説明

3次元測定機検証用長尺ゲージ

【課題】 構造が簡単で容易に製造することができ、且つ、プローブ先端の向きによる測定誤差の検証にも使用することができる、高精度な3次元測定機検証用長尺ゲージを提供する。
【解決手段】 3次元測定機のプローブが当接する基準測定面となる基準孔1Bが、上面と下面間を貫通して長手方向に沿って複数配列されている横断面矩形状の長尺なゲージ本体1Aと、前記ゲージ本体の下面とこれに直角な一方の側面に突設された複数の支持脚1aとを備えている。これらの支持脚は、前記下面と前記一方の側面のそれぞれの長手方向両端近傍位置と中央位置に、扁平な2等辺3角形の頂点となる配置で突設され、ゲージ本体は、これらの下面または一方の側面の何れかの支持脚で3次元測定機の測定テーブル面に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元測定機の精度検査や測定誤差の校正に使用する3次元測定機検証用ゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエンジンや変速機のケース類のような機械部品類の寸法測定には、測定テーブル(ベッド)上にセッティングした被測定物に対して3次元方向に移動できるプローブ(測定子)の先端を接触させて接触点の座標を測定するようにした3次元測定機が広く用いられている。
【0003】
このような3次元測定機は、測定精度を維持するために、高精度に仕上げられた基準となる検証用ゲージを用いて、定期的に精度の検査や測定誤差の校正が行われている。
【0004】
従来提案されている3次元測定機の検証用ゲージとしては、例えば、特許文献1に記載されているようなボールステップゲージがある。これは、長尺なゲージ枠体の軸線に沿って複数個の穴を設け、それぞれの穴に3次元測定機のプローブが接触するボールが圧入されて固定されたものであり、3次元測定機により測定された異なるボール間の距離等のデータを、当該ボールステップゲージの基準値と比較することにより、当該3次元測定機の精度の評価を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−4358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に開示されている検証用ゲージ(ボールステップゲージ)においては、長尺の断面H形のゲージ枠体の長手方向に、複数の穴を設けてそれぞれの穴にボールを固定しているとともに、ボールの周囲には、プローブを侵入させるための4個の溝が形成されている構造になっており、形状や構造が複雑で、製造に多くの工程を必要とする問題があった。
【0007】
また、ボール表面の座標値を測定するために、プローブをゲージ枠体のボール周囲に形成されている溝内に侵入させる必要があり、測定作業に手間がかかるとともに、測定点が、ボール周囲の溝内の4箇所にのみに限定されてしまう問題があった。
【0008】
また、プローブ先端を異なる向きから被測定面に当接できる構造の3次元測定機においては、プローブ先端の向きによって、測定される座標値の間に差が生じる可能性があり、3次元測定機の測定精度を評価する際には、このようなプローブの向きによる測定誤差についても検証する必要がある。
【0009】
しかしながら、前記特許文献1に開示されている検証用ゲージは、プローブを垂直姿勢で上方から被測定面に当接させることを前提とした構造であるため、例えば、プローブ先端を水平方向に互いに180°異なる方向から被測定面に当接させて、プローブの向きによる測定誤差を検証しようとする場合には不向きであった。
【0010】
そこで、本発明は、前述したような、従来の3次元測定機の検証用ゲージにおける問題を解消し、構造が簡単で容易に製造することができ、且つ、プローブ先端の向きによる測定誤差の検証にも使用することができる、高精度な3次元測定機検証用長尺ゲージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的のために提供される本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージは、3次元測定機のプローブが当接する基準測定面となる基準孔が、上面と下面間を貫通して長手方向に沿って複数配列されている、熱膨張係数が小さく寸法安定性に優れた素材からなる横断面矩形状の長尺なゲージ本体と、前記ゲージ本体の下面とこれに直角な一方の側面にそれぞれ突設された複数の支持脚とを備え、前記支持脚は、前記下面と一方の側面のそれぞれの長手方向両端近傍位置と中央位置に、扁平な2等辺3角形の頂点となる配置で突設され、これらの支持脚により、ゲージ本体が前記下面または一方の側面を選択的に前記3次元測定機の測定テーブル面に向けて3点支持されるようにしたことを特徴としている。
