説明

3次元測位システム

【課題】構造物内において、GPS等の衛星通信を利用することなく、3次元測位を可能にする。
【解決手段】3次元測位システム50は、移動可能に配置された無線センサー端末100と、サーバー300と、屋内に配した複数の無線基地局1a〜3hとを有する。サーバーと複数の無線基地局とはLAN接続されている。LANシステムとの間で無線通信可能な基準面用無線センサー端末150a〜150cを、屋内に配置する。無線センサー端末および基準面用無線センサー端末は、ともに周囲の気圧を検出する気圧検出手段を有する。サーバーは基準面用無線センサー端末が配置された基準面11〜13の高度情報を有するとともに基準面用無線センサー端末および無線センサー端末の気圧検出手段が検出した気圧に基づいて、無線センサー端末の高度位置を測位する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線センサーネットワークシステムを利用した3次元測位システムに係り、特に大型構造物内部の移動局を計測するのに好適な3次元測位システムに関する。
【背景技術】
【0002】
情報取得のための配線が不要である利点から利用される無線センサネットワークシステムでは、温湿度、圧力、振動、音、位置などの情報を、センサーが接続された無線通信端末から取得する。その際、無線センサー端末からの情報を受信するデータ収集端末と、無線センサー端末とデータ収集端末間を通信する無線媒体が必要となる。
【0003】
この無線センサネットワークシステムを用いて、これまでの物理量の情報に代わり位置情報をモニタリングし、得られた位置情報と地図情報と結びつけて、物流管理や入退室管理をする新しいアプリケーションが適用されつつある。この様な新規のアプリケーションの利用の例が、特許文献1ないし特許文献5に記載されている。
【0004】
例えば特許文献1では、移動局と複数の基地局を用いて3次元測位をしている。具体的には、移動局から発信された電波を複数の基地局が受信し、それぞれの基地局が受信した電波の受信時刻情報と、前記複数の基地局の既知位置情報とに基づいて、移動局の3次元位置を算出する。そして、移動局の位置算出においては、通常4個の基地局からの情報を必要とするのに対して、少なくとも1つの基地局からの情報が得られれば、位置を算出可能にしている。
【0005】
新規なアプリケーションの他の例が、特許文献2に記載されている。この特許文献2に記載のシステムは、周囲の基地局に依存することなく自立的に3次元測位するシステムであり、加速度センサーやジャイロセンサーを用いて自律的に2次元の位置を検出し、高さ方向の位置は気圧センサーで検出して、3次元位置情報を得ている。そのため、最初に静止している状態を検出し、この静止状態で加速度センサーやジャイロセンサー情報と、位置や速度を初期化する。移動体が移動を開始したときの加速度または角速度を連続で常時計測・保存し、定期的にデータを送信する。そして、計測した加速度と角速度を2重積分して変位に変換し、位置を演算している。
【0006】
3次元測位の他の例として、GPS(Global Positioning System)を用いた例が、特許文献3ないし特許文献5に記載されている。この中で、特許文献3に記載のシステムでは、GPSにより2次元測位を実施して場所を特定し、特定した場所の基準気圧を通信機能を用いて外部から取得している。そして、測定対象に備えた気圧センサーが検出した気圧と前記基準気圧とを用いて、特定した場所の高度を算出している。これにより、GPSだけを用いた3次元測位よりも時間を短縮している。
【0007】
特許文献4に記載のシステムでは、GPSだけを用いた3次元測位の結果を、方位検出手段が地球の磁力線を利用して検出した方位で補正している。なお、高度検出手段が検出した高さ位置で、高度も補正可能になっている。また、特許文献5には、GPSだけを用いて次元測位を実施する。その後、測位情報中の高度情報と、気圧計または道路地図データベースから求めた絶対高度とを比較し、その差が閾値以下となるGPSの組み合わせを選択して測位位置を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−216474号公報
【特許文献2】特開2006−162364号公報
【特許文献3】特開2008−241467号公報
【特許文献4】特開2003−28660号公報
