説明

3,3,3−トリフルオロプロパノール類の製造方法

【課題】β−トリフルオロメチルアルコール類の製造方法を提供する。
【解決手段】アリルアルコールを(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと反応させ、次いで得られたアリルビニルエーテルを転位反応させることにより得られる下式(3)で示されるα−トリフルオロメチルアルデヒドにエノールシリルエーテル(5)を反応させる下式(4)で表されるβ−トリフルオロメチルアルコールの製造方法。


[式中、R,Rは水素原子等を表し、R、R、Rはアルキル基等を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用な医農薬中間体である、カルボニル基のα位にトリフルオロメチル基(CF基)を有する化合物及びそれから誘導される化合物の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボニル基のα位にCF基を有する化合物や、水酸基のβ位にCF基を有する化合物は、種々の生理活性物質に誘導可能な高汎用性物質である。カルボニル基のα位にCF基を有する化合物は、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸誘導体からボロンエノラートを発生させ、これとアルデヒドとアルドール反応させる方法、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸誘導体のα位を臭素化後、アルデヒドとReformatsky反応させる方法、アルデヒドを基質としてCF基を不斉導入する方法などで得られることが報告されている。
【0003】
水酸基のβ位にCF基を有するエタノールは、カルボニル基のα位にCF基を有する化合物のカルボニル基に求核反応をさせて得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Org. Lett.,Vol.12,No.20,pp.4474−4477,2010
【非特許文献2】Org. Lett.,Vol.8,No.6,pp.1129−1131,2006
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc.,Vol.132,No.14,pp.4986−4987,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
工業的に入手可能な化合物でCF基を持つ1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンから、カルボニル基のα位にCF基を有する化合物を製造する方法、並びにこれからβ位にCF基を有するエタノールを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとアリルアルコールを反応させて得られるアリルビニルエーテルに、三フッ化ホウ素エーテラートを加えることで、クライゼン転位反応が速やかに進行し、収率ならびに選択率よくα−トリフルオロメチルアルデヒドが得られることを見出した。さらに、このα−トリフルオロメチルアルデヒドは、NaBHやシリルエノールエーテルとの反応でβ−トリフルオロメチルアルコールに変換できることを見出した。
【0007】
本発明は次の通りである。
【0008】
[発明1]
次の3工程を含む一般式(4)で表されるβ−トリフルオロメチルアルコールの製造方法。
【0009】
第一工程:一般式(1)で表されるアリルアルコールを塩基の存在下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと反応させて、一般式(2)で表されるアリルビニルエーテルを合成する工程。
【0010】
第二工程:一般式(2)で表されるアリルビニルエーテルを転位反応させて、一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドを合成する工程。
【0011】
第三工程:一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドと一般式(5)で表されるエノールシリルエーテルを反応させて、一般式(4)で表されるβ−トリフルオロメチルアルコールを合成する工程。
【化1】

【0012】
式中、R,Rは、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のフェニル基を表し、ここで、R、RはそれぞれRまたはRであり、RがRであるときはRがRを表し、RがRであるときはRがRを表す。R、R、Rは、置換もしくは非置換アルキル基または置換もしくは非置換フェニル基を表し、RとRは、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0013】
[発明2]
一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドが一般式(3−2)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドである、発明1のβ−トリフルオロメチルアルコールの製造方法。
【化2】

【0014】
式中、R,Rは、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のフェニル基を表す。
【0015】
[発明3]
第二工程を三フッ化ホウ素エーテラート(BF・O(C)の存在下で行う、発明1または発明2のβ−トリフルオロメチルアルコールの製造方法。
【0016】
[発明4]
第二工程で合成したα−トリフルオロメチルアルデヒドを、反応液から単離することなく第三工程で使用する発明1〜3のβ−トリフルオロメチルアルコールの製造方法。
【0017】
[発明5]
一般式(1)で表されるアリルアルコールを塩基の存在下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと反応させる工程を含む一般式(2)で表されるアリルビニルエーテルの製造方法。
【化3】

【0018】
式中、R,Rは、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のフェニル基を表す。
【0019】
[発明6]
一般式(2)で表されるアリルビニルエーテルを転位反応させる工程を含む一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドの製造方法。
【化4】

【0020】
式中、R,Rは、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のフェニル基を表し、ここで、R、RはそれぞれRまたはRであり、RがRであるときはRはRを表し、RがRであるときはRはRを表す。
【0021】
[発明7]
一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドを還元剤で還元する工程を含む一般式(6)で表されるβ−トリフルオロメチルアルコールの製造方法。
【化5】

【0022】
式中、R,Rは、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のフェニル基を表す。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法は、アリルビニルエーテルおよびα−トリフルオロメチルアルデヒドを中間体として設定することで、工業的に入手可能な1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンから、収率および選択率よくα位にCF基を有するアルデヒドが得られ、また、これから収率および選択率よくβ位にCF基を有するエタノールを合成することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に関わる反応式を次に示す。
【化6】

