説明

3葉断面繊維及びその織編物

【課題】優れた透け防止効果があり、紡糸、後加工等の各工程におけるガイド類等の摩耗が少なく、染色後の発色性にも優れ、従来にないパウダリーな風合いを備えた3葉断面繊維及びその織編物を提供する。
【解決手段】3葉断面繊維の3つの側面のうち、2つの側面の表層部に無機粒子が存在し、1つの側面の表層部に無機粒子が存在しない3葉断面繊維であり、繊維中の無機粒子の含有量が0.5〜1.5質量%であることがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透け防止性に優れる繊維及びその織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から透け防止性を付与する合成繊維として、繊維内部への入射光の乱反射を目的とした、酸化チタン等の無機粒子を含有した繊維が知られている。透け防止のためには、繊維中の無機粒子の含有量を増加することが好ましいが、無機粒子の含有量が増加すると紡糸工程、後加工工程等における各種ガイド、ローラー、筬、編み針等の摩耗が問題となる。このため特許文献1には、芯鞘複合繊維の芯部にのみ無機粒子を含有させた繊維が記載されている。
【特許文献1】特開平10−317230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしこの方法では、無機粒子による光の屈折により、染色後の着色光までもが屈折し、得られる染色布帛は発色性が不十分となる問題があった。
【0004】
本発明はこのような従来技術における問題点を解決するものであり、優れた透け防止効果があり、各工程におけるガイド類等の摩耗が少なく、染色後の発色性にも優れた繊維及びその織編物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の要旨は、3葉断面繊維の3つの側面のうち、2つの側面の表層部に無機粒子が存在し、1つの側面の表層部に無機粒子が存在しない3葉断面繊維にある。
【0006】
また本発明の第2の要旨は、該繊維を含む織編物にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明は優れた透け防止効果があり、各工程におけるガイド類等の摩耗が少なく、染色後の発色性にも優れた繊維および織編物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の3葉断面繊維は、3葉断面繊維の3つの側面のうち、2つの側面の表層部に無機粒子が存在し、1つの側面の表層部に無機粒子が存在していないことが必要である。
【0009】
本発明では3葉断面繊維の各側面の表面反射光による効果と、2つの側面に存在する無機粒子による効果で優れた透け防止性能が得られる。また、1つの側面の表層部に無機粒子が存在しないため、染色後の発色性に優れ、明度にも優れたものとなる。
【0010】
なお図1の本発明の単繊維断面の一例に示すように、本発明でいう一つの側面とは、一つ葉部の頂点Aから隣接する頂点Bまでの間の表面をいう。
【0011】
また、側面の表層部とは、該表面と頂点A、Bにおける接線に垂直な線分で囲まれた部分をいう。
【0012】
本発明の繊維としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン等、特に限定はないが、セルロースアセテートが他の繊維用途に用いられるポリマーに比べ屈折率が低いために繊維内部への入射光量が大きく、少量の無機粒子の添加で十分な透け防止性能が得られるため好ましい。
【0013】
また本発明では、ガイド類への接触は3葉断面の突起部となり、ガイド類との接触面積が小さくガイド類の耐磨耗性にも優れたものとなる。
【0014】
なお本発明では、繊維中の該無機粒子の含有量は、0.5〜1.5質量%が好ましい。透け防止性能の点から0.5質量%以上が好ましく、発色性の点から1.5質量%以下が好ましい。また無機粒子としては、酸化チタン、硫酸バリウム等が挙げられるが、アセテートとの屈折率の差が大きいものが好ましく、特に屈折率の大きい酸化チタン(屈折率2.5〜2.7)が好ましい。
さらに乾式紡糸法を採用するアセテート繊維では、添加した無機粒子は乾燥固化時に微小な凸部として存在することとなり、本発明の3葉断面繊維は葉部の突起部との相乗効果で特異なパウダリータッチを有するものとなる。
【0015】
また本発明では、異型度(内接円に対する外接円の直径比)が2〜4であることが好ましい。無機粒子が含有していない葉部および凹部による発色性、面反射による発色性優れる点で異型度2以上が好ましい。また、紡糸安定性の点から異型度4以下が好ましい。
【0016】
次に、本発明の3葉断面繊維の製造方法について、アセテート繊維を例に詳細に説明する。
【0017】
本発明の3葉断面アセテート繊維は、例えば図2に示すように、外周部が無機粒子を含まないアセテート紡糸原液2、中心部が無機粒子を含むアセテート紡糸原液3となるように2層の同心円状に複合した複合流を形成可能な複合流形成部4と、該複合流形成部に接続された直線状の1本の円筒パイプ5と、該円筒パイプの先端に装着され、図3に示す三角型の吐出孔を有する紡糸ノズルであって三角型の一つの頂点が紡糸ノズルの中心方向となるように同一円周上に配された吐出孔を有する紡糸ノズル6を備えてなるノズルパック7からなる乾式紡糸装置を用いて製造することができる。
【0018】
アセテートポリマーとしては、アセトン可溶の酢酸化率が74%以上であるセルロースジアセテート、あるいは塩化メチレン可溶の酢酸化率が92%以上であるセルローストリアセテートが挙げられる。
【0019】
乾式紡糸条件としては公知の条件でよく、例えば紡糸ポリマー温度を70℃前後、吐出線速度が900m/min前後となるように乾燥筒に吐出し、筒中央温度を60℃前後とした乾燥筒で固化させ、引き取り速度が720m/min前後となるように巻き取る条件で紡糸すればよい。
【0020】