【特許文献5】特開2008−139247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載の3次元測位システムにおいては、移動局から発信された電波を複数の基地局で受信し各基地局が受信した時刻情報と、既知の基地局の位置情報とから移動局の位置を演算している。この特許文献1に記載のシステムは、移動局と基地局間が直接無線通信可能な場合には有効な方法である。しかしながら、移動局と基地局の間に障害物があったり、移動局と基地局間で直接の通信が困難である場合等には、精度良い測位が困難である。つまり、屋内の複雑な構造物の内部では、移動局と基地局の間に障害物が存在する可能性が大きく正確に測位できない。また、現時点では障害物が無くても環境の変化が予想され反射波を生じるような障害物が将来的に存在するときには、直接波を利用できなくなり測位精度が大きく低下する。
【0010】
上記特許文献2に記載の3次元測位システムでは、周囲の基地局に依存することなく、移動体自身が備えるセンサー類を用いて3次元の位置を計測している。そして、位置の演算においては、加速度センサーやジャイロセンサー、気圧センサーを用いて常時計測し、その計測情報を保存するとともに情報を外部と無線通信している。この様な計測や演算、記憶のためには電池が提供できる電力などよりも大きな電力が必要になり、電池駆動の移動体端末での実現が困難になる。
【0011】
また、加速度センサーとジャイロセンサーだけでは、移動体の向きと方位を計測することが不可能なので、移動体の初期状態の把握が必要となる。移動体の向きと初期位置、およびどの方向に移動し始めたかを正確に把握していなければ、移動後の位置を精度良く計測することができない。この初期位置および移動方向を把握した結果が実際と異なると、精度の低下が著しくなる。したがって、屋内の複雑な構造物の内部で、移動体が複雑な動きをすると、測位精度が大きく低下するおそれがある。
【0012】
上記特許文献3ないし特許文献5に記載の3次元測位システムでは、GPSを利用することを前提にし、GPSによる3次元位置の計測結果を補正して、正確な位置検出としている。そのため、地磁気センサーや気圧センサー、外部からの高度情報(基準気圧情報)、概略位置情報を利用して、精度向上を図っている。しかし、屋内の複雑な構造物の内部ではGPSによる計測が困難であり、仮に少数のGPS衛星と通信が出来ても、3次元測位に必要な4個以上の衛星からの情報を得られないことが予想される。特に、周囲に構造物がある場合には、高さ方向の正確な位置を求めることは非常に困難になる。
【0013】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、構造物内において、GPS等の衛星通信を利用することなく、3次元測位を可能にすることにある。本発明の他の目的は、構造物内において、障害物や環境の変化に影響されずに3次元測位することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成する本発明の特徴は、移動可能に配置された無線センサー端末と、サーバーおよび屋内に配した複数の無線基地局をネットワーク接続した無線センサーネットワークシステムとを有し、前記無線センサー端末と前記ネットワークシステム間で無線通信して前記無線センサー端末の3次元位置を測位する3次元測位システムにおいて、前記無線センサーネットワークシステムと無線通信可能な基準面用無線センサー端末を屋内の予め定めた基準位置に配置し、前記無線センサー端末および前記基準面用無線センサー端末はともに周囲の気圧を検出する気圧検出手段を有し、前記サーバーは前記基準面用無線センサーが配置された基準面の高度情報を有するとともに前記基準面用無線センサー端末および前記無線センサー端末の気圧検出手段が検出した気圧に基づいて、前記無線センサー端末の高度位置を測位する測位手段を有することにある。
【0015】
そしてこの特徴において、前記無線センサー端末は、前記複数の無線基地局から発信される電波を受信してその受信強度を当該無線基地局情報とともに記憶し、さらに最大受信強度の無線基地局を選定し、前記選定した無線基地局へ記憶した受信強度情報と無線基地局情報とを送信し、前記サーバーの前記測位手段は前記無線ネットワークシステムを介して送信された前記受信強度情報と前記無線基地局情報から前記無線センサー端末の2次元位置を測位することを特徴とする請求項1に記載の3次元測位システム。
前記基準面用無線センサー端末は、異なる高さに複数配置されており、前記サーバーは前記無線センサー端末が通信可能な基準面用無線センサー端末の情報に基づいて、前記無線センサー端末の高度位置を測位することが好ましい。
【0016】
