説明

3,4’−オキシビスフタルイミド化合物とその製造方法

【課題】熱可塑性ポリイミドのモノマーとして有用な3,4’−オキシビスフタルイミド化合物及びその製造方法の提供。
【解決手段】一般式(I):


(Rは、同一であっても異なっていても良く、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または置換若しくは無置換のアリール基を表す。)で表わされる、3,4’−オキシビスフタルイミド化合物。化合物(1)は、ヒドロキシフタルイミド化合物とニトロフタルイミド化合物とを、溶媒中、塩基性アルカリ金属塩の存在下、反応させることにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリイミドのモノマーとして有用な3,4’−オキシジフタル酸二無水物の中間体として利用可能である、3,4’−オキシビスフタルイミド化合物及びその製造方法、並びに3,4’−オキシビスフタルイミド化合物を用いた3,4’−オキシジフタル酸二無水物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にポリイミドは、耐熱性、機械特性、耐薬品性、難燃性、電気特性に非常に優れている。そのため、フィルムとしてはフレキシブルプリント基板、電線被覆材等として利用され、成形材料としては自動車産業、航空機産業などのエンジン回り部品や電気電子部品等の機能性材料として広範に使用されている。しかしながらこれらのポリイミドは、熱可塑性、高温熱流動性及び溶剤溶解性などの加工性に乏しいという欠点があり、その結果、高価で汎用性に乏しい材料となっている。従って、電気・電子分野、航空機産業、輸送機器などの分野では、熱可塑性で、高温熱流動性に優れ、溶剤に溶解し、構造材、フィルム、繊維、ワニスなど様々な形態で提供される耐熱性、機械強度、耐薬品性、電気絶縁性の優れたポリイミドの開発が望まれている。
【0003】
ポリイミドに熱可塑性を付与する方法として、分子内にエーテル結合を組み込むことや、非対称構造にすることが挙げられる。分子内にエーテル結合を有するポリイミドモノマーとして、オキシジフタル酸二無水物が知られている。オキシジフタル酸二無水物には、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’−オキシジフタル酸二無水物の3種類の異性体が存在し、それぞれのモノマーを用いて合成されたポリイミドの熱及び機械特性は大きく異なる(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
直線性及び対称性が高い分子構造である4,4’−オキシジフタル酸二無水物を用いて合成したポリイミドは、機械特性には優れるが、やや溶剤溶解性に劣る。また、屈曲した分子構造である3,3’−オキシジフタル酸二無水物を用いてポリイミドを合成する場合、重合時に環状オリゴマーを形成してしまうため、高分子量のポリマーを得ることが困難であり、耐熱材料としての利用は難しい。一方、非対称構造である3,4’−オキシジフタル酸二無水物を用いて合成したポリイミドは、適度な機械特性及び工業的な実用温度範囲内での熱可塑性、高温流動性や溶剤への高い溶解性を有している。
【0005】
3,4’−オキシジフタル酸二無水物の合成法としては、4−フルオロフタル酸無水物と3−フルオロフタル酸無水物をフッ化カリウムの存在下、反応させて得る方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法を用いた場合、目的物は4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,4’−オキシジフタル酸二無水物及び3,3’−オキシジフタル酸二無水物の混合物として得られ、3,4’−オキシジフタル酸二無水物を単離する工程が必要となり、収率の低下や工程の増加が懸念される。
また、2,3−キシレノールとN−メチル−3−クロロフタルイミドをフッ化カリウムと炭酸カリウムの存在下反応させた後、水酸化カリウム水溶液を用いたイミド環の加水分解を行い、次に過マンガン酸カリウムを用いたベンジル位炭素の酸化反応を行った後、無水酢酸を用いた閉環反応によって合成する方法(例えば、非特許文献1参照)や、N−エチル−4−ヒドロキシフタルイミドと3−フルオロフタル酸無水物を水酸化ナトリウムの存在下反応させた後、水酸化ナトリウム水溶液を用いたイミド環の加水分解を行い、無水酢酸を用いた閉環反応によって合成する方法(例えば、非特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、これらの方法は収率が低いため、工業的には不利である。
一方で、オキシビスフタルイミドを用いてオキシジフタル酸を合成する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。この方法を用いれば、対応するオキシビスフタルイミドを加水分解して得られたオキシジフタル酸を、熱的及び/または化学的に閉環することで、目的とするオキシジフタル酸二無水物を得ることができる。しかしながら、3,4’−オキシジフタル酸二無水物に対応する3,4’−オキシビスフタルイミド化合物はこれまで報告された例がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−96183号公報
【特許文献2】中国公開公報101696163号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,Vol.41,3249−3260(2003)
【非特許文献2】Polyimides:Materials(Elsevier.Sci.Pub.),487−496(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱可塑性、高温流動性、溶剤溶解性に優れたポリイミドの原料として有用な3,4’−オキシジフタル酸二無水物の中間体として利用可能である、3,4’−オキシビスフタルイミド化合物及びのそれらの効率的な製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、3,4’−オキシジフタル酸二無水物の中間体として好適に利用可能な3,4’−オキシビスフタルイミド化合物を合成した。すなわち、本発明は、下記一般式(I):
【化1】