【0012】
前記の3次元測定機検証用長尺ゲージにおいては、ゲージ本体の下面とこれに直角な一方の側面にそれぞれ、突出長さが支持脚より僅かに短く設定され、3次元測定機の測定テーブル面よりゲージ本体を支持する支持脚の一つが浮いた時に前記測定テーブル面に当接してゲージ本体の転倒を防止する補助脚を設けていることが望ましい。
【0013】
また、本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージは、上面と下面間を貫通する基準スリーブ保持孔が長手方向に沿って複数配列されている、熱膨張係数が小さく寸法安定性に優れた素材からなる横断面矩形状の長尺なゲージ本体と、前記それぞれの基準スリーブ保持孔に嵌着され、3次元測定機のプローブが当接する基準測定面となる基準孔が当該基準スリーブ保持孔と同心状に貫通形成されてなる基準スリーブと、前記ゲージ本体の下面に突設され、当該ゲージ本体を3次元測定機の測定テーブル面上に3点支持する3つの支持脚とを備え、前記3つの支持脚のそれぞれには、3次元測定機の測定テーブル上に載置されるゲージ保持治具の取付部に形成された孔又はU字状溝に嵌入保持される円筒部と、これらの支持脚を前記取付部に締結固定する固定ナットを螺合させるねじ部が設けられていることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージにおいては、ゲージ本体の長手方向両端近傍の上面にそれぞれ基準球収容凹部が形成され、前記それぞれの基準球収容凹部内に3次元測定機のプローブが当接する基準測定面となる基準球が配置されていることも望ましい。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載された発明に係る3次元測定機検証用長尺ゲージによれば、構造が簡単で高精度且つ容易に製造することができるとともに、3次元測定機のプローブの向きに応じて、基準孔の向きを縦向きと横向きで選択して使用することができる。
【0016】
特に、基準孔の向きを横向きにした状態では、プローブの先端を基準孔の両側から内部に水平に侵入させることができるため、プローブを水平姿勢に保持できるプローブヘッドを備えた3次元測定機においては、プローブ先端の向きによって生じる測定誤差の検証にも使用することができる。
【0017】
また、支持脚を設けたことによって、3次元測定機の測定テーブル上にがたつき無く3点支持できるとともに、ゲージ本体と測定テーブル面との間に手が入る隙間を確保することができるため、ゲージ本体の重量が大きい場合にも、3次元測定機の測定テーブル上に容易にセッティングすることができる。
【0018】
請求項2に記載された発明に係る3次元測定機検証用長尺ゲージによれば、さらに、ゲージ本体の一方の側面と下面に補助脚を設けているため、測定テーブルへのセッティング時等においてゲージ本体に外力が作用して、ゲージ本体を支持する支持脚の一つが測定テーブル面から浮いた場合に、補助脚が測定テーブル上面に当接してゲージ本体を支えて転倒を防ぐことができる。
【0019】
請求項3に記載された発明に係る3次元測定機検証用長尺ゲージによれば、請求項1に記載されたものと同様に、構造が簡単で高精度且つ容易に製造することができるとともに、ゲージ本体の下面と測定テーブル面との間に手が入る隙間が確保されるため、ゲージ本体の重量が大きい場合にも、3次元測定機の測定テーブル上に容易にセッティングすることができる。
【0020】
また、3次元測定機のプローブが当接する基準測定面となる基準孔が、ゲージ本体とは独立した部品となっている基準スリーブに形成されているため、請求項1に記載された3次元測定機検証用長尺ゲージよりもさらに製造が容易で且つ精度を高めることができる。
【0021】
さらに、それぞれの支持脚に、3次元測定機の測定テーブル上に載置されるゲージ保持治具の取付部に形成された孔又はU字状溝に嵌入保持される円筒部と、これらの支持脚を前記取付部に締結固定する固定ナットを螺合させるねじ部が設けられているため、長尺ゲージをケージ保持治具に取り付けて縦向きや横向き、或いは傾斜姿勢等、高い自由度で測定テーブル上にセッティングすることができる。
【0022】
特に、ゲージ本体をゲージ保持治具を用いて基準孔が横向きになるようにセッティングした場合には、請求項1に記載された3次元測定機検証用長尺ゲージと同様に、水平に向けたプローブの先端を基準孔の両側から内部に侵入させることができるため、プローブを水平姿勢に保持できるプローブヘッドを備えた3次元測定機においては、プローブ先端の向きによって生じる測定誤差の検証にも使用することができる。
