説明

3級アミンの製造方法

【課題】液状及びガス状の原料との反応により効率よく3級アミンを製造する方法の提供。
【解決手段】ハニカム状触媒を含む触媒層が充填された塔型反応器の塔底部から液状のアルコールとガス状の1級アミン又は2級アミンを供給して反応させ、塔頂部より排出させる3級アミンの製造方法であって、前記塔型反応器内に液状のアルコールとガス状の1級アミン又は2級アミンを供給するとき、液状のアルコールとガス状の1級アミン又は2級アミンを同一空間内に導入した後、隘路を通過させて供給する3級アミンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム状触媒を用いて、アルコールと1級又は2級アミンとを原料として、対応する3級アミンを効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3級アミンの製造分野、特に、触媒の存在下にアルコールと1級又は2級アミンとを反応させて3級アミンを製造する際に、効率良く3級アミンを製造する方法が検討されている。
工業的な反応の多くは、固体触媒スラリーを用いて混合槽型反応器で行なわれる。これらの混合槽型反応器では反応性ガスを触媒の存在下で液体と接触させる事により反応を行わせる。反応性ガスは溶解を促進するために、微細な気泡に分散することが行なわれている。例えば特許文献1では特殊な撹拌翼を使用して、収率良く3級アミンを製造する方法が開示されている。
【0003】
一方、スラリー化された触媒は、安全性、廃棄物の増加、操作性、生産性などの問題を生じる。例えば、反応生成物を回収する為には濾過等によって触媒を除去する必要があり、設備及び運転が複雑になるという問題がある。
【0004】
スラリー触媒を用いない反応方法として、フィルムの表面上に触媒金属を付着させたフィルム触媒を用いる方法が特許文献2に開示されている。この反応方法では、攪拌や、触媒の濾過分離が不要である。また、反応性ガスを反応器に供給する方法として、孔径Dが0.3〜200mmの供給口を用いる方法が開示されているが、触媒の耐久性向上の観点から、反応性ガスは必要最小限の投下量とし、触媒全体を効率よく使用する事が有効である。
【0005】
特許文献3には、スタティックミキサーを用いて気液混合を行った後、モノリス触媒に導入する方法が開示されている。これはモノリスの持つ、微小なセル流路へのガス分散性を向上させる効果が期待できるが、非特許文献1〜4に見られるように、モノリス触媒に気液を並流で上昇させる反応においては、反応塔内の滞留時間分布は完全混合型となる事が指摘されており、投入した気液の一部はショートパスしたり、一部は反応塔内に長時間留まったりすることで過剰反応の原因となる事が示唆される。更に、ガス分散性を高めるだけでは、完全混合型の滞留時間分布は改善できない事も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−160691号公報
【特許文献2】特開2008−94800号公報
【特許文献3】特開2003−176255号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】川上 幸衛 他,化学工学論文集 13 (1987) 318.
【非特許文献2】Patrick, R.H. et al., AIChE. J. 41 (1995) 649.
【非特許文献3】Thulasidas, T.C. et al., Chem. Eng. Sci. 54 (1999) 61.
【非特許文献4】Sederman, A.J. et al., Catal. Today 128 (2007) 3.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、塔型反応器を用いた反応方法であり、原料成分を塔底部から供給し、反応物等を塔頂部から取り出すアップフロー型の反応において、ハニカム状触媒の存在下、液状及びガス状の原料との反応により効率よく3級アミンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ハニカム状触媒を含む触媒層が充填された塔型反応器の塔底部から液状及びガス状の原料を供給して反応させ、塔頂部より排出させる3級アミンの製造方法であって、
前記塔型反応器内に液状及びガス状の原料を供給するとき、液状及びガス状の原料を同一空間内に導入した後、隘路を通過させて供給する3級アミンの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、液状とガス状の反応原料を混合して塔型反応器に供給するとき、隘路を通過させることにより、即ち、液状とガス状の反応原料の供給経路を縮小した後に拡大させることにより、混合相流中の気泡を分散させ、大きい気泡と微細気泡の混合状態を形成させることができる。
