1由来の粒子6を位置敏感検出器に拡大投影することによって、粒子6の被分析試料1上の脱離位置を判別することが望ましく、また、これらを組み合わせることによって、被分析試料11の3次元的元素分布の分析が可能になる。
【0027】
また、被分析試料1が平面状試料の場合には、エネルギービーム5を収束して被分析試料1に局所的に照射すれば良く、それによって、分析試料1の表面内で空間分解能を得ることができる。
【0028】
この場合、収束させたエネルギビーム5を分析試料1の面上で走査して照射することにより、平面状の被分析試料1の面内の元素分布を分析することが可能になる。
特に、収束させたエネルギビーム5を走査する際に、エネルギービーム5の照射位置を吸着させたガス種3の既脱離部分と一部重なるようにエネルギービーム5を走査することによって、エネルギービーム5の径よりも空間分解能を向上することができる。
【0029】
また、被分析試料1が平面状試料の場合に、エネルギービーム5を収束せずに被分析試料1に照射しても良く、その場合には、脱離した被分析試料1由来のイオン化した粒子6を、イオンレンズによって2次元検出器上に結像させても良いものであり、それによって、分析試料1の表面内で空間分解能を得ることができる。
【0030】
また、被分析試料1が平面状試料の場合にも、質量分析を行なう際に、エッチングの進行に対する元素分析のデータを記録することによって被分析試料1の表面から深さ方向への元素分布を分析することができる。
【0031】
また、ガス種3の供給に際しては、ガス種源に接続されたパルスバルブを用いてパルス的に供給するか或いは、ガス種3を構成元素として含んだ固体電解質にパルス電気に電圧を印加してパルス的に供給することが典型的な供給法であり、固体電解質を用いた場合には、発生するガス種3の量を電気量で評価できるので制御がし易くなる。
【0032】
また、被分析試料1が凸状試料の場合、ガス種3の供給に際して、ガス種3を構成元素として含んだ固体電解質にパルス電気に電圧を印加して被分析試料1の下端部にパルス的に供給して表面に吸着させたのち、被分析試料1を加熱して吸着したガス種3を熱拡散させて被分析試料1の先端部の表面まで移動させても良く、この場合には、大量のガス種3の放出がないので装置を汚染することが少なく、且つ、排気待ちの時間がないので迅速に測定を行うことが可能になる。
【0033】
また、本発明は、3次元微細領域元素分析装置において、被分析試料1に吸着し、且つ、エネルギービーム5の照射によってエッチングが進行するガス種3を被分析試料1に供給するガス種供給手段2、被分析試料1にエネルギービーム5を照射してエッチングを進行させて被分析試料1の表面からガス種3の吸着した部分のみを脱離させるエネルギービーム照射手段4、脱離した被分析試料1由来の粒子6をイオン化させるイオン化手段、イオン化した粒子6を加速して検出器7に飛行させる加速手段、及び、検出器7を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0034】
この場合の、ガス種供給手段2としては、ガス種源に接続されたパルスバルブ、或いは、ガス種3を構成元素として含んだ固体電解質及び固体電解質に電気分解のための電圧を印加する電圧印加手段が典型的なものである。
【0035】
ガス種供給手段2として固体電解質を用いる場合には、固体電解セルが典型的なものであり、個々の固体電解セルを被分析試料1に対向配置しても良いし、或いは、被分析試料1を取り囲む中空円筒状構造を有する固体電解セルを用いても良いものである。
【0036】
或いは、ガス種供給手段2を、陰極、陰極上に設けられ、ガス種3を構成元素として含むと共に被分析試料1の底部に間隙を介して陰極上に設けられた固体電解質、被分析試料1及び固体電解質をクランプして固定する陽極、及び、被分析試料1の温度を調整する加熱手段から構成しても良い。
【0037】
また、3次元微細領域元素分析装置にリフレクトロンを設けても良く、それによって、エネルギー補償ができるので、同じ質量の粒子6の飛行時間を一定することができ、複雑な多元合金でもほぼ全ての元素の分離が可能になる。
【0038】
なお、上記の場合のガス種3としてはハロゲン、特に、塩素が典型的なものであり、また、固体電解質としてはハロゲン化銀、特に、塩化銀AgClが典型的なものである。
【発明の効果】
【0039】
本発明においては、試料に電界蒸発を起こすのに必要な高電圧パルスを印加することなく、かつ1層ずつ制御された状態で、しかも元素による電界蒸発のし易さの違いに影響されずに、試料の元素分析を3次元的に原子レベルの分解能で行なうことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明は、試料のエッチングが自発的には進行せず吸着が飽和するエッチャントを用いて、エッチャントを試料に供給する機構および吸着したエッチャントにエネルギを与えて試料をエッチングするための電子あるいは光照射機構を3次元微細領域元素分析装置に組み込むことにより、試料を1原子層ずつ脱離させ質量分析を行なうものである。
【0041】
まず、針状の試料或いは平面状の試料を用意するが、針状の試料の場合にも、試料の先端はアトムプローブと同様に検出器に向けて放射状の電界を形成するために先鋭なものとするが、電界蒸発を利用するわけではないため、アトムプローブほど曲率半径は小さくなくても構わない。
【0042】
次に、この試料にエッチャントを吸着させるが、エッチャントを吸着させるためには、エッチャント気体を真空槽内に導入する方法や、エッチャント気体ビームを試料に照射する方法、試料表面での拡散を利用して試料保持部分から分析部分に供給する方法などが考えられ、分析する試料と使用するエッチャントに応じて適切なものを選択する。
【0043】
次に、十分な量のエッチャントを供給した後、エッチャントの供給を停止し、次いで、試料に電界イオン化のための正の高電圧を印加し、しかる後、試料に電子ビーム或いは光をパルス的に照射すると、試料表面のエッチャントの吸着した原子はエッチャントと分子を形成して表面から脱離する。
ここが飛行時間計測における時間ゼロとなる。
【0044】
次いで、表面から脱離した‘試料原子−エッチャント’分子は、電界イオン顕微鏡の場合と同様に直ちに電界イオン化する。
即ち、先鋭な試料近傍に生じる強電場によって分子から電子が引き抜かれ、正のイオンとなる。
なお、平面状試料の場合には試料に電圧は印加せず、イオン化のための光ビームをパルス光ビームの立ち下がり部がエッチング用の電子ビーム或いは光の立ち下がり部と一致するように照射する。
【0045】
一般に電界イオン顕微鏡で用いられる結像ガスはHe,Neなどの軽い希ガス原子であり、イオン化ポテンシャルが大きいため、試料自体が電界蒸発するのに必要な電場に近い電場でなければ電界イオン化が起こらないが、エッチングで生じた‘試料原子−エッチャント’分子のイオン化ポテンシャルは一般にそれよりもずっと小さいため、より小さな印加電圧あるいは先端の曲率半径が大きな試料においても電界イオン化が起こる。
さらにイオン化の電界強度に関する条件を緩やかにするために、イオン化部分に可視〜紫外光を照射することも有効である。
【0046】
‘試料原子―エッチャント’分子がイオン化した以降は通常のアトムプローブと同様で、この正イオンは試料電場によって引かれて検出器に向かって飛行し、検出器に到達するまでの時間を計測することにより質量分析を行なう。
なお、平面状試料の場合には、試料近傍に引出電極を設けてイオン化した‘試料原子―エッチャント’分子を検出器に向かって加速する。
【実施例1】
【0047】
ここで、図2乃至図5を参照して、本発明の実施例1の3次元微細領域元素分析方法を説明する。
図2参照
