説明

3,3−ジメチルブタノールの酸化による3,3−ジメチルブチルアルデヒドの調製

【課題】悪臭や毒性のある副産物を生成せず、高価な触媒を使用しない、工業的に実施可能な3,3−ジメチルブチルアルデヒドの製造方法を提供する。
【解決手段】3,3−ジメチルブタノールを、(i)酸化銅(II)等の酸化性金属酸化物;または(ii)2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ遊離基および次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、からなる群より選択される酸化性成分と接触させる3,3−ジメチルブチルアルデヒドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(発明の属する技術分野)
本発明は、3,3−ジメチルブタノールの酸化による3,3−ジメチルブチルアルデヒドの調製方法に関する。第1の実施形態では、3,3−ジメチルブタノールを金属酸化物と接触させる。第2の実施形態では、3,3−ジメチルブタノールを、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ遊離基と酸化剤とで処理する。
【背景技術】
【0002】
(関連背景技術)
3,3−ジメチルブタノールの酸化による3,3−ジメチルブチルアルデヒドの調製に関しては、数種類の方法が公知である。
【0003】
欧州特許第0391652号および欧州特許第0374952号では、塩化オキサリルと、ジメチルスルホキシドと、トリエチルアミンとのジクロロメタン溶液によって3,3−ジメチルブタノールを酸化することで3,3−ジメチルブチルアルデヒドを生成する。この手順は、よく知られるSwern酸化であり、非常に悪臭の強い硫化ジメチルを副産物として生成する。工業規模でこの手順を利用する場合は、好ましくない量の硫化ジメチルの放出防止のために費用がかかり非効率的である措置が必要となる。これは大きな短所である。
【0004】
同様の手順が、Cheung,C.K.ら,Journal of Organic Chemistry,Vol.54,p.570(1989)に報告されている。この引用文献による記載によると、3,3−ジメチルブタノール、ジメチルスルホキシド、トリフルオロ酢酸、ピリジン、およびジシクロヘキシルカルボジイミドをベンゼンと混合して3,3−ジメチルブチルアルデヒドを生成している。この手順の大きな短所は、Swern酸化と同様に、硫化ジメチルを副産物として生成することである。この手順のもう1つの短所は、生成物の単離のために、副産物のジシクロヘキシル尿素の除去と生成物の精製のための蒸留とが必要なことである。
【0005】
3,3−ジメチルブタノールの酸化は、Wiberg,K.B.ら,Journal of the American Chemical Society,Vol.103,p.4473(1981)に記載のように、クロロクロム酸ピリジニウムを使用しても行われている。この方法は、生成物から完全に除去する必要がある毒性の非常に強いクロム塩を使用するという欠点がある。さらに、この方法を利用するには、反応によるクロム含有廃棄物流の廃棄に高額が必要である。
【0006】
3,3−ジメチルブタノールの酸化は、触媒量のPdCl(CHCN)と、トリフェニルホスフィンと、2−ブロモメシチレンとを、N,N−ジメチルホルムアミドおよび水の混合物中で使用することでも可能である。Einhorn,J.ら,Journal of Organic Chemistry,Vol.61,p.2918(1996)。しかしこの手順は、比較的高価な触媒が必要である。
【0007】
一般的方法としては、酸化銅(II)または2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ遊離基のいずれかを使用した、アルコール類のアルデヒドへの酸化が知られている。
【0008】
酸化銅(II)によるアルコール類の気相酸化が、Sheikh,M.Y.ら、Tetrahedron Letters,1972,p.257に記載されている。多くの種類の第一アルコールの対応するアルデヒドへの酸化について記載されているが、3,3−ジメチルブタノールのように分岐炭素骨格を有するものはこれらのアルコールに含まれていない。この手順がこのような化合物の酸化に応用できるという示唆もない。
【0009】
次亜塩素酸塩溶液を使用し、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ遊離基を触媒とした、第一アルコール類およびベンジルアルコール類の酸化について、Anelli,P.L.ら,Journal of Organic Chemistry,Vol.52,p.2559(1987);Anelli,P.L.ら,Organic Synthesis,Vol.69,p.212(1990)に記載されている。これらの引用文献では、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ遊離基の使用についても言及しているが、どちらの酸化剤についても3,3−ジメチルブタノールの酸化に適しているとは示唆していない。