このため、ガスの液中への溶解が促進されると共に、ハニカム状触媒層を通過するとき、触媒セル全体を有効に活用することができるようになり、ガス状の反応原料の使用量を低減させることができ、目的とする3級アミンを効率的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の製造方法を実施するための製造装置と製造フローの概念図。
【図2】(a)〜(c)は、図1の製造装置に付設する供給ノズルの縦方向の断面図。
【図3】本発明の製造方法で使用するハニカム状触媒の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1で示す塔型反応器1を使用して3級アミンを製造するとき、3級アミンの生成反応は、
(i)アルコールの脱水素反応によるアルデヒドの生成反応、
(ii)アルデヒドと原料アミンの付加反応及び脱水反応、
(iii)付加反応及び脱水反応により生じたイミン、及び/又はエナミンが水素還元され3級アミンが生成する反応、
が順に進行することにより行われる。また、反応(ii)は反応(i)又は反応(iii)で用いた触媒を用いなくても進行する。
上記の反応(i)〜(iii)は、それぞれの反応を同一の反応器で行うこともできるし、別々の反応器で独立させて行うこともできる。
また、反応(i)終了後、別の反応器で反応(ii)を反応(i)及び(iii)から独立させて行い、その後、反応(ii)での生成物を、反応(i)を行っている反応器中の反応物に加え、反応(i)と同時に反応(iii)を行うことができる。
反応(ii)を図1に示す塔型反応器1とは別の反応器で行う場合は、1級及び2級アミンは塔型反応器1に供給しなくてもよい。
【0013】
図1、図2により、本発明の3級アミンの製造方法の一実施形態を説明する。
本発明の3級アミンの製造方法は、塔型反応器1の塔底部から液状及びガス状の原料を供給して反応させ、塔頂部より排出させるアップフロー方式で行う。
【0014】
反応開始時には、緩衝槽3内には原料アルコールが入っている。緩衝槽3内の原料アルコールは、外部循環用ポンプ35を作動させ、開閉弁(電磁弁等)33を開いた状態でライン25を通して塔型反応器1の塔底部に供給される。
【0015】
原料タンク5内の1級及び/又は、2級アミンを開閉弁(電磁弁等)31を開いた状態でライン21から供給する。同時に原料タンク6内の水素(及び窒素又は、希ガス)は、開閉弁(電磁弁等)32を開いた状態でライン22から供給する。1級及び/又は2級アミンと水素ガスはライン23にて一つになってガス状となり、塔型反応器1の底部に供給される。
【0016】
原料のアルコールとしては、直鎖状又は分岐鎖状の、炭素数6〜36の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールが好ましく、炭素数8〜22の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールがより好ましく、炭素数10〜18の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールが更に好ましく、炭素数12〜14の飽和又は不飽和の脂肪族アルコールが特に好ましく、例えばヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オレイルアルコール等や、これらの混合アルコール等、またチーグラー法によって得られるチーグラーアルコールや、オキソ法によって得られるオキソアルコール及びゲルベアルコール等が挙げられる。
【0017】
原料の1級又は2級アミンとしては、脂肪族1級又は2級アミンが好ましく、炭素数1〜24の脂肪族1級又は2級アミンがより好ましく、炭素数1〜12の脂肪族アミンがより好ましく、炭素数1〜4の脂肪族アミンが更に好ましく、炭素数1〜2の脂肪族アミンが更に好ましい。脂肪族1級又は2級アミンとしては、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン等が挙げられる。
【0018】
塔型反応器1は、内部にハニカム状触媒を含む触媒層が充填されたものであり、本発明の製造方法では、塔型反応器1内に液状のアルコールとガス状の1級アミン又は2級アミンを供給するとき、それらを同一空間に導入し、隘路を通過させた後、塔型反応器1内に供給する。
【0019】
隘路を通過させて供給する具体的な手段は特に制限されるものではなく、塔型反応器1の底部自体に隘路を形成する方法、液状のアルコールの供給ライン23と、ガス状の1級アミン又は2級アミンの供給ライン25を1つのラインにして、そのライン内に隘路を形成する方法を適用することができる。