(式中、2つのRは、同一であっても異なっていても良く、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または置換若しくは無置換のアリール基を表す)
で表わされる3,4’−オキシビスフタルイミド化合物及びこれらの製造方法に関する。
【0010】
さらに本発明は、これらの3,4’−オキシビスフタルイミド化合物を用いた3,4’−オキシジフタル酸二無水物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明者等の検討によると、ヒドロキシ無水フタル酸とニトロ無水フタル酸を用いて3,4’−オキシジフタル酸二無水物の合成を試みた場合、全く反応が進行せず、目的物を得ることができなかった。したがって、本発明の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物は、熱可塑性、高温流動性、溶剤溶解性に優れたポリイミドを与えるポリイミドモノマーである、3,4’−オキシジフタル酸二無水物の中間体として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られた化合物の1H−NMRチャートを示す。
【図2】実施例2で得られた化合物の1H−NMRチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
「3,4’−オキシビスフタルイミド化合物」
本発明の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物は、下記一般式(I):
【化2】


(式中、2つのRは、同一であっても異なっていても良く、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または置換若しくは無置換のアリール基を表す)で示される構造を有する化合物である。
【0015】
前記一般式(I)における、Rである炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基としては、特に制限はないが、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基を挙げることができる。本発明の化合物を加水分解し、テトラカルボン酸へ誘導する際に、脱離したアミンを系外に排出しやすいという点から、メチル基が好ましい。具体的には、下記式(1):
【0016】
【化3】


で表わされるN,N’−ジメチル−3,4’−オキシビスフタルイミドが挙げられる。
【0017】
また、前記一般式(I)における、Rである置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができ、アリール基は、1個以上の炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基及び/又はアルコキシ基で置換されていて良く、好ましくは、フェニル基、トリル基、メトキシフェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。本発明の化合物を加水分解し、テトラカルボン酸へ誘導する際に、脱離したアミンを回収、再利用することが容易であるという点から、フェニル基が好ましい。具体的には、下記式(2):
【0018】
【化4】


で表わされるN,N’−ジフェニル−3,4’−オキシビスフタルイミドが挙げられる。
【0019】
「3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の製造方法」
本発明の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の製造方法は特に限定されず、いかなる方法で製造してもよい。好ましくは、下記一般式(II):
【0020】
【化5】


(式中、Rは、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または置換若しくは無置換のアリール基を表す)
で表わされるヒドロキシフタルイミド化合物と、下記一般式(III):
【0021】
【化6】