また上記特徴において、前記サーバーの測位手段は記憶手段を有し、前記基準面用無線センサー端末が検出した気圧情報を周期的にこの記憶手段に記憶し、前記測位手段は、前記無線センサー端末から周期的に送信さる気圧情報と前記記憶手段に記憶された前記基準面用無線センサーが検出した気圧情報との差分を演算して前記無線センサーの高度位置を測位するものであってもよく、前記無線センサー端末は温度検出部を有し、前記基準面用無線センサー端末も温度検出部を有し、前記サーバーの測位手段は、これら温度検出手段が検出した温度情報に基づいて前記気圧情報を補正して前記無線センサー端末の高度位置を測位するものであてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、構造物内に配置された複数の無線基地局の中であって、移動局が受信した信号の受信強度の最も高いいくつかの無線基地局の位置情報と気圧情報とを3次元測位サーバが利用できるので、構造物内において、GPS等の衛星通信を利用することなく、3次元測位が可能になる。また、気圧情報により移動局の高さを求めることができるので、構造物内において、障害物や環境が変化してもそれらに影響されずに3次元測位できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る無線センサー端末の一実施例のブロック図である。
【図2】本発明に係る3次元測位システムの一実施例の斜視図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施例を説明する。なお、各図の説明において、共通な機能を有する構成要素には同一の参照番号を付している。図1は、本発明に係る無線センサー端末100のブロック図であり、図2は、図1に示した無線センサー端末100を含む3次元測位システム50の一実施例を適用した構造物(建物)200の斜視図および断面図である。
【0020】
図1において、建物200の内部を移動する移動体(者)が備える無線センサー端末100は、中央演算装置107と、中央演算装置107の周囲に配置された気圧検出部101および温度検出部102と、無線通信部103とを備えている。中央演算装置107は、気圧検出部101および温度検出部102、無線通信部103を制御する。無線通信部103はデータ送受信用の無線媒体であり、中央演算装置107に接続されている。無線通信部103は、無線アンテナ104を経由して様々な情報等のデータを送信するとともに、後述する無線基地局1a〜3hとの間でデータを送受信する。
【0021】
気圧検出部101は気圧センサーを備え、無線センサー端末100の周囲の気圧を検出し、検出した気圧の情報を中央演算装置107に出力する。気圧センサーは、半導体製造技術を応用して製造された半導体センサーであり、気圧値をデジタル信号として出力可能である。半導体センサーはチップ形状であり、非常に小型であることから、機器への組込みも容易で、無線センサー端末100への組み込みが容易になっている。半導体センサーが検出する気圧の分解能は、0.01hPa程度であり、高度に換算すると約83mmの分解能である(海面気圧が1013.25hPaの場合)。すなわち、本気圧センサーを用いると、約83mmの高度の変化を検出することが可能である。
【0022】
温度検出部102は温度センサーを備えており、無線センサー端末100の周囲の温度を検出し、検出した温度の情報を中央演算装置107に出力する。気圧センサーと同様に、半導体センサーを用いている。温度検出部102が検出した温度情報は、気圧検出部101が検出した気圧情報を補正するのに用いられる。
【0023】
気圧検出部101と温度検出部102、無線通信部103は、それぞれが中央演算装置107により制御される。そして、気圧情報や温度情報等のデータは、無線センサー端末100から後述するLAN400を介して3次元測位サーバー300へ定期的に無線送信される。なお、105は無線センサー端末内の各ブロックに電力を供給する電源部105、106は電源部105に電源を供給するバッテリーである。
【0024】
本実施例で示した気圧センサーおよび温度センサーを用いた気圧の算出式を、式(1)に示す。気圧情報は温度の影響を受けるので、正確な気圧を演算するために、気圧センサーが検出した気圧情報を、無線センサー端末100の周囲の温度情報を用いて補正する。これらの演算は、3次元測位サーバー300の図示しない測位手段が実行する。
【0025】
【数1】

このような無線センサー端末100を移動体(者)が備え、建物200内を移動する場合の例を、図2を用いて説明する。図2(a)は、本発明に係る3次元測位システム50を備えた建物200の一部を示す斜視図であり、図2(b)は建物200全体の断面図である。建物200は3階構造であり、下から順に第1フロア201、第2フロア202、第3フロア203となっている。