本実施形態では、塔型反応器1の塔底部に付設した供給ノズル2(図2参照)を使用して供給する方法について説明する。なお、図1では、供給ノズル2は塔型反応器1の外側に設置されているが、内側に設置されていてもよい。
【0020】
図2(a)で示す供給ノズル2を使用したとき、ライン23から供給されたガス状の1級アミン又は2級アミンと、ライン25から供給された液状のアルコールは、供給ノズル2内の同一空間2aに導入されて混ざり合って混合相となっている。
その後、隘路2bを通過して、隘路2bと比べるとより大きな内径を有する塔型容器1内に拡がった状態で噴射されることで、混合相流中の気泡が分散され、大きい気泡と微細気泡の混合状態が形成される。
【0021】
図2(b)で示す供給ノズル2を使用したとき、ライン23から供給されたガス状の1級アミン又は2級アミンと、ライン25から供給された液状のアルコールは、供給ノズル2内の同一空間2aに導入されて混ざり合って混合相となっている。
その後、隘路2bを通過して、隘路2bと比べるとより大きな内径を有する塔型容器1内に拡がった状態で噴射される。
このとき、隘路2bの出口に正対し、かつ間隔をおいて配置された衝突板(噴流防止板)2dを設けておくと、衝突板2dに混合相が衝突することで、図2(a)の供給ノズル2と比べると、混合相流中の気泡分散作用がより高められ、大きい気泡と微細気泡の混合状態が形成される。
【0022】
衝突板2dの直径は、隘路2bの直径(d1)と同等以上の大きさにすることが好ましく、ノズル出口からの距離が大きくなるほど、衝突板2dの直径も大きくなるように調整することが好ましい。衝突板2dの直径は、塔型反応器1の内径と等しくすることもできる。その場合、ガス・液の流通をよくするための貫通孔を有する多孔板等を用いることができる。例えば、衝突板2dとノズル出口との距離(H)と隘路2bの直径(d1)の比率(H/d1)は100以下が好ましく、より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下、特に好ましくは5以下である。
なお、衝突板2dは、例えば、カップ状のもので、底面が衝突板2dとなり、周面は混合相流が通過可能な構造になったものを使用することができる。
【0023】
図2(c)で示す供給ノズル2を使用したとき、ライン23から供給されたガス状の1級アミン又は2級アミンと、ライン25から供給された液状のアルコールは、供給ノズル2内の同一空間(第1空間2a)に導入されて混ざり合って混合相となっている。
その後、隘路2bを通過して、隘路2bと比べるとより大きな内径を有する第2空間2cに至り、さらに第2空間2cと比べるとより大きな内径を有する塔型容器1内に拡がった状態で噴射されることで、図2(a)の供給ノズル2と比べると、混合相流中の気泡分散作用がより高められ、大きい気泡と微細気泡の混合状態が形成される。
第1空間2aから隘路2bまではテーパー状の内壁面で、少しずつ内径が小さくなるようにされており、隘路2bから第2空間2cを通ったノズル出口までは、テーパー状の内壁面で、少しずつ内径が大きくなるようにされている(ベンチュリー形状)。
図2(c)では第1空間2aと第2空間2cの内径は同一であるが、いずれか一方の内径を大きくすることもできる。
【0024】
図2(a)〜(c)で示された供給ノズル2においては、混合相流中の気泡分散作用を高める観点から、隘路2bの内径(d1)と、隘路2bに至るアルコールとガス状の1級アミン又は2級アミンの混合相の供給路における最大径(d2)の比率(d1/d2)が0.01〜0.9の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.3、さらに好ましくは0.03〜0.3の範囲である。
最大径(d2)は、図2(a)、(b)では空間2aの内径であり、図2(c)では第1空間2aの最大径である。
【0025】
供給ノズル2からガス状及び液状原料が供給される塔型反応器1の内径は、図2(a)〜(c)で示された供給ノズル2の隘路2bの内径(d1)の3〜500倍であることが好ましく、70〜400倍がより好ましく、130〜300が更に好ましい。
【0026】
図2(a)、(b)で示す供給ノズル2では、長さLと内径d2の比率(L/d2)は1〜5が好ましく、より好ましくは1.2〜2である。前記比率が1以上であると、適度な圧力損失を付与することで、ガス分散効果を発揮し易くなり、5以下であると圧力損失が過大にならないので好ましい。
図2(c)で示す供給ノズル2では、上記したベンチュリー形状であることから、前記比率(L/d2)は1未満でもよい。
【0027】