【0023】
また、請求項4に記載された発明に係る3次元測定機検証用長尺ゲージによれば、前述した請求項1乃至3に記載された発明の効果に加えてさらに、1つの長尺ゲージに基準孔と基準球の2つの異なる基準測定面を設けているため、3次元測定機の精度評価に際し、基準孔を用いた精度評価と、基準球を用いた精度評価を選択することができる。
【0024】
さらに、基準球は基準球収容凹部内に配置されているため、長尺ゲージを取り扱う際に、高精度に加工されている基準球を周囲の物体に不用意にぶつけて損傷する危険性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態における3次元測定機検証用長尺ゲージを3次元測定機の測定テーブル上にセッティングした状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージの第1の実施形態を示す平面図である。
【図3】本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージの第1の実施形態を示す側面図である。
【図4】本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージの第1の実施形態を示す下面図である。
【図5】本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージの第1の実施形態を示す図3の左方端面側から見た図である。
【図6】本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージを横向き姿勢で3次元測定機の測定テーブル上にセッティングした状態を示す横断面図である。
【図7】プローブヘッドの部分斜視図である。
【図8】本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージの第2の実施形態を示す平面図である。
【図9】本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージの第2の実施形態を示す側面図である。
【図10】図8のA−A断面図である。
【図11】図8のB−B断面図である。
【図12】ゲージ保持治具の斜視図である。
【図13】本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージを取り付けたゲージ保持治具の斜視図である。
【図14】本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージのゲージ保持治具への取付構造を示す部分断面図である。
【図15】本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージを横向き姿勢で取り付けたケージ保持治具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージ(以下、長尺ゲージという。)の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態における、長尺ゲージを3次元測定機の測定テーブル上にセッティングした状態を示す斜視図であって、同図に示すように、本発明の長尺ゲージ1によって精度検査が行われる3次元測定機2は、被測定物を載せる測定テーブル3を有している。
【0027】
この測定テーブル3の両側には、門型の可動フレーム4が水平なX方向にスライド自在に支持されている。また、前記可動フレーム4には、ヘッド部5が前記X方向と直交する水平なY方向にスライド自在に支持されており、前記ヘッド部5にはさらに、昇降筒6がZ方向すなわち上下方向にスライド自在に支持されている。
【0028】
また、昇降筒6の下端に設けられたプローブヘッド6Aには、プローブ7が取り付けられており、この3次元測定機2によって、エンジンブロック等のワークの仕上げ面の寸法測定等を行う場合には、測定テーブル3上にワーク(図示せず)を載せ、門型の可動フレーム4、ヘッド部5、及び、昇降筒6をそれぞれX、Y、Z方向に移動させてプローブ7の先端をワークの被測定面に当てて当該被測定面の座標位置を測定する。
【0029】
一方、3次元測定機2の精度検査や測定誤差の校正を行う場合には、図1に示すように、ワークに代えて、測定テーブル2上に本発明の長尺ゲージ1を置き、後述するように、長尺ゲージ上の複数の測定点の座標位置を測定する。
【0030】
