説明

3,4−アルキレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸誘導体の製造方法

【課題】一般式IV及びV:


を有する3,4−アルキレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】チオジ酢酸ジエステル及び蓚酸ジエステルを出発物質として、3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルがアルカリ金属ジアルコキシドの存在下で製造される第1段階、次いで該エステルはジハロアルカンを用いてアルキル化させて、3,4−アルキレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルとする大2段階、さらにケン化して3,4−アルキレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸とする第3段階のうち、少なくとも2つの段階が、中間体を単離しないで行われることを特徴とする上記の方法は、高い純度及び収率で目的製品を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
最近、工業において、有機導電性高分子材料が益々広範に普及してきた。応用範囲は、例えば回路基板のスループレーティング(through-plating)(EP−A−553671)、写真フィルムの帯電防止仕上げ(EP−A−440957)、又は固体電解質コンデンサーの電極として(EP−A−340512)である。
【背景技術】
【0002】
これらの分野で特に重要な成果は、高い安定性及び電気伝導性を特徴としているポリ−3,4−アルキレンジオキシチオフェンにより達成されてきた(EP−A−339340)。その製造に必要な3,4−アルキレンジオキシチオフェン単量体は、原理的には文献から知られた方法によって製造することができる。一つの合成法が、例えば、Gogteら、Tetrahedron23巻(1967)2437頁に記述されている。チオジ酢酸ジエステルI及び蓚酸ジエステルIIを出発物質として、3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルIIIがアルカリ金属ジアルコキシドの存在下で反応式Iに従って製造される(段階1)。次いでエステルIIIはジハロアルカンを用いてアルキル化されて3,4−アルキレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルIVを与え(段階2)、そしてケン化されて3,4−アルキレンジオキキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸Vとなり(段階3)、脱カルボキシル化されて3,4−アルキレンジオキシチオフェン単量体を与える。先行技術でこれまで行われてきた個々の中間物質の単離は、複雑でありかつコスト高である。
【0003】
【化1】