上記したとおり、液状とガス状の反応原料の供給経路を縮小した後に拡大させることにより、液体と気体の混合相流中の気泡を分散させ、大きい気泡と微細気泡の混合状態を形成させることができる。このため、ガスの液中への溶解が促進されると共に、混合相流がハニカム状触媒層を通過するとき、触媒セル全体を有効に活用することができるようになる。
【0028】
本発明の製造方法において、図2で示す供給ノズル2を用いて気体及び液体原料を供給するときの隘路2bでのガス空塔速度は、高いほど気泡中の微小気泡の割合が増大するため、標準状態体積換算で0.01Nm/s以上が好ましく、2Nm/s以上がより好ましく、3Nm/s以上が更に好ましい。
また、塔型反応器内部のハニカム状触媒へのガス導入を安定化させる
ため、250Nm/s以下が好ましく、より好ましくは100Nm/s以下、更に好ましくは50Nm/s以下である。
【0029】
本発明の製造方法においては、塔型反応器1に供給するときの液状のアルコールとガス状の1級アミン又は2級アミンの混合相の供給圧力は、十分な気泡の分散効果を得る観点から、ゲージ圧で0.005MPa以上が好ましく、より好ましくは0.01MPa以上、さらに好ましくは0.02MPa以上である。また、ガス状原料の凝縮を抑制する観点から、0.9MPa以下が好ましく、より好ましくは0.2MPa以下、さらに好ましくは0.1MPa以下である。
【0030】
本発明の製造方法においては、ガス状反応物の標準状態体積換算での供給量G(Nm3/Hr)は、塔型反応器1に充填された触媒の活性により異なり、触媒の活性に応じてガス供給量を制御することが好ましい。
またガス供給量Gと液体状のアルコール又はアルコールと反応物の混合物の供給量L(m3/Hr)をとの比、G/Lは、ガス状反応物の滞留時間の観点から0.1以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、1以上が特に好ましい。また未反応で流出するガスを低減する観点から50以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下が特に好ましい。
【0031】
塔型反応器1の塔底部から供給された1級及び/又は2級アミンと水素ガス、アルコールは、順にハニカム構造の触媒層を通過する過程で反応される(連続相は液体である)。
なお、塔型反応器1内での反応に際しては、ジャケットや内部に設置した熱交換用配管により、温度コントロールすることが好ましい。
【0032】
塔型反応器1内にて反応した反応生成物や未反応のアルコールは、ライン24から原料アルコールが入っている緩衝槽3に送られる。この段階では、緩衝槽3内は、原料アルコール、反応物の混合物が存在することになる。
【0033】
その後は、同じ手順で原料タンク5の1級及び/又は2級アミン、原料タンク6の水素ガス(及び窒素又は、希ガス)及び緩衝槽3内の内容物(混合物)を塔型反応器1の底部に供給して反応を行い、これを循環させて反応を継続させる。
【0034】
緩衝槽3内の未反応のガス状1級又は2級アミン及び水分は、導管26aを通し、開閉弁(電磁弁等)34を開いた状態でライン27から連続的に排出する。
導管26aから排出される成分中には、上記の他にアルコール及び/又は生成した3級アミンの蒸気又はミスト状成分等が含まれることがあるため、それらについては充填塔4内で凝縮液化させ、ライン26bから緩衝槽3に戻す。
【0035】
本発明の製造方法においては、触媒反応場の圧力は絶対圧で0.013〜0.3MPaであることが好ましく、更に0.04〜0.25MPaが好ましく、0.1〜0.2MPaが最も好ましい。反応場の圧力を低く維持することで、反応の過程で副生する水分を反応系外に排出することが促進され、反応の進行を促進し、触媒の活性を保つことができる。常圧以下の反応では、真空設備等の設備負荷が大きくなる。
反応温度は触媒の種類により異なるが、150〜300℃の温度で反応させることが好ましく、更に160〜250℃の温度が好ましい。反応温度を適正範囲で行うことで、反応速度が制御でき、副反応を抑制することができる。
【0036】
本発明の製造方法においては、塔型反応器1の出入口における圧力損失の差圧がゲージ圧で0.2MPa以下であることが好ましい。圧力損失が前記範囲内であると、副反応が抑制され、歩留まりが良くなることや、ガス状の1級又は2級アミンが液化し難くなるため、加熱管理が容易になる。
【0037】
本発明の製造方法によれば、ガス状の1級又は2級アミンを液状のアルコールに対して効率よく反応させることができ、目的とする3級アミンを高効率で製造することができる。