【0026】
各フロア201〜203の角部の1箇所であって高さが既知のところに基準面用無線センサー端末150a〜150cが、各フロア201〜03の天井部であって壁際の角部と各角部の中間となる壁部には、無線基地局1a〜3hが配置されている。第1フロア201の角部には3次元測位サーバー300が配置されている。
【0027】
各フロア201〜203の天井部に配置した無線基地局1a〜3hと、3次元測位サーバー300は、LAN(Local Area Network)で接続されている。すなわち、各フロア201〜203ごとに、そのフロア201〜203に設けた無線基地局1a〜1h;2a〜2h;3a〜3h同士をLAN400で接続し、異なるフロア201〜203からそれぞれ無線基地局1e、2e、3eを1局ずつ選んで、LAN接続している。なお、図2(b)では、3次元測位サーバー300を第1フロア201に設置しているが、LAN400に接続されていればどのフロア201〜203に設置してもよい。
【0028】
基準面用無線センサー端末150a〜150cは、自身が位置するフロア201;202;203の全ての無線基地局1a〜1h;2a〜2h;3a〜3hにアクセスが可能であり、無線による情報の送受信が可能となっている。。建物200内を移動する無線センサー端末100は、自身が位置するフロア201;202;203の全ての無線基地局1a〜1h;2a〜2h;3a〜3hにアクセスが可能であり、図2(b)の場合には、無線基地局2a〜2hと無線通信可能である。
【0029】
このように構成した3次元測位システム50について、その測位方法を以下に説明する。各フロア201〜203に複数個の無線基地局1a〜1bが配置されているので、建物200内はどこでも無線通信範囲内になっている。全ての無線基地局1a〜3hは、LAN400を構成し、お互いに情報を送受信可能である。また、3次元測位サーバー300は、全無線基地局1a〜3hと情報の送受信が可能である。
【0030】
無線センサー端末100は移動体であるから、建物200内の任意の位置に移動可能であるが、基準面用無線センサー端末150a〜150cは、各フロア201〜203の任意の基準面に固定されて設置されているので、移動しない。したがって、以下の説明では、無線センサー端末100について3次元測位するものとし、測位対象の無線センサー端末100は1個だけで、建物200内の第2フロア202に配置されているとする。
【0031】
図2(a)を用いて、2次元位置情報の算出について説明する。なお、図2(a)内に設置されている基準面用無線センサー端末150bについては、後に詳述する。第2フロア202内には基地局2a〜2hが8個設置されており、無線センサー端末100が移動可能にこのフロア202に配置されている。各基地局2a〜2hは、定期的にビーコンと呼ばれる電波を周囲に発信している。無線センサー端末100の図1に示した無線通信部103は、各基地局2a〜2hから定期的に発信される電波をスキャンして、この無線センサー端末100の周囲にある複数の無線基地局2a〜2hの情報を取得する。ここで、無線センサー端末100が取得する無線基地局2a〜2hの情報は、無線基地局2a〜2hの識別番号と、無線基地局2a〜2hからの電波の受信強度の2種類である。
【0032】
無線センサー端末100は、無線通信部103が取得した複数の無線基地局2a〜2hの情報を中央演算装置107に集約し、記憶する。これらの情報は、定期的な電波のスキャンにより更新される。そして、無線通信部103から、第2フロア202内の最も受信強度の大きい無線基地局2gを介して、3次元測位サーバー300に定期的に送信する。この無線基地局2gを介した通信では、無線センサー端末100から最も強度の大きい無線基地局のアドレス等の情報を最初に送ることで、その基地局だけが無線センサー端末100からの情報を入手可能となる。
【0033】
無線センサー端末100から無線基地局2a〜2hまでの情報伝達には無線通信を利用し、無線基地局2a〜2hから3次元測位サーバー300までの情報伝達にはLAN400を用いている。3次元測位サーバー300は、送信されたこれらの情報を記録するとともに、定期的な送信毎に記録を更新する。送信周期は、無線センサー端末100が移動者に備えられる場合であれば、通常の人間の動作および移動に対応できる数秒周期でよい。
【0034】
無線センサー端末100が情報を取得可能な無線基地局2a〜2hは、第2フロア202内であって無線通信が可能な範囲の無線基地局に限定される。そのため、無線センサー端末100の近くに位置する無線基地局の情報、例えば無線基地局2f、2g、2hの情報だけが、3次元測位サーバー300に送信される。