図2は、本発明の実施例1に用いる3次元微細領域元素分析装置の概念的構成図であり、真空容器11内に、針状の被分析試料12を配置し、この被分析試料12の先端の近傍にCl2 ガス源に接続されたコリメータ付パルスバルブ13を配置するとともに、エッチング用の電子銃14を配置し、また、被分析試料12から数100mm離れた位置に、位置敏感検出器15を配置し、この位置敏感検出器15の電位は接地電位とする。
【0048】
この場合、被分析試料12と位置敏感検出器15の距離は3次元微細領域元素分析装置の質量分解能に影響すると共に試料先端の曲率半径と比がこの装置の拡大倍率となるため、空間分解能にも影響する。
【0049】
図3参照
図3は、コリメータ付パルスバルブ13の概略的構成図であり、パルスバルブ30とガスケット40を介して取り付けられたコリメータ38とからなるものであり、エッチャントガスを100マイクロ秒(μs)程度以上の任意の時間だけ方向性を持たせて供給可能なものである。
【0050】
このパルスバルブ30は、オリフィス32を有するとともにガス供給管33を備えた筐体31、筐体31内に収容されてオリフィス32の開閉を行うマグネット34に取り付けられたセラミック製等のポペット35、ポペット35をマグネット34を介してオリフィス32側に付勢するスプリング36、及び、筐体31の外周部の設けられ、マグネット34を駆動するソレノイド37から構成され、ソレノイド37にパルス的に電流を流すことにより開時間を短く取ることができる。
なお、このパルスバルブ30としては、例えば、ジェネラルバルブ社製のパルスバルブ(http://www.scilab.co.jp/general_valve.htm参照)を用いる。
【0051】
また、コリメータ38は、直径数μm〜数100μm程度、長さ数mm〜数10mm程度のキャピラリを集積したキャピラリプレート39からなり、エッチャントビーム16に方向性を持たせることができるものである。
なお、このキャピラリプレート39としては、例えば、浜松ホトニクス社のキャピラリプレート(http://www.hpk.co.jp/Jpn/products/ETD/pdf/Capillary_TMCP1017J03.pdf参照)を用いる。
【0052】
また、エッチング用の電子銃14からの電子ビーム17は、電子ビーム加速電源19によって加速されるが、ビームエネルギとしては100eV程度が適当であり、後述するように、GaAsをCl2 と電子ビーム17でエッチングする場合、10mC/cm2 程度の電子を照射すれば吸着したCl2 を全て反応させることができる。
【0053】
この電子ビーム17の照射時間を10ns(ナノ秒)、繰り返しレートを100kHzとすると、100μAのビームを0.1mmのスポットに収束すれば10秒程度で1回のエッチングが完了し、ほぼ通常のアトムプローブと同程度の速さで測定を進めることが可能である。
【0054】
また、被分析試料12と位置敏感検出器15との間には、イオン化・投影電源20によって10kV程度の電圧を印加するが、この電圧による電界によって脱離した分子をイオン化するとともに、イオン化した脱離種イオン21を電界加速する。
【0055】
次に、図4及び図5を参照して分析工程を説明するが、図4はタイミングチャートであり、図5は吸着−脱離状況の概念的説明図である。
図4及び図5参照
各構成要素は装置全体は真空容器内に設置し、試料の汚染を避けるために1×10-9Torr程度の超高真空とする。
まず、
(1)コリメータ付パルスバルブ13からCl2 からなるエッチャントビーム16を数10ms〜数100ms間放出し、GaAsからなる被分析試料12に塩素原子18を1原子層だけ吸着させ、次いで、
(2)余分なエッチャントを排気する。
【0056】
次いで、
(3)被分析試料12に電界イオン化電圧を印加する。
この時、被分析試料12の先端部の曲率半径が電界イオン顕微鏡と同様の約100nmとすると、Cl2 によるGaAsのエッチングで生じるGaCl3 及びAsCl3 のイオン化ポテンシャルはそれぞれ11.5eV及び11.6eVと、電界イオン顕微鏡で使用される結像ガスであるHe24.6eV、Neの21.6eVの約半分であり、電界イオン化電圧も通常の電界イオン顕微鏡の半分程度で良い。
【0057】
次いで、
(4)上記(3)の電界イオン化電圧の印加タイミングとほぼ同時に被分析試料12に対してエネルギー100eV程度、数ns〜数μs程度のパルス状の電子ビーム17を照射してエッチングを行なう。
この場合、電界イオン化電圧の印加タイミングより若干早くても問題はないが、遅いと、脱離からイオン化まで時間がかかり、分析結果が不正確になる。
【0058】
この時、吸着したClと被分析試料12を構成するGa,Asとは3:1の比率で化合してGaCl3 分子及びAsCl3 分子として脱離するので、1回のエッチャントビーム16の照射工程で最表層の1/3原子層が脱離することになる。
【0059】
次いで、
(5)表面から脱離したGaCl3 分子及びAsCl3 分子は針状の被分析試料12の先端の高電界により直ちに電界イオン化され、イオン化された脱離種イオン21は被分析試料12と位置敏感検出器15間の電界で加速されて、位置敏感検出器15上に到達する。
【0060】
次いで、
(6)電子ビーム17の照射から位置敏感検出器15に到達するまでの時間差から脱離した元素を同定する。
次いで、
(7)このような吸着したエッチャントによるエッチングが完了するまで、即ち、最表層の1/3原子層が完全に脱離するまで、上記の(4)〜(6)の工程を繰り返す。
【0061】
次いで、
(8)電界イオン化電圧の印加を停止する。
次いで、
(9)上記の(1)に戻って次の層の分析を行なう。
この場合、(1)〜(8)の工程を3回繰り返すことによって、換算的に最表層の1原子層の分析が完了することになり、この繰り返しを必要とする分析深さまで行う。
【0062】
このように、本発明の実施例1においては、デジタルエッチングをアトムプローブ法に導入することにより、試料に電界蒸発を起こすのに必要な高電圧パルスを印加することなく、かつ1層ずつ制御された状態で、しかも元素による電界蒸発のし易さの違いに影響されずに、試料の元素分析を3次元的に原子レベルの分解能で行なうことができる。
【実施例2】
【0063】
次に、図6及び図7を参照して、本発明の実施例2の3次元微細領域元素分析方法を説明するが、この実施例2は上記の実施例1にイオン化をアシストするためにレーザビームを照射するものであるので、主に変更点を説明する。
【0064】
図6参照
図6は、本発明の実施例2に用いる3次元微細領域元素分析装置の概念的構成図であり、エキシマレーザ22を設けた以外は、上記の図2に示した3次元微細領域元素分析装置と同様であり、真空容器11内に、針状の被分析試料12を配置し、この被分析試料12の先端の近傍にCl2 ガス源に接続されたコリメータ付パルスバルブ13及びエッチング用の電子銃14を配置するとともに、イオン化アシスト用のエキシマレーザ22を配置し、また、被分析試料12から数100mm離れた位置に、位置敏感検出器15を配置し、この位置敏感検出器15の電位は接地電位としたものである。
【0065】
図7参照
図7は、本発明の実施例2のタイミングチャートであり、電子ビーム17の照射に同期してパルス状のレーザビーム23を照射して脱離した分子のイオン化をアシストするものである。
【0066】
この場合、GaCl3 分子及びAsCl3 分子が被分析試料12の表面を脱離した直後は表面の影響下にあるため分子のイオン化ポテンシャルは孤立状態よりも低下しているのに加え、試料表面近傍においては、電子は真空準位ではなく試料のフェルミ準位以上に励起するだけで分子と表面との間のポテンシャル障壁をトンネルして試料側の導電帯に移動できるので、分子はイオン化される。