本発明の製造方法により、上記した原料となるアルコールと1級又は2級アミンから得られる3級アミンは、1級もしくは2級アミンの窒素原子に結合する水素原子がアルコール由来のアルキル及び/又はアルケニル基で置換されたものである。例えばドデシルアルコールとジメチルアミンから得られる、対応する3級アミンは、N−ドデシル−N,N−ジメチルアミンであり、ジメチルアミンが不均化して生じたメチルアミン及びアンモニアが反応して副生する3級アミンのN,N−ジドデシル−N−メチルアミン及びN,N,N−トリドデシルアミンと区別される。
【0038】
本発明の製造方法で用いる塔型反応器1は、ハニカム状触媒を含む触媒層が充填されているものであればよく、その具体的構造は特に制限されるものではない。
また1段の触媒層が1つのハニカム状触媒の成型体からなるものであってもよいし、複数のハニカム状触媒の成型体を組み合わせたものであってもよい。
【0039】
ハニカム状触媒は、内径数mm〜数十mmの管を束ねた集合体や、セル密度が1平方インチ当り数十〜数百セルのハニカム構造体を支持体として、その表面に触媒が坦持された成型体である。
ハニカム状触媒は、互いに平行に形成された多数のセル(細管流路)を有しているものである。セルの形状(幅方向の断面形状)は特に制限はなく、一般的な三角形、四角形、六角形、或いは平板と波板を積層した形状(特開2009−262145号公報の図3、特開2008−110341号公報の図6に示されているような形状のもので、セル形状が、1つの角部が丸みを帯び、2辺が曲線を含む略三角形であるもの)等が用いられる。
個々のセルの幅方向における断面積は、液体状及びガス状の反応物の通過を容易に行わせる目的から、0.01cm2以上が好ましく、0.03cm2以上がより好ましく、0.05cm2以上がさらに好ましい。また反応物とハニカム状触媒との接触効率を高める観点から、100cm2以下が望ましく、50cm2以下がより好ましく、10cm2以下がさらに好ましい。
【0040】
ハニカム状触媒の製造方法については特に制限はなく、ハニカム構造体の支持体内壁に厚さ500μm以下の薄膜状に触媒を固定化することが好ましい。
反応物及び生成物が触媒膜内部を移動する過程は拡散支配であり、500μm以下の薄い薄膜状の触媒とすることで、触媒膜外部との間での物質移動を促進し、触媒膜内部まで有効に活用できると共に、触媒膜内部での中間反応物の過反応を抑制することができる。特に100μm以下の厚さであることが、副反応を抑制し、反応の選択性を高めることができるため好ましく、50μm以下であることがより好ましい。厚さの下限は、触媒層の強度確保及び強度面の耐久性を得るために、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、1μm以上が更に好ましく、5μm以上が更に好ましい。
【0041】
上記のハニカム構造体の支持体表面に触媒を薄膜状に固定する手段としては、従来公知の方法を用いることができ、例えばスパッタ等の物理蒸着法、化学蒸着法、溶液系からの含浸法の他に、バインダを使ったブレード、スプレイ、ディップ、スピン、グラビア、ダイコーティング等、各種塗工法が挙げられる。
【0042】
支持体は、塔型反応器内でハニカム状構造を形成できるものであれば制限はなく、予めハニカム形状に成型されたものや、図3に示す平板51と波板52を積層してセル53を形成し、ハニカム状構造としたもの等が用いられる。
材質は、金属箔、セラミック等の無機材料等の一般的なハニカム構造体用の材料が使用できる。薄膜状触媒の厚みの均一性を向上する観点から、平板状の支持体に触媒を固定化する加工を行った後、ハニカム形状に成型することが好ましく、加工性のよい金属箔が好適に用いられる。
【0043】
ハニカム状触媒を構成する活物質としては、特に限定されるものではなく、公知のものを利用することができるが、一般に周期律表の第5族元素、第6族元素、第7族元素、第8族元素、第9族元素、第10族元素、第11族元素、第12族から選ばれる金属種を好適に用いることができる。
例えば第11族であるCu単独あるいはこれに第5族のNb、第6族のCrやMo、第7族のMn、第8族のFeやRu、第9族のCoやRh、第10族のNi、Pd、並びにPt、第12族のZn等の金属元素を加えた2成分以上の金属を含むものが挙げられ、CuとNiを含有するものが好ましく用いられる。また、これらの活物質をさらにシリカ、アルミナ、チタニア、ゼオライト、シリカ−アルミナ、ジルコニア、珪藻土等の担体に担持させたもの等も用いられる。
本願発明のハニカム状触媒を構成する活物質が第11族元素と他の元素を含むものであるとき、第11族元素と他の元素の合計量の質量比(第11元素の質量/他の元素の合計質量)比は、3級アミンを効率良く生産する観点から、好ましくは0.1/1〜100/1、より好ましくは1/1〜50/1、更に好ましくは3/1〜30/1である。
【0044】
ハニカム状触媒の内部には、それ単独では活物質として作用しないが、活物質を固定化して薄膜状の触媒膜を形成するためのバインダを含有していてもよい。