【0010】
N−クロロスクシンイミドを使用し、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ遊離基を触媒としたアルコール類の酸化が、Einhorn,J.ら,Journal of Organic Chemistry,Vol.61,p.7452(1996)に報告されている。この手順が3,3−ジメチルブタノールの酸化に応用できるとの示唆はない。
【0011】
3,3−ジメチルブチルアルデヒドは、米国特許第5,480,668号および米国特許第5,510,508号に開示される甘味料N−[N−(3,3−ジメチルブチル)−L−α−アスパルチル]−L−フェニルアラニンの調製に有用な中間体である。従って、この中間体の経済的かつ特異的な調製方法が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許第0391652号明細書
【特許文献2】欧州特許第0374952号明細書
【特許文献3】米国特許第5,480,668号明細書
【特許文献4】米国特許第5,510,508号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Cheung,C.K.ら,Journal of Organic Chemistry,Vol.54,p.570(1989)
【非特許文献2】Wiberg,K.B.ら,Journal of the American Chemical Society,Vol.103,p.4473(1981)
【非特許文献3】Einhorn,J.ら,Journal of Organic Chemistry,Vol.61,p.2918(1996)
【非特許文献4】Sheikh,M.Y.ら、Tetrahedron Letters,1972,p.257
【非特許文献5】Anelli,P.L.ら,Journal of Organic Chemistry,Vol.52,p.2559(1987)
【非特許文献6】Anelli,P.L.ら,Organic Synthesis,Vol.69,p.212(1990)
【非特許文献7】Einhorn,J.ら,Journal of Organic Chemistry,Vol.61,p.7452(1996)
【発明の概要】
【0014】
(発明の要約)
本発明は、以下でより詳細に説明する酸化性成分を使用して3,3−ジメチルブタノールから3,3−ジメチルブチルアルデヒドを調製する方法を目指している。実施形態の1つでは、気相において酸化性金属酸化物と接触させることによって3,3−ジメチルブタノールを3,3−ジメチルブチルアルデヒドに酸化する。もう1つの実施形態では、溶媒中において2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ遊離基および酸化剤で処理することによって3,3−ジメチルブタノールの酸化を行って3,3−ジメチルブチルアルデヒドを生成する。本発明の方法は、工業的に実施可能な3,3−ジメチルブチルアルデヒドの調製手段を提供する。
【0015】
(発明の詳細な説明)
本発明の第1の実施形態では、3,3−ジメチルブタノールの3,3−ジメチルブチルアルデヒドへの酸化は、不活性キャリアーガス中に気化させた出発材料を酸化性金属酸化物上に流すことで行われる。通常、キャリアーガスと出発材料の混合物を、酸化性金属酸化物を充填した金属製カラムに通す。流速、反応温度、滞留時間、カラムの長さと直径、出発材料の濃度、およびカラム充填材料は、互いに関連性があり、通常の当業者であれば不要な実験を行わなくても容易に決定することができる。
【0016】
一般に、反応温度は、酸化は確実に起こるが、過剰な酸化は実質的に防止できるように設定される。この方法に適した反応温度は、通常約250℃〜約350℃の範囲内である。好ましくは、反応は約300℃で行われる。
【0017】
一般に、キャリアーガスは、3,3−ジメチルブタノールの酸化性金属酸化物上への移送を容易にするために使用される。過剰な酸化が起こらないように選択した反応温度と関連させて流速を設定することによって、アルコールのアルデヒドへの酸化が最大となり酸の生成は最小限となるように収率を最適化することができると考えられている。この反応に適したキャリアーガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノンなどが挙げられる。好ましいキャリアーガスは窒素とヘリウムであり、最も好ましいキャリアーガスは窒素である。好ましくは、キャリアーガス中の酸素含有率は、過剰な酸化を避けるために最小限にする。反応は、所望の3,3−ジメチルブチルアルデヒドを得るために十分である温度および時間で行われる。好適な反応時間は、条件によって変動するが、通常は約2分間〜約8時間の範囲内である。好ましい反応時間は約2分間〜約3時間であり、最も好ましくは約2分間〜約30分間である。
【0018】