【0067】
この時、被分析試料12に高電圧が加わっていれば、被分析試料12に対する分子内電子のエネルギ準位は上昇するので、イオン化に要するエネルギはさらに低下し、孤立状態での分子のイオン化ポテンシャルが10eV程度とすると、被分析試料12に印加する電圧にもよるが数eVの光でイオン化可能である。
したがって、3.5eV〜6.4eV相当の波長のエキシマレーザ22を用いることによって、光イオン化を行うことができる。
【0068】
このように、本発明の実施例2においては、イオン化アシストレーザを併用しているので、投影電界をイオン化電界と独立に設定することができるとともに、必要とする電界を低減することができる。
【実施例3】
【0069】
次に、図8を参照して、本発明の実施例3の3次元微細領域元素分析方法を説明するが、この実施例3は上記の実施例1にリフレトロンを加えたものであるので、装置構成のみを説明する。
図8参照
図8は、本発明の実施例3に用いる3次元微細領域元素分析装置の概念的構成図であり、基本的には上記の図2に示した3次元微細領域元素分析装置と同様であり、真空容器11内に、針状の被分析試料12を配置し、この被分析試料12の先端の近傍にCl2 ガス源に接続されたコリメータ付パルスバルブ13を配置するとともに、エッチング用の電子銃14を配置し、被分析試料12側に位置敏感検出器15を配置するともに、被分析試料12と対向するようにリフレクトロン24を配置したものである。
【0070】
この本発明の実施例3においては、静電反射板からなるリフレクトロン24を用いているので、イオンのエネルギー補償を行うことによって質量分解能を飛躍的に向上させることができ、複雑な多元合金でもほぼ全ての元素の分離が可能になる。
【0071】
即ち、リフレクトロン24の最終電極ではイオンの最大エネルギーよりも数%高い電圧が掛かっており、エネルギーの高いイオンはリフレクトロン24に深く進入して反射され、一方、エネルギーの低いイオンは浅い位置で反射されることになり、エネルギーの高いイオンの飛行時間が長くなることによって同じ質量のイオンであれば、エネルギーの大小によらず、飛行時間が一定になるためである。
【実施例4】
【0072】
次に、図9及び図10を参照して、本発明の実施例4の3次元微細領域元素分析方法を説明するが、この実施例4は上記の実施例1におけるエッチャント供給源として上記の実施例1におけるコリメータ付パルスバルブの替わりに固体電解セルを用いたものであるので、装置構成のみを説明する。
図9参照
図9は、本発明の実施例4に用いる3次元微細領域元素分析装置の概念的構成図であり、基本的構成は上記の図2に示した3次元微細領域元素分析装置と同様であり、真空容器11内に、針状の被分析試料12を配置し、この被分析試料12の先端の近傍に固体電解セル25を配置するとともに、エッチング用の電子銃14を配置し、被分析試料12と対向するように、位置敏感検出器15を配置したものである。
【0073】
図10参照
図10は、固体電解セルの概略的構成図であり、コリメータを兼ねるパイレックス(登録商標)製の直径が例えば、1cmの絶縁性管状筐体41、絶縁性管状筐体41の底部に取り付けられたAgからなる陰極42、絶縁性管状筐体41内に充填されたAgClからなる固体電解質43、固体電解質43を塞ぐように陰極42に対向して設けられたPtからなるメッシュ状の陽極44、絶縁性管状筐体41の外周部に設けられて固体電解質43を加熱するヒータ45、陰極42−陽極44間に電解用電圧を供給する電解用電源46、及び、電解用電圧をパルス的に印加してエッチャントビーム17をパルス的に供給するエッチャント供給スイッチ47から構成される(例えば、Journal of Vacuum Science and Technology,Vol.A1,p.1554,1983参照)。
なお、この場合のヒータ45は絶縁性管状筐体41の外壁にSnO2 を成膜して形成する。
【0074】
この固体電解セル25によるCl2 を発生原理は、ハロゲン化物の電気分解によるハロゲン分子気体の発生によるものであり、この固体電解セル25の典型的なセル抵抗は1kΩ程度で、10〜100μAの電解電流を流すことによって、1〜100秒で1原子層の吸着を行うことができる。
【0075】
この場合、ファラデーの法則により、発生するハロゲンの量は電気量で評価できるので制御がしやすいという特長を有するが、固体電解質43内でのイオンの熱拡散を利用するので、固体電解質43がAgClの場合、ヒータ45により加熱することによって、固体電解質43の温度を550K程度に保つ必要がある。
なお、カドミウムハロゲン化物を4〜8重量%添加することにより拡散温度を420Kまで下げることが可能である。
【0076】
この本発明の実施例4においては、基本的には実施例1のコリメータ付パルスバルブと同様であるが、機械的に動作する部分が無いので振動の発生が無く、パルスバルブにありがちなバルブ閉止時のリークも無いため、試料近傍に配置することができ、試料近傍より供給するため、エッチャントの無駄が少なく真空槽の圧力悪化もほとんどなくなる。
【0077】
また、全固体で電流のみで制御を行なうため取り扱いが容易で、アナログ(多値)制御も可能なので放出量の制御をより正確に行なうことが可能となる。
【実施例5】
【0078】
次に、図11を参照して、本発明の実施例5の3次元微細領域元素分析方法を説明するが、この実施例5は固体電解セルとして中空円筒状の固体電解セルを用いたものであり、その他の構成は上記の実施例4と全く同様であるので、固体電解セルのみを説明する。
【0079】
図11参照
図11は、本発明の実施例5の3次元微細領域元素分析装置に用いる固体電解セルの概略的要部切り欠き斜視図であり、ヒータ52を内蔵した一対のドーナツ状の絶縁性板からなる筐体51の外円周部にAgからなる陰極53を設けるとともに、筐体51の内円周部にPtからなるメッシュ状の陽極54を設け、陰極53と陽極54との間にAgClからなる固体電解質55を充填したものである。
【0080】
この中空円筒状の固体電解セル50の場合も、陰極53−陽極54間に電解用電圧を供給する電解用電源56及びエッチャント供給スイッチ57を設け、電解用電圧をパルス的に印加してエッチャントビームをパルス的に供給する。
【0081】
この実施例5においては、基本的な作用効果は上記の実施例4と同様であるが、中空円筒状の固体電解セル50の中心に被分析試料12を配置することにより、エッチャントを周囲から均一に供給することが可能になる。
【実施例6】
【0082】
次に、図12を参照して、本発明の実施例6の3次元微細領域元素分析方法を説明するが、この実施例6は固体電解質を用いているが、固体電解セルとしてではなく、被分析試料を固定する固定機構に組み込んで構成したものであり、その他の構成は上記の実施例4と全く同様であるので、エッチャント供給系のみを説明する。
【0083】
図12参照
図12は、本発明の実施例6の3次元微細領域元素分析装置を構成するエッチャント供給系近傍の概略的構成図であり、上図は上面図であり、下図はA−A′に沿った断面図であり、アルミナ或いはテフロン(登録商標)等の絶縁物からなるとともに、固体電解質64及び陽極63を収容固定する凹部を有するホルダ61、ホルダ61の底部に固着されたAgからなる陰極62、陰極62と接するように凹部に収容されたAgClからなる固体電解質64、針状の被分析試料12をクランプするとともにホルダ61に設けた凹部に収容されるPtからなる陽極63、及び、被分析試料12を加熱するヒータ65からなる。
【0084】
この場合のCl2 発生原理は固体電解セルの場合と同様であり、陰極62−陽極63間に電流を間欠的に流すことによって、エッチャントとなるCl2 をパルス的に発生させ、発生したCl2 は発生部近傍でホルダ61及び陽極63と衝突して吸着する。