バインダとしては、活物質同士又は支持体表面への結着性の他に、反応環境に耐え、さらに反応系に悪影響しないような、耐薬品性や耐熱性等の性質を有する高分子あるいは無機化合物が挙げられる。
例えば、カルボキシメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリ四フッ化エチレンやポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリイミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂等の高分子化合物、あるいはシリカ、アルミナ、チタニア、シリカ−アルミナ、ジルコニア等の無機化合物ゾル等が挙げられる。
ハニカム状触媒の製造方法において、活物質とバインダとの配合割合は、支持体表面への結着性及び活物質の活性の観点から、活物質100質量部に対して、バインダ10〜80質量部が好ましく、15〜60質量部がより好ましく、20〜30質量部が更に好ましい。
【0045】
ハニカム状触媒の内部構造は、触媒膜を構成する活物質の種類や触媒膜の作製方法等に大きく依存するが、緻密な連続相を形成していてもよいし、多孔質であってもよい。
例えば、スパッタ法や化学蒸着法等により支持体表面上に形成した薄膜である場合は緻密な連続相とすることができ、粉末状の活物質を使って湿式又は乾式の塗工等の方法により支持体表面上に形成した場合は多孔質とすることができる。
【0046】
塔型反応器1内にハニカム状触媒を充填してハニカム状触媒層を形成するときは、(I)平板と波板形状のフィルム状触媒を積層したものを円筒状に丸めたり、短冊状に加工したりして得たハニカム状触媒(さらに必要に応じて、円筒等の適当なホルダーにハニカム状触媒を充填したもの)を装填する方法、
(II)予め塔型反応器の内径に合う形で成型されたハニカム状触媒(さらに必要に応じて、円筒等の適当なホルダーにハニカム状触媒を充填したもの)を充填する方法、等を適用することができる。
【0047】
多管式熱交換器タイプの塔型反応器を用いる場合、チューブ側の内部にハニカム状触媒を装填し、ハニカム状触媒を装填していないシェル側に熱媒体を流し、反応部分の温度を制御することができる。
また、塔型或いは多管式熱交換器型の反応器1と、緩衝槽3を組み合わせ、循環ポンプ35を介して液体原料を循環させながら、ガスを連続的に反応器1に導入し、反応済みのガスを緩衝槽3で分離することで、連続式で反応を進行させることができる。
本発明におけるアルコールと1級又は2級アミンとの反応条件は、反応物、生成物及び触媒の種類により異なる。1級又は2級アミンは、水素、窒素及び/又は希ガス等と共に気体として供給する事が触媒の活性を保つ上で好ましい。
【0048】
本発明の方法によれば、ガス状の1級又は2級アミンを液状のアルコールに対して効率よく反応させることができ、目的とする3級アミンを高効率で製造することができる。
【実施例】
【0049】
以下の例において、%及び部は、それぞれ質量%、質量部を示す。
製造例1(フィルム状触媒の製造)
フィルム状の支持体に対して、フェノール樹脂をバインダとして粉末状触媒を固定化した、フィルム状触媒を以下のように調製した。
容量1Lのフラスコに合成ゼオライトを仕込み、次いで硝酸銅と硝酸ニッケル及び塩化ルテニウムを各金属原子のモル比でCu:Ni:Ru=4:1:0.01となるように水に溶かしたものを入れ、撹拌しながら昇温した。
90℃まで昇温した後、10%炭酸ナトリウム水溶液を徐々に滴下して、pH9〜10にコントロールした。
1時間の熟成後、沈殿物を濾過・水洗後80℃で10時間乾燥し、600℃で3時間焼成して粉末状触媒を得た。得られた粉末状触媒における金属酸化物の割合は50%、合成ゼオライトの割合は50%であった。
【0050】
上記粉末状触媒100部に、バインダとしてフェノール樹脂(住友ベークライト製PR−9480、不揮発分56%)を加え、フェノール樹脂の不揮発分が25部になるようにした。さらに溶剤として4−メチル−2−ペンタノンを加え、固形分(粉末状触媒及びフェノール樹脂の不揮発分)の割合が57%となるようにした。これをペイントシェーカー(東洋精機製作所、250mLのポリ容器に触媒含有塗料164.5gと1.0mm径のガラスビーズ102gを充填)にて30分間混合分散処理して塗料化した。
銅箔(厚さ40μm、6.5cm×410cm×1枚)を支持体とし、上記塗料をバーコータにより両面に塗工後、130℃で1分間乾燥した。
乾燥したもののうちの半分を波板状に折り曲げ加工し、残りをの平板状のままで、150℃で90分間硬化処理して、フィルム状触媒を上記銅箔の両面に固定化した。得られたフィルム状触媒の銅箔を除いた片面当りの固形分重量は1m2当り8.8gであった。