あらゆる酸化性金属酸化物がこの反応への使用に適していると思われる。このような化合物としては、酸化銅(II)、五酸化バナジウム、二酸化マンガン、酸化ニッケル(IV)、三酸化クロム、および二酸化ルテニウムが挙げられる。好ましい金属酸化物は、酸化銅(II)と二酸化マンガンである。最も好ましい金属酸化物は酸化銅(II)である。反応後、使用した金属酸化物は、高温、例えば500℃で酸素にさらすことで再生することができる。
【0019】
この反応からの生成物の単離は、特に簡単で効率的である。気相で生成した酸化生成物は、単にキャリアーガスを冷却することで凝縮して、高純度の液体生成物を得ることができる。
【0020】
本発明の第2の実施形態では、3,3−ジメチルブタノールの3,3−ジメチルブチルアルデヒドへの酸化は、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ遊離基(アルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Company,Milwaukee,WI)より商品名TEMPOで入手できる)および酸化剤を用いて溶媒中で出発材料を処理することで行われる。通常TEMPOは、3,3−ジメチルブタノールに対して、約0.5:100〜約2:100、好ましくは約0.75:100〜約1:100のモル比で使用される。
【0021】
好適な酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸リチウム、過酸化水素、および過酢酸が挙げられる。最も好ましい酸化剤は次亜塩素酸ナトリウムである。好ましくは、酸化剤と3,3−ジメチルブタノールのモル比は約0.5:1〜約10:1の範囲内であり、最も好ましくは約1:1〜約2:1である。
【0022】
この反応は、3,3−ジメチルブチルアルデヒドの生成に十分である時間と温度で行われる。この実施形態の好適な反応温度は、通常は約−10℃〜約15℃の範囲内、好ましくは約−5℃〜約15℃の範囲内、最も好ましくは5℃〜15℃の範囲内である。反応時間は、使用する装置の厳密な構成によって大きく変動する。
【0023】
本発明のこの実施形態における好適な溶媒としては、反応物質を溶解し反応に使用される試薬による酸化に影響しないすべての溶媒が挙げられる。このような溶媒としては、ヘプタン、トルエン、酢酸エチル、ジクロロメタン、および水が挙げられる。好ましい溶媒は、ジクロロメタン、トルエン、およびヘプタンであり、最も好ましい溶媒はジクロロメタンである。通常、酸化剤は、水溶液として、出発材料とTEMPOとの溶媒溶液に加えられる。約0.1当量の臭化カリウムの反応混合物への添加によって反応時間が減少し、理論に縛られるものではないが、KBrはより強力な酸化性物質のHOBrを生成することによって反応速度を増大させると考えられる。
【0024】
本発明の酸化方法によって生成する3,3−ジメチルブチルアルデヒドは、甘味料N−[N−(3,3−ジメチルブチル)−L−α−アスパルチル−L−フェニルアラニンの調製における中間体として有用である。
【0025】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態の説明を意図したものであり、本発明の制限を意味するものではない。
【実施例1】
【0026】
酸化銅(II)による3,3−ジメチルブタノールの酸化
3,3−ジメチルブタノールの蒸気を窒素ガス流と共に30ml/分で、コイル状の酸化銅線(アルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Milwaukee,WI)より入手可能)を充填し両端にガスクロマトグラフのグラスウールを詰めたステンレス鋼カラム(6フィート×1/4インチ)に流した。注入器と検出器の温度は200℃に設定した。カラム温度を250℃に設定した場合は、70%の3,3−ジメチルブチルアルデヒドと30%の出発アルコールとごく微量の酸との混合物が得られた。カラム温度が300℃の場合は、アルコールのほぼ完全な酸化が起こったが、3,3−ジメチルブチルアルデヒドとともに約30%の酸が生成した。3,3−ジメチルブチルアルデヒドの生成は、キャピラリーGC分析により確認した。
【実施例2】
【0027】
TEMPOを触媒とした次亜塩素酸ナトリウムによる3,3−ジメチルブタノールの酸化
3,3−ジメチル−1−ブタノール(51.09g、0.5mol)と、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO、0.78g、5mmol)と、ジクロロメタン(150ml)との混合物に、臭化カリウム(5.95g、0.05mol)を水(25ml)に溶解した溶液を加えた。その混合物を−5℃〜0℃に冷却し、次いで次亜塩素酸ナトリウム水溶液(550ml、1M、0.55mol)を15〜25分間かけて混合物に加え、この間pHを9.5に維持し温度を5℃〜15℃の間に維持した。この反応混合物をさらに15分間撹拌した。有機層を分離させ、ヨウ化カリウム(1.6g、0.01mol)を含有するジクロロメタン(100ml)で水相を抽出してTEMPOを除去した。有機層を合わせたものを10%塩酸(100ml)で洗浄し、次いで10%チオ硫酸ナトリウム水溶液(50ml)および水(50ml)で洗浄した。その有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し大気圧で蒸留して、無色油状の3,3−ジメチルブチルアルデヒド40g(80%)を得た。有利には、ヒンダードアルコール、すなわち3,3−ジメチルブタノールのt−ブチル基のピナコールへの転位は選択した条件下では見られなかった。