【0035】
さらに、無線センサー端末100の現在位置により近い無線基地局2gから発信される電波の受信強度が、無線基地局2f、2hから発信される電波の受信強度より大きな値となる。ここで、無線通信が可能な範囲に位置する無線基地局2f〜2gから発信される電波の受信強度値は、無線センサー端末100の受信能力および無線基地局2f〜2gの送信能力、建物200の構造等に影響されるので、3次元測位サーバー300に送信される無線基地局数は、これらの因子により変化する。
【0036】
【表1】

上記表1は、図2(a)に示した場合における、無線センサー端末100の周囲の無線基地局2f〜2gの識別番号と、各無線基地局2f〜2gの電波の受信強度との関係を説明する表である。無線センサー端末100が各無線基地局2a〜2hが発信する電波をスキャンした結果、通信可能な範囲に無線基地局2f〜2gを3局見つけ出した場合である。
【0037】
見つけ出した無線基地局2f〜2gの識別番号は、00:00:00:00:00:06、00:00:00:00:00:07、00:00:00:00:00:08である。このとき各無線基地局2f〜2gの電波の受信強度は、それぞれ、150、201、170であった。受信強度の値は、数値が大きければ受信強度が大きいことを意味する。なお、この値そのものは例示的なものである。図3の結果の場合、識別番号が00:00:00:00:00:07の無線基地局2gの電波の受信強度が一番大きいので、無線センサー端末100は、識別番号が00:00:00:00:00:07で表される無線基地局の近くに存在することがわかる。
【0038】
ここで、3次元測位サーバー300には、予め各無線基地局1a〜3hの識別番号と、各無線基地局1a〜3hの設置位置が記録されている。本実施例の場合、識別番号が00:00:00:00:00:07の無線基地局は、第2フロア202の無線基地局2gであり、図2(a)で左手前角の天井部に相当する位置に設置されていることが記録されている。したがって、3次元測位サーバー300は、これらの情報から無線センサー端末100が第2フロアの無線基地局2gの近くにいると算出する。このように、移動する移動体(者)が携行する無線センサー端末100の周囲に配置された複数の無線基地局の情報を用いれば、容易に移動体(者)の2次元位置を算出できる。
【0039】
次に、図2(b)を用いて、高さ位置情報を算出する方法を説明する。各フロア201〜203には、基準面用無線センサー端末150a〜150cが設置されている。ここで、基準面用無線センサー端末150が設置されているところには基準面11〜13が設定されており、基準面11〜13の海抜高度hは予め知られているものとする。たとえば、基準面11〜13の海抜高度hは、建物200が設置されている地域の地理情報と建物200の構造情報から容易に算出することが可能である。
【0040】
この基準面11〜13と海抜高度hの情報は、3次元測位サーバー300に予め記録されている。基準面用無線センサー端末150a〜150cは、無線センサー端末100と同一構造であり、基準面11〜13における気圧情報と温度情報を、気圧検出部101および温度検出部102を用いて取得する。なお、3次元測位サーバー300に定期的に送信するために、基準面用無線センサー端末150a〜150cを他の場所に移動せず、常に同じ海抜高度である基準面に静置する。
【0041】
上述した無線センサー端末100と同様に、基準面用無線センサー端末150は、気圧検出部101が取得した気圧情報と、温度検出部102が取得した温度情報を中央演算装置107に集約する。そして、無線通信部103を用いてフロア201〜203内の無線基地局1a〜3hと通信し、気圧情報と温度情報を3次元測位サーバー300に送信する。
【0042】
このようにして、3次元測位サーバー300には、基準面11〜13に設置した基準面用無線センサー端末150a〜150cから、基準面11〜13における気圧情報と温度情報が送信される。
【0043】
【表2】

上記表2に、第1ないし第3フロア201〜203における各基準面11〜13の海抜高度hの情報と、各基準面11〜13に設置した基準面用無線センサー端末150a〜150cが送信する気圧情報と温度情報の関係を示す。これらの情報は、3次元測位サーバー300に記録される。ここで、気圧情報と温度情報に限っては、基準面用無線センサー端末150a〜150cが定期的に送信するので、送信毎にその値が更新される。無線センサー端末100を人間に携行させる場合には、送信周期は、通常の人間の動作および移動に対応できる数秒周期でよい。