【0004】
反応式1において:
1、R2、R3及びR4は、同じでも異なってもよく、線状の又は分岐した、場合によっては置換されていてもよい、1〜20個の炭素原子を有するアルキル基であり、
Aは、リチウム、ナトリウム又はカリウムであり、
Halは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素である。
【発明の概要】
【0005】
驚くべきことに、ここに、段階1及び2、或いは2及び3、或いは1〜3が、中間物質を取り出すことなく遂行でき、しかも高い純度及び収率で目的製品を得られることが見出された。
【0006】
従って、本発明は、中間物質を単離せずにそれぞれの合成段階を組み合わせることによる、3,4−アルキレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸又はこれらのエステルの簡易な製造方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本プロセスは以下により詳しく記述する。段階1と2とを組み合わせた場合、その手順は以下のとおりである。
【0008】
段階1では、チオジ酢酸エステルと蓚酸エステルとの縮合を、アルカリ金属アルコキシドの存在下で行う。適切な金属アルコキシドは、リチウム、ナトリウム及びカリウムのアルコキシドで、ナトリウム又はカリウムが好ましい。これらは線状又は分岐脂肪族アルコールから誘導される。好ましいアルコールは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−及びisoブタノール及び第3級ブタノールである。
【0009】
反応は、好ましくは溶液中で行われる。適切な溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−及びisoブタノール及び第3級ブタノールのような低級脂肪族アルコールである。アルコキシド成分中にも存在するアルコールが好ましい。チオジ酢酸エステル及び蓚酸エステルは通常等モル量用いられる。エステル1モルに対して、2.0〜4.0モルのアルコキシド、好ましくは2.0から3.0モルのアルコキシド、特に好ましくは2.0から2.5モルのアルコキシドが用いられる。
【0010】
反応は、−10℃から200℃、好ましくは0℃から100℃、特に好ましくは10℃から70℃で行われる。
【0011】
反応時間は10分から24時間、好ましくは1時間から8時間である。
【0012】
アルコキシドは最初に導入するのが好ましく、エステルは、別々に又は混合して、攪拌しながら滴下する。
【0013】
反応の完了後、過剰のアルコキシドは、アルカリ金属硫酸水素塩のような酸又は酸性塩を添加して中和する。
【0014】
次いで、第2段階を行うために、高沸点溶媒、好ましくは100℃から300℃の沸点を持った溶媒を添加する。好ましい溶媒の例は、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドのような線状又は環状のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド又はスルホランのような脂肪族スルホキシド又はスルホンである。溶媒は単独又は混合物として使用することができる。
【0015】
高沸点溶媒の添加後、アルコールを、もし必要なら減圧下で、留出する。次いで、好ましい態様においては、用いたエステルの1モルに対して0.01〜0.5モルの量で、塩基を添加する。好ましい塩基は炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムである。炭酸カリウムが特に好ましい。
【0016】
次いで、3,4−アルキレンジオキシチオフェンジカルボン酸エステルを与える閉環反応を、3,4−ジヒドロキシジカルボン酸エステルのアルカリ金属塩とアルキル化剤との反応によって行う。適切なアルキル化剤はジハロアルカンである。好ましいのはジクロロ−又はジブロモアルカンである。特に好ましいのは線状の炭素原子数が2〜18の1,2−ジハロアルカン及び炭素原子数が3〜18の1,3−ジハロアルカンである(ハロゲンは同じでも異なっていてもよく、フッ素、塩素、臭素又は沃素である)。特に好ましいのは1,2−ジクロルエタン及び1,2−ジクロルヘキサデカンである。
【0017】
反応は50から200℃、好ましくは100から150℃の温度で、所望ならば加圧下で行う。反応時間は1〜24時間である。
【0018】
反応が完了した時、3,4−アルキレンジオキシチオフェンジカルボン酸エステルを、もし必要なら減圧下での蒸留による溶媒の除去、及び/又は水を使った沈殿法によって単離する。粗生成物は、続いて乾燥することができ、又は、湿潤状態で直接鹸化して遊離の3,4−アルキレンジオキシチオフェンジカルボン酸とすることができる。
【0019】
本発明の特徴的態様においては、段階3の組み込みに関して、3,4−エチレンジオキシチオフェンジカルボン酸エステルは単離されない。アルキル化が完了した時、溶媒の大部分を、もし必要なら減圧下で、留去し、次いで3,4−エチレンジオキシチオフェンジカルボン酸エステルを塩基を用いて直接鹸化する。
【0020】
鹸化反応は、水溶液及び/又は水に混合可能な脂肪族アルコールとの混合物として用いられるアルカリ金属水酸化物を用いて行うのが好ましい。好ましいアルコールの例はメタノール、エタノール及びイソプロパノールである。鹸化反応は室温あるいは室温以上の温度で行うことができる。鹸化反応は水又は水/アルコール混合物の還流温度で成功裏に行われることが分かった。鹸化反応が完了すると、遊離の3,4−エチレンジオキシチオフェンジカルボン酸が分離し、鉱酸の添加により沈殿する。次いで、生成物を吸引濾過で単離し乾燥する。
【0021】
もう一つの態様では、段階2と3が組み合わされる。第2段階を遂行するために、別に調製された3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルを上述の溶媒中に先ず導入する。塩基として、3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステル1モルに対して1.0〜1.5モル、好ましくは1.1〜1.4モルのアルカリ金属炭酸塩を添加する。好ましくは炭酸カリウムである。