【0051】
製造例2(ハニカム状触媒の製造)
製造例1のフィルム状触媒を用いてハニカム状触媒を製造した。
製造例1で得られた硬化処理済みの平板及び波板状の触媒を積層し、図3に示すようなハニカム形状にした状態で、内径28.0mmの塔型反応器1内部に充填した。
ハニカム状触媒が充填された部分の体積は0.24Lであり、ハニカム状触媒は、塔型反応器1の軸方向に連通した断面積0.1cm2の複数のセルを有していた。
【0052】
ラウリルアルコール(花王(株)製カルコール2098)727gを緩衝槽3に仕込み、塔型反応器1底部に接続した内径6mmの配管より反応器1に7L/Hrで導入し、緩衝槽3と反応器1との間で液循環を行った。
ガス供給器2として、孔径0.025mmの金属フィルターを用い、水素ガスを標準状態体積換算で50L/Hrの流量で供給しながら、塔型反応器1内部の温度を185℃まで昇温した後、1時間保持して触媒の還元を行った。その後、冷却し、ラウリルアルコールを抜出した。
【0053】
製造例3(ハニカム状触媒の製造)
製造例1のフィルム状触媒を用いてハニカム状触媒を製造した。
製造例1で得られた硬化処理済みの平板及び波板状の触媒を積層し、図3に示すようなハニカム形状にした状態で、内径101.0mmの反応器1内部に充填した。
ハニカム状触媒が充填された部分の体積は15.7Lであり、ハニカム状触媒は、塔型反応器1の軸方向に連通した断面積0.1cm2の複数のセルを有していた。
【0054】
ラウリルアルコール(花王(株)製カルコール2098)40kgを緩衝槽3に仕込み、400L/Hrで緩衝槽3と反応器1との間で液循環を行った。
反応器1への気体及び液体の供給は、反応器1底部に接続した内径14.3mm、長さ45.0mmの円柱状ノズルより行い、水素ガスを標準状態体積換算で1204L/Hrの流量で供給しながら、反応器1内部の温度を185℃まで昇温した後、1時間保持して触媒の還元を行った。その後、冷却し、ラウリルアルコールを抜出した。
【0055】
実施例1
塔型反応器1として、図2(a)で示すような、空間2aの内径(d2)が
4.0mm、隘路の内径(d1)が1.6mm、長さ(L)が5.0mmの円柱状ノズルが反応器外の底部に設置されたものを用いた。
ハニカム状触媒として、製造例2で得られた触媒を用いた。
【0056】
ラウリルアルコール727gを緩衝槽3に仕込み、液流量7L/Hrで循環し、水素ガスを標準状態体積換算で20L/Hrの流量で供給しながら昇温し、ジメチルアミンの供給によって反応を開始し、循環反応を行った。
反応温度は220℃まで昇温し、ジメチルアミン供給量は反応の進行に合わせて調整した。緩衝槽3より反応液をサンプリングしてガスクロマトグラフにて分析を行い、面積百分率法にて組成を定量した。
その結果、未反応のラウリルアルコールが1.0%になるのに要した時間はジメチルアミン供給開始から5.3時間であり、ジメチルアミン供給積算量は、原料ラウリルアルコールに対して1.34モル倍であった。
【0057】
実施例2
塔型反応器1の供給ノズル2として、図2(c)で示すような、第1空間2a及び第2空間2cの内径(d2)が28mmで、隘路2bの内径が0.4mmであるベンチュリー形状ノズルを用いた以外は、実施例1と同様の操作により反応を行った。
その結果、未反応のラウリルアルコールが1.0%になるのに要した時間はジメチルアミン供給開始から4.3時間であり、ジメチルアミン供給積算量は、原料ラウリルアルコールに対して1.17モル倍であった。
【0058】
実施例3
反応器1の気体及び液体の供給ノズル2として、図2(b)で示すような、空間2aの内径(d2)が4.0mm、隘路の内径(d1)が0.8mm、長さ(L)が5.0mmで、衝突板2d(直径9.0mm、図2(b)のH=3.0mm)を備えた円柱状ノズルが反応器外の底部に設置されたものを用いた以外は、実施例1と同様の操作により反応を行った。
その結果、未反応のラウリルアルコールが1.0%になるのに要した時間はジメチルアミン供給開始から2.9時間であり、ジメチルアミン供給積算量は、原料ラウリルアルコールに対して1.21モル倍であった。
【0059】
比較例1
ガス供給器として塔型反応器1の内部に設置した孔径0.025mmの金属フィルターを用い、液を塔型反応器1内に直接供給した以外は、実施例1と同様の操作により反応を行った。
その結果、未反応のラウリルアルコールが1.0%になるのに要した時間は反応開始から5.1時間であり、ジメチルアミン供給積算量は、原料ラウリルアルコールに対して1.42モル倍であった。
【0060】
実施例4
塔型反応器1として、図2(a)で示すような、空間2aの内径(d2)が28.0mm、隘路の内径(d1)が14.3mm、長さ(L)が47.4mmの円柱状ノズルが反応器外の底部に設置されたものを用いた。
