説明

3,4’ジアセトキシベンゾフェノン製造用中間体としての3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンの製造方法

メタ−ヒドロキシ安息香酸およびフェノールをルイス酸およびプロトン酸の存在下に反応させることによって、3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンを合成する方法。反応が完了したところで、ルイス酸およびプロトン酸を除去し、その後、反応生成物の3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンを水(10℃以下の温度)および水酸化アンモニウムと接触させ、次いでろ過する。その後、ろ過物質を、無機酸および活性炭の存在下にアセチル化剤と反応させ、3,4’ジアセトキシベンゾフェノンを生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3,4’ジアセトキシベンゾフェノンの中間体としての3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンを製造するための様々な方法が、1981年5月26日登録の米国特許第4、269、965号明細書、1981年1月13日登録の米国特許第4、245、082号明細書、および1985年2月19日登録の米国特許第4、500、699号明細書(いずれも、Robert S.Irwin)などの先行技術に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
3,4’ジアセトキシベンゾフェノンの製造に有用な中間体である3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンを製造するための、改善された、効率的で、かつ経済的な方法が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、
(a)m−ヒドロキシ安息香酸、フェノール、プロトン酸およびルイス酸を混合して混合物を調製する工程、
(b)工程(a)の攪拌混合物を、27〜33℃の範囲の温度、および少なくとも5psigの圧力に加熱して、溶液中に固形物として存在する反応生成物の3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンを生成する工程、
(c)生成された反応生成物3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンから、プロトン酸およびルイス酸の少なくとも一部を除去する工程、
(d)工程(c)の反応生成物を、(i)10℃以下の温度の水、および(ii)水酸化アンモニウムと接触させて、pHを4.5〜6の範囲にする工程、
(e)工程(d)の混合物をろ過して、3,4’ジヒドロキシベンゾフェノン固形物を分離する工程
を順に含む、3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンの製造方法に関する。
【0005】
好ましいプロトン酸は、フッ化水素酸(フッ化水素)であり、好ましいルイス酸は、三フッ化ホウ素である。
【0006】
また、
(f)3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンを無機酸および活性炭の存在下にアセチル化剤と反応させて、3,4’ジアセトキシベンゾフェノンを生成する工程
を追加することによって、3,4’ジアセトキシベンゾフェノンが得られる。
【0007】
好ましくは、
(g)工程(f)の3,4’ジアセトキシベンゾフェノンを、予め酸で洗浄した珪藻土フィルターに通してろ過し、ろ液を得る工程、
(h)3,4’ジアセトキシベンゾフェノンのろ液を10℃以下の温度の水と接触させる工程、および
(i)3,4’ジアセトキシベンゾフェノンから水を分離する工程
により、精製された3,4’ジアセトキシベンゾフェノンが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンの合成
3,4ジヒドロキシベンゾフェノンを生成する最初の第1工程は、m−ヒドロキシ安息香酸、フェノール、プロトン酸およびルイス酸の混合物を調製することである(本明細書では、「混合物」の調製は、「溶液」の調製を含むものとする)。
【0009】
m−ヒドロキシ安息香酸およびフェノールは、3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンを生成するために、等モル量存在させることが好ましい。m−ヒドロキシ安息香酸およびフェノールのいずれかを必要とされる正確な割合より過剰に存在させてもよいことは理解される。しかしながら、その場合、過剰の反応物は生成した3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンにおいては不純物として存在することになろう。
【0010】