図2は、長尺ゲージ1の平面図、図3は、その側面図、図4は、下面図、図5は、図3の左方端面側から見た図であって、これらの図に示すように長尺ゲージ1は、横断面が矩形状の細長いゲージ本体1Aを有している。
【0031】
このゲージ本体1Aは、本実施形態のものにおいては、熱膨張係数の小さいスーパーインバーによって形成されていて、その上面から下面に貫通する複数の基準孔1Bを有している。なお、ゲージ本体1Aの素材は、これに限定するものではなく、熱膨張係数が小さく寸法安定性に優れた他の素材、例えば、インバー(不変鋼)や石英、ガラス等を用いてもよい。
【0032】
これらの基準孔1Bは、ゲージ本体1Aの長手方向に沿って、全て同じ間隔Lで配列されており、これらの基準孔1Bの内周面は高精度に仕上げられ、3次元測定機2のプローブ7先端が当接する基準測定面となっている。
【0033】
なお、本実施形態の長尺ゲージ1においては、ゲージ本体1Aは、長さが1030mm、幅が50mm、高さが40mmであり、また、基準孔1Bは、内径が25mm、間隔Lが100mmである。
【0034】
また、ゲージ本体1Aの一方の側面と下面には、それぞれ、長尺ゲージ1を3次元測定機2の測定テーブル3上に安定してセッティングするための支持脚1aと、補助脚1bが突設されている。
【0035】
すなわち、図3に示すように、ゲージ本体1Aの下面と直角な一方の側面には、長手方向両端近傍位置の、それぞれ下方寄りに支持脚1aが、また上方寄りに補助脚1bが配置され、また、長手方向中央位置の上方寄りに支持脚1aが配置されている。
【0036】
また、図4に示すように、ゲージ本体1Aの下面には、長手方向両端近傍位置の幅方向左右寄りに、それぞれ支持脚1aと補助脚1bが同じ側で配置されており、また、長手方向中央位置の幅方向左右寄りには、それぞれ支持脚1aと補助脚1bが、両端付近とものとは左右を逆にして配置されている。
【0037】
ゲージ本体1Aの一方の側面と下面に設けられているこれらの支持脚1aは、長尺ゲージ1を基準孔1Bを上下又は水平に向けて使用する場合に、測定テーブル3上にゲージ本体1を長手方向両端近傍位置の2つと中央位置の1つで安定に3点支持するようになっている。
【0038】
また、支持脚1aにより、ゲージ本体1Aと3次元測定機2の測定テーブル3の上面との間に手が入る隙間が確保できるため、長尺ゲージ1の重量が大きい場合にも、測定テーブル3上に容易にセッティングすることができる。
【0039】
図5は、長尺ゲージ1が基準孔1Bを上下方向に向けて、ゲージ本体1Aの下面の支持脚1aによって測定テーブル3上に支持されている状態を示している。補助脚1bは、支持脚1aに対して僅かに長さが短く設定されており、通常は、これらの下端は測定テーブル3の上面から僅かに離れている。
なお、同図においては、支持脚1aと補助脚1bの長さの差は誇張して図示してあり、両者の差は、実際には数10μm程度に設定されている。
【0040】
補助脚1bは、長尺ゲージ1が3つの支持脚1aにより構成される扁平な2等辺3角形の頂点によって測定テーブル3上に3点支持されているため転倒し易いので、測定テーブル3へのセッティング時等において、ゲージ本体1Aに何らかの外力が作用して、3次元測定機2の測定テーブル3の上面からゲージ本体を支持する支持脚1aの一つが浮いた場合に前記上面に当接してゲージ本体1Aの転倒を防止する目的で設けられている。
【0041】
3次元測定機2の精度評価は、例えば図1のように測定テーブル3上に長尺ゲージ1をセッティングして、ゲージ本体1Aの上面の数カ所の点にプローブ7の先端を当接させてこれら数カ所の点の座標値から前記上面を一つの基準座標面として設定し、この面から所定深さだけそれぞれの基準孔1B内にプローブ7を侵入させて、その内面複数箇所に当接させることにより各基準孔1Bの中心の座標位置を求め、これらの基準孔1Bどうしの中心間隔を予め高精度に測定されている長尺ゲージ1の基準値と比較することによって行う。
【0042】
また、図6は、長尺ゲージ1を、基準孔1Bが横向きになるように(すなわち、基準孔1Bの中心軸線が水平方向を向くように)、測定テーブル3上にセッティングした状態を示す横断面図であって、この場合には、長尺ゲージ1は、ゲージ本体1Aの一方の側面に設けられている3つの支持脚1aによって測定テーブル3上に支持される。なお、この場合においても補助脚1bの下端は、通常、測定テーブル3の上面から僅かに離れている。
【0043】
同図に示すように、基準孔1Bを横向きにして長尺ゲージ1を測定テーブル3上にセッティングして3次元測定機2の精度検査を行う場合には、プローブ7の先端は、図1のように真下に向けた位置から図7の実線で示すように90°上方に回動させて、水平方向から基準孔1B内に侵入できるように向きを変更し、基準孔1Bが開口しているゲージ本体1Aの一方の面(例えば、図6のように、横倒しになっている上面)を基準として、ここから基準孔1B内にプローブ7先端を所定距離侵入した位置で基準孔1Bの中心位置の座標を測定する。