(式中、Rは、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または置換若しくは無置換のアリール基を表すが、ただし、前記一般式(II)におけるヒドロキシ基が3位に存在する場合、ニトロ基は、4位に存在し、前記一般式(II)におけるヒドロキシ基が4位に存在する場合、ニトロ基は3位に存在する)
で表わされるニトロフタルイミド化合物とを、溶媒中、塩基性アルカリ金属塩の存在下、反応させることにより得ることができる。
【0022】
本発明の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の合成に使用される、一般式(II)で表わされるヒドロキシフタルイミド化合物の具体例としては、N−メチル−3−ヒドロキシフタルイミド、N−メチル−4−ヒドロキシフタルイミド、N−フェニル−3−ヒドロキシフタルイミド、N−フェニル−4−ヒドロキシフタルイミドなどが挙げられる。収率の観点から、4位がヒドロキシ基で置換されている化合物が好ましく、具体例としては、N−メチル−4−ヒドロキシフタルイミド、N−フェニル−4−ヒドロキシフタルイミドが挙げられる。
【0023】
一般式(II)で表わされるヒドロキシフタルイミド化合物は、公知の方法によって合成することができる。具体的には、対応するヒドロキシフタル酸、その酸無水物、又はそのエステル等を原料とし、必要に応じて、熱的及び/または化学的に閉環反応を行った後、一級アミンと反応させ、さらに熱的及び/または化学的に閉環反応を行うことで得ることができる。
【0024】
本発明の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の合成に使用される、一般式(III)で表わされるニトロフタルイミド化合物の具体例としては、N−メチル−3−ニトロフタルイミド、N−メチル−4−ニトロフタルイミド、N−フェニル−3−ニトロフタルイミド、N−フェニル−4−ニトロフタルイミドなどが挙げられる。収率の観点から、3位がニトロ基で置換されている化合物が好ましく、具体例としては、N−メチル−3−ニトロフタルイミド、N−フェニル−3−ニトロフタルイミドが挙げられる。
【0025】
一般式(III)で表わされるニトロフタルイミド化合物は、公知の方法によって合成することができる。具体的には、対応するニトロフタル酸、その酸無水物、又はそのエステル等を原料とし、必要に応じて、一級アミンを反応させた後、熱的及び/または化学的に閉環反応を行うことで得ることができる。
【0026】
本発明の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の合成は、80〜150℃、好ましくは90〜140℃、より好ましくは100〜130℃の温度で行うことができる。150℃以上で反応を行うと、副反応である原料のニトロフタルイミド化合物のホモカップリングが促進されるため好ましくない。
【0027】
本発明の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の合成は、1分〜24時間、好ましくは1時間〜16時間、より好ましくは3時間〜8時間反応することによって行うことができる。
【0028】
本発明の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の合成に使用する溶媒は、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、所望する反応温度、反応基質の組み合せ等に応じて適宜選択される。単独で、又は2種類以上の溶媒を任意の割合で混合して用いてもよい。例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、アニソール、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンのような芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、ジグリム、トリグリムのようなエーテル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)のような非プロトン性極性溶媒などが使用できる。好ましくは、N,N−ジメチルアセトアミド及びトルエンの混合溶媒などが使用できる。溶媒の使用量は、ヒドロキシフタルイミド化合物に対して50〜10000重量%、好ましくは100〜1000重量%である。
【0029】
本発明の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の合成に使用する塩基性アルカリ金属塩は、合成に使用する反応基質、溶媒、反応温度等に応じて適宜選択される。これらは単独で、又は2種類以上を任意の割合で混合して用いてもよい。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物、ナトリウム−t−ブトキシド、カリウム−t−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシドのようなアルカリ金属アルコラートなどが使用できる。コスト及び入手の容易さの観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウム−t−ブトキシド、カリウム−t−ブトキシドが好ましい。水酸化ナトリウムがさらに好ましい。塩基性アルカリ金属塩の使用量は、ヒドロキシフタルイミド化合物に対して50〜1000モル%、好ましくは75〜500モル%、さらに好ましくは100〜300モル%である。
【0030】
本発明の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の合成は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物を用いた場合は、反応中、副生する水を除去しながら行うことが好ましい。水を除去せずに反応を行った場合には、原料が加水分解され、収率が低下する恐れがある。水の除去方法については、公知の方法であれば特に限定されない。例えば、Dean−stark管を用いて系外に水を排出する方法やモレキュラーシーブスなどの脱水剤を添加して反応を行う方法を用いることができる。
【0031】
本発明の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物は、反応終了後、室温まで冷却し、析出した固体を濾別することによって粗生成物を得ることができる。
【0032】