【0085】
ホルダ61及び陽極63の表面に吸着したCl2 はヒータ65によって、加熱されることによって、塩素原子18はCl或いはCl- のかたちで被分析試料12の下端の表面へ熱拡散で移動するとともに、被分析試料12の表面をさらに熱拡散で移動して先端部に供給されることになる。
なお、加熱温度は、PtとCl2 の反応してPtCl2 を生成する温度が250℃であるので、550K(〜277℃)以下の温度にする。
【0086】
この実施例6においては、通電により発生したCl2 を発生部近傍での吸着を利用しているので、真空容器11内に大量のエッチャントガスを放出することがなくなるので、装置を汚染することがなくなり、また、上記実施例1乃至実施例5のように、排気待ち時間を必要としないので迅速に測定を進行させることが可能となる。
【実施例7】
【0087】
次に、図13乃至図17を参照して、本発明の実施例7の3次元微細領域元素分析方法を説明するが、この実施例7は被分析試料を針状に加工することなくそのままの形状、典型的には平面状試料のままで元素分析するものである。
【0088】
図13参照
図13は、本発明の実施例7に用いる3次元微細領域元素分析装置の概念的構成図であり、真空容器71内に、平面状の被分析試料72を配置し、この被分析試料72の近傍にCl2 ガス源に接続されたコリメータ付パルスバルブ73を配置するとともに、エッチング用の電子銃74を配置し、また、被分析試料72から10mm程度離れた位置に引出電極75を配置するとともに、被分析試料72から数100mm離れた位置にチャンネルトロン等のイオン検出器76を配置し、また、真空容器71外には、脱離種をイオン化するためのイオン化レーザ77を配置する。
【0089】
この場合、被分析試料72を接地電位として引出電極75に数kVの加速電圧を印加するとともに、イオン検出器76は引出電極75と等電位とする。
【0090】
また、電子銃74には、数百V〜1kVの加速電圧を印加し、数百eV〜1keV程度のエネルギの電子ビームパルスを照射する。
これは、反応を効率よく起こすためには上述のように100eV程度のエネルギが必要であること、電子ビームの加速電圧を大きくするほど電子ビームを収束することができること、電子ビームのエネルギが大きすぎると2次電子による反応が起こり、かえって面内分解能が下がってしまうことなどの理由による。
【0091】
また、電子ビームの電流は大きいほど高速に脱離させることができるが、短時間に多数の粒子が脱離すると検出器で数え落しをする可能性があり、さらに、電流密度が大きすぎると試料が局所的に加熱して損傷する可能性がある。
また現実的には比較的低エネルギの電子線を強く収束しつつ大きな電流を流すことは困難であるので、例えば、照射領域が平方ナノメートル(nm2 )程度の場合、電子ビームパルスの電流は照射中でナノアンペア(nA)程度とする。
【0092】
また、イオン化レーザ77は、反応性生物であるGaCl3 及びAsCl3 のイオン化エネルギはそれぞれ11.5eV、11.6eVであるので、光イオン化を行なう場合の励起光は真空紫外領域となり、確実にイオン化するためには大強度の光源が必要とされること、エッチングがパルス動作であること、不必要な光は余分な光電子やイオンを発生させてバックグラウンドが増加し、また意図しないエッチングが進行する可能性があることから、電子ビームに同期したピーク強度の大きなパルス光源が望ましい。
【0093】
この目的には、希ガスジェットあるいは希ガスセル等を用いてパルスレーザ光の高次高調波を発生させて用いるか、あるいはシンクロトロン放射光などを利用することができる。
【0094】
次に、図14及び図16を参照して分析工程を説明するが、図14はタイミングチャートであり、図15及び図16は吸着−脱離状況の概念的説明図である。
図14及び図15参照
イオン化レーザ77以外の各構成要素は装置全体は真空容器内に設置し、試料の汚染を避けるために1×10-9Torr程度の超高真空とする。
まず、
(1)コリメータ付パルスバルブ73からCl2 からなるエッチャントビーム78を数10ms〜数100ms間放出し、GaAsからなる被分析試料72に塩素原子79を1原子層だけ吸着させる。
この場合の露出量(供給量)は、別途XPS等で飽和吸着する量を決定しておいても良いし、或いは、本発明の装置内で露出量を変えてエネルギビームを十分に照射した際の脱離量が飽和する量を実測しても良く、いずれの場合も、被分析試料72に1層だけ吸着して吸着が飽和するようなエッチャントを使用するため、露出量はさほど厳密に制御せずとも十分に露出すれば必要な吸着状態を得ることができる。
【0095】
次いで、
(2)余分なエッチャントを排気する。
この操作は過剰なエッチャントの残留による余分なエッチングを防止して深さ分解能を確保するために必要である。
【0096】
次いで、
(3)エッチャントが吸着した被分析試料72に対して10n秒程度のパルス状の電子ビーム80を静電偏向板等により収束して局所的に照射してエッチングを行ない、被分析試料72から脱離分子81を脱離させる。
この場合の電子ビームパルス時間幅は電子ビームの電流値と分析の速度および検出効率とのトレードオフで決める。
【0097】
即ち、電子ビーム1パルスで照射する電子数が多ければ、全てのエッチャントが無くなるまでの繰り返し照射回数を減らすことができるが、電子ビームパルスの時間幅が大きすぎると、電子ビームパルスの照射開始からイオン化及びイオン加速開始までの時間が長くなり、電子ビーム照射期間の早い時期に脱離した脱離分子81が分析部分から飛散してしまうため、検出感度が下がることになる。
したがって、電子ビームパルスの時間幅は、上述のように10n秒程度とする。
【0098】
また、GaAsをCl2 と電子ビームでエッチングする場合、10mC/cm2 程度の電子を照射すれば吸着したCl2 を全て反応させることができる。
そこで、電子ビームの直径、即ち、一点の分析範囲の径が1nmとすると、電流1nA、パルス幅10n秒のビームを10回照射すれば脱離が完了する。
【0099】
この範囲の表面原子は10個程度であり1パルスで脱離する粒子は1個程度であるので、問題なく検出が可能である。
100nm×100nmの範囲を分析しようとすると分析点数は10,000点なので、電子ビームパルスの繰り返し周波数が10kHzならば10秒で1層の反応を完了させることができる。
【0100】
この時、吸着したClと被分析試料72を構成するGa,Asとは3:1の比率で化合してGaCl3 分子及びAsCl3 分子として脱離するので、1回のエッチャントビーム78の照射工程で最表層の1/3原子層が脱離することになる。
【0101】
図14及び図16参照
次いで、
(4)電子ビーム照射終了のタイミングに合わせて光イオン化用のレーザパルス82を照射し、表面から脱離したGaCl3 分子及びAsCl3 分子をプラスにイオン化する。
この場合、Ti:サファイアレーザからの波長が800nmの100f秒以下の極短パスルレーザ光を希ガスジェット等に照射することにより真空紫外から軟エックス線領域の高次高調波を発生させて使用する。
【0102】
次いで、
(5)電子ビーム照射終了と同時に引出電極75に脱離種イオン加速用の−数kVの電圧を印加することによって脱離種イオン83をイオン検出器76に向けて加速する。
この時、引出電極75とイオン検出器76は同電位であるので、イオンは引出電極75を通過した後は等速でイオン検出器76に向かって飛行する。
この時刻が飛行時間型質量分析を行なう場合には時間ゼロになる。
【0103】
次いで、
(6)イオン検出器76で脱離種イオン83を検出する。
飛行時間型質量分析法を用いる場合、検出までの飛行時間で脱離種イオン83の質量が分かるので、脱離した元素を同定する。