【0044】
この場合には、長尺ゲージ1を測定テーブル3上の同一位置に置いたままで、プローブヘッド6Aに保持されているプローブ7の先端の向きを180°反転させ、ゲージ本体1Aの他方の面(この場合には横倒しになっている下面)側から当該基準孔1B内にプローブ7の先端を先ほどと同じ位置まで侵入させて、同様に前記基準孔1Bの中心位置を測定し、前者との測定値の比較することにより、プローブ7先端の向きの違いに起因して生じる測定誤差も合わせて検証することができる。
【0045】
なお、図7に示す構造のプローブヘッド6Aは、プローブ7の向きを垂直面内で180°回動できる構造になっているが、プローブの向きを水平面内で180°変えることのできる構造のプローブヘッドや、水平面内で互いに反対方向に先端が向いている対のプローブを固定保持するプローブヘッドを有する3次元測定機においても、長尺ゲージ1によって、プローブの先端の向きの違いによって生じる測定誤差の検証を同様に行うことが可能である。
【0046】
次に、図8は、本発明の長尺ゲージの第2の実施形態を示す平面図、図9はその側面図、図10は、図8のA−A断面を示す図であって、これらの図に示す長尺ゲージ11は、前述した長尺ゲージ1と同様な横断面矩形状の細長いゲージ本体11Aを備えている。
【0047】
この実施形態においては、ゲージ本体11Aの長手方向に沿って、その上面から下面に貫通する基準スリーブ保持孔11B(図10参照)が等間隔に10個配列されており、これらの基準スリーブ保持孔11Bには基準スリーブ12が嵌着されている。
【0048】
それぞれの基準スリーブ12は、中心部を軸方向に基準孔12Aが貫通し、一方の端に鍔部12Bが形成された中空円筒状に形成されており、前記基準孔12Aが前述の3次元測定機2のプローブ7が当接する基準測定面となっている。
【0049】
また、これらの基準スリーブ12は、鍔部12Bの下面が、ゲージ本体11Aの各基準スリーブ保持孔11Bの上端周縁に当接して位置決めされた状態で、ゲージ本体11Aに嵌め込まれて接着剤で固定されている。
なお、基準スリーブ12の素材としては、硬度や耐摩耗性が要求されるため、ここでは炭素工具鋼(SK材)が用いられている。
【0050】
また、図8に示すように、この実施形態においては、ゲージ本体11Aの上面の長手方向両端近傍にそれぞれ、平面視が略正方形状の凹部11Cが形成されており、これらの凹部11Cの中心には、前述した各基準スリーブ12の基準孔12Aとともに、プローブ7が当接する基準測定面となる基準球Kが配置されている。
【0051】
図10に示すように、前記基準球Kは、凹部11Cの底面中心部に形成されている、当該基準球Kの曲率半径に適合した球面状の凹んだ着座部11Dに接着剤によって固定されている。
【0052】
なお、本実施形態においては、基準球Kには、直径3/4インチのジルコニア球が用いられており、その上端のレベルは、ゲージ本体11Aの上面のレベルより1mm程低く設定されている。
【0053】
また、本実施形態の長尺ゲージ11においては、ゲージ本体11Aの上面側と下面側に複数の肉抜凹部Gを設けて軽量化と材料の節減を図っている。なお、このゲージ本体11Aの素材にはインバーを用いている。
【0054】
また、図8に示すように、ゲージ本体11Aには、上面と下面間を貫通するねじ孔11Eが3箇所形成されている。これらのねじ孔11Eの一つは、ゲージ本体11Aの長手方向の一方の端部寄りでその幅方向中央位置に設けられている。
【0055】
また、残りの2つは、ゲージ本体11Aの他方の端部寄りで、幅方向中央から両側に対称的に離れた位置にそれぞれ設けられている。これらのねじ孔11Eは、図9に示すように、ゲージ本体11Aの下面から突出する3つの支持脚13を螺着固定するためのものである。
【0056】
図11は、図8のB−B断面を示す図であって、同図に示すように、ねじ孔11Eには、支持脚13の第1ねじ部13Aが螺合している。この第1ねじ部13Aの下方には表面が平滑な第1円筒部13Bが形成されている。
【0057】
前記第1円筒部13Bの下方には、これより大径に形成された第2円筒部13Cが設けられ、この第2円筒部13Cのさらに下方には、テーパ状に構成されたガイド部13Dを介して、下端が球面の一部で構成された第2ねじ部13Eが形成されている。
【0058】