本発明の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物は、反応終了後、精製してもよい。精製方法は特に限定されないが、3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の粗生成物を極性溶媒、例えばテトラヒドロフラン、N,N−ジメチルアセトアミド、NMPのような溶媒、または非極性溶媒、例えばトルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンのような溶媒、または極性溶媒と非極性溶媒の任意の割合の混合溶媒を、3,4’−オキシビスフタルイミド化合物に対して50〜1000重量%、好ましくは100〜500重量%使用し、20〜200℃、好ましくは50〜150℃の温度に加熱することにより精製することができる。結晶を濾別し、減圧下又は常圧下にて40〜200℃、好ましくは80〜150℃の温度で乾燥させ、3,4’−オキシビスフタルイミド化合物を得ることができる。
【0033】
「3,4’−オキシジフタル酸二無水物の製造方法」
3,4’−オキシビスフタルイミド化合物を用いた3,4’−オキシジフタル酸二無水物の製造方法は特に限定されず、いかなる方法で製造してもよい。好ましくは、以下に示す工程を含む方法により製造することができる。
(1):3,4’−オキシビスフタルイミド化合物を、アルカリ水溶液の存在下、加水分解し、3,4’−オキシジフタル酸を得る工程、及び
(2):3,4’−オキシジフタル酸を熱的及び/または化学的に脱水閉環し、3,4’−オキシジフタル酸二無水物を得る工程
【0034】
前記工程1で使用するアルカリ水溶液の種類は特に限定されない。水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液が使用できる。使用するアルカリ水溶液の量は、アルカリ水溶液の濃度により適宜設定できる。反応効率の観点から、3,4’−オキシビスフタルイミド化合物に対し、純分として600〜800モル%の使用が好ましい。
【0035】
前記工程1における加水分解は、20〜110℃、好ましくは60〜100℃、より好ましくは80〜100℃の温度で、1分〜48時間、好ましくは1時間〜36時間、より好ましくは8時間〜24時間反応することによって行うことができる。
【0036】
加水分解終了後の反応液を冷却し、塩酸などの無機酸を用いて酸性化することで、目的の3,4’−オキシジフタル酸を得ることができる。
【0037】
得られた3,4’−オキシジフタル酸は、そのままあるいは単離した後、工程2に用いることができる。3,4’−オキシジフタル酸に多量の水分が含まれていると、工程2における脱水閉環反応に影響があるため、単離、乾燥して工程2に用いることが好ましい。
【0038】
前述のようにして得られた3,4’−オキシジフタル酸を熱的及び/または化学的に脱水閉環することで、3,4’−オキシジフタル酸二無水物を製造することができる(工程2)。
【0039】
前記工程2における熱的に脱水閉環する方法としては、例えば、有機溶媒中、170〜220℃、好ましくは190〜200℃に加熱を行い、副生する水を系外へ排出しながら脱水閉環する方法が挙げられる。使用できる溶媒は、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、所望する反応温度に応じて適宜選択される。単独で、又は2種類以上の溶媒を任意の割合で混合して用いてもよい。例えば、ジクロロトルエン、ジエチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンのような芳香族炭化水素などが使用できる。好ましくは、トリクロロベンゼンが使用できる。
【0040】
前記工程2の3,4’−オキシジフタル酸二無水物の合成は、反応中、副生する水を除去しながら行うことが好ましい。水を除去せずに反応を行った場合には、閉環反応が十分に完結せず、収率が低下する恐れがある。水の除去方法については、公知の方法であれば特に限定されない。例えば、Dean−stark管を用いて系外に水を排出する方法やモレキュラーシーブスなどの脱水剤を添加して反応を行う方法を用いることができる。
【0041】
化学的に脱水閉環する方法としては、例えば、脱水反応剤の存在下、脱水閉環する方法が挙げられる。
【0042】
前記化学的脱水閉環に使用される脱水反応剤の種類は特に限定されない。具体的には、無水酢酸、無水プロピオン酸などのカルボン酸無水物や、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N−ジイソプロピルカルボジイミドなどが挙げられる。前記脱水反応剤の使用量は、反応効率の観点から、3,4’−オキシビスフタルイミド化合物に対し、200〜600モル%の使用が好ましい。
【0043】
前記化学的脱水閉環は、20〜150℃、好ましくは40〜130℃、より好ましくは80〜120℃の温度で、1分〜24時間、好ましくは30分〜12時間、より好ましくは1時間〜6時間反応することによって行うことができる。
【0044】
前記化学的脱水閉環は、溶媒を使用してもよい。使用される溶媒は、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、所望する反応温度に応じて適宜選択される。単独で、又は2種類以上の溶媒を任意の割合で混合して用いてもよい。例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、アニソール、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンのような芳香族炭化水素などが使用できる。
【0045】
脱水閉環終了後の反応液を室温まで冷却し、析出した固体をろ別することによって3,4’−オキシジフタル酸二無水物を得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下に本発明の様態を明らかにするために実施例を示すが、本発明はここに示す実施例のみに限定されるわけではない。
【0047】
実施例で得られた化合物の純度、融点及びNMRスペクトルの測定方法は以下の通りである。
【0048】
純度:高速液体クロマトグラフィー((株)島津製作所製)及びカラム(東ソー(株)製 TSKgel ODS−80TM)を用いて測定を行った。サンプル溶液は、アセトニトリル/水の混合液に試料を溶解させることで調製した。溶離液は、アセトニトリル/水/リン酸系を用い、純度は面積百分率により算出した。
【0049】
融点:示差熱・熱重量同時測定装置((株)島津製作所製 DTG−60)にて、毎分10℃で40〜300℃まで昇温することで測定を行った。
【0050】
NMR:化合物と重DMSO(Cambrige Isotope Laboratories, Inc.製 DMSO−d6 0.05%TMS含有)とを混合した溶液を調製し、NMR(日本電子(株)製 JNM−AL400)にて、H−NMR測定を行った。
【0051】
合成例1
式(3):
【化7】