【0104】
次いで、
(7)このような吸着したエッチャントによるエッチングが完了するまで、即ち、最表層の1/3原子層が完全に脱離するまで、上記の(4)〜(6)の工程を繰り返す。
なお、実用的には、予め反応が完了する繰り返し数を求めておいて、その回数だけ上記の電子ビーム照射以降の工程を繰り返しても良い。
【0105】
次いで、
(8)上記の(1)に戻って次の層の分析を行なう。
この場合、(1)〜(7)の工程を3回繰り返すことによって、換算的に最表層の1原子層の分析が完了することになり、この繰り返しを必要とする分析深さまで行う。
【0106】
次いで、
(9)次の分析場所に電子ビームの照射位置を移動して(1)〜(8)を繰り返す。
一般的な面内全体の分析は電子ビームの照射位置をラスタ走査することによって行なうことができる。
【0107】
(10)面内の分析が終了したら、記録する深さ情報を単位深さ(層の厚み)だけ深くして、上記の(1)に戻り、次の層の分析を行ない、必要な深さだけ(1)〜(9)を繰り返して3次元分析を行なう。
【0108】
なお、分析を深さ方向に進めるためには層ごとにエッチャントを供給しなければならないので深さ方向の分析速度には余剰エッチャント排気時間が大きく影響するが、排気時間を10秒とすると、エッチャントの供給時間および各層の正味の分析時間を含めて1〜2分で深さ1nmの分析が可能である。
【0109】
図17参照
図17は、電子ビームの照射位置の移動状況の説明図であり、上図のように直径が1nm程度の小さいスポット径で、1nmステップで走査を行なうと分析点間に隙間が生じてしまうので、隙間を生じさせないためには分析点の移動ステップを小さくすれば良い。
【0110】
或いは、下図に示すように、もう少し大きなスポット径の電子ビームを用いて、例えば1nmステップで走査して良いものであり、脱離が終了した部分に電子ビームが照射されてもエッチングは起こらないので、太い電子ビームを用いてもビーム径よりも面内分解能を高く保つことができる。
【0111】
このように、本発明の実施例7においては、デジタルエッチングをアトムプローブ法に導入することにより、電界蒸発を必要とせずに、且つ1層ずつ制御された状態で、しかも元素による電界蒸発のし易さの違いに影響されずに、平面状試料の元素分析を3次元的に原子レベルの分解能で行なうことができる。
【実施例8】
【0112】
次に、図18を参照して、本発明の実施例8の3次元微細領域元素分析方法を説明するが、この実施例8は使用するイオン化用レーザパルスが異なるだけで、他の工程は上記の実施例7と全く同様であるので、タイミングチャートのみを示す。
【0113】
図18参照
上記の実施例7と全く同様に、(1)乃至(3)のエッチャントの供給、余剰エッチャントの排気、電子ビームの照射を行う。
【0114】
次いで、
(4′)電子ビーム照射開始のタイミングとパルスレーザ光の立ち上がりとが一致するように、光イオン化用のレーザパルスを照射し、表面から脱離したGaCl3 分子及びAsCl3 分子をプラスにイオン化する。
この場合、光源としては波長が193nmのArFエキシマレーザを用いて2光子過程によりイオン化する。
【0115】
以降は、再び、上記の実施例7と全く同様に(5)乃至(10)の工程を繰り返すことによって、平面状試料の分析が完了する。
【実施例9】
【0116】
次に、図19及び図20を参照して、本発明の実施例9の3次元微細領域元素分析方法を説明するが、この実施例9はエッチング用の電子ビームを収束せずに広範囲の領域に照射するとともに、位置敏感型の二次元検出器を用いるものである。
【0117】
図19参照
図19は、本発明の実施例9に用いる3次元微細領域元素分析装置の概念的構成図であり、真空容器71内に、平面状の被分析試料72を配置し、この被分析試料72の近傍にCl2 ガス源に接続されたコリメータ付パルスバルブ73を配置するとともに、エッチング用の電子銃74を配置し、また、被分析試料72から10mm程度離れた位置に引出電極75を配置するとともに、被分析試料72から数100mm離れた位置に位置敏感型検出器84し、両者の間に入口電極86、中間電極87及び出口電極88からなるアインツェルレンズ等のイオンレンズ85を配置し、また、真空容器71外には、脱離種をイオン化するためのイオン化レーザ77を配置する。
【0118】
この場合、被分析試料72を接地電位として引出電極75に数kVの加速電圧を印加するとともに、位置敏感検出器84、入口電極86及び出口電極88は引出電極75と等電位とする。
【0119】
また、中間電極87には加速電圧より数百〜数kV高い脱離イオン収束電圧を印加してアインツェルレンズを形成し、この場合の脱離イオン収束電圧はイオンレンズ85で収束された脱離種イオン83が出口電極88と同電位の位置敏感検出器84上に結像するように調整する。
【0120】
また、上記の実施例7と同様に、電子銃74には、数百V〜1kVの加速電圧を印加し、数百eV〜1keV程度のエネルギの電子ビームパルスを照射する。
但し、実施例9においては、分析範囲全体に同時に照射できる太いビーム径の電子ビーム89を照射するために収束ビームとしないものである。
【0121】
この場合の電流は、照射範囲の半径を70nmとすると面積は15,000nm2 であるので、実施例7と同様の電流密度にするとビーム電流は15μA程度必要となる。
しかし、上記の実施例1と同様の電流密度とすると分析領域全体から一斉に粒子が脱離してくるため、脱離粒子の数が多すぎて分析が困難になる。
【0122】
一般に、遅延線のような位置敏感検出器で飛行時間測定を行なおうとする場合、短い時間間隔での測定が可能であるものの、検出器に同時に入射する粒子は典型的には1個以下としなければならないので、電子ビームの電流は全体でナノアンペア程度とする必要がある。
【0123】
次に、図20を参照して分析工程を説明する。
図20参照
上述の実施例7と同様に、イオン化レーザ77以外の各構成要素は装置全体は真空容器内に設置し、試料の汚染を避けるために1×10-9Torr程度の超高真空とする。
まず、
(1)コリメータ付パルスバルブ73からCl2 からなるエッチャントビーム78を数10ms〜数100ms間放出し、GaAsからなる被分析試料72に塩素原子79を1原子層だけ吸着させ、次いで、
(2)余分なエッチャントを排気する。
【0124】
次いで、
(3)エッチャントが吸着した被分析試料72に対して10n秒程度のパルス状の電子ビーム89を位置敏感検出器84によって面内分解を行なうため収束せずに、例えば、半径が70nmの領域に照射してエッチングを行なう。
【0125】
次いで、
(4)電子ビーム照射終了のタイミングに合わせて光イオン化用のレーザパルス82を照射し、表面から脱離したGaCl3 分子及びAsCl3 分子をプラスにイオン化する。
この場合も、Ti:サファイアレーザからの波長が800nmの100f秒以下の極短パスルレーザ光を希ガスジェット等に照射することにより真空紫外から軟エックス線領域の高次高調波を発生させて使用する。
【0126】
次いで、
(5)電子ビーム照射終了と同時に引出電極75に脱離種イオン加速用の−数kVの電圧を印加することによって脱離種イオン83を位置敏感検出器84に向けて加速する。
この時刻が飛行時間型質量分析を行なう場合には時間ゼロになる。
【0127】
加速された脱離種イオン83はイオンレンズ85を通ることによって、位置敏感検出器84上に拡大した像として結像されて、脱離種イオン83の2次平面上の飛来位置が同定されることになる。
なお、SIMSにおいて、イオンレンズを用いて拡大投影することは知られている(例えば、実用新案登録第2520827号参照)。
【0128】
次いで、