また、ゲージ本体11Aの下面と、第2円筒部13Cの上端面との間には、2個一組の球面座金14A、14Bが組み込まれていて、一方の球面座金14Aは、他方の球面座金14Bとの対向面が凹状球面の一部で構成され、他方の球面座金14Bの対向面は、前記凹状球面に適合する凸状球面の一部で構成されている。
【0059】
これらの球面座金14A、14Bは、ねじ孔11Eに第1ねじ部13Aを螺合してゲージ本体11Aに支持脚13を締め付け固定する際に、ゲージ本体11Aの下面と第2円筒部13Cの上端面との間の製作誤差による平行度の狂いを吸収して、ゲージ本体11Aに歪みが生じないようにしている。
なお、図示していないが、ゲージ本体11Aの他方の端部寄りに形成されている2つのねじ孔11Eに対する支持脚13の取付構造についても図11と示すものと同様である。
【0060】
前述したように構成されている長尺ゲージ11は、先に説明した図1に示す長尺ゲージ1と同様に、3つの支持脚13で測定テーブル3上に支持して、各基準孔12Aを上下方向に向けた姿勢で3次元測定機2の精度検査に使用することができる。
【0061】
その際、前述したように、これらの支持脚13の下端(第2ねじ部13Eの下端)は、球面の一部で構成されているため、測定テーブル3の上面の3箇所に点接触状態で当接するので、長尺ゲージ11は測定テーブル3上に安定して支持される。
【0062】
また、本実施形態の長尺ゲージ11においても、先に述べた実施形態における長尺ゲージ1と同様に、支持脚13が設けられていることにより、ゲージ本体11Aと3次元測定機2の測定テーブル3の上面との間に手が入る隙間が確保できるので、測定テーブル3上へのセッティングを容易に行うことができる。
【0063】
また、本実施形態の長尺ゲージ11は、ゲージ本体11Aの外面全体に防錆のための塗装が施されており、図8に示すように、ゲージ本体11Aの上面に分散配置されている合計10箇所の円形の測定ポイントaの部分のみ塗膜が除去されている。
【0064】
3次元測定機2の精度検査を行う際は、測定テーブル3上に長尺ゲージ11をセッティングした後、これらの測定ポイントaにプローブ7を当接させて、ゲージ本体11Aの上面の位置を測定して基準座標面の一つを決定し、この基準座標面から基準孔11Bの軸方向における、プローブ先端7の基準孔11の内周面との当接位置を決定する。
【0065】
また、本実施形態の長尺ゲージ11においては、3次元測定機2のプローブ7先端を各基準孔11Bの内周面に当てて測定を行うことができるとともに、2つの基準球Kの表面にプローブ先端を当てて測定を行うことができ、基準孔11Bの内周面と基準球Kの表面の何れかを基準測定面として選択することができる。
【0066】
また、本実施形態の長尺ゲージ11は、3つの支持脚13を図12に示すようなゲージ保持治具8に取り付けて、ゲージ本体11Aを傾斜させたり、さらに基準孔12Aを横向き姿勢にして、図1に示す3次元測定機2の測定テーブル3上にセッティングすることができるようになっている。
【0067】
図12に示すゲージ保持治具8は、前記測定テーブル3上に支持される3つの円柱状の支持脚8Aを有しており、これらの支持脚8Aの1つは、第1支持体8Bの下面に固定されている。
【0068】
また、他の2つは、枠状の第2支持体8Cの下面の左右両端付近にそれぞれ固定されていて、これらの支持脚8Aの下面の中心は、第2支持体8C側を底辺とする2等辺3角形の各頂点に配置されている。
【0069】
第1支持体8Bと第2支持体8Cのそれぞれの下面には、各一対の連結ロッド8D、8Eの一端がそれぞれボルトで固定されている。これらの連結ロッド8Dの他端と、連結ロッド8Eの他端はそれぞれ、矩形状の連結板8Fの短辺の近傍にそれぞれボルトによって固定されている。
【0070】
また、第2支持体8Cの上端は、第1支持体8Bの上端よりも高い位置にあり、これらの上端間には、ゲージ支持バー8Gの両端近傍がそれぞれボルトによって固定され、また、ゲージ保持治具8の剛性を高めるために、ゲージ支持バー8Gの下方には、これと並行して、第1支持体8Bと第2支持体8C間を連結する連結バー8Hがボルトにより取り付けられている。
【0071】
ゲージ支持バー8Gの一方の側面には、その長手方向に沿って形成されている横断面T字形のスリット8Iが開口している。このスリット8Iには、前述した長尺ゲージ11の支持脚13を取り付けるための、第1ラグ8Jと第2ラグ8Kがスライド自在に係合している。
【0072】
これらのラグ8J、8Kは、図12においては隠れて見えない位置にあるボルトをスリット8I内に組み込まれた図示しないナットに締め付けることによって、長尺ゲージ11の支持脚13の取付位置に応じて、ゲージ支持バー8Gの任意位置に固定できるようになっている。