【0025】
反応および式中の各記号は、各反応の説明において詳説する。
【0026】
[アリルエーテルの製造]
一般式(2)で表されるアリルビニルエーテルは、一般式(1)で表されるアリルアルコールを塩基の存在下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと反応させて製造できる。
【化7】

【0027】
米国特許公報第2739987号明細書には、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとメタノールを水酸化カリウムの存在下で反応させて3,3,3−トリフルオロメチルプロペニルメチルエーテルが得られることが記載されているが、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンとアリルアルコールとの反応についての記載はない。
【0028】
一般式(1)および(2)において、R,Rは、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のフェニル基を表す。
【0029】
非置換のアルキル基としては、直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基であって、炭素数が1〜20のアルキル基が挙げられる。直鎖または分岐状のアルキル基としては炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、環状のアルキル基としては、炭素数3〜12のアルキル基が好ましい。置換アルキル基としては、これらの非置換アルキル基の水素原子が置換基で置換されたアルキル基である。具体的には、非置換アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などが挙げられる。ここで、置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基、アルコキシ基、置換または非置換のフェニル基などが挙げられる。
【0030】
置換もしくは非置換のアルコキシ基としては、前記した置換もしくは非置換のアルキル基に酸素原子が結合したアルコキシ基が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントシキ基、シクロプロピオキシ基、シクロブトキシ基、シクロペントキシ基、シクロへキシロキシ基、シクロヘプトキシ基、ノルボルニルオキシ基、アダマンチルオキシ基などが挙げられる。ここで、置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基、アルコキシ基、置換または非置換のフェニル基などが挙げられる。
【0031】
置換もしくは非置換のフェニル基としては、次のものが挙げられる。
【化8】

【0032】
式中、Rは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、置換もしくは非置換のアミノ基、アミド基、アリール基、複素環基である。nは1〜5の整数である。ここで、置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基、アルコキシ基、置換または非置換のフェニル基などが挙げられる。Rとして、具体的は、フェニル基、4−フルオロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基、4−ヨードフェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−n−プロピルフェニル基、4−i−プロピルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−シアノフェニル基、4−ニトロフェニル基、4−アミノフェニル基、4−アミドフェニル基、4−フェニルフェニル基などが例示できる。
【0033】
本発明で用いる(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、文献記載の公知化合物であり、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピンの塩化水素付加反応、または、3−クロロ−1,1,1−トリフルオロ−3−ヨードプロパンの水酸化カリウムによる脱ヨウ化水素反応などで製造することができる。また、1,1,1,3,3−ペンタクロロプロパンをクロム触媒による気相フッ素化反応あるいは無触媒で液相フッ素化反応して得られたE体とZ体の混合物を蒸留分離して得ることもできる。市販品を入手することもできる。
【0034】
反応1において、塩基としては、有機塩基も使用できるが、無機塩基が好ましい。無機塩基としては、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属またはその水酸化物、酸化物、水素化物、炭酸塩、炭酸水素塩などが挙げられる。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウム、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなどが挙げられる。酸化物としては、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化リチウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ストロンチウムなどが挙げられる。水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウムなどが挙げられる。炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムなど、炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウムなどが挙げられる。これらのうち、アルカリ金属の水酸化物または水素化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどが特に好ましい。
【0035】
反応1は、何れかの基質を過剰に用いることもできるが、量論上からは大略1:1のモル比でよい。実用上は、アリルアルコール1モルに対し(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを0.1〜10モル使用し、0.3〜5モルが好ましく、0.5〜2モルがより好ましい。0.1モル未満では、量論上アリルアルコールに関して100%の収量を期待できず、10モルを超えて使用するのは(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンが無駄であるので好ましくない。(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは回収して再利用することができる。
【0036】
塩基の使用量は、アリルアルコール1モルに対し1〜5モルであり、1〜2モルが好ましい。1モル未満では、収率が低くなり、5モルを超えて使用するのは無駄であるので好ましくない。
【0037】
反応1においては、通常、溶媒を使用する。溶媒は反応条件で不活性な溶媒であればよいが、水、塩素系溶媒、フッ素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ニトリル系溶媒、炭化水素系溶媒、非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。塩素系溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタンなど、フッ素系溶媒としては、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブタン、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンなど、エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、エチレングリコールジメチルエーテル、1−メトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1−エトキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンなど、炭化水素系溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メジチレンなど、非プロトン性極性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、N,N−ジメチルプロピレン尿素などが例示できる。これらは二種以上を併せて使用することができる。また、水を溶媒とする場合、相間移動触媒を使用することができる、相間移動触媒としては、一般に使用される公知のものが使用でき、例えば、15−クラウン−5、18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6などのクラウンエーテル、またはテトラn−ブチルアンモニウムブロミド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリドなどの4級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0038】
塩基として水素化ナトリウムなどの水素化物を用いる場合、エーテル系溶媒または非プロトン性極性溶媒が溶媒として特に適する。また、E体を得るためには、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、N,N−ジメチルプロピレン尿素などの非プロトン性極性溶媒またはそれを含む溶媒組成が特に好ましい。
【0039】
溶媒は、基質の合計1質量部に対し0.1〜100質量部とし、0.5〜50質量部とするのが好ましく、1〜10質量部とするのがより好ましい。
【0040】
反応温度は、塩基として水酸化物、酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等無機塩基を用いる場合は、50〜200℃であり、70〜150℃が好ましく、80〜120℃がより好ましい。50℃未満では反応に要する時間が長くなり実用的ではなく、200℃では生成物の分解または副生成物が発生して好ましくない。塩基としてアルカリ金属またはアルカリ土類金属などの水素化物を用いる場合、−30〜+100℃であり、−20〜+50℃が好ましく、通常室温(約5〜約30℃)で行うことができる。−30℃未満では反応に要する時間が長くなり、または冷却設備が必要となるので好ましくなく、100℃では生成物の分解または副生成物が発生して好ましくない。低温の場合、反応圧力は通常、大気圧またはその付近で行うことができる。加熱状態で行う場合、反応圧力は概ね1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの蒸気圧に依存するので、0.1〜10MPaの加圧系で行うこととなる。
【0041】
反応時間は、反応温度、塩基等の反応資材に依存するが、5分〜100時間であり、10分〜50時間が好ましく、20分〜30時間がより好ましい。
【0042】
反応操作は、アリルアルコール、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、塩基および溶媒を反応容器に仕込み前述の所定の温度で所定の時間維持することで行う。反応の際には攪拌してもよく、攪拌することが好ましい。アリルアルコール、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、塩基および溶媒の反応容器への仕込みの順序は特に限定されないが、アリルアルコール、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンおよび塩基は、それぞれ溶媒に予め溶解または希釈しておいてから反応容器に仕込むのが取り扱い上簡便である。塩基は予め溶媒に溶解して仕込むのが好ましい。
【0043】
反応の完了は、原料の減少または消費をガスクロマトグラフィ、NMRなどでの分析により確認できる。反応完了後、反応を停止させるために、水または飽和塩化アンモニウムなどの水溶液を反応器に注入する。反応液を有機溶媒で抽出して乾燥させ溶媒を留去して粗生成物を得ることができる。精製は公知の方法により行うことができ、例えば、カラムクロマトグラフィで行うことができる。
【0044】
[α−トリフルオロメチルアルデヒドの製造]
一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドは、一般式(2)で表されるアリルビニルエーテルを触媒の存在下、転位反応させて得られる。
【化9】