(6)位置敏感検出器84で脱離種イオン83を検出する。
飛行時間型質量分析法を用いる場合、検出までの飛行時間で脱離種イオン83の質量が分かるので、脱離した元素を同定する。
【0129】
次いで、
(7)このような吸着したエッチャントによるエッチングが完了するまで、即ち、最表層の1/3原子層が完全に脱離するまで、上記の(4)〜(6)の工程を繰り返す。
なお、実用的には、予め反応が完了する繰り返し数を求めておいて、その回数だけ上記の電子ビーム照射以降の工程を繰り返しても良い。
なお、必要な数のデータが積算されてもエッチャントが残っている場合には大きい電流の電子ビームを照射して、分析を省略してエッチャントによる反応を完了させても構わない。
【0130】
次いで、
(8)上記の(1)に戻って次の層の分析を行なう。
この場合、(1)〜(7)の工程を3回繰り返すことによって、換算的に最表層の1原子層の分析が完了することになり、この繰り返しを必要とする分析深さまで行う。
【0131】
次いで、
(9)次の分析場所に電子ビームの照射位置を移動して(1)〜(8)を繰り返す。
一般的な面内全体の分析は電子ビームの照射位置をラスタ走査することによって行なうことができる。
【0132】
(10)面内の分析が終了したら、記録する深さ情報を単位深さ(層の厚み)だけ深くして、上記の(1)に戻り、次の層の分析を行ない、必要な深さだけ(1)〜(9)を繰り返して3次元分析を行なう。
【0133】
このように、本発明の実施例9においては、広い分析領域の分析を同時に行うことができるので、実施例7の場合に比べて分析時間を短縮することができる。
【実施例10】
【0134】
次に、図21を参照して、本発明の実施例10の3次元微細領域元素分析方法を説明するが、この実施例10は使用するイオン化用レーザパルスが異なるだけで、他の工程は上記の実施例9と全く同様であるので、タイミングチャートのみを示す。
【0135】
図21参照
上記の実施例9と全く同様に、(1)乃至(3)のエッチャントの供給、余剰エッチャントの排気、電子ビームの照射を行う。
【0136】
次いで、上記の実施例8と同様に、
(4′)電子ビーム照射開始のタイミングとパルスレーザ光の立ち上がりとが一致するように、光イオン化用のレーザパルスを照射し、表面から脱離したGaCl3 分子及びAsCl3 分子をプラスにイオン化する。
この場合も、光源としては波長が193nmのArFエキシマレーザを用いて2光子過程によりイオン化する。
【0137】
以降は、再び、上記の実施例9と全く同様に(5)乃至(10)の工程を繰り返すことによって、平面状試料の分析が完了する。
【0138】
以上、本発明の各実施例を説明してきたが、本発明は各実施例に記載した条件・構成に限られるものではなく、各種の変更が可能であり、例えば、各実施例に記載した装置の材質等はその性質さえ保てば任意に変更可能である。
【0139】
また、上記の各実施例においては、エッチャントとしてCl2 を用いているが、Cl2 に限られるものではなく、F2 或いはBr2 等の他のハロゲンガスでも良く、さらには、被分析試料を構成する元素の種類に応じてハロゲンガス以外のエッチャントを用いても良いものである。
【0140】
また、上記の各実施例においては、被分析試料をGaAsとしているが、GaAsに限られないことは言うまでもないことであり、InAs等の他のIII-V族化合物半導体、或いは、Si等のIV族半導体にも適用可能であり、さらには、半導体以外の金属材料にも適用可能である。
【0141】
例えば、金属のハロゲン化物は蒸気圧が高いので、金属試料に上記の実施例1に示した方法によって、Cl2 を吸着させ、その後にエネルギビームを用いて瞬間的に温度を上昇させて金属塩化物として脱離させれば良い。
【0142】
単結晶試料の場合、例えば、Niの(001)面では、Cl2 は解離吸着し、0.5ML(モノレイヤ)の吸着比率で吸着は飽和する。
その後、例えば、Nd:YAGの基本波や2倍波等からなる赤外〜可視光パルスレーザを用いて試料を瞬間的に数100Kまで加熱して熱脱離によってNiCl2 の形で脱離させれば良く、レーザ照射時刻を時間ゼロとして表面原子の元素分析を行なうことができる。
なお、レーザビームで加熱する部分を試料先端に限定すれば、熱は試料の柄の部分、試料ホルダと散逸するので試料は速やかに冷却される。
【0143】
また、上記の実施例1乃至実施例3においては、図示を簡単にするためにコリメータ付パルスバルブ全体を真空容器内に収容しているが、超高真空系に設置するためには、ベーキングを行うために、パルスバルブ部を真空容器外に設置して、キャピラリープレートのみを試料近傍になるように真空容器内に配置することが望ましい。
【0144】
また、上記の実施例4乃至実施例6においては固体電解質としてAgClを用いているが、AgBr等の他のハロゲン化銀を用いても良いものであり、さらには銀系に限られるものではなく、他のハロゲン化合物を用いても良いものである。
【0145】
また、上記の実施例4乃至実施例6においては陰極としてAgを用いているが、Agに限られるものではなく、他の金属でも良く、特に、固定電解質を構成する金属元素と同じ金属で構成することが望ましく、それによって、電気分解が進行して固定電解質を構成する金属元素が陰極に析出しても、電気分解の条件が変わることがない。
【0146】
また、上記の実施例4乃至実施例6においては陽極としてPtを用いているが、Ptに限られるものではなく、使用するエッチャントに対する耐性の高い金属であれば良い。
【0147】
また、上記の実施例2においてはイオン化アシストレーザとして3.5eV〜6.4eV相当の波長のエキシマレーザを用いているが、エキシマレーザに限られるものではなく、Nd:YAGレーザの3倍波(3.5eV)或いは4倍波(4.7eV)等の高調波を用いても良いものである。
【0148】
また、上記の実施例4においては、コリメータ部分を筐体と一体に構成しているが、このコリメータ部分はエッチャントであるハロゲンに腐食されない材質で独立した部品として作製しても良いものである。
【0149】
また、上記の実施例6において、エッチャント発生部から表面のみを通ってなるべく短距離で試料先端に到達する経路を確保しつつ、真空槽内へのガスの流出を防ぐためになるべく固体電解質が隠れるように構成してあるが、両側からクランプにする陽極の形状を固体電解質を間隙を介してほぼ完全に囲む形状とする、例えば、一対の水平断面が円弧状の陽極とすることによって、Cl2 の真空槽内への流出をより効果的に抑制することができる。
【0150】
また、上記の実施例3乃至実施例6においては、イオン化をイオン化電界による電界イオン化のみで行っているが、実施例2と同様にイオン化アシストレーザを併用しても良いものである。
【0151】
また、上記の各実施例においては、脱離した分子のイオン化に際して、少なくともイオン化電界を用いているが、イオン化電界を全く用いることなく、電子ビームを含む粒子ビーム、或いは、レーザビームを用いても良いものであり、この場合には、分子のイオン化ポテンシャルである10eV程度以上のエネルギーのエネルギービームを照射すれば良い。
【0152】
また、上記の実施例2及び実施例4乃至実施例6においては、被分析試料から飛翔してきたイオン化分子をそのまま検出器で検出しているが、実施例3と同様にリフレクトロンを介して検出しても良いものであり、それによって、精度の高い検出が可能になる。
【0153】
また、上記の各実施例においては、分子の脱離を電子ビーム照射によって行っているが、電子ビームに限られるものではなく、Arビーム等の他の粒子ビームを用いても良いものであり、さらには、レーザ光等の光ビームを用いても良いものである。
【0154】