説明のために記載すれば、等モル量とは、同じモル数の反応物質が混合されるように、反応物質を混合させることを意味する。これを別の方法で表現すれば、反応したメタ−ヒドロキシ安息香酸のモル数を反応したフェノールのモル数で除した比が1に等しいことである。
【0011】
プロトン酸は、本明細書では、水溶液中で正の水素イオンまたはオキソニウム(H3+)イオンを生成する酸である。適切なプロトン酸としては、フッ化水素酸(フッ化水素)、塩酸、硫酸および臭化水素酸(臭化水素)が挙げられる。これらの酸の混合物を使用できることは理解される。好ましいプロトン酸はフッ化水素酸(フッ化水素)である。
【0012】
有用なルイス酸の例としては、塩化アルミニウム、塩化鉄(III)、三フッ化ホウ素、五塩化ニオブ、およびイッテルビウム(III)トリフレートなどのランタニドトリフレートが挙げられる。酸の混合物もまた使用することができる。好ましいルイス酸は、三フッ化ホウ素である。
【0013】
m−ヒドロキシ安息香酸、フェノール、プロトン酸およびルイス酸の混合物を調製する最初の第1工程は、いくつかの工程に分けて行うことが好ましい。第1の分割工程は、メタ−ヒドロキシ安息香酸、フェノールおよびプロトン酸の溶液を調製する工程を含む。前述したように、好ましいプロトン酸はフッ化水素酸である。プロトン酸は、メタ−ヒドロキシ安息香酸およびフェノールの合計重量の少なくとも2倍の量を配合することが好ましい。
【0014】
好ましい態様では、第2の分割工程は、メタヒドロキシ安息香酸、フェノールおよびプロトン酸の溶液に別途ルイス酸を添加する工程を含む。前述したように、好ましいルイス酸は三フッ化ホウ素である。
【0015】
典型的には、m−ヒドロキシ安息香酸、フェノール、プロトン酸およびルイス酸の混合物は、一般に圧力反応器として知られる圧力容器に入れる。反応器中の混合物を、27〜33℃の範囲の温度に加熱し、圧力を少なくとも5psigに高め、それにより反応生成物3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンを生成する。圧力反応器内の内容物は、反応中、攪拌することが好ましい。
【0016】
説明のために記載すれば、加圧しながら加熱する時間は、最短で4時間である。また、反応混合物は、長時間、例えば16時間かけて室温にまで冷却することが好ましい。
【0017】
昇圧した反応器内の圧力を解放後、プロトン酸およびルイス酸を反応混合物から除去する。回転蒸留などの従来の分離法は、低温、減圧下での使用には適している。
【0018】
その後、反応混合物を氷水と接触させて、残留するプロトン酸およびルイス酸、水溶性反応物、並びに水溶性副生物を反応混合物から抽出し、次いで、水酸化アンモニウム水溶液を使用して残留する酸を中和し、反応混合物のpHを4.5〜6の範囲に上昇させる。
【0019】
水性スラリーとして存在する反応生成混合物を、その後、ろ過して、サーモン色の固形物として3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンを回収する。得られた3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンは、水で洗浄し、かつ15℃未満の温度の冷メタノールで洗浄して、残留する水溶性不純物を除去することが好ましい。
【0020】
典型的には、3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンは、等モル量のメタ−ヒドロキシ安息香酸およびフェノールに対して、重量基準で少なくとも70%、好ましくは80%、特に好ましくは少なくとも87%の収率で生成される。この合成の最終生成物は、さらなる精製を行わずに使用することができる。場合により、生成された3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンは、その後、使用する前に、乾燥させてもよい。この生成物は、融点が200〜201℃の範囲にあることがわかった。
【0021】
3,4’ジアセトキシベンゾフェノン(3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンジアセテート)の合成
3,4’ジアセトキシベンゾフェノン(3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンジアセテート)は、無機酸および活性炭の存在下に3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンをアセチル化剤と反応させることにより製造される。
【0022】
アセチル化剤は、前駆体としての無水酢酸、または酢酸である。無水酢酸は水と接触すると容易に加水分解して酢酸となる。無水酢酸は急速に加水分解する傾向があるため、無水酢酸と酢酸を任意の割合で混合した混合物も、アセチル化剤として使用することができる。
【0023】