【0045】
式中、R、Rは、一般式(1)における意義と同じである。
【0046】
以下において、一般式(3−1)および一般式(3−2)を併せて次の一般式(3)で表すことがある。ここで、R、RはそれぞれRまたはRであり、RがRであるときはRはRを表し、RがRであるときはRはRを表す。
【化10】

【0047】
一般式(2)で表されるアリルビニルエーテルは転位反応により一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドに転換する。このとき、基質、触媒、その他の反応条件により、[1,3]転位生成物として一般式(3−1)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒド、または[3,3]転位生成物として一般式(3−2)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドが得られる。
【0048】
反応2において、一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドとしては、Rが、RまたはRのうち、かさ高い方の基である化合物が得られる。
【0049】
したがって、Rが、置換もしく非置換のフェニル基、置換もしく非置換のフェニル基を置換基として有するアルキル基である場合には、一般式(3−2)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドが得られ易く、それに対し、Rが、置換もしく非置換のフェニル基である場合には、一般式(3−1)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドが得られ易い。
【0050】
反応2は、無触媒でも行うことができる。しかしながら、ルイス酸を触媒として用いるのが好適である。ルイス酸としては、特に限定されず、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウム等のトリアルコキシアルミニウム、テトライソプロポキシチタニウム等のテトラアルコキシチタニウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛ヨウ化亜鉛、亜鉛トリフラート(Zn(OTf))、塩化第一銅(CuCl)塩化第二銅(CuCl)などの金属化合物、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三フッ化ホウ素などが用いられる。ルイス酸は錯体として用いることもできる。
【0051】
無触媒の場合、反応には約100℃以上の温度が必要であり、脱フッ素化反応などの副反応や分解反応を伴うことがあり収率が低くなることがある。ルイス酸触媒としては、前記のうち、三フッ化ホウ素を特に好ましく用いることができる。三フッ化ホウ素は、三フッ化ホウ素エーテラート(BF・O(C)として用いるのが好ましい。
【0052】
触媒量は、実質的に転位反応が起こる量であればよいが、基質(アリルエーテル)1モルに対し、0.01〜100モルを使用し、0.1〜10モルが好ましい。
【0053】
反応は有機溶媒中で行うこともできる。有機溶媒としては、反応に影響を及ぼさないものが使用でき、塩素系溶媒、フッ素系溶媒、炭化水素系溶媒などが挙げられる。塩素系溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタンなど、フッ素系溶媒としては、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブタン、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンなど、ニトリル系溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルなど、炭化水素系溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メジチレンなど、非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジメチルプロピレン尿素などが例示できる。これらのうち、塩素系溶媒が特に好ましく、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタンなどを具体的に挙げることができる。有機溶媒は二種以上を併せて使用することができる。溶媒は、基質1質量部に対し1〜1000質量部を使用し、1〜500質量部が好ましく、10〜100質量部がより好ましい。
【0054】
反応2は、−50〜+50℃で行う。−20〜+30℃が好ましく、−5〜+10℃がより好ましい。−50℃未満では、反応が遅く反応時間が長時間となり、+50℃を超えると分解反応などの副反応を伴うことがあり好ましくない。反応は、実質上圧力に依存しないので、大気圧で行えばよい。反応時間は、触媒量、溶媒量、反応温度に依存するが、通常1分〜50時間であり、5分〜10時間が好ましい。
【0055】
反応は、アリルビニルエーテル、溶媒および触媒を反応器に仕込み、所定の温度に保つことで行う。その際、攪拌してもよく、攪拌することが好ましい。反応の完了はアリルビニルエーテルの消費をガスクロマトグラフィやNMRで検知して確認できる。反応器に水または酸、塩基などの水溶液を注入することで反応を停止させることができる。生成したα−トリフルオロメチルアルデヒドを反応液から回収するには、公知の精製手段を用いて行うことができる。例えば、二層に分離した反応液を分離し、必要に応じて溶媒(反応に使用したのと同種の溶媒が好ましい)でさらに抽出し、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムなどの乾燥剤で乾燥し、溶媒を好ましくは減圧下で留去することにより粗生成物を得ることができる。さらに分子蒸留や亜硫酸水素ナトリウムとの付加体を作って再結晶する等の精製法などで高純度化ができる。
【0056】
α−トリフルオロメチルアルデヒドは、各種の有機合成反応における基質として有用である。例えば、グリニャール試薬との反応とそれに続く水との反応でアルコールを生成し、亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤で酸化するとカルボン酸を生成し、有機金属化合物で還元するとアルコールが生成する。また、酸触媒の存在下でアルコールと脱水反応させるとアセタールが生成する。
【0057】
α−トリフルオロメチルアルデヒドの生成反応に引き続き次に述べる還元反応やエノールシリルエーテルとの反応を行う場合には、さらなる精製をすることなく、得られた粗生成物を反応原料として使用することができる。
【0058】
[β−トリフルオロメチルアルコールの製造1]
一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドを還元剤で還元することにより一般式(6)で表されるβ−トリフルオロメチルアルコールを製造できる。
【化11】