【0073】
また、ラグ8J、8Kは、それぞれ、略L字状に直交する2つの取付片8Ja、8Jb、8Ka、8Kbから構成されていて、第1ラグ8Jの取付片8Ja、8Jbには、前述した図11に示す支持脚13の第2円筒部13Cが嵌合する取付孔hがそれぞれ2つずつ形成され、また、第2ラグ8Kの取付片8Ka、8Kbにはそれぞれ第1ラグ8J側のものと同じ取付孔hが1つずつ形成されている。
【0074】
なお、本実施形態においては、ゲージ保持治具8は、ボルト等の締結部品を除くほとんどの構成部品が軽量化を図るためにアルミニウム材で製作されており、また運搬や収納を容易にするために、各部品どうしを固定しているボルトを外すことで細かく分解できるようになっている。
【0075】
図13に示すように、前述したゲージ保持治具8に、ゲージ本体11Aの上面を上に向けた姿勢で長尺ゲージ11を付ける場合には、図12に示す第1ラグ8Jの第1取付片8Jaに形成されている2つの取付孔hと、第2ラグ8Kの第1取付片8Kaに形成されている1つの取付孔hのそれぞれの中心位置が、長尺ゲージ11のゲージ本体11A下面から突出する3つの支持脚13の中心位置に整合するように、ゲージ支持バー8Gに対して第1ラグ8Jと第2ラグ8Kの取付位置を調整して固定する。
【0076】
この際、第1ラグ8Jと第2ラグ8Kの何れか一方をゲージ支持バー8Gに対して先に固定しておいて、各支持脚13の突出端を対向する取付孔hに挿入し、支持脚13のガイド部13Dで案内して、それぞれの取付孔h内に、対応する支持脚13の第2円筒部13Cを嵌入させる。
【0077】
この状態で、第1ラグ8Jと第2ラグ8Kの何れか他方もゲージ支持バー8Gに固定する。次いで、図14に示すように、第1取付片8Kaの取付孔hを貫通して下方に突出する第2ねじ部13Eに、前述した球面座金14A、14Bと同様な球面座金15A、15Bと固定ナット16を装着し、固定ナット16を締め付けることによって、長尺ゲージ11をゲージ保持治具8に対して固定することができる。
なお、ここでは説明は省略するが、第1ラグ8Jに対する支持脚13の取付構造についても、図14に示す第2ラグ8Kに対する支持脚13の取付構造と同様である。
【0078】
前述したように、ケージ保持治具8を用いて長尺ゲージ11を3次元測定機2の測定テーブル3に対して傾けてセッティングすることにより、3次元測定機3の精度検査を高さ方向についても水平方向と同時に行うことが可能である。
【0079】
なお、本実施形態において用いているゲージ保持治具8は、運搬や収納を容易にするために複数の部分に分解できるように構成されているが、構造を簡略化し且つ剛性を高めるために、主要な構成部分は一体化して製作してもよい。また、ゲージ保持治具8のゲージ支持バー8Gは、3次元測定機2の精度検査内容に応じてさまざまな傾斜角度に設計することが可能である。
【0080】
また、ゲージ保持治具8は、これに取り付ける長尺ゲージ11の長手方向の水平面に対する傾斜角度が、図1に示す3次元測定機2の測定範囲の最も長い対角線方向の測定テーブル3に対する傾斜角度に設定されている場合には、最大測定長が前記対角線長に近い長尺ゲージ11をゲージ保持治具8に取り付け、これを当該対角線方向に向けて測定テーブル3上にセッティングすることにより、当該3次元測定機2の精度検査や測定誤差の校正の精度を最大限に高めることができる。
【0081】
次に、図15は、長尺ゲージ11を横向き姿勢でゲージ保持治具8に固定した状態を示す斜視図であって、この場合には、詳細な図示による説明は省略するが、先述した図12に示す第1ラグ8Jの第2取付片8Jbに形成されている2つの取付孔hと、第2ラグ8Kの第2取付片8Kbに形成されている1つの取付孔hに、長尺ゲージ11の3つの支持脚13をそれぞれ差し込み、第2取付片8Jb、8Kbの裏側に突出するそれぞれの第2ねじ部13Eに、図14に示すものと同様に球面座金15A、15Bと固定ナット16を装着し、固定ナット16の締め付けによって固定している。
【0082】
図15に示すように、長尺ゲージ11を横向き姿勢でゲージ保持治具8に固定して、基準孔12Aの軸線方向が水平方向に向くように3次元測定機2の測定テーブル3上にセッティングし、先に説明した実施形態の長尺ゲージ1と同様に、プローブ7を水平向きにして基準孔12Aの両側から差し込んで基準孔12Aの中心位置の測定を行うことにより、3次元測定機のプローブの向きの違いによって生じる測定誤差の検証を行うことができる。
【0083】
なお、第1ラグ8Jと第2ラグ8Kには、支持脚13の第2円筒部13Cを嵌入させる取付孔hに代えて、ゲージ支持バー8Gの長手方向に同じ向きに開口し、第2円筒部13Cが嵌入可能な幅を有するU字状溝をそれぞれ形成してもよい。