この合成に有用な無機酸としては、硫酸、塩酸、リン酸、フッ化水素酸(フッ化水素)および臭化水素酸(臭化水素)、並びにこれらの混合物が挙げられる。濃硫酸は、濃度が少なくとも90重量%であれば適している。例を示せば、酸の量は、3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンの重量に対して500〜2000ppmの範囲である。より狭い範囲は、750〜1000ppmである。
【0024】
活性炭は、本明細書における定義では、炭素含有率が80〜94重量%で、かつ表面積が500〜1500m2/グラム(平方メートル/グラム)である。例を示せば、活性炭の量は、反応物質の3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンおよび無水酢酸に対して0.1〜10重量%の範囲である。より狭い範囲では、活性炭は5〜7重量%である。商業的に入手可能なグレードの活性炭としては、Norit Americas(Mashall、TX)により供給されるDarco(登録商標)12X12、Darco(登録商標)G−60、およびDarco(登録商標)KB−WJが挙げられる。
【0025】
珪藻土フィルターの処理は、無水酢酸、酢酸、およびこれらの任意の混合物で完結させることができる。
【0026】
好ましい実施形態では、3,4’ジアセトキシベンゾフェノンは珪藻土フィルターでろ過して、ろ液を得る。珪藻土は、珪藻と呼ばれる単細胞藻類様植物の非常に小さな骨格の残骸からなる、天然に産出される珪質堆積無機化合物である。珪藻土の一般的な組成は、重量基準で、マグネシウム約3%、珪素約33%、カルシウム約19%、ナトリウム約5%、鉄約2%、並びに、微量のチタン、ホウ素、マンガン、銅およびジルコニウムなどの他の鉱物である。珪藻土は、一般に、Celite(登録商標)という商品名で販売されている。場合により、珪藻土は、使用前に、まず酢酸で予備洗浄を行うようにしてもよい。
【0027】
また、好ましい実施形態では、3,4’ジアセトキシベンゾフェノンのろ液を10℃以下の温度の氷と水の溶液に接触させ、その後、ろ過して、水を3,4’ジアセトキシベンゾフェノンから分離する。
【0028】
さらに行ってもよい工程としては、3,4’ジアセトキシベンゾフェノンを脱イオン水で洗浄した後、乾燥させることが挙げられる。
【0029】
3,4’ジアセトキシベンゾフェノンは、LCP(液晶ポリエステル)ポリマーの製造に有用である。例を示せば、テレフタル酸は3,4’ジアセトキシベンゾフェノンと反応し、液晶ポリエステルを生成することができる。
【0030】
以下の実施例では、他に記載がない限り、部およびパーセントは全て重量部として設計しており、かつ温度はすべて摂氏で示している。
【実施例】
【0031】
実施例1
3,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンの調製
44gのm−ヒドロキシ安息香酸、32gのフェノール、および200gの無水フッ化水素を圧力反応器に仕込んだ。この容器に36.7gの三フッ化ホウ素ガスを導入し、30℃で4時間加熱した。その後、反応混合物を室温で終夜連続的に振盪した。圧を抜き、過剰のフッ化水素を蒸留し、苛性スクラバーに導いた。容器を開放し、内容物を1リットルの氷水に注いだ。水酸化アンモニウム水溶液(NH3の重量で28.0〜30.0%)を加え、このバッチのpHを4.5〜6に中和し、スラリーをろ過し、ケーキを水で3回、氷冷メタノールで1回洗浄した。含水フィルターケーキを回収し、80℃の真空オーブンで終夜乾燥させた。得られた固い塊状の物質を粉砕し、200〜201℃のmpを有するサーモン色の粉末として、3,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン51.5gを得た。メタノールろ液中に残留する生成物を濃縮し、氷浴中で冷却して2回目の生成物の回収を行った。この物質をオーブンで乾燥させ、粉砕して、ベージュ色の粉末8.5gを得た。2つの回収物はNMRによれば同一の物質であり、混合して、その後の使用のための中間体60.0g(収率87.9%)を得た。
【0032】
比較例1
3,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンの調製
44gのm−ヒドロキシ安息香酸、32gのフェノール、および200gの無水フッ化水素を圧力反応器に仕込んだ。この容器を三フッ化ホウ素ガスで加圧し、30℃で4時間加熱した。圧を抜き、過剰のHFを蒸留し、苛性スクラバーに導いた。容器を開放し、内容物をNaHCO3水溶液に注いだ。スラリー(約2ガロン)をろ過し、ケーキを水、5%NaHCO3水溶液、そして最後に2回目の水で洗浄した。含水フィルターケーキを80℃の真空オーブンで約2日間乾燥させた。これにより、41.4gの3,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンを得た(収率60.6%)。
【0033】
実施例2
3,4’−ジアセトキシベンゾフェノンの調製