ハニカム状触媒として、製造例3で得られた触媒を用いた。
【0061】
ラウリルアルコール(花王(株)製カルコール2098)40.0kgを緩衝槽3に仕込み、400L/Hrで緩衝槽3と反応器1との間で液循環を行った。水素ガスを標準状態体積換算で1024L/Hrの流量で供給しながら昇温し、ジメチルアミンの供給によって反応を開始した。
反応温度は220℃まで昇温し、ジメチルアミン供給量は反応の進行に合わせて調整した。経時的に緩衝槽3より反応液をサンプリングしてガスクロマトグラフにて分析を行い面積百分率法にて定量した。
その結果、未反応のラウリルアルコールが1.0%になるのに要した時間はジメチルアミン供給開始から4.6時間であり、ジメチルアミン供給積算量は、原料ラウリルアルコールに対して1.27モル倍であった。
【0062】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカム状触媒を含む触媒層が充填された塔型反応器の底部から液状及びガス状の原料を供給して反応させ、塔頂部より排出させる3級アミンの製造方法であって、
前記塔型反応器内に液状及びガス状の原料を供給するとき、液状及びガス状の原料を同一空間内に導入した後、隘路を通過させて供給する3級アミンの製造方法。
【請求項2】
ハニカム状触媒を含む触媒層が充填された塔型反応器の底部から液状及びガス状の原料を供給して反応させ、塔頂部より排出させる3級アミンの製造方法であって、
前記塔型反応器内に液状及びガス状の原料を供給するとき、前記塔型反応器の内側又は外側に設置された供給ノズル内に液状及びガス状の原料を導入した後、前記供給ノズル内の隘路を通過させて供給する3級アミンの製造方法。
【請求項3】
反応原料が液状のアルコールとガス状の1級アミンまたは2級アミンである請求項1又は2に記載の3級アミン製造方法。
【請求項4】
原料のアルコールが炭素数6〜36の飽和または不飽和の脂肪族アルコールである請求項1〜3のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。
【請求項5】
原料の1級アミン又は2級アミンが脂肪族1級又は2級アミンである請求項1〜4のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。
【請求項6】
前記隘路の内径(d1)と、前記隘路に至る液状及びガス状の原料の混合相の供給路における最大径(d2)の比率(d1/d2)が0.01〜0.9の範囲であり、
前記塔型反応器の内径が前記隘路の内径(d1)の3〜100倍である請求項1〜5のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。
【請求項7】
前記隘路を通過させて液状及びガス状の原料を供給するとき、前記隘路の出口に正対し、かつ間隔をおいて配置された衝突板に液状及びガス状の原料を衝突させて前記塔型反応器に供給する請求項1〜6のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。
【請求項8】
前記塔型反応器に供給するときの液状及びガス状の原料の混合相の供給圧力が、ゲージ圧で0.005〜0.9MPaである請求項1〜7のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。
【請求項9】
ガス状の1級アミン又は2級アミンの標準状態体積換算での供給量G(Nm3/Hr)と、液状アルコールの液供給量L(m3/Hr)との比(G/L)が0.1〜50である請求項1〜8のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。
【請求項10】
前記ハニカム状触媒を含む触媒層を構成するハニカム状触媒が、粉末状触媒をバインダにより支持体表面にフィルム状に固定化されたフィルム状触媒をハニカム状に成型したものである請求項1〜9のいずれか1項記載の3級アミンの製造方法。
【請求項11】
触媒層が充填された塔型反応器の圧力が0.013〜0.3MPa(絶対圧)であり、150〜300℃の温度により反応を行う請求項1〜10のいずれか1項記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−144522(P2012−144522A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−272279(P2011−272279)
【出願日】平成23年12月13日(2011.12.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】