【0022】
もう一つの3,4−アルキレンジオキシチオフェンジカルボン酸エステルを与える反応及び3,4−アルキレンジオキシチオフェンジカルボン酸への鹸化は、上記と同様にして、段階1〜3を組み合わせて行われる。
【実施例】
【0023】
実施例1
3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルのヂメチル、メチルエチル及びジエチルエステルの混合物
(第1及び第2段階の組み合わせ)
カリウムメトキシド32%溶液848g(3.88モル)及びメタノール200gをゲート羽根攪拌機、還流冷却器、温度計、及び滴下漏斗を備えた、平らなすり合わせ付き6リットル装置に導入し、次いで95%ジエチルチオジアセテート377.3g(1.74モル)及び蓚酸ジエチル254g(1.74モル)の混合物を0から20℃で、60分にわたって滴下する。次いでこの混合物を、室温で2時間、40℃で1時間及び還流下で3時間攪拌する。この懸濁液を冷却し、硫酸水素カリウム47.6g(0.35モル)を添
加し、その混合物を10分間攪拌する。N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)1700g及びジメチルスルホキシド(DMSO)200gを攪拌しながら添加する。メタノールを、100mbarで頂温が40℃に達するまでウオータージェット真空下で10cmカラム上で留去した。炭酸カリウム27.6g(0.2モル)を添加し、1,2−ジクロルエタン168.4g(1.7モル)を80℃で2時間にわたって滴下する。この懸濁液を100℃で2時間、125℃で10時間攪拌し、次いで1,2−ジクロルエタン48g(0.48モル)を125℃で1時間にわたって滴下する。反応を完了するまで130から135℃で、8時間にわたって継続する。この混合物を約70℃まで冷却した後、DMF/1,2−ジクロルエタン混合物約1030gをウオータージェット真空下で留出する。この反応バッチを冷却し、4リットルの氷水中へ攪拌しながら投入する。続いて30分間攪拌した後、生成物を吸引濾過する。
【0024】
粗生成物を一度約1.5リットルの水中に攪拌しながら分散し、吸引濾過する。
収量(乾燥):417g=理論値の93%(残留塩含量は計算に入れていない)
【0025】
実施例2
3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸
(第2及び第3段階の組み合わせ)
DMF980g、DMSO78g、及び炭酸カリウム296.2g(2.15モル)を、ガス出口付き還流冷却器、温度計、攪拌機及び加熱可能滴下漏斗を備えた平らなすり合わせ付き4リットルフラスコに導入する。実施例1からのエステル混合物409g(1.76モル)及び1,2−ジクロルエタン212.4g(2.14モル)をDMF980gに溶解させた溶液(50℃で溶解)を80から90℃で2時間にわたって滴下する(CO2放出)。この懸濁液を100℃で2時間、及び125℃で10時間攪拌し、次いで1,2−ジクロルエタン49.5g(0.5モル)を125℃で1時間にわたって滴下する。この反応を130から135℃で8時間にわたって完了するまで継続する。この混合物を約70℃まで冷却後、DMF/1,2−ジクロルエタン混合物約1700gをウオタージェット真空下で留去する。15%水酸化ナトリウム溶液1107g(4.15モル)を50から60℃で2時間にわたって攪拌しながら滴下する。続いて60℃で14時間攪拌を継続する。この混合物を冷却後、10%硫酸2646g(2.7モル)を、氷で冷却しながら、pHが1に達するまで滴下する。次いで1時間の攪拌の後、生成物を吸引濾過する。粗生成物を3リットルの水中に懸濁させ、吸引濾過する。
【0026】
生成物を80℃で24時間乾燥し、次いで恒量に達するまで真空乾燥室(80℃)中で乾燥する。
収量:369.1g=理論値の91%(残留塩含量は計算に入れていない)
【0027】
実施例3
3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸
(第1〜第3段階の組み合わせ)
32%カリウムメトキシド溶液1181.2g(5.4モル)及びメタノール300gを、ゲート羽根攪拌機、温度計及び滴下漏斗を備えた、平らなすり合わせ付き6リットル装置に導入し、そして95%ジエチルチオジアセテート552.9g(2.55モル)及び蓚酸ジエチル372.3g(2.55モル)の混合物を0から20℃で60分にわたって滴下する。この混合物を室温で2時間、40℃で1時間及び還流下で3時間攪拌する。その懸濁液を冷却し、硫酸水素カリウム42g(0.35モル)を添加し、その混合物を10分間攪拌する。DMF2500g及びDMSO250gを攪拌しながら添加する。メタノールを、100mbarで頂温が40℃に達するまでウオータージェット真空下で10cmカラム上で留去する。炭酸カリウム37.5g(0.27モル)を添加し、1,2−ジクロルエタン233.5g(2.36モル)を80℃で2時間にわたって滴下する。
この懸濁液を100℃で2時間及び125℃で10時間攪拌する。次いで1,2−ジクロルエタン155g(1.56モル)を125℃で1時間にわたって滴下する。この反応を130から135℃で8時間にわたって完了するまで継続する。この混合物を約70℃まで冷却後、DMF/1,2−ジクロルエタン混合物約1800gをウオータージェット真空下で留去する。15%水酸化ナトリウム溶液3500g(13.1モル)を50から60℃で2時間にわたって攪拌しながら滴下する。次いで攪拌を60℃で14時間継続する。この混合物を冷却した後、10%硫酸7644g(7.8モル)を、pHが1に達するまで、氷冷却下で滴下する。続いて1時間攪拌した後、生成物を吸引濾過する。粗生成物を3リットルの水中に懸濁させ、吸引濾過する。
【0028】
生成物を80℃で24時間乾燥し、次いで恒量に達するまで真空乾燥室(80℃)で乾燥する。
収量:453.1g=理論値の77%(残留塩含量は計算に入れていない)
【0029】
本発明の本質的な特徴及び好ましい態様を以下に列挙する。
1.一般式IV及びV:
【0030】
【化2】