で表わされるN−メチル−3−ニトロフタルイミドの合成
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた四つ口フラスコに、3−ニトロフタル酸無水物(Aldrich)22.2g(0.115mol)及びN−メチル−2−ピロリドン44.4gを加え、攪拌した。水冷下、40%メチルアミン水溶液(WAKO)11.7g(0.150mol)を四つ口フラスコに滴下した。滴下終了後、さらに室温で3時間反応した。反応終了後、ピリジン10.0g(0.127mol)を加えた後、水冷下、四つ口フラスコに無水酢酸 63.3g(0.620mol)を滴下した。滴下終了後、さらに室温で3時間反応した。冷却管、攪拌機及び温度計を備えた四つ口フラスコに水200gを加えたものを準備し、そこに反応溶液を滴下した。その後、室温で2時間攪拌した。析出している固体を濾別し、水で洗浄した。ろ取した固体を60℃の送風乾燥機で乾燥することで、目的物20.9g(0.101mol)を収率88.1%、純度99.6%で得た。
【0052】
合成例2
式(4):
【化8】


で表わされるN−フェニル−3−ニトロフタルイミドの合成
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた四つ口フラスコに、3−ニトロフタル酸無水物20.0g(0.104mol)及びN−メチル−2−ピロリドン60.0gを加え、攪拌した。水冷下、アニリン(WAKO)10.1g(0.109mol)を四つ口フラスコに滴下した。滴下終了後、さらに室温で1.5時間反応した。反応終了後、ピリジン8.2g(0.104mol)を加えた後、水冷下、四つ口フラスコに無水酢酸 15.9g(0.156mol)を滴下した。滴下終了後、さらに室温で16時間反応した。冷却管、攪拌機及び温度計を備えた四つ口フラスコに水150gを加えたものを準備し、そこに反応溶液を滴下した。その後、室温で30分攪拌した。析出している固体を濾別し、水で洗浄した。ろ取した固体を60℃の送風乾燥機で乾燥することで、目的物24.7g(0.0921mol)を収率88.8%、純度99.8%で得た。
【0053】
合成例3
式(5):
【化9】


で表わされる4−ヒドロキシフタル酸無水物の合成
攪拌機、温度計、窒素導入管及びDean−stark管を備えた四つ口フラスコに、4−ヒドロキシフタル酸(WAKO)169.2g(0.929mol)及びトリクロロベンゼン500gを加え、攪拌した。窒素気流下、四つ口フラスコをオイルバスで加熱し、Dean−stark管を用いて副生した水を系外へ留去しながら内温172〜195℃で2時間脱水反応を行った。反応終了後、攪拌しながら室温まで冷却し、目的物を晶析させた。析出している固体を濾別し、モノクロロベンゼンで洗浄した。ろ取した固体を120℃の送風乾燥機で乾燥することで、目的物144.1g(0.878mol)を収率94.5%、純度99.9%で得た。
【0054】
合成例4
式(6):
【化10】