【0059】
還元剤としては、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化トリ−sec−ブチルホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素ナトリウム等の水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム、水素化アルミニウムリチウム(LAH)、水素化ジエチルアルミニウム、トリメトキシ水素化アルミニウムナトリウム等の水素化アルミニウム化合物等が挙げられる。
【0060】
還元剤の使用量は、基質(α−トリフルオロメチルアルデヒド)1モルに対して、0.1〜100モルであり、0.5〜10モルが好ましい。
【0061】
ルイス酸を使用する場合、酸の使用量は、基質(α−トリフルオロメチルアルデヒド)1モルに対して、50モル未満であり、10モル未満が好ましい。
【0062】
反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、水、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、アルコール類、ニトリル類、非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。脂肪族炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサンなど、芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなど、ハロゲン化炭化水素としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、o−ジクロロベンゼンなど、エーテル類としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランなど、アルコール類としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−エトキシエタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、グリセリンなど、ニトリル類としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルなど、非プロトン性極性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。これらの溶媒は、単独でもまたは二種以上を組み合わせて使用することもできる。溶媒の使用量は、基質(α−トリフルオロメチルアルデヒド)1質量部に対し、1〜100質量部とし、3〜20質量部が好ましい。
【0063】
反応温度は、用いる還元剤や溶媒の種類などに依存するが、通常−100℃〜使用する溶媒の沸点であり、0℃〜使用する溶媒の沸点が好ましい。
【0064】
反応時間は、通常0.1〜100時間であり、0.1〜24時間が好ましい。
【0065】
反応は、α−トリフルオロメチルアルデヒド、溶媒および還元剤を反応器に仕込み、所定の温度に保つことで行う。その際、攪拌することができ、攪拌することが好ましい。反応操作においては、還元剤は、十分に低温としたα−トリフルオロメチルアルデヒドと溶媒の混合物に添加することが好ましい。反応の完了はα−トリフルオロメチルアルデヒドの消費をガスクロマトグラフィやNMRで検知して確認できる。反応器に水または塩酸などの水溶液を注入することで反応を完結させることができる。溶媒が水溶性の場合には、水等の添加の前に非水溶性の溶媒に置換しておくことが好ましい。
【0066】
生成したβ−トリフルオロメチルアルコールを反応液から回収するには、公知の精製手段を用いて行うことができる。例えば、二層に分離した反応液を分離し、必要に応じて溶媒(非水溶性)でさらに抽出し、得られた有機層を無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウムなどの乾燥剤で乾燥し、溶媒を好ましくは減圧下で留去することにより粗生成物を得ることができる。さらにカラムクロマトグラフィによる精製などで単離、高純度化ができる。
【0067】
[β−トリフルオロメチルアルコールの製造2]
一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドと一般式(5)で表されるエノールシリルエーテルを反応させることにより一般式(4)で表されるβ−トリフルオロメチルアルコールを製造できる。反応式を下に示す。
【化12】