本発明の3葉断面繊維を含む織編物は、一般的な織編物の製造方法で得られるが、透け防止及び風合いの点から二重織の組織が好ましい。また他の繊維と交織または交撚等により複合しても良く、本発明の3葉断面繊維が50〜95質量%含まれていることが好ましい。
【0021】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。なお各評価は以下の方法に従った。
(繊維断面の観察)
繊維断面を光学顕微鏡で観察した。
【0022】
(防透け度)
セルローストリアセテート布帛の一般的な染色条件である120℃×30分で精錬リラックスのみを行い、仕上げしたサンプル布帛を以下の方法にて評価をした。
【0023】
白板(L値90.7)及び黒板(L値13.9)にサンプル布帛を1枚重ねた状態で分光光度計(株式会社島津製作所製、UV3100PC)にてL値を測定し、Lbから、防透け度を以下の式にて計算する。防透け度が80%以上あれば十分な透け防止性能が得られる。
【0024】
Lb=(白板にサンプルを重ねた場合のL値)−(黒板にサンプルを重ねた場合のL値)
防透け度={1−Lb値/(白板と黒板のL値の差)}×100
(発色性)
セルローストリアセテート布帛の一般的な染色条件である120℃×30分で染色し、仕上げしたサンプルを目視で評価した。
【0025】
標準サンプルとして、経糸に三菱レイヨン(株)製トリアセテート繊維(167デシテックス、40フィラメント 品番;TAB167T40)を中撚に追撚して用い、緯糸に綿40/2を用いて成る、経密度が140本/インチ、緯密度が62本/インチ、1リピートが経糸、緯糸3本からなる斜文織の布帛を用い、このサンプルと発色性を比較した。
【実施例1】
【0026】
平均酢化度61.6%のセルローストリアセテートを塩化メチレン/メタノールの混合溶剤に溶解し、濃度21.9質量%の溶液(A成分)を調整した。一方、平均粒径0.35μmの二酸化チタンを、塩化メチレンとメタノールの混合溶剤(混合比:91/9)にボールミルを使用し公知の方法により均一に分散させ、溶剤中の二酸化チタン濃度25質量%の分散液を調製した。全体の固形分に対して、二酸化チタンの含有量が4.1質量%となるように、前記のセルロースアセテート溶液(A成分)と二酸化チタン分散液を攪拌混合して紡糸原液(B成分)を作成した。
【0027】
前記2種の紡糸原液を、中心部が無機粒子を含むアセテート紡糸原液となるように図2に示す紡糸装置及び図3に示す紡糸ノズルで乾式紡糸法により複合紡糸を行い、A成分:B成分=80:20で構成された84デシテックス、20フィラメント、異型度が3.4の3葉断面繊維の2つの側面の表層部に酸化チタンを含み(図1)、繊維全体として酸化チタン含有量が0.8質量%であるセルロースアセテート繊維を得た。
【0028】
得られた繊維が95質量%、ポリウレタン繊維(旭化成せんい株式会社製「ロイカ」、22デシテックス)が5質量%から成る繊度200デシテックスの加工糸(ポリウレタン繊維をドラフト2.5倍で延伸し、下撚をZ方向に800T/M、上撚をS方向に800T/M付与したダブルカバーリング糸)を経糸及び緯糸に用い、経密度が120本/インチ、緯密度が85本/インチ、1リピートが経糸、緯糸3本からなる斜文織の布帛を作り、防透け度と目視による発色性の評価を行った。防透け度は89.2%であり、標準サンプルと同等の発色性を有していた。また、糸加工工程及び製織工程において、給糸ガイドおよび筬等の磨耗は認められなかった。
【0029】
(比較例1)
実施例1と同じ2種の紡糸原液を、A成分:B成分=20:80となるように均一に混合した紡糸原液を用い、通常の乾式紡糸装置で実施例1と同じ吐出部が三角形であるノズルを用いて単一紡糸を行い84デシテックス、20フィラメント、異型度が3.4の3葉型断面繊維を得た。得られた繊維は繊維全体に均一に酸化チタンを含み、繊維全体として酸化チタン含有量が0.8質量%であった。
【0030】
得られた繊維が95質量%、ポリウレタンが質量5%から成る繊度200デシテックスの加工糸を経糸及び緯糸に用い、経密度が120本/インチ、緯密度が85本/インチ、1リピートが経糸、緯糸3本からなる斜文織の布帛を作り、防透け度と目視による発色性の評価を行った。
【0031】
防透け度は88.3%であったが、発色性が劣り、糸加工工程及び製織工程において、給糸ガイドおよび筬の磨耗が各工程のガイドおよび筬等の磨耗が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の単繊維断面の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の乾式紡糸装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の紡糸ノズルの一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0033】
1:無機粒子を含まない側面
2:無機粒子を含有したアセテート紡糸原液
3:無機粒子を含まないアセテート紡糸原液
4:複合流形成部
5:円筒パイプ
6:紡糸ノズル
7:ノズルパック
A,B,C:各葉部の頂点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3葉断面繊維の3つの側面のうち、2つの側面の表層部に無機粒子が存在し、1つの側面の表層部に無機粒子が存在しない3葉断面繊維。
【請求項2】
繊維中の無機粒子の含有量が0.5〜1.5質量%である請求項1に記載の3葉断面繊維。
【請求項3】
請求項1または2に記載の3葉断面繊維を含む織編物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−113152(P2007−113152A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308014(P2005−308014)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】