で表わされるN−メチル−4−ヒドロキシフタルイミドの合成
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた四つ口フラスコに、合成例3で合成した4−ヒドロキシフタル酸無水物23.0g(0.140mol)、ヨウ化ナトリウム3.75g(0.025mol)及びN,N−ジメチルアセトアミド106gを加え、攪拌した。水冷下、40%メチルアミン水溶液16.3g(0.210mol)を四つ口フラスコに滴下した。滴下終了後、さらに室温で30分反応した。反応終了後、トルエン8gを加え、Dean−stark管を用いて副生した水を系外へ留去しながら内温155〜159℃で7時間反応した。冷却管、攪拌機及び温度計を備えた四つ口フラスコに水300gを加えたものを準備し、そこに室温まで冷却した反応溶液を滴下した。その後、室温で1時間攪拌した。析出している固体を濾別し、水で洗浄した。ろ取した固体を60℃の送風乾燥機で乾燥することで、目的物23.3g(0.131mol)を収率93.7%、純度99.4%で得た。
【0055】
合成例5
式(7):
【化11】


で表わされるN−フェニル−4−ヒドロキシフタルイミドの合成
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた四つ口フラスコに、合成例3で合成した4−ヒドロキシフタル酸無水物25.0g(0.152mol)及びN,N−ジメチルアセトアミド115.1gを加え、攪拌した。水冷下、アニリン15.1g(0.162mol)を四つ口フラスコに滴下した。滴下終了後、さらに室温で30分反応した。反応終了後、トルエン8.2gを加え、Dean−stark管を用いて副生した水を系外へ留去しながら内温150〜153℃で7時間反応した。冷却管、攪拌機及び温度計を備えた四つ口フラスコに水150gを加えたものを準備し、そこに室温まで冷却した反応溶液を滴下した。その後、室温で1時間攪拌した。析出している固体を濾別し、水で洗浄した。ろ取した固体を60℃の送風乾燥機で乾燥することで、目的物36.1g(0.151mol)を収率99.0%、純度99.8%で得た。
【0056】
実施例1
式(1):
【化12】


で表わされるN,N’−ジメチル−3,4’−オキシビスフタルイミドの合成
攪拌機、温度計、窒素導入管及びDean−stark管を備えた四つ口フラスコに、合成例1で合成したN−メチル−3−ニトロフタルイミド15.5g(0.0752mol)、合成例4で合成したN−メチル−4−ヒドロキシフタルイミド13.3g(0.0751mol)、水酸化ナトリウム3.15g(0.0788mol)、N,N−ジメチルアセトアミド52.0g及びトルエン38.0gを加え、攪拌した。窒素気流下、四つ口フラスコをオイルバスで加熱し、Dean−stark管を用いて副生した水を系外へ留去しながら125℃で7時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却し、水80gを加えた。析出している固体を濾別し、水で洗浄した後にアセトンで洗浄した。ろ取した固体を60℃の送風乾燥機で乾燥することで、目的物19.9g(0.0592mol)を収率78.8%、純度99.5%、融点242℃で得た。目的物のH−NMRを図1に示す。
【0057】
実施例2
式(2):
【化13】