【0044】
基準面用無線センサー端末150a〜150cを設けている理由は、海面気圧を算出すことにある。海面気圧は、3次元測位サーバー300で算出する。ここで、基準面用無線センサー端末150a〜150cのデータを用いると、(式1)は(式2)のように変換できる。
【0045】
【数2】

(式2)から、海面気圧情報Pは、基準面用無線センサー端末150a〜150cの周囲の気圧情報Pと、基準面用無線センサー端末150a〜150cの周囲の温度情報T、基準面用無線センサー端末150a〜150cが設置された基準面11〜13の海抜高度hを用いて算出される。ここで気圧情報Pと温度情報Tについては、基準面用無線センサー端末150a〜150cから3次元測位サーバー300に送信される。海抜高度hは、上記のように既知であるから、これらの情報により海面気圧情報Pを算出する。
【0046】
表2のデータを用いて海面気圧Pを算出する。第1フロア201の情報から算出された海面気圧Pは1014.37hPa、第2フロア202の情報から算出された海面気圧Pは1014.33hPa、第3フロアの情報から算出された海面気圧Pは1014.31hPaである。ここで、基準面用無線センサー端末150a〜150cの気圧情報Pと温度情報Tは定期的に送信されてデータ更新されるから、各フロア201〜203の情報から算出した海面気圧P情報も、その都度更新される。つまり、天候が変化し、周囲の気圧が経時変化しても、海面気圧Pの情報が刻々更新される。
【0047】
このように、基準面用無線センサー端末150a〜150cの測定誤差や、基準面用無線センサー端末150a〜150cの周囲の環境の違いにより、算出される海面気圧Pの値に誤差が生じる可能性があるが、算出した海面気圧Pはほぼ同じ値になる筈である。海面気圧Pの値は、基準面用無線センサー端末150a〜150cのいずれかの検出値からでも算出可能である。しかしながら複数個の基準面用無線センサー端末150a〜150cを設置すれば、測定誤差を低減できる。ここで、3次元測位サーバー300は、各フロア201〜203の情報から算出した各海面気圧Pの平均値を、以後の高度演算用の海面気圧Pの値とする。すなわち、表2で示した例の場合には、海面気圧Pとして3個の海面気圧Pの平均値である1014.34hPaを用いる。
【0048】
移動体である無線センサー端末100の高度は、以下のようにして算出できる。ここで、無線センサー端末100の気圧情報は、(式1)を変換した(式3)で示される。
【0049】
【数3】

(式3)から、無線センサー端末100の高度は、無線センサー端末100の周囲の気圧情報Pと、無線センサー端末100の周囲の温度情報Tと、基準面用無線センサー端末150a〜150cの情報から算出した海面気圧情報Pを用いて算出される。ここで、気圧Pと温度Tは、無線センサー端末100から3次元測位サーバー300に送信された情報であり、海面気圧Pの情報は、前述したように基準面用無線センサー端末150a〜150cの情報から算出した値である。これらの情報を用いて、無線センサー端末100の高度を算出する。
【0050】
【表3】

上記表3は、無線センサー端末100から送信された、無線センサー端末100周囲の気圧情報Pと、無線センサー端末100周囲の温度情報Pとを示している。これらの情報は、3次元測位サーバー300に記録され、無線センサー端末100から定期的に送信される。そして送信毎に、それぞれの記録値が更新される。ここで、表2のデータを用いて算出した海面気圧情報Pと、表3に示す無線センサー端末100周りの情報とを用いれば、無線センサー端末100の高度が(式4)から算出される。
【0051】
【数4】

このように、海抜高度hが既知の基準面11〜13における気圧情報Pを用いると、容易に移動体の高度を算出できる。なお、上記各高度計算においては、(式1)を基本として高度計算しているが、経験則等に基づく独自の関数f(h,P,P,T)=0を用いて、高度計算しても良い。
【0052】
本実施例によれば、無線センサー端末100周囲の無線基地局情報1a〜3hと、気圧情報Pとを用いることにより、無線センサー端末100の3次元位置を算出可能である。また、本実施例では、無線センサー端末100が建物200内の屋内を移動し、GPSとの通信が不可能な条件を想定している。このような条件下でも、建物200内に複数の無線基地局1a〜3hを設置すれば、GPS等の衛星を利用しなくても無線センサー端末100の2次元位置を演算できる。
【0053】