【0068】
一般式(5)で表されるエノールシリルエーテルにおいて、R、R、Rは、置換もしくは非置換のアルキル基または置換もしくは非置換フェニル基を表し、R、Rは、互いに結合して環を形成することができる。
【0069】
非置換のアルキル基としては、直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基であって、炭素数が1〜20のアルキル基であり、直鎖または分岐状のアルキル基としては炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、環状のアルキル基としては、炭素数3〜12のアルキル基が好ましい。置換アルキル基としては、これらの非置換アルキル基の水素原子が置換基で置換されたアルキル基である。具体的には、非置換アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などが挙げられる。置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基、アルコキシ基、置換または非置換のフェニル基などが挙げられる。
【0070】
、RまたはRで表される置換もしくは非置換のフェニル基としては、次のものが挙げられる。
【化13】

【0071】
式中、Rは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、ニトロ基、置換もしくは非置換のアミノ基、アミド基、アリール基、複素環基である。nは1〜5の整数である。具体的は、フェニル基、4−フルオロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基、4−ヨードフェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−n−プロピルフェニル基、4−i−プロピルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−シアノフェニル基、4−ニトロフェニル基、4−アミノフェニル基、4−アミドフェニル基、4−フェニルフェニル基などが例示できる。
【0072】
、Rが互いに結合して形成する環は特に限定されないが、アルキレン基であることが好ましく、炭素数3〜5のアルキレン基がより好ましい。例えば、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基などが挙げられる。環に結合する水素原子は、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基などで置換していてもよく、炭素原子はカルボニル基、酸素原子(エーテル結合)または硫黄原子(チオエーテル結合)で置換してもよい。
【0073】
これらのうち、Rとしては、メチル基またはエチル基が好ましく、Si(Rとして、Si(CHまたはSi(Cであるのが好ましい。
【0074】
エノールシリルエーテルの使用量は、基質(α−トリフルオロメチルアルデヒド)1モルに対して、0.1〜100モルであり、0.5〜10モルが好ましい。
【0075】
α−トリフルオロメチルアルデヒドとエノールシリルエーテルの反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、その他が挙げられる。脂肪族炭化水素としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサンなど、芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなど、ハロゲン化炭化水素としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、o−ジクロロベンゼンなど、エーテル類としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランなど、その他に、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。これらの溶媒は、単独でもまたは二種以上を組み合わせて使用することもできる。溶媒の使用量は、基質(α−トリフルオロメチルアルデヒド)1質量部に対し、1〜100質量部とし、3〜20質量部が好ましい。
【0076】
反応温度は、溶媒の種類などに依存するが、通常−78℃〜使用する溶媒の沸点であり、0℃〜使用する溶媒の沸点が好ましい。
【0077】
反応時間は、通常0.1〜100時間であり、0.1〜24時間が好ましい。
【0078】
反応は、α−トリフルオロメチルアルデヒド、溶媒およびエノールシリルエーテルを反応器に仕込み、所定の温度に保つことで行う。その際、攪拌することができ、攪拌することが好ましい。α−トリフルオロメチルアルデヒドとエノールシリルエーテルの混合は、十分に低温の状態で行うことが好ましい。反応の完了はα−トリフルオロメチルアルデヒドの消費をガスクロマトグラフィやNMRで検知して確認できる。反応器に水または炭酸水素ナトリウム水溶液などを注入することで反応を停止させることができる。
【0079】
生成したβ−トリフルオロメチルアルコールを反応液から回収するには、公知の精製手段を用いて行うことができる。例えば、二層に分離した反応液を分離し、必要に応じて溶媒(非水溶性)でさらに抽出し、得られた有機層を無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウムなどの乾燥剤で乾燥し、溶媒を好ましくは減圧下で留去することにより粗生成物を得ることができる。さらにカラムクロマトグラフィーによる精製などで単離、高純度化ができる。
【実施例】
【0080】
以下、具体的に、実施例を示して、より詳細に説明するが、実施態様はこれに限定されない。
【0081】
[実施例1]
30mL二ツ口ナスフラスコに、あらかじめn−ヘキサンで洗浄、乾燥した水素化ナトリウムを0.179 g(7.5mmol)加え、Arで置換した。テトラヒドロフラン(THF)5mLを加えたのち、THF5mLに溶解した(E)−3−(p−メチルフェニル)アリルアルコール0.741g(5.0mmol)を加え、室温で30分攪拌した。フラスコを0℃に冷却し、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン1.00mL(7.9mmol)を加え、2時間攪拌したのち、室温に戻し原料の消費が確認されるまで攪拌した。水、次いで飽和塩化アンモニウム(NHCl)水溶液を添加して反応を停止させ(pH=7)、n−ヘキサンで3回抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥したのち、ろ過後減圧下で濃縮した。単離、精製はカラムクロマトグラフィー(展開溶媒、n−ヘキサン:酢酸エチル=15:1)を用いて行った。生成物は、(E)−3,3,3−トリフルオロプロパ−1−エン−1−イル=(E)−3−(p−メチルフェニル)プロパ−2−エン−1−イル=エーテル(下式)であった。1.04 g(4.3mmol)、収率86%、E/Z=83/17(E/Z比は、CF基の結合した炭素上のものであり、19F−NMRにより測定した。別途注釈のない場合、以下同様。)であった。
【化14】