【0031】
を有する3,4−アルキレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸誘導体の製造方法であって、反応式1(式中、R1、R2、R3及びR4は、同じでも異なってもよく、線状の又は分岐した、場合によっては置換されていてもよい、1〜20個の炭素原子を有するアルキル基であり、Aは、リチウム、ナトリウム又はカリウムであり、Halは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素である)による少なくとも2つの段階が、中間体を単離しないで行われることを特徴とする方法。
【0032】
【化3】

【0033】
2. 3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルの二カリウム塩が、段階2で用いられることを特徴とする上記1項に記載の方法。
3. 段階2が過剰な塩基の存在下で行われることを特徴とする上記1項又は2項に記載の方法。
4. 使用される塩が炭酸カリウムであることを特徴とする上記3項に記載の方法。
5. 3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸が製造されることを特徴とする上記1項に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式IV及びV:
【化1】

からなる群から選択される3,4−アルキレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸誘導体の製造方法であって、反応式1(式中、R1、R2、R3及びR4は、同じでも異なってもよく、線状の又は分岐した、場合によっては置換されていてもよい、C1〜20アルキル基であり、Aは、リチウム、ナトリウム又はカリウムであり、Halは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素である)による少なくとも2つの段階が、中間体を単離しないで行われ、
【化2】

ここで、段階1は低級脂肪族アルコール中で行われ、段階2は100〜300℃の沸点を有する溶媒中で行われ、段階1の反応の完了後、過剰のアルカリ金属アルコキシドROAが酸又は酸性塩の添加により中和され、その後沸点100〜300℃の沸点を有する高沸点溶媒が加えられ、高沸点溶媒の添加後、アルコールが留出されること
を特徴とする方法。
【請求項2】
段階2において、3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルのアルカリ金属塩が用いられることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
段階2において、塩基が炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムであることを特徴とする請求項1−2のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
段階1が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールおよびtert−ブタノールからなる群から選択されるアルコール中で行われることを特徴とする請求項1−3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
段階2が、線状アミド系溶媒、環状のアミド系溶媒、脂肪族スルホキシド、脂肪族スルホン又はこれらの混合物から選択される溶媒中で行われることを特徴とする請求項1−4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸が製造されることを特徴とする請求項1−5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
3,4−アルキレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸が製造されること、及び、段階2の反応の完了後、高沸点溶媒の大部分を留出し、3,4−アルキレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸エステルを塩基を用いて直接鹸化することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
3,4−アルキレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸Vが脱カルボキシル化されて、3,4−アルキレンジオキシチオフェン単量体を与えることを特徴とする請求項1−7のいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2012−167107(P2012−167107A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−97808(P2012−97808)
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【分割の表示】特願2001−172387(P2001−172387)の分割
【原出願日】平成13年6月7日(2001.6.7)
【出願人】(591007228)エイチ・シー・スタルク・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシュレンクテル・ハフツング (20)
【氏名又は名称原語表記】H.C.Starck Gmbh
【Fターム(参考)】