また、上記の実施例7,8においては、引出電極で加速した脱離種イオンをそのまま飛行管を飛行させて荷電粒子検出器に入射させているが、検出効率を上げるために飛行管の途中にイオンレンズやコリメータを挿入しても良いし、或いは、質量分解能をあげるためにリフレクトロンを使用しても良いものである。
【0155】
また、上記の実施例7,8においては、質量分析を飛行時間型で行っているが、四重極質量分析器など、他の方式の質量分析方法を用いても良く、この場合は、飛行時間による制限を受けずに電子ビームおよびイオン化用光パルスならびに引出電圧印加の繰り返し周波数を高めることが可能になる。
但し、飛行時間型でない質量分析器を用いれば分析速度を高めることが可能であるが、同時には単一の質量の分子種しか検出できないため、飛行時間型と比較して質量分析部分の感度が低くなる。
【0156】
さらには、パルス化しない電子ビームを用いて引出電圧も印加したままで用いて、上述の(3)以降の工程まで連続的に行なうことも可能である。
この場合、引出電圧を印加した状態で電子ビームが所望の位置に照射されるように調整することは言うまでもない。
【0157】
また、上記の実施例9,10においては脱離種イオンの検出に時間分解可能な位置敏感検出器を用いているが、位置敏感検出器に限られるものではなく、蛍光板とCCDカメラを組み合わせて使用しても良いものである。
なお、蛍光板とCCDカメラの組み合わせでμ秒単位以下の時間分解測定を行なおうとする場合には、検出器面上の位置が異なれば同時に入射する粒子を検出可能であるが、検出器の測定速度の制限から数μ秒程度以下の時間間隔での連続測定はできず、トリガからの撮像時間をずらしながら同条件で繰り返し測定を行なわなければならず、たとえば50μ秒の期間を10n秒の分解能で測定するとすると50,000回の繰り返し測定が必要となる。
【0158】
測定が進行することによる条件( 残留粒子) の変化の影響を少なくするために、1組5,000回の繰り返し測定終了後にたとえば半数の表面原子が残っているようにすると、やはり全体でナノアンペア程度の電流とする必要がある。
【0159】
ここで再び図1を参照して、本発明の詳細な特徴を改めて説明する。
再び、図1参照
(付記1) 被分析試料1に吸着し、且つ、エネルギービーム5の照射によってエッチングが進行するガス種3を被分析試料1に供給したのち、エネルギービーム5を照射して前記被分析試料1のガス種3の吸着した部分のみを脱離させ、脱離した被分析試料1由来の粒子6の質量分析を行なうことによって被分析試料1表面の元素分析を行なうことを特徴とする3次元微細領域元素分析方法。
(付記2) 上記脱離した被分析試料1由来の粒子6をエネルギービーム5の照射或いは電界の印加の少なくとも一方によってイオン化したのち、印加した電界によって加速させて分析器に飛行させることを特徴とする付記1記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記3) 上記質量分析を行なう際に、飛行時間型の質量分析法を用いて元素分析を行なう付記1または2に記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記4) 上記質量分析を行なう際に、脱離の進行に対する元素分析のデータを記録することによって上記被分析試料1の表面から深さ方向への元素分布を分析することを特徴とする付記1乃至3のいずれか1に記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記5) 上記質量分析を行なう際に、上記脱離した被分析試料1由来の粒子6を位置敏感検出器に拡大投影することによって、前記粒子6の前記被分析試料1上の脱離位置を判別することを特徴とする付記1乃至4のいずれか1に記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記6) 上記質量分析を行なう際に、脱離の進行に対する被分析試料1由来の粒子6の脱離位置を記録することによって前記被分析試料1の3次元的元素分布を分析することを特徴とする付記5記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記7) 上記被分析試料が平面状試料であり、且つ、上記エネルギービームを収束して前記被分析試料に局所的に照射することを特徴とする付記1記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記8) 上記収束させたエネルギビームを上記分析試料の面上で走査して照射することを特徴とする付記7記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記9) 上記収束させたエネルギビームを走査する際に、前記エネルギービームの照射位置を吸着させたガス種の既脱離部分と一部重ねるよう前記エネルギービームを走査することを特徴とする付記8記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記10) 上記被分析試料が平面状試料であり、且つ、上記エネルギービームを収束せずに前記被分析試料に照射するとともに、上記脱離した被分析試料由来のイオン化した粒子を、イオンレンズによって2次元検出器上に結像させることを特徴とする付記1記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記11) 上記質量分析を行なう際に、エッチングの進行に対する元素分析のデータを記録することによって上記被分析試料1の表面から深さ方向への元素分布を分析することを特徴とする付記7乃至10のいずれか1に記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記12) 上記ガス種3の供給を、上記ガス種源に接続されたパルスバルブを用いてパルス的に供給することを特徴とする付記1乃至11のいずれか1に記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記13) 上記ガス種3の供給を、上記ガス種3を構成元素として含んだ固体電解質にパルス電気に電圧を印加してパルス的に供給することを特徴とする付記1乃至12のいずれか1に記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記14) 上記被分析試料が凸状試料であり、且つ、上記ガス種3の供給を、上記ガス種3を構成元素として含んだ固体電解質にパルス電気に電圧を印加して上記被分析試料1の下端部にパルス的に供給して表面に吸着させたのち、前記被分析試料1を加熱して前記吸着したガス種3を熱拡散させて前記被分析試料1の先端部の表面まで移動させることを特徴とする付記1乃至6のいずれか1に記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記15) 上記ガス種3が、ハロゲンであることを特徴とする付記1乃至14のいずれか1に記載の3次元微細領域元素分析方法。
(付記16) 被分析試料1に吸着し、且つ、エネルギービーム5の照射によってエッチングが進行するガス種3を被分析試料1に供給するガス種供給手段2、前記被分析試料1にエネルギービーム5を照射してエッチングを進行させて被分析試料1の表面からガス種3の吸着した部分のみを脱離させるエネルギービーム照射手段4、前記脱離した被分析試料1由来の粒子6をイオン化させるイオン化手段、前記イオン化した粒子6を加速して検出器7に飛行させる加速手段、及び、検出器7を少なくとも備えたことを特徴とする3次元微細領域元素分析装置。
(付記17) 上記イオン化した粒子6を、リフレクトロンを介して検出器7で検出することを特徴とする付記16記載の3次元微細領域元素分析装置。