【0082】
[生成物の物性]
H NMR:δ 2.34(3H,s),4.45(2H,dd,J=6.0,0.9Hz),5.03(1H,dq,J=12.9,6.6Hz),6.22(1H,dt,J=15.6,6.3Hz),6.64(1H,d,J=15.9Hz),7.07(1H,dq,12.6,2.1Hz),7.14(2H,d,J=7.8Hz),7.29(2H,d,J=8.1Hz).
19F NMR:δ −60.51(d,J=6.8Hz).
13C NMR:δ 21.1,71.2,94.7(q,J=33.4Hz),123.1,124.8(q,J=266.0Hz),126.6,129.4,133.1,134.4,138.3,154.1(q,J=7.5Hz).
[実施例2]
30mL二ツ口ナスフラスコに、あらかじめヘキサンで洗浄、乾燥させた水素化ナトリウム0.183g(7.5mmol)加え、Arで置換した。THF5mLを加えたのち、THF5mLに溶解させた(E)−オクタ−2−エン−4−オール0.641g(5.0mmol)を加え、室温で30分攪拌した。フラスコを0℃に冷却し、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン1.0mL(7.9mmol)を加え、2時間攪拌したのち、室温に戻し18時間攪拌した。水、飽和NHCl水溶液を用いて反応を停止させ(pH=7)、ヘキサンで3回抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥させ、ろ過後減圧下で濃縮した。カラムクロマトグラフィー(展開溶媒、n−ヘキサン:酢酸エチル=15:1)を用いて単離、精製を行い3,3,3−トリフルオロプロパ−1−エン−1−イル=(E)−オクタ−2−エン−4−イル=エーテルを0.255g(1.14mmol)得た。なお、CF基の結合した二重結合で異性化が進行し、この位置での異性体比は、E:Z=49:51であり、両者は単離可能であった。
【化15】

【0083】
[実施例3〜22]
表1に示す基質、溶媒、塩基を用いて、表に示す条件で実施例1と同様に反応を行い各反応の結果を得た。反応条件と結果を表1に示した。
【0084】
[実施例23]
50mL耐圧管に水酸化カリウム(KOH)0.561g(10.0mmol)、水0.4gを入れ溶解させ、0℃に冷却した。そこへ、(E)−オクタ−2−エン−4−オール0.641g(5.0mmol)、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン1.26mL(10.0mmol)を入れ、耐圧管を密閉し、室温で1時間攪拌した。80℃に昇温しさらに24時間攪拌した。ジエチルエーテルを用いて抽出したのち、有機層を水で洗浄し無水NaSOで乾燥させ、ろ過後減圧下で濃縮した。この段階で19F−NMRによって求めた(E)−3,3,3−トリフルオロプロパ−1−エン−1−イル=(E)−オクタ−2−エン−4−イル=エーテルの収率は23%であり、E:Z=49:51であった。
【化16】

【0085】
[実施例24、25]
表1に示す基質、溶媒、触媒、塩基を用いて、表に示す条件で実施例23と同様に反応を行い各反応の結果を得た。実施例24では触媒として(18−crown−6)を0.0483 g(0.183mmol、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン100質量部対して2.5質量部)、実施例25では触媒としてn−テトラブチルアンモニウムブロミドを0.0163 g(0.051mmol、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン100質量部対して2.5質量部)使用した。反応条件と結果を表2に示す。
【表1】

【0086】
[実施例26]
Arで置換した30mL二つ口ナスフラスコに、塩化メチレン(CHCl)5mLを用いて溶解した(E)−3,3,3−トリフルオロプロパ−1−エン−1−イル=(E)−3−(p−メチルフェニル)プロパ−2−エン−1−イル=エーテルを0.1211g(0.50 mmol)加え、0℃に冷却した。三フッ化ホウ素エーテラート(BF・OEt)を0.090mL(1.0mmol)加え、15分間攪拌したのち、水を加え反応を停止させた。CHClを用いて抽出を行い、有機層を無水NaSOで乾燥させたのち、ろ過後減圧下で濃縮した。精製処理は行わず、そのまま次の反応に用いた。生成物は、(E)−5−(p−メチルフェニル)−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−1−アール(アルデヒド1a)と(E)−3−(p−メチルフェニル)−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−1−アール(アルデヒド1b)であった。この段階で19F−NMRによって求めたアルデヒド1aとアルデヒド1bの収率はそれぞれ90%、1%であった。
【化17】