で表わされるN,N’−ジフェニル−3,4’−オキシビスフタルイミドの合成
攪拌機、温度計、窒素導入管及びDean−stark管を備えた四つ口フラスコに、合成例2で合成したN−フェニル−3−ニトロフタルイミド5.6g(0.021mol)、合成例5で合成したN−フェニル−4−ヒドロキシフタルイミド5.0g(0.021mol)、水酸化ナトリウム0.88g(0.022mol)、N,N−ジメチルアセトアミド60g及びトルエン40gを加え、攪拌した。窒素気流下、四つ口フラスコをオイルバスで加熱し、Dean−stark管を用いて副生した水を系外へ留去しながら125℃で6時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却し、水10g、次いでメタノール80gを加えた。析出している固体を濾別し、水で洗浄した後にアセトンで洗浄した。ろ取した固体を60℃の送風乾燥機で乾燥することで、目的物4.7g(0.010mol)を収率49.3%、純度99.2%、融点245℃で得た。目的物のH−NMRを図2に示す。
【0058】
実施例3
実施例1で得られたN,N’−ジメチル−3,4’−オキシビスフタルイミドから3,4’−オキシジフタル酸二無水物の合成
攪拌機、温度計、窒素導入管及び冷却管を備えた四つ口フラスコに、実施例1で合成したN,N’−ジメチル−3,4’−オキシビスフタルイミド19.9g(0.059mol)及び25%水酸化ナトリウム水溶液76.1g(0.476mol)を加え、攪拌した。窒素気流下、四つ口フラスコをオイルバスで加熱し、90〜100℃で15時間反応した。冷却管、攪拌機及び温度計を備えた四つ口フラスコに35%塩酸99.2g(0.952mol)を加えたものを準備し、そこに室温まで冷却した反応溶液を滴下した。その後、室温で1時間攪拌した。析出している固体を濾別し、水で洗浄した。ろ取した固体を60℃の送風乾燥機で乾燥することで、3,4’−オキシジフタル酸15.1g(0.044mol)を収率73.2%、純度97.9%で得た。
【0059】
攪拌機、温度計、窒素導入管及びDean−stark管を備えた四つ口フラスコに、3,4’−オキシジフタル酸15.1g(0.044mol)及びトリクロロベンゼン53gを加え、攪拌した。窒素気流下、四つ口フラスコをオイルバスで加熱し、Dean−stark管を用いて副生した水を系外へ留去しながら内温195〜197℃で3時間脱水反応を行った。室温まで冷却し、目的物を晶析させた。析出している固体を濾別し、モノクロロベンゼン、アセトンで洗浄した。ろ取した固体を120℃の送風乾燥機で乾燥することで、3,4’−オキシジフタル酸二無水物12.9g(0.042mol)を収率95.2%、純度99.8%で得た。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物は、高選択性、高収率での3,4’−オキシジフタル酸二無水物の合成における前駆体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化14】


(式中、2つのRは、同一であっても異なっていても良く、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または置換若しくは無置換のアリール基を表す)
で表わされる3,4’−オキシビスフタルイミド化合物。
【請求項2】
下記一般式(II):
【化15】


(式中、Rは、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または置換若しくは無置換のアリール基を表す)
で表わされるヒドロキシフタルイミド化合物と、下記一般式(III):
【化16】


(式中、Rは、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または置換若しくは無置換のアリール基を表すが、ただし、一般式(II)におけるヒドロキシ基が3位に存在する場合、ニトロ基は、4位に存在し、一般式(II)におけるヒドロキシ基が4位に存在する場合、ニトロ基は3位に存在する)
で表わされるニトロフタルイミド化合物とを、溶媒中、塩基性アルカリ金属塩の存在下、反応させることを特徴とする、下記一般式(I):
【化17】


(式中、2つのRは、同一であっても異なっていても良く、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または置換若しくは無置換のアリール基を表す)
で表わされる3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の製造方法。
【請求項3】
一般式(II)におけるヒドロキシ基が4位に存在し、一般式(III)におけるニトロ基が3位に存在することを特徴とする、請求項2記載の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の製造方法。
【請求項4】
反応温度が80〜150℃である、請求項2または3記載の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の製造方法。
【請求項5】
塩基性アルカリ金属塩が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウム−t−ブトキシド及びカリウム−t−ブトキシドからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の塩基性アルカリ金属塩であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項記載の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物を用いた3,4’−オキシジフタル酸二無水物の製造方法。
【請求項7】
下記の工程:
(1)請求項1記載の3,4’−オキシビスフタルイミド化合物を、アルカリ水溶液の存在下、加水分解し、3,4’−オキシジフタル酸を得る工程;及び
(2)3,4’−オキシジフタル酸を熱的及び/または化学的に脱水閉環し、3,4’−オキシジフタル酸二無水物を得る工程
を含むことを特徴とする、請求項6記載の3,4’−オキシジフタル酸二無水物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−136470(P2012−136470A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289775(P2010−289775)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】