従来の測位法で用いた直接波による複雑な3辺測位方式では、被測位体の周囲が複雑な構造の場合や被測位体の周囲環境が変化する場合には、直接波が届かず反射波による測位になり、測定精度が劣化する場合があった。本実施例では、複数配置した無線基地局の中で、電波の受信強度が一番大きい無線基地局に移動体が最も接近しているものとしているので、複雑な構造や環境が変化する場合でも、測位精度の劣化を防止できる2次元位置測定が可能である。
【0054】
また、移動体の高さを演算する際に、定期的に更新される静止した基準面の気圧情報を利用しているので、天候の変化などによる気圧の経時変化にも対応できる。特に、建設現場のような複雑な構造物を建設する現場では、現場環境が刻々と変化するが、そのような場合でも移動体の3次元測位を高精度に実施できる。
【0055】
なお、上記実施例では無線センサー端末と基準面用無線センサー端末を同一構造としているが、必ずしも同一構造である必要はなく、機能が同一であればよい。また、必ずしも機能のすべてが同一である必要はなく、用は圧力と温度を検出可能で、通信機能と記憶機能があればよい。
【符号の説明】
【0056】
1a〜3h…無線基地局、11〜13…基準面、100…無線センサー端末、101…気圧検出部、102…温度検出部、103…無線通信部、104…無線アンテナ、105…電源部、106…バッテリー、107…中央演算装置、150a〜150c…基準面用無線センサー端末、200…建物、201…第1フロア、202…第2フロア、203…第3フロア、300…3次元測位サーバー、400…LAN、500…無線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動可能に配置された無線センサー端末と、サーバーと屋内に配した複数の無線基地局をネットワーク接続した無線センサーネットワークシステムを有し、前記無線センサー端末と前記ネットワークシステム間で無線通信して前記無線センサー端末の3次元位置を測位する3次元測位システムにおいて、
前記無線センサーネットワークシステムと無線通信可能な基準面用無線センサー端末を屋内の予め定めた基準位置に配置し、前記無線センサー端末および前記基準面用無線センサー端末はともに周囲の気圧を検出する気圧検出手段を有し、前記サーバーは前記基準面用無線センサーが配置された基準面の高度情報を有するとともに前記基準面用無線センサー端末および前記無線センサー端末の気圧検出手段が検出した気圧に基づいて、前記無線センサー端末の高度位置を測位する測位手段を有することを特徴とする3次元測位システム。
【請求項2】
前記無線センサー端末は、前記複数の無線基地局から発信される電波を受信してその受信強度を当該無線基地局情報とともに記憶し、さらに最大受信強度の無線基地局を選定し、前記選定した無線基地局に記憶した受信強度情報と無線基地局情報を送信し、前記サーバーの前記測位手段は前記無線ネットワークシステムを介して送信された前記受信強度情報と前記無線基地局情報から前記無線センサー端末の2次元位置を測位することを特徴とする請求項1に記載の3次元測位システム。
【請求項3】
前記基準面用無線センサー端末は、異なる高さに複数配置されており、前記サーバーは前記無線センサー端末が通信可能な基準面用無線センサー端末の情報に基づいて、前記無線センサー端末の高度位置を測位することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の3次元測位システム。
【請求項4】
前記サーバーの測位手段は記憶手段を有し、前記基準面用無線センサー端末が検出した気圧情報を周期的にこの記憶手段に記憶し、前記測位手段は、前記無線センサー端末から周期的に送信さる気圧情報と前記記憶手段に記憶された前記基準面用無線センサーが検出した気圧情報との差分を演算して前記無線センサーの高度位置を測位することを特徴とする請求項3に記載の3次元測位システム。
【請求項5】
前記無線センサー端末は温度検出部を有し、前記基準面用無線センサー端末も温度検出部を有し、前記サーバーの測位手段は、これら温度検出手段が検出した温度情報に基づいて前記気圧情報を補正して前記無線センサー端末の高度位置を測位することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の3次元測位システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−2933(P2013−2933A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133827(P2011−133827)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】