【0087】
[アルデヒド1aの物性]
H NMR:δ 2.33(3H,s),2.65−2.77(1H,m),2.79(1H,ddq,J=15.3,6.9,1.5Hz),3.17(1H,m),6.05(1H,dt,J=15.6,6.9Hz),6.48(1H,d,J=15.6Hz),7.10−7.25(4H,m),9.75(1H,dq,J=3.0,1.5Hz).
13C NMR:δ 21.1,27.1(q,J=2.5Hz),55.7(q,J=24.8Hz),122.3,124.9(q,J=281.6Hz),126.1,129.3,133.7,137.6,194.3(q,J=3.1Hz).
19FNMR:δ −67.39(d,J=9.0Hz).
[実施例27]
Arで置換した30mL二つ口ナスフラスコに、トルエン5mLを用いて溶解した(E)−3,3,3−トリフルオロプロパ−1−エン−1−イル=(E)−3−フェニルプロパ−2−エン−1−イル=エーテルを0.1141g(0.50 mmol)加え、0℃に冷却した。三フッ化ホウ素エーテラート(BF・OEt)を0.090mL(1.0mmol)加え、2時間攪拌したのち、水を加え反応を停止させた。CHClを用いて抽出を行い、有機層を無水NaSOで乾燥させたのち、減圧下で濃縮した。精製処理は行わず、そのまま次の反応に用いた。生成物は、(E)−5−フェニル−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−1−アール(アルデヒド2a)であった。この段階で19F−NMRによって求めたアルデヒド2aの収率は56%であった。
【化18】

【0088】
[実施例28]
Arで置換した30mL二つ口ナスフラスコに、塩化メチレン(CHCl)5mLを用いて溶解した(E)−3,3,3−トリフルオロプロパ−1−エン−1−イル=(E)−1−フェニルブタ−2−エン−1−イル=エーテルを0.1211g(0.50 mmol)加え、0℃に冷却した。三フッ化ホウ素エーテラート(BF・OEt)を0.090mL(1.0mmol)加え、10分間攪拌したのち、水を加え反応を停止させた。CHClを用いて抽出を行い、有機層を無水NaSOで乾燥させたのち、ろ過後減圧下で濃縮した。精製処理は行わず、そのまま次の反応に用いた。生成物は、(E)−3−メチル−5−フェニル−2−(トリフルオロメチル)ヘキサ−4−エン−1−アール(アルデヒド3a)と(E)−3−フェニル−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−1−アール(アルデヒド3b)であった。この段階で19F−NMRによって求めたアルデヒド3aとアルデヒド3bの収率はそれぞれ24%と66%であった。
【化19】

【0089】
[実施例29〜33]
表2に示す基質、溶媒、触媒を用いて、表に示す条件で実施例26と同様に反応を行い各反応の結果を得た。反応条件と結果を表2に示す。
【表2】

【0090】
[実施例34]
Arで置換した30mL二つ口ナスフラスコに、CHCl5mLを用いて溶解した(E)−3,3,3−トリフルオロプロパ−1−エン−1−イル=(E)−3−(p−メチルフェニル)プロパ−2−エン−1−イル=エーテルを0.1211g(0.50mmol)加え、0℃に冷却した。BF・OEtを0.090mL(1.0mmol)加え、15分攪拌したのち、水を加え反応を停止した。CHClを用いて抽出を行い、有機層を無水NaSOで乾燥させたのち、ろ過後減圧下で濃縮した。得られた転位生成物とメタノール(MeOH)10mLを50mLナスフラスコに加え、−80℃に冷却した。水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)0.0473g(1.25mmol)を加え3時間攪拌したのち、減圧下でMeOHを留去した。酢酸エチル(AcOEt)を用いて希釈し、1M塩酸を加え反応を停止させた。AcOEtを用いて抽出を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄したのち無水MgSOにより乾燥させた。ろ過後減圧下で溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィーにより単離、精製を行った(展開溶媒、n−ヘキサン:AcOEt=4:1)。生成物は、(E)−5−(p−メチルフェニル)−2−(トリフルオロメチル)ペンタ−4−エン−1−オールで、収量は0.0854 g(0.35mmol)、収率は70%であった。
【化20】

【0091】
[生成物の物性]
HNMR:δ 3.74(2H,m),5.21(1H,d,J=12.3Hz),5.28(1H,d,J=12.3Hz),7.39〜7.40(5H,m).
19FNMR:δ −75.13(d,J=4.5Hz).
13CNMR:δ 49.5(q,J=2.5Hz),52.8(q,J=42.2Hz),68.1,121.4(q,J=275.4Hz),128.6,128.7,128.9,134.3,165.6.
IR(neat)n3944,3689,3054,2987,2685,2306,1756,1456,1422,1382,1341,1265,1169,1089,988,929,896,664cm−1
Anal.Calcdfor:C11:C,53.67;H,3.68.Found:C,53.54;H,3.89.
[実施例35]
Arで置換した30mL二つ口ナスフラスコに、CHCl5mLを用いて溶解させた(E)−3,3,3−トリフルオロプロパ−1−エン−1−イル=(E)−3−(p−メチルフェニル)プロパ−2−エン−1−イル=エーテルを0.1211g(0.50mmol)加え、0℃に冷却した。BF・OEtを0.090mL(1.0mmol)加え、15分攪拌したのち、フラスコを−78℃に冷却した。CHCl5mLに溶解した1−(トリメチルシロキシ)−1−フェニルエテン0.1211g(0.63mmol)をゆっくりと加え30分攪拌し、飽和NaHCO水溶液を添加して反応を停止させた。CHClにより抽出を行い、有機層を飽和食塩水で洗浄したのち無水NaSOにより乾燥させた。ろ過後減圧下で溶媒を留去し、カラムクロマトグラフィーにより単離、精製を行った(展開溶媒、n−ヘキサン:AcOEt=4:1)。生成物は、(E)−3−ヒドロキシ−7−(p−メチルフェニル)−1−フェニル−4−(トリフルオロメチル)ヘプタ−6−エン−1−オンで、収量は0.1178 g(0.33mmol)、収率は65%、ジアステレオ選択性は73:27であった。
【化21】