【0028】
本発明の他の変形および修正は、当業者であれば明らかであろう。本発明は特許請求の範囲に記載のもの以外によって制限されることはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,3−ジメチルブタノールを、
(i)酸化性金属酸化物;または
(ii)2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ遊離基および酸化剤、からなる群より選択される酸化性成分と、3,3−ジメチルブチルアルデヒドを生成するために十分である時間と温度で接触させる工程を含む、3,3−ジメチルブチルアルデヒドの調製方法。
【請求項2】
前記酸化性成分が酸化性金属酸化物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化性金属酸化物が酸化銅(II)である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化性成分が2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ遊離基および酸化剤である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
気相中で3,3−ジメチルブタノールを酸化性金属酸化物と、3,3−ジメチルブチルアルデヒドを生成するために十分である時間と温度で接触させる工程を含む、3,3−ジメチルブチルアルデヒドの調製方法。
【請求項7】
前記酸化性金属酸化物が酸化銅(II)である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記温度が約250℃〜約350℃である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記気相が3,3−ジメチルブタノールとキャリアーガスとを含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記キャリアーガスが、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、およびキセノンからなる群より選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記時間が約2分間〜約8時間である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
溶媒中において、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ遊離基および酸化剤を用いて、3,3−ジメチルブチルアルデヒドを生成するために十分である時間と温度で3,3−ジメチルブタノールを処理する工程を含む3,3−ジメチルブチルアルデヒドの調製方法。
【請求項13】
前記酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記次亜塩素酸ナトリウムと前記3,3−ジメチルブタノールを約0.5:1〜約10:1のモル比で反応させる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ遊離基と前記3,3−ジメチルブタノールを約0.5:100〜約2:100のモル比で反応させる請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記溶媒が、ヘプタン、トルエン、酢酸エチル、およびジクロロメタンからなる群より選択される請求項15に記載の方法。
【請求項17】
反応時間を短縮するために効果的である量の臭化カリウムを前記溶剤に加える、請求項16に記載の方法。

【公開番号】特開2012−102113(P2012−102113A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−280122(P2011−280122)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【分割の表示】特願2000−524244(P2000−524244)の分割
【原出願日】平成10年8月4日(1998.8.4)
【出願人】(500018125)ニュートラスウィート プロパティ ホールディングス,インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】