(付記18) 上記ガス種供給手段2が、上記ガス種源に接続されたパルスバルブを含んでいることを特徴とする付記16または17に記載の3次元微細領域元素分析装置。
(付記19) 上記ガス種供給手段2が、上記ガス種3を構成元素として含んだ固体電解質及び前記固体電解質に電気分解のための電圧を印加する電圧印加手段を含んでいることを特徴とする付記17または18に記載の3次元微細領域元素分析装置。
(付記20) 上記ガス種供給手段2が、上記ガス種3を構成元素として含んだ固体電解質を収容した固体電解セルであることを特徴とする付記19記載の3次元微細領域元素分析装置。
(付記21) 上記固体電解セルが、上記被分析試料1を取り囲む、中空円筒状構造を有する固体電解セルであることを特徴とする付記20記載の3次元微細領域元素分析装置。
(付記22) 上記ガス種供給手段2が、陰極、前記陰極上に設けられ、上記ガス種3を構成元素として含むと共に上記被分析試料1の底部に間隙を介して前記陰極上に設けられた固体電解質、前記被分析試料1及び固体電解質をクランプして固定する陽極、及び、前記被分析試料1の温度を調整する加熱手段を少なくとも備えていることを特徴とする付記19記載の3次元微細領域元素分析装置。
(付記23) 上記ガス種3がハロゲンであり、且つ、上記固体電解質がハロゲン化銀であることを特徴とする付記11乃至23のいずれか1に記載の3次元微細領域元素分析装置。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明の活用例としては、GaAs等のIII-V族化合物半導体等の半導体を用いた試料の不純物濃度分布等の組成分布の分析が典型的であるが、GMR素子等の金属材料からなる多層薄膜積層構造の3次元構造解析にも適用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】本発明の原理的構成の説明図である。
【図2】本発明の実施例1に用いる3次元微細領域元素分析装置の概念的構成図である。
【図3】コリメータ付パルスバルブの概略的構成図である。
【図4】本発明の実施例1の3次元微細領域元素分析方法のタイミングチャートである。
【図5】本発明の実施例1の3次元微細領域元素分析方法における吸着−脱離状況の概念的説明図である。
【図6】本発明の実施例2に用いる3次元微細領域元素分析装置の概念的構成図である。
【図7】本発明の実施例2の3次元微細領域元素分析方法のタイミングチャートである。
【図8】本発明の実施例3に用いる3次元微細領域元素分析装置の概念的構成図である。
【図9】本発明の実施例4に用いる3次元微細領域元素分析装置の概念的構成図である。
【図10】固体電解セルの概略的構成図である。
【図11】本発明の実施例5の3次元微細領域元素分析装置に用いる固体電解セルの概略的要部切り欠き斜視図である。
【図12】本発明の実施例6の3次元微細領域元素分析装置を構成するエッチャント供給系近傍の概略的構成図である。
【図13】本発明の実施例7に用いる3次元微細領域元素分析装置の概念的構成図である。
【図14】本発明の実施例7の3次元微細領域元素分析方法のタイミングチャートである。
【図15】本発明の実施例7の3次元微細領域元素分析方法における吸着−脱離状況の途中までの概念的説明図である。
【図16】本発明の実施例7の3次元微細領域元素分析方法における吸着−脱離状況の図15以降の概念的説明図である。
【図17】本発明の実施例7の3次元微細領域元素分析方法における電子ビームの照射位置の移動状況の説明図である。
【図18】本発明の実施例8の3次元微細領域元素分析方法のタイミングチャートである。
【図19】本発明の実施例9に用いる3次元微細領域元素分析装置の概念的構成図である。
【図20】本発明の実施例9の3次元微細領域元素分析方法のタイミングチャートである。
【図21】本発明の実施例10の3次元微細領域元素分析方法のタイミングチャートである。
【図22】3次元アトムプローブ法の原理の説明図である。
【符号の説明】
【0162】
1 被分析試料
2 ガス種供給手段
3 ガス種
4 エネルギービーム照射手段
5 エネルギービーム
6 粒子
7 検出器
11 真空容器
12 被分析試料
13 コリメータ付パルスバルブ
14 電子銃
15 位置敏感検出器
16 エッチャントビーム
17 電子ビーム
18 塩素原子
19 電子ビーム加速電源
20 イオン化・投影電源
21 脱離種イオン
22 エキシマレーザ
23 レーザビーム
24 リフレクトロン
25 固体電解セル
30 パルスバルブ
31 筐体
32 オリフィス
33 ガス供給管
34 マグネット
35 ポペット
36 スプリング
37 ソレノイド
38 コリメータ
39 キャピラリプレート
40 ガスケット
41 絶縁性管状筐体
42 陰極
43 固体電解質
44 陽極
45 ヒータ
46 電解用電源
47 エッチャント供給スイッチ
51 筐体
52 ヒータ
53 陰極
54 陽極
55 固体電解質
56 電解用電源
57 エッチャント供給スイッチ
61 ホルダ
62 陰極
63 陽極
64 固体電解質
65 ヒータ
71 真空容器
72 被分析試料
73 コリメータ付パルスバルブ
74 電子銃
75 引出電極
76 イオン検出器
77 イオン化レーザ
78 エッチャントビーム
79 塩素原子
80 電子ビーム
81 脱離分子
82 レーザパルス
83 脱離種イオン
84 位置敏感型検出器
85 イオンレンズ
86 入口電極
87 中間電極
88 出口電極
89 電子ビーム
91 針状試料
92 位置敏感検出器
93 イオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被分析試料に飽和吸着し、且つ、エネルギービームの照射によってエッチングが進行するガス種を被分析試料に供給したのち、エネルギービームを照射して前記被分析試料のガス種の吸着した部分のみを脱離させ、脱離した被分析試料由来の粒子の質量分析を行なうことによって被分析試料表面の元素分析を行なうことを特徴とする3次元微細領域元素分析方法。
【請求項2】
上記脱離した被分析試料由来の粒子をエネルギービームの照射或いは電界の印加の少なくとも一方によってイオン化したのち、印加した電界によって加速させて分析器に飛行させることを特徴とする請求項1記載の3次元微細領域元素分析方法。
【請求項3】
上記被分析試料が平面状試料であり、且つ、上記エネルギービームを収束して前記被分析試料に局所的に照射することを特徴とする請求項1記載の3次元微細領域元素分析方法。
【請求項4】
上記被分析試料が平面状試料であり、且つ、上記脱離した被分析試料由来のイオン化した粒子を、イオンレンズによって2次元検出器上に結像させることを特徴とする請求項1記載の3次元微細領域元素分析方法。
【請求項5】
被分析試料に飽和吸着し、且つ、エネルギービームの照射によってエッチングが進行するガス種を被分析試料に供給するガス種供給手段、前記被分析試料にエネルギービームを照射してエッチングを進行させて前記被分析試料の表面からガス種の吸着した部分のみを脱離させるエネルギービーム照射手段、前記脱離した被分析試料由来の粒子をイオン化させるイオン化手段、前記イオン化した粒子を加速して検出器に飛行させる加速手段、及び、検出器を少なくとも備えたことを特徴とする3次元微細領域元素分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2006−78470(P2006−78470A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225006(P2005−225006)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】