【0092】
[生成物の物性]
ジアステレオマー(メジャー成分)
HNMR:δ 2.33(3H,s),2.44−2.80(3H,m),3.29(2H,d,J=6.0Hz),3.40(1H,d,J=3.9Hz),4.61(1H,m),6.18(1H,dt,J=15.3,6.9Hz),6.51(1H,d,J=15.6Hz),7.11(2H,d,J=8.1Hz),7.24(2H,d,J=6.6Hz),7.43−7.50(2H,m),7.57−7.63(1H,m),7.91−7.96(2H,m).
19FNMR:δ −66.39(d,J=9.0Hz).
13CNMR:δ 21.1,28.3(q,J=2.5Hz),41.7,47.9(q,J=23.6Hz),65.2(q,J=2.5Hz),125.1,125.3,126.0,127.3(q,J=283.5Hz),128.0,128.7,129.2,132.7,133.7,134.2,136.3,137.1,200.0.
ジアステレオマー(マイナー成分)(上記と重なっていないピークを記載)
HNMR:δ 3.27(1H,d,J=3.3Hz),3.34(2H,d,J=4.5Hz),6.21(1H,dt,J=15.3,6.9Hz).
19FNMR:δ −67.52(d,J=9.3Hz).
13CNMR:δ 27.8(q,J=2.5Hz),42.4,48.0(q,J=23.6Hz),65.1(q,J=2.5Hz).
[実施例36〜39]
表2に示す基質について、表に示す条件で実施例4と同様に反応を行い各反応の結果を得た。反応条件と結果を表3に示した。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の製造方法によると、種々の生理活性物質に誘導可能な高汎用性物質であるα−トリフルオロメチルアルデヒドやβ−トリフルオロメチルアルコールを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の3工程を含む一般式(4)で表されるβ−トリフルオロメチルアルコールの製造方法。
第一工程:一般式(1)で表されるアリルアルコールを塩基の存在下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと反応させて、一般式(2)で表されるアリルビニルエーテルを合成する工程。
第二工程:一般式(2)で表されるアリルビニルエーテルを転位反応させて、一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドを合成する工程。
第三工程:一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドと一般式(5)で表されるエノールシリルエーテルを反応させて、一般式(4)で表されるβ−トリフルオロメチルアルコールを合成する工程。
【化1】

式中、R,Rは、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のフェニル基を表し、ここで、R、RはそれぞれRまたはRであり、RがRであるときはRがRを表し、RがRであるときはRがRを表す。R、R、Rは、置換もしくは非置換アルキル基または置換もしくは非置換フェニル基を表し、RとRは、互いに結合して環を形成していてもよい。
【請求項2】
一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドが一般式(3−2)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドである請求項1に記載のβ−トリフルオロメチルアルコールの製造方法。
【化2】

式中、R,Rは、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のフェニル基を表す。
【請求項3】
第二工程を三フッ化ホウ素エーテラート(BF・O(C)の存在下で行う、請求項1または2に記載のβ−トリフルオロメチルアルコールの製造方法。
【請求項4】
第二工程で合成したα−トリフルオロメチルアルデヒドを、反応液から単離することなく第三工程で使用する請求項1〜3の何れか1項に記載のβ−トリフルオロメチルアルコールの製造方法。
【請求項5】
一般式(1)で表されるアリルアルコールを塩基の存在下、(E)−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと反応させる工程を含む一般式(2)で表されるアリルビニルエーテルの製造方法。
【化3】

式中、R,Rは、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のフェニル基を表す。
【請求項6】
一般式(2)で表されるアリルビニルエーテルを転位反応させる工程を含む一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドの製造方法。
【化4】

式中、R,Rは、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のフェニル基を表し、ここで、R、RはそれぞれRまたはRであり、RがRであるときはRはRを表し、RがRであるときはRはRを表す。
【請求項7】
一般式(3)で表されるα−トリフルオロメチルアルデヒドを還元剤で還元する工程を含む一般式(6)で表されるβ−トリフルオロメチルアルコールの製造方法。
【化5】

式中、R,Rは、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のフェニル基を表す。

【公開番号】特開2013−67583(P2013−67583A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207163(P2011−207163)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】