濃硫酸6滴とDarco(登録商標)活性炭150gを含有する無水酢酸1700gに、実施例1の3,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン562.5gを加えた。その後、この反応混合物を3時間還流した。反応混合物を室温にまで冷却し、終夜攪拌を行い、酢酸で予め洗浄したCelite(登録商標)層に通してろ過した。機械式攪拌機を具備した20リットルのジャケット付反応器に、6.0リットルの氷水を仕込み、約0℃に冷却した。無水酢酸のろ液を、添加ろうとを通して約2.0時間かけて連続的に攪拌しながら氷水に加えた。スラリーを冷間でろ過し、脱イオン水で4回洗浄し、フィルター上で部分的に乾燥させた。その後、生成物を60℃の真空オーブンで約48時間乾燥させ、mp(融点)が83.0〜84.5℃でややオフホワイト色の固体として、3,4’−ジアセトキシベンゾフェノン649.5g(収率82.9%)を得た。1H−NMRは、純度が99.5%より高い3,4’ジアセトキシベンゾフェノンと一致した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)m−ヒドロキシ安息香酸、フェノール、プロトン酸およびルイス酸を混合して混合物を調製する工程、
(b)工程(a)の攪拌混合物を、27〜33℃の範囲の温度、および少なくとも5psigの圧力に加熱して、溶液中に固形物として存在する反応生成物の3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンを生成する工程、
(c)前記生成された反応生成物3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンから、前記プロトン酸およびルイス酸の少なくとも一部を除去する工程、
(d)工程(c)の前記反応生成物を、(i)10℃以下の温度の水、および(ii)水酸化アンモニウムと接触させて、pHを4.5〜6の範囲にする工程、
(e)工程(d)の混合物をろ過して、3,4’ジヒドロキシベンゾフェノン固形物を分離する工程
を順に含む、3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンの製造方法。
【請求項2】
工程(a)が、
(i)メタ−ヒドロキシ安息香酸、フェノールおよびプロトン酸の溶液を調製する工程、
(ii)工程(i)の前記溶液にルイス酸を添加する工程
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プロトン酸が、フッ化水素、硫酸、または臭化水素酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プロトン酸がフッ化水素である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記プロトン酸の重量が、メタ−ヒドロキシ安息香酸およびフェノールの合計重量の少なくとも2倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ルイス酸が、塩化アルミニウム、塩化鉄(III)、三フッ化ホウ素、五塩化ニオブ、またはランタニドトリフレートである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ルイス酸が三フッ化ホウ素である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記プロトン酸がフッ化水素で、かつルイス酸が三フッ化ホウ素である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)の圧力が少なくとも10psigである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(f)3,4’ジヒドロキシベンゾフェノンを無機酸および活性炭の存在下にアセチル化剤と反応させて、3,4’ジアセトキシベンゾフェノンを生成する工程
をさらに有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
(g)工程(f)の3,4’ジアセトキシベンゾフェノンを、予め酸で洗浄した珪藻土フィルターに通してろ過し、ろ液を得る工程
をさらに有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
(h)前記3,4’ジアセトキシベンゾフェノンのろ液を10℃以下の温度の水と接触させる工程、および
(i)前記3,4’ジアセトキシベンゾフェノンから前記水を分離する工程
をさらに有する、請求項11に記載の方法。

【公表番号】特表2012−519172(P2012−519172A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552093(P2011−552093)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/025146
【国際公開番号】WO2010/099144
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】