【0084】
この場合には、予めそれぞれの支持脚13に球面座金15A、15Bと固定ナット16を緩く装着しておき、各支持脚13の第2円筒部13Cをゲージ支持バー8Gの長手方向から対応するU字状溝内へスライドさせた後、固定ナット16を締め付けて固定することができ、組み付け作業を簡略化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の3次元測定機検証用長尺ゲージは、ワークの被測定面にプローブを接触させて測定点の座標位置を測定する3次元測定機の精度検査や、測定誤差の校正を行う場合の検証用ゲージとして幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 3次元測定機検証用長尺ゲージ
1A ゲージ本体
1B 基準孔
1a 支持脚
1b 補助脚
2 3次元測定機
3 測定テーブル
4 可動フレーム
5 ヘッド部
6 昇降筒
6A プローブヘッド
7 プローブ
8 ゲージ保持治具
8A 支持脚
8B 第1支持体
8C 第2支持体
8D、8E 連結ロッド
8F 連結板
8G ゲージ支持バー
8H 連結バー
8I スリット
8J 第1ラグ
8K 第2ラグ
8Ja、8Ka 第1取付片
8Jb、8Kb 第2取付片
h 取付孔
11 3次元測定機検証用長尺ゲージ
11A ゲージ本体
11B 基準孔
11C 凹部
11D 着座部
11E ねじ孔
G 肉抜凹部
K 基準球
12 基準スリーブ
12A 基準孔
12B 鍔部
13 支持脚
13A 第1ねじ部
13B 第1円筒部
13C 第2円筒部
13D ガイド部
13E 第2ねじ部
14A、14B 球面座金
15A、15B 球面座金
16 固定ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元測定機のプローブが当接する基準測定面となる基準孔が、上面と下面間を貫通して長手方向に沿って複数配列されている、熱膨張係数が小さく寸法安定性に優れた素材からなる横断面矩形状の長尺なゲージ本体と、
前記ゲージ本体の下面とこれに直角な一方の側面にそれぞれ突設された複数の支持脚とを備え、
前記支持脚は、前記下面と一方の側面のそれぞれの長手方向両端近傍位置と中央位置に、扁平な2等辺3角形の頂点となる配置で突設され、
これらの支持脚により、ゲージ本体が前記下面または一方の側面を選択的に前記3次元測定機の測定テーブル面に向けて3点支持されるようにしたことを特徴とする3次元測定機検証用長尺ゲージ。
【請求項2】
ゲージ本体の下面とこれに直角な一方の側面にそれぞれ、突出長さが支持脚より僅かに短く設定され、3次元測定機の測定テーブル面よりゲージ本体を支持する支持脚の一つが浮いた時に前記測定テーブル面に当接してゲージ本体の転倒を防止する補助脚を設けていることを特徴とする請求項1記載の3次元測定機検証用長尺ゲージ。
【請求項3】
上面と下面間を貫通する基準スリーブ保持孔が長手方向に沿って複数配列されている、熱膨張係数が小さく寸法安定性に優れた素材からなる横断面矩形状の長尺なゲージ本体と、
前記それぞれの基準スリーブ保持孔に嵌着され、3次元測定機のプローブが当接する基準測定面となる基準孔が当該基準スリーブ保持孔と同心状に貫通形成されてなる基準スリーブと、
前記ゲージ本体の下面に突設され、当該ゲージ本体を3次元測定機の測定テーブル面上に3点支持する3つの支持脚とを備え、
前記3つの支持脚のそれぞれには、3次元測定機の測定テーブル上に載置されるゲージ保持治具の取付部に形成された孔又はU字状溝に嵌入保持される円筒部と、これらの支持脚を前記取付部に締結固定する固定ナットを螺合させるねじ部が設けられていることを特徴とする3次元測定機検証用長尺ゲージ。
【請求項4】
ゲージ本体の長手方向両端近傍の上面にそれぞれ基準球収容凹部が形成され、前記それぞれの基準球収容凹部内に3次元測定機のプローブが当接する基準測定面となる基準球が配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の3次元測定機検証用長尺ゲージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−108100(P2012−108100A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181945(P2011−181945)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(597113871)株式会社浅沼技研 (8)
【